Category Archives: 解雇

解雇383 採用内定取消に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、採用内定取消に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

日本振興事件(大阪地裁令和4年6月17日・労判ジャーナル130号38頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、XはY社から採用内定を得たものの、その後、Y社から違法な内定の取消しをされたと主張して、不法行為に基づき、損害金合計約230万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社のD支店の業務課長であったEがXに対して本件業務に係る労働条件を提示して労働契約締結の申入れを行い、Xがこれを承諾したことによって、XとY社との間に労働契約が締結され、Y社による採用内定が成立した旨主張するところ、確かに、Eは、Xに対し、本件業務の大まかな業務内容及び労働条件を説明して本件業務を紹介し、その後もXとのやり取りを続け、Xが博多行の新幹線乗車券を購入することを許可し、かつ、Xが業務を開始することができるように、Y社の九州支店との間で調整を行っていたことが認められるが、XとY社との間で本件業務に係る労働契約を締結することを目的とする契約書が取り交わされたとの事実を認めることはできず、Y社がXに対して本件業務に係る労働条件を明示した書面を交付したとの事実を認めることもできず、また、Y社がXに対してXを採用する旨をメールで通知したとの事実を認めることもできないこと等から、XとY社との間において、本件業務に係る労働契約を締結する旨の確定的な意思表示の合致があり、Y社による採用内定が成立していたとの事実を認めることはできない。

「確定的な意思表示の合致」がキーワードになります。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇382 勤務態度不良等を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、勤務態度不良等を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

カワサキテクノリサーチ事件(大阪地裁令和4年7月22日・労判ジャーナル129号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に正社員として雇用された中国人男性であるXが、Y社に対し、Y社がした解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに本件解雇後の未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社はXの賃金をXの自由な意思による合意なしに一方的に引き下げ、かつ、本件解雇の適否を判断するために自宅待機を命じたにもかかわらず、その間の賃金の支払を怠ったと主張して、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効
未払賃金請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xが多数回にわたって遅刻及び欠勤を繰り返していたことにより、Y社の通常の事業活動が阻害されていたことは明らかであり、これに関してXに酌むべき事情があったとはいえないところ、それにもかかわらず、Xは、遅刻及び欠勤につき、自らの態度を改める意思がないことを明らかにしており、Y社において、Xには遅刻及び欠勤を繰り返す傾向を改善する意思がないものと判断するに至ってもやむを得ないというべきであり、また、Y社在籍中におけるXの勤務態度及び協調性には著しい問題があったものといわざるを得ないこと等から、Xには、就業規則所定の解雇事由があったものと認められ、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠くものといえず、そして、Xは、本件懲戒処分を受けて作成した本件始末書においても、「反省することはない」などと記載して、勤務態度を改善することそのものを拒否し、Xの対応からすれば、Y社において、Xに対してこれ以上の注意指導を重ねても、Xの勤務態度等が改善する見込みはなく、解雇を選択する他ないと判断するに至ったとしてもやむを得ないこと等から、本件解雇に係るY社の判断は、社会通念上相当性を欠くものであったとはいえない。

珍しいケースですが、上記のような事情があれば、裁判所としても解雇を有効と判断するでしょう。

いずれにせよ、簡単には解雇できませんのでご注意ください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇381 通勤手当不正受給等を理由とした懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、通勤手当不正受給等を理由とした懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

学校法人帝京大学事件(東京地裁令和3年3月18日・労判1270号78頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社が設置する大学において准教授の地位にあったXが、通勤手当を不正に請求したなどとして、Y社から平成30年10月9日付けで免職処分とされ、同月22日までに退職願を提出しなかったため、同月31日付けで懲戒解雇されたことについて、Y社に対し、同処分は懲戒権を濫用したものであり無効であるとして、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、同懲戒解雇後である同年11月から毎月22日限り月額賃金48万6045円及び平成30年12月分の賞与額113万2888円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件通勤手当受給及び本件無届通勤は、採用当初より、支給される通勤手当と実際に通勤に係る費用との間の差額を利得する目的で、かつ、届け出た公共交通機関ではなくバイク通勤をする意図でありながら、その目的、意図及び実際にバイク通勤を継続した事実をY社に秘匿するため、あえてY大学の構内の職員用無料駐車場ではなく、本件店舗に駐輪し、しかも、公共交通機関による通勤手当とバイク通勤による実費との差額を利得するにとどまらず、あえて遠回りの通勤経路を届け出ることにより、公共交通機関による通勤手当を受給していた場合に本来得られる金額より更に高額の通勤手当を6年以上の長期にわたり受給し続けたものであり、Y社に採用後一度も通勤定期券を購入したことがないことも踏まえると、受給額全額について詐欺と評価し得る悪質な行為であって、その経緯や動機には酌むべき事情は見当たらない。
本件通勤手当受給によってY社が被った損害は、合計約200万円と多額であり、仮にXがバイク通勤ではなくY社指摘経路によって通勤していた場合であっても、X届出経路との差額が100万円以上生じることとなり、生じた結果は重大である。

