Category Archives: 賃金

賃金174 歩合給、祝日手当が固定残業代?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

29日目の栗坊トマト。どんどんたくましくなってきています!

今日は、歩合給、祝日手当等が時間外労働等の対価として支払われたかを賃金項目ごとに判断した裁判例を見てみましょう。

洛陽交通事件(大阪高裁平成31年4月11日・労経速2384号3頁)

【事案の概要】

本件は、タクシー乗務員としてY社に勤務するXが、Y社に対し、時間外労働及び深夜労働に対する未払割増賃金合計235万4107円+遅延損害金、付加金+遅延損害金の支払を求めた事案である(その後、Xは、当審において請求を拡張)。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、293万9348円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金188万7132円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 「本給」が最低賃金額に抑えられ、「基準外手当I」及び「基準外手当Ⅱ」は、いずれも、時間外労働等の時間数とは無関係に、月間の総運送収入額を基に、定められた割合を乗ずるなどして算定されることとなっていること、②Y社において、実際に法定計算による割増賃金額を算定した上で「基準外手当Ⅰ」及び「基準外手当Ⅱ」の合計額との比較が行われることはなく、単に、上記各手当等の計算がされて給与明細書に記載され、その給与が支給されていたこと、③Y社の求人情報において、月給が、固定給に歩合給を加えたものであるように示され、当該歩合給が時間外労働等に対する対価である旨は示されていないこと、④上記のような賃金算定方法の下において、Y社の乗務員が、法定の労働時間内にどれだけ多額の運送収入を上げても最低賃金額程度の給与しか得られないものと理解するとは考え難いことからすると、「基準外手当Ⅰ」及び「基準額手当Ⅱ」は、乗務員が時間外労働等をしてそれらの支給を受けた場合に、割増賃金の性質を含む部分があるがあるとしても、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない

2 「祝日手当」は、Y社において「祝日」と称する休日に勤務した場合に支給される手当であることからすると、通常の労働日の賃金であるとは認められない。

3 「時間外調整給」は、月間の総運送収入に一定の割合を乗ずるなどして算定されるものであり、時間外労働等の対価であることをうかがわせる定めも見当たらない。また、Y社の乗務員が時間外労働等をして「時間外調整給」の支給を受けた場合に、「時間外調整給」に割増賃金の性質を含む部分があるとしても、通所の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とはを判別することはできない。

4 「公休出勤手当」は、Y社では、2車3人制においては2日乗務し1日休業(「公休日」と称する法定外休日)となるところ、この休日に勤務した場合に支給される手当であることからすると、通常の労働日の賃金であるとは認められない。

この例も固定残業制度の運用方法を誤ったものです。

判例の基準に則り、適切に運用していけば、しっかり裁判所は固定残業制度を認めてくれます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金173 固定残業代が有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

22日目の栗坊トマト。順調に大きくなっています。

今日は、固定残業手当、深夜手当は時間外・深夜労働の対価性を有すると認めた裁判例を見てみましょう。

さいたま労基署長事件(東京地裁平成31年1月31日・労経速2384号23頁)

【事案の概要】

本件は、平成23年9月30日に急性心不全により死亡した亡Xの母であるAらが、Xの死亡は勤務先における恒常的な長時間労働が原因であると主張して、所轄労働基準監督署長であるさいたま労働基準監督署長に対し、遺族補償給付などを請求したところ、処分行政庁は、平成29年7月18日付けで、Xの給付基礎日額を8915円と認定した上で、当該給付基礎日額に基づき算定された金額の遺族補償年金をAに支給する旨の処分等につき、原告らが、上記各処分には給付基礎日額を低額に認定した違法があると主張して、Yに対し、上記各処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件会社における固定残業手当(残業手当)ないし深夜手当が、通常の労働時間の賃金に当たる部分(基本給)と明確に区分されていることは明らかである。
次に、対価性についてみると、Xが署名した契約社員雇用契約書には、「業務手当」を「残業手当」として支給する旨が明記されるとともに、本件賃金規程17条には、定額式の時間外手当として固定残業手当を支給することがあること及び実際の時間外労働がその金額を超えたときは別途時間外手当を支給する旨の包括的な定めが置かれ、本件賃金規程12条は、従業員が午後10時から午前5時までの間に勤務した場合には深夜勤務手当を支給する旨を定めている。また、Xの給与明細には「残業手当」ないし「固定残業手当」及び「深夜手当」との名称が明記されていた上、「固定残業手当」や「残業手当」という言葉の通常の語感からも、定額の残業代(割増賃金)を意味するものと容易に認識することが可能である。これらの事実によれば、本件会社がXに支給していた「残業手当(業務手当)」ないし「固定残業手当」は、時間外労働に対する対価として、「深夜(勤務)手当」は深夜労働に対する対価としてそれぞれ支払われたものと認められ、Xも、これを認識していたと認めるのが相当である(Aは、Xから残業代が支払われていないとの不満を聞いたことはない旨供述しているところ、当該供述も上記認定を裏付けるものといえる。)。

