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解雇297 復職の可否の判断における主治医の診断書の信用性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、パワハラの存否と休職期間満了自然退職扱いの有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

コンチネンタル・オートモーティブ事件(東京高裁平成29年11月15日・労判1196号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、①XがY社から長時間残業による過重労働を強いられたこと、上司から名誉毀損又は侮辱を受けたり、恫喝して責められたりするなどのパワーハラスメントを受けたことなどによって適応障害を発症した旨を主張して、民法709条又は同法715条1項に基づき、121万円(慰謝料110万円と弁護士費用11万円の合計額)+遅延損害金の支払を求め、また、②平成24年4月分から同年7月分までの未払残業代として70万8643円+遅延損害金の支払を求め、さらに、③Y社が休職期間満了によりXを自然退職としたのは無効である旨を主張して、Y社に対する労働契約上の地位の確認並びに平成26年11月から本判決確定に至るまで、賃金として毎月25日限り月額36万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの上記①及び同③に係る各請求をいずれも棄却し、上記②に係る請求のうち、Y社に対して、4万0184円+遅延損害金の限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却したところ、これを不服とするXが本件控訴を提起し、Y社が本件附帯控訴を提起した。

【裁判所の判断】

本件控訴を棄却する。
本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
Y社は、Xに対し、2万6160円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了による自然退職が、労働者の地位を脅かすものであり、Xが復職可能な寛解状態にある旨の診断書が存在する以上、Y社は、それを否定する積極的で客観的な立証をすべきであるにもかかわらず、それがないのであるから、Xの復職は認められるべきである旨を主張する。
しかしながら、復職の要件である「休職事由が消滅したこと」、すなわち、Xの負傷疾病が寛解し、XがY社において従前どおりの業務遂行をすることができる身体状態に復したこと(就業規則49条1項、47条1項1号)については、Xが主張立証しなければならない事項であるところ、前記のとおり、平成26年10月29日の時点において、XがY社における就労が可能な身体状態を回復したと認めるに足りる証拠はないのであるから、Y社が、Xの休職事由が消滅しておらず、Xの復職は困難であると判断したことは、やむを得ないものといわざるを得ない。
そうすると、Xの上記主張は理由がなく、その余の主張するところも理由がなく、いずれも採用することができない。

2(一審判断)産業医であるI医師も、患者の強い意向により復職可能とする診断書を書く場合がある旨述べており、主治医であるJも、本件診断1から本件診断2への診断の転換について、Xが解雇を通告されて復職の希望を示したことを理由に挙げていることからすれば、本件診断1から本件診断2への転換は、Y社を退職となることを避けたいというXの意向が強く影響しているといえる
また、Jは、本件診断2の当時、医師としては通常勤務ではなく制限勤務とすべきと考えていた旨述べること、Xが抗うつ剤や比較的強い睡眠導入剤の処方を受けていたこと、Xの通院の頻度も通常の患者よりも高いものであったことなどに照らせば、Xの病状が、同月31日まで自宅療養を要するとされた本件診断1の状態から軽快しておらず、本件診断2において通常勤務可能とされた理由は、もっぱらY社を退職となることを避けたいというXの希望にあったというべきである。
以上によれば、休職開始から1年の期間が満了する平成26年10月29日の時点において、Xの体調は、上記就労不可とする本件診断1のとおり就労に耐え得るものではなく、上記時点において復職を不可としたY社の判断は正当というべきであるから、休職期間の満了により、Xを退職扱いにしたことは有効であり、Xの主張は採用できない。

上記判例のポイント2は非常に重要な視点です。

休職期間満了時に起こりうる典型的な問題ですので、どのように対応すべきかを予め知っておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇296 懲戒解雇の有効性判断における考慮要素とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒解雇等無効に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

