Category Archives: 解雇

解雇247 リハビリ出勤の実施方法と留意点(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、テスト出局開始から解職までの復職可能性と解職の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

NHK(名古屋放送局)事件(名古屋地裁平成29年3月28日・労判1161号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員(従業員)であったXが、精神疾患による傷病休職の期間が満了したことにより、同期間満了前に精神疾患が治癒していたと主張して、解職が無効であり、Y社との間の労働契約が存続しているとして、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、傷病休職中に行ったY社のテスト出局(一般に、試し出勤、リハビリ出勤などと称され、心の健康の問題ないしメンタルヘルス不調により、療養のため長期間職場を離れている職員が、職場復帰前に、元の職場などに一定期間継続して試験的に出勤をすることにより、労働契約上の債務の本旨に従った労務の提供を命じられ、実際に労務の提供を行ったが、テスト出局期間途中でテスト出局が中止され、それにより労務の提供をしなくなったのはY社の帰責事由によるものであるとして、テスト出局開始以後の賃金+遅延損害金を請求するほか、テスト出局の中止や解職に至ったことに違法性があると主張し、不法行為に基づく損害賠償金+遅延損害金を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の職員が、傷病休職中にもかかわらず、労働基準法上の労働を行ったと認められる場合には、最低賃金法の適用があることになるから、本件にはおいては、結局のところ、本件テスト出局中にXの行った作業が労働基準法上の労働といえるかどうか、すなわち、XがY社の指揮命令下に置かれていたかどうかの判断によることになり、具体的には、Y社のテスト出局が、傷病休職中にもかかわらず、職員に労働契約上の労務の提供を義務付け又は余儀なくするようなものであり、実際にも本件テスト出局中にXが行った作業が労働契約上の労務の提供といえるかどうかを検討すべきことになると考えられる(最判平成12年3月9日等参照)。

2 …特に、テスト出局が、傷病休職中の職員に対する職場復帰援助措置義務を背景としていることを踏まえると、その内容として、労働契約上の労務の提供と同水準又はそれに近い水準の労務の提供を求めることは制度上予定されていないと解される。
また、テスト出局は、職場復帰のためのリハビリであり、復職の可否の判断材料を得るためのものであるとはいえ、疾病の治療自体は主として主治医が担当すべきものであり、職員からの復職の申出を受けた後、合理的な期間を超えて、職員を解雇猶予措置である傷病休職の不安定な地位にとどめおくことはかえって健康配慮義務の考え方にもとることになる。そこで、テスト出局はあくまで円滑な職場復帰及び産業医等の復職の可否の判断に必要な合理的期間内で実施されるのが相当であり、休職事由が消滅した職員について、産業医等の復職の可否の判断に必要と考えられる合理的期間を超えてテスト出局を実施し、復職を命じないときは、債務の本旨に従った労務の提供の受領を遅滞するものとして、その時点からY社が賃金支払義務を免れないというべきである。

とても重要な裁判例です。

いわゆるリハビリ出勤の問題ですが、リハビリ出勤時にどの程度の業務をさせればいいのか、また、その際の賃金は通常通り支払わなければならないのかについて考えるヒントを与えてくれています。

休職制度の運用、復職の可否の判断等については必ず顧問弁護士に相談の上、近時の裁判例の動向を踏まえて慎重に対応することを強くおすすめします。

解雇246 定年延長後の地位確認を定年前に求める訴えに確認の利益は認められるか?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年延長後の地位確認を定年前に求める訴えに確認の利益はないとされた裁判例を見てみましょう。

学校法人X事件(大阪高裁平成29年4月14日・労経速2316号26頁)

