Category Archives: 解雇

解雇277 適格性欠如を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期歯科医長に対する適格性欠如を理由とする期間途中の解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

国立研究開発法人国立A医療研究センター(病院)事件(東京地裁平成29年2月23日・労判1180号99頁)

【事案の概要】

本件は、5年の期間の定めのある労働契約(以下「本件労働契約」という。)に基づきY社の運営する病院(以下「被告病院」という。)の歯科医長を務めていたXが、歯科医療に適格性を欠く行為があり、部下職員を指導監督する役割を果たしていないなどとして、期間途中に普通解雇(以下「本件解雇」という。)をされたが、やむを得ない事由はなく、本件解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有することの地位の確認を求めるとともに、未払賃金、賞与及び慰謝料並びにこれらに対する遅延損害金の支払を請求する事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効
Y社は、Xに対し、平成26年5月以降、本判決確定の日まで、毎月16日限り、93万1055円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、491万6000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y病院は専門性・先進性を備えた医療行為を行うことを標榜しており、歯科の診療内容をみても、一般の歯科医院からの紹介患者を広く受け入れるなどして、治療困難な患者や症例等に積極的に対応して高度な治療行為を行っているほか、Y病院の他部門と連携を取りつつ入院患者や手術予定患者の口腔管理を行っているというのであるから、Y病院で歯科医療に携わる場合には、一般的な歯科医療機関に従事する以上に歯科医療に係る高度な知識や技術、他部門と連携して医療行為を行うための協調性やコミュニケーション能力が必要とされており、取り分け歯科医長の地位に就く者については、自身がこうした資質を備えるほか、こうした資質を備えた他の歯科医師その他のスタッフを指導し、統率する能力が求められているということができる。Y社が歯科医長を募集した際に掲げた上記の要件等や相応に高額の給与等が保障されていることにも、これらの点が反映されているものとみることができる。
他方で、歯科医療行為に係る知識や技術については、それ自体高度な専門性を有する事柄であり、当該患者の身体の状況について実際に得られた具体的な情報を基に、当該患者の意思・希望や、治療行為を行う際の人的・物的態勢等を踏まえつつ、その都度適切な治療行為を選択して実施すべきことからして、その治療行為の選択には担当する歯科医師に相当広範な裁量が認められることも論をまたないところである。Y社は、本件解雇の理由として、Xのした多数の治療行為について医療安全上の問題があったことを指摘するが、上でみたような医療行為の特性を踏まえるならば、治療行為が解雇の理由として考慮に値するようなものに当たるか否かは、当該治療行為が相当な医学的根拠を欠いたものか、実際に当該治療行為が行われた患者の身体の安全等に具体的な危険を及ぼしたか、治療行為に際して認められる裁量を考慮しても合理性を欠いた許容できないものといえるかといった観点からの検討が不可欠なものということができる

2 本件解雇に至る経緯は前記のとおりであり、本件解雇理由については解雇理由書でその内容をある程度明らかにしているとはいえ、事前にはその内容の開示に応じていないし、そもそも本件問題行為については解雇時に考慮された事情として明らかにされていない。本件解雇理由や本件問題行為がXのした医療行為としての相当性を問題にしていることからすれば、当事者であるXに具体的事実を示さず、弁明の機会を一切与えていない点は、手続面で本件解雇の相当性を大きく減殺させる事情といわなければならない
本件解雇理由及び本件問題行為はY社主張の事実自体認められないものが多くを占め、一部認められるもの(本件解雇理由21及び本件問題行為(14))もあるが、定められた期間途中での解雇を可能とする、やむを得ない事由に該当するとはいい難く、さらに、上記でみた事情も勘案するならば、本件解雇は無効という評価を免れ難いものというべきである。
したがって、Xは、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあり、賃金請求権を有すると認められる。

3 解雇や退職勧奨を受けた事実が周囲に知られた場合に通常は不名誉を感じることを否定できないとしても、解雇された労働者が被る精神的苦痛は、当該解雇が無効であることが確認され、その間の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償うことのできない精神的苦痛を生ずる事実があったときに慰謝料請求が認められると解するのが相当である。
Xは、A病院長が退職勧奨の事実を言いふらし、歯科スタッフを通じてその事実がY社病院外へも流布されたと主張し、これに沿う供述をするが、情報がY社病院外に拡散した経過は定かではない上、XがY社から解雇を受けたことが公にされた場合に通常生ずる以上の精神的苦痛を被ったとまではにわかに認め難い
よって,XのY社に対する慰謝料請求は理由がない。

