Category Archives: 賃金

賃金190 完全歩合給制トラック運転手の割増賃金の算定方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、完全歩合給制トラック運転手の割増賃金の算定と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

コーダ・ジャパン事件(東京高裁平成31年3月14日・労判1218号49頁)

【事案の概要】

本件は、運送業を営むY社においてトラックの運転手兼配車係として勤務していたXが、Y社に対し、主位的に、Xに対する解雇は無効であると主張して、①平成24年10月分から平成26年8月分までの未払の割増賃金合計1528万3952円+確定遅延損害金253万5417円の合計1781万9369円+遅延損害金の支払、②労働基準法114条に基づく付加金1493万0319円+遅延損害金の支払、③労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに④解雇日である平成26年9月18日以降の賃金として同年11月5日から毎月5日限り月額34万5399円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、解雇が有効である場合には、⑤上記①の未払賃金1528万3952円+確定遅延損害金487万4382円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの主位的請求をいずれも棄却し、予備的請求のうち、上記⑤の請求につき386万4083円+遅延損害金の各支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、Y社及びXが、それぞれ敗訴部分の取消しを求めて控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。
1 Y社は、Xに対し、1364万9104円+遅延損害金を支払え

2 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する

3 Y社は、Xに対し、平成26年11月5日から本判決確定の日まで、1か月34万5399円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件就業規則には、歩合制についての定めも、歩合制の場合における給与額及び各種手当の支給並びに割増賃金の算定方法に関する定めもないし、XとY社との間で本件就業規則と異なる内容の上記の歩合制に係る給与条件を記載した労働契約書を取り交わしたものでもないのであり、Xについて本件入社経緯があることをもって、XとY社との間で給与についての本件歩合制合意がされたといえるか否かについて、検討する必要がある

2 本件歩合制合意は、Y社の労働者に対して労働契約に基づき就労後に適用されるべき本件就業規則に定められた労働条件について、これと異なる労働条件を内容とするものであって、実質的に本件就業規則に定められた労働条件の変更に当たるといえるから、Xの入社時における本件歩合制合意の成否については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らし、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきであると解するのが相当である(山梨県民信用組合事件・最判平成28年2月19日)。

3 これを本件についてみると、大型トラックの運転手の給与条件を他のトラックの運転手とは異なる歩合制とすることについては、基本的に業務内容が大きく異なるものとはいえず、Xにおいて、大型トラックの運転手には本件就業規則で定められた月額の固定給制という給与条件を適用しないこととする合理的な根拠ないし必要性があったことをうかがわせる事情は認められない
また、本件入社経緯においては、Aは、給与条件について、本件歩合制合意によるとし、月額最低27万円を保障するとの説明をしたものの、割増賃金の支給の有無及びその計算方法については、説明はされていないのであり、他の大型トラックの運転手の運行状況を示され、「月25日くらい働けば大体40万円前後になる」との説明があったとしても、どのような勤務状況を前提としてどのような給与が支給されるのかについて、十分な情報提供や具体的な説明があったとはいえず、本件就業規則に従って賃金が支給される場合についての説明もなく、これと比較して、どのような点で有利であり、どのような点で不利であるかをXが理解したものとはいい難い

4 民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要すると解されるところ(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件・最判平成7年3月9日)、Y社の他の大型トラックの運転手の給与条件について、個人売上げに基づく歩合制によっているものであるとしても、Y社は、残業代は支給する給与に含まれていると認識しており、Xに対し、入社以降、時間外割増賃金等の割増賃金を支払っていなかったことに照らせば、Y社のいう完全歩合制の給与体系の内容は明確なものとはいえず、このような場合に、Y社のいう完全歩合制の慣行が労使双方の規範意識によって支えられているものとみることはできない。

認容された金額を見てください。

正しい知識に基づいて労務管理を行わないと大やけどをする例です。

特に賃金系は気を付けないとえらいことになります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金189 求人票の記載と入社面接時の説明が異なる事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、試用期間中における求人票との労働条件相違と差額賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