奇を衒わず、基本に忠実に固定残業制度を運用すればちゃんと裁判所は認めてくれます。

決して自分勝手に解釈して固定残業制度を導入することだけはやめましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金172 固定残業代が無効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

18日目の栗坊トマト。成長著しい!

今日は、タクシー乗務員の未払割増賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

洛陽交運事件(大阪高裁平成31年4月11日・労判ジャーナル89号28頁)

【事案の概要】

本件は、タクシー乗務員としてY社に勤務する従業員Xが、Y社に対し、①平成25年3月22日から平成28年2月19日までの時間外労働及び深夜労働に対する未払割増賃金合計約235万円等の支払を求めるとともに、②労働基準法114条に基づく付加金約199万円等の支払を求めたところ、原判決が、①未払割増賃金合計約183万円等の支払、②付加金約95万円等の支払の限度でXの請求を一部認容し、その余を棄却したため、X及びY社がそれぞれその敗訴部分を不服として控訴した事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 A期間について、「基準外手当(1)」及び「基準外手当(2)」及び「時間外調整給」には、割増賃金の性質を含む部分があるとしても、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の性質を含む部分とを判別することはできないから、いずれも通常の労働時間の賃金として、割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきであるが、他方、「祝日手当」は、Y社において「祝日」及び「公休出勤手当」は、休日に勤務した場合に支給される手当であることからすると、通常の労働日の賃金であるとは認められないから、割増賃金の基礎となる賃金に当たらないというべきであり、また、「業績給」及び「乗務手当」は、いずれも4箇月ごとに支給されるものであり、労働基準法施行規則21条5号の「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に当たるというべきであるから、割増賃金の基礎となる賃金には当たらない

2 B期間について、「基準外1」及び「基準外2」は、月間運送収入額の多寡に応じて、月間運送収入額ないしそのうちの一定額に一定の割合を乗ずるなどして算定されるものであり、「基準外1」及び「基準外2」は、いずれも通常の労働時間の賃金として、割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきであり、また、「調整給」は、A期間における「時間外調整給」と同内容のものであるから、割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきであるが、他方、「祝日手当」は、A期間における「祝日手当」と同内容のものであるから、割増賃金の基礎となる賃金に当たらないというべきであり、また、「休日出勤手当」は、A期間における「公休出勤手当」と同趣旨のものであるから、割増賃金の基礎となる賃金に当たらないというべきである。

3 「基準外手当(1)」、「基準外手当(2)」、「時間外調整給」、「基準外1」、「基準外2」及び「調整給」は、いずれも、出来高に応じて支払われる手当であるから、「請負制によって定められる賃金」(労働基準法施行規則19条1項6号)に当たる。

固定残業制度の運用を誤ると、一気に基礎賃金の額が上がるので、細心の注意をしなければなりません。

固定残業制度については最高裁判例及び多くの裁判例が出されていますので、それらを参考にしながら、適切に運用していくことが肝要です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金171 長距離手当が固定残業代として認められる要件とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、ドライバーの未払時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ナニワ企業事件(東京地裁平成31年1月23日・労判ジャーナル89号52頁)