関東食研事件(東京地裁平成30年8月15日・労判ジャーナル85号58頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、Y社がXにした懲戒解雇が解雇権の濫用に当たり無効であり、Xに対する不法行為に当たる、Y社在籍中にY社代表者から日常的にパワーハラスメント又は嫌がらせを受け、これらがXに対する不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、逸失利益約499万円及び慰謝料100万円等の支払を求めるとともに、Y社がXに対して2回にわたって行った賃金の減額が無効であるなどと主張して、XとY社との間の労働契約上の賃金請求権に基づき、未払月例給与及び未払賞与の合計約130万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

賃金減額は無効

損害賠償請求は一部認容

【判例のポイント】

1 懲戒事由に当たる事情(独断で受発注書類の一部を破棄したこと、顧客からの問合せに対し、わからないと答えたこと、取引先に送付する書類を他の取引先に誤送付したこと、配送漏れがあったこと、勉強会に参加しなかったこと、来週月曜日から出社しないと発言したこと、J社の向上からの発注を拒んだこと)については、いずれもY社又はJ社に大きな損害又は業務上の支障を与えるようなものではなく、Xにはこれまで懲戒処分歴が全くなく、本件解雇に当たっては、Xに事情を聴取するなどの手続もなく、上司から会社代表者への電話による一方的な訴えを契機として、突如Xに対し、当該通話の中で通告されたこと、本件解雇によるXの経済的不利益なども考慮すると、上記懲戒事由について、Y社が本件就業規則に定める4段階の懲戒処分の中でも最も重い懲戒処分を選択したことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合に当たるというべきであるから、懲戒解雇として行われた本件解雇は、労働契約法15条の規定により、懲戒権を濫用したものとして、無効となる。

2 本件解雇は、著しく社会的相当性を欠く性急かつ拙速なものであるところ、Xは、違法な本件解雇により、約11年間続いていた本件労働契約が突如終了し、会社からの収入を絶たれた上、その年齢から見れば、本件労働契約と同一の条件での再就職は困難な状況に置かれたというのが相当であるが、他方で、Xは、本件解雇後直ちに会社への復帰を断念し、解雇予告手当を請求した上で、就職活動を開始し、パートタイム労働者として新たな勤務先と労働契約を締結していること等の事情も考慮し、本件解雇時のXの月例給与額の6か月分である127万5000円をもって、Y社による違法な本件解雇との相当因果関係がある損害と解するのが相当であり、また、Xは、会社代表者から、業務中に注意を受けた際に、後頭部を叩かれ、他の従業員の前で、寄生虫と同視するような発言を受けたところ、これらによってXが受けた身体的、精神的な苦痛に鑑み、慰謝料として、10万円をもって相当と認める。

上記判例のポイント1のように、会社とすれば、これ以上雇用を継続できない事情があったとしても、解雇をする前に必要なプロセスを経ることがとても重要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇295 能力不足を理由とする解雇を有効に行うためのプロセス(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、能力欠如等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

シンボリックシティ事件(東京地裁平成30年9月13日・労判ジャーナル84号50頁)

【事案の概要】

本件は、シェアハウス等の経営・運営・管理、不動産の所有・売買・仲介・賃貸・管理・あっせん並びにコンサルティング業務等を目的とするY社に雇用されたXが、Y社によって行われた解雇が無効かつ違法であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、同契約に基づく上記解雇後の賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが退職することに応じた旨を主張するところ、本件雇用契約においては、Y社がXに対して解雇通知書を発出して明確に「解雇」の意思表示をしていること、また、その後に解雇理由証明書も発出されて、同書面に解雇理由が列記されていること、さらに、Y社が債権者に宛てて発出した自身の経営状況を知らせる通知においても従業員を解雇するに至った旨が明記されていること、これに加えて、Xが退職勧奨に合意をしていない旨を明らかにしていることからすると、Y社がXを解雇したことが明らかに認められ、これに照らすと、解雇理由証明書においてXの退職合意に関する記載をY社が一方的にしているからといって、これによって、そのような退職合意の事実があったことを推認することはできないから、Xが退職することを合意したとのY社の主張は理由がない。