カキウチ商事事件(神戸地裁令和元年12月18日・労判1218号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社(運送事業者)の従業員(トラック運転手)であったXらが、Y社に対し、労働契約に基づき、未払賃金、未払割増賃金+遅延損害金並びに付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 確かにXらがY社入社前に見たY社のホームページには大型ドライバーで月給36万円いじょうとの条件が記載されていたが、Y社が1月にハローワークに申し込んだ求人票には「基本給13万円~15万円、基本給+精務給+各種手当で35万円~」と記載されており、入社前の面接の際、A及びBが、基本給のみで35万円との説明をすることはにわかには考え難いこと、Xらは、Y社入社前、Y社と同業の会社に勤務し、運送会社の賃金体系を把握しており、X1も、基本給が月額35万円ではなく、手取りで月額35万円と認識していた旨を供述し、時間外手当等を含めないと月額35万円に届かないことを認識していたことからすると、Xらが基本給月額25万円であると認識していたものと認めることはできない

2 Xらは、8月7日の個別面談の際、Y社側から本件契約書1・2に署名するよう求められたので、十分に確認しないまま署名した旨供述するが、Xら及びCらは労働条件が採用面接時の説明と相違するとしてY社に抗議して本件説明会が開催され、そこでもY社側と労働条件についてやりとりをしているのであるから、Xらが労働条件に無関心なまま本件契約書1・2に署名したとは考え難く、Xらの上記供述はいずれも採用できない。

裁判所がいかに事実認定をするのかがよくわかりますね。

求人票の記載と入社面接時の説明が異なる事案は見かけますが、事実認定はケースにより異なりますので注意が必要です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金188 完全歩合制でも最賃法は適用される?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、最低賃金法に基づく未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

税経コンサルティング事件(大阪地裁令和元年12月27日・労判ジャーナル96号56頁)

【事案の概要】

本件は、保険代理店を営むY社において保険の営業業務等に従事していたXが、Y社に対し、主位的に(第一次的請求として)、Y社から最低賃金を下回る金額の賃金しか支払われていないとして、雇用契約に基づき、最低賃金に基づいて算出した賃金額との差額に係る未払賃金120万円等の支払を求め、仮にこれが認められない場合に予備的に(第二次的請求として)、Y社がXの賃金から根拠のない控除を行い、また、保険解約に伴い手数料としてXに義務なく金員を支払わせたとして、不当利得に基づき、上記控除に係る利得金約60万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 X及びY社は、平成27年4月1日頃、それぞれ自己の意思に基づき、本件雇用契約書にXが署名押印し、BがY社代表者として押印してこれを作成した事実が認められ、これによれば、X及びY社の間では、同日、本件雇用契約書に記載の契約が成立したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、XとY社との間では、平成27年4月1日に雇用契約が成立し、同雇用契約が継続した後、Xは平成29年5月31日にY社を退職したものと認められ、そして、雇用契約の内容(雇用条件)は、概ね本件雇用契約書に沿うものであるところ、Xの賃金に関しては、フルコミッション制(完全歩合制)であることに加え、労働時間に応じた一定額の賃金が保障されることなどが定められているにとどまり、最低賃金を下回らないことは明確にされていないものの、最低賃金に達しない賃金を定める合意部分は無効となり、同部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなす(最低賃金法4条2項)こととなるから、結局、Y社は、Xとの間の雇用契約に基づき、最低賃金と同様の賃金の支払義務を負う

2 Xの従事していた業務は、主に外回りによる保険契約の募集・勧誘であるところ、営業日報に記載された時間、訪問先・折衝先・面談所等及び業務内容の記載には、些か抽象的なものも見られるものの、多くは記載自体から営業活動の一環であることが相当程度理解できるものであること等から、Xの作成した営業日報は基本的に信用性が肯定できるものといえ、また、Xの作成した勤務表は、営業日報が提出されていない期間においても概ね正確に記載されたものと推認することができ、基本的にその信用性を認めることができるというべきであることからすれば、Xの労働時間数については、営業日報及び勤務表を基に算定するのが相当である。

フルコミッションで合意している場合であっても、雇用契約である以上、最賃法は強行法規なので、これに反することはできません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金187 退職金不支給が認められる場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、背信行為等を理由とする退職金不支給の成否に関する裁判例を見てみましょう。

