Category Archives: 解雇

解雇238 被懲戒者の弁解の合理性と懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、懲戒解雇が無効とされた裁判例を見てみましょう。

東京都港区医師会事件(東京地裁平成29年1月24日・労経速2308号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、懲戒解雇されたがこれが無効であるとして、労働契約上の地位の確認、並びに解雇日以降である平成27年9月1日から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額37万7702円の割合による賃金及び遅延損害金の支払いを求めている事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 以上から、Y社が主張する懲戒解雇該当事由はいずれも認められない。仮にこれが認められたとしても、本件の懲戒解雇事由がそれほど悪質なものとはいえないこと、Xにこれまで懲戒処分歴はないこと、Y社側でXに対して問題点を指摘して繰り返し注意指導した形跡もないことに照らすと、懲戒解雇は重きに失し、相当性が認められない。よって、本件懲戒解雇は無効である。

Y社側が主張した懲戒解雇事由は、①医師国保茶菓代残金等の着服、簿外処理、報告義務違反、②カルテ用紙等販売事業の収支の簿外処理、③ビール瓶リターナブル代金の着服、業務に必要なファイルの削除ですが、これらすべてについて、X側の弁解が認められ、就業規則に定める懲戒解雇事由に該当しないとされました。

被懲戒者の弁解を冷静に見た結果、合理性があると認められる場合には、懲戒処分を思いとどまる必要があります。

決して感情的な対応にならないように気をつけましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇237 妊娠中の退職合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、妊娠中の退職合意不成立等に基づく地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

TRUST事件(東京地裁立川支部平成29年1月31日・労判ジャーナル62号46頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、民法536条2項に基づく賃金及び不法行為に基づく慰謝料並びにこれらに対する遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

退職合意は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、妊娠が判明したXとの間に退職合意があったと主張するが、退職は、一般的に、労働者に不利な影響をもたらすところ、雇用機会均等法1条、2条、9条3項の趣旨に照らすと、女性労働者につき、妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する必要がある
確かに、Xは、現場の墨出し等の業務ができないことの説明を受けたうえで、株式会社aへの派遣登録を受け入れ、その後、平成27年6月10日に、Y社代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けるまで、Y社に対し、社会保険の関係以外の連絡がないことからすると、Xが退職を受け入れていたと考える余地がないわけではない。
しかしながら、Y社が退職合意のあったと主張する平成27年1月末頃以降、平成27年6月10日時点まで、Y社側からは、上記連絡のあった社会保険について、Xの退職を前提に、Y社の下では既に加入できなくなっている旨の明確な説明や、退職届の受理、退職証明書の発行、離職票の提供等の、客観的、具体的な退職手続がなされていない
他方で、X側は、Y社に対し、継続して、社会保険加入希望を伝えており、平成27年6月10日に、Y社代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けて初めて、離職票の提供を請求した上で、自主退職ではないとの認識を示している。
さらに、Y社の主張を前提としても、退職合意があったとされる時に、Y社は、Xの産後についてなんら言及をしていないことも併せ考慮すると、Xは、産後の復帰可能性のない退職であると実質的に理解する契機がなかったと考えられ、また、Y社に紹介された株式会社aにおいて、派遣先やその具体的労働条件について決まる前から、Xの退職合意があったとされていることから、Xには、Y社に残るか、退職の上、派遣登録するかを検討するための情報がなかったという点においても、自由な意思に基づく選択があったとは言い難い。
以上によれば、Y社側で、労働者であるXにつき自由な意思に基づいて退職を合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することについての、十分な主張立証が尽くされているとは言えず、これを認めることはできない
よって、Xは、Y社における、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。

有名な裁判例ですのでご存じの方も多いと思います。

この裁判例に限りませんが、とにかく「自由な意思」の認定が厳しいですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇236 内部告発を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、内部告発を理由とする短大准教授の懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人常葉学園(短大准教授・保全抗告)事件(東京高裁平成28年9月7日・労判1154号48頁)

【事案の概要】

基本事件は、Y社から懲戒解職されたXが、Y社に対し、上記懲戒解職が無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることの仮処分命令の申立てをした事案である。
静岡地方裁判所は、平成27年7月3日、基本事件について、Xが,Y社に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした。これに対し、Y社は、保全異議を申し立てた。
原審は、平成28年1月25日、本件仮処分決定が相当であり、Y社の異議申立ては理由がないとして、本件仮処分決定を認可する旨の決定をした。これに対し,Y社は本件抗告をした。