【事案の概要】

Xは、Y社との間で労働契約を締結し、Y社の設置、運営するA大学人文科学研究所において教授として研究教育活動に従事する者であり、満65歳に達した年度の3月31日は平成30年3月31日であるところ、本件は、Xが、Y社の就業規則附則1項に規定する「大学院に関係する教授」(大学院教授)と同様に70歳まで定年延長を受ける権利があるなどと主張して、Y社に対し、平成30年4月1日から平成35年3月31日まで労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 将来の法律関係の確認を求めることは、不確定な法律関係の確認を求めるものであって、現在における紛争解決の方法としては原則として不適切と考えられる。しかし、将来の法律関係であっても、権利侵害の発生が確実視できる程度に現実化し、かつ、侵害の具体的発生を待っていては回復困難な不利益をもたらすような場合には、当該法律関係の確認を求めることが紛争の予防・解決に最も適切であるから、これを確認の対象として許容する余地があるものと解される。

2 ・・・仮にA大学の「大学院教授」がかかる権利を有しているとしても、当審の口頭弁論終結日である平成29年3月1日からXの定年時点である平成30年3月31日までには1年余りの期間があり、その間、XとY社との間の労働契約関係・契約内容に変更が生じる可能性やA大学における定年の制度に変更が生じる可能性がないとはいえないから、Xが「大学院教授」と同等に定年延長を受けられるか否かを判断するにはなお不確定要素が多いといわざるを得ない。
・・・そうすると、いまだ、Xの将来の労働契約上の権利に対する侵害発生が確実視できる程度に具体化しているとはいえないから、本件訴えは、不確定な法律関係の確認を求めるものとして不適法というべきである。

先回りして紛争を未然に防ぎたいという気持ちはわかりますが、上記判例のポイント1の規範のとおり、将来の法律関係の確認は要件が厳しいため、原則的には紛争が起きた後に提訴することになります

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇245 職種限定合意と合併に伴う配転命令(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職種限定合意の有無と合併に伴う配転・諭旨解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

ジブラルタ生命(旧エジソン生命)事件(名古屋高裁平成29年3月9日・労判1159号16頁)

【事案の概要】

本件は、平成22年8月1日にAIGエジソン生命保険株式会社に入社し、平成24年1月1日にY社がエジソン生命を吸収合併する前は同社のソリューションプロバイダーリーダー(SPL)であり、同合併後は、Y社のライフプランコンサルタント(LC)(通常の営業社員)としての扱いを受けていたXが、Y社から同年6月20日付けで懲戒解雇されたことについて、本件懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成24年7月以降判決確定の日まで毎月25日限り賃金50万円+遅延損害金の支払いを求めるとともに、本件懲戒解雇は不法行為に該当すると主張して、慰謝料100万円及び弁護士費用50万円の合計150万円+遅延損害金の支払いを求めている事案である。

原判決は、Xの請求をいずれも棄却したところ、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

懲戒解雇は無効

Y社はXに対し、150万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 エジソン生命及びY社としては、上記4職種を提示しただけでこれに異を唱えずに応じる者についてはともかく、Xのようにこれに応じられない者に対しては、まずASP事業部の廃止が避けられない事情を十分に説明し、更にチーフトレーナー又は営業所長への移行とせめてA近辺(愛知、岐阜、三重など)の範囲に限った異動の可能性を提示するなど、4職種のうちの一部の労働条件を変容させたり、あるいは、営業部門以外の部署(例えば、人事部門、総務部門など)への配置換えを選択肢として示し又は勧めたりするように柔軟かつきめ細かな対応をすることは、その企業規模からして十分可能であったというべきであるにもかかわらず、少なくともXに対してはそのような応対は一切していない。
・・・以上述べたところによれば、Y社は、職種及び職場限定の合意があって、上記①ないし③の職種への移行に応じられず、応じないことが許容されるXに対し、その他の選択肢を一切示さないまま、Xをしてその最も意に沿わない職種であって、かつ、待遇面でも明らかに不利益となることが明白な④のLCとして取り扱ったことは、正当な理由のない配転命令がなされたものというべきであって、しかも、管理職から一般社員への懲罰的な降格人事とも解されるから、人事権の濫用として無効であるといわざるを得ない。