インタアクト事件(東京地裁令和元年9月27日・労判ジャーナル95号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、平成28年度冬季の賞与が未払であるとして、労働契約に基づく賞与支払い請求として約49万円等の支払を求めるとともに、Y社を退職したにもかかわらず退職金が支払われないとして、退職金規程に基づき退職金約70万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賞与等支払請求は棄却

退職金等支払請求は認容

【判例のポイント】

1 XがY社を退職したのが平成28年12月9日であると認められるのに対し、平成28年度冬季賞与支給日が同月13日と設定されていることから、Xは「支給日に在籍している社員」には該当せず、また、Y社における冬季賞与支給日は、必ずしも12月9日以前とされていたわけではなく、その他に、Y社がXを支給日在籍社員として取り扱わないことが権利濫用に該当することを裏付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、Xは、平成28年度冬季賞与を請求できる権利を有しない

2 Y社が本件背信行為として主張するものの多くは、そもそも懲戒解雇事由に該当しないものである上、仮に懲戒解雇事由に該当しうるものが存在するとしてもその内容はXが担当していた業務遂行に関する問題であってY社の組織維持に直接影響するものであるとか刑事処罰の対象になるといった性質のものではなく、これについてY社が具体的な改善指導や処分を行ったことがないばかりか、Y社においても業務フローやマニュアルの作成といった従業員の執務体制や執務環境に関する適切な対応を行っていなかったのであり、また、Y社の退職金規程の内容からすれば、Y社における退職金の基本的な性質が賃金であると解されること等から、Xについて、Y社における勤労の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為があったとは評価できず、Y社は、Xに対して、退職金規程に従って退職金を支払う義務を負う。

判例のポイント1は、非常にベーシックな論点ですが、支給日それ自体に争いがあると、今回のケースのようになってしまいます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金186 通勤経路及び通勤手当の認定方法の妥当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、通勤手当の不当認定等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ダイナス製靴事件(大阪地裁令和元年12月16日・労判ジャーナル96号72頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて婦人靴売り場の販売員として勤務していたXが、Y社に対して、①不当な通勤経路及び通勤手当の認定により退職を余儀なくされたとして、不法行為ないし債務不履行に基づき、逸失利益37万円及び慰謝料の支払を求めるとともに、②同売り場での勤務中、会社の従業員の過失行為により眼鏡が破損したとして、使用者責任(民法715条)に基づき、眼鏡レンズ購入代金相当額約8万円及び慰謝料(上記①に係るものと合わせて約20万円)の支払を求めた。

原判決は、Xの請求を全て棄却したことから、Xがこれを不服として控訴した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、最寄りのバス停EからF駅までの距離及び徒歩での所要時間は、本件規定の定めるバス利用条件を満たしているのに、Y社がこれを認めず本件認定をしたことは不当である旨主張するが、給与規程における交通費(通勤手当)に関する定めは、「住居地または勤務箇所から最寄り駅までのルートの定期乗車券または、バス乗車代(往復)×1ヵ月の出勤日数の合計の低い方を支給する」と定めているのであり、Xの自宅の最寄りのバス停からの距離及び徒歩による所要時間を基準としているものではなく、そして、Xの自宅からF駅までの最短距離は2kmを超えず、徒歩による最短の所要時間は25分を超えないものと認めるのが相当であること等から、Y社による本件認定は不当な点はなく、これが不法行為ないし債務不履行に当たるものとは認められず、これを根拠とするXの逸失利益の損害賠償及び慰謝料の請求には理由がない。

