Category Archives: 賃金

賃金130 給与の減額に関する労働者の同意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。明日からはゴールデンウィークですね。

また来週お会いしましょう。

今日は、退職金および減額分の賃金支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

ユニデンホールディングス事件(東京地裁平成28年7月20日・労経速2302号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、退職金+遅延損害金の支払、②雇用契約に基づき、未払賃金+遅延損害金の支払、③在職中の苛酷な労働環境により精神的に不調に陥ったとして、不法行為に基づく慰謝料+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

 Y社は、Xに対し、1466万6667円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、896万3740円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、平成23年6月1日、Y社との間で、本件雇用契約を締結するとともに、その際、本件合意をしたと主張して、本件通知書を提出し、Y社は、Xと雇用契約を締結したが、本件合意をしたことはなく、本件通知書の被告作成部分について、文書の成立の真正を争うので検討する。
証拠によれば、本件通知書のY社の代表取締役の記名部分に押印されている印影は、Y社の総務部長印の印影と一致していることが認められ、これによれば、本件通知書の被告の記名押印部分は真正なものと推認され、したがって、民事訴訟法228条により、Y社作成部分の全部が真正に成立したものと推定される。そして、本件通知書のX作成部分は、証拠により真正に成立したものと認められるので、本件通知書は、文書全体が真正に成立したものと認められる。

2 Y社は、本件規程に基づき、本件賃金減額をした旨主張する。
そこで検討するに、使用者が、個々の労働者の同意を得ることなく賃金減額を実施した場合において、当該減額が就業規則上の賃金減額規程に基づくものと主張する場合、賃金請求権が、労働者にとって最も重要な労働契約上の権利であることにかんがみれば、当該賃金減額規程が、減額事由、減額方法、減額幅等の点において、基準としての一定の明確性を有するものでなければ、そもそも個別の賃金減額の根拠たり得ないものと解するのが相当である。
本件規程は、給与の減額について、「担当職務の見直しに合わせ、給与の見直しを行う場合がある。見直し幅は、都度決定する。」と定めているが、当該規程では、減額方法、減額幅等の基準が示されているということはできない。したがって、本件規程が、個別の賃金減額の根拠になるということはできないから、本件規程に基づく本件賃金減額は無効であると言わざるを得ない。
なお、Y社は、Xが、本件降格を受け入れ、課長職として人材開発業務に従事していたことからすれば、Xは、本件賃金減額を了解していたといえる旨主張する。しかしながら、賃金の減額に対する労働者の同意の有無については、労働者が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものと解するのが相当であるところ(最高裁昭和48年1月19日判決、最高裁平成2年11月26日判決、最高裁平成28年2月19日判決等参照)、本件において、Xが自由な意思で本件賃金減額に同意したものと認めるに足りる的確な主張立証はない

賃金や退職金の減額については、単に労働者の同意があればそれでよいということにはならないので注意しましょう。

上記最高裁の規範を前提にどのようなプロセスを踏めば有効とされるのか、顧問弁護士に相談しながら進めていくことをおすすめします。

賃金129 「内勤手当」「外勤手当」は固定残業代として有効か?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ルート営業社員の各種手当と未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

廣記商行事件(京都地裁平成28年3月4日・労判1149号91頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対して、未払時間外賃金+遅延損害金+付加金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、587万7709円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、300万円(付加金)+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 「内/外勤手当」が、どういう趣旨の手当として支給されるものかにつき、就業規則に定めがなく、他にY社の社内で周知されていたと認めるに足りる的確な証拠はない。また、X個人に限ってみても、職能給及び成果給の変動とは連動せずに一律2万円が支給されており、同手当がXが外勤業務に従事していることに由来して支払われていることはその名称から推測ができるものの、それを超えて時間外手当を補充する趣旨で支給されているとは認めるに足りる証拠はない。したがって、この点に関するY社の主張は採用できず、「内/外勤手当」も基礎賃金とするのが相当である。

2 CP手当は、午後8時から午後9時までに受注処理の当番が割り当てられたときに支払われる手当であると認められる。そして、毎日午前10時頃から配達に出発するという業務状況の下では、午後8時までに所定労働時間である8時間が経過していることが明らかであるから、CP手当は、時間外労働に対する給与として支払う趣旨であることが明確になっていると認められる。

CP手当についてなんとか固定残業代として認めてもらえましたが、「内/外勤手当」については上記のとおり、固定残業代とは認めてもらえませんでした。

固定残業制度は、今の裁判所の判断を前提とする限り、百害あって一利なしです。

リスクとリターンが全く見合っておりません。

導入を考えている社長は、悪いことは言いませんので、普通に残業代を支払うことをおすすめします。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金128 基本給の一部を固定残業代とする就業規則変更と労働者の同意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、基本給の一部を固定残業代とする就業規則変更の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