2 Y社は、合理的な理由のない本件懲戒解雇により、Xに対し、精神的苦痛を与えたものであるから、Xに対し民法709条、710条の不法行為責任を負うものと認められ、Xが営業社員であるSPの採用育成等に職種限定して合併前のエジソン生命に入社し、そのような業務を遂行していたにもかかわらず、営業職員にのみ適用され、Xには提出義務のないサクセスプランナーや直帰届の提出を強要するなどした上、人事権を濫用してXを合理的理由なくLCに配転する命令をし、理由のない厳重注意書や業務命令書の交付等を立て続けに行うなどした挙げ句、本件懲戒解雇に及んだという一連の経緯その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すれば、Xの精神的苦痛に対する慰謝料額としては、Xの請求額である100万円を下ることはなく、また、本件訴訟を遂行するに当たっては相当と認められる弁護士費用額も、Xの請求額である50万円を下ることはない。

上記判例のポイント1の判断は重要ですので参考にしてください。

職種や職場限定の合意がある場合、当然に配置転換ができません。

本人の同意が得られない場合、強引なやり方をすると今回のような結果になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇244 業務消滅を理由とする整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、業務消滅を理由とする整理解雇を有効と認めた裁判例を見てみましょう。

H協同組合事件(大阪高裁平成29年2月3日・労経速2316号3頁)

【事案の概要】

本件の本訴は、Y社の従業員であったが、平成26年3月20日に解雇されたXが、解雇は無効であるとして、①労働契約上の地位の確認と、②平成26年2月21日から判決確定まで(将来分を含む)毎月15万円の賃金+遅延損害金の支払を請求する事案であり、

反訴は、Y社が、Xに対し、Xは、平成23年7月から平成26年1月まで、労働契約に含まれていないと知りながら、通勤費等の名目で毎月5万円を利得したとして、不当利得返還請求権及び悪意の受益者に対する利息請求権(民法704条)により、155万円+遅延損害金の支払を請求する事案である。

原判決は、Xの請求の一部を認容し、Y社の請求を棄却したので、Y社が控訴をした。

【裁判所の判断】

原判決を以下のとおり変更する。

Xの請求をいずれも棄却する。

Y社の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件労働契約は、Y社にはXに従事させる業務が存在しないことを前提に、Xを協同組合員の工場に派遣し、協同組合員のミキサー車乗務や車両誘導等の現場立会業務に従事させ、協同組合員が支払う対価を賃金に充てることを内容とするものであるところ、平成25年には協同組合員からの派遣依頼がほぼなくなり、将来的にも派遣依頼を受けることは期待できない状況に陥っていたのであるから、本件解雇には客観的合理的理由があるといえる

2 Y社は、建交労と、Xの「職員の身分・処遇に影響を及ぼす恐れのある場合」には建交労と事前に協議するとの協定を結んでいるところ、本件解雇予告にあたり建交労と事前に協議をしていないし、少なくとも平成26年1月18日以降は、建交労からの団体交渉の申入れを正当な理由なく拒否し、ようやくもたれた同年2月28日の団体交渉においても、Y社は、整理解雇ではなく労働契約の解約であるとして、実質的な協議をしないまま解雇している
しかし、建交労は、Xが平成17年1月に甲社に雇用される時からこれに関与し、XがY社の専務理事を退任した際には、Y社が、Xに従事させる業務が存在しないことや経済的逼迫を理由に、再雇用を拒否していたにもかかわらず、Y社に強く働きかけ、協同組合員に派遣させてでもXを雇用させたものである。そして、建交労は、Y社が平成25年4月に解雇予告通知を行った際には、団体交渉によりこれを撤回させるなどしており、前回の解雇予告の撤回後のY社及びXの状況に変化がないことも理解していたはずである
建交労は、Xの雇用から本件解雇予告に至る経緯や、解雇の必要性、合理性、解雇回避努力、人選の相当性等についてY社が一貫して主張する内容等、すなわち、Y社との協議(団体交渉)においてY社が説明するであろう内容を知悉しており、これに対する建交労の主張も前回の解雇撤回時の団体交渉における説明と同様になったことからすれば、Xもその内容を承知していたことが推認できる。そして、前回、解雇を撤回したにもかかわらず、改めて本件解雇予告をしたことは、Y社において、今回は解雇予告を撤回する意思がないことを示しているものであり、他方、建交労も、本件解雇予告の撤回以外の円満解決に向けた具体的方策を提示していない
これらの事情を総合すると、Xとの協議や交渉は、平成26年2月28日の団体交渉で行き詰まり、進展の見込みがなかったといえるから、Y社は、本件解雇予告前に建交労と事前に協議をせず、その後も、必ずしも誠実に協議をしたとはいえないものの、この点を考慮しても、本件解雇は社会通念上相当なものではない(解雇権を濫用したもの)とまではいえない