2 Xは、Y社に入社した当初頃の平成28年11月分の基本給が25万円であったところ、その後に稼働を続けて、本件解雇当時である平成29年12月までには、基本給28万円及び資格手当3万円の月額合計31万円に昇給したばかりでなく、時には報奨金やインセンティブの支払を受けていたことが認められ、これらの事実からすると、Xは、Y社において特段の落ち度なく勤務してきたものと推認されるが、これに対し、Y社は、Xの職務遂行能力が欠如している等の解雇理由を様々に主張するが、そのような事実を客観的に的確に認めるに足りる証拠は一切ないから、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、解雇権を濫用したものとして無効である。

能力不足を理由として解雇する場合には、しっかり証拠を揃えなければ認定してもらえません。

事前準備なく解雇をしてしまうと訴訟になってからが大変です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇294 即戦力としての中途入社従業員に対する試用期間中の解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間中になされた解雇に関する裁判例を見てみましょう。

Ascent Business Consulting事件(東京地裁平成30年9月26日・労判ジャーナル84号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に中途採用されたXが、その試用期間中に本採用拒否(解雇)されたところ、同解雇が客観的合理的理由を欠き、社会通念上も相当でないとして無効であると主張し、労働契約上の地位確認を求めるとともに、同解雇後の賃金請求権に基づき、54万3750円等並びに平成28年4月から毎月25日限り100万円等の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

【判例のポイント】

1 Xは、会社が自ら6か月間という試用期間を設定し、それが本件雇用契約の内容となっている以上、その期間経過を経ずに雇用を打ち切るとの判断を正当化するだけの高度の合理性、相当性が求められるとして、そのような高度の合理性、相当性が認められない本件解雇は無効である旨主張するが、Xはその年齢、経験等に照らして一定程度の分別を求められてしかるべき立場にあり、かつ、一定程度の能力を有することを前提とし、高額の報酬をもって即戦力として会社に迎え入れられたものであることに照らすと、その改善可能性を過度に重視することは相当でないというべきであるから、このような労働者について、雇用契約の内容に見合うだけの資質、能力を有しないことが合理的な根拠をもって裏付けられた場合にまで、試用期間の満了を待たなければ本採用拒否ができないと解することは相当ではなく、加えて、Xの言動により会社内に著しい迷惑をかけ、混乱を生じさせているのは明らかである以上、試用期間の中途であっても解雇の意思表示をすることが許されないとする合理的な理由はないというべきである。

本件のように、即戦力として中途入社した場合にはこのような判断をよく見かけます。

なお、一般的に、試用期間中だからといって、解雇が容易にできるわけではありませんので誤解しないようにしましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇293 積極性の欠如を理由とする普通解雇が有効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、積極性の欠如等を理由とする普通解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

アクセンチュア事件(東京地裁平成30年9月27日・労経速2367号30頁)

【事案の概要】

本件は、コンピュータ・ソフトウェアの設計、開発、制作、販売、リース、賃貸及び輸出入等を目的とする株式会社であるY社に雇用されたXが、Y社によって行われた解雇が無効かつ違法であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、同契約に基づく上記解雇後の賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・そのように業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題をXは入社当初からY社によって繰り返し指摘されていたにもかかわらず、結局のところXは、自身の問題点を、そもそも自身が得意とする仕事を割り当てない会社側の問題点であるとすり替えて、自らの意識や仕事ぶりを全く顧省みることなく、これによって他のメンバーとの協働に支障を来していることにも思慮が至らないのであるから、Xについては、少なくとも就業規則54条2号に定める解雇事由があり、本件解雇には客観的に合理的な理由があるといえる。

2 そして、Xの解雇事由がそのような業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題であり、これを長年にわたって繰り返されたフィードバック等による私的によって容易に認識し得たにもかかわらずPIPで改善すべき点を示されるまで全く明らかにされてこなかったなどとしてそもそもの認識すら欠如していたこと、仕事の姿勢に対する基本的かつ根本的なY社の考えを明らかにされてもなお「積極性」の意味を手前勝手に解釈してこれに反する考えを一切受け容れないこと、そのようなXに対してY社において普通解雇の可能性を示唆しつつPIPを実施したことや退職勧奨を試みたこと等を併せて鑑みれば、本件解雇は社会通念上相当なものであるといえる。

