Category Archives: 解雇

解雇287 復職の可否判断における主治医と産業医の見解の相違(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間満了後の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

菱江ロジスティクス事件(大阪地裁平成30年6月19日・労判ジャーナル79号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、平成28年1月16日付けで休職期間満了前に治癒していたなどとして労働契約上の地位確認並びに未払い賃金等の支払を求め、また、Y社のa支店運輸部製品管理課への配転が無効であるとして同課に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求め、さらに、上司からのパワーハラスメントにより精神的苦痛を受けたとして使用者責任に基づく損害賠償等の支払及び復帰プログラムの実施により人格権を侵害されたとして職場環境調整義務の債務不履行に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了前の平成28年1月13日、同月7日より復職可能である旨の本件診断書を提出し、復職を申し出ていたから、Xは、休職期間満了前に労務の提供が可能な状態に回復していた旨主張するが、確かに、医師が同月6日付けで作成した本件診断書には、「H281月7日より復職可能と思われる」旨記載されていることが認められるが、本件診断書は、心療内科の医師が作成したものと認められるところ、医師が、Xの会社における職務内容を詳細に把握して本件診断書を作成したか否かは不明であり、本件診断書をもって直ちに、XがY社に対する労務の提供が可能な状態に回復していたと認めることはできず、また、Xは、同月13日、Y社に対し、本件診断書をファクシミリで送信すると共に、明日にも復帰可能である旨連絡したものの、結局、同月14日及び15日は体調不良を理由に出社せず、同月18日、19日及び20日も、Y社への連絡なく出社していないこと等から、Xが、休職期間満了日である同月16日の前に、Y社に対する労務の提供が可能な状態に回復し、休職事由が消滅したとまでは認められない。

2 Y社は、遅くとも休職期間満了の5か月程度前からXへの連絡を試み、3か月前にはXの自宅に赴いて連絡を取ろうとし、その後は、書面を送付して連絡を求めたり、休職事由が消滅しない状況が継続すれば就業規則の所定の手続により退職となる旨警告したりしており、Xが、休職期間満了3日前になって、出社する旨連絡した際も、Xの元上司であるg部長がa支店に赴いて待機するなどしているのであって、休職期間中であるXへの対応として不誠実な点は見当たらず、一方、Xは、平成27年10月2日付け診断書に記載された「2か月」が過ぎても、Y社に対し、休職事由の消滅や復職について前向きな連絡を行わず、平成28年1月13日(就職期間満了3日前)になって、Y社に対し、その1週間前の日付けで「復職可能と思われる」と記載された診断書をファクシミリで送信し、翌14日に出社する旨述べたものの、結局、同日及び同月15日は出社せず、同月18日ないし同月20日も、連絡なく出社しておらず、以上の経過を併せ鑑みれば、Y社が、就業規則に基づき、Xが、同月16日の休職期間満了により自然退職した旨の主張をすることが、信義則に違反するということはできない

主治医と産業医の見解が相違する場合、裁判所がどのような点に着目して判断するかを事前に理解しておくことは、このような事案を取り扱う上で、極めて重要です。

必ず顧問弁護士のレクチャーを受けてから対応しましょう。

解雇286 非違行為後の反省と解雇の相当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、論文盗用等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

国立大学法人滋賀医科大学事件(大阪地裁平成30年5月16日・労判ジャーナル79号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、大学の医学部看護学科の元教授Xに対し、Xが、自ら指導していた大学院生の修士論文を盗用及び改ざんし、大学の名誉及び信用を傷つけたとして、平成28年1月28日付けで懲戒解雇したため、Xが、大学に対し、本件解雇が違法無効である旨主張して、労働契約上の地位の確認並びに本件解雇後の賃金(賞与を含む)等の支払を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件非違行為は、盗用が1件にすぎないことを考慮しても、もとより大学の名誉及び信用を著しく害する重大なものであるところ、Xから真摯な反省の態度が窺われず、Xの規範意識の低さが顕著であることをも併せ考慮すると、雇用関係を維持しがたいほどに重大であるといわざるを得ないが、他方において、Xは、約15年弱にわたり大学に勤務し、その間、学科長や学長補佐等の要職を務めるなど大学に貢献したこと、Xには、本件解雇以前に処分歴がないことが認められ、これらの点はXのために酌むべき事情ではあるが、上記非違行為の重大性に鑑みると、Xについて情状酌量の余地がないものとして、Xを懲戒解雇とすることが、懲戒処分としての相当性を欠き懲戒権の濫用に当たると認めることはできないこと等から、本件解雇は有効であるから、これが無効であることを前提とするXの地位確認請求及び賃金請求は、いずれも理由がない。