【事案の概要】

本件は、平成17年10月から平成28年6月30日までY社の正社員のドライバーとして勤務していたXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、平成26年6月支給分から平成28年7月支給分の未払所定内賃金として約12万円、平成26年8月から平成28年5月までに支給されるべき無事故手当34万円等の支払、③労働基準法114条に基づく付加金として、約468万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 X入社時の長距離手当についてその趣旨を明らかにする客観的証拠がなく、長距離手当のほかに時間外手当名目の支払もあったことや、C所長がXに対し、賃金について、基本給と諸手当を含めて手取り30万円との説明をしたことなどを勘案すると、就業規則が制定されるまでの長距離手当は、その全額が割増賃金の趣旨であったということはできず、入社時におけるXの長距離手当に関する賃金の定めは、結局、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できないものといわざるを得ないから、入社時以降、Xに支給されていた長距離手当は、通常の労働時間に対する賃金に当たるものとして、基礎賃金に含まれるところ、平成21年11月6日制定の就業規則は、Xの入社時には通常の労働時間に対する賃金であった長距離手当を、割増賃金の支払の趣旨であると規定することにより、Xの基礎賃金を切り下げるものであるから、労働条件の不利益変更に当たるところ、Y社がXの同意を得た事実は認められないから、就業規則の制定によりXの労働条件を不利益に変更することはできず、長距離手当は、基礎賃金に含まれる。

2 Y社は、従業員の家族構成や住宅の形態に応じて定額の住宅手当を支給しており、住宅に要する費用に応じて算定されているとはいえないから、Y社がXに支給していた住宅手当は、割増賃金の算定基礎から除外される賃金とは認められず、また、Y社における食事手当は、従業員が長距離運転をする場合に支給されていたものであり、正に労働の対償として支払われたものとして、賃金に当たるというべきであるから、食事手当を割増賃金の基礎から除外すべき理由はなく、さらに、Y社は、特別給及び能率給を、基本給と同様の通常の労働時間に対する賃金として定めているから、賃金規程どおり、特別給及び能率給も、割増賃金の算定基礎とすべきであるが、他方、Y社は、無事故手当について、一度交通事故を起こした場合には、車輛の取扱に優れている者と認定できないとの趣旨で、10回分不支給とする取扱をしていたところ、無事故手当は、支給された月は割増賃金の基礎となるが、支給されなかった月において、割増賃金の基礎とすることはできない。

運送業における各種手当の運用方法の誤りが本当に目立ちます。

来月、運送業者対象のセミナーをやりますが、こういうセミナーに参加される会社は実はしっかりできていることが多く、関心すら持たない会社のほうが滅茶苦茶な賃金制度だったりします。

痛い目に合わないとわからないわけです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金170 各種手当が固定残業代として有効と判断されるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

昨日、「栗坊トマト」の種を植えました。

はやく芽が出ないかなー。

今日は、時間外手当相当額を控除する出来高払制賃金の計算方法を有効とした裁判例を見てみましょう。

X事件(大阪地裁平成31年3月20日・労経速2382号2頁)

【事案の概要】

本件は、貨物自動車運送業等を目的とするY社との間で労働契約を締結し、集荷、配達業務に従事していたXらが、Y社に対し、Y社は、Xらに支給する能率手当の計算に当たり、業務結果等により算出される出来高(賃金対象額)から時間外手当に相当する額を控除しているため、労働基準法37条所定の割増賃金の一部が未払であるなどと主張して、労働契約に基づく賃金請求として、未払割増賃金及び労基法114条の付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 時間外手当Aと能率手当は、それぞれ独立の賃金項目として支給されており、能率手当も含めた基準内賃金に対し、所定の計算式によって時間外労働等に対する時間外手当が算出され支給されていることが認められるところ、Y社とXらとの間の労働契約において、賃金対象額と同額を能率手当として支払うなどとする合意の存在は認められず、本件計算方法は、飽くまでも能率手当の算出方法を定めたものにすぎないといえるのであるから、能率手当の具体的な算出方法として、「能率手当=賃金対象額ー時間外手当A」という過程を経ているとしても(上記のとおり、能率手当は賃金対象額が時間外手当Aを上回る場合に支給されるものであって、賃金対象額が時間外手当Aを下回る場合にマイナスとなるものではない。)、Y社は、現実に時間外手当Aを支払っていると解するのが相当である

