Category Archives: 解雇

解雇257 育休取得後の解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は育児休暇取得後の解雇が無効とされた裁判例を見てみましょう。

シュプリンガー・ジャパン事件(東京地裁平成29年7月3日・労経速2332号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、産前産後休暇及び育児休業を取得した後にY社がした解雇が男女雇用機会均等法9条3項及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条に違反し無効であるなどとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、解雇された後の平成27年12月分以降の賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社がXの育児休業後の復職の申出を拒んで退職を強要し、解雇を強行したことは、均等法9条3項及び育休法10条に違反し、不法行為を構成するとし、損害賠償金200万円及び弁護士費用20条+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

Y社はXに対し、55万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 結論において、事業主の主張する解雇理由が不十分であって、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなかった場合であっても、妊娠等と近接して行われたという一事をもって、当該解雇が妊娠等を理由として行われたものとみなしたり、そのように推認したりして、均等法及び育休法違反に当たるものとするのは相当とはいえない

2 このようにみてくると、事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規定に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である。

3 Y社では、Xの問題行動に苦慮し、これへの対応として弁護士、社会保険労務士及び産業医に相談し、助言を受けていたというのであるが、助言の内容は、要するに、今後の原告の問題行動に対して、段階を踏んで注意を与え、軽い懲戒処分を重ねるなどして、Xの態度が改まらないときに初めて退職勧奨や解雇等に及ぶべきであるとするものであるが、第2回休業までの経過及びその後の経過をみる限り、こうした手順がふまれていたとは到底いえないところである。そして、その助言の内容に照らせば、Y社(その担当者)にあっては、第2回休業の終了後において直ちに、すなわち、復職を受け入れた上、その後の業務の遂行状況や勤務態度等を確認し、不良な点があれば注意・指導、場合によっては解雇以外の処分を行うなどして、改善の機会を与えることのないまま、解雇を敢行する場合、法律上の根拠を欠いたものとなることを十分に認識することができたものとみざるを得ない。

4 解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的苦痛やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。
もっとも、本件においては、Xが第2回休業後の復職について協議を申し入れたところ、本来であれば、育休法や就業規則の定めに従い、Y社において、復職が円滑に行われるよう必要な措置を講じ、原則として、元の部署・職務に復帰させる責務を負っており、Xもそうした対応を合理的に期待すべき状況にありながら、Xは、特段の予告もないまま、およそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨を受けており、Y社は、Xがこれに応じないことを受け、紛争調整委員会の勧告にも応じないまま、均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっている。こうした経過に鑑みると、Xがその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ、賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でない

上記判例のポイント1、2は理解しておきましょう。

いずれもせよ、労働契約法16条の要件を満たすか否かが主戦場であることに変わりはありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇256 業務命令違反に基づく解雇が有効と判断されるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務命令違反に基づく解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

シリコンパワージャパン事件(東京地裁平成29年7月18日・労判ジャーナル70号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社との間で労働契約を締結し、その後、Xを解雇したが、この解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであり、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の業務に関連する電子メールにつき、平成27年7月頃から、CCに部長のメールアドレスを入れないようになり、代表取締役から指示を受けても従わず、同年11月9日、重ねてP3から電子メールのCCに必ず部長のメールアドレスを入れるよう指示を受けた後も、これを改めず、同月11日、代表取締役から全ての電子メールのCCに必ず部長のメールアドレスを入れるよう明確に命じられた後も、その日のうちに、これに反し、あえて同じ行為を繰り返したものであり、Xが業務に関連する電子メールのCCに部長のメールアドレスを入れなかったことにより、Y社においては、現に、部長がXが既に対応していた業務を二重に行うこととなったり、Y社として対処するべき問題につき部長として営業部門とマーケティング部門を統括する立場にあった部長の耳に入るのが遅れたりするなど、その業務遂行に不利益が生じたことが認められるから、このようなXに対してY社が解雇に及んだのにはもっともな理由があったものと認められ、本件解雇に客観的に合理的な理由がないとは認められない。

再三にわたり注意指導したにもかかわらず・・・という事実を立証できるように準備することが使用者には求められています。

解雇の合理性の立証責任は使用者側にあることを忘れずに準備をしましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇255 母が原告の帰宅時間を記録したメモに基づき残業時間を認定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職満了後の退職扱い無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