3 これに対し、Xは、Y社のアサイン制度が解雇権濫用法理との関係ではらむ問題点等を主張するが、それは単に一般的抽象的な懸念にすぎず、Xの主張を採用することはできないし、Xの技術力が一定程度評価されていたことや職位を落とすことによってアサイン継続の可能性が検討された事実があったことといったXに有利な事情を全て踏まえても、前記認定・説示に係る具体的なXの勤務態様及び業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題に照らして、解雇の有効性に係る上記判断が覆るものではない。
したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当であって、有効である。

一般には、積極性の欠如等を理由に解雇することはとてもハードルが高いです。

本件でも、会社はいきなり解雇したわけではなく、根気強く指導・教育をしています。

多くの場合、会社がそこまで忍耐強く指導できないために、相当額の解決金を支払って和解しているわけです。

また、今回は結果として解雇が有効になっていますが、仮に相当性の要件で解雇が無効となれば、バックペイの金額がかなり高額になるというリスクを会社側は負うことになります。

リスクヘッジの意味でも、ある程度の解決金を支払うという判断がなされることは十分にあり得ることです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇292 職場内での録音禁止命令への違反と普通解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職場内での録音禁止命令への違反等を理由とする普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁立川支部平成30年3月28日・労経速2363号9頁)

【事案の概要】

1 本訴請求

本訴請求事件は、Y社に期間の定めなく雇用されたXが、Y社に対し、Xに対する平成28年6月27日付け普通解雇は無効であると主張して、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成28年7月分以降の賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 反訴請求

反訴請求事件は、別紙物件目録記載の建物(A寮)を所有するY社が、Xに対し、Xが本件普通解雇によりY社の従業員たる地位を失ったことを前提に、社宅使用契約の終了に基づき、A寮の一室で社宅である別紙物件目録記載の建物部分(本件社宅)の明渡しを求めるとともに、明渡期限の翌日である平成28年7月12日から本件社宅の明渡済みまで1か月9500円の割合による使用料相当損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求はいずれも棄却

Xは、Y社に対し、本件社宅を明け渡せ。

Xは、Y社に対し、平成28年7月12日から前項の明渡済みまで、1か月9500円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 企業にとって納期の遵守が信用の確保などの点で重要であることは、社会通念上明らかであり、被用者は、納期に終了していない業務があるのであれば、定時に帰宅する場合であっても、少なくとも、定時前ないし帰宅前に上司等にその旨を報告し、必要な引継ぎを行うべき雇用契約上の義務を負うものと解される。
しかし、Xは、納期が翌日の業務があるにもかかわらず、それを自分で完成させることも、必要な報告・引継ぎを行おうとすることもなかったばかりか、指導係からの注意にも何ら応答せずに帰宅しているのであって、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、これについての注意や指導を受け入れない姿勢が顕著で、改善の見込みもないといわざるを得ない。このことは、Xが本人尋問において、納期が明朝朝一番に迫っていても残業命令がない限りは定時に帰り、命令がない限りはその旨を報告する必要もないと明言していることからも顕著であり、Y社がこのようなXに任せられる仕事はないなどと判断したのも、やむを得ないものである。