2 また、労基法37条は、労働契約における通常の労働時間をどのように定めるか特に規定していないことに照らせば、労働契約の内容となる賃金体系の設計は、法令による規制及び公序良俗に反することがない限り、私的自治の原則に従い、当事者の意思によって決定することができるものであり、基本的に労使の自治に委ねられていると解するのが相当である。
そして、本件における能率手当は、労働の成果に応じて金額が変動することを内容とした出来高払制賃金であると解されるところ、出来高払制賃金の定め方を指定し、あるいは規制した法令等は特に見当たらず、出来高払制賃金について、いわゆる成果主義の観点から労働効率性を評価に取り入れて、労働の成果が同じである場合に労働時間の長短によって金額に差が生ずるようにその算定過程で調整を図ること自体は特段不合理なものであるとはいえない。したがって、能率手当の算定に当たって、賃金対象額と時間外手当Aとを比較した超過差額を基準とする本件計算方法は、労働時間に応じた労働効率性を能率手当の金額に反映させるための仕組みとして、合理性を是認することができるというべきである。
以上説示した点に鑑みると、本件計算方法は、労基法37条の趣旨に反するとか、同条の潜脱に当たるとはいえない。

3 ①集配職に支給される賃金は、能率手当以外の基準内賃金とこれらに対する割増賃金である時間外手当A及び時間外手当C、出来高払制賃金である能率手当とこれに対する割増賃金である時間外手当B並びにその他の基準外賃金(通勤手当、扶養手当等)により構成されていること、②以上の賃金のうち、能率手当を含む基準内賃金が、通常の労働時間の賃金に当たる部分であり、時間外手当A、時間外手当B及び時間外手当Cが、労基法37条の定める割増賃金に当たる部分に該当すること、以上の点が認められ、これらの点に鑑みると、集配職の賃金は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とが明確に区分されて定められていると認められる

4 Y社は、能率手当以外の基準内賃金に対する割増賃金として時間外手当Aを支給しており、これとは別に所定の計算式により算出された賃金対象額(これ自体は「通常の労働時間の賃金」として支給が定められたものではない。)が時間外手当Aの額を上回る場合に、超過差額を能率手当として支給しているのであって、能率手当に係る本件計算方法の過程で、通常の労働時間の賃金から時間外労働Aに相当する額を控除しているわけではないというべきであるから、時間外手当Aは、その内容に鑑みて、労基法37条に定める割増賃金に該当すると解するのが相当である。また、能率手当は、出来払制の賃金であるが、労働の成果のみならず、労働効率性を評価に取り入れて、成果の獲得に要した労働時間によって金額が変動するものとしても、成果主義的な賃金として、通常の労働時間の賃金としての実質を欠くものとはいえない。

非常に重要な裁判例です。

賃金制度を適切に設計・運用することは労務管理のキモです。

特に拘束時間の長い運送業においては必要不可欠ですので、是非、弁護士のアドバイスの下に適切に労務管理をしてください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金169 歩合給が固定残業代?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、バス運転手の未払時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

天理交通事件(大阪地裁平成31年2月28日・労判ジャーナル88号38頁)

【事案の概要】

本件は、バスの運転手としてY社に勤務していたXが、Y社に対し、平成26年10月28日から平成27年11月10日までの間における時間外割増賃金及び付加金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