エターナルキャスト事件(東京地裁平成29年3月13日・労判ジャーナル70号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に正社員として雇用され、経理業務等を行っていたXが、Y社の代表取締役であるA、同社の従業員であるD及びEから違法な退職強要、配転命令及び雇用条件変更命令を受けたため、うつ病を発症し、休職を余儀なくされたと主張して、本件雇用契約に基づき、Y社に対し、Y社C営業所において清掃スタッフとして勤務する雇用契約上の義務のないことの確認、平成26年8月27日から本判決確定の日までの賃金月額23万円等の支払を求めるとともに、Y社及びAに対し、不法行為に基づく損害賠償として、各自慰謝料300万円等の支払、将来の退職強要行為の差止めを求めるほか、Y社に対し、同年1月9日から同年5月19日までの間の未払割増賃金合計約32万円等の支払、並びに労働基準法114条に基づく付加金約32万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇用契約上の義務のないことの確認請求は却下

雇用契約上の権利を有する地位確認は認容

未払賃金等支払請求、慰謝料請求は一部認容

未払割増賃金及び付加金請求は認容

【判例のポイント】

1 Xは、業務上の事由による傷病により就業できなくなったものであり、就業規則所定の「業務外の傷病」には当たらない上、労働基準法19条1項の趣旨に照らすと、休職期間満了に伴い当然退職扱いは許されないから、Y社のXに対する本件雇用条件変更命令の発令は認められないものの、Y社は、Xが休職期間満了に伴い退職したとして、本件雇用契約の終了を主張していることからすれば、XのY社に対する地位確認請求は、Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める限度で理由があり、Xは、本件退職強要行為2ないし4により、うつ病が重篤化して就労ができなくなったのであり、本件休職期間中の労務提供の不履行は、使用者であるY社の責に帰すべき事由によるものであるから、Xは、民法536条2項に基づき、Y社に対する賃金請求権を有する。

2 Y社は、Xが時間外労働をしていることについて認識しながら、特段これを禁止することなく、黙認しているような状況であったことからすれば、Y社のXに対する黙示の業務命令があったものと認められ、Xは、Y社に対し、業務に従事した時間について、時間外、休日及び深夜の割増賃金の請求をすることができ、また、残業時間一覧表は、Xの母がXからの帰宅の連絡を記録したメモを基にして作成されたものであり、入退館一覧表と必ずしも一致するものではないが、矛盾するところもなく十分に信用することができること等から、未払割増賃金は、合計約32万円となる。

上記判例のポイント2では、使用者の黙示の業務命令を認定した上で、残業時間について、Xの母がXからの帰宅の連絡を記録したメモに基づき認定しています。

使用者側で労働時間の管理をしっかりしていない場合には労働者側の何らかの記録に基づき認定されることがありますので注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇254 訴訟における主張内容も踏まえて解雇の有効性を判断した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業態度・能率不良に基づく解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本コクレア事件(東京地裁平成29年4月19日・労判ジャーナル70号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社から解雇されたところ、当該解雇は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、当該解雇日以降の賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、使用者が従業員に対して通常求める姿勢である、上司の指示、指導等に素直に耳を傾け、上司の意見を取り入れながら円滑な職場環境の醸成に努力するなどといった点に欠ける面が顕著であるといえ、再三のY社からの指示、指導及び警告にかかわらず一向に改善の意欲も認められないことからすれば、XとY社との労働契約における信頼関係は、本件解雇時点においてもはや回復困難な程度に破壊されていると評価せざるを得ず、Y社としては、職場全体の秩序、人間関係への悪影響等に鑑み、職場内の規律維持等の観点から対応せざるを得なかったといえ、本件訴訟においても、Xは、自己の考え方に固執し続けており、このことは、本件解雇以前から職制を踏まえた行動をする意思がなかったことを推認させ、Xの処遇の困難性を示していること等から、Xについては就業規則所定の解雇事由「従業員の就業態度もしくは能率が、会社にとって著しく不適当であると認められた場合」に該当するものと認められ、本件解雇は、その権利を濫用したものとして無効であるとはいえない。

