Category Archives: 解雇

解雇267 休職期間満了時の復職の可否判断における労働者の生活状況に関する記録の考慮(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、欠勤は業務外の疾病によるものであり、傷病休職の期間満了による雇用契約の終了を認めた裁判例を見てみましょう。

幻冬舎コミックス事件(東京地裁平成29年11月30日・労経速2337号16頁)

【事案の概要】

X及びY社が労働契約を締結していたところ、使用者であるY社は、労働者であるXが精神的な障害を発症し、一定の期間出勤をせずに休業したことについて、私傷病による欠勤として取り扱い、さらに、就業規則等の定めに基づくものとして、Xに対して一定の期間の給食を命じた上で、当該休職の期間の終了をもってXがY社を退職したものとして取り扱い、Xが休職した期間以降の期間に係る月額賃金及び賞与をXに支払わなかった。

本件は、Xが、主位的に、この欠勤としての取扱い、休職命令及び退職の取扱いが当該就業規則の定める要件等を欠く違法なものであり、当該労働契約における労働者たる地位を有するXには民法第536条第2項の規定に基づいていわゆるバックペイを請求する権利が発生している旨等を主張して、Xが当該労働契約上の権利を有する地位に在ることの確認並びにXが上記の休職及び休職をした期間+遅延損害金の支払をY社に求めるとともに、時間外の割増賃金が生じている旨を主張して、当該割増賃金+遅延損害金の支払をY社に求め、予備的に、当該休職命令及び退職の取扱いが違法でなかったとした場合の当該割増賃金+遅延損害金の各支払をY社に求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、53万6967円+遅延損害金を支払え

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、同月11日の時において、自らの心身を適切に管理して行動することが困難な状態にあり、営業職としてはもとより、編集職としても、本件労働契約においてXに履行することが求められていた債務の本旨に従った労務の提供(Xは、前職の経験を前提として期間の定めのない労働契約である本件労働契約を締結し、一時はY社の部長職を任され、更には月額39万円の賃金を得ていたことに鑑みると、いわゆる管理職に比肩すべき相応の能力の発揮を期待されていたものと解すべきである。)に重大な支障を来す状態にあって、休職を命ずることが相当である状態にあったものというべきである。
・・・このような経緯によれば、Xは、休職をすること自体についての不満を有していたとしても、その精神的な障害の状態等に鑑み、Y社からの説得に応じて、自らの意思により、有給休暇を取得し、続けて本件休職期間中に欠勤をしたものと認めるのが相当である。

2 C常務及びE副部長とF医師が同月30日に面談を行ったが、当該面談において、F医師がC常務らに対してXに生活状況の記録をさせることはしていない旨を述べたことから、C常務らがF医師に本件生活・睡眠表を見せたところ、F医師は、本件生活・睡眠表を見た上で、C常務らに対し、Xから生活リズムがおおむね整っていると聞いていたが、本件生活・睡眠表を見ると、XにはY社における通常の勤務はできないと思われること、Y社が出版社であるとはいえ、Y社の従業員がY社に午前10時くらいに出社すべきことは常識であると思われることを述べた。

3 F医師の作成に係る復職診断書や原告訴訟代理人に対する回答によっても、営業職としてはもとよりとして、編集職としても、本件休職期間の終了時までに本件労働契約の債務の本旨に従った労務を提供することができる程度にまでXの精神的な障害が回復したものということはできない
なお、Xは、仮にXが復職の当初にY社の所定労働時間どおりに労働することが困難であったとしても、Y社がXの復職後の就業に配慮する措置を講じていれば、通常の勤務に程なく復帰することができた旨を主張しているが、本件全証拠を精査しても、その裏付けとなるべき的確な証拠はない。