2 本件解雇は有効であり、違法な点は認められないから、Xの損害賠償請求は理由がない。

当該行為発生後の本人の反省の態度についても処分の相当性を判断する上で考慮されますので、注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇285 解雇の有効性と社宅の賃料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、単身赴任手当の不正受給等を理由とした懲戒解雇処分につき有効性を認めた裁判例を見てみましょう。

KDDI事件(東京地裁平成30年5月30日・労経速2360号3頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結し、Y社の借上社宅に居住していたXが、平成27年11月18日に単身赴任手当等の不正受給や社宅使用料等の支払を不正に免れたこと等を理由として懲戒解雇され、Y社の退職金不支給規定に基づき退職金の支払を受けられなかったことについて、①主位的には、本件懲戒解雇は、Y社が指摘する各懲戒事由が存在せず、また、相当性も認められないことから懲戒権を濫用したものとして無効であると主張して、Y社に対し、本件雇用契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件懲戒解雇後、本判決確定の日までの賃金の支払を求め、②予備的には、仮に本件懲戒解雇が有効であるとしても、Y社が指摘する退職金不支給事由はXのそれまでの勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背任行為であるとはいえず、Xに本件不支給規定を適用することは許されないと主張して、Y社の退職金規程上の退職金支払請求権に基づき、退職金の支払を求める事案である。

本件反訴は、Y社が、Xは単身赴任手当等の各種手当を不正に受給したほか、入居資格を有していないにもかかわらずY社の借上社宅に居住し続けるなどし、本来Xが負担すべき債務をY社に負担させて同債務の支払を免れたなどと主張して、Xに対し、不当利得に基づき、Xの利得額及びこれに対する各利得日の翌日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の返還を求めるとともに、Y社の社宅規程上の社宅返還義務に基づき、上記社宅の明渡しと同義務が生じた後の日である平成28年4月1日から明渡し済みまでの賃料相当損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、126万0246円+遅延損害金を支払え。

Xは、Y社に対し、537万4904円+遅延損害金を支払え。

Xは、Y社に対し、平成28年4月1日から平成29年3月29日まで、毎月末日限り、月額8万6000円の割合による金員+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の就業規則上の懲戒解雇事由に該当する各行為を行ったものであるところ、その具体的な内容をみても、3年以上の期間において、Y社に対し、本来行うべき申請を行わなかったというにとどまらず、積極的に虚偽の事実を申告して各種手当を不正に受給したり、本来支払うべき債務の支払を不正に免れたりするなど、XとY社が雇用関係を継続する前提となる信頼関係を回復困難な程に毀損する背信行為を複数回にわたり行い、Y社に400万円を超える損害を生じさせたものである。
これらの事情に加え、前記のとおり、Xは、その後、Y社から弁明の機会を付与された際にも、前記のXの主張とほぼ同様の主張を行うにとどまり、本件懲戒解雇がされるまで、Y社に対して明確な謝罪や被害弁償を行うこともなかったことや、前記のとおりの本件懲戒解雇に至る経緯に照らして、同解雇の効力に疑義を生じさせるような手続上の瑕疵も認められないことからすると、Xが30年以上にわたりY社に勤務していたこと(なお、本件各証拠によっても、Xに顕著な功績があったとまでは認められない一方で、Xは、その経緯には争いがあるものの、前件懲戒処分の理由となった各行為も行っていたものである。)といったXが指摘する諸事情を考慮しても、本件懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものということはできない。