2 Xは、本人尋問において反省している旨供述するものの、本件懲戒処分の前に行われたY社調査委員会及びY社懲罰委員会においては、具体的な反省の弁を述べることがないばかりか、大学の玄関においてバイク、タクシー、自家用車で通勤している者をそれぞれ確認して通勤届出と照合して指導するのがY社の事務職員の職責であるのに、自分は注意されたことはなく、Y社の方で注意すべきであったなどとY社に責任を転嫁する言動に及んだ上、不正受給の金額を明示されたにもかかわらず、本件懲戒処分以前に自主的に受給した通勤手当を返還もすることなく、本件懲戒処分後にY社からの訴訟提起を受けてこれを返還したにすぎないことも踏まえると、本件懲戒処分時において本件通勤手当受給及び本件無届通勤につき真摯に反省していたものとは到底認められない。
以上に判示した本件通勤手当受給の悪質性、これに係る経緯及び動機に酌むべき事情が見当たらないこと、結果の重大性、真摯な反省が見られないことに加え、Y社において他の教職員が同様の不正受給を行うことを抑止する現実的な必要性が高いことも踏まえると、上記懲戒事由該当行為のみでも、戒告やけん責にとどまらず、免職を含む重い懲戒処分が相当である。

事案によっては、民事上の責任のみならず、刑事上の責任についても追及されることもあります。「魔が差した」では済まなくなりますので注意しましょう。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

 

解雇380 従業員が退職の意思表示をしていないにもかかわらず、会社が退職扱いにした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、従業員が退職の意思表示をしていないにもかかわらず、会社が退職扱いにした事案を見ていきましょう。

PASS-I-ONE事件(東京地裁令和4年4月22日・労判ジャーナル128号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、XはY社に対して退職の意思表示をしていないにもかかわらず、Y社はXが退職したものとしてXの労務の提供を拒絶していると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求認容

【判例のポイント】

1 XとY社代表者との間で令和3年2月21日に大声による口論が発生し、Xは翌日以降会社に出勤していないが、同日にY社に対して退職の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はない

2 Xは、令和3年2月21日、Y社代表者から、「明日から来なくてよい」、「クビだ」と言われた旨を陳述及び供述するところ、当該陳述及び供述については、①同日、XがY社代表者に対して1か月分の給与の支払を求め、その後、両者の間で大声による口論が発生したこと、②同日の勤務終了後、XがY社の店舗に置いていた私物の全部又は大部分を持ち帰ったこと、③その後、Y社がXに対して本件解雇予告通知書を送付したこと、④更にその後、Y社代理人弁護士がXに対して解雇は正当である旨を記載した通知書を送付したことと整合し、信用することができるから、Xは、同日、Y社代表者から前記の発言をされ、同月22日以降の労務の提供を拒絶されたというべきところ、XがY社に対して退職の意思表示をしたと認めることはできず、ほかに本件労働契約の終了原因の主張はないから、Xは、同日以降Y社の責めに帰すべき事由により就労不能となったと認めるのが相当であり、Y社は、Xに対し、民法536条2項により令和3年2月22日以降の賃金支払義務を負担する。

これはよくあるケースですが、感情的になって上記のような発言をしないことが肝要です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇379 停職6ヵ月の第2次懲戒処分を違法とした原審判断を取消し、懲戒権者の裁量逸脱・濫用が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、停職6ヵ月の第2次懲戒処分を違法とした原審判断を取消し、懲戒権者の裁量逸脱・濫用が認められなかった事案を見ていきましょう。