上記判例のポイント2は大変参考になります。

復職の可否についていかなる視点で判断すべきについてはとても悩ましいですが、生活状況の記録等から客観的に判断するように努めることが大切です。

決して、主治医がこう言っているから、産業医がこう言っているからという形式的な理由だけで判断をしてはいけません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇266 採用内定の取消しと期待権侵害を理由とする慰謝料額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、学部開設に伴う教員採用内定の成否と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人東京純心女子学園(東京純心大学)事件(東京地裁平成29年4月21日・労判1172号70頁)

【事案の概要】

本件は、被告の看護学部設置認可にかかる教員名簿に登載されたにもかかわらず、教員として採用されなかったXらが、Y社に対し、Xらを採用しなかったことは、(1)採用内定の取消しであって、債務不履行(誠実義務違反、民法415条)又は不法行為(民法709条)に当たる、若しくは(2)原告らの期待権を侵害する不法行為(民法709条)に当たると主張して、X1につき損害賠償金1166万1565円及びX2につき損害賠償金678万円+遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し、55万円+遅延損害金を支払え。

Y社は、X2に対し、55万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 X1は、平成27年4月以降のY社への採用が内定してはおらず、Y社には採用内定取消を理由とする不法行為責任は認められない
しかしながら、上記の経緯によれば、X1が、Y社の看護学部設置にむけて勤務し、X1を教員とする教員審査において、X1を教員として採用しない旨の指摘を受けてはいないことから、被告の看護学部新設が認可された後においては、X1とY社との間で、教員名簿記載の科目を担当する教授としての労働契約が確実に締結されるであろうとのX1の期待は法的保護に値する程度に高まっていたことが認められる

2 この点、Y社は、X1は平成27年3月にT大学への教員就任承諾書を提出し、同年4月頃から同大学での勤務をしたことから、X1に期待権はない旨主張する。
しかし、本件証拠によっても、X1が同大学への就職活動をした時期は明らかでなく、X1の本人尋問の結果によれば、X1は同大学から教員就任承諾書等の書類の提出を求められたのは同月12日であったと述べている。
そうすると、X1がT大学への就職活動をしたのは、Y社による期間満了通知の後(平成27年1月19日の後)であるとも考えられるし、同大学の労働条件がY社における労働条件より好待遇であるとは限らない。
したがって、同大学への就職を理由にX1の期待権を否定することはできないから、上記判断は変わらない。

3 そして、Y社は、平成26年4月以降のX1の働きぶりから平成27年4月以降の採用をしないこととしたものであるが、Y社の学部設置認可に至るまで、Y社からX1に対し、その働きぶりに対して注意等をしていないところ、教員審査(学部設置認可手続上のものではあるが、労働契約締結過程にあると認められる。)を経たにも関わらず、面接等の採用手続すら執らないとしたのは、誠実な態度とは言いがたい
そうすると、Y社がX1を採用しなかったことは、労働契約締結過程における信義則に反し、X1の期待を侵害するものとして不法行為を構成するから、Y社は、X1がY社への採用を信頼したために被った損害について、これを賠償すべき責任を負う。

4 Xらはそれぞれ逸失利益を損害として主張する。
期待権侵害に基づく損害賠償の対象は、Y社への採用を信頼したためにXらが被った損害に限られ、採用されたならば得られたであろう利益を損害として請求することはできない。
したがって、逸失利益は損害に当たらないから、Xらの上記主張は採用しない。

5 X1は移転費用等を損害として請求するが、これが期待権の侵害と相当因果関係を有する損害であるとは認めがたい。

期待権侵害という構成で救済されています。

もっとも、認められる損害額は、ご覧のとおり低いため、費用対効果を考えるとなかなか厳しい戦いといえます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇265 第三者に告発文を送った労働者に対する解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、第三者に告発文を送った営業社員に対する解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

A不動産事件(広島高裁平成29年7月14日・労判1170号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結してY社の従業員であったXが、Y社において、平成26年10月9日に、Xに対し、同年9月30日付けでするとした解雇の意思表示は、懲戒解雇及び普通解雇のいずれにも該当する事由がなく、仮にいずれかに該当する事由があったとしても、当該解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるといえないから無効であると主張して、Y社との間の労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成26年10月から判決確定の日まで各月5日限り、賃金として各月24万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Y社のXに対する懲戒解雇の意思表示は有効であると判断し、Xの請求を全部棄却した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。