付加金等請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は15日を超えた場合に支給される1日1万2000円の金員は、割増賃金として支給したものである旨主張するが、本件雇用契約書には、「基本給150,000円(1ヶ月15日間拘束・超過日数分は、歩合給として1日につき12,000円)」と記載されていること、Y社がXに対して毎月交付していた給与明細書には、時間外割増賃金とは別に、「所定時間外賃金」の項目が記載されていること、以上の点に、本件雇用契約締結時、Y社がXに対し、Y社就業規則(賃金規程)の該当箇所を見せるなどして、15日を超えた分の賃金が、時間外割増賃金の趣旨で支払われる旨の説明があったことを認めるに足りる的確な証拠はないこと(かえって、同金員について、本件雇用契約書には「歩合給」として支給する旨記載されている)をも併せ鑑みれば、Y社が「所定時間外賃金」として支払っている金員が時間外割増賃金の趣旨で支払われるということについて、XY社間に合意があったとは認められないから、Y社がXに対し、「所定時間外賃金」として支払っている金員については、本件請求期間に係る時間外割増賃金の額算定に当たって基礎賃金に含まれると解するのが相当である。

2 Y社は、Xに対する時間外割増賃金について、支払いを怠り、同賃金支払義務を負っていると認められるが、もっとも、Y社は、Xに対し、毎月、不足額があったとはいえ、時間外割増賃金を一定額支払っていること、Y社がXに対する割増賃金支払義務を負うのは、エンジン停止時間が休憩時間に該当するのか、労働時間に該当するのかというY社の認識の違いによるものであると考えられるところ、休憩時間に該当するか否かは、業務実態の面もさることながら、法的な評価を含む面もあることは否定できないこと(Y社と同様の業種業態の会社等においても、エンジン停止時間や中休時間について、休憩時間として処理している場合もある)、Y社は、本件訴訟に至ってからとはいえ、Xに対し、運転日報等の労働時間に関する資料を任意に交付したこと等本件に関する諸般の事情を総合的に勘案すると、Y社に対し、付加金の支払を命じるのは相当とはいえないと考えるから、XのY社に対する付加金請求については、これを命じないこととする

この事案も賃金システムの運用ミスから生じているものです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金168 歩合手当、職務手当は固定残業代として認められる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ドライバーの未払時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ウェーブライン事件(大阪地裁平成31年2月14日・労判ジャーナル88号40頁)

【事案の概要】

本件は、一般貨物自動車運送事業等を目的とするY社の元従業員Xが社に対し、雇用契約に基づき、未払の時間外、休日及び深夜割増賃金等計350万円等、労働基準法114条に基づき、上記未払賃金と同額の付加金等の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 無事故手当、愛車手当、評価手当については、毎月支払われているから、1か月を超える期間毎に支払われるものとはいえず、そのほか除外賃金に当たると認めるに足りる事情は見当たらないこと等から、割増賃金算定の基礎となる支給費目に当たると認められる。

2 皆勤手当については、1か月を超える期間毎に支払われていないものの、雇用契約書上、無遅刻・無欠勤の場合に支給すると定められていること、平成28年6月10日や同年8月10日には支給されていないことからすれば、臨時に支払われた賃金であって、割増賃金算定の基礎となる支給費目に当たるとは認められない

3 歩合手当について、定められた目標を達成した場合及び時間外割増賃金等の額が職務手当の額を超えた場合に支給と記載され、時間外労働手当以外のものが含まれることが明らかな上、その算定方法や金額の定めがなく、その区別も明らかでないから、これが時間外労働手当に当たるとは認められず、また、歩合2手当についても、その内容を定めたものが見当たらないこと等から、これも時間外労働手当に当たるとは認められず、さらに、職務手当についても、職務手当のうち、いくらが時間外割増賃金であるのかがわからず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の部分が明確に区分されていないから、仮に時間外手当を含むとするような合意があったとしても有効とはいえず、そして、能力給及びその他手当についても、その内容を定めたものは見当たらず、その名称からしても、時間外労働手当に当たるとは認められない。

固定残業制度が認められない事例は、オレオレ詐欺と同様、どれだけ注意喚起、啓蒙活動をしても、一向になくなりません。

もう正解はわかっているのですから、そのとおりにやればいいのに、いまだに中途半端に導入し続けている例が後を絶ちません。

結果、多額の残業代を支払うことになってしまうのです・・・。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金167 育休取得者に対する昇給抑制の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、育児休業取得労働者に対する昇給抑制の違法性に関する裁判例を見てみましょう。