氷見市事件(最高裁令和4年6月14日・労経速2496号3頁)

【事案の概要】

普通地方公共団体であるY社の消防職員であったXは、任命権者であった氷見市消防長から、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分を受け、さらに、その停職期間中に正当な理由なく上記暴行の被害者である部下に対して面会を求めたこと等を理由とする停職6月の懲戒処分(以下「第2処分」という。)を受けた。

本件は、Xが、Y社を相手に、第1処分及び第2処分の各取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

原審は、上記事実関係等の下において、第1処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとする一方、要旨次のとおり判断して、第2処分の取消請求を認容し、損害賠償請求の一部を認容した。
第2処分の対象となる非違行為はそれなりに悪質なものであり、被上告人は第1処分を受けても反省していないとみられるが、上記非違行為は、反社会的な違法行為とまで評価することが困難なものである上、第1処分に対する審査請求手続のためのものであって第1処分の対象となる非違行為である暴行等とは異なる面があり、同種の行為が反復される危険性等を過度に重視することは相当ではない。そうすると、第1処分の停職期間を大きく上回り、かつ、最長の期間である6月の停職とした第2処分は、重きに失するものであって社会通念上著しく妥当を欠いており、消防長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものである。

【裁判所の判断】

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

【判例のポイント】

1 被上告人によるHへの働き掛けは、被上告人がそれまで上司及び部下に対する暴行及び暴言を繰り返していたことを背景として、同僚であるHの弱みを指摘した上で、第1処分に係る調査に当たって同人が被上告人に不利益となる行動をとっていたならば何らかの報復があることを示唆することにより、Hを不安に陥れ、又は困惑させるものと評価することができる。
また、被上告人によるCへの働き掛けは、同人が部下であり暴行の被害者の立場にあったこと等を背景として、同人の弱みを指摘するなどした上で、第1処分に対する審査請求手続を被上告人にとって有利に進めることを目的として面会を求め、これを断ったCに対し、告訴をするなどの報復があることを示唆することにより、同人を威迫するとともに、同人を不安に陥れ、又は困惑させるものと評価することができる

2 そうすると、上記各働き掛けは、いずれも、懲戒の制度の適正な運用を妨げ、審査請求手続の公正を害する行為というほかなく、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に明らかに該当することはもとより、その非難の程度が相当に高いと評価することが不合理であるとはいえない。また、上記各働き掛けは、上司及び部下に対する暴行等を背景としたものとして、第1処分の対象となった非違行為と同質性があるということができる。加えて、上記各働き掛けが第1処分の停職期間中にされたものであり、被上告人が上記非違行為について何ら反省していないことがうかがわれることにも照らせば、被上告人が業務に復帰した後に、上記非違行為と同種の行為が反復される危険性があると評価することも不合理であるとはいえない
以上の事情を総合考慮すると、停職6月という第2処分の量定をした消防長の判断は、懲戒の種類についてはもとより、停職期間の長さについても社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
以上によれば、第2処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

ちなみに、第1審(富山地裁令和2年5月27日)は、Xの請求をすべて棄却しました。

控訴審(名古屋高裁金沢支部令和3年2月24日)は、前記のとおり、第2処分を違法として取り消し、22万円の賠償金の支払いを命じました。

このような処分の相当性に関する評価は、ぶっちゃけ、どっちの結論でも判決が書けてしまうのです。

親と裁判官は選べませんので、ぎりぎりの事案における勝敗は、もはや運と言っていいでしょう。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇378 試用期間満了による契約社員の本採用拒否が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間満了による契約社員の本採用拒否が有効とされた事案を見ていきましょう。

柏書房事件(さいたま地裁令和4年4月19日・労経速2494号24頁)