2 Xは、3年以上の期間において、XとY社が雇用関係が継続していく前提となる信頼関係を回復困難な程に毀損する背信行為を複数回にわたり行い、Y社に400万円を超える損害を生じさせるなどしてものであって、Xの同各行為は、上記のとおり将来にわたるXとY社の信頼関係を回復困難な程に毀損するのみならず、それまでのXの長年の勤続の功のうち、KDDにおける長年の勤続の功についても、相当大きく減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為に当たるといわざるを得ないものの、Xの上記各行為の時期、期間及び内容に照らして、その功を完全に抹消したり、その殆どを減殺したりするものとまではいえず、②一時金(加算金)315万0615縁については、本件不支給規定の適用も、その6割である189万0369円を不支給とする限度でのみ合理性を有すると解するのが相当である。

結果としては、本訴原告が本訴被告に支払うべき金額のほうがはるかに大きくなりました。

それはさておき、本裁判例からわかるとおり、懲戒解雇の有効性と退職金不支給は当然には連動しません。

とはいえ、この点を事前に把握することは現実的には極めて困難です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇284 飲酒運転を理由とする懲戒免職と相当性の要件(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、市職員の飲酒運転を理由とする懲戒免職に関する裁判例を見てみましょう。

茨城県市町村総合事務組合事件(水戸地裁平成30年7月20日・労判ジャーナル80号42頁)

【事案の概要】

本件は、茨城県下妻市の元職員Xが、飲酒運転による物損事故を起こして懲戒免職処分を受けたことに伴い組合長から一般の退職手当の全部を支給しないとの退職手当支給制限処分を受けたため、茨城県市町村総合事務組合に対し、同処分が違法であるとして、その取消しを求めるとともに、市町村職員退職手当条例に基づき、組合に対し、一般の退職手当等約2261万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分は無効

【判例のポイント】

1 下妻市の幹部職員であるXが飲酒運転をして物損事故を起こしたという本件非違行為の内容からすれば、公務に対する住民の信頼が一定程度失われたことは疑いようがなく、これによりXの退職手当の受給権が相当程度制限されること自体はやむを得ないといえるが、Xのこれまでの公務に対する貢献や、本件事故による被害の内容等をみると、本件非違行為は、Xのこれまでの公務に対する貢献が無に帰するほどの重大なものであると評価することは困難であり、本件制限処分によるXの経済的な不利益の程度等を併せ考慮すれば、本件非違行為の内容及び程度と不利益処分の重大性とが均衡を欠き、退職手当の全部の支給を制限することは衡平を欠き、重きに失するといわざるを得ないから、本件制限処分は、社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法であり、本件制限処分の取消しを求めるXの請求は理由がある。

相当性の要件で救済されました。

飲酒運転事案の裁判例は常に一定数ありますが、判断がまちまちで、結果の予測可能性はそれほど高くありません。

悩ましい判断が求められますが、過去の裁判例を参考に判断するほかありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇283 配転命令の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間の再延長が否定され、配転命令拒否等による解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

F社事件(神戸地裁平成30年7月20日・労経速2359号16頁)

【事案の概要】

本件は、原告が本件解雇は無効であると主張して地位確認等を求めるとともに、Y社による本件自宅勤務命令、徳島本社への配転命令、本件解雇はいずれも違法であると主張して不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは平成28年2月25日からY社において勤務を始め、徳島本社で研修を受けた後、4月14日から関西支社勤務となり、資産形成事業部関西営業課に配属されたが、5月13日に本件自宅勤務命令を受け、以後その状態が続いていた。そして調査の結果、関西営業課において業務に従事していた際のXの営業活動に業務フロー違反があったことが発覚しており、また、Cと結託してE取締役の意向に沿わない営業活動を行っていたことも疑われる状況にあった。Y社は、延長された試用期間の満了にあわせて本件自宅勤務命令を解除することとしたが、このような状況で、8月25日以降、Xをもとの関西営業課で勤務させることはできないと判断し、用地仕入業務に従事させることとするとともに、徳島本社において改めて研修を受けさせることにしたというのである。
認定事実によれば、このY社の判断を基礎づける事実が実際にあったから、本件配転命令には必要性があったといえるし、不当な動機・目的によって行われたものともいえない。これによってXが特に不利益を被るという事情も認められない。したがって本件配転命令が業務命令権の濫用とされることはなく、有効である。