【裁判所の判断】

抗告棄却

【判例のポイント】

1 本件告訴に係る告訴事実は、捜査機関が捜査に着手すれば、その内容が、マスコミも含めた外部に漏れる可能性もある以上、本件告訴は、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものであり、Y社の事業活動に支障をきたすおそれもあることから、告訴事実がないことを容易に認識し得たにもかかわらず、Xが行った本件告訴は、非違行為として、就業規則58条1項2号の「学園の秩序を乱し,学園の名誉又は信用を害したとき」に当たるものというべきである。

2 本件懲戒解雇は、Y社が就業規則58条2項において規定する懲戒処分の中で最も重いものであり、教員あるいは研究者として、他へ就職することも困難となることは容易に予測することができることから、本件懲戒解雇の相当性については、慎重な検討が必要である。

3 Y社は、本件告訴に係る告訴事実について不起訴処分となった後に速やかにXに対する懲戒処分の手続に着手しておらず、むしろ、Xの公益通報によって、Y社の補助金受給に問題があることが明らかになり、これが新聞報道された後に、懲戒処分の手続に着手し、本件懲戒解雇を行ったものであって、本件懲戒解雇がXの公益通報に対する報復であるとまでは認定することができないものの、上記の経過事実に照らせば、その可能性は否定することができない
また、本件告訴に係る告訴事実は不起訴処分になったものの、本件告訴がマスコミも含め、外部に漏れたとは認められず、本件告訴によってY社の社会的評価が大きく毀損されたとはいえない
さらに、Xにおいて、本来の職務である授業及び研究において、その適格性を疑わせるような事実が認められないことを考慮するならば、組織秩序維持の観点からみて、本件告訴に関してのXの非違行為に対する懲戒処分としては、本件懲戒解雇より緩やかな停職等の処分を選択した上で、Xに対し、教職員としてとるべき行動について指導することも十分に可能であったということができる。
以上のような事情を考慮すると、本件懲戒解雇は重きに失するといわざるを得ない。

4 Xは、教育・研究活動に従事する者であり、Y社の教職員の地位を離れては、Xの教育・研究活動に著しい支障が生ずることは明らかであり、Y社との間で、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めなければ、Y社に回復し難い著しい損害が生じるものというべきである

地元静岡の事案です。

相当性の要件でぎりぎり拾われていますが、いずれにしても懲戒解雇が無効であることに変わりありません。

この事案の特徴は、上記判例のポイント4です。

通常なかなか認められない地位保全の仮処分が認められていますね。 

こういう場合に認められるのですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇235 長年にわたる住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、長年にわたる住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ドコモCS事件(東京地裁平成28年7月8日・労経速2307号3頁)

【事案の概要】

本訴事件は、Y社が、その社員であったXらに対し、Y社から住宅補助費を不正に受給したとして、Y社の就業規則における賃金精算の定め、詐欺による取消し若しくは錯誤無効に基づく不当利得又は不法行為に基づき(選択的併合)、住宅補助費相当額の金銭支払(X1につき平成24年10月分から平成25年3月分までの合計37万6800円、X2につき平成23年2月分から平成24年9月分まで及び平成25年5月分から同年10月分までの合計163万2800円)を求める事案である。

反訴事件は、Xらが、住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇は無効であるとして、労働契約及び不法行為に基づき、労働契約に関する地位の確認、未払の毎月の賃金及び特別手当の支払並びに損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

X1は、Y社に対し、金37万6800円を支払え。

X2は、Y社に対し、金138万1600円を支払え。

Y社のX2に対するその余の本訴請求及びXらの反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 懲戒解雇は、就業規則に懲戒解雇に関する根拠規定が存しても、当該懲戒解雇に係る労働者の行為の性質及びその他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となる(労働契約法15条、16条)。
懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり、雇用契約上の権利を有する地位の喪失のみならず、労働者の名誉に悪影響を与え、退職金の支給制限等の経済的不利益を伴うことが多いから、懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められる