一審と控訴審で判断が分かれているとおり、ぎりぎりの判断です。

特に上記判例のポイント2の判断は、担当裁判官の考え方1つで変わり得るところなので、この裁判例を実務に活かすということはなかなか難しいです。

こういう判断もありうるよ、という程度ですかね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇243 窃盗を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、地方公務員の窃盗に基づく懲戒免職処分等取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

東宇陀環境衛生組合ほか事件(奈良地裁平成29年3月28日・労判ジャーナル64号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の技能労務職員であったXが、公務外非行(窃盗)を行ったことなどを理由に、Y社から懲戒免職処分を受け、また、これに伴い奈良県市町村総合事務組合管理者から退職手当支給制限処分を受けたことから、本件懲戒免職処分は重大な手続違反や事実誤認に基づくものであって違法であり、これを前提とする本件退職手当支給制限処分も違法であるなどと主張して、上記各処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分は違法
→請求認容

【判例のポイント】

1 確かに、Xは、タイヤ窃盗を理由として3箇月の停職処分を受けたにもかかわらず、停職期間満了後4箇月ほどしか経たないうちに2度にわたり景品応募シールを盗み、さらにその半年後に再び同シールの窃盗(本件非行)に及んでいるのであって、本件非行には常習性が認められ、また、その動機も短絡的で、再犯のおそれも否定できず、Y社の職員としての信用を重ねて失墜させたものとして、厳しい非難は免れないというべきであるが、Xの窃盗行為は上記の限度にとどまっており、その頻度や回数等に照らし、常習性の程度が特に著しいとまではいえず、そして、Xは、逮捕直後から事実を認めて被害者に謝罪し、示談も成立しているのであり、Y社に対しても、謝罪文を提出し、事情聴取の際に反省の弁を述べるなど、本件非行について反省の態度を示していたこと等から、Y社が懲戒免職処分を選択したことは、その裁量権を逸脱又は濫用したものというほかなく、本件免職処分は違法というべきである。

・・・ですって。

このケースで解雇しない会社があるでしょうか・・・。

たまにこういう裁判例を見ると、とても違和感を感じます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇242 生活保護受給と賃金仮払いの必要性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ダンプ運転手に対する解雇の有効性と合意解約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

ゴールドルチル(抗告)事件(名古屋高裁平成29年1月11日・労判1156号18頁)

【事案の概要】

Xは、Y社との間で、ダンプカー運転手として期間の定めのない労働契約を締結していたところ、平成27年5月28日、Y社から事実上解雇されたが、その解雇は無効であると主張して、Y社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるよう求めるとともに、Y社に対し、平成27年9月分以降本案判決確定に至るまで毎月15日限り賃金28万6166円をXに仮に支払うよう求めるのに対し、Y社が、本件労働契約の合意解約ないし解雇による終了を主張するなどして、Xの申立てを争う事案である。

原決定は、本件労働契約は合意解約により終了したとして、Xの申立てを却下したので、Xが本件抗告をした。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件において、XのY社に対する労働契約上の権利を有する地位が仮に定められれば、社会保険の被保険者たる資格を含めた包括的な地位が一応回復されることになること、Xがあえて任意の履行を求めるものでもよいとして発令を求めていること、Y社は、履行する意思はないとしているものの、抗告審において和解勧試に真摯に対応しており、発令に応じてXを従業員として扱うことも期待できないわけではないこと等の事情が認められるのであり、そのような事情が認められる本件事案においては、雇用契約上の地位保全の必要性を認めることができるというべきである。