Y社は、Xに対し、380万1290円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 懲戒解雇事由(12)は、「会社の信用を著しく損なう行為のあったとき。」というものであり、その「著しく」という文言があることのほか、一般に、懲戒解雇が労働者に与える影響、効果にも鑑みると、本件懲戒解雇事由(12)に該当する信用毀損行為は、単に、信用を損なう行為があったというだけでなく、その行為により、会社の信用が害され、実際に重大な損害が生じたか、少なくとも重大な損害が生じる蓋然性が高度であった場合をいうものと解するのが相当である。
この点につき、確かに、Y社は、同族経営の小規模な会社であり、役員個人の信用に係る事実がY社の信用に直結するといえる。また、Y社は、顧客からの信用を得て高額の不動産取引に関与する業態であるから、信用の維持はY社Y社にとって重要であり、Y社代表者が本件強化の理事及び本部長に就任したことも、Y社がそれまで培った信用を基礎としていることがうかがわれるところ、本件送信により、本件協会の会員に対し、Y社の役員が本件刑事事件により逮捕された事実が広く知られるとの結果が生じたのであり、Y社の信用毀損の程度を軽く見ることはできない。
しかし、他方で、本件送信はY社の顧客に対してされたものではなく、Y社に売上の低下等の経済的な実損害が生じたものではない。また、Y社代表者が本件協会の理事及び本部長の辞任を余儀なくなされるには至っていない。そうすると、本件送信による信用毀損が原因で、Y社に実際に重大な損害が生じたとか、重大な損害が発生する蓋然性が高かったとまでは認められず、このほか、これを認めるに足りる証拠はない。
よって、本件送信の事実をもって、Xに本件懲戒解雇事由(12)に該当する事由があったということはできない。

2 本件通知書には、就業規則上の懲戒解雇事由の具体的な条項が記載されていないが、解雇理由及びこれに続く部分には、本件懲戒解雇事由(11)及び(12)に該当する趣旨と解される記載がされており、本件通知書の内容を説明したY社代理人作成の回答書には懲戒解雇であることが明記されているから、本件通知書により懲戒解雇の意思表示がされたものであると認められる。
そして、本件通知書には、本件告訴をしたことが併記されているとおり、Xによる秩序違反に対して制裁を行使する意思であることが容易に認められる一方で、普通解雇事由の具体的な条項その他本件労働契約の解約申入れにすぎないことを窺わせる記載はされておらず、普通解雇の意思表示が内包されているとは認められない
よって、本件通知書により普通解雇の意思表示がされたと認めることはできない。上記によれば、本件普通解雇事由が存在し、客観的に相当であるから、上記意思表示は有効であり、上記陳述がされた平成27年11月26日から30日が経過した同年12月26日をもって、本件労働契約が終了したと認めることができる

原審、控訴審の判決理由を読んでみましたが、私は一審の判断のほうが腑に落ちます。

また、懲戒解雇と普通解雇の関係について判例のポイント2が参考になります。

訴訟でもよく議論になるところなので押さえておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇264 解雇前の指導教育とそれに対する労働者の態度(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金減額を伴う配転命令及び懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

レコフ事件(東京地裁平成29年2月23日・労判ジャーナル72号57頁)

【事案の概要】

本件は、企業買収や合併等に関するコンサルティング業を行うY社に勤務する元従業員Xが、Y社に対し、賃金減額等の処分、配転命令、解雇等の懲戒処分がいずれも無効である旨を主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、未払賃金及び賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