2 Xらの住宅補助費申請は少なくとも萩中建物に係るものは住宅補助費の支給要件を満たさない上、Xらは少なくとも未必の故意をもって、共謀の上、その居住実態を偽って住宅補助費を不正に受給している。
その不正受給は、平成18年から平成25年まで7年以上、五百数十万円に及び、過誤取扱通達で返納の対象となり、かつ、まだ返納されていないものだけでも金175万8400円となる
Xらの萩中建物に係る住宅補助費の申請は申請書、賃貸借契約書等を精査しても予想困難な居住関係及び権利関係を秘したものであるから、Y社が長年これに気付かず、住宅補助費を支給していたことをXらの有利に斟酌すべきではない
Xらが利得する一方、Y社が受けた財産的被害は多額であり、両者間の信頼関係を著しく破壊するものといわなければならない。

3 労働者は自身の労働契約上の義務に違反する行為に関し、使用者が調査を行おうとするときは、その非違行為の軽重、内容、調査の必要性、その方法、態様等に照らして、その調査が社会通念上相当な範囲にとどまり、供述の強要その他の労働者の人格・自由に対する過度の支配・拘束にわたるものではない限り、労働契約上の義務として、その調査に応じ、協力する義務があると解される
その調査の過程において、芳しくない態度、ことに虚偽の供述など、積極的に調査を妨げる行為があった場合は、信頼関係をますます破壊し、反省、改善更生といった情状面の評価において、不利益に重視されることもやむを得ないというべきである
X1は、Y社の事情聴取において、事実関係に関する虚偽の供述を複数回にわたって繰り返しており、X2もこれに同調する態度を示し、自分たちの独自の見解に固執して、不法行為に基づく損害賠償及び不当利得の返還請求権からは大幅に減額されている過誤取扱通達の範囲内の返還にも応じていない。Y社は、Xらに対し、慎重に調査を進め、事情聴取も少なからず実施し、被告らに弁明の機会も十分に与えて、慎重な検討を経て本件解雇を決定したと認められる。

4 ・・・懲戒解雇は懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められることを考慮しても、Y社がXらに対し本件解雇をもって臨んだことが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいうことはできない。

上記判例のポイント3は頭に入れておきましょう。

調査過程における協力の有無、程度についても解雇の有効性を基礎付ける事情となるということです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇234 解雇から2年以上経過後に申し立てた仮処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元マネージャーの能力不足を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

コンチネンタル・オートモーティブ(解雇・仮処分)事件(東京高裁平成28年7月7日・労判1151号60頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社がXに対して行った解雇が無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるとともに、1か月当たり73万2452円の月例給与の支払を求める事案である。

原審はXの申立てを却下し、Xが即時抗告した。

【裁判所の判断】

抗告棄却

【判例のポイント】

1 Xは、不動産事業収入について、所得金額は36万6335円であって、家計に入ってくる収入は1か月3万0530円であると主張するが、不動産事業に係る経費には減価償却費などがあり、一概に所得金額が手取りの収入金額であるとはいえないところ、Xはその内訳について明らかにしていないことに照らし、Xの主張は採用しない
また、平成28年3月時点で、X世帯の預貯金額は269万円程度となっていると主張するが、本件解雇からは既に2年以上が経過しているのであって、Xとしては、これまでの間、本案訴訟を提起することは十分可能な状態であったことに照らすと、Xの主張する事情を考慮しても、仮の地位を定める仮処分命令における保全の必要性の有無についての前記判断を左右するものではない

解雇されてから2年以上経過しても地位確認の本訴を提起していないことを保全の必要性を否定する理由として挙げています。

解雇されてすぐに本訴を提起していたいたら、かなり前に判決なり和解で終結していたでしょ、という感じです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇233 原審では試用期間中の解雇は無効、控訴審では有効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総務関係担当者として資質を欠き、試用期間中の解雇が有効とされた事例を見てみましょう。

X社事件(東京高裁平成28年8月3日・労経速2305号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に対し、①本件解雇の有効性を否定して、労働契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした労働契約に基づく平成27年11月度までの給与及び遅延損害金の支払を求め、併せて、②Y社がXに担当職務を説明しなかったこと、健康保険被保険者証を交付しなかったこと及び本件解雇が不法行為に該当するとして、損害賠償等の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求のうち、XがY社に対し労働契約上の地位を有することの確認請求及び未払給与等の支払請求を認容し、損害賠償請求を棄却した。これに対し、Xが控訴するとともに、当審において、上記のとおり追加請求をし、Y社が附帯控訴した。

