Category Archives: 賃金

賃金140 直行直帰の場合の移動時間は労働時間?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業代無効等に基づく未払時間外割増賃金等支払請求事件について見てみましょう。

日本保証・クレディア事件(大阪地裁平成29年4月27日・労判ジャーナル66号45頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結していたXが、時間外労働をしたのにそれに対する賃金が支払われていないとして、割増賃金の請求とそれに対する付加金の支払を命ずるよう求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、北海道小樽市に居住しており、本件当時、Y社が債権を有する顧客宅を訪問し、複数の顧客宅を回る業務に従事し、最初の訪問顧客先には自宅から直行し、最後の訪問顧客先からは自宅に直帰していた本件のXの業務は、北海道内の顧客宅を訪問して、顧客と協議するなどして債権回収を図ることにあると認められるところ、自宅と顧客宅との間の移動は、業務の前提であって業務そのものとはいえないし、その始点又は終点は自宅であり、純然たる私生活の範疇に属する区域であり、また、この移動について、移動の具体的な道筋が定められているとか、移動開始時間と移動終了時間が指定されていることを窺わせる証拠はないから、自宅と顧客宅の間の移動については、Y社の指揮命令下にあったと認めることはできず、これを労働時間と評価することはできないから、Xの自宅等と顧客宅の間の移動時間を労働時間と認めることはできない。

2 特定の名目で支払われている金銭がいわゆる固定残業代であるというためには、①当該金銭が時間外労働に対する対価として支払われていること、②当該金銭が他の部分と明確に区分されていることが必要と解されるところ、本件についてみると、Y社は、その表現こそ異なるものの、給与規程において、月30時間分の残業代相当額が賃金に含まれ、あるいは固定残業代として支払う旨を明記し、かつ給与支給明細書においては、その具体的な金額まで明記されているのであるから、賃金のうち、固定残業代として支払われている金額は、その他の賃金と金額面で明確に区分されており、上記の①及び②の要件のいずれも満たすと認めるのが相当である。

上記判例のポイント1は、直行直帰の場合の労働時間に関する考え方として参考になります。

判例のポイント2については、固定残業代が認められていますね。

ちゃんと最高裁が示した要件を前提として運用していれば裁判所も認めてくれます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金139 口頭弁論終結後に割増賃金を支払った場合の付加金支払義務(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、口頭弁論終結後に割増賃金を支払った場合の付加金支払義務に関する裁判例を見てみましょう。

損保ジャパン日本興亜(付加金支払請求異議)事件(東京地裁平成28年10月14日・労判1157号59頁)