配転命令に伴う賃金減額は無効

【判例のポイント】

1 4月1日付け賃金減額(降格に伴う賃金減額)の有効性について、平成24年度におけるXの業績及び能力は、Xが、Y社代表者の指示等を全く聞き入れないばかりか、Xにおいて客観的な状況等を正しく把握する能力や姿勢が欠如していたことからすると、Y社代表者のみならず他の幹部職員の総意の下になされた絶対的にも相対的にも著しく低いXの業績評価は妥当であり、そのような人事考課に基づきXの職掌(ランク・職号)を平成25年4月1日付けで「VP-11」から「VP-9」に降格された上、それに伴い従前67万7000円であった基本給を63万7000円に減額したY社の措置(4月1日付け賃金減額)は、Xが被る不利益の程度を勘案しても、適法かつ有効である。

2 これまでのXの業績の低さや勤務態度が著しく不良であること、そのような状況を踏まえて、本件譴責処分や本件出勤停止処分といった懲戒処分が行われたにもかかわらず、Xがその態度を改めようとする姿勢を全く示すことなく、むしろ、そのような処分等に及んだY社の側に能力的な問題があってXよりも劣るものであるという認識で凝り固まっており、上司等への誹謗中傷を何のためらいもなく繰り返していることや、就業規則や業務命令等に明らかに反する自己の行為の正当性を独善的なな考えに基づき主張し続けることからすると、就業規則所定の「正当な理由なく業務上の指揮命令に従わず、不当に反抗し、業務の正常な運営を妨害したとき」及び「数度の懲戒処分にかかわらず、改悛の情がないとき」に該当するものと認められ、これに加えて諭旨解雇ないし懲戒解雇における就業規則所定の手続に関する瑕疵が全く主張されず、Xにおいてこれを争うものではないことからすると、これら一連の処分に係る手続は適正に経られたものと推認され、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当性も認められる。

解雇事案の場合、上記判例のポイント2のように、解雇前の指導教育時における労働者の態度を具体的に主張立証することが重要です。

この過程を経ずにいきなり解雇をしてしまうと会社側にとって厳しい判断が待っています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇263 虚偽報告等に基づく懲戒解雇と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、虚偽報告等に基づく懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

アストラゼネカ事件(東京地裁平成29年10月27日・労判ジャーナル72号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員が、Y社の行った懲戒解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年12月以降本判決が確定するまでの間、毎月25日限り、賃金月額約64万円等及び平成28年3月分の賞与約267万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払賞与等支払請求は一部認容

【判例のポイント】

1 シンポジウムの虚偽報告については、Xの出欠確認方法が不適切であったことに起因するもので、それは注意することにより今後同様の誤りを生じないと期待することができるものであり、また、Xの営業活動の虚偽報告については、Y社自身MRに対して、データ入力の有無について注意喚起をすることがなかったことの影響も考えられ、今後、Xがデータの入力を正確にすると期待することができ、そして、虚偽内容のメールや必要のないメールの発信行為については、Xの問題意識や苦しい思いをその解決に必要な範囲を超えて周囲に流布するものであるが、外部に流布したのではなく、Y社の中の一部の者に流布したに止まっており、いずれの行為についても懲戒処分を検討するに当たって考慮すべき事情等があり、個別の注意、指導といった機会もなかったのであるから、これらの行為全てを総合考慮しても、懲戒解雇と、その前提である諭旨解雇という極めて重い処分が社会通念上相当であると認めるには足りないというべきであり、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めることができず、懲戒権を濫用したものとして、無効である。

2 Xは、Y社との間の労働契約において、賞与として年267万2235円を支給するものとされていた旨を主張するが、平成28年の賞与額は基本給3か月分の固定分と平成27年7月から12月の評価変動部分に分かれていること、評価変動分の標準評価が基本給1.5か月分であること、評価変動賞与は、基本給1.5か月分の0%から200%の範囲で、各人の業務目標の達成如何で金額が決定されること、Xの平成27年1月から6月までの評価変動の賞与は1.03か月分であったことが認められ、Y社において、賞与のうち評価変動賞与は、Y社が裁量によってその都度決定する金額が支払われるものであって、あらかじめ定まった金額が支払われるものではないことがうかがわれるから、XとY社との間の労働契約において、Xが解雇されなかったならば確実に評価変動賞与として基本給1.5か月分の支払がされるとは認められず、XのY社に対する平成28年の賞与の支払請求は、固定分である基本給3か月分の178万1490円に限られ、その余の請求は理由がない。