上記判例のポイント1のとおり、歯科医師の専門性の高さから、解雇事由の判断について労働者に広い裁量を認めています。

このような規範からすると、よほどの重大な治療行為の瑕疵が認められない限り解雇は有効とはなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇276 不正行為を理由とする懲戒解雇と事前調査の相当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不正行為等に基づく懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

埼玉県森林組合連合会事件(さいたま地裁平成30年4月20日・労判ジャーナル77号30頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社がした懲戒解雇及び普通解雇は無効であるとして、雇用契約上の地位の確認並びに未払賃金及び未払賞与等の支払及び、Y社の理事を務める理事らが、一体となって本件解雇を画策し、極めて悪性の強いパワーハラスメントを行い、Y社をして、本件解雇を行わせたとして、連帯して、慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇及び普通解雇は無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社が主張する事由のうち、西川広域森林組合への発注、公印の無断使用(農協分受託契約)及び扶養手当の受給に関しては、Xの行為は、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき」に当たり、Xに懲戒の事由があると認めることができるものの、西川広域森林組合への発注については、Y社に実損害を生じさせたと認めることはできず、また、公印の無断使用(農協分受託契約)については、3件中2件につき事後の決裁が得られており、扶養手当の受給についても、Xはその過誤を認め返納を申し出ているから、これらを懲戒解雇を相当とするほどの事由であると認めることはできず、Xには一定の懲戒事由がある上、代理人弁護士による相当の弁明の機会も行われているが、その前提となる調査委員会の調査は十分なものでなく、前記懲戒事由が、それ自体で懲戒解雇を相当とするほどの事由であるとは解されないことからすれば、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、懲戒権の濫用に当たるから、労働契約法15条に反し、無効である。

2 Xは、理事らは、何らの解雇理由もないのに、一体となってXを解雇しようと画策し、極めて悪性の強いパワーハラスメントを行って、結論ありきで解雇の手続を推し進め、Xを不当解雇したと主張するが、Xには一定の懲戒事由があることからすれば、理事らが何らの事由もなく一体となってXを解雇しようと画策したなどと認めることはできないこと等から、Y社のXに対する本件解雇は違法であるものの、理事らのXに対する不法行為の存在は認められず、そして、Y社がした本件解雇が違法であるとしても、Xには一定の懲戒事由の存在が認められることからすれば、本件解雇により賃金及びその遅延損害金の支払によってまかなわれない精神的損害を生じたと認めることはできないから、Xの不法行為に基づく慰謝料請求には理由がない。

相当性の要件の判断を使用者自ら適切に行うことは本当に難しいです。

顧問弁護士の客観的な判断を参考にして判断するというのが現実的だと思います。

解雇275 解雇のハードルの高さがよくわかる事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、介護職員の業務命令違反等に基づく解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人蓬莱の会事件(東京高裁平成30年1月25日・労判ジャーナル75号44頁)

【事案の概要】

本件は、特別養護老人ホームや老人デイサービスセンターの経営等を目的とする社会福祉法人であるY社との間で労働契約を締結して、特別養護老人ホームに勤務していたXが、Y社から解雇されたことについて、①上記解雇は、客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性を欠き、解雇権を濫用した違法無効なものであると主張して、Y社との間において労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②Y社に対し、労働契約に基づき、解雇の日の後である平成27年12月1日から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金、平成27年12月期の期末手当として47万5326円+遅延損害金並びに平成28年3月から本判決確定の日まで毎年3月末日限り11万8832円、毎年6月及び12月の各末日限り各47万5326円の期末手当の支払を求め、併せて、③上記解雇並びにこれに先立ち被控訴人法人及び社会保険労務士であるY2が共同して行った退職勧奨が不法行為(違法な退職強要)に当たると主張して、Y社らに対し、共同不法行為に基づき、損害賠償金330万円(慰謝料300万円、弁護士費用30万円の合計額)+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は、Xの各請求をいずれも棄却し、Xがこれを不服として控訴をした。