2 本件配転命令は有効であるからXは平成28年8月25日以降徳島本社で勤務する義務を負ったが、本件解雇のあった9月5日まで1日も出勤しなかった。・・・しかもXは8月28日、「(本件配転命令によって)労働契約は終了ということになる、解雇になったと認識していいか」などのメッセージをD取締役に送信している。このことからすると、Xは遅くとも9月2日までに、本件配転命令を拒否する意思を明確にY社に表明したと認められる。
指定された勤務場所で勤務する意思がないことを従業員が表明するということは、就労の意思を放棄するにも等しいことであり、労働契約上の義務の重大な違反である。Y社の就業規則においても配転命令は「重要な職務命令」と位置づけられている(就業規則71条1項16号)。一方、本件配転命令に従わないことについて正当な理由は認められないし、特に酌むべき事情も認められない。
このように重大な義務違反である本件配転命令の拒否があったことに加え、秘密漏洩行為、業務フロー違反行為もあったのであるから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないということはできない。本件解雇に権利の濫用はなく、有効である。

配転命令について不当な動機目的(例えば、退職に追い込むためなど)に基づくものではないということをいかに立証するかがポイントとなります。

上記判例のポイント1のような流れが裏づけとともに主張できると有効と判断してもらえます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇282 唯一の事業の廃止に伴う整理解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、唯一の事業の廃止に伴う整理解雇が有効とされた事案を見てみましょう。

新井鉄工所事件(東京地裁平成30年3月29日・労経速2357号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、Y社の主要な事業である油井管製造事業の廃止に伴って解雇されたことが解雇権の濫用に当たり労働契約法16条により無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 まず、解雇回避努力義務として、配転の余地があったかについてみるに、Y社は、Y3等の所有不動産の管理について専門の不動産管理会社に委託しており、Y社内部では経理担当の1名がその関連事業に従事しているのみであって、もともとY社において何らの部門もそれに従事する人員も存しなかったものであるから、Y社において、不動産の賃貸をその事業として行っていたといえるにしても、これについて更に人員を配置する余地はなかったというべきであるし、専門の業者に対する不動産管理業務の委託を止め、不動産の管理を行う部門を創設するなどして、Xらを配転する義務を負っていたともいえないというべきである。
また、Y社の関連会社についても、同様に不動産事業部門に配置する余地はない上、油井管製造事業からの撤退により、同事業に従事させる可能性も失われたものであるから、Xらを転籍等させる余地はなかったというべきである。

2 被解雇者の選定については、事業撤退の判断が経営判断として合理的であり、他の事業部門等への配転可能性がない以上、油井管製造事業に従事していた従業員全員のうち希望退職に応じない者全てがその対象となるのは当然であるから、この点は本件解雇の効力を左右しない。

3 Y社は、油井管製造事業から撤退することを決定した後、平成27年12月11日から21回にわたってXらの所属する組合と団体交渉を行い、事業撤退に至る経緯について、組合の求める資料の開示に応じながら説明を重ねてきたものであり、交渉経過をみてもその交渉態度に不誠実な点は見当たらず、Y社が全従業員に対する希望退職募集を開始した時期も含めて、Xらに対する説明等が不相当であったことを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。