相当性がないということで懲戒解雇が無効と判断されています。

相当性判断を事前に適切に行うことはとても難しいですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇262 勤務態度不良を理由とする解雇と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、降格前の地位確認及び解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

ドラッグマガジン事件(東京地裁平成29年10月11日・労判ジャーナル72号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結して就労していた元従業員Xが、Y社のした降格及び解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、降格前の職制等級に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後本判決確定の日までの未払賃金等の支払、平成28年4月以降毎年年7月及び12月の賞与等の支払を求めるとともに、上司による違法なパワーハラスメントがあったと主張して、民法715条又は安全配慮義務違反による不法行為に基づき、慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格前の職制等級に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は棄却

解雇無効地位確認請求は認容

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xには上司の指導や指示に素直に従わないこと、同僚との協調性が乏しいなどの業務上の問題点が認められ、Xに対し上司が問題点の改善を求めて指導したにもかかわらず、Xの勤務態度に変化が見られなかったこと、本件降格処分による賃金の減額は5000円と比較的少額であることなどを踏まえると、本件降格処分は客観的に合理的な理由があり、相当というべきであるから、人事権の範囲内の措置として有効である。

2 仮に、Xに認められる問題点(上司の指導・指示に素直に従う姿勢が乏しいこと、同僚との協調性が乏しいこと)がいずれかの解雇理由に該当するとしても、入社後1年余りの間はXの業務態度がさほどY社の社内で問題になることはなかったこと、Xには上司の指導や指示に素直に従わない面が認められるとはいえ、その態様は悪質なものとまではいえないこと、Xは関心のある分野については積極的に取材や執筆業務を行っていたこと等の事情を総合考慮すると、Xが前職で5年のキャリアを有することや、Y社が比較的小規模な組織であること等の事情を勘案しても、本件解雇は、いまだ社会通念上相当であるとは認められないというべきである。

3 Y社において本件解雇後のXの賞与の支給の実施及び具体的な支給額又は算定方法についての決定がされたとは認められず、また、これについての労使間の合意や労使慣行が存在したとは認められないから、Xの具体的な賞与請求権が発生したとはいえず、賞与に関するXの請求には理由がない。

解雇については相当性の判断で救われています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇261 休職期間満了時における復職の可否に関する判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間満了時の職務に耐えられないことを理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

エミレーツ航空会社事件(東京地裁平成29年3月28日・労判ジャーナル72号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社のA支社総務経理部に所属していた元従業員Xが、同部署の職場環境に起因して心因反応を発症し、これにより休職した後、復職に際してY社に安全配慮義務違反があり、また、Y社での職務に耐えられないことを理由として行われた解雇が無効であるなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、Y社のA支社総務経理部における就労義務がないことの確認、雇用契約に基づく賃金・賞与の支払、安全配慮義務違反(債務不履行)による賃金等相当損害金や慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

A支社総務経理部就労義務不存在確認は却下

解雇無効地位確認等請求及び損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xの心因反応の発症原因がY社の職場環境にあったとは認められず、他方で、X・Y社間の本件雇用契約について、Xの職種を経理職に限定する旨の合意があったことを前提に、Y社は、業務負担の軽減に係る提案、レポーティングラインの変更による心理的負担の軽減に係る提案、他部署への異動等、Xの復職に関して考え得る手立てを相当程度講じたが、それにもかかわらず、Xが総務経理部に復職する見込みが全く立たない状況にあったことを踏まえると、Xのこの状況は、就業規則所定の「社員の精神的または肉体的状態が与えられた職務に耐えられないと判断された場合」に該当するといわざるを得ないから、本件解雇は、客観的合理性及び社会通念上の相当性があり、有効であると認められるから、XがY社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求は、理由がない。