【裁判所の判断】

解雇無効

賃金等支払請求は一部認容

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 解雇は継続的契約関係を将来に向かって一方的に解消させるものであるから、仮に解雇事由が存在しても、将来これが解消する可能性があると認められるのであれば、労働契約の継続に支障はなく、解雇するまでの必要はないというべきところ、Xは、本件解雇通知を受けるに先立ち、平成27年には同僚のE看護師からB主任に関する発言について厳しく注意されたにもかかわらず、態度を改めようとはせず、同年4月、8月及び9月の3回にわたりA施設長から呼出しを受け、勤務態度や他の職員との協調性の欠如について問題点を指摘されながら、何ら顧みるところはなく、女性職員が多い職場特有の問題であるなどとして責任を転嫁し、問題の解決をはぐらかそうとする態度に終始したことなど、服務規律違反が改善される見通しがあったとは認められず、Xについて、将来、解雇事由解消の具体的な可能性があるとまでは認めることができない

2 以上のとおり、Xの債務不履行(服務規律違反)は就業規則所定の解雇事由(適格性の欠如)に該当し、将来解消される見通しがあったとはいえないところである。
しかしながら、解雇が労働者にもたらす結果の重大性に鑑み、使用者において解雇回避努力(解雇回避措置)を尽くさない限り、解雇について客観的に合理的な理由があるとはいえないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、Xによる服務規律違反は、主として年下の女性上司であるB主任に対する反感及び認知症の進んだ重症度の高い施設利用者を介護対象とする介護課2階の労働環境に起因すると認められ、介護課2階に異動するまでの1年余はさしたる問題行動は見られなかったことにも照らせば、Xを他の部署に配置転換し、他の上司の下で稼働させることを検討すべきであったと解されるところ、A施設長は、平成27年4月ころ、Xに対してデイサービス部門への配置転換を打診したにとどまり、これを超える解雇回避の措置を検討したことを認めるに足りる証拠はなく、介護課2階のほかにXを配置できる部署がなかったと認めるに足りる証拠もない
そうすると、Y社による解雇回避努力(解雇回避措置)が十分に尽くされたとはいえず、本件解雇に先立つ弁明の機会の付与などその余の点につき判断するまでもなく、本件解雇について、客観的に合理的な理由があったと認めることはできない。

3 この点につき、Y社は、業務指導、自宅待機、退職勧奨という一連の手続を経ても、Xは業務改善の要請に応じようとせず、Xを職場に戻すことで職場の秩序が乱れ、他の職員も業務上の指示命令に応じなくなり、介護課2階の責任者であるB主任も退職してしまうなど、本件施設の業務に重大な支障が生じるため、本件解雇はやむを得なかったと主張する。
しかしながら、この主張は、Xをそのまま介護課2階に配置することを前提としたものであり、前示のとおり他の部署へ配置転換することで解雇を回避できる可能性を否定できない以上、採用することができない。

4 Xは、Y社らによるXに対する退職強要及び不当解雇が不法行為に該当すると主張し、本件解雇及びこれに先立つ退職勧奨により精神的苦痛を受けたことによる損害賠償として慰謝料及びこれに関する弁護士費用の支払を求める。
そこで判断するに、本件解雇は前記のとおり無効であるが、これによる損害は、Xが復職し、それまでの未払賃金が支払われることで回復されるものと認められ、これを超えて本件解雇により慰謝料請求権が発生するものとすべき特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。
加えて、本件においては、解雇事由の存在を否定できず、Xによる服務規律違反の状態が改善する見通しがあったとはいえないのであるから、Y社において、本件施設の秩序維持及び業務遂行の必要から、Xに退職勧奨をし、最終的に普通解雇を選択したこと自体は理解できるところであり、その過程におけるY社らの行為に違法とすべき点はなく、解雇回避努力(解雇回避措置)を尽くさなかったことから直ちに控訴人に慰謝料請求権を認めるべき共同不法行為が行われたものともいい難い。

解雇のハードルの高さを感じずにはいられませんね。

上記判例のポイント1を読むと、会社側の苦労がよくわかります。

会社とすれば、配置転換しても解決しないと考えるでしょうね・・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇274 休職期間満了時の復職の可否の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間満了後の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

名港陸運事件(名古屋地裁平成30年1月31日・労判ジャーナル74号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、業務外の傷病を理由にY社から休職命令を受けていたところ、休職期間の満了に当たり、傷病から治癒し休職事由が消滅したことを理由に復職の申出をしたにもかかわらず、Y社がXの復職を認めずXを休職期間満了により退職扱いとしたことは違法無効であると主張して、XがY社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、休職期間満了日の翌日からの未払賃金の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

