Category Archives: 賃金

賃金134 固定残業制度に関する最高裁の考え方(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金規定の有効性と未払賃金等請求に関する最高裁判決を見てみましょう。

国際自動車事件(最高裁平成29年2月28日・労判1152号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、タクシー乗務員として勤務していたXらが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるY社の賃金規則上の定めが無効であり、Y社は、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して,Y社に対し,未払賃金等の支払を求める事案である。

なお、原審は、本件規定のうち、歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除する部分は無効であり、対象額Aから割増金に相当する額を控除することなく歩合給を計算すべきであるとした上で、Xらの未払賃金の請求を一部認容すべきものとした。

【裁判所の判断】

原判決中Y社敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

【判例のポイント】

1 労働基準法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令に具体的に定められている。もっとも、同条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金の定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。
そして、使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決最高裁24年3月8日第一小法廷判決参照)、上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。

2 他方において、労働基準法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると、労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできないというべきである。

応用可能性が高い判断です。

もっとも、この最高裁判決に基づいて従来の賃金体系を変更する場合には、多くの場合、労働条件の不利益変更にあたりますのでそう簡単にはできません。 

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金133 累積無事故表彰制度に基づく副賞50万円の支払請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、累積無事故表彰制度に基づく副賞等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

川崎陸送事件(東京地裁平成28年12月26日・労判ジャーナル61号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、Y社の賞罰規程における累積無事故表彰制度に基づき、副賞50万円等の支払を求め、Y社の従業員であるBが、Y社に対し、上記制度に基づき、副賞35万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件賞罰規程には、累積無事故表彰者の表彰について、表彰状と副賞をもって行うことが規定されるとともに、累積無事故期間の計算方法、累積無事故記録更新中の者が事故を発生させた場合の年数読替えによる救済措置、副賞の金額、表彰の決定手続、表彰の時期(副賞の支払時期)などについて、詳細かつ明確な規定がされており、副賞の支給条件が明確であり、具体的な支給額の確定も可能であるから、表彰の決定手続において業務部長ないし役員会における審議を要するとしても、労働の対償たる賃金又はこれに準ずる労働条件に当たるものと解されること等から、本件表彰制度の廃止は、就業規則の変更による労働条件の不利益変更に当たり、労働契約法9条、10条が適用される。

2 本件表彰制度は、就業規則に定められた労働条件に当たるから、取締役会で事実上廃止することはできず、また、東京都環境局が実施する「貨物輸送評価制度」においてY社が失格となったのだとしても、これが専らY社の従業員の責めに帰すべき事由によるものか否かは判然としない上、これと本件表彰制度を廃止することに特段の関連性は認め難く、これをもって労働条件の変更の必要性を認めることは困難であり、さらに、Y社は本件表彰制度の廃止を一方的に決定していること、労働者の受ける不利益の程度も小さくないことなどの諸事情に照らして、本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更が合理的なものであると認めることはできないから、従業員らに対しては、本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更の効力が及ばず、従前の規程が適用されるから、Y社は、従業員らに対し、本件表彰制度に基づく副賞の支払義務を負う。

上記判例のポイント1のように具体的に支給条件が規定されているものについては、「裁量」ということで逃げることができません。

賞与についても規定のしかた如何によっては同様の争いが生じますので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金132 医療機関において診療情報の改ざんを理由とする退職金不支給の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、改ざん行為を理由とする未払退職金について支払いを求めた事例を見てみましょう。

医療法人貴医会事件(大阪地裁平成28年12月9日・労判ジャーナル61号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営する病院で医療事務に従事した元従業員Xが、Y社に対し、自己都合退職したとして退職金を請求したところ、診療情報を改ざんしたことを理由に支給されなかったことから、退職金等の支払を求めるとともに、Y社代表者らから違法な退職勧奨を受けたなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本来の退職金支給額の2分の1の支払を命じた

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、18個に及ぶ本件改ざん行為を行い、Xの本件改ざん行為は、不正な保険請求の危険を生じさせ、その結果、Y社の医療機関としての信用を失墜させる危険のある悪質な行為であり、少なくとも本件就業規則所定の懲戒事由に該当するといわなければならないが、実際に本件改ざんの不正な診療情報に基づき保険請求がなされたものの、速やかに同請求を取り下げたことにより、Y社の信用失墜に至らずに済んだことが認められるところ、Xの本件改ざん行為は、懲戒解雇事由に該当する悪質な行為であり、Xが19年余にわたり本件病院に勤務して積み上げてきた功労を減殺するものといえるものの、Y社の信用失墜には至らなかったことを考慮すると、Xの功労を全部抹消するほどに重大な事由であるとまではいえず、本件改ざん行為の性質、態様及び結果その他本件に顕れた一切の事情にかんがみると、Y社は、Xに対し、本来の退職金の支給額の2分の1を支給すべきであった。