2 Xの就労不能につきY社に帰責事由があるとは認められず、また、Y社のXに対する安全配慮義務違反があるとも認められないから、XのY社に対する賃金及び賞与請求並びに損害賠償請求は、いずれも理由がない。

心因反応が業務に起因すると言えないと戦いとしては厳しくなります。

本件のような休職期間満了による退職処分の場合、休職の原因が私傷病か労災なのか勝敗を決することになります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇260 酒気帯び運転と懲戒免職処分の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、市元職員の酒気帯び運転と懲戒免職処分等取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

名古屋上下水道局長(懲戒免職処分取消請求)事件(名古屋高裁平成29年10月20日・労判ジャーナル71号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元職員Xが、酒気帯び運転で検挙されたことを理由として、Y社から受けた懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分はいずれも裁量権を逸脱又は濫用した違法なものであると主張して、名古屋市に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分取消請求は棄却

退職手当支給制限処分取消請求も棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件酒気帯び運転に係る車の走行時間及び走行距離が短く、検挙時のアルコール濃度も、懲戒免職処分が違法であるとされた類似事案の裁判例よりも低いから、本件酒気帯び運転の性質・態様は極めて悪質とまではいえず、むしろ比較的軽微との評価もあり得る旨を主張するが、Xの検挙時のアルコール濃度、Xが本件酒気帯び運転に至った上記経緯に照らすと、本件酒気帯び運転の性質及び態様が極めて悪質なものであることは明らかというべきであって、本件酒気帯び運転に係る車の走行時間及び走行距離、Xが指摘する他の裁判例の存在はいずれも上記判断を左右せず、また、市及びY社が、飲酒運転に対して厳しい姿勢で対処すべきであるという社会的要請の高まりを踏まえて旧取扱方針及び現取扱方針を制定するなどし、職員の飲酒運転の撲滅に向けて取り組んできており、そうした取組に反して、Y社の職員であるXが本件酒気帯び運転をしたことによる市政等に対する市民からの信用失墜の程度が低いものであったなどということはできないこと等から、Xの懲戒免職処分取消請求は理由がない

2 Xに有利に勘案されるべき事情(人的・物的被害が発生したことはうかがわれず、本件酒気帯び運転を隠蔽する行動はとっていないこと等)も存するとはいえ、特に、本件酒気帯び運転の態様が極めて悪質で、Xの責任は重大というべきものであることに加えて、退職手当が勤続報償的な性格を基本とするものであることを併せて考慮するときには、もはやXの過去の功績は没却されて、報償を与えるには値せず、退職手当の他の側面である生活保障的性格及び賃金後払い的性格が奪われることになってもやむを得ないものと認めるのが相当であって、退職手当支給制限処分が社会観念上著しく妥当を欠き、退職手当管理機関である処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したとは認められず、退職手当支給制限処分は適法であるから、退職手当支給制限処分の取消しを求めるXの請求は、理由がない。