【裁判所の判断】

Xの本件控訴を棄却する。

Xの当審における追加請求をいずれも棄却する。

Y社の本件附帯控訴に基づき原判決中Y社敗訴部分を取り消す。

同部分のXの請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社がXを雇用したのは、Y社における業況の拡大に対応した社内体制構築の一環としてであり、Xが社会保険労務士としての資格を有し、経歴からも複数の企業で総務(労務を含む。)及び経理の業務をこなした経験を有することを考慮し、労務管理や経理業務を含む総務関係の業務を担当させる目的であり、人事、財務、労務関係の秘密や機微に触れる情報についての管理や配慮ができる人材であることが前提とされていたものと認められる。

2 ところで、企業にとって決算書などの重要な経理処理に誤りがあるという事態はその存立にも影響を及ぼしかねない重大事であり、仮に担当者において経理処理上の誤りを発見した場合においても、まず、自己の認識について誤解がないかどうか、専門家を含む経理関係者に確認して慎重な検証を行い、自らの認識に誤りがないと確信した場合には、経営陣を含む限定されたメンバーで対処方針を検討するという手順を踏むことが期待される。
しかるに、Xは、自らの経験のみに基づき、異なる会計処理の許容性についての検討をすることもなく、Xにおける従来の売掛金等の計上に誤りがあると即断し、上記のような手順を一切踏むことなく、全社員の事務連絡等の情報共有の場に過ぎず、また、Fの来訪日程を告げることの関係においても、必要性がないにもかかわらず、突然、決算書に誤りがあるとの発言を行ったものであり、組織的配慮を欠いた自己アピール以外の何物でもない。さらに、上記発言後のXの行動及び原審本人尋問の結果によれば、Xにおいて自らの上記発言が不相当なものであることについての自覚は乏しいものと認められる。

3 以上によれば、Xのこのような行動は、Y社がXに対して期待していた労務管理や権利業務を含む総務関係の業務を担当する従業員として資質を欠くと判断されてもやむを得ないものであり、かつ、Y社としては、Xを採用するに当たり事前に承知することができない情報であり、仮に事前に承知していたら、採用することはない労働者の資質に関わる情報というべきである。
そうすると、本件解雇には、Y社において解約権を行使する客観的な合理的な理由が存在し、社会的に相当であると認められる。

本件は本人訴訟です。

Xが控訴しなければ地位確認は勝訴で確定していた事案です。

なんか最近、判例読んでいると過度な労働者保護路線を少し変更しています?

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇232 試用期間中の解雇の有効性はどのように判断される?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、問題点の改善の見込みが乏しく、試用期間中の解雇が有効とされた事例を見てみましょう。

まぐまぐ事件(東京地裁平成28年9月21日・労経速2305号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、試用期間中に留保解約権の行使により解雇されたところ、Y社に対し、本件解雇の無効を主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇後の未払賃金104万4395円+遅延損害金等を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・このように、Xには上司の指導や指示に従わず、また上司の了解を得ることなく独断で行動に出るなど、協調性に欠ける点や、配慮を欠いた言動により取引先や同僚を困惑させることなどの問題点が認められ、それを改めるべくY社代表者が指導するも、その直後に再度上司の指示に素直に従わないといった行動に出ていることに加え、上記の問題点に対するXの認識が不十分で改善の見込みが乏しいと認められることなどを踏まえると、試用期間中の4月10日の時点において、Y社が「技能、資質、勤務態度(成績)若しくは健康状態等が劣り継続して雇用することが困難である」(就業規則15条3項)と判断して、Xを解雇したことはやむを得ないと認められ、本件解雇には、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当というべきである。