よく解雇事案で、上記判例のポイントのように訴訟中の主張を取り上げて、それも考慮要素とすることがありますので、留意しましょう。

あまりに突拍子もない主張を展開すると判決理由で使われてしまいます・・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇253 起訴休職期間満了を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、起訴休職期間の満了を理由とする解雇が有効された裁判例を見てみましょう。

国立大学法人O大学事件(大阪地裁平成29年9月25日・労経速2327号3頁)

【事案の概要】

国立大学法人であるY社の歯学研究科の助教として勤務していたXは、平成24年4月5日、傷害致死の公訴事実により起訴されたことで、Y社の定める起訴休職制度に基づき休職処分を受け、その後、2年の休職期間が満了したことを理由に、平成26年5月2日付けで分限解雇となった。

本件は、Xが、①主位的には、上記解雇は無効であると主張して、Y社との間の雇用契約に基づき、同契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、身柄拘束を解かれた後である平成27年4月から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、Y社との間でXを再雇用させる旨の合意が成立していたのにこれに違反したと主張し、債務不履行に基づく損害賠償として、。平成27年4月から17か月分の賃金相当額+遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に労働者が起訴された場合、勾留等の事情により、当該労働者が物理的に労務の継続的給付ができなくなる場合があるほか、勾留されなかった場合でも、犯罪の嫌疑が客観化した当該労働者を業務に従事させることにより、使用者の対外的信用が失墜し、職場秩序の維持に障害が生じるおそれがある場合には、事実上、労務提供をさせることができなくなる。起訴休職制度は、このように、自己都合によって、物理的又は事実上労務の提供ができない状態に至った労働者につき、短期間でその状態が解消される可能性もあることから、直ちに労働契約を終了させるのではなくm、一定期間、休職とすることで使用者の上記不利益を回避しつつ、解雇を猶予して労働者を保護することを目的とするものであると解される。
以上のような起訴休職制度の趣旨に鑑みれば、使用者は、労務の提供ができない状態が短期間で解消されない場合についてまで、当該労働者との労働契約の継続を余儀なくされるべき理由はないから、不当に短い期間でない限り、就業規則において、起訴休職期間に上限を設けることができると解するのが相当である。
・・・以上の点に鑑みれば、起訴休職期間の上限を2年間とする本件上限規定は、合理的な内容(労契法7条所定の「合理的な労働条件」に該当するもの)であると認められる。

2 Xは、平成24年4月5日に傷害致死という重大な犯罪の嫌疑により、起訴され、勾留された状態が継続し、平成26年2月7日に保釈許可決定が出されて、一時、釈放されたものの、同月20日の一審判決の結果、再び勾留され、休職期間満了時も勾留されていたのであって、Y社に対する労務の提供ができない状態が継続していたこと、懲役8年の一審判決が出されたことにより、休職期間満了時以降も、少なくとも相当期間勾留が継続し、労務の提供ができない状態が継続することが見込まれていたこと、以上の点が認められ、これらの点に鑑みれば、以上のようなY社に対する労務の提供ができないXについて、降任、降格又は降給にとどめる余地がなかったことは明らかであって、Xについては、本件解雇時点において、Y社との「雇用関係を維持しがたい場合」にあったと認めるのが相当である。

3 Xは、本件解雇時において、実母に対する傷害致死の容疑で勾留され、Y社に対して労務の提供ができない状態が継続しており、一審において懲役8年の有罪判決を受けたことにより、その後も相当程度の期間、勾留が継続し、Y社に対する労務の提供ができないということが見込まれる状態にあったと認められる。また、本件解雇は、平成26年2月20日に宣告された懲役8年の一審判決から約2か月半後にされたものであるところ、その間に、控訴審の審理が行われるなどして、一審判決が破棄されることをうかがわせる新たな事情が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、Y社が同破棄を予見することができたとは認められない