プロポライフ事件(東京地裁平成27年3月13日・労判1146号85頁)

【事案の概要】

1 主位的請求
 Xは、Y社に対し、労働契約に基づき、平成23年2月分から平成25年2月分までの未払賃金合計1288万8408円(平成26年7月10日付けで元本組入れした確定遅延損害金を含む。)+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、付加金911万6855円+遅延損害金の支払を求めている。
2 予備的請求
 Xは、Y社に対し、債務不履行に基づき、損害125万3735円+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、643万6912円及びこれに対する平成26年7月11日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。

2 Y社は、Xに対し、243万6535円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 前記のとおりの変更の内容に照らせば、23年6月変更の目的は、基本給を減じ、その減額分を労基法及び同法施行規則の除外賃金とし、又は固定残業代とすることによって、残業代計算の基礎となる賃金の額を減ずることに主たる目的があったものと認めるほかないところ、そのような目的自体の合理性やY社がXに対して前記目的を明確に説明したことを認めるに足りる証拠がない以上、形式的にXが同意した旨の書証があるとしても、その同意がXの自由な意思に基づくものと認めるべき客観的に合理的な事情はない
そうすると、23年6月変更はその効力を認めることができないから、平成23年6月も、Xの賃金(固定給)は、23年4月変更時点と同じ、基本給35万円及び家賃手当3万円の合計38万円というべきである。

2 Xは、平成23年2月分から同年5月分までの割増賃金の立証が認められなかった場合に、裁判所が、その損害(同期間に得られたであろう割増賃金相当額)を民事訴訟法248条に従って認定すべき旨を主張する。
しかしながら、ある一定の期間内に得られたであろう割増賃金相当額という損害は、その客観的性質に照らせば、その額を立証することが極めて困難であるとは認められない(本件において同期間の割増賃金の立証に成功したかどうかという事情がこの認定判断を左右するものではない。)。したがって、民事訴訟法248条に従って損害額を認定することは許されないというべきである。

3 Xは、平成23年6月以降も、同年5月までと比較して勤務内容に大きな変更がなく継続して時間外労働が発生していること等から損害の認定月の直近である同年6月から同年8月までの3か月間の時間外労働時間の平均値を同年2月から同年5月までの各月時間外労働が発生していた場合の割増賃金額の損害と認定すべき旨を主張する。
しかしながら、既に認定したXの同年6月から同年8月までの労働時間は、別紙労働時間集計表記載のとおりであって、おおむね、始業時刻は午前9時又は午前9時30分、終業時刻は午後9時30分から午後11時45分までのばらつきがある上にそのばらつきには確たる規則性を見出すことができないし、休日の取得についても同年6月から同年8月までと同様とみるべき事情が見当たらないことに照らせば、同期間の時間外労働時間の平均値と同じ時間外労働を、同年2月から同年5月まで行っていたと認めることはできない。

上記判例のポイント1は是非参考にしてください。

形式的に従業員の同意書さえ取ればOKなんてことはありませんのでご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金127 調整手当は固定残業代として有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、調整手当の固定残業手当相当性に関する裁判例を見てみましょう。

あおき事件(東京地裁平成28年9月27日・労判ジャーナル58号45頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、平成24年8月から平成26年7月までの時間外労働に係る未払割増賃金並びに労働基準法114条所定の付加金等の支払を求めた(これに対し、Y社は、1日3.5時間以内の時間外労働については、固定残業手当により割増賃金は支給済みであるなどと主張して、Xの請求を争っている)事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、約450万円を支払え+付加金として約220万円を支払え

【判例のポイント】

1 調整手当については、従業員の生活を補助するための手当と位置づけられ、会社が認めた場合に支給することとされていたものであるから、労働条件通知書上の「調整手当」の記載を給与規程上の調整手当とは異なる趣旨と理解することは困難であり、その全部又は一部が固定残業手当の趣旨であると理解することはできず、固定残業手当部分が明確に区分されているということもできないこと等から、Xの入社時の給与体系は、基本給が20万9380円、調整手当が9万1207円というものである。

2 平成24年4月の給与体系の変更によりXが受ける不利益の程度は著しいところ、その不利益の程度に照らし、Y社のXに対する説明内容は不正確かつ不十分と言わざるを得ないうえ、平成24年4月1日付けの就業規則変更の経緯等に照らせば、Xが本件同意書に署名したからといって、これがXの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したとはいえず、Xによる有効な同意があったとは認められないから、Xについて、平成24年4月の給与体系の変更は効力を有せず、同月以降についても、基本給以外に過勤手当名目で支給される手当について、固定残業手当の性質を帯びるに至ったものとは認められない。

