Category Archives: 解雇

解雇229 訴訟において懲戒解雇事由を追加することの可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タクシー乗務員らの普通解雇及び懲戒解雇無効等請求に関する裁判例を見てみましょう。

城南交通事件(富山地裁平成28年11月30日・労判ジャーナル60号74頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から普通解雇されたタクシー乗務員であったAが、普通解雇は無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求め、また、Y社から懲戒解雇されたBが、懲戒解雇は無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求め、さらに、Y社から普通解雇されたCが、普通解雇は無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

普通解雇及び懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 Bに対する懲戒解雇事由①悪質かつ常習的な超過勤務、②運行記録に対する虚偽記載、③タコグラフ等の記録の不正操作、④経営者、上司、他の従業員に対する暴行、暴言及び脅迫、⑤会社の器物損壊、⑥交通事故の多発、⑦時速100㎞以上での暴走行為について、Y社は上記②から⑤までの事由を本件懲戒解雇の理由としてBに示さなかったのであるから、当該行為を懲戒の理由とはしなかったものと認めるのが相当であり、①に関しては、Y社がBの拘束時間規制違反を長期にわたり黙認しており、それどころかこれを助長するような行為をしていたこと、⑥については、各交通事故がBの故意又は重過失により生じたことについてはこれを基礎付けるに足りる事実の主張はないこと、⑦については、Y社が何度も注意していたにもかかわらず、Bが上記走行を続けていたことについては、証拠がないこと等から、Bに対する懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、その権利を濫用したものとして無効である。

懲戒解雇事由については、原則として訴訟係属後に追加主張することができませんので、懲戒解雇する際に漏れなくピックアップしておくことが求められます。

普通解雇の場合には、追加主張が認められていますが、だからといって決しておすすめするものではありません。

後になって追加する程度のたいした理由ではないと評価されるのがオチです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇228 休職期間満了時における復職の可否の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、うつ病による休職期間満了に基づく解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

綜企画設計事件(東京地裁平成28年9月28日・労判ジャーナル58号43頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、うつ病により休職し、その後リハビリ勤務(試し出勤)をしていたが、Y社において平成24年6月11日付でXに対する休職期間満了の通知及び解雇の意思表示をしたことから、Y社に対し、本件退職措置及び本件解雇は無効なものであると主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、労働契約に基づき、同日から本判決確定の日までの未払賃金等の支払を求め、Y社による試し出勤中の処遇並びにその後の本件退職措置及び本件解雇が、労働契約の付随義務である信義誠実義務に違反する債務不履行及び不法行為に当たると主張して、慰謝料500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件通知書は表題が「解雇通知書」である上、解雇予告手当金が給付されており、離職票の具体的事情記載欄(事業主用)にも「解雇」との記載があり,解雇の意思表示であるとみられる一方、引用されている就業規則の条文は休職期間満了に伴う退職に関連するものであり、休職期間満了による当然の退職の措置を通知したものともみられ、解雇の意思表示及び休職期間満了による退職の通知の趣旨の両方が併存する形の書面になっていて、客観的に見てそのいずれであるとも解し得るものである
・・・Y社の意思としては、解雇であれ休職期間満了による退職措置の通知であれ、とにかくXの労働契約上の地位を失わせるという意思であったものと理解するのが合理的であり、本件通知書は、解雇の意思表示をしたものであるとともに、休職期間満了による退職の措置を通知したものでもあるとみるのが相当である

2 休職原因である「復職不能」の事由の消滅については、労働契約において定められた労務提供を本旨履行できる状態に復することと解すべきことに鑑みると、基本的には従前の職務を通常程度に行うことができる状態にある場合をいうものであるが、それに至らない場合であっても、当該労働者の能力、経験、地位、その精神的不調の回復の程度等に照らして、相当の期間内に作業遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込める場合を含むものと解するのが相当である。
そして、休職原因がうつ病等の精神的不調にある場合において、一定程度の改善をみた労働者について、いわゆるリハビリ的な勤務を実施した上で休職原因が消滅したか否かを判断するに当たっては、当該労働者の勤怠や職務遂行状況が雇用契約上の債務の本旨に従い従前の職務を通常程度に行うことができるか否かのみならず、上記説示の諸点を勘案し、相当の期間内に作業遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込める場合であるか否かについても検討することを要し、その際には、休職原因となった精神的不調の内容、現状における回復程度ないし回復可能性、職務に与える影響などについて、医学的な見地から検討することが重要になるというべきである。