2 Y社は、仮処分決定時までに履行期が到来している賃金については、Xが現に生計を維持してきた以上、保全の必要性は認められず、また、Xは生活保護を受給しているから、仮処分決定時以降も保全の必要性はなく、仮に必要性があるとしても、その金額が月額10万9450円を上回ることはない旨主張する。
しかし、仮処分の審理期間に係る賃金仮払いが認められないのでは、被保全権利が認められるのにも関わらずY社が争ったために審理を要したことの不利益をXに負担させることになり、相当ではないから、申立時以降の賃金仮払いが認められるべきである。また、生活保護の受給についても、生活保護が「生活の困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」(生活保護法4条1項)ものであって、雇用主に対する賃金支払請求権を有している場合に給付されることが予定されているものではないことからすれば、Xが生活保護を受けている事実をもって保全の必要性が否定されることにはならない。そして、仮払の金額についても、健康で文化的な最低限度の生活を営むのに必要な限度とする必然性はなく、XがY社に解雇されるまで、Y社から支払われる賃金をもって生活の原資としており他に収入があったとは認められないこと、賃金額がXの生活にとって過分なものであったとは考え難いことからすると、Xの生活には、従前支給されていた賃金額の金員を要するものと認められるから、同額について支払の必要性があるというべきである。

上記判例のポイント1は珍しい考え方ですね。

また、上記判例のポイント2の生活保護と賃金仮払いの必要性については参考になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇241 施設長解任の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、特別養護老人ホームの施設長の解任に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人X事件(奈良地裁葛城支部平成29年2月14日・労経速2311号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社経営の特別養護老人ホームの施設長解任の無効を主張して、Y社に対し、施設長であり、かつ、管理職手当月額8万円の支払を受ける地位にあることの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件解任処分は、人事権の行使としてなされたものと認められるところ、人事権の行使として一定の役職を解くことは、労働者を職業的な能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、就業規則等に根拠規定がなくても行い得ると解される。しかし、使用者が有する人事権といえども無制限に認められるわけではなく、その有する裁量権の範囲を逸脱し、又はその裁量権を濫用したと認められる場合には、その解任処分は無効となるというべきである。特に解任に伴って労働者の給与も減額されるなど不利益を被る場合には、その解任に合理的な理由があるか否かは、その不利益の程度も勘案しつつ、それに応じて判断されるべきである。

2 Xは、本件解任処分について、懲戒処分としての減給処分又は降格処分と同様の事実が必要である旨主張するが、人事権の行使としての施設長解任は基本的には裁量的判断により可能なものであることからすると、その要件として、懲戒処分と同様又はそれに準ずるほどの事情を要するとまでは解されない

3 もとより、本件解任処分によりXに生じた減収は少なくないが、管理職手当は、施設長という地位・役職に基づくもので、施設長の地位・役職を解されればその支給を受けられなくなるものと解されるところ、Xは、本件解任処分により管理職である施設長の地位から外れ、その職務内容・職責に変動が生じていることのほか、一般職員として業務改善手当を受給し、労働実態等に呼応して変動し得る不確定なものであるとの事情も無視はできないものの残業手当が支給される可能性もあること等を考慮すると、上記減収による不利益をもって通常甘受すべき程度を超えているとまではいえない

人事権の行使としての解任処分についての考え方を学ぶにはいい事例です。

懲戒処分とは違うものの、一定の制限があることは当然のことです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労働時間45 使用者の判断による裁量労働制除外の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不良な言動等を理由とする降格・裁量労働制除外と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日立コンサルティング事件(東京地裁平成28年10月7日・労判1155号54頁)