Xに有利な事情を考慮してもなお、懲戒免職処分は有効であり、かつ、退職手当支給制限処分も有効と判断されています。

酒気帯び運転の危険性からすればやむを得ないのかもしれませんが、担当裁判官によって結論は異なりうるように思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇259 整理解雇が有効と判断されるために必要なこととは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、社会福祉法人解散による元職員らの解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会事件(東京地裁平成29年8月10日・労判ジャーナル71号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していた元職員らA、Bが、Y社のした解雇が無効である旨をそれぞれ主張して、Y社に対し、Aらそれぞれが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び民法536条2項に基づき本件各解雇後の賃金の支払をそれぞれ求めるとともに、本件各解雇が無効であることを前提に、Y社と全国手をつなぐ育成会連合会とは実質的に同一である旨を主張して、法人格否認の法理により、連合会に対し、上記と同様の請求をし、あわせて、Aらは、Y社及び連合会が共謀して不当な本件各解雇を行い、もって、Aらそれぞれに対する不法行為を行った旨を主張して、Y社及び連合会に対し、共同不法行為に基づき、精神的損害の賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1  Y社が本来確保しておくべきことが公的に要請されている基本財産の取崩しが恒常化している中で、近い将来にY社の経営が困難となると判断したことは、客観的な根拠に裏付けられたものということができ、Y社には、Y社を解散することに伴い、人員削減の必要性があったものというべきであり、Y社は、希望退職の募集を行い、応募した者には退職金を増額しこれに加えて100万円を支給することとし、これを受け、上記募集を受けた職員ら合計6名のうち、Aらを除く4名は、上記希望退職の募集に応じたというのであるから、Y社は、Y社が当時行い得たAらの解雇を回避するための措置及びこれに代わり得るAらの負担の軽減のための合理的な措置を、相応に行っていたものというべきであり、さらに、Aらを含むY社の全職員がY社を退職したことが認められる事実に照らせば、本件各解雇に係る人選の合理性に欠けるところはないものというべきであり、そして、Y社は、訴外組合に対し、団体交渉に応じる意向を示し、Aらに対し、相応の説明をしていることをも踏まえると、本件各解雇の手続の相当性に殊更問題があったということはできないことから、本件各解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものとして、有効というべきである。

2 Y社が解散し、事務局を廃止してY社の職員を全員解雇するとのY社の判断が合理的なものであること、Y社は上記廃止に際してAらのみならずY社が当時雇用していた全従業員との雇用契約を終了させたことから、Y社に不当な目的があったとは認め難いものというべきであり、本件各解雇は有効であるから、AらのY社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認の請求及び民法536条2項に基づく本件各解雇後の賃金の支払の請求には、いずれも理由がなく、また、Aらの連合会に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認の請求及び民法536条2項に基づく本件各解雇後の賃金の支払の請求は、本件各解雇が無効であることの前提とするものであるから、同様にいずれも理由がない。

上記判例のポイント1のようにしっかり手続きを進めていけば問題ありません。

慌てず、やるべきことをやることがとても大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇258 解雇が有効と判断されるために準備すべきこととは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、採用ポストに対する職務能力欠如に基づく解雇に関する裁判例を見てみましょう。

アスリーエイチ事件(東京地裁平成29年8月30日・労判ジャーナル71号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社による解雇の意思表示は違法無効なものであるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、不法行為に基づき、違法な解雇による損害(逸失利益として6か月分の給与合計330万円及び慰謝料165万円)の賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、会社代表者の次の地位に当たる総合管理職兼営業部長として採用された者であり、その業務内容として、従業員の管理のほか、営業部長として新規取引先の開拓も含まれていたにもかかわらず、在籍した3か月間、新規取引先を1件も開拓しなかったことが認められること等から、就業規則所定の解雇事由は存在し、本件解雇には客観的に合理的な理由があると認められ、また、総合管理職としての業務をみても、会社代表者の許可を得ることなく、部下の就労を違法就労と決めつけ、その労働時間の短縮を指示したほか、会社代表者の許可を得ることなく、本件経費精算手続を大幅に変更した結果、3か月後に従前の経費精算手続に戻す事態になるなど、社内に混乱を生じさせており、さらに、X自らが、部下に対し、作成を指示していた出張報告書を自分の出張に関しては作成していなかった結果、Y社の税理士から、Xの経費精算について、疑問を呈されるなど、総合管理職に求められる資質に問題があると言わざるを得ないから、本件解雇は、社会通念上相当であると認められる。

解雇事由の存在を裏付けるエビデンスを用意すること、会社の業務にいかなる支障が生じたのかについて具体的に主張立証することがとても大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。