3 Y社は、Xが平成22年9月9日の出勤を最後にうつ病を理由に約1年半にわたりY社を欠勤したと主張する。確かに、Xは同日以降1か月の予定で休職を申し出たにもかかわらず、同年10月9日を過ぎても被告からの連絡に応答せず、同月27日、ようやくメールで返信するに至ったのであり、この期間は無断欠勤であるということができる。もっとも、Y社は、その後、Xからの診断書の提出を含めたやり取りを経て、Xに休職を認め、休職期間満了時には試し出勤まで行わせたのであり、Xが1年半も欠勤したものではない。そうすると、Xの無断欠勤は,解雇事由になるとは認められない
また、試し出勤中のXの業務遂行状況については、上記で説示したとおりであり、技能能力が著しく劣り、将来とも見込みがないとか、精神又は身体の著しい障害により、業務に耐えられないなどとはいえないことは明らかであり、就業規則35条所定の解雇事由があるとは認められない。

上記判例のポイント2は一般論として重要な考え方ですので押さえておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇227 業務外チャット利用時間も労働時間?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務外チャット利用と懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

未払賃金等支払請求・損害賠償請求事件(東京地裁平成28年12月28日・労判ジャーナル60号60頁)

【事案の概要】

本件は、本訴事件において、Y社の元従業員XがY社に対し、懲戒解雇は無効であると主張し、反訴事件において、Y社がXに対し、Xの業務中における業務外チャット時間が長時間であり、これを労働時間から控除すると給与が過払いであるとして、不当利得返還請求権に基づき、既払給与金約16万円等、Xが社内のチャットにおいてY社に対する信用毀損行為をしたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき300万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

未払賃金等支払請求を一部認容

Y社のXに対する損害賠償請求を一部認容

【判例のポイント】

1 本件チャットは、その回数は異常に多いと言わざるを得ず、社会通念上、社内で許される私語の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、職務専念義務に違反するものというべきであるが、職務専念義務違反(業務懈怠)自体は、単なる債務不履行であり、これが就業に関する規律に反し、職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由になると解するべきであるところ、本件チャットは、単なるチャットの私的利用にとどまらず、その内容は、顧客情報、信用毀損、誹謗中傷及びセクハラというものであるから、就業に関する規律(服務心得)に反し、職場秩序を乱すものと認められ、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、本件解雇は、有効である。

2 本件タイムカードによれば、Xは終業時刻(午後6時)よりも遅い退勤が常態化していることが認められるところ、Y社において、Xが残業する場合、所属長(部長)への申請が不要という扱いをしており、残業することについて、何ら異議を述べていないことからすれば、居残り残業時間については、黙示の指揮命令に基づく時間外労働にあたると認められ、居残り残業時間から、この時間になされたチャットに要した時間を控除するべきか問題となるところ、明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することが困難であること等を考慮すれば、所定労働時間外になされたチャットについても、Y社の指揮命令下においてなされたものであり、労働時間に当たるというべきであるから、居残り残業時間から、この時間になされたチャットに要した時間を控除することはできない。

黙示の指揮命令と判断される要素がすべて揃っているのでこのように判断されてもやむをえません。

恐ろしいことに業務目的外のチャットをやっていた時間も労働時間となっていることです。

時代も時代ですし、不必要に会社に残っている従業員はどんどん退社させるのが得策です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇226 度重なる無断欠勤を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、度重なる無断欠勤を理由になされた懲戒免職処分の取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

札幌市・市教委(市立中学校教諭)事件(札幌高裁平成28年9月29日・労判1148号17頁)

【事案の概要】

本件は、地方公共団体であるY市において中学校教諭の地位にあったXが、札幌市教育委員会がXに対して平成21年4月30日付けでした懲戒免職処分は、地方公務員法29条1項に反し、又は裁量権を逸脱若しくは濫用した違法があると主張して、同処分の取消しを求める事案である。