2 Xは、Y社において、就業規則その他の規定上、従業員に録音を禁止する根拠がないなどと主張する。しかし、雇用者であり、かつ、本社及び東京工場の管理運営者であるY社は、労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、被用者であるXに対し、職場の施設内での録音を禁止する権限があるというべきである。このことは、就業規則にこれに関する明文があるか否かによって左右されるものではない
また、Xは、録音による職場環境の悪化について、具体的な立証がないなどと主張する。しかし、被用者が無断で職場での録音を行っているような状況であれば、他の従業員がそれを嫌忌して自由な発言ができなくなって職場環境が悪化したり、営業上の秘密が漏洩する危険が大きくなったりするのであって、職場での無断録音が実害を有することは明らかであるから、Xに対する録音禁止の指示は、十分に必要性の認められる正当なものであったというべきである。
さらに、Xは、Y社において秘密管理がなされていなかったとして、録音を禁止する必要性がなかったなどと主張する。しかし、Y社が秘密情報の持ち出しを放任しておらず、その漏洩を禁じていたことは明らかであり(就業規則7条)、Xが主張するような一般的な措置を取っているか否かは、情報漏洩等を防ぐために個別の録音の禁止を命じることの妨げになるものではないし、そもそも録音禁止の業務命令は、上記によれば、秘密漏洩の防止のみならず、職場環境の悪化を防ぎ職場の秩序を維持するためにも必要であったと認められるのであって、Xの主張は、採用することができない。

3 以上を総合すれば、Xは、もともと正当性のない居眠りの頻発や業務スキル不足などが指摘され、日常の業務においても、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、適切な労務提供を期待できず、私傷病休職からの復職手続においても、目標管理シート等の提出においても、録音禁止命令への違反においても、自己の主張に固執し、これを一方的に述べ続けるのみで、会社の規則に従わず、会社の指示も注意・指導も受け入れない姿勢が顕著で、他の従業員との関係も悪く、将来の改善も見込めない状況であったというべきである。
これによれば、Y社が「著しく仕事の能率が劣り、勤務成績不良のとき」及び「その他前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」(就業規則79条4号、9号)に該当するとして行った本件普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠くとも、社会通念上相当でないとも認められない。したがって、本件普通解雇は、解雇権を濫用したものとはいえないから、有効というべきである。

録音禁止命令については特段の事情がない限り、使用者が業務命令として行うことが認められます。

また、解雇事件において、労働者が社宅に居住し続けながら訴訟を行う場合、本件のように反訴を提起されます。解雇が有効となった場合には、遡及して賃料支払義務を負いますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇291 教員の教育的指導という名の体罰は許されるか?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、教員の体罰等を理由とする懲戒免職処分取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

宮崎県・宮崎県教育委員会事件(福岡高裁宮崎支部平成30年6月29日・労判ジャーナル81号44頁)

【事案の概要】

本件は、宮崎県教育委員会が、本件高校の元教員Xに対し、Xが顧問を務めていた本件柔道部の生徒に対する体罰等を理由として、地方公務員法29条1項1号、3号により、懲戒処分として免職する旨の本件処分を行ったため、Xが本件処分は裁量権を逸脱、濫用したものであるなどと主張して、県教委に対し、本件処分の取消しを求めたところ、元判決がXの請求を棄却したため、Xが原判決を不服として本件控訴を提起した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xが行った行為は、本件柔道部の複数の部員に対し、長期間にわたり、その都度、複数回、平手で叩いたり、足で蹴ったりする激しい暴行を加えたというものであり、Xのこれらの行為は、その態様や程度等に鑑みると、指導と呼べるようなものではなく、単に部員に対して恐怖心を植え付けるものであり、これらの行為が15歳から18歳までの女子に対して向けられたものであることをも併せ考えると、Xの上記体罰は、部員に対し、身体的苦痛のみならず、極めて深刻な精神的苦痛を与えるものであったといわざるを得ず、著しく悪質で、重大な結果を招くものであったというべきであり、Xは、教職員として、生徒を指導し教育する立場にありながら、その生徒に対して、長期間にわたり、繰り返し、極めて悪質で、かつ、重大な結果をもたらす行為に及んでいることなどからすると、県教委がXに対して懲戒処分のうち免職を選択して本件処分を行ったことは、社会観念上著しく妥当を欠くとはいえず、裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものということはできない。

昔は公然と行われていたこのような「指導」は、今の時代はもはや指導とは評価されません。

自分が学生時代に受けた指導を、現在、指導者として行うことは許されません。

「自分たちのときはこのくらい当たり前だった」という認識を取り除くことが求められます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇290 教諭の未成年者との性交渉を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元教諭の未成年者との性交渉等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人日本体育大学事件(東京地裁平成30年6月19日・労判ジャーナル81号48頁)