【事案の概要】

本件は、労働者であるXが、使用者であるY社に対し、違法・無効な解雇を受け、解雇前の降格及び裁量労働制から適用除外も違法・無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに平成25年10月以降の降格、裁量労働制からの適用除外及び解雇の無効を前提とした毎月73万4667円の賃金及び同年9月以前の降格及び裁量労働制からの適用除外の無効を前提とした賃金の未払分の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、次の金員を支払え。
(1) 金11万2557円及びこれに対する平成25年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 金24万3218円及びこれに対する平成25年8月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(3) 金2万2488円及びこれに対する平成25年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 裁量労働制は、労働時間の厳格な規制を受けず、労働時間の量ではなく、労働の質及び成果に応じた報酬支払を可能にすることで使用者の利便に資する制度であり、労働者にとっても使用者による労働時間の拘束を受けずに、自律的な業務遂行が可能とする利益があり、裁量労働制に伴って裁量手当その他の特別な賃金の優遇が設けられていれば、その支払を受ける利益もあるから、ある労働者が労働基準法所定の要件を満たす裁量労働制の適用を受けたときは、いったん労働条件として定まった以上、この適用から恣意的に除外されて、裁量労働制の適用による利益が奪われるべきではない
ことに一般的な新卒者採用ではなく、その個別の能力、経歴等を勘案して裁量労働制の適用及び裁量手当を含む賃金が個別労働契約で定められている事情があるときは、労働者の裁量労働制の適用及びこれによる賃金の優遇に対する期待は高い。
Xは、新卒者ではなく、4回にわたる面接その他の審査でコンサルタントとしての能力、経歴等を審査された上、個別労働契約で裁量労働制の適用及び裁量手当を含む年俸が決定され、役職も「シニアコンサルタント」と、コンサルタント業務に従事する社員限定の職名が付せられていたから、このような事情があるといえる。
労働時間に関する労働条件がみだりに変更されるべきでなく、法的安定を確保すべきことは、1か月単位の変形労働時間制において、就業規則に基づく一定の要件を満たす勤務割表等でいったん労働時間を具体的に特定した後の変更は、その予測が可能な程度に変更の具体的事由を定めておく必要があること、労働基準法上は休日の特定は必須でないが、労働契約上いったん特定されれば、休日振替には労働者の個別的同意又は休日を他の日に振り替えることができる旨の就業規則等の明確な根拠を要することにも現れている。
賃金に関する労働条件がみだりに不利益な変更を受けるべきものでないことも無論である。
したがって、個別的労働契約で裁量労働制の適用を定めながら、使用者が労働者の個別的な同意を得ずに労働者を裁量労働制の適用から除外し、これに伴う賃金上の不利益を受忍させるためには、一般的な人事権に関する規定とは別に労使協定及び就業規則で裁量労働制の適用から除外する要件・手続を定めて、使用者の除外権限を制度化する必要があり、また、その権限行使は濫用にわたるものであってはならないと解される(土田道夫「労働契約法」317、322、323頁参照)。

2 Y社は、本件労使協定5条3号は、Y社が労働者の同意を得ることなく裁量労働制の適用を除外できることを認めたものであると主張する。
しかしながら、裁量労働制に関する労使協定は、労働基準法による労働時間の規制を解除する効力を有するが、それだけで使用者と個々の労働者との間で私法的効力が生じて、労働契約の内容を規律するものではなく、労使協定で定めた裁量労働制度を実施するためには個別労働契約、就業規則等で労使協定に従った内容の規定を整えることを要するから、労使協定が使用者に何らかの権限を認める条項を置いても、当然に個々の労働者との間の労働契約関係における私法上の効力が生じるわけではない
本件労働契約、Y社就業規則及び裁量勤務制度規則に本件労使協定5条3号を具体的に引用するような定めは見当たらず、むしろ、本件労使協定は、本件裁量労働制除外措置のあった平成25年6月時点では、労働者に対し、十分周知される措置が取られていなかったことが認められるから、本件労使協定5条3号に従った個別労働契約、就業規則等は整えられていないし、XとY社との間で黙示に本件労使協定5条3号の内容に従った合意が成立していると推認することもできない。