【事案の概要】

本件は、Xは、Y社が令和2年2月4日をもってした解雇は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と解雇後の賃金の支払を求めるとともに、在職中に上司らがXを執拗に叱責したことが不法行為(パワーハラスメント)に当たるとして、民法715条1項、709条、会社法350条に基づく損害賠償請求として慰謝料等110万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、経験者として採用されたにもかかわらず、書店担当者の不在を確認せずに訪問したり、電話営業で不在であった担当者に再度電話をかけないまま放置したりし、結果としてY社が営業担当者に期待する売上を達成できない日が多くあるなどしたほか、Y社代表者の指示や営業部会の決定に反し、Pに対して本件書籍の帯の制作を止めるよう連絡せず、あたかも使用する場合に備えて制作は進めておくかのような連絡をし、Pから帯のデザインが送られてきても営業部内で情報を共有せず、また、無断で書店に帯を送った後に営業部会で帯の活用を提案し、却下されてもなお帯を送ったことを報告しないなど、業務命令に違反し、注意や叱責を受けてもこれを不当と捉えて内省しなかったものであり、Xの妻と思しき人物による誹謗中傷や抗議の電話などと同時期に体調不良を理由に出社しなくなり、本件解雇の通知書を受けると、出社無用との指示どおり、欠勤の連絡もしなくなったものである。
かかるXの勤務態度、業務成績、勤怠等を踏まえれば、Xは、小規模出版社であるY社の営業職としての適性を有するとは認め難いところ、かかる事情は、Y社がXについて本採用を拒絶し、試用期間満了をもって契約を終了させることにつき、やむを得ない事由に該当するというべきである。

経験者として中途採用された従業員の場合、当然、新卒の従業員とは求められるレベルが異なります。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇377 営業成績不良を理由とする退職扱いの有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、営業成績不良を理由とする退職扱いの有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

日本生命保険事件(東京地裁令和4年3月17日・労判ジャーナル127号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結し、保険営業の業務に従事していたXが、Y社に対し、主位的に、解雇(労働契約の終了)について解雇権濫用により無効であると主張し、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求め、また、Y社の従業員からパワーハラスメントを受けた旨主張し、不法行為又は債務不履行による損害賠償金1100万円等の支払を求め、予備的に、上記解雇が有効であるとしても、Y社の従業員から違法な勧誘行為を受けて前勤務先を退職してY社に入社させられたことが不法行為に当たる旨主張し、不法行為による損害賠償金530万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件労働契約において、Xの営業成績が職選基準に達しない場合は営業員としての資格を失い、労働契約が終了する旨が記載され、営業職員規程において、職選基準の具体的な内容及び未達成の場合に退職となる旨が記載されていること、Y社は特別教習生に対する研修において職選基準を達成することができなければ契約が終了する旨を説明していること、Xは、Y社から交付されていた端末を通じて自らの職選基準の達成状況を確認することができたこと、営業部長であるCは営業職員との毎月の面談時に職選基準の内容、職選基準が未達成の場合には本件労働契約が終了するとされていたこと、及び、自らの職選基準の達成状況について認識していたものと認められるから、本件退職扱いは、客観的合理的理由及び社会的相当性を欠くものとは認められず、本件退職扱いは有効である。

基準が明確なのはよくわかりますが、このようなケースでは基準に満たない場合は解雇が有効と判断されるようです。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇376 職場における暴言等を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職場における暴言等を理由とする解雇に関する裁判例を見ていきましょう。

アドバネット事件(東京地裁令和4年2月10日・労判ジャーナル125号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社による解雇は無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の地位確認、未払賃金等の支払、Y社及びY社の従業員からXが受けた言動及び処分等にかかる不法行為及び使用者責任に基づく慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、従業員であるK及び上司であるHにスマートフォンを向け録音撮影する、Hをにらむ、Hに対し紙を丸めて投げつける、K及びHの席周辺を歩き回る、監視カメラが設置されていると訴えて他の従業員に探させるなどしたほか、H及び従業員であるQに対し、殺すぞなどと殺害をほのめかすような発言をし、執務室においてもお前らのやっていることは犯罪だからななどと発言し、同僚に態度が大きいなどと詰問しY社代表者が止めに入ってもすぐに止めないなど、社会通念上、職場において行われる言動を逸脱し、周囲にいる者に恐怖や身の危険を感じさせる言動を行っていたことが認められ、そして、E支社の従業員のほとんどがXに対して恐怖を抱き、Xのいる場所では仕事ができないと訴え、Xとの業務を避ける、執務室外で業務を行うことをやむなくされるなどの状況が生じており、通常どおりの業務遂行に支障が生じていたことが認められ、Xの行為及び挙動は、就業規則所定の諭旨退職・懲戒解雇事由に該当するというべきであるところ、Y社として、できる限りXとの労働契約を続ける努力をしたものの、最終的にXが約束を破ったことで完全に信頼関係が破壊されたとして本件解雇を選択することもやむを得なかったというべきであるから、本件解雇は客観的合理性があり社会通念上相当であって有効である。