ちなみに、Xは、刑事事件の控訴審において、平成27年3月11日、暴行罪により、罰金20万円の判決が言い渡され、釈放されています。

それゆえ起訴休職期間が争点となることは理解できますが、2年間という相当長期にわたる起訴休職の期間に合理性が認められることは争いがないのではないでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇252 パソコンの故意による破損と懲戒解雇の相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パソコン破損等に基づく懲戒解雇等無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人朝日新聞厚生文化事業団事件(東京高裁平成29年9月13日・労判ジャーナル69号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXがY社から本件懲戒処分を受け、平成28年3月2日付けで退職したことについて、本件懲戒処分は無効であると主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇の日の翌日以降の賃金及び賞与の支払いを求めたところ、原判決は、平成28年3月分給与の支払請求の一部を棄却したほかは、全部認容したことから、Y社が控訴した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件行為は、故意に本件パソコンの液晶画面を破損したものであるから、本件就業規則72条1項2号、8号、11号及び13号に該当するものであり、また、XはAに対し、Aが本件行為の際に本件事務所にいなかったことにすること等を提案し、Aの了承の下で、Y社による事情聴取や本件顛末書において、上記提案のとおり虚偽の説明を行っていたのであるから、かかる虚偽説明は、本件就業規則72条1項6号に該当するが、本件行為によって、本件パソコンのデータを破損するまでには至っておらず、Y社の経済的な損害は大きなものとまではいえず、金銭的な賠償によって償うことが可能なものであり、また、X及びAによる上記虚偽説明は、本件行為以外の他の非違行為を隠蔽するような性質のものではなく、Xが本件懲戒処分より前に懲戒処分を受けたことがないことを考慮すると、Xが本件就業規則72条に基づく何らかの懲戒処分を受けることは免れないとしても、懲戒解雇という労働契約上の地位を失う最も重大な懲戒処分は重きに失するものであり、社会通念上相当であるということはできないから、本件懲戒処分は、Y社がその権利を濫用したものとして、労働契約法15条により無効である。

パソコンの液晶画面を故意に破損させただけでは懲戒解雇は重すぎるというわけです。

結果、パソコンのデータまで破損されたとなると結論は変わり得ると思います。

破損されたデータの量、内容、復元可能性等が考慮されるとは思いますが。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇251 解雇が有効な場合の社宅の明渡しと使用料相当損害金の支払い(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、解雇無効地位確認等請求と社宅明渡等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日経大阪中央販売事件(大阪地裁平成29年7月7日・労判ジャーナル67号14頁)

【事案の概要】

本件は、新聞配達業等を営むY社の元従業員Xが、Y社から解雇の意思表示を受けたが当該解雇は無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とそれを前提とした賃金の支払いを請求(本訴)し、Y社は、Xに社宅を貸与していたが、解雇による労働契約の終了によってXは社宅の使用権限を失ったとして、Xに対し、社宅の明渡しと使用料相当損害金の支払いを請求(反訴)した事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求は棄却

反訴請求は認容

【判例のポイント】

1 XとY社間の労働契約では、新聞配達が業務の内容とされており、即売用の新聞を他の営業所に届ける業務も当然に含まれると解されるうえ、その区域についても限定がないから、使用者が合理的な範囲で設定できるものと考えられるところ、同一の業務命令(ホテル等への即売分を毎日新聞堂島販売K営業所に配達するようにとの指示等)が繰り返されていたにもかかわらず、Xは従わない旨を明確にしていること、Xが今後において業務命令に従う見込みがあるとは言えず、解雇等の手段を執らなければ、Y社において継続的に業務命令違反が繰り返されることとなるが、それ自体、秩序維持の観点から相当とはいえず、Y社の企業秩序の維持のためにもXを企業外に排除すべき必要性は否定し難いこと、より軽微な懲戒処分が先行する等の段階は踏まれていないものの、業務命令が繰り返され、労働者において是正再考する機会が十分に与えられていること等も総合すれば、本件の懲戒解雇が客観的合理的理由を欠くとか、社会通念上の相当性を欠くとまではいえない。