3 Y社の主張する固定時間外手当制度はXについて効力を有するとはいえず、そのため未払割増賃金の金額は多額にのぼり、そのことによりXが受けた不利益も大きいといえるし、Xが本訴提起を余儀なくされた経緯などを踏まえると、Y社に対しては、付加金の支払を命じるのが相当であるが、Y社も、月1回程度の夜間当番の日を除き、労働時間については適切に把握したうえ、1日3.5時間を超える時間外労働については、一定程度割増賃金を支払っていたこと、平成24年4月の給与体系の変更に際し、結果的に無効と判断されたとはいえ、就業規則の変更やXの同意取得に向けた手続を取っていたことなどの事情も考慮すると、付加金の額については、付加金対象賃金額の半額に相当する222万9188円をもって相当と認める。

固定残業制度は百害あって一利なしだというのが個人的な意見です。

ハイリスクノーリターンです。普通に残業代払うのが一番です。

付加金についてはいくつか裁判所が会社側の事情も考慮して半分にしてくれています。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金126 完全歩合制の賃金と労基法27条(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、完全歩合制の賃金と労働条件の合意の成立に関する裁判例を見てみましょう。

テクノサイエンス事件(大阪地裁平成28年9月29日・労判ジャーナル58号41頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、賃金の未払いがあるとして、その支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに140万円を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は、平成27年9月、Xを契約社員とすること、賃金は完全歩合制とし、会社利益の30%を報酬として支払うことでX・Y社間で合意が成立したと主張するが、Xは合意の成立を否定する供述をしており、かかるXの供述に照らしても、当該合意の存在を認めることはできないうえ、賃金を完全歩合制とする合意は労基法27条に違反するから、この観点からも当該合意について法的効果を認め難いといわざるを得ず、労働契約の変更には、当事者双方の合意が必要であるところ(労契法8条)、かかる合意があったとは認められず、Y社はXに対し、平成27年10月以降も賃金として月額35万円の支払義務を負う。

労基法27条では以下のとおり規定されています。

出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

一定額は、当然最低賃金を上回っている必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金125 時間外労働の限度基準を超える固定残業代の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は時間外労働の限度基準を超える業務手当(定額残業手当代)が有効とされた裁判例を見てみましょう。

コロワイドMD(旧コロワイド東日本)事件(東京高裁平成28年1月27日・労判1171号76頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、在職中の時間外、休日、深夜労働等についての割増賃金及び付加金を請求した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社が業務手当は月当たり時間外労働70時間、深夜労働100時間の対価として支給されているとするが、平成10年12月28日労働省告示第154号所定の月45時間を超える時間外労働をさせることは法令の趣旨に反するし、36協定にも反するから、そのような時間外労働を予定した定額の割増賃金の定めは全部又は一部が無効であると主張する。
しかし、上記労働省告示第154号の基準は時間外労働の絶対的上限とは解されず労使協定に対して強行的な基準を設定する趣旨とは解されないし、Y社は、36協定において、月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項を無効とすべき事情は認められないから、業務手当が月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項が月45時間を超える70時間の時間外労働を目安としていたとしても、それによって業務手当が違法になるとは認められない

2 また、Xは、36協定で特別条項が設けられていたとしても、臨時的な特別な事情が存在し、Y社が組合に特別条項に基づき時間外労働を行わせることを通知し、特別条項により定められた制限の範囲内でなければ特別条項に基づく時間外労働として適法とは認められないから、特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定した業務手当の定めは無効であると主張する。
しかし、業務手当が常に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定するものであるということはできないし、また、仮に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働が行われたとしても、割増賃金支払業務は当然に発生するから、そのような場合の割増賃金の支払も含めて業務手当として給与規程において定めたとしても、それが当然に無効になると解することはできない

3 (原審・横浜地裁平成26年9月3日)Xは、残業代の支払の有無は、罰則規定が適用されるか否かにもかかわる上、労働者が適切に残業代が支払われたかを検証することができるよう、固定残業代に対応する想定時間が明示されることが必要であるところ、Y社の業務手当の定めにはその想定時間が明示されていないこと、Y社の給与規程15条1項の規定は、時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日勤務手当、休日深夜手当と割増率の異なる割増賃金を業務手当という単一項目で支払うことになっているので、適切に支払われているか検証することができないこと、などを指摘し、これらの点からすると、Y社の業務手当に関する規定は、労働基準法37条に違反して無効であると主張している。
しかし、その明示すべき労働条件について、労働基準法15条及び同法施行規則5条は、固定残業代に対応する想定時間の明示を求めていない。また、業務手当として支払われている額が明示されている以上、法に定める割増率をもとに、労働基準法所定の残業代が支払われているかを計算して検証することは十分に可能であり、Y社は現に計算を行ったものを書証として提出している
以上からすると、Y社の業務手当に関する規定は、そもそも残業代を支払う旨を定めているにすぎない労働基準法37条に違反しているとはいえないし、残業代の支払の定め方として無効であるともいえないというべきである。