退職扱いは無効→地位確認認容

【判例のポイント】

1 Xが復職を希望した平成27年9月から10月当時のXの健康状態については、徐々に快方に向かっていて、遅くとも同年9月末頃の時点では、服薬をせずとも症状は落ち着いており、日常生活には支障のない健康状態にあったということができること等から、Xの健康状態については、本件診断書のみならず、休職事由となった私傷病の内容や症状・治療の経過、Xの業務内容やその負担の程度、Xの担当医やY社の産業医の意見等を総合的に斟酌し客観的に判断すれば、遅くとも休職期間の満了日である同年10月20日の時点では、日常生活に支障がないというにとどまらず職務遂行の可能性という観点からも、1日8時間の所定労働時間内に限ってではあるが、私傷病から「治癒」すなわち「従来の業務を健康時と同様に通常業務遂行できる程度に回復」しており、本件休職命令における休職事由は消滅していたものと認めるのが相当である。

2 確かに、本件においては、R病院の診療録中の医師の記載内容や産業医の意見等からすれば、Xが、胃の全摘出手術後、医師の専門的見地から客観的に見れば、必要以上に長期間にわたってR病院に入院及び再入院してきたとうかがわれなくもないが、本件休職命令における休職事由は「胃癌術後状態の療養及び治療への専念」であって、入院治療に限られるわけではなく自宅療養も含むものといえ、そして、Xがあえて事実と異なる症状を申告するなどして意図的に入院治療や自宅療養を引き延ばして欠勤してきたとまでは認め難く、Xが休職期間の満了直前になって復職を申し出たことが信義則に反し許されないものと解すべき事情があるということはできないから、Xの復職の申出が本件就業規則所定の要件を満たしていることを理由とするXの地位確認の請求は理由がある。

3 Y社は、Xからの復職の申出を踏まえて、平成27年9月14日に取締役や社労士らがXと面談した際には、少なくともXの段階的な復職を認める方向の発言をしていたものであるが、その後、産業医や医師から、Xの復職申出の時期に疑問を呈する内容の意見を聴取するや、改めてXと面談したり、就業規則に従ってY社の指定する医師への受診をXに命じることもなく、また、Xの復職時期等についての名古屋ふれあいユニオンからの説明要求にも応じないうちに、Xにとってみればおそらく唐突に、同年10月20日をもってXを退職扱いとしたものであるということができ、Y社の対応は、Xの復職に関する判断を誤ったというにとどまらず、手続的な相当性にも著しく欠けるものであって、その限度において、不法行為に当たるものといわざるを得ず、その慰謝料額としては、Y社がXの復職を拒否したことを無効と認めてXが労働契約上の権利を有する地位にあることを確認し、未就労の期間の賃金の支払を命ずることによって、Xの経済的損失はおおむねてん補されるといえること等の事情も考慮すれば、30万円が相当である。

上記判例のポイント3は参考にしてください。

このような事例で、手続的な相当性を著しく欠いているという理由から慰謝料が認められる例は珍しいです。

対応方法については顧問弁護士に相談をして決定しましょう。

解雇273 解雇事由の調査不足と解雇の相当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、試用期間満了による解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人佳徳会事件(熊本地裁平成30年2月20日・労判ジャーナル74号50頁)

【事案の概要】

本件は、認可保育園「かえでの森こども園」を設置運営するY社との間で雇用されていた元保育士Xが、Y社がした試用期間満了による解雇、その後の懲戒解雇及び普通解雇並びに期間満了による雇止めはいずれも無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位の確認を求め、試用期間満了による解雇日の翌日である平成28年7月1日以降分の賃金支払請求権に基づき、同年8月から本判決確定の日までの1か月あたりの賃金19万6400円等の支払いを求めるとともに、XはY社からXを退職に追い込むことを目的とした嫌がらせ等を受けた等、本件違法な解雇により精神的苦痛を生じたと主張して不法行為に基づく損害賠償として130万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの合志市役所への相談、合志市役所へのメール送信、熊本県への訪問について、Y社に不利益となる行為を取り続けており、Y社の企業秩序を破壊する行為を継続し、改善の余地はなく、懲戒解雇として相当である旨主張をしているが、合志市役所への相談が企業秩序を破壊する行為とはいえず、熊本県への訪問についても当該事実を認定できず、そして、合志市役所へのメール送信も、秘密の漏洩やY社の信用毀損等は認められないこと、職場の混乱についても、Y社の業務量が増えたというもので、企業秩序の破壊の程度が重大とはいえないこと、Xに企業秩序の維持の破壊の意図までは認められず、調査不足という過失により生じた結果であること、当該行為がXの解雇後の行為で、事前に職場で相談できない状況であったことを踏まえると、Y社が、他の懲戒の履行をせずに、直ちに懲戒解雇とすることは合理性を欠き、社会通念上相当とはいえないから、当該解雇は解雇権の濫用として無効である。