原審は、Xには法29条1項各号該当事由があり、また、本件処分をしたことにつき札幌市教育委員会に裁量権の逸脱又は濫用があったとはいえないから、同処分は適法であるとして、Xの請求を棄却したところ、これを不服としてXが本件控訴をした。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 ・・・これらの事情を総合とすると、札幌市教育委員会は、本件処分に至るまでの間、病気休職や病気休暇の取得、無断欠勤を繰り返すXに対し、長期間にわたって継続的に、復職や継続的な職務遂行ができるように可能な限りの配慮や指導等の対応をしてきたものといえるのであって、本件処分をした平成21年4月の時点において、Xについて、なお休職等の処分をし、その後の様子をみるなどの対応をすべき状況にはなかったといえる。そうすると、本件処分をするに至るまでの札幌市教育委員会の対応が、Xに対する配慮を欠く不適切なものであったということはできない。

2 教員の無断欠勤は、授業その他の校務に大きな影響を及ぼすものであり、また、生徒及びその保護者の学校に対する信頼を大きく損なうものであることからすれば、それ自体が重大な非違行為に当たることは明らかである。本件においても、本件無断欠勤により、本件学校において現実に学校運営上の支障が生じたものであるほか、札幌市教育委員会においても非常勤講師等を採用するなどの特別な措置が必要となり、また、生徒の保護者等からも苦情が寄せられるなど、様々な重大な影響が生じたといえる。そして、Xは、かかる重大な非違行為である無断欠勤を、長期間にわたって何度も繰り返したものであり、非難すべき程度は極めて強いというべきである
・・・そして、札幌市教育委員会は、上記のとおり、Xに対して長期間にわたって継続的に可能な限りの配慮や指導等の対応をしてきたにもかかわらず、Xが無断欠勤を繰り返したことから、2度の事情聴取を行い、本件無断欠勤に関するXの言い分等を確認した上で、Xに対して懲戒処分を科すことを決定し、また、以前に科された停職処分よりも重い免職処分を選択したものである。
これらの事情を総合すると、Xが抑鬱状態等にあったことを考慮しても、札幌市教育委員会が、Xに対して懲戒処分を科すことを決定し、また、処分内容として免職を選択したことが、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものと認めることはできない。

常識的に考えてこれ以外の結論はないと思います。

もっとも、たまに「え、これでも解雇無効なの?」という判断が出されるのもまた事実です。

今回は妥当な判断だと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇225 妊娠通知後になされた解雇の有効性(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、妊娠通知後になされた解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ネギシ事件(東京地裁平成28年3月22日・労判1145号130頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社がしたXに対する解雇の意思表示は無効である旨主張し、Y社に対し、雇用契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした賃金及びこれらの遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 以上のとおり、Y社が解雇理由として指摘する事実は、その事実が認められないか、あるいは、有効な解雇理由にならないものであるから、Xに対する注意・指導に関するY社の主張はその前提を欠く。
Xが就業規則40条3号、5号に該当するとは認められず、そうすると、仮に、Y社主張のとおり、本件解雇が原告の妊娠を理由としたものでないとしても、本件解雇には、客観的な合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、解雇権を濫用したものとして、無効である(労働契約法16条)。
よって、その余の点について判断するまでもなく、本件雇用契約の終了は認められず、Xは現在でもY社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあり、平成26年10月以降もXはY社に対する月額21万円の賃金請求権を有する。

マタハラ事案のように見えて、そもそも解雇理由がないので、マタハラ特有の論点に入ることなく無効だと判断されています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇224 休職期間満了による退職扱いが労基法19条違反とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間経過後の退職扱いが労基法19条違反であるとして無効とされた裁判例を見てみましょう。

ケー・アイ・エス事件(東京地裁平成28年6月15日・労経速2296号17頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、腰痛を発症し、これを悪化させて就労不能な状態となってY社を休職していたところ、所定の休職期間が経過した後にY社がXを退職扱いにしたことから、上記腰痛はY社において重量物を持ち上げる作業が原因で発症したものであり、Y社の措置は労働基準法19条に違反し無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、Xが腰痛を発症・悪化させたのはY社に腰痛予防のための必要な措置を講じなかった安全配慮義務違反・過失があったことによるものであるとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金として、休職後の給与相当額及び賞与相当額並びに、慰謝料500万円、弁護士費用120万円、遅延損害金の支払いを求めている事案である。