2 これに対し、Xは、Y社がXに対する指導のために特命チームへの配属を予定していたのであれば、平成27年5月1日の配属予定を前倒ししてでも、Y社代表者がXを直接指導すべきであったなどとして、Y社が解雇回避努力義務を怠った旨主張する。
しかしながら、前記で説示したとおり、使用者が雇用契約に試用期間を設け解約権を留保する趣旨は、採用時には認識し得なかった労働者の資質、性格、能力その他の適格性を観察し、最終的な採否(本採用)を見極めるためのものであるから、試用期間中の留保解約権行使による解雇は、通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められ、Y社の負う解雇回避努力義務の程度も、通常の解雇の場合ほどには要求されないというべきである。
そして、3月20日の面談でY社代表者から他者との協調性について改めて指導されたにもかかわらず、Xがそのわずか4日後に上司のDからの指示を素直に受け入れず反抗的な態度を取っており、かかるXの非協調的な態度は改善の余地が乏しいと認めざるを得ないことに加え、XがY社入社までに約7年間の社会人経験を経ていることなどを踏まえると、試用期間完了時までXに対する指導を継続しなかったことをもって相当性を欠くとまではいえないから、Xの上記主張は採用できない。

勤務態度が悪いであったり、協調性がないなどという理由で解雇する場合には、裁判所に具体的にわかるように主張立証することがとても大切です。

訴訟の前の準備段階で8割がた勝負が決まっていると言っても過言ではありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇231 懲戒解雇と就業規則の周知性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、元調理師に対する懲戒解雇と割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

無洲事件(東京地裁平成28年5月30日・労判1149号72頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、食堂の委託業務等を行う会社であるY社に調理師として就労し、Y社から懲戒解雇された後、懲戒解雇は違法であり、かつ、在職中、Y社が安全配慮義務に違反してXに長時間労働を強いた上、労働基準法所定の割増賃金を支払っていない旨主張して、①労基法に従った平成24年7月から平成26年3月までの割増賃金+遅延損害金、②割増賃金に係る付加金、③違法な長時間労働に係る安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償金+遅延損害金、④違法な懲戒解雇に係る不法行為に基づく損害賠償金+遅延損害金の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、341万8250円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、298万7523円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、30万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件においては、Xの出勤及び退勤時刻について、タイムカードの記録があるから、基本的には、タイムカードの打刻時刻手書き部分も含む。また、打刻時刻の記録がないときは、原則として、所定の始業時刻又は終業時刻によるものとする。)に基づいてXの実労働時間を認定するのが相当である。
しかし、タイムカードの打刻時刻は、実労働の存在を推定させるものであっても、直接証明するものではないから、所定の始業時刻及び終業時刻の範囲外の時間については、証拠関係に照らし、タイムカードの打刻時刻に対応するような実作業が存在したことについて疑問があるときは、証拠上認められる限度で実労働時間を認定することとする

2 本件におけるXの労働時間は、前記認定したとおりであり、Xの毎月の時間外労働の時間(1日8時間超過分と週40時間超過分の合計)は、平成24年8月から平成25年8月までの間、継続して、概ね80時間又はそれ以上となっている(タイムカード上は、これをはるかに超える。)。
Y社は、三六協定を締結することもなく、Xを時間外労働に従事させていた上、上記期間中、Y社においてタイムカードの打刻時刻から窺われるXの労働状況について注意を払い、事実関係を調査し、改善指導を行う等の措置を講じたことを認めるに足りる主張立証はない
したがって、Y社には安全配慮義務違反の事実が認められる。
本件においてXが長時間労働により心身の不調を来したことについては、これを認めるに足りる医学的証拠はなく、疲労感の蓄積を訴えるX本人の陳述があるのみである。しかし、結果的にXが具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても、Y社は安全配慮義務を怠り、1年余にわたり、Xを心身の不調をきたす危険があるような長時間労働に従事させたのであるから、Xには慰謝料相当額の損害が認められるべきである。本件に顕れたすべての事情を考慮し、XのY社に対する安全配慮義務違反を理由とする慰謝料の額としては、30万円をもって相当と認める。

3 まず、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくのみならず、当該就業規則の内容を、その適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られている必要がある(最高裁判所平成15年10月10日第二小法廷判決参照)。
本件において、Y社の就業規則が周知されていなかったことは争いがないから、本件懲戒解雇は労働者に周知されていない就業規則の定めに基くものとして、効力を有しないというべきである。
他方、本件懲戒解雇が、その根拠となる就業規則の周知性要件が具備されていなかったという手続的理由により無効と解されるとしても、そのことから、本件懲戒解雇が直ちに不法行為になるわけではない
むしろ、上記認定した事実に照らすと、Xは、平成26年2月、Y社から棚卸しの不実記載を指摘され、二度とこのような不実の報告はしない旨の書面を提出したにもかかわらず、その直後から、納品伝票の日付を実際の納品日から遅らせるということを継続して行っていたものである。
Y社が適切な経営判断を行うためには、食材原価について現場から正確な報告がされることが不可欠であり、この観点からは、Xが不実の報告を繰り返したことは重大な非違行為と評価されてもやむを得ない。
そうすると、本件懲戒解雇は、無効ではあっても、Xに対する関係で、不法行為を構成するような違法性がある行為であるとまでは認めることはできない。