2 本件居室の使用は、使用貸借契約にあたると解されるところ、Xは、従業員宿舎使用誓約書を差し入れたから、従業員宿舎使用規則等が使用貸借契約の内容となったものと認められ、また、Xは、○階×号室の使用に関して従業員宿舎使用誓約書を差し入れ、本件居室に転居し、Y社もそれに異を唱えた様子はないから、当該使用貸借契約の目的物は本件居室に変更されたと認められ、そして、従業員宿舎使用規則は、解雇された従業員は、ただちに宿舎をY社に明け渡さなければならない旨を定めており、従業員の身分を失ったことを使用貸借契約の終了事由と定めているといえるところ、本件で解雇が有効であるから、Xは解雇によって従業員の身分を失い、本件居室に関する使用貸借契約は終了したものと認められるから、Xは、本件居室の明渡義務を負う

被解雇者が解雇後も従業員寮を使用している場合、仮に解雇が有効と判断されると賃料相当損害金を支払わなければなりません。

そのあたりのリスクを十分に念頭に置いて訴訟をすべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇250 非違行為と退職手当返還請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元教諭のわいせつ行為に基づく退職手当返還処分取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

鹿児島県・鹿児島県教育委員会事件(鹿児島地裁平成29年5月31日・労判ジャーナル67号26頁)

【事案の概要】

本件は、鹿児島県教育委員会が、鹿児島県公立中学校教員として在職していた元教諭Xに対し、XがA中学校校長として勤務中に、教え子である同中学校在学の女性生徒に対しわいせつ行為をしたことが、鹿児島県職員退職手当支給条例14条1項3号「在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為」に該当することを理由に、Xに対し支給済みの退職手当2778万8006円のうち失業者退職手当額を除く2677万1456円全額を返納するよう命じたことから、Xが、本件処分は、真実はXがわいせつ行為をしていないにもかかわらずされたものであることなどから違法であると主張して、本件処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件ドライブの際、本件生徒に対して、本件自動車を運転しながら、左手で本件生徒の右手を握り、また、右太ももを触り、そして、本件路上に停車した本件自動車内において、覆い被さるように本件生徒を抱き寄せ、本件生徒の左頬と唇に口付けをするというわいせつ行為をしたものと認められる。

2 Xは、①本件わいせつ行為が1回限りのものであること、②本件わいせつ行為の態様が軽微であること、③本件わいせつ行為によって本件生徒が受けた衝撃は小さいと考えられることから、本件わいせつ行為は「懲戒免職等処分を受けるべき行為」には当たらない旨主張するが、鹿児島県においては、これまでも、生徒に対してわいせつ行為を行った職員については、免職処分としたことが認められ、そして、本件生徒が、本件わいせつ行為によって精神的苦痛を被り、長期間にわたる入通院を余儀なくされたこと、Xの職責と非違行為との関係、Xの行為が社会に与える影響なども考慮すれば、本件わいせつ行為が1回限りのものであることや、その態様を考慮しても、本件わいせつ行為に対して本件指針における標準量定よりも下位の量定とすべき事情があるということはできないから、Xの本件わいせつ行為は「懲戒免職等処分を受けるべき行為」に当たると認められる。

3 Xが行った行為は重大な非違行為に当たるというべきであるから、同行為は、その永年勤続の功を抹消して余りあるものと評価せざるを得ず、Xに対し退職処分等のほぼ全額の返納を命じる本件処分が、裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するものとは認められない

前回の事案とは異なり、本事案では、退職金のほぼ全額の返還が認められています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇249 懲戒解雇が有効な場合の退職金の減免の程度(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、有罪判決等に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

西日本鉄道事件(福岡地裁平成29年3月29日・労判ジャーナル65号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していた元従業員Xが、Y社に対し、主位的、Y社がXに対してした懲戒解雇は懲戒事由がない上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められるものではないため無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに本件懲戒解雇後の各賃金等の支払を求め、予備的に、仮に本件懲戒解雇が有効であるとすれば、Xは上記労働契約に基づく退職金請求権を有すると主張して、退職金720万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