結果としてたまたま信用失墜に至らなかっただけです。

Y社としては腑に落ちない結果かもしれませんが、裁判所はこのように考えます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金131 原告請求の時間外労働割増賃金につきその半分を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告請求の時間外労働割増賃金について、少なくとも原告主張の5割が相当等とされた事例を見てみましょう。

福星堂事件(神戸地裁姫路支部平成28年9月29日・労経速2303号3頁)

【事案の概要】

本件は、和洋菓子の製造・加工並びに販売等を主たる目的とする株式会社であるY社の従業員であったXが、Y社に対し、未払の時間外労働割増賃金294万3240円+遅延損害金、労働基準法114条に基づく付加金249万8576円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、50万3599円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、50万3599円(付加金)+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 所定の就業開始時刻前のタイムカードの打刻時間を始業時刻として主張する場合(早出残業)には、使用者が明示的には労務の提供を義務付けていない始業時刻前の時間が、使用者の指揮命令下にある労働時間に該当することについての具体的な主張立証が必要であると解するのが相当である。
・・・かえって、Xが早出残業を繰り返していたのは、Y社の業務のためではなく、Y社から貸与されている携帯電話を使ってY社の女性従業員に長時間プライベートな電話をかけるためであったことが窺われる
よって、Xが早出残業を余儀なくされていたとは認められない。

2 ・・・以上の事実のうち、XがY社に早朝出勤を命じられ、日常的に所定の始業時刻前の時間外労働を余儀なくされていたとは認められないこと、Xが昼食も運転中に採ることが常態化しており、所定の1時間休憩を取ったことがなかったとは認められないこと等を考慮すれば、Xが時間外労働をしていたことは否定できないものの、Xの主張する時間外労働の時間は相当に過大であるというべきである。
その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すれば、Xの時間外割増賃金は、少なくともXが主張する411万9749円の5割である205万9874円と認めるのが相当である。
Y社はXが未払残業代を請求する期間について時間外労働割増賃金として、155万6275円を支払っていることが認められるから、これを控除すると、Xの未払いの時間外労働割増賃金は、50万3599円となる。

裁判所がざっくり請求金額の半分と認定してくれています。

あくまで結果論ですので、労働者側はこのような裁判所の判断を期待することなく、具体的な主張立証をすべきであると考えましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金130 給与の減額に関する労働者の同意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。明日からはゴールデンウィークですね。

また来週お会いしましょう。

今日は、退職金および減額分の賃金支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

ユニデンホールディングス事件(東京地裁平成28年7月20日・労経速2302号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、退職金+遅延損害金の支払、②雇用契約に基づき、未払賃金+遅延損害金の支払、③在職中の苛酷な労働環境により精神的に不調に陥ったとして、不法行為に基づく慰謝料+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

 Y社は、Xに対し、1466万6667円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、896万3740円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、平成23年6月1日、Y社との間で、本件雇用契約を締結するとともに、その際、本件合意をしたと主張して、本件通知書を提出し、Y社は、Xと雇用契約を締結したが、本件合意をしたことはなく、本件通知書の被告作成部分について、文書の成立の真正を争うので検討する。
証拠によれば、本件通知書のY社の代表取締役の記名部分に押印されている印影は、Y社の総務部長印の印影と一致していることが認められ、これによれば、本件通知書の被告の記名押印部分は真正なものと推認され、したがって、民事訴訟法228条により、Y社作成部分の全部が真正に成立したものと推定される。そして、本件通知書のX作成部分は、証拠により真正に成立したものと認められるので、本件通知書は、文書全体が真正に成立したものと認められる。