残業代の支払のほかに安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払いを命じています。

多くの場合、残業代の支払いをもって填補されるという理屈をとるのですが、本件ではそのような理屈はとられていません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇230 試用期間中の解雇が有効と判断された理由とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう。

今日は、試用期間中の解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

A社事件(大阪地裁平成28年11月18日・労判ジャーナル60号88頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に新卒者として採用されたものの、見習期間(試用期間)中、業務遂行に必要なの魚力を著しく欠くとして、留保解約権に基づく解雇の意思表示を受けた元従業員が、Y社に対し、同解雇は解雇権の濫用であり無効であると主張し、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、平成26年1月から本判決確定の日までの賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、毎日のように書損を発生させ、その都度指導教育しても、同じ過誤を繰り返し、その過誤の内容は、受取証の相手方の氏名記載欄に自分の名前を記載したり、誤った金額や預り目的を記載したりするなど、注意力の欠如が甚だしく、およそ金融機関の職員として弁解することができないものであり、また、Xは、研修が8か月目に至っても本人確認手続の内容さえ十分に理解しておらず、その後指導教育を継続したとしても、Y社の総合職の職員として必要な程度の職務能力を身につけさせることが著しく困難であることが予想され、さらに、Xは、顧客から通帳を受け取った際、預り証を渡さなかったり、定期預金について顧客の依頼とは異なる処理を行おうとしたりするなど、Y社の信用失墜を招きかねない行為も繰り返すなどの各事情にかんがみれば、Xは、総合職の新入社員に求められる職務能力を備えておらず、今後指導教育を継続しても、Y社の総合職の職員として必要な能力を身につけさせる見込みも立たなかったというべきであるから、本件解雇は、留保解約権の行使として客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当であるから、有効であるといえる。

ミスのレベルが非常に低いこと、何度も指導教育したのに改善されないことをちゃんと立証できるように訴訟前から準備しておくことが大切です。

こういう事案を見ると、つくづく採用試験や面接で適性を見抜くことの大変さを痛感しますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇229 訴訟において懲戒解雇事由を追加することの可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タクシー乗務員らの普通解雇及び懲戒解雇無効等請求に関する裁判例を見てみましょう。

城南交通事件(富山地裁平成28年11月30日・労判ジャーナル60号74頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から普通解雇されたタクシー乗務員であったAが、普通解雇は無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求め、また、Y社から懲戒解雇されたBが、懲戒解雇は無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求め、さらに、Y社から普通解雇されたCが、普通解雇は無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

普通解雇及び懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 Bに対する懲戒解雇事由①悪質かつ常習的な超過勤務、②運行記録に対する虚偽記載、③タコグラフ等の記録の不正操作、④経営者、上司、他の従業員に対する暴行、暴言及び脅迫、⑤会社の器物損壊、⑥交通事故の多発、⑦時速100㎞以上での暴走行為について、Y社は上記②から⑤までの事由を本件懲戒解雇の理由としてBに示さなかったのであるから、当該行為を懲戒の理由とはしなかったものと認めるのが相当であり、①に関しては、Y社がBの拘束時間規制違反を長期にわたり黙認しており、それどころかこれを助長するような行為をしていたこと、⑥については、各交通事故がBの故意又は重過失により生じたことについてはこれを基礎付けるに足りる事実の主張はないこと、⑦については、Y社が何度も注意していたにもかかわらず、Bが上記走行を続けていたことについては、証拠がないこと等から、Bに対する懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、その権利を濫用したものとして無効である。

懲戒解雇事由については、原則として訴訟係属後に追加主張することができませんので、懲戒解雇する際に漏れなくピックアップしておくことが求められます。

普通解雇の場合には、追加主張が認められていますが、だからといって決しておすすめするものではありません。

後になって追加する程度のたいした理由ではないと評価されるのがオチです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。