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

Y社はXに対し、慰謝料160万円、弁護士費用70万円を支払え

【判例のポイント】

1 ・・・以上によれば、Y社がXを平成24年1月20日限りで退職扱いにしたことは、業務上の負傷等による療養のために休業する期間中の解雇に相当し、労働基準法19条1項に違反する無効な措置であるから、Xは、Y社に対し、依然として、雇用契約上の権利を有するものというべきである。

2 労働省(当時)において、腰痛予防対策の指針が定められて通達が発出され、その周知の措置がとられていることは前記のとおりであり、Xの従事していた作業において腰部にかかる負荷が、上記指針の定める絶対的な重量、体重比の重量を超過していたものと認められる一方、Y社にあっては、上記指針の定める腰痛の発生の要因の排除又は軽減のための方策が何ら講じられていないものと認められる。
そして、そうした方策が講じられていれば、Xの腰痛の発症、悪化について回避できた蓋然性は高かったものといえることからすれば、Y社は労働者の身体の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を尽くしていない安全配慮義務違反があり、また、Xが従事していた殺菌工程を具体的に管理していた担当者において過失があったものと認められ、Y社にはXの腰痛の発生に伴って生じた損害につき債務不履行又は不法行為に基づく賠償責任を負うべきである。

3 ・・・こうした自転車の長距離、長期間にわたる使用を始めとして、医療機関の受診状況その他、腰痛発症後のXの行動等が腰痛に悪影響を与えた可能性は少なからず存在する。そもそもXに生じた腰痛に関しては画像上の他覚的な所見があるわけではなく、その発生機序については客観的に未解明なところも多々残されており、X固有の器質的要因や社会的、精神的、心理的要因が影響している可能性は小さなものではない。これらの事情からすると、Xの腰痛によって生じた全ての損害についてY社に責任を負わせることは衡平の観点からして躊躇を覚えるところである。以上の考慮に基づき、本件に表れた一切の事情を斟酌すると、Y社の債務不履行、不法行為上の責任については、過失相殺の法理を類推適用して、損害の8割相当額について賠償の責めを負わせるのが相当である。

最近では、労基法19条は、業務に起因してうつ病等に罹患し休職したケースでよく問題とされますが、本件では、腰痛の事案です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇223 他の懲戒処分を検討せずにした懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不正アクセス等に基づく懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

福井信用金庫事件(名古屋高裁金沢支部平成28年9月14日・労判ジャーナル57号23頁)

【事案の概要】

本件は、A社の元従業員Xらが、A社の理事長らのメールファイルに無断でアクセスし、メールファイルや添付ファイルを閲覧・印刷したことなどを理由として、他部署に異動を命じられ、懲戒解雇されたところ、上記異動命令は不当な退職勧奨として不法行為に当たるなどと主張して、吸収合併によりA社の権利義務を包括的に承継したY社に対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づく未払賃金及び賞与等の支払いをそれぞれ求め、さらに、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料200万円等の支払をそれぞれ求めた事案である。

原判決は、上記懲戒解雇が懲戒権の濫用及び不法行為に当たるとはいえず、また、上記異動命令も不法行為に当たるとはいえないとして、Xらの請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xらは、A社の事情聴取の際には、共に一貫して本件アクセス等を行ったのは興味本位であったためであると述べていたのに、懲戒委員会においてXらの懲戒解雇を承認する旨の決議がされると、突如として代理人を通じ、本件アクセス等が公益通報目的であったと主張し始めたものであり、その主張の変遷について合理的な理由があるとは認められず、また、Xらは、本件懲戒解雇は、Xらが本件雑誌に情報提供をしたものと決めつけ、その報復として行われた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、Xらは、本件雑誌に情報提供したことを強く否定するが、仮にそうであったとしても、Xらは、本件アクセス等によって取得した資料の一部を外部に持ち出し、持ち出した資料がどのように使われたのかはXらの説明によっても明らかでないのであって、Xらの非違行為の悪質性を軽くみることはできず、さらに、Xらについて、減給、出勤停止、自宅待機といった他の懲戒処分を検討しなかったとしても、Xらの本件アクセス等が懲戒解雇事由に該当することは明らかであり、他の懲戒処分を検討するまでもなくXらを懲戒解雇に処することは何ら差し支えないというべきである。