2 普通解雇についても、Xの各就業規則違反について、Y社が改善、指導を行った事実は認められず、勤務成績が不良で保育士としての就業に適さないとまでは認められないから、解雇権の濫用として無効である。

解雇事由の調査不足の結果、解雇事由が認定されないという流れにならないようにしなければなりません。

解雇を検討する際は、冷静にエビデンスの収集・評価をすることが必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇272 即時解雇通知の法的効果(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労基法20条に反する解雇通知が30日経過時点で有効とされた裁判例を見てみましょう。

雄武町事件(旭川地裁平成30年3月6日・労経速2343号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に地方公務員法22条1項に基づき条件付きで採用され、Y社が設置しているX病院に技師(医師)として勤務していたところ、条件付採用期間の勤務成績を不良と判断されて雄武町長から本件免職処分を受けたXが、Y社に対し、本件免職処分は違法であると主張して、行政事件訴訟法3条2項に基づき、本件免職処分の取消しを求めるとともに、違法な本件免職処分により精神的苦痛を受け、転居を余儀なくされるなどの損害を受けたと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、①慰謝料、転居費用、弁護士費用等合計654万8318円+遅延損害金、並びに②同年6月1日から本件判決確定の日までの間、転居後の住居とそれまで居住していた職員住宅の賃料差額として月額8万2548円の割合による金員の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 以上を前提に、条件付採用期間におけるXの勤務成績について検討すると、Xは、わずか6か月の条件付採用期間中の医療過誤に繋がりかねない誤りを複数回にわたって犯した上、医師が行うべき業務を、合理的な理由もないのに行わなかった。また、Xは、医師、あるいは医長として、他の職員に対して指揮命令をすべき立場にありながら、合理的な理由もなく、看護師を怒鳴りつけ、詰め寄るなどした。更に、Xは、本件病院の他の職員に対して協調性をもって接するべきであるにもかかわらず、職員に体当たりをし、詰め寄るなどの行為に及んだのであって、これらの事実からすれば、条件付採用期間におけるXの勤務成績は不良であったといわざるを得ない。

2 本件免職処分によりXが免職されるものとされた平成28年3月31日の30日前に解雇予告がされたことはなく、また、本件免職処分が通知された際に解雇予告手当が現に支払われたこともないが、Y社において本件免職処分により同月31日付けでXを免職することに固執する趣旨であったと認めるに足りる証拠はなく、かえって、Y社は22日分の解雇予告手当を含む退職手当を支払ったのであるから、本件免職処分につき、Y社が同月31日付けのXの免職に固執する趣旨であったとはいえない
そうすると、本件免職処分は、遅くとも、本件免職処分が通知された日の30日後である同年4月22日を経過した時点でその効力が生じたものというべきである。

基本的な点ではありますが、上記判例のポイント2の考え方は理解しておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇271 プロジェクト遅延等を理由とする解雇が有効と判断された理由とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、プロジェクト遅延等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

CAEソリューションズ事件(東京地裁平成29年2月28日・労判ジャーナル73号51頁)

【事案の概要】

本件は、Xが解雇されたところ、同解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の地位確認、解雇日以降の賃金、賞与、違法解雇による慰謝料の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、中途採用されてから1年数か月の間に複数のプロジェクトを担当し、いずれのプロジェクトにおいても、成果物の完成が遅れてもその進捗状況を上司に報告せず、納期の直前又は当日になると体調不良等を理由にして会社を休み、自らの職責から逃避するということを繰り返し、顧客からは不信感を抱かれてXを外すよう求められ、あるいは取引を事実上停止されるに至っており、Y社側は、懲戒処分としての減給、勤務改善勧告をなし、遵守事項等を指導しており、減給に対しても反省の態度は全く見られないこと等に照らせば、改善を期待できるような状況ではなく、解雇には客観的に合理的な理由がある。