4 以上によれば、Y社が油井管製造事業からの撤退を決断したことはやむを得なかったというべきであって、これに伴う人員削減の必要性は高度なものであり、解雇回避努力義務という面でも、Xらについて配転可能性等他業務に従事させる余地はなく、特別退職金の支給や就職支援サービスの利用など、解雇によりXらに与える不利益を緩和する措置も採られており、被解雇者選定の面での問題もない上、Y社が組合に対し資料を開示して上記事業撤退の経緯、必要性を説明するとともに、退職に伴う条件提示を行ってきたものであるから、手続面でも問題は認められない。したがって、本件解雇は、客観的に合理的理由があり、かつ社会通念上も相当と認められるものであって有効であるから、それが無効であることを前提とするXらの請求はいずれも理由がない。

唯一の事業を廃止するときであっても、上記判例のポイントのとおり、手続をしっかり踏むことが求められます。

拙速な対応をしてしまうと、整理解雇が無効と判断されることもありますのでご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇281 酒気帯び運転に基づく懲戒免職処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、酒気帯び運転等に基づく懲戒免職処分取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

鳥取県・鳥取県警察本部長ほか事件(広島高裁松江支部平成30年3月26日・労判ジャーナル78号42頁)

【事案の概要】

本件は、鳥取県警察本部の事務吏員であったXが、職務外で酒気帯び運転及び当て逃げをしたこと等を理由として、鳥取県警察本部長から懲戒免職処分を受けたこと、同処分を受けたことを理由として、同本部長から一般退職手当等の全部を支給しない旨の処分を受けたこと、酒気帯び運転及び安全運転義務違反を理由として、鳥取県公安委員会から運転免許取消処分を受けたことについて、いずれの処分にも鳥取県警察本部長の裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した違法があると主張して、鳥取苑に対し、上記各処分の取消しを求めた事案である。

原判決は、Xの上記請求をいずれも認容したため、鳥取県がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

運転免許取消処分取消請求は認容

懲戒免職処分等取消請求は棄却

【判例のポイント】

1 飲酒運転が死亡事故等の重大な結果を引き起こしかねない、それ自体危険かつ悪質な行為であること、飲酒運転に起因する事故は後を絶たず、飲酒運転撲滅に向けた社会的要請が高まっていること、本件運転についても、その動機や経緯に特に酌むべき点は全くないこと、本件事故を引き起こし、その後も本件バンパー脱落時には別の箇所で縁石に接触しそうになるなどその走行方法は危険であり、走行距離も短くはなかったこと、Xは、警察組織の一員として、飲酒運転防止に向けた指導及び注意喚起を再三、しかも本件運転の直前の会議でも受けていた中で飲酒運転に及んだものであり、本件運転が他の警察組織職員に心理的な悪影響を与え、警察組織に対する信頼を大きく損ない、社会的な影響も大きいとみられ、本件運転について強く非難されるべきであること等から、本件懲戒免職処分は、鳥取県警察本部長が有する裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法であるということはできない

2 Xは、交通違反や交通事故さえしなければ飲酒運転は発覚しないものと考え、安易に飲酒運転に及び、本件事故を引き起こすなど危険な状態で約8.3キロメートルも本件車両を走行させ、本件事故後に事故現場を走り去っていること等に照らすと、Xには本件懲戒免職処分以前に前歴や処分歴はなく、勤務成績もおおむね良好であったこと、Xがデリニエーターの被害を弁償したこと等を考慮しても、本件退職手当支給制限処分は、懲戒免職処分の場合に全部不支給を原則とし、一部の支給を制限する場合の検討事項を定めた本件支給基準に反するとはいえないし、鳥取県警察本部長が有する裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法であるということはできないこと等から、本件退職手当支給制限処分の取消しを求める元職員の請求は、理由がない

高裁で結論が変更された事案です。

職務外とはいえ、警察組織職員ということもあり、厳しい判断となったものです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇280 懲戒(降格)処分と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒(降格)処分無効と支店長の地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

大東建託事件(東京地裁平成30年4月26日・労判ジャーナル78号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、平成28年9月30日付けのA支店支店長から担当へ降格する旨の懲戒処分は無効であると主張して、Y社に対し、平成30年3月31日まで同支店長の地位にあることの確認を求め、同処分以降に係る同処分前の賃金との差額、平成28年10月分から同年12月分までの約199万円、平成29年1月分から同年6月分までの約419万円、同年7月分から同年10月分までの約304万円、同年11月分から平成30年3月分までの約521万円等の支払を求めるとともに、Y社の従業員からパワハラを受けたとして、民法715条の使用者責任に基づき、慰謝料500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒処分(降格)は有効