【事案の概要】

本件は、判決により労働基準法114条所定の付加金の支払を命ぜられた原告が、判決確定前に未払割増賃金を支払ったので、付加金の支払義務が発生しておらず、Xが同判決を債務名義、同判決で命ぜられた付加金請求権を請求債権とし、Y社を債務者として行った債権差押えは不当な執行であるとして、同強制執行の不許を求める請求異議の事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働基準法114条は、裁判所は、労働者の請求により、解雇予告手当(同法20条)、休業手当(同法26条)、割増賃金(同法37条)、年次有給休暇の期間における賃金を支払わない(同法39条6項)使用者に対し、使用者が本来支払うべき金額の未払金のほか、同一額の付加金の支払を命じることができると定めている。
付加金の性質は、労働基準法によって使用者に課せられた義務の違背に対する制裁であって、損害の填補としての性質を持つものではないと解され、実体法的な権利関係に基づいて生ずるものではないから、未払割増賃金の弁済等の実体法上の消滅原因によって付加金支払義務を免れることができないというべきである。
また、付加金支払義務は、付加金の支払を認める判決の確定によって生じるところ、判決の基礎とすることができる事実は、事実審の口頭弁論終結時までのものである。
このことからすると、付加金の支払を認める判決の確定によって、付加金支払義務が発生するためには、事実審の口頭弁論終結時において、付加金の支払を命ずるための要件が具備されていれば足り、当該判決が取り消されない限りは、事実審の口頭弁論終結後の事情によって、当該判決による付加金支払義務の発生に影響を与えないというべきである。
したがって、使用者が判決確定前に未払割増賃金を支払ったとしても、その後に確定する判決によって付加金支払義務が発生するので、付加金支払義務を消滅させるには、控訴して第一審判決の付加金の支払を命ずる部分の取消を求め、その旨の判決がされることが必要となる
 この点、Y社は、最高裁平成26年判決が「裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには」と判示していることから、事実審終了後判決確定までの間に未払割増賃金が支払われた場合には、付加金が発生しないことが前提となっており、判決にある付加金支払義務は、判決確定前に未払の割増賃金等が支払われないことを停止条件として発生する、又は、判決確定前に未払の割増賃金等が支払われることを解除条件とするものである旨主張する。
しかし、最高裁平成26年判決では、付加金支払義務はその支払を命ずる判決の確定によって発生するものであるが、事実審の口頭弁論終結後の事実は判決の基礎とすることができないから、使用者が未払賃金の支払を完了して付加金支払義務を免れることができるのは、訴訟手続上、事実審の口頭弁論終結時までとなることが説示されているものと解され、このことからすると、付加金支払義務を免れるためには使用者としては控訴をした上で訴訟手続上、支払の事実を主張立証することが必要であると解される。
したがって、判決による付加金の支払義務の発生は、判決確定前の未払割増賃金等の支払の有無を条件とするものである旨の原告の主張は採用できない。

本件の特徴は、「事実審の口頭弁論終結後判決確定前」に未払賃金を支払ったという点です。

結論としては上記のとおりです。

支払いが遅れないように気をつけましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金138 退職した看護師に対する修学資金等返還請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、辞職した看護師等に対する修学資金等貸付金返還請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人杏祐会事件(山口地裁萩支部平成29年3月24日・労判ジャーナル64号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、かつて雇用していた看護師であるXに対し、①准看護学校在学中の修学資金等として、平成17年4月4日から平成19年3月1日まで合計約146万円を期限の定めなく貸し付け、さらに、②看護学校在学中の修学資金等として、同年4月26日から平成22年3月27日まで合計108万円を期限の定めなく貸し付けたとして、金銭消費貸借契約に基づき、本件貸付①の残元金約146万円及び本件貸付②の元金108万円の合計254万円等の支払を求めるとともに、Xの父であるAに対し、同人が本件貸付の貸金債務を連帯保証したとして、保証契約に基づき、上記同額の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 E事務長等のY社の管理職は、Xが退職届を提出するや、本件貸付の存在を指摘して退職の翻意を促したと認められるのであり、本件貸付は、実際にも、まさにXの退職の翻意を促すために利用されており、しかも、E事務長は本件貸付②だけではなく本件貸付①も看護学校卒業後10年間の勤務をしなければ免除にならないと述べるなど、本件貸付規定は、労働者にとって更に過酷な解釈を使用者が示すことによってより労働者の退職の意思を制約する余地を有するものともいえ、このようなXの退職の際のY社の対応等からしても、本件貸付は、資格取得後にY社での一定期間の勤務を約束させるという経済的足止め策としての実質を有するものといわざるを得ないから、本件貸付②は、実質的には、経済的足止め策として、Xの退職の自由を不当に制限する、労働契約の不履行に対する損害賠償額の予定であるといわざるを得ず、労働基準法16条の法意に反するものとして無効というべきである。

労働基準法16条では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と規定されています。

このような病院は複数存在しますが、訴訟になればこのような結果になりますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金137 就業規則変更に伴う賃金・退職金減額と合理性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、新人事制度導入に伴う就業規則の変更と退職金減額の成否に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人早稲田大阪学園事件(大阪地裁平成28年10月25日・労判1155号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の教職員であったXらが、新人事制度が施行され就業規則(各種規則等を含む。)が変更されたことで退職金が減額となったが、同変更がXらを拘束しないとして、変更前の規則に基づく退職金と既払退職金との差額及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 就業規則の変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、労働条件の集団的処理、特にその統一的、画一的決定を建前とする就業規則の性質上、当該条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解され(最高裁大法廷昭和43年12月25日判決・民集22巻13号3459頁参照)、当該変更が合理的なものであるとは、当該変更が、その必要性及び内容の両面からみて、これによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁参照)。