ここまで揃えば、裁判所も解雇を認めてくれます。

多くの場合、こうなる前にしびれを切らして解雇してしまうため、無効と判断されてしまうのです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇270 解雇後の転職と復職の意思の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、クラブ従業員の解雇事件に関する裁判例を見てみましょう。

SEEDS事件(東京地裁平成29年5月25日・労判ジャーナル73号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社から平成28年10月31日に即日解雇されたが、当該解雇は権利を濫用したものであるから無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成28年11月から本判決確定の日まで毎月16日限り月額90万円の賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認は棄却

未払賃金支払等請求は一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、弁護士に依頼して本件労働審判事件を申し立てるとともに、Y社に対し復職を求める通知をしており、自らの意思で退職したにもかかわらず、費用をかけてわざわざ弁護士に依頼して解雇されたと訴えるとも考えにくいこと等から、Xは、Y社から平成28年10月31日に即日解雇されたとみるのが相当であるところ、ここで解雇の理由についてみるに、Y社が主張するXが2名の女性スタッフを引き抜いて他店へ移籍しようとした事実について、Xはこれを否定するところ、Y社はその情報源を明らかにしておらず、また、Xの入社の条件(女性スタッフの数及び売上額)が満たされていないことについて、改善及び代替案の提示を求め続けてきたということについても具体的に立証していないこと等から、本件解雇は、解雇理由が存在しないものであって、権利を濫用したものとして無効となる(労働契約法16条)。

2 地位確認及び解雇後の賃金を請求する前提としては、労働者が解雇された会社において就労する意思および能力を有していることが前提となるところ(民法536条2項)、Xは、本件解雇の後、生活のためにA社に再就職したことについても、A社から支給された給与がY社の給与を下回っていることからみても、それにより直ちに就労の意思を喪失したとは解されないが、Y社は、Xの復職を求める内容証明郵便も受け取らず、本件労働審判の期日にも出頭せず、本件訴訟の第1回口頭弁論期日の呼出状は受け取ったものの、続行期日の呼出状も受け取らず、本件裁判の口頭弁論期日に出頭しないのであって、Y社がこのような対応をする中で、Y社から即日解雇をされたXが、A社から、Y社からの給与額を下回るとはいえ安定的な給与を得ている中で、あえてY社に復職する意思を持ち続けているとは解されないから、Xは、本件の口頭弁論終結時である平成29年4月27日の時点には、Y社に就労する意思を喪失したものとみるのが相当であり、Xの地位確認請求は理由がない。

上記判例のポイント2は参考になりますね。

復職の意思の可否については、労働者側としては気をつけておかなければなりません。

解雇無効と判断されつつ、バックペイがほとんど認められないということになりかねませんので。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇269 整理解雇の4要素をいずれも充たさないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、新聞店における整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

林崎新聞店事件(東京地裁平成29年5月24日・労判ジャーナル73号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結して就労していた元従業員Xが、Y社のした解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇後本判決確定の日までの未払賃金等の支払並びに平成27年7月以降本判決確定の日まで毎年7月及び12月に各30万円の賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払賞与等は棄却

【判例のポイント】

1 Y社においては、平成27年8月期には経常利益が赤字になっていることが認められるが、他方で、平成21年度には960万円であったY社の役員報酬が平成23年度には1320万円、平成24年度には1560万円に増額されていることが認められるところ、仮に役員報酬額が平成21年度以降も同年度の960万円から増額されなければ、Y社の経常利益の額はさほど減少傾向にはならず、平成27年8月期においても赤字になることはなかったことが明らかであるから、人員削減の必要性が高かったとはおよそ認め難いというべきであり、また、Y社は、本件解雇の際、移籍をXに提案したと主張するが、当該提案の事実をもってY社が解雇回避のための経営上の努力を尽くしたと認めることはできず、さらに、勤続年数が最も長く、業務に習熟し、Y社専売所において営業上最も好成績を挙げていたXを、Y社が被解雇者として選定することの合理性は見当たらないものといわざるを得ず、本件解雇は即日告知されており、Xに対する十分な説明等が尽くされたともいえないから、本件解雇は、整理解雇の4要素をいずれも充たさないものであるから、有効と認めることはできない。

2 使用者は、労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間収入の額を賃金額から控除することができるが(民法536条2項後段)、労基法26条の趣旨を勘案し、上記賃金額のうち、労基法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当であるところ、Xは、本件解雇後Y社以外の雇用主から、平成27年に33万6751円、平成28年には70万9252円の給与支払を受けていること、平成29年1月以降は収入を得ていないことが認められるから、本件解雇中のXの平均賃金(30日分)の額は26万9188円(その4割は10万7675円)と認められる。