上記判例のポイント1の前半部分に記載されている内容をいかに立証するかという観点で証拠を残す必要があります。

どのような方法で証拠を残すかについては、顧問弁護士にご相談ください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇375 整理解雇が有効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、整理解雇が有効と判断された事案を見ていきましょう。

コスモバイタル事件(東京地裁令和4年3月2日・労判ジャーナル126号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結して就労していたXが、Y社に対し、Y社による整理解雇は無効であるなどと主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件解雇は、いわゆる整理解雇であるところ、Y社は設立以来一貫して赤字が続いており、Y社の経営状況は極めて厳しいものであったということができ、そして、金融機関及び既存の株主からの新たな融資も見込めない状況であったのであるから、本件研究所の閉鎖及び人員削減について高度の必要性があったと認められ、また、Y社は、本件解雇を行う以前に、東京支社の従業員に退職勧奨を行い人員を削減したほか、役員らの報酬を減額するなど、相応の解雇回避努力を尽くしたということができるし、本件研究所を閉鎖して調理器具の開発・製造を断念する以上、本件研究所で業務に従事していたXらを解雇の対象とすることについても合理性があり、さらに、Y社は、本件解雇の日よりも20日以上前に、Xに対し、経営不振により本件研究所の閉鎖及び解雇になる旨伝えているところ、より丁寧にY社の経営状況を説明する余地はあったものの、Y社が5億円の赤字を計上した旨は説明しており、加えて、Xは、本件研究所において多額の開発費を要していたことを把握できる立場にあったこと、Xらの今後の処遇について一定の配慮を示していることを踏まえると、本件解雇の手続が不当であるとまではいえず、以上の事情を総合考慮すると、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないとはいえないから、本件解雇は有効である。

一般論としては、整理解雇は労働者に帰責性のない解雇のため、要件はとても厳しいですが、本件のような事情があれば、裁判所も有効と判断してくれます。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇374 職務を特定して採用された広報担当の職員に対する解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職務を特定して採用された広報担当の職員に対する解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

欧州連合事件(東京地裁令和4年2月2日・労経速2485号23頁)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社の駐日欧州連合代表部において広報業務に従事していたXが、平成28年1月27日付けでY社がした解雇について解雇権濫用により無効であると主張し、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②平成28年2月支払分以降の賃金として、同月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、73万7965円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xが採用申込時に閲覧した募集要項には、「日本語または英語の優れた文書作成と話す力、他の人との協働能力を持っている必要があります」、「チームで働く能力と厳しい締切に合わせられること」との記載があることからすれば、Xは、これらの能力が求められることを認識した上で本件雇用契約を締結したと認められる。
また、募集要項において、2年以上のウェブサイト管理の経験を含む5年以上の実務経験がある旨の記載がされていたことや、Xの給与額が一般的には高額なものといえること等の事情を考慮すれば、Xは、相当の実務経験を有する中途採用者として、主にウェブサイトに関する高度な専門性に加え、組織内の秩序に従い他の職員と協働して業務を行う高い能力が求められていたというべきである。

2 Xは、本件雇用契約において職種及び業務内容を定めて契約を締結したものであり、同業務の遂行能力に問題がある場合、配置転換を行うことが想定されているものではなく、また、Xに求められる職務能力の程度に鑑みれば、指導等による改善が想定されているということもできない。また、Y社は本件解雇に先立ち繰り返し、注意、指導を行っており、Xの職務遂行への不適格性は重大な程度に達しているといえることからすれば、Xに対して懲戒処分等の措置をとることにより、職務遂行能力の改善が期待されるものとも認められない。
したがって、解雇に先立ち配置転換又は譴責、降格等の懲戒処分がされていないとしても、本件解雇が社会的に不相当ということはできない。

高額な給与を条件とする中途採用従業員に対する解雇事件では、一般的なそれと比べて能力不足による解雇のハードルが低く判断される傾向にあります。

あくまでそれに見合った労働条件で雇用していることが前提となりますのでご注意ください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。