2 以上からすれば、Y社の経営状況は非常に悪化していたといわざるを得ず、経営状態が改善されなければ最悪の場合には解散をも視野に入れざるを得ないこととなる(実際、平成24年4月12日の団体交渉では解散の話にも言及がなされている。)。
解散や整理解雇は、従業員に大きな影響を及ぼすものであることから、その前段階として回避努力を行うことが必要となるところ、既に説示したとおり、生徒数等に鑑みれば、収入が劇的に増加(回復)することは見込めないという状況下においては、支出を削減するという方法によるしかないこととなる。
Y社は、役員数の減少、役員報酬の減額、定期昇給の停止、手当の削減、希望退職の募集等の措置を講じていたものではあるが、前記のとおり、人件費の支出が大きな割合を占めるというY社の性質からすれば、経営状態を改善するためには、上記の各措置のような一時的な対策のみでは効果は限定的であるといわざるを得ず、賃金体系(退職金を含む。)を抜本的に改革するほかなかったといわざるを得ない
そうすると、本件変更には、労働者の退職金等という重要な権利に不利益を及ぼすこととなってもやむを得ない高度の必要性があったと認められる。

3 これらの事情に加えて、Y社が、本件組合に対し、財政状況が悪化しており、放置すれば財政破綻を来すおそれがあることについては少なくとも本件変更の約7年2か月前から説明していることや、本件変更の約11か月前である平成24年6月1日付けで人事制度改革に関する個別相談窓口を設けるなどしていたことをも併せ考慮すれば、Y社は、本件組合あるいは教職員に対し、少なくとも、突如として本件変更の必要性があることを説明したものではなく、以前から、複数回にわたって新人事制度導入の必要性やその内容について説明を行っていたと評価することができ、6期連続赤字という経営状態であっても、直ちに昇給を停止するなどの措置を講じるのではなく、従前の給与規則に基づいて賃金の支払を継続してきたものである。
また、本件変更に係る説明に際しても、本件組合からの要求を受けて資料を開示するなどしていたほか、本件組合との交渉においても、新人事制度が所与のものであって、変更の余地がないというような強硬な態度をとることなく、平成24年度の賞与の支給、昇給の延伸及び激変緩和措置等に関する本件組合の要求を受けて、従前提案していた制度から変更するなど、柔軟な対応をとっていたと評価することができる。
そうすると、全体として、Y社の本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであったと評価することができ、平成24年4月12日の団体交渉において、書記長が、「平成25年度の改革は考えていただいて結構」、「財政再建策やって頂いて結構」と述べるに至っているのも、その表れと評価することができる。
以上を総合考慮すると、本件変更については、これにより被るXらの不利益は大きいものではあるが、他方で、変更を行うべき高度の必要性が認められ、変更後の内容も相当であり、本件組合等との交渉・説明も行われてきており、その態度も誠実なものであるといえることなどからすれば、本件変更は合理的なものであると認められる。

労働条件の不利益変更のうち、賃金や退職金の減額する場合には、上記のとおり、より一層高度の必要性が求められます。

本件は有効と判断された例ですが、ご覧のとおり、もはやぎりぎりの状態の中で気が遠くなるような準備が必要とされます。

そう簡単にはいかないことは明らかです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金136 就業規則の不利益変更と労働者の同意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業規則改訂の無効及び差額賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

ケイエムティコーポレーション事件(大阪地裁平成29年2月16日・労判ジャーナル63号43頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xらが、主位的請求として、Y社に対し、平成11年4月1日施行給与規程に基づいて、本件給与規定に基づいて計算された賃金と現実にY社から支給された賃金との差額賃金の支払、本件給与規定に係る賃金額を前提として、平成11年4月1日施行の退職金支給規定に基づいて、同退職金の支払を求め、そして、Bが、Y社に対し、深夜勤務に係る時間外割増賃金の支払とともに、労働基準法114条に基づく付加金等の支払を求め、予備的請求として、Xらが、Y社に対し、平成12年給与システム及び平成22年10月の給与システムに基づいて差額賃金の支払及び退職金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