2 Y社は、本件規程に基づき、本件賃金減額をした旨主張する。
そこで検討するに、使用者が、個々の労働者の同意を得ることなく賃金減額を実施した場合において、当該減額が就業規則上の賃金減額規程に基づくものと主張する場合、賃金請求権が、労働者にとって最も重要な労働契約上の権利であることにかんがみれば、当該賃金減額規程が、減額事由、減額方法、減額幅等の点において、基準としての一定の明確性を有するものでなければ、そもそも個別の賃金減額の根拠たり得ないものと解するのが相当である。
本件規程は、給与の減額について、「担当職務の見直しに合わせ、給与の見直しを行う場合がある。見直し幅は、都度決定する。」と定めているが、当該規程では、減額方法、減額幅等の基準が示されているということはできない。したがって、本件規程が、個別の賃金減額の根拠になるということはできないから、本件規程に基づく本件賃金減額は無効であると言わざるを得ない。
なお、Y社は、Xが、本件降格を受け入れ、課長職として人材開発業務に従事していたことからすれば、Xは、本件賃金減額を了解していたといえる旨主張する。しかしながら、賃金の減額に対する労働者の同意の有無については、労働者が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものと解するのが相当であるところ(最高裁昭和48年1月19日判決、最高裁平成2年11月26日判決、最高裁平成28年2月19日判決等参照)、本件において、Xが自由な意思で本件賃金減額に同意したものと認めるに足りる的確な主張立証はない

賃金や退職金の減額については、単に労働者の同意があればそれでよいということにはならないので注意しましょう。

上記最高裁の規範を前提にどのようなプロセスを踏めば有効とされるのか、顧問弁護士に相談しながら進めていくことをおすすめします。

賃金129 「内勤手当」「外勤手当」は固定残業代として有効か?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ルート営業社員の各種手当と未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

廣記商行事件(京都地裁平成28年3月4日・労判1149号91頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対して、未払時間外賃金+遅延損害金+付加金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、587万7709円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、300万円(付加金)+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 「内/外勤手当」が、どういう趣旨の手当として支給されるものかにつき、就業規則に定めがなく、他にY社の社内で周知されていたと認めるに足りる的確な証拠はない。また、X個人に限ってみても、職能給及び成果給の変動とは連動せずに一律2万円が支給されており、同手当がXが外勤業務に従事していることに由来して支払われていることはその名称から推測ができるものの、それを超えて時間外手当を補充する趣旨で支給されているとは認めるに足りる証拠はない。したがって、この点に関するY社の主張は採用できず、「内/外勤手当」も基礎賃金とするのが相当である。

2 CP手当は、午後8時から午後9時までに受注処理の当番が割り当てられたときに支払われる手当であると認められる。そして、毎日午前10時頃から配達に出発するという業務状況の下では、午後8時までに所定労働時間である8時間が経過していることが明らかであるから、CP手当は、時間外労働に対する給与として支払う趣旨であることが明確になっていると認められる。

CP手当についてなんとか固定残業代として認めてもらえましたが、「内/外勤手当」については上記のとおり、固定残業代とは認めてもらえませんでした。

固定残業制度は、今の裁判所の判断を前提とする限り、百害あって一利なしです。

リスクとリターンが全く見合っておりません。

導入を考えている社長は、悪いことは言いませんので、普通に残業代を支払うことをおすすめします。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金128 基本給の一部を固定残業代とする就業規則変更と労働者の同意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、基本給の一部を固定残業代とする就業規則変更の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

プロポライフ事件(東京地裁平成27年3月13日・労判1146号85頁)

【事案の概要】

1 主位的請求
 Xは、Y社に対し、労働契約に基づき、平成23年2月分から平成25年2月分までの未払賃金合計1288万8408円(平成26年7月10日付けで元本組入れした確定遅延損害金を含む。)+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、付加金911万6855円+遅延損害金の支払を求めている。
2 予備的請求
 Xは、Y社に対し、債務不履行に基づき、損害125万3735円+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、643万6912円及びこれに対する平成26年7月11日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。

2 Y社は、Xに対し、243万6535円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 前記のとおりの変更の内容に照らせば、23年6月変更の目的は、基本給を減じ、その減額分を労基法及び同法施行規則の除外賃金とし、又は固定残業代とすることによって、残業代計算の基礎となる賃金の額を減ずることに主たる目的があったものと認めるほかないところ、そのような目的自体の合理性やY社がXに対して前記目的を明確に説明したことを認めるに足りる証拠がない以上、形式的にXが同意した旨の書証があるとしても、その同意がXの自由な意思に基づくものと認めるべき客観的に合理的な事情はない
そうすると、23年6月変更はその効力を認めることができないから、平成23年6月も、Xの賃金(固定給)は、23年4月変更時点と同じ、基本給35万円及び家賃手当3万円の合計38万円というべきである。