近畿大学事件(大阪地裁平成31年4月24日・ジュリ1534号4頁)

【事案の概要】

Xは、大学等を設置、運営する学校法人であるY社との間で、平成24年、期間の定めのない労働契約を締結し、講師となった。

Xは、平成27年11月から平成28年7月まで育児休業をしたところ、Xは、平成28年度の定期昇給がなされず、同年8月の復職後における本俸においても従前の号俸のままであった。当時のY社の旧育休規程8条は、「休業の期間は、昇給のための必要な期間に算入しない。昇給は原則として、復職後12か月勤務した直近の4月に実施する」と定めていた。

そこでXは、Y社に対し、Y社がXが育児休業をした平成28年度にXを昇給させなかったことなどが、いずれも違法でありXに対する不法行為になる旨主張して損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 給与規程12条に基づく定期昇給は、昇給停止事由がない限り在籍年数の経過に基づき一律に実施されるものであって、いわゆる年功賃金的な考え方を原則としたものと認めるのが相当である。しかるに、旧育休規程8条は、昇給基準日前の1年間のうち一部でも育児休業をした職員に対し、残りの期間の就労状況如何にかかわらず当該年度に係る昇給の機会を一切与えないというものであり、これは定期昇給の上記趣旨とは整合しないといわざるを得ない。そして、この点に加えて、かかる昇給不実施による不利益は、上記した年功賃金的なY社の昇給制度においては将来的にも昇給の遅れとして継続し、その程度が増大する性質を有することをも併せ鑑みると、少なくとも、定期昇給日の前年度のうち一部の期間のみ育児休業をした職員に対し、旧育休規程8条及び給与規程12条をそのまま適用して定期昇給させないこととする取扱いは、当該職員に対し、育児休業をしたことを理由に、当該休業期間に不就労であったことによる効果以上の不利益を与えるものであって、育児介護休業法10条の「不利益な取扱い」に該当すると解するのが相当である。
そうすると、Y社が育児休業をしていたXについて、旧育休規程8条及び給与規程12条を適用して定期昇給の措置をとらなかったことは、育児介護休業法10条に違反するというべきである。

2 給与規程12条による定期昇給は、年数の経過により基本的に一律に実施されるというものであることに照らすと、職務能力を反映した能力給というよりは、勤務年数に応じた年功賃金の考え方に基づくものと認めるのが相当である。そうすると、一部の期間に法律上の権利である育児休業をしたことによって、残りの期間の勤務による功労を一切否定することまでの合理性は見出し難い(なお、仮に、これを能力給であるとみるとしても、同様に、一部の期間に育児休業をしたことにより、現に勤務した残りの期間における職務能力の向上を一切否定することは困難であるといわざるを得ない。)。
また、育児休業以外の事由による休業の場合にも同様に昇給が抑制されるという事実があったとしても、Xは、上記のとおり本件育児休業をしたことを契機として昇給抑制による不利益を受けたといえるのであるから、本件育児休業とXの不利益との間の因果関係は否定されず、育児介護休業法10条の適用は妨げられない。

妥当な結論だと思います。

同様の制度を採用している会社は気を付けましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金166 賃金減額合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金減額合意無効等に基づく未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

エムスリーキャリア事件(大阪地裁平成31年1月31日・労判ジャーナル86号28頁)