【事案の概要】

本件は、平成25年4月1日、Y社が、期間1年の常勤講師として雇用し、その期間満了後の平成26年4月1日、期間の定めのない専任教諭として雇用した元教諭Xを、未成年者との性交渉をもつ行為等、Y社との間の信頼関係を破壊する事項があったとして平成27年3月31日限り、Xを解雇したため、Xが、Y社に対し、上記解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであり、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記解雇の翌月である平成27年4月から本判決確定の日まで弁済期である毎月20日限り賃金1か月約38万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xには、Y社から雇用されるに先立ち、現職の教員であったのに、街中でたまたま見かけた約20歳年下の未成年の女性に声を掛け、その3日後には同女性と性交渉を持つに至ったという、Y社がその教員としての適性を疑ってしかるべき行為があり、その後、そのような事実がY社の知るところとなり、本事件は、報道機関により広く報道され、インターネット上の掲示板においては、本事件に関してXの実名も掲載されており、Xは、Y社に雇用されるに当たって提出した本件志望書中において、Y社がXの採否を判断するに当たり関心を持ってしかるべきW高校の退職事由につき、解雇されたとの事実を隠したのみならず、自発的な辞職であったと積極的な偽りを故意に記載し、その後の別件訴訟の結果等について、真実に反する自己に有利な内容虚偽の説明をしたものであり、Y社はこれらの事情を踏まえてXを解雇したものであるから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠くものとはいえず、社会通念上相当であると認められないものともいえないのであって、権利を濫用したものとして無効であると解することはできない。

特に異論のない結果ではないでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇289 幹部社員の試用期間中の解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、幹部社員の試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ラフマ・ミレー事件(東京地裁平成30年6月20日・労判ジャーナル81号2頁)

【事案の概要】

本件は、Y社のジェネラルマネージャー(GM)兼コマーシャルディレクターとして雇用されたXが、試用期間中に解雇されたことについて、同解雇は客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当と認められず無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約による賃金請求権に基づき、解雇後の賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約において、中長期的な業務計画及び財務の予算管理、損益に対する全責任を含むY社の運営管理、卸売(ホールセール)及び小売(リテール)の両業務において、年間の業務目標、予算、課題を準備、実行及び達成することなどがXの職責とされていたことに照らすと、Xの一連の行動については、明らかに不十分なものであって、Y社のGMとしての職責を果たしていないというべきであり、かつ、GMとしての職責を果たす上で資質、能力に欠けていると評価されてもやむを得ないというべきである。

2 Aの指導を経た後も、本件解雇時点におけるXの商品発注に関する理解は著しく不十分であり、Xは、商品の発注に関して、その職責を果たしておらず、かつ、Y社のGMとしての職責を果たす上で資質ないし能力に欠けていると評価されてもやむを得ないというべきである。

3 Xは、9月23日、FC2を作成する責任の所在をめぐって、Aの態度を強く非難する感情的な内容のメールを送信しているところ、Xには、Y社のGMとしてFC2を作成してフランス親会社の承認を得る責任があると認められることからすると、上記Aに対するメールにおける同人に対する非難は、合理的な理由のないものといわざるを得ない。したがって、上記メールにおけるXの態度は、感情的で自己抑制を欠いた態度と評価する他はない

どんな場合でもそうですが、資質・能力が欠けていることを示す証拠をどれだけ揃えられるかがカギです。

しっかり準備をしてから解雇をしないと厳しい戦いが待っています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇288 退職の意思表示の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、女性歯科衛生士に対する産休後退職扱いの有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人社団充友会事件(東京地裁平成29年12月22日・労判1188号56頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、雇用主であるY社に対し、出産のため休業中、自己都合退職の事実がないのに退職したものと扱われた上、育児休業給付金及び賞与の受給も妨げられたと主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認に加え、次の各金員の支払を求める事案である。