2 Xは、本件店舗での勤務中に本件従業員の右肘がXの左こめかみに当たり、Xの眼鏡が破損した旨を主張するが、仮に、Xが主張及び陳述するように、本件従業員の右肘が当たったことにより、眼鏡の弦をつなぐためネジを留めているレンズ部分にひびが入り、時間の問題でレンズが割れ、弦がとれてしまうような明らかな破損状態になったのであれば、生活に不自由が生じ、同眼鏡が高額であるのであればなおのこと、速やかに本件従業員や会社の上司等に報告し、事後対応について話し合うなどしていて然るべきであるところ、実際には1か月余り後に眼鏡レンズを発注ないし購入するのと同時期に、本件従業員に対して金銭的な負担を求めるようになったというのは、不自然な経過であるといわざるを得ず、また、本件記録を精査しても、Xの主張及び陳述する眼鏡の破損に係る具体的状況及び経過を裏付ける的確な証拠も見いだせないこと等から、本件従業員が過失によりXの眼鏡を破損したという不法行為が成立するとは認められず、XのY社に対する眼鏡レンズ購入代金相当額の損害賠償及び慰謝料の請求には理由がない。

上記判例のポイント2のような事実認定は、裁判所がよく行う手法です。

人間なんていつも例外なく合理的に行動するわけではありませんが、裁判所の認定は、人間は常に例外なく合理的に行動することを前提にしていますので(笑)、客観的に見て不合理な事情があると上記のように事実認定をして主張を否定します。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金185 時間外勤務指示書がなくても残業の指揮命令は認められる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金、退職金、パワーハラスメントを理由とした慰謝料など約2800万円の支払いを認めた裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人Y会事件(福岡地裁令和元年9月10日・労経速2402号12頁)

【事案の概要】

本訴請求は、X1~X5が、Y社と労働契約を締結していたところ、①Y社に対し、労働契約に基づき、未払割増賃金+遅延損害金の支払、②Y社の代表者であるAに対し、Aが労働時間を把握して労働基準法37条1項を遵守すべき義務を負うにもかかわらず、Bによるタイムカードの廃止によってXらの労働時間を正確に把握できない状況を放置した違反があると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、上記①の未払割増賃金相当額の損害金+遅延損害金の支払、③Y社に対し、労基法114条所定の付加金+遅延損害金の支払、④Y社に対し、基本給の減額が違法無効であると主張して、労働契約に基づき、減額された未払賃金+遅延損害金、⑤Y社に対し、労働契約に基づき、退職金+遅延損害金、⑥B及びY社に対し、XらがBからそれぞれパワーハラスメントを受けたと主張して、Bについては不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社については使用者責任に基づき、それぞれ連帯して各200万円たす遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

反訴請求は、Y社らが、Xらに対し、Xの本訴の提起が不当訴訟であると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1:340万8905円、X2:371万5927円、X3:120万8421円、X4:271万2304円、X5:325万7237円+遅延損害金を支払え

2 Y社は、X1:166万8935円、X2:249万2624円、X3:23万9911円、X4:161万8196円、X5:151万6285円+遅延損害金を支払え

3 Y社は、X1:13万9200円、X2:10万円、X3:7万6728円、X4:32万9142円、X5:32万9142円+遅延損害金を支払え

4 Y社は、X1:168万5670円、X2:28万7260円、X3:35万6647円、X4:139万8840円、X5:67万2956円+遅延損害金を支払え

5 B及びY社は、連帯して、X1:15万円、X2:15万円、X3:15万円、X4:15万円、X5:30万円+遅延損害金を支払え

6 Y社らの反訴請求はいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 時間外勤務指示書による時間外労働の指示がされたものはいずれも所定の終業時刻後の時間外労働であって、所定の始業時刻前の業務について時間外勤務指示書が提出されていたと認めるに足りる証拠はない上、時間外勤務時指示書記載の理由はいずれも会議ないし全体会議を理由としたものであり、かつ時間外労働の開始時刻はいずれも所定の終業時刻から時間的間隔があるが、これについて時間外労働として処理した証拠はないことを併せ考えると、時間外勤務指示書による時間外労働は、会議等が所定労働時間外に設定されるなど時間外労働の指示が明示されたものについて主に使用されていたと認めるのが相当であり、同指示書の提出がないからといって、それ以外の始業時刻前及び終業時刻後の時間外労働の存在を否定するものとはいえないというべきである。