2 Xは、平成23年2月分から同年5月分までの割増賃金の立証が認められなかった場合に、裁判所が、その損害(同期間に得られたであろう割増賃金相当額)を民事訴訟法248条に従って認定すべき旨を主張する。
しかしながら、ある一定の期間内に得られたであろう割増賃金相当額という損害は、その客観的性質に照らせば、その額を立証することが極めて困難であるとは認められない(本件において同期間の割増賃金の立証に成功したかどうかという事情がこの認定判断を左右するものではない。)。したがって、民事訴訟法248条に従って損害額を認定することは許されないというべきである。

3 Xは、平成23年6月以降も、同年5月までと比較して勤務内容に大きな変更がなく継続して時間外労働が発生していること等から損害の認定月の直近である同年6月から同年8月までの3か月間の時間外労働時間の平均値を同年2月から同年5月までの各月時間外労働が発生していた場合の割増賃金額の損害と認定すべき旨を主張する。
しかしながら、既に認定したXの同年6月から同年8月までの労働時間は、別紙労働時間集計表記載のとおりであって、おおむね、始業時刻は午前9時又は午前9時30分、終業時刻は午後9時30分から午後11時45分までのばらつきがある上にそのばらつきには確たる規則性を見出すことができないし、休日の取得についても同年6月から同年8月までと同様とみるべき事情が見当たらないことに照らせば、同期間の時間外労働時間の平均値と同じ時間外労働を、同年2月から同年5月まで行っていたと認めることはできない。

上記判例のポイント1は是非参考にしてください。

形式的に従業員の同意書さえ取ればOKなんてことはありませんのでご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金127 調整手当は固定残業代として有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、調整手当の固定残業手当相当性に関する裁判例を見てみましょう。

あおき事件(東京地裁平成28年9月27日・労判ジャーナル58号45頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、平成24年8月から平成26年7月までの時間外労働に係る未払割増賃金並びに労働基準法114条所定の付加金等の支払を求めた(これに対し、Y社は、1日3.5時間以内の時間外労働については、固定残業手当により割増賃金は支給済みであるなどと主張して、Xの請求を争っている)事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、約450万円を支払え+付加金として約220万円を支払え

【判例のポイント】

1 調整手当については、従業員の生活を補助するための手当と位置づけられ、会社が認めた場合に支給することとされていたものであるから、労働条件通知書上の「調整手当」の記載を給与規程上の調整手当とは異なる趣旨と理解することは困難であり、その全部又は一部が固定残業手当の趣旨であると理解することはできず、固定残業手当部分が明確に区分されているということもできないこと等から、Xの入社時の給与体系は、基本給が20万9380円、調整手当が9万1207円というものである。

2 平成24年4月の給与体系の変更によりXが受ける不利益の程度は著しいところ、その不利益の程度に照らし、Y社のXに対する説明内容は不正確かつ不十分と言わざるを得ないうえ、平成24年4月1日付けの就業規則変更の経緯等に照らせば、Xが本件同意書に署名したからといって、これがXの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したとはいえず、Xによる有効な同意があったとは認められないから、Xについて、平成24年4月の給与体系の変更は効力を有せず、同月以降についても、基本給以外に過勤手当名目で支給される手当について、固定残業手当の性質を帯びるに至ったものとは認められない。

3 Y社の主張する固定時間外手当制度はXについて効力を有するとはいえず、そのため未払割増賃金の金額は多額にのぼり、そのことによりXが受けた不利益も大きいといえるし、Xが本訴提起を余儀なくされた経緯などを踏まえると、Y社に対しては、付加金の支払を命じるのが相当であるが、Y社も、月1回程度の夜間当番の日を除き、労働時間については適切に把握したうえ、1日3.5時間を超える時間外労働については、一定程度割増賃金を支払っていたこと、平成24年4月の給与体系の変更に際し、結果的に無効と判断されたとはいえ、就業規則の変更やXの同意取得に向けた手続を取っていたことなどの事情も考慮すると、付加金の額については、付加金対象賃金額の半額に相当する222万9188円をもって相当と認める。