1 毎月の賃金及びこれに代わる育児休業給付金相当額等の損害賠償金

2 賞与

3 慰謝料及び弁護士費用

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

【判例のポイント】

1 退職の意思表示は、退職(労働契約関係の解消)という法律効果を目指す効果意思たる退職の意思を確定的に表明するものと認められるものであることを要し、将来の不確定な見込みの言及では足りない。退職の意思表示は、労働者にとって生活の原資となる賃金の源たる職を失うという重大な効果をもたらす重要な意思表示であり、取り分け口頭又はこれに準じる挙動による場合は、その性質上、その存在や内容、意味、趣旨が多義的な曖昧なものになりがちであるから、退職の意思を確定的に表明する意思表示があったと認めることには慎重を期する必要がある
・・・このような慣行等に照らしても、書面によらない退職の意思表示の認定には慎重を期する必要がある。むしろ、辞表、退職届、退職願又はこれに類する書面を提出されていない事実は、退職の意思表示を示す直接証拠が存在しないというだけではなく、具体的な事情によっては、退職の意思表示がなかったことを推測しうる事実というべきである

2 ・・・以上のよれば、平成27年12月支給の賞与が具体的な請求権として発生するための要件が具備されたと認めることはできないから、Xの賞与支払請求には理由がない。
ただし、賞与の支給及び算定が、使用者の査定その他の決定に委ねられていても、使用者は、その決定権限を公正に行使すべきで、裁量権を濫用することは許されず、使用者が公正に決定権限を行使することに対する労働者の期待は法的に保護されるべきであるから、使用者が正当な理由なく査定その他の決定を怠り、又は裁量権を濫用して労働者に不利な査定その他の決定をしたときには、労働者の期待権を違法に侵害するものとして不法行為が成立し、労働者は損害賠償請求ができるというべきである(土田道夫「労働契約法第2版274頁参照)。

3 Xは、本判決を債務名義としてY社の診療報酬債権を差し押さえて債権の満足を図る方法が想定されたところ、Y社は、和解協議を通じて、敗訴を予想するや、その事業をA理事長の個人経営に承継させることで、自らに診療報酬債権が発生せず、A理事長に診療報酬債権が発生する状態を作出し、その事実を当裁判所及びXに速やかに通知せず、人証調べ実施の直前に通知するという不意打ちをしている。Xは、その権利の実現のため、今後、A理事長等に対し、法人格避妊の法理、事業譲渡等による労働契約関係その他債務の承継、不法行為、医療法48条1項等に基づく損害賠償責任などを主張する別訴の提起を強いられると見込まれる。別訴では本件訴訟と重複する争点については効率的な審理が可能であるが、独自の争点もあるから審理に相当期間を要することが見込まれ、争点が継続してXの精神的損害はさらに拡大していくことが推認される。
他方、Y社との間の紛争の発生に関し、Xに何らかの落ち度があったことは認められない。
さらに妊娠を理由とする均等法9条3項違反の不利益取扱いとして有効な承諾なく平成20年に降格させ、その後、労働者が退職を選択した事案につき、不法行為に基づき慰謝料100万円を認容した裁判例(広島高判平成27年11月17日)があるところ、Y社は職そのものを直接的に奪っていること、Xには退職の意思表示とみられる余地のある言動はなかったこと、A理事長に故意又はこれに準じる著しい重大な過失が認められること、判決確定後も専ら使用者側の都合による被害拡大が見込まれることなどに照らして、上記裁判例の事案よりも違法性及び権利侵害の程度が明らかに強いといえる。いわゆるマタニティ・ハラスメントが社会問題となり、これを根絶すべき社会的要請も平成20年以降も年々高まっていることは公知であることにもかんがみると、Xの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料には金200万円を要するというべきである。

この裁判例はとても重要です。

上記判例のポイント1の退職の意思表示の有無についての判断方法は是非、参考にしてください。

また、判例のポイント3では、本件事案の特殊性及びマタハラに関する社会的要請等から、かなり高額な慰謝料が認められています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。