3 Y社は、正当な労働条件変更であれば、Xの同意を要しないとも主張するが、そのような労働条件変更は、就業規則に関する判例法理及び労働契約法10条によるものではなく、就業規則その他の労働契約上の根拠によるものとはいえないから、労働契約法上の合意原則(労働契約法3条1項、8条、9条)の例外とするだけの実定法上の根拠に欠ける
本件裁量労働制除外措置は、特定の労働者を対象としたもので、労働条件の集団的な変更で、個々の労働者から個別に同意を得ることが必ずしも容易でなく、一般的な規則の変更による形式上、個々の労働者に対する恣意的な取り扱いの余地が制限され、労働者一般の利益にかかわり労働組合等との交渉や意見聴取(労働基準法90条1項)を介して労働者の意見を反映される余地もある就業規則の変更による労働条件の変更(就業規則の変更で使用者に一定の範囲で労働条件を変更する権限を定めることを含む。)とは基礎的な条件がかなり異なる。
使用者の作成による就業規則の変更を介さないのであれば、使用者だけでなく、労働者からの労働条件の合理的な変更の余地もあるということになりかねないが、そのような帰結は労働条件の安定を欠く事態を招く。
個々の労働者の同意を得なくても本件裁量労働制の適用から除外できる権限を創設することは、それが合理的なものであれば、本件労使協定及び本件裁量労働制規則の改定で可能であり、直接、本件労働契約をY社のみの意思で変更する必要はない

特段異論のない判断です。

特に上記判例のポイント3はおっしゃるとおりです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

解雇240 最低保証のない完全歩合制は法律上許される?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、客室乗務員の期間途中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

デルタ・エアー・ラインズ・インク事件(大阪地裁平成29年3月6日・労判ジャーナル63号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で、平成17年10月16日、業務を航空機の客室乗務員とする期間の定めのある労働契約を締結し、これを約1年ごとに継続的に更新してきた元従業員Xが、平成26年12月5日付でY社から解雇され、平成27年3月31日以降の契約更新も拒否されたため、同解雇が無効であり、また労働契約法19条により労働契約は更新したものとみなされると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年4月以降の未払賃金及ぶ賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 ①そもそもY社が人員削減の必要性として挙げる本件サービス変更は、平成27年1月1日から実施するものであるのに対し、本件解雇は平成26年12月5日付けでなされたものであり、本件サービス変更と本件解雇の日が一致しているとはいえないこと、②Y社は、本件サービス変更の結果、運航時間総数が月5060時間になると見込まれるとして、削減する人員を20名と算出したと主張しているところ、そもそもIFSRの契約において、月70時間のACFHが保障されているわけではないこと、③その点を措くとしても、本件サービス変更の月である平成27年1月の運航時間総数は5060時間を割り込んでいるものの、同年2月及び3月は、月5060時間を超過しており、この3か月の運航時間総数の平均値は月5164時間であって、Y社見込み時間数である月5060時間を上回っていること、 ④本件サービス変更の結果、5名で機内サービスを提供することが可能であるとしても、従前6名の乗務員が乗務していたことに鑑みれば、過渡期の対応として、5名を超える乗務員を乗務させる余地が全くないとも認め難いこと、⑤Y社は、本件解雇に当たり、本件契約の終了日までの基本給を支払っており、本件解雇をしなくても、Y社に新たな経済的負担が生ずるものでもないこと、以上の点が認められ、これらの点に鑑みると、本件サービス変更がY社の経営判断に属するものである点を考慮したとしても、これをもって、平成26年12月の時点において、平成27年3月の契約期間満了を待たずに、IFSRを8名削減しなければならない程度に切迫した必要性があったとまでは認められない。そして、全証拠を精査しても、このほかに契約期間が満了する前にXを解雇しなければならなかったことを根拠付ける具体的な事情があったことを認めるに足りる的確な証拠は認められない
以上によれば、Y社の上記主張は理由がなく、本件解雇は無効であると解するのが相当である。 