【事案の概要】

本件は、医療従事者の有料職業紹介事業等を目的とするA社の元従業員Xらが同社との間で賃金を減額する合意をしたところ、Xの賃金減額の意思表示がA社の詐欺によるものであるからこれを取り消す、あるいは、動機の錯誤に基づくものであるから無効であるとして、A社を吸収合併したY社に対し、雇用契約に基づき、それぞれ未払賃金及び賞与計約404万円等の支払を求めるとともに、A社の役員による上記欺罔行為が故意にXらの権利ないし法益を侵害するものであるとして、不法行為(使用者責任)に基づき、それぞれ賃金及び賞与相当額等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xが月額45万円(平成26年5月以降は月額45万5000円)の支給を受けており、Xの給与明細においては基本給45万円又は45万5000円と表示されていたこと、本件説明書においても「就業規則での」「報酬約25万円に上乗せして」「高い給与・報酬が得れる形態になっている」、「現行の高め給与設定」などと上乗せ部分が給与であることを前提とする記載があることからすると、Xの賃金額をそれぞれ月額45万円などとする黙示の合意があったと認めるのが相当であり、また、賞与については、平成26年11月以前に春季賞与として80万円、夏季賞与として40万円が支払われた事実は認められるものの、就業規則上、会社の業績等を勘案して支給され、やむを得ない事由により、支給時期が延期し、又は支給しないことがあると定められておりその支給条件が予め明確に定められていると認めるに足りる事情もないから、恩恵的給付であって賃金ではないから、具体的権利としては発生しておらず平成27年の夏季賞与及び平成28年の春季賞与額の請求は認められない

2 A社の業績悪化については、本件説明書にそのような記載がなく、Dがそのことを説明したと認められず、仮に、Xが、本件説明書の「支払不能」や「倒産」等の言葉のみを捉えて、A社の業績が悪化していると思って賃金減額に応じたのだとしても、そのような動機が表示されているとは認められず、また、XがA社の役員報酬も減額されるものと誤信したとしても、業績が悪化して賃金減額を依頼する場合であればまだしも、そうでない状況において、労務提供の対価である賃金の額を決めるにあたり、役員の報酬がいくらかは重要であるとまではいえず、法律行為の要素に錯誤があったとは認められないこと等から、Xの錯誤無効の主張には理由がない。

上記判例のポイント2のようなトラブルは日常的に起こり得ますが、動機の錯誤の問題ですので、なかなか無効と判断されることは多くありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金165 固定残業制度が無効と判断される理由(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、未払時間外割増賃金等支払請求と固定残業代に関する裁判例を見てみましょう。

アトラス産業事件(東京地裁平成30年9月10日・労判ジャーナル84号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の正社員であったXが、会社在籍中に時間外労働、休日労働及び深夜労働を行ったと主張して、Y社に対し、時間外、休日及び深夜割増賃金約811万円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金約808万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、約457万円+付加金320万円を支払え

【判例のポイント】

1 XはY社から月給40万円に時間外労働等に対する割増賃金が含まれるとの説明を受けたことを否認し、本件証拠によるも、Y社からXに対し上記説明があったとは認められないこと、本件契約書1の記載から直ちに上記月給に時間外労働等に対する対価としての定額の割増賃金が含まれていると理解することは困難であること、賃金規程には基本給に割増賃金を含む旨の記載がないばかりでなく、時間外労働につき割増率1.25倍の割増賃金を支給するとの本件各契約書の記載と齟齬する記載があること、本件各契約書に記載された基本給の時給額は、埼玉県の最低賃金を下回ること、Y社が主張する固定残業代の定めによれば、固定残業代部分が1か月当たり約181時間ないし209時間分の時間外労働の対価となるなど、基本給と固定残業代部分が著しく均衡を失するうえ、Xの実際の時間外労働が1か月平均約60時間であることともかけ離れていることなどの事情を考慮すると、上記月給に時間外労働等に対する対価としての定額の割増賃金が含まれているとは認め難いこと等から、Y社の上記固定残業代に係る主張は採用することができず、月給40万円は全て通常の労働時間の賃金に当たるものと解するのが相当である。

2 Y社は、Xとの間で固定残業代の定めの合意をし、これを支給していた旨主張するものの、かかる固定残業代の定めを認めることはできないうえ、かかる給与制度に託けて基本給以外に時間外等割増賃金の支払をしていないことやその金額が高額に及ぶことなどの事情を総合して考慮すると、Y社に対し、上記未払時間外等割増賃金額から本訴提起日までに支給日から2年が経過した部分を控除した457万7397円の約7割に当たる320万円の付加金の支払を命ずるのが相当である。

もうそろそろ固定残業制度、やめませんか・・・

どうしてもやりたいのなら、ちゃんと弁護士なり社労士のレクチャーを受けませんか・・・

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。