行為態様の悪質さからすると、他のより軽い懲戒処分を検討していない場合でも、それだけで懲戒解雇が無効となるわけではないことがわかります。

Xとしては、当初の事情聴取時の対応と懲戒委員会での対応が異なりますが、この対応の相違について合理的な理由を説明できていないことが今回の懲戒解雇の有効性の一事情として考慮されています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇222 解雇の無効と慰謝料額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解雇無効地位確認請求と会社の不当利得返還請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本ワールドエンタープライズ事件(東京地裁平成28年9月23日・労判ジャーナル57号16頁)

【事案の概要】

本件は、本訴事件において、Y社の元従業員がY社に対し労働契約上の権利を有する地位の確認並びに不法行為に当たる解雇に基づく損害賠償金、Y社の責めに帰すべき原因による欠勤又は無効な解雇で未払となっている賃金及び所定時間外、法定時間外、休日及び深夜の各労働に係る賃金の未払金の各支払を求め、反訴事件において、本訴事件の提訴が違法であり、Xには賃金の不正受給があったと主張して、本訴事件提起による損害の賠償及び賃金不正受給による不当利得の返還を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は本件解雇を既に撤回し、元従業員もこれを了承し、自己の労働契約上の権利を有する地位の確認を求めているから、元従業員とY社との間では、本件解雇によって仮に労働契約終了の効力が生じていたとしても、少なくとも本件解雇の撤回により、従前の労働契約を復活させる旨の黙示の合意が成立しているというべきである。また、Y社は、他の労働契約終了の原因となる事実(再度の解雇等)も主張していないから、Xは、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にある。

2 Y社は、Xの欠勤がうつ状態等によるやむを得ないものであるにもかかわらず、職場復帰の可能性を十分に見極めず、Xとの協議を尽くしておらず、兼業・兼職のためY社での労務に従事していない状況が認められないのに、Y社の信用に悪影響を及ぼすような法令違反の有無、程度等も確かめることなく、Xに対する配慮不十分のまま、拙速に解雇に踏み切っているというべきであり、本件解雇は、十分に客観的に合理的な理由を備えておらず、その経過を併せて、社会通念上相当なものとはいえないから、本件解雇は解雇権を濫用したものとして無効というべきである(労契法16条)。

3 職場を奪う解雇の告知が労働者に相当な精神的衝撃を与えることは想像に難くないところ、既にうつ状態等で調子を崩していた元従業員にとって、本件解雇は、追い打ちになったと推認され、本件解雇を発端としてXとY社との紛争が顕在化・激化し、その間の信頼関係が損なわれ、本件解雇の撤回を経ても、円滑な職場復帰に向け、Xが不安を抱かざるを得ない状況になり、それがかねてからのうつ状態等に悪影響を与える可能性もあり、Xは相当の精神的苦痛を受けていることが認められ、また、本件解雇は、十分に客観的に合理的な理由を備えておらず、その経過も併せて、、社会通念上相当なものとはいえないことも考慮すれば、本件解雇は、不法行為としても違法であり、精神的苦痛に対する損害賠償を認めるべきというべきであり、さらに、Y社は、本件解雇を撤回しているが、事後に解雇を撤回したからといって、いったん成立した不法行為が消滅することはなく、Xの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は金30万円と定めることが相当である。

慰謝料、安っ! いつものことですが。

解雇事案で慰謝料請求しても費用倒れになるので、解雇無効とバックペイの請求という方法以外は戦いづらいですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

セクハラ・パワハラ22 エビデンスがない場合のパワハラに基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、視覚障害者のパワハラ等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

KDDIエボルバ事件(東京地裁平成28年8月2日・労判ジャーナル57号46頁)