2 Y社は、Xの賃金は、最低保証のない完全歩合制であるから、現実の乗務がない以上、賃金額は0円となる旨主張する。
しかしながら、そもそもXが現実に乗務していないのは、Y社がXの就労を拒否したからであって、Y社が拒否しなければ、Xは、平成26年12月以降も乗務員としての業務に従事していたと認められる
したがって、Y社は、Xに対し、民法536条2項により、賃金支払義務を負っていると解するのが相当である。

3 Y社において、賞与の支給に関して定めた契約条項や支給規定は見当たらず、Y社がこれまでXに対して基本給3か月分に相当する額の賞与を支給してきたとの事実をもって、賞与支給に関する黙示の契約が成立したと解することもできない。
また、賞与については、プロフィットシェアと異なり、一律に支給率等を定めた上で全従業員に対して支給されていたことを認めるに足りる的確な証拠は認められない。そうすると、Xは、Y社に対し、賞与の支払を求める請求権を有しているとはいえない

整理解雇の必要性が否定された事案です。

また、上記判例のポイント2の「最低保証のない完全歩合制」は労基法上は採り得ない賃金体系なので、ご注意を。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇239 著しい能力不足、勤務態度不良を理由とした解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、著しい能力不足、勤務態度の不良が認められ、解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成29年2月22日・労経速2308号25頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の従業員として勤務してきたが、Y社から、その勤務成績不良、勤務態度不良等理由に解雇された。本件は、Xが、同解雇は労働契約法16条に反し無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇されなければ得られたであろう賃金の支払及び賞与の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却(解雇は有効)

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に入社して以来極めて低い勤務評定を受け続け、平成10年9月には退職勧奨を受け、自らの欠点を踏まえて明確な成果を出せるよう取り組む旨の決意表明を提出し、平成11年4月には新入社員相当の資格等級である1級職にまで降級された。このように、Xの勤務成績は著しく不良であったと認められ、奮起を促されて決意表明を提出し、その後も上司の指導を受け、いくつもの業務を指示されたものの、そのうちの多くの業務について完遂することができないなど、その勤務成績も不良であったものである。このような中、Y社は、Xを甲に在籍出向させる形でY社社内の印刷業務を行わせようとしたものの、そこでの勤務状況も不良であったことから同出向先から出向解除を要請され、その後産業雇用安定センターへの在籍出向をもXが拒んだことから、やむなくXを解雇したものと認められる
このように、Xの勤務成績の著しい不良は長年にわたるものであり、その程度は深刻であるばかりか、その勤務態度等に鑑みると、もはや改善、向上の見込みがないと評価されてもやむを得ないものである
Y社は、かようなXに対し、人事考課、賞与考課のフィードバック等を通じて注意喚起を続け、かつ、在籍出向を命じるなどして解雇を回避すべく対応しているものであって、手続面でも格別問題のない対応をしていると認められる。このような点に鑑みれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当と認められるものであって、有効と認められる。

2 Xは、採用以来30年間にわたり、懲戒処分等を受けることもなく勤続してきたにもかかわらず、突然本件解雇を強行した旨主張するが、既に認定した事実及びそれを前提とする説示内容に照らすと、Xが長年問題なく勤務してきたと認めることは到底できないし、Y社としても、Xに対し、その勤務成績が著しく不良であることを感銘付ける努力を行っていると認められるから、その解雇に至る手続面でも問題があるとは認められない。

3 Xは、Y社の対応につきことごとく嫌がらせである旨主張するが、既にみたようにいずれも嫌がらせであるとは認められず、むしろ、Y社は、Xに対し、容易にクリアーできるレベルのオーダーをしてきたということができる。しかるに、そのようなY社のオーダーに対し、結果を出すことができず、一段上へのステップに進むことができなかったXの対応こそが、その著しい能力不足、勤務態度の不良を裏付けているというべきである。

採用以来30年間という極めて長期間にわたるプロセスを経ている事案です。

気が遠くなりますね・・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。