固定残業制度は百害あって一利なしだというのが個人的な意見です。

ハイリスクノーリターンです。普通に残業代払うのが一番です。

付加金についてはいくつか裁判所が会社側の事情も考慮して半分にしてくれています。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金126 完全歩合制の賃金と労基法27条(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、完全歩合制の賃金と労働条件の合意の成立に関する裁判例を見てみましょう。

テクノサイエンス事件(大阪地裁平成28年9月29日・労判ジャーナル58号41頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、賃金の未払いがあるとして、その支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに140万円を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は、平成27年9月、Xを契約社員とすること、賃金は完全歩合制とし、会社利益の30%を報酬として支払うことでX・Y社間で合意が成立したと主張するが、Xは合意の成立を否定する供述をしており、かかるXの供述に照らしても、当該合意の存在を認めることはできないうえ、賃金を完全歩合制とする合意は労基法27条に違反するから、この観点からも当該合意について法的効果を認め難いといわざるを得ず、労働契約の変更には、当事者双方の合意が必要であるところ(労契法8条)、かかる合意があったとは認められず、Y社はXに対し、平成27年10月以降も賃金として月額35万円の支払義務を負う。

労基法27条では以下のとおり規定されています。

出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

一定額は、当然最低賃金を上回っている必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金125 時間外労働の限度基準を超える固定残業代の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は時間外労働の限度基準を超える業務手当(定額残業手当代)が有効とされた裁判例を見てみましょう。

コロワイドMD(旧コロワイド東日本)事件(東京高裁平成28年1月27日・労判1171号76頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、在職中の時間外、休日、深夜労働等についての割増賃金及び付加金を請求した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社が業務手当は月当たり時間外労働70時間、深夜労働100時間の対価として支給されているとするが、平成10年12月28日労働省告示第154号所定の月45時間を超える時間外労働をさせることは法令の趣旨に反するし、36協定にも反するから、そのような時間外労働を予定した定額の割増賃金の定めは全部又は一部が無効であると主張する。
しかし、上記労働省告示第154号の基準は時間外労働の絶対的上限とは解されず労使協定に対して強行的な基準を設定する趣旨とは解されないし、Y社は、36協定において、月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項を無効とすべき事情は認められないから、業務手当が月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項が月45時間を超える70時間の時間外労働を目安としていたとしても、それによって業務手当が違法になるとは認められない

2 また、Xは、36協定で特別条項が設けられていたとしても、臨時的な特別な事情が存在し、Y社が組合に特別条項に基づき時間外労働を行わせることを通知し、特別条項により定められた制限の範囲内でなければ特別条項に基づく時間外労働として適法とは認められないから、特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定した業務手当の定めは無効であると主張する。
しかし、業務手当が常に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定するものであるということはできないし、また、仮に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働が行われたとしても、割増賃金支払業務は当然に発生するから、そのような場合の割増賃金の支払も含めて業務手当として給与規程において定めたとしても、それが当然に無効になると解することはできない

3 (原審・横浜地裁平成26年9月3日)Xは、残業代の支払の有無は、罰則規定が適用されるか否かにもかかわる上、労働者が適切に残業代が支払われたかを検証することができるよう、固定残業代に対応する想定時間が明示されることが必要であるところ、Y社の業務手当の定めにはその想定時間が明示されていないこと、Y社の給与規程15条1項の規定は、時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日勤務手当、休日深夜手当と割増率の異なる割増賃金を業務手当という単一項目で支払うことになっているので、適切に支払われているか検証することができないこと、などを指摘し、これらの点からすると、Y社の業務手当に関する規定は、労働基準法37条に違反して無効であると主張している。
しかし、その明示すべき労働条件について、労働基準法15条及び同法施行規則5条は、固定残業代に対応する想定時間の明示を求めていない。また、業務手当として支払われている額が明示されている以上、法に定める割増率をもとに、労働基準法所定の残業代が支払われているかを計算して検証することは十分に可能であり、Y社は現に計算を行ったものを書証として提出している
以上からすると、Y社の業務手当に関する規定は、そもそも残業代を支払う旨を定めているにすぎない労働基準法37条に違反しているとはいえないし、残業代の支払の定め方として無効であるともいえないというべきである。

重要な判例ですので、是非押さえておきましょう。

これまでの固定残業制度に対する裁判所の厳しい評価とは異なるものですね。

なお、同事件は、その後、上告、上告受理申立てがされましたが、上告棄却、上告不受理とされています(最判平成28年7月12日)。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。