ただでさえ判断要素が厳しい整理解雇において、上記判例のポイント1のような事情に基づき整理解雇を有効に行うのは到底不可能です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇268 主治医の見解を採用せず、休職期間満了による雇用契約終了を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、主治医の見解を採用せず、傷病休職の期間満了による雇用契約の終了を認めた裁判例を見てみましょう。

東京電力パワーグリッド事件(東京地裁平成29年11月30日・労経速2337号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、傷病により休職し、就業規則の定めに基づく休職期間の満了により雇用契約が終了し、退職したとされたのに対し、休職期間満了時に復職が可能であったと主張して、雇用契約に基づき、労働契約上の地位の確認及び休職期間満了後である平成26年4月から本判決確定の日までの各月の月額給与31万3500円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xについて休職の事由が消滅したというためには、①休職前の業務である架空送電設備の保守、運用、管理の業務が通常の程度に行える健康状態となっていること、又は当初軽易作業に就かせればほどなく上記業務を通常の程度に行える健康状態になっていること(健康状態の回復)、②これが十全にできないときには、Y社においてXと同職種で、同程度の経歴の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、Xがその提供を申し出ていることが必要である(他部署への配置)。

2 Xは、主治医のE医師の診断を根拠として、復職が可能である旨主張する。
しかしながら、同医師の就労可能という見解は、リワークプログラムの評価シートを参照しておらず、リワークプログラムに関与した医師の見解等を踏まえていないものである上、患者の職場適合性を検討する場合には、職場における人事的な判断を尊重する旨述べていること等の内容自体に照らし、必ずしも職場の実情や従前のXの職場での勤務状況を考慮した上での判断ではないものである。
・・・一般的に、主治医の診察は、患者本人の自己申告に基づく診断とならざるを得ないという限界がある一方で、リワークプログラムにおいては、精神科医の指導の下、専門的な資格を持った臨床心理士が患者本人のリワークへの取組みを一定期間継続的に観察し、その間に得られた参加者の行動状況等を客観的な指標で評価し、医師と共有した上で最終的に精神科医が診断するものであることは前判示のとおりであり、Xが主張する事由をもってその評価を重視すべきでないとはいえない

3 Xは、本件休職前に勤務していた部署以外に、配置される現実的可能性のある他の業務を行う部署として、給電所系統運用グループ及び支社総務グループに加え、Xが平成16年から3年間勤務していた工事部門があると主張する。
しかしながら、給電所系統運用グループは、時々刻々と変化する電気の流れや電圧、周波数を24時間体制で監視し、電力の品質を保持しながらの安定的供給を担当する部署であり、深夜勤務を含む三交代制の勤務体制であり、電気や電圧の調整のために操作をする場合、ミスがあると広域停電等の可能性があるため、緊張を強いられるほか、社外の者とのやり取りが適切に行える必要がある部署であること、支社総務グループは、そもそも、Xのように技術職で採用された社員が通常配置される職場ではない上、業務内容も、人事、労務、損害賠償、経理、労働組合対応、自治体対応、非常災害、リスク管理対応等の多岐にわたる業務を担当する部署であり、他部署や社外とのやり取りが要求される部署であることが認められ、Xに精神疾患についての病識がなく、ストレス対処の習得が見込まれない状況であったことに照らし、Xにとっては、新たに配属された部署で業務を覚えたり、一から人間関係を構築すること自体が大きな精神的負担となり、精神状態の悪化や精神疾患の再燃を招く可能性があるというべきであるから、いずれの部署も、Xが配置される現実的可能性があったということはできない
また、Xが精神的な問題を感じてD産業医と初めて面談したのは、工事部門に所属していた平成18年であること、送電グループに戻った後も、療養休暇に入る直前までには、精神疾患により服薬治療をしているXのため、業務の負担軽減が行われ、本来行うべき外勤業務は担当せず、ほぼ内勤業務のみとなっていたにもかかわらず、本件休職に至ったことなどの事情を総合すると、工事部門についても、Xが配置される現実的可能性があったと認めることはできない

上記判例のポイント2は非常に参考になりますね。

復職の可否については極めて専門的な判断が求められますので、必ず顧問弁護士に相談の上、慎重に進めてください。