就業規則の改訂は無効
→Xらの主位的請求をすべて認容

【判例のポイント】

1 Y社が、仮に、就業規則の不利益変更に該当するとしても、Xらは、本件誓約書に署名押印していることから、同不利益変更に関して、Xらの同意があった旨主張するが、本件誓約書への署名押印というXらの行為がXらの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはおおよそ認められない

2 平成20年就業規則及び平成21年就業規則と平成11年就業規則及び本件給与規定を比較すると、同変更による労働者側の不利益の程度は大きいと認められるところ(変動の具体的な基準や決定方法等も規定されておらず、Y社の恣意的な運用を許す内容といわざるを得ない)、他方で、同変更に至る経緯、同変更の必要性等その合理性を基礎付ける個別具体的な事実に関する事情が明らかとはいえず、同変更については、合理性があったとは認められないから、同不利益変更は、無効である。

労働条件の不利益変更をする場合には、近時の判例の傾向を踏まえた上で慎重に行いましょう。

特に労働者からの同意については非常に厳しくその有効性を判断されますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金135 退職金減額と労働者の同意の効力(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、吸収合併に伴う消滅信組元職員の退職金減額の効力に関する裁判例を見てみましょう。

山梨県民信用組合(差戻審)事件(東京高裁平成28年11月24日・労判1153号5頁)

【事案の概要】

本件は、A社の職員であったXらが、A社とY社との平成15年1月14日の合併によりXらに係る労働契約上の地位を承継したY社に対し、退職金の支払を求めた事案である。

原審(甲府地判平成24年9月6日)がXらの請求をいずれも棄却したので、Xらがこれを不服として控訴をしたが、差戻し前の控訴審(東京高判平成25年8月29日)は、Xらの控訴をいずれも棄却した。

これに対し、Xらが上告受理の申立てをしたところ、最高裁判所は、これを受理した上、平成28年2月19日、上記控訴審判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻すとの判決を言い渡した。

【裁判所の判断】

請求をほぼ全額認容

【判例のポイント】

1 ・・・このような本件基準変更による不利益の内容等及び本件同意書への署名押印に至った経緯等を踏まえると、管理職Xらが本件基準変更への同意をするか否かについて自ら検討し判断するために必要十分な情報を与えられていたというためには、管理職Xらに対し、旧規程の支給基準を変更する必要性等についての情報提供や説明がされただけでは足りず、自己都合退職の場合には支給される退職金額が0円となる可能性が高くなることや、Xの従前からの職員に係る支給基準との関係でも上記の同意書案の記載と異なり著しく均衡を欠く結果となることなど、本件基準変更により管理職Xらに対する退職金の支給につき生ずる具体的な不利益の内容や程度についても、情報提供や説明がされる必要があったというべきである。

2 本件労働協約は、本件職員組合の組合員に係る退職金の支給につき本件基準変更を定めたものであるところ、本件労働協約書に署名押印をした執行委員長の権限に関して、本件職員組合の規約には、同組合を代表しその業務を統括する権限を有する旨が定められているにすぎないから、上記規約をもって上記執行委員長に本件労働協約を締結する権限を付与するものと解することはできない
そこで、上記執行委員長が本件労働協約を締結する権限を有していたというためには、本件職員組合の機関である大会や執行委員会により上記の権限が付与されていたことが必要であると解される。
これを本件についてみると、・・・本件基準変更を定めた本件労働協約の効力は、組合員Xらに及ばない。