2 Aは、Y社の業務執行の任に当たる理事であったところ、CやDの職員の労働管理については、Bが施設長としてその責任を有していたこと、Bは、職員の労働時間管理に用いられていたタイムカードを廃止し、職員に時間外勤務指示書を提出させることによって時間外労働を把握しようとしていたことが認められる。そうすると、AがBの施設長として管理業務にどの程度の関与をしていたかは証拠上も明らかではないものの、Y社では時間外勤務指示書の提出による時間外労働の把握に努めていたと考えられるのであって、その適不適の問題は措くとしても、Bにおいて、Xらの割増賃金請求を妨害した、あるいは、Xらに割増賃金が具体的に発生していることを認識しながらあえてこれを支払わなかったとまでいうことはできず、Xらに対する割増賃金の未払について、Bに不法行為上の故意又は過失があったとまでは認められない。

3 X1がBへの報告を懈怠したことが就業規則18条の懲戒事由に該当するとして、訓告の懲戒処分として反省文を提出させたのであれば、それをもって懲戒処分としては終了したとみられる上、さらに減給というより重い懲戒処分をしなければならない必要性・相当性を認めるに足りる証拠はなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない

みなさん、2800万円、払えます?

日頃から顧問弁護士の指示の下で適切に労務管理をしたほうが絶対に費用対効果がいいです。

まあ、多くの人は、病気にならないと健康のありがたさはわからないのです。

賃金184 横領行為と退職金不支給(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、横領行為に基づき不支給とされた未払退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(大阪地裁令和元年10月29日・労判ジャーナル95号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して勤務していたXが、横領行為を理由に懲戒解雇され、退職手当についても不支給とされたが、Xによる横領行為は全ての功労を抹消するほどの背信行為ではなく、少なくとも300万円の範囲では退職手当を受領する権利があるとして退職手当300万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件横領行為は、正にXが当時従事していたY社の中心業務の1つの根幹に関わる最もあってはならない不正かつ犯罪行為であり、出来心の範疇を明らかに超えたY社に対する直接かつ強度の背信行為であって、極めて強い非難に値し、被害額も多額に上り、その後の隠ぺいの態様も悪質性が高く、動機に酌むべき点も見当たらないから、XとY社との間の労働契約における退職手当は賃金の後払い的な性質をも併せ持つこと、被害については隠ぺい工作の一環によるもの及び金銭の支払いによるものにより回復されていること、Xは、旧郵政省時代から通算して約24年8か月余りの間、大過なく職務を務めており、本件横領行為を行ったc郵便局在勤中お歳暮の販売額に関するランキングで5位以上であったこと、Xが、Y社による事情聴取に応じ、最終的には非を認めて始末書や手記を提出し、本件横領行為の態様、隠ぺい工作、動機等についても明らかにしていることを十分に考慮しても、Xによる本件横領行為は、Xの従前の勤続の功を抹消するほど著しい背信行為といわざるを得ないから、Xは、退職手当規程の本件退職手当不支給条項の適用を受け、Y社に対し、退職手当の支給を求めることができない。

完全に比較衡量の問題ですので、結論としてどちらに流れるかは、担当する裁判官によって異なり得るところです。

もっとも、過去の裁判例を参考におおよその検討はつきますので、それらを参考にしながら退職金の支払いの是非、程度を判断しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金183 固定残業代の有効要件を満たしていないと判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、早出時間と固定残業代の成否に関する裁判例を見てみましょう。

清和プラメタル事件(大阪地裁令和元年8月22日・労判ジャーナル93号22頁)

【事案の概要】

本件は、プラスチック製品の製造、加工及び販売等を目的とするY社の元従業員XがY社に対し、労働契約に基づき、未払の時間外割増賃金等計約148万円等の支払、また、労働基準法114条に基づき、上記未払賃金のうち約84万円と同額の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 割増賃金等(固定残業代)支払の有無について、Y社は、Xに対し、平成27年4月頃、所定の始業時間(午前8時)より早く出勤する早出時間について、固定残業手当として月額5万円の「その他手当」を支給し、午後5時以降の時間を別途残業時間として算定することを説明し、その了解を得た旨主張するが、「その他手当」の名目からはその性質がわからない上、それが固定残業代であることを示す契約書や就業規則等の定めは存しないし、また、Xが平成27年5月頃に残業手当がないことについて質問していることからすると、その時点でXが「その他手当」を残業代であると認識していなかったことが窺われ、さらに、Xの労働実態に差がないにもかかわらず、平成27年3月以前の残業手当の額より同年4月以降の残業手当と「その他手当」の合計額が相当程度高くなっていることからしても、「その他手当」に従前の残業手当以外のものが含まれることが窺われること等から、Y社による割増賃金等(固定残業代)支払の主張は理由がない。