損害賠償請求も棄却

【判例のポイント】

1 Y社において、本件通知が平成27年4月1日に発出されており、立地・家賃審査依頼書や家賃審査書において事故歴の有無を確認する欄が設けられたことに鑑みても、Xは、支店長として当然にその内容を把握し、支店内で同通知を周知徹底すべき立場にあったものであるから、本件事故歴が発覚した時点で、本件通知の内容に従って本社に一般申請すべきであったにもかかわらず、本社に報告等をしないで本件売買契約を締結したものであり、その結果、Y社は、本件土地の入居者募集等のやり直しなどを余儀なくされたことからすれば、Xの行為は、Y社の定める規程及び指示に違反し、Y社の信用等を損なう行為であるといえること等から、Xの上記各行為は、Y社の懲戒規程所定の懲戒事由に該当する

2 Xは、支店長という立場にありながら、部下であるB課長及びC課長に対し、本件通知に反する行為を指示したものであり、その結果、Y社は、組織としての本件火災死亡事故の報告を受けて認識していた状態にあったにもかかわらず、Xの通知違反の指示により、火災死亡事故の告知をせずに本件土地上のアパートの入居者を募集するに至ったものであり、入居者に対する告知義務違反ともなり得る重大な法令遵守(コンプライアンス)上の問題を生じさせた行為である上、Y社が大東建物管理の損害を補填するなど一定の実損害も発生していること等から、Xの上記各行為による責任は、相当に重いといわざるを得ず、本件懲戒降格処分によりXの基本給等が大幅に減額されたことなどXの不利益を考慮しても、本件懲戒降格処分が重すぎるものとして社会通念上相当性を欠くということはできないというべきである。

この事案で懲戒解雇までしてしまうと相当性が認められない可能性も出てくるところです。

降格処分により、大幅な賃金の減額が生じたとしても、事案の重大性からすれば相当であるという判断です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇279 産業医意見の信用性が否定される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、産業医意見の信用性が否定され休職期間満了に伴う退職扱いが無効とされた裁判例を見てみましょう。

神奈川SR経営労務センター事件(横浜地裁平成30年5月10日・労経速2352号29頁)

【事案の概要】

本件は、労働保険事務組合であるY社の従業員であったXらが、X1はうつ状態を、X2は適応障害を発症してそれぞれ休職したところ、休職期間満了日の時点で復職不可と判断され自然退職の扱いとされたことについて、主位的には、Xらは復職可能であったことから本件各退職扱いはY社の就業規則の要件を満たさず無効であるとして、予備的には、仮にXらが復職可能でなかったとしても、XらとY社との間の従前の経緯に照らし本件各退職扱いは信義則に反し無効であるとして、Y社に対し、X1は、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②給与等の支払をそれぞれ求め、X2は、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②給与等の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

【判例のポイント】

1 X1が本件退職扱いAの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたことの証拠としては、うつ状態の病状改善により復職可能とのG医師の診断書(平成27年5月21日付け)があるところ、①X1は、本件休職命令Aの際には、不安、気分の落ち込み、眠れない、食欲不振、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態で、投薬も受けていたが、本件退職扱いAの当時は、睡眠がとれるようになり、食欲も出て、投薬も終わっており、気分の落ち込み、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態も認められなかったこと、②本件面談Aにおいても、X1は、体調がよく、復職の意欲があることを話し、何ら不自然不合理な点は認められず、精神障害が疑われる事情は何らうかがわれなかったこと、③X1は、平成26年10月17日、平成27年1月30日、同年5月11日に行われた第2訴訟の各期日に、何ら問題なく出廷できていることからすれば、上記診断書は、信用できる。
そして、X1は労働保険事務組合関係業務、庶務関係業務等、具体的には、窓口業務、電話対応、書類整理に従事していたところ、これらの業務の内容からすれば、X1は、同年6月7日の本件退職扱いAの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。