3 この点、Y社は、・・・本件労働協約の締結について追認(民法116条)がされたと主張する。
しかしながら、非管理職向けの職員説明会において、J常務理事が、自己都合退職の場合には支給される退職金が0円となる可能性が高くなることや、Y社の従前からの職員に係る支給基準と比較すると同一水準にはなっていないことなど、本件基準変更により職員に対する退職金の支給につき生ずる具体的な不利益の内容や程度についての情報提供や説明をした事実は認められない
そうすると、Iや組合員Xらを含む本件職員組合の組合員においては、本件基準変更に同意をするか否かについて自ら検討し判断するために必要十分な情報を与えられていなかったというべきであるから、Iが、合併後の労働条件について管理職と同じ内容の労働協約を締結した旨を報告し、その報告に対して他の組合員から質問や異議が出なかったことをもって、本件職員組合の機関である大会又は執行委員会により本件労働協約の締結の権限がIに付与されたとみることはできない。

最高裁判決を踏まえてこのような判断となりました。

労働条件の不利益変更を行う場合には、まずは従業員から同意を得ることを考えますが、その際、上記判例のポイント1を是非参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金134 固定残業制度に関する最高裁の考え方(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金規定の有効性と未払賃金等請求に関する最高裁判決を見てみましょう。

国際自動車事件(最高裁平成29年2月28日・労判1152号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、タクシー乗務員として勤務していたXらが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるY社の賃金規則上の定めが無効であり、Y社は、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して,Y社に対し,未払賃金等の支払を求める事案である。

なお、原審は、本件規定のうち、歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除する部分は無効であり、対象額Aから割増金に相当する額を控除することなく歩合給を計算すべきであるとした上で、Xらの未払賃金の請求を一部認容すべきものとした。

【裁判所の判断】

原判決中Y社敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

【判例のポイント】

1 労働基準法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令に具体的に定められている。もっとも、同条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金の定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。
そして、使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決最高裁24年3月8日第一小法廷判決参照)、上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。

2 他方において、労働基準法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると、労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできないというべきである。

応用可能性が高い判断です。

もっとも、この最高裁判決に基づいて従来の賃金体系を変更する場合には、多くの場合、労働条件の不利益変更にあたりますのでそう簡単にはできません。 

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金133 累積無事故表彰制度に基づく副賞50万円の支払請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、累積無事故表彰制度に基づく副賞等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

川崎陸送事件(東京地裁平成28年12月26日・労判ジャーナル61号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、Y社の賞罰規程における累積無事故表彰制度に基づき、副賞50万円等の支払を求め、Y社の従業員であるBが、Y社に対し、上記制度に基づき、副賞35万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件賞罰規程には、累積無事故表彰者の表彰について、表彰状と副賞をもって行うことが規定されるとともに、累積無事故期間の計算方法、累積無事故記録更新中の者が事故を発生させた場合の年数読替えによる救済措置、副賞の金額、表彰の決定手続、表彰の時期(副賞の支払時期)などについて、詳細かつ明確な規定がされており、副賞の支給条件が明確であり、具体的な支給額の確定も可能であるから、表彰の決定手続において業務部長ないし役員会における審議を要するとしても、労働の対償たる賃金又はこれに準ずる労働条件に当たるものと解されること等から、本件表彰制度の廃止は、就業規則の変更による労働条件の不利益変更に当たり、労働契約法9条、10条が適用される。

2 本件表彰制度は、就業規則に定められた労働条件に当たるから、取締役会で事実上廃止することはできず、また、東京都環境局が実施する「貨物輸送評価制度」においてY社が失格となったのだとしても、これが専らY社の従業員の責めに帰すべき事由によるものか否かは判然としない上、これと本件表彰制度を廃止することに特段の関連性は認め難く、これをもって労働条件の変更の必要性を認めることは困難であり、さらに、Y社は本件表彰制度の廃止を一方的に決定していること、労働者の受ける不利益の程度も小さくないことなどの諸事情に照らして、本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更が合理的なものであると認めることはできないから、従業員らに対しては、本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更の効力が及ばず、従前の規程が適用されるから、Y社は、従業員らに対し、本件表彰制度に基づく副賞の支払義務を負う。