退職金支払請求については一部認容

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則60条12号にいう「有罪の確定判決を言い渡され」たときには、略式命令を受け、それが確定した場合も当然含まれると解されるから、本件懲戒解雇事由1は、この場合に該当し、Xの「その後の就業が不適当と認められたとき」に当たるというべきであるから、本件懲戒解雇事由1は、就業規則上の懲戒事由に該当し、そして、本件事故やその後のXの行動は、Y社の企業秩序に直接関連し、また、Y社に対する社会的評価の低下毀損につながるおそれが客観的に認められるものといえ、その意味で、社員の品位を乱し、会社の名誉を汚すような行為であって、その情状が重いものに当たるといえるから、本件懲戒解雇事由2も、就業規則上の懲戒事由に該当するところ、本件懲戒解雇について、Y社の社内において異論がなく、労働組合からも異論が出されなかったこと、本件懲戒解雇の手続が適正でなかったことをうかがわせる事情はないこと等から、本件懲戒解雇は、社会通念上相当なものであると認められ、懲戒権を濫用したものとはいえず、無効となるものではない。

2 ・・・今後の企業秩序の維持の観点から、本件不支給規定により、Xが退職金請求権の大半を失うことはやむを得ないといえるが、他方、上記行為は業務外のものであること、Xが本件懲戒解雇以前に懲戒処分を受けたことがないこと、上記飲酒運転撲滅の取組が始まってから本件懲戒解雇までの期間は約9年間であることを考慮すると、これらのXの行為は、21年間という長年の勤続の功労を全て抹消してしまうほど信義に反する行為であったとまではいい難いこと等から、Xは、本件不支給規定にもかかわらず、退職金請求権の一部を失わないというべきである。

懲戒解雇の場合、どの程度、退職金を減額するかについては判断が非常に難しいです。

過去の裁判例は参考にはなりますが、全く同じ事案ではないことからあくまでも「参考」になるだけです。

いずれにせよ顧問弁護士と相談の上で判断すべき内容です。

解雇248 普通解雇の予備的主張とバックペイ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隠蔽工作等に基づく解雇無効地位確認等請求に関する事案を見てみましょう。

ミツモリ事件(大阪地裁平成29年3月28日・労判ジャーナル66号60頁)

【事案の概要】

本件は、第1事件において、Y社の元従業員Xが、解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、解雇後の賃金の支払を求め、第2事件において、Y社が、Xが赤字受注及び隠蔽工作を行ったことで損害を被った、XとZ社に勤務していたAが共同して架空請求取引を行ったとして、X及びAに対する不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

第1事件:懲戒解雇は無効、普通解雇は有効

第2事件:損害賠償請求を一部認容

【判例のポイント】

1 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則あるいは雇用契約において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要し、そして、就業規則は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知しなければならず(労働基準法106条1項)、周知性が欠ける場合には、拘束力が生じないところ、Y社は、就業規則を作成し、Xが勤務していたB営業所には就業規則を備え付けていなかったことを自認しており、そして、XとY社との間の雇用契約において、懲戒解雇に関する条件等が定められていたことを認めるに足りる証拠もないから、X営業所に勤務していたXとの関係において、Y社の就業規則の周知性は欠けていた

2 B営業所には就業規則が備え付けられていなかったため、懲戒権を欠くことになるから、懲戒解雇を行うことはできないが、懲戒解雇を相当とする懲戒事由があれば、そのことを理由として普通解雇を行うことは可能であるところ、・・・本件普通解雇が解雇権の濫用に当たるということはできない。

3 本件懲戒解雇は懲戒権を欠くものとして無効であるところ、Y社は、平成28年1月20日に陳述した準備書面において、予備的に平成26年7月28日付けでの解雇予告による解雇ないし同日付けでの解雇の意思表示をしているが、解雇の意思表示は、当該意思表示がなされた時点において効力を生じるものであり、日付を遡及して解雇することはできないから、本件普通解雇は上記準備書面が陳述された平成28年1月20日付けの普通解雇となり、Xは、平成28年2月19日までは、Y社の労働者としての地位を有していたことになるから、Y社は、Xに対し、同日までの賃金の支払義務を負うことになる。

上記判例のポイント3は理解しておきましょう。

訴訟の中で懲戒解雇の有効性があやしくなってくると、予備的に普通解雇の意思表示をすることはよくあります。

その場合には、仮に普通解雇が有効と判断された場合でも、無効と判断された懲戒解雇日から普通解雇の意思表示をした日までは雇用契約は継続していたことになりますので、その間の賃金は発生していることになるので注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。