重要な判例ですので、是非押さえておきましょう。

これまでの固定残業制度に対する裁判所の厳しい評価とは異なるものですね。

なお、同事件は、その後、上告、上告受理申立てがされましたが、上告棄却、上告不受理とされています(最判平成28年7月12日)。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金124 就業規則の変更による退職金減額が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業規則の変更による退職金減額が有効とされた裁判例を見てみましょう。

甲学園事件(大阪地裁平成28年10月25日・労経速2295号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の教職員であったXらが、新人事制度が施行され就業規則(各種規則等を含む。)が変更されたことで退職金が減額となったが、同変更がXらを拘束しないとして、変更前の規則に基づく退職金と既払退職金との差額及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 就業規則の変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、労働条件の集団的処理、特にその統一的、画一的決定を建前とする就業規則の性質上、当該条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解され(最判昭和43年12月25日)、当該変更が合理的なものであるとは、当該変更が、その必要性及び内容の両面からみて、これによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである(最判平成12年9月7日)。

2 確かに、賃金や退職金等は労働者の生活に直接関わる重要な事項であることからすれば、経営状態が悪化したからといって直ちに労働条件を不利益に変更することが許されるものではないが、他方で、経営状態の悪化が進み、末期的な状況にならない限り、労働条件の改正に着手することが許されないものではなく、むしろ、末期的な状況になってからでは遅いともいえるのであり(法人が破綻してしまえば、結局、労働者にとっても大きな不利益となるし、破綻に至らなくとも整理解雇が避けられない事態となれば、やはり解雇対象となった労働者にとって大きな不利益となる。)、収入の増加及び労働者の労働条件に直接かかわらない支出の削減を優先すべきであることは当然であるが、法人が末期的な状態に至ることを回避すべく、複数年にわたって赤字経営が続いており、その改善の見込みもなく、潤沢な余剰資産があるわけでもないというような状況下においては、破綻を回避するために労働条件を不利益に改正することもやむを得ないというほかない。

本件のような事情があるケースでは、賃金や退職金の減額も高度の必要性が認められるわけです。

つぶれてしまっては元も子もないですから。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金123 固定残業代の有効性が争われた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、時間外割増賃金部分の区別と時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

エフエヌシステム事件(東京地裁平成28年8月24日・労判ジャーナル57号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結して勤務したXが、退職後にY社に対し、在職中に時間外労働をしたと主張して、賃金請求権に基づく割増賃金等の支払を求めるとともに、割増賃金の不払について労働基準法114条に基づく付加金等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金として292万4990円+同額の付加金を支払え

【判例のポイント】

1 労働契約では、基本給を月額35万円とした上で、月間総労働時間が200時間を超えた場合はその超過時間につき1時間当たり1750円を別途支払い、150時間に満たないときはその不足時間につき一定金額を減額する旨の約定を内容とするものであるところ、当該約定によれば、1か月200時間以内の労働時間において時間外労働がされても、基本給の金額が増額されることはなく、時間外労働時間の長短にかかわらず支給金額(基本給)が増減することもないから、月額35万円の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条1項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを明確に判別することはできないというべきであり、Y社は、Xに対し、月間200時間を超える労働時間中の時間外労働のみならず、月間200時間以内の労働時間中の時間外労働分についても、月額35万円の基本給とは別に、同条所定の割増賃金を支払う義務を負う。

そりゃそうだ、という判決です。

もうそろそろ固定残業制度は廃止したほうがいいのではないでしょうか。

有害無益です、この制度。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金122 60歳前後での賃金の差異と年齢差別(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、60歳前後での賃金の差異と年齢差別に関する裁判例を見てみましょう。

オートシステム事件(東京地裁平成28年8月25日・労判ジャーナル57号33頁)