上記判例のポイント1のように具体的に支給条件が規定されているものについては、「裁量」ということで逃げることができません。

賞与についても規定のしかた如何によっては同様の争いが生じますので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金132 医療機関において診療情報の改ざんを理由とする退職金不支給の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、改ざん行為を理由とする未払退職金について支払いを求めた事例を見てみましょう。

医療法人貴医会事件(大阪地裁平成28年12月9日・労判ジャーナル61号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営する病院で医療事務に従事した元従業員Xが、Y社に対し、自己都合退職したとして退職金を請求したところ、診療情報を改ざんしたことを理由に支給されなかったことから、退職金等の支払を求めるとともに、Y社代表者らから違法な退職勧奨を受けたなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本来の退職金支給額の2分の1の支払を命じた

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、18個に及ぶ本件改ざん行為を行い、Xの本件改ざん行為は、不正な保険請求の危険を生じさせ、その結果、Y社の医療機関としての信用を失墜させる危険のある悪質な行為であり、少なくとも本件就業規則所定の懲戒事由に該当するといわなければならないが、実際に本件改ざんの不正な診療情報に基づき保険請求がなされたものの、速やかに同請求を取り下げたことにより、Y社の信用失墜に至らずに済んだことが認められるところ、Xの本件改ざん行為は、懲戒解雇事由に該当する悪質な行為であり、Xが19年余にわたり本件病院に勤務して積み上げてきた功労を減殺するものといえるものの、Y社の信用失墜には至らなかったことを考慮すると、Xの功労を全部抹消するほどに重大な事由であるとまではいえず、本件改ざん行為の性質、態様及び結果その他本件に顕れた一切の事情にかんがみると、Y社は、Xに対し、本来の退職金の支給額の2分の1を支給すべきであった。

結果としてたまたま信用失墜に至らなかっただけです。

Y社としては腑に落ちない結果かもしれませんが、裁判所はこのように考えます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金131 原告請求の時間外労働割増賃金につきその半分を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告請求の時間外労働割増賃金について、少なくとも原告主張の5割が相当等とされた事例を見てみましょう。

福星堂事件(神戸地裁姫路支部平成28年9月29日・労経速2303号3頁)

【事案の概要】

本件は、和洋菓子の製造・加工並びに販売等を主たる目的とする株式会社であるY社の従業員であったXが、Y社に対し、未払の時間外労働割増賃金294万3240円+遅延損害金、労働基準法114条に基づく付加金249万8576円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、50万3599円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、50万3599円(付加金)+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 所定の就業開始時刻前のタイムカードの打刻時間を始業時刻として主張する場合(早出残業)には、使用者が明示的には労務の提供を義務付けていない始業時刻前の時間が、使用者の指揮命令下にある労働時間に該当することについての具体的な主張立証が必要であると解するのが相当である。
・・・かえって、Xが早出残業を繰り返していたのは、Y社の業務のためではなく、Y社から貸与されている携帯電話を使ってY社の女性従業員に長時間プライベートな電話をかけるためであったことが窺われる
よって、Xが早出残業を余儀なくされていたとは認められない。

2 ・・・以上の事実のうち、XがY社に早朝出勤を命じられ、日常的に所定の始業時刻前の時間外労働を余儀なくされていたとは認められないこと、Xが昼食も運転中に採ることが常態化しており、所定の1時間休憩を取ったことがなかったとは認められないこと等を考慮すれば、Xが時間外労働をしていたことは否定できないものの、Xの主張する時間外労働の時間は相当に過大であるというべきである。
その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すれば、Xの時間外割増賃金は、少なくともXが主張する411万9749円の5割である205万9874円と認めるのが相当である。
Y社はXが未払残業代を請求する期間について時間外労働割増賃金として、155万6275円を支払っていることが認められるから、これを控除すると、Xの未払いの時間外労働割増賃金は、50万3599円となる。

裁判所がざっくり請求金額の半分と認定してくれています。

あくまで結果論ですので、労働者側はこのような裁判所の判断を期待することなく、具体的な主張立証をすべきであると考えましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。