また固定残業制度の運用ミスです。

もう裁判所の判断が固まってきていますので、奇を衒わず、有効要件を意識すれば、それほど難しい問題ではありません。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金182 総合職加算・勤務手当が法内残業の対価?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総合職加算及び勤務手当が法内残業の対価であると認められた裁判例を見てみましょう。

富国生命保険事件(仙台地裁平成31年3月28日・労経速2395号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、総合職として勤務したXが、退職後にY社に対し、在職中に時間外労働をしたと主張して、賃金請求権に基づく割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記割増賃金の不払について労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、17万0063円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 内務職員給与規定において、総合職加算についても、勤務手当についても、その支給対象者は法内残業時間に対する時間外勤務手当の支給対象外とされていることに照らすと、総合職加算も勤務手当も、法内残業時間に対する時間外勤務手当としての性質を有していると解するのが相当である。
この点、Xは、Xのように法内残業が恒常化している者の場合には、総合職加算の額も勤務手当の額も法所定の残業代に満たないから、これらを法内残業手当とみることはできないと主張する。
しかしながら、所定労働時間を超えていても、法定労働時間を超えていない法内残業に対する手当については、労働基準法37条の規制は及ばない。また、所定労働時間内の労働に対する対価と所定労働時間外の労働に対する対価を常に同一にしなければならない理由はないから、清算の便宜等のために残業時間にかかわらず法内残業手当の額を固定した結果、法内残業をした日の多寡によっては、法内残業に対する時間当たりの対価が、所定労働時間内の労働に対する時間当たりの対価を下回る結果となったとしても、それだけで直ちに違法ということはできない

各種手当に関するルールをしっかり理解して運用すれば、裁判所はしっかり認めてくれます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金181 固定残業制度の有効要件とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、実際の時間外労働時間数との間に相当程度の差異がある時間外手当が固定残業代として有効とされた裁判例を見てみましょう。

飯島企画事件(東京地裁平成31年4月26日・労経速2395号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社に対し、①時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金、②労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金、③月例賃金の減額に同意していないとして、減額前後の月例賃金の差額分合計26万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における時間外手当は、本件雇用契約締結当初から設けられたものであり、その名称からして、時間外労働の対価として支払われるものと考えることができる上に、実際の時間外労働時間を踏まえて改定されていたことを認めることができる
これらの事実によれば、時間外手当は、時間外労働に対する対価として支払われるものということができ、また、時間外手当と通常の労働時間の賃金である基本給とは明確に区分されているから、時間外手当について、有効な固定残業代の定めがあったということができる。

2 これに対し、Xは、固定残業手当について、時間当たりの単価や、予定する時間外労働等に係る時間数が示されていないため、通常の労働時間の賃金である部分と時間外労働に対する対価である部分とが明確に区別されていないと主張する。
しかし、有効な固定残業代の定めであるためには、必ずしもXが指摘する各点を示すことは必要ないと解されるので、Xの上記主張を採用することはできない。

3 Xは、Y社が主張する実際の時間外労働に係る時間数と、上記の時間数が著しく異なるため、時間外手当は、時間外労働の対価としての性質を有しないとも主張する。そして、確かに、Y社が給与計算において考慮した時間外労働等に係る時間数と、上記時間数は相当程度異なるが、上記の各事実が認められることのほか、Y社の給与計算においてコース組みに要した時間が含まれていないこと、Y社の給与計算によっても平成28年2月16日から同年3月15日の間に38時間以上、平成30年1月16日から同年2月15日の間に47時間以上時間外労働をしていたことを考慮すると、上記判断は左右されない。

最近は、上記判例のポイント2のような判断が主流ですね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。