【事案の概要】

本件は、てんかん及び左同名半盲の視覚障害を有し、Y社との間で、障害者雇用枠での雇用契約を締結し、稼働した後、退職したXが、Y社に対し、Xを侮辱し、パワハラをしたことが、職場環境配慮義務違反の債務不履行及び不法行為に当たると主張して、損害賠償として、精神的苦痛の慰謝料150万円の支払いを求め、また、本件健康診断の視力検査の際にXを受傷させたことが、安全配慮義務違反の債務不履行及び不法行為に当たると主張して、損害賠償として、治療費等22万円の支払いを求めるとともに、Xに対して違法な退職勧奨をしたことが不法行為に当たるとして、本件退職の意思表示をした日である平成25年11月8日から平成26年9月30日までの間の未払賃金相当損害金約223万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XがY社従業員から怒鳴りつけられ、侮辱されたという事実を裏付けるに足る的確な証拠はなく、また、Xを殊更晒し者にしてその人格を否定し、パワハラと評すべき対応をしたことをうかがわせる証拠はないこと等から、パワハラに関するXの主張は理由がない。

2 Xは、眼痛で欠勤していたところ、Y社の従業員から欠勤が続けば解雇になるという説明を受け、解雇か辞職かの二者択一を迫られて辞職しているが、Xの眼痛が業務上の負傷であるとは認め難く、解雇が制限されるとは認められないので、欠勤が続けば解雇になるとの会社の説明が虚偽であったとか、違法な退職勧奨に当たるとはいえないから、Y社従業員の説明が虚偽であり、違法な退職勧奨をしたことを前提とするXの錯誤の主張は、その前提を欠き、理由がないと言わざるを得ない。

パワハラ事案では、多くの場合、原告側(労働者側)の立証の困難さをどう克服するかが鍵となります。

言った言わないのレベルと、仮に言ったとして、それが違法と評価できる程度のものかというレベルがあり、

前者をクリアできない限り、後者の問題になり得ません。

立証をどうするかということを事前に考えておく必要があるわけです。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

解雇221 訴訟提起後に作成した証拠の価値(信用性)(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、業務遂行能力の欠如に基づく解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成28年8月30日・労判ジャーナル57号29頁)

【事案の概要】

本件は、ガスフィルターの開発製造業者であるY社の元従業員Xが、業務遂行能力の欠如を理由に解雇されたが、同解雇には客観的に合理的な理由がなく社会通念上の相当性もないから無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同解雇日以降の毎月の賃金、賞与及び減額された差額分2000円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社が実施したプレゼンテーション研修は平成25年6月から同年9月の間に行われ、平成25年度の業務査定では中位の「E」評価がされていること、開発プロジェクト1は同年6月に開始し、開発プロジェクト2は同年12月に開始し、Y社は平成26年1月に上記査定をした時点以降も、いずれのプロジェクトもXにそのまま担当させる判断をしている点に鑑みると、上記査定結果をもって労働契約の継続を期待できない程度の業務遂行能力の欠如を認定することはできず、また、Y社は、Xの解雇後にフィルターハウジング設計の技術者として採用したAに、Xが在籍中に作成した資料を分析させ、そのAは業務能力査定報告書においてXの能力不足を判断しているが、Aは、Y社の社員であるところ、上記報告書は本件訴訟の提起後にY社の指示に従い作成したものと推定されること等から、上記報告書で示された見解を直ちに本件解雇のなされた平成26年4月当時の業務遂行能力の判断に結び付けることはできず、本件では、本件労働契約上求められる業務遂行能力の欠如までは認められず、本件解雇に客観的に合理的な理由はなく、社会通念上の相当性もないため、無効である。

2 元従業員の平成26年4月分賃金は、従前の月26万5000円から月26万3000円に減額して支給されているところ、この点について、Y社は、Xの平成25年度の業務査定の総合評価が最も低い「IN」であったため、社員就業規程412条に基づいて調整したものである旨主張するが、社員就業規程412条は、冒頭で「昇給」と題した上、本文には「給料は毎年職務成績及び会社の業績に基づき会社側によって検討され給与基準に基づき調整される。」とあり、昇給について規程したものであることは明らかであり、降給又は減給の根拠と解することはできず、また、社員就業規程には他に賃金を減額する根拠となる規程は見当たらないから、上記賃金の減額は無効である。

証拠の作成をオンタイムで作成せずに、訴訟係属後にあわてて作成しても、証拠価値が低いことは言うまでもありません。

日頃から適切に証拠作成・収集をしておくことが裁判になったときに活きてくるわけです。