2 H医師は、Xらについて、①自分の行動分析も含めて客観的な振り返りができず、冷静に内省できているとは言い難い、②再発予防対策として必須の、組織の一員としての倫理観、周囲との融和意識に乏しい、③自分の症状発現には、組織の対応及び周囲の職員の言動が一義的原因であるとして一貫して組織及び職員を誹謗するに終始したと判断している。
しかしながら、上記判断は、一定の基準ないし価値判断、すなわちXら自身が、Y社や他の職員とのトラブルの原因であるとの見解を前提としたものと解されるところ、第1訴訟が本件和解条項を含む和解で終了していること、第2訴訟もX1の主張が認められ、請求認容判決が宣告され、これが確定していることからすれば、その見解には疑問がある上、本件面談A及び本件面談Bにおいて、XらにH医師の上記評価の根拠となり得るような発言があったとの事情も窺われないことからすれば、H医師の上記評価は、採用できない
H医師は、本件各退職扱いの時点において、X1については、人格障害、適応障害であり、統合失調症の症状も診られると指摘し、X2については、自閉症スペクトラム障害、うつ状態、不安症状、自律神経失調症状があり、依存性の性格傾向があると指摘する。
しかしながら、H医師自身も、上記精神障害の指摘は診断ではなく判断であると述べており、Xらは医学的には病気ではなかったと認めていること、さらに、精神科医であるJ医師が、X1について統合失調症、人格障害であることを否定し、同じく精神科医であるI医師も、X2について自閉症スペクトラム障害、人格障害であることを否定していること、そもそも本件面談Aは1回約40分、本件面談Bは3回で、各回約30分から約40分にとどまり、このような限られた時間での面談により、上記のような判断が可能であるかについても疑問が残ることからすれば、H医師の前記各指摘は、合理的根拠に基づくものであるとは認められず、採用できない
以上によると、Xらが本件各退職扱いの時点で復職不可の状態であったとするH医師の意見書及び証言は、到底信用できない。

休職期間満了時に、主治医意見と産業医意見が相反する場合に会社としてはどのように判断すべきかという問題は、判断がとても難しいですが、よく発生する問題です。

裁判所の考え方を踏まえて、慎重に対応しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇278 事前承認のない休日出勤中の事故後の解雇と解雇制限の適用の是非(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、事前承認のない休日出勤中の事故後の解雇と労基法19条1項に関する裁判例を見てみましょう。

日本マイクロソフト事件(東京地裁平成29年12月15日・労判1182号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Y社に対し、平成25年6月29日付け解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 AがXに対して同月9日の休日出勤を指示したとはいえないものの、事前承認を得ずに勤務することの多いXが同月9日から同月11日までの間に宿題提出のために作業すること、すなわち休日出勤をすることは想像に難くなく、許容していたといえる。そうすると、Xは、業務遂行のためY社の支配下にある事業場で本件事故に遭ったと認められ、業務起因性があるといえる。

2 本件事故があったとされる平成25年2月9日からY社が本件解雇を通知し以後の就労を免除した同年5月29日までの間において、Xは、午前休や全休を取得したと主張するが、Xの主張する日は、所定休日あるいは、所定労働日に所定労働時間7.5時間以上の勤務実績がある日であり、休業の事実が認められない。
したがって、労働基準法19条1項の解雇制限の適用はない

3 Xは、形式的に休業していなかったとしても、身体的状態として本来欠勤して療養すべき健康状態にあった以上、労働基準法19条第1項の解雇規制が直接適用ないし類推適用されるべきであると主張する。
しかし、労働基準法19条1項はあくまで業務上の傷病の「療養のために休業する期間」の解雇の意思表示を禁止している規定であることは文理上明らかであるから、Xの上記主張は採用しない。

労基法19条1項の解雇制限は、あくまでも「療養のために休業する期間」についてのものなので、休業していない場合には同条の適用はありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。