【事案の概要】

本件は、元従業員Xが、同じ内容の仕事をしている会社の従業員のうち、Xを含む満60歳以上の者の賃金額が、満60歳に達しない者の賃金額よりも合理的な理由なく低く定められており、これにより損害を被った旨を主張して、不法行為に基づき、Xが得られなかった賃金の差額相当分及び慰謝料の支払いを請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 会社は、会社の車両管理者の基本給与を決定するに当たっては、会社が自家用自動車管理業を安全かつ確実に行うため、責任感と優秀な技能を有し、かつ、健康な若年層及び中年層の車両管理者をより多く擁する必要があるとの認識や、高年齢者は様々な健康問題を抱えている場合が少なくなく、また、自動車運転によって必要な能力、技能等は加齢とともに低下していくとの認識の下、若年層及び中年層に対しては高年齢者層に対する場合と比べて手厚い処遇をすることとしているというのであり、このような考え方自体は、専任社員につき満60歳での定年制を採用し、もっていわゆる終身雇用型の雇用制度を採用している会社が、会社に採用された後はそのままより長い期間働く可能性が高いことを見越してより若い労働者を優遇するという点からも一定の合理性があるものということができること等から、会社が、Xを含む会社の車両管理者につき、その年齢によって賃金額に差異を設けていることは、Xに対する不法行為の権利侵害には該当しない

最近流行りの争点です。

「平等」という概念をどのように捉えるのか、また、これは「差別」なのか「合理的理由に基づく区別」なのかが問われているわけです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金121 車両管理者に対する年齢による賃金格差の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。  

明日から1月4日まで年末年始のお休みをいただきます。

顧問先会社様は、通常どおり、対応しております。

何かありましたら、栗田の携帯電話にご連絡ください。

本年も1年、ありがとうございました。

来年もばりばり働きますので、皆さま、よろしくお願いいたします。

今日は、車両管理者に対する年齢による賃金額の差異の適法性等に関する裁判例を見てみましょう。

L社事件(東京地裁平成28年8月25日・労判1144号25頁)

【事案の概要】

第1事件は、Y社と期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、Y社の安全配慮義務違反により損害を被った旨を主張して、Y社に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、慰謝料の支払いを請求した事案である。

第2事件は、Xが、同じ内容の仕事をしているY社の従業員のうち、Xを含む満60歳以上の者の賃金額が、満60歳に達しない者の賃金額よりも合理的な理由なく低く定められており、これにより損害を被った旨を主張して、不法行為に基づき、Xが得られなかった賃金の差額相当分及び慰謝料の支払いを請求した事案である。

【裁判所の判断】

いずれも請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に企業が人材のいかなる属性等に着目してどのような処遇を行うかは当該企業の経営判断にゆだねられるべきものであって、当該人材の労働条件をどのように設定するかについては、当該企業の裁量の余地が相当程度認められるべきである。

2 我が国においては、ある企業において定年に達した者が同一の企業で又は別の企業で引き続き雇用されることを希望する場合、同人の賃金水準が同人が定年に達する前のそれと比べて相当程度低く定められることは一般的にみられる事象ということができる。このことは、法が、定年を迎えた者が再就職した場合のある月の賃金額が同人が60歳に到達したときの賃金月額(原則として、60歳に到達する前6箇月間の平均賃金)の61パーセント以下まで下がることを想定していることにも表れているということができる。
そして、XがY社において支給されていた賃金の各費目のうち、基本給与(本人給、職務給)、割増賃金については、一般に、Y社の車両管理者のうち満60歳に達しない者(主として専任社員)に対する支給額が、Y社の車両管理者の職務を行う専任嘱託契約社員に対する支給額を上回るというのであるが、これらはいずれもY社が採用する終身雇用型の雇用制度の特徴が反映されたものということができ、これらの費目につき、上述のような差異が生じることにも一定の合理性があるものというべきである。
さらに、Xは、Y社に在職中、本件想定初年度専任社員等のおおむね8割程度の年収を得ていたというのであり、その具体的な金額を併せて考慮すると、満60歳に達しない者との間の格差が社会通念上不相当であり、不合理な差別であると一概に断じることはできない

3 以上に加え、Xが上記各期間に得ていた収入の総額の概算に占める上記高齢者雇用継続基本給付金及び上記在職老齢年金の合計額の概算の割合はごく僅かであって、Xが同期間に得ていた賃金の総額がその大部分を占めることや、Xは、Y社以外の他社を定年退職した後、Y社への就職を希望し、Y社における他の車両管理者の労働条件はともかく、X自身のおおよその労働条件については認識した上でY社に入社したことをも勘案すれば、上述のとおりXの年収の概算額が本件想定初年度専任社員等の1年当たりの推定賃金額を下回ることを考慮しても、かかる差異が社会通念上相当と認められる程度を逸脱する不合理なものとまではいい難いものというべきである。

最近はやりの論点ですね。

これからこの論点については裁判例が多く出てくると思いますので、注目していきます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。