Category Archives: 解雇

解雇307 即戦力採用の管理職に対する本採用拒否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

49日目の栗坊トマト。そろそろ花が咲きそうな感じです!

今日は、即戦力採用の管理職に対する本採用拒否の適法性について判断した裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人どろんこ会事件(東京地裁平成31年1月11日・労判1204号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社により発達支援事業部長として採用されたXが、Y社から平成29年1月31日限りで解雇されたところ、同解雇は無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同年3月25日以降本判決確定の日に至るまで、支払期日又は支払期日後の日である毎月25日限り、同年2月分以降の月例賃金月額83万4000円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、その履歴書における経歴から、発達支援事業部部長として、さらにはY社グループ全体の事業推進を期待されるY社の幹部職員として、Y社においては高額な賃金待遇の下、即戦力の管理職として中途採用された者であったものであり、職員管理を含め、Y社において高いマネジメント能力を発揮することが期待されていたものである。

2 ・・・これらの点からすると、Xの業務運営の手法は、少なくとも施設長らとの円滑な意思疎通が重要となるY社の発達支援事業部部長としては、高圧的・威圧的で協調性を欠き、適合的でなかったと評価せざるを得ない。

3 結局、以上の点に照らすと、上記のように高いマネジメント能力が期待されて管理職として中途採用されたXにつき、少なくとも、本件就業規則14条1項6号、29条5号、11号及び同就業規則14条1項1号に規定するように、他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし、協調性を欠くなどの言動のほか、履歴書に記載された点に事実に著しく反する不適切な記載があったことが認められるところであり、本件本採用拒否による契約解消は、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当なものと認められる。

4 以上に対し、Xは、採用に際して「経営陣との軋轢を恐れない」ことが条件とされており、大胆な意見具申と改革提案が期待されていたなどと主張する。確かに、募集要項にそのような記載はあり、外部の人材であったXに意見具申と改革提案が期待されたとはいえるが、現実に軋轢を生じては企業活動が進まないことは自明であって上記募集要項の記載もそのような気概で募集に応じてくれる者を求めた程度の趣旨にすぎない。以上のとおり、上記記載と実際に職員と軋轢を生じることとは別であり、その記載からXの所為が正当化されるものではない。

上記判例のポイント1のような事情がある場合には、通常の本採用拒否ないし解雇の場合よりも判断が緩やかになる傾向があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇306 上司の指示命令に従わないことを理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

15日目の栗坊トマト。順調に育っております。

今日は、上司の指示命令に従わないこと等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人三宅島あじさいの会事件(東京地裁平成31年3月7日・労判ジャーナル89号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を普通解雇された元職員Xが、本件解雇は無効であるとして、Y社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、本件解雇後の未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xの行為のうち、解雇理由1ないし5については、上司の職務上の指示命令に従うことを求めた就業規則26条2項、職員間で相互に協調することを求めた同規則27条1号、職務上の権限を越えた専断的行為を禁じた同規則29条1項5号に反するものであり、同規則22条11号(就業規則等の定めに反したとき)に該当し、また、解雇理由2ないし6のとおり、Xの介護技術や同僚職員との連携に不十分な点があったにもかかわらず、Xが上司及び同僚職員の指示や指導を聞き入れようとせず、本件けん責処分を受けながらなお真摯な反省の態度を示すことがなかったXの姿勢は、Y社においてXを指導し、介護技術や職員間の連携等など、介護の職務遂行上必要な能力を向上させることをおよそ困難とする事情であり、同条3号(勤務成績が著しく不良又は上司の指示を守れず早期に改善の見込みがないとき)、同条4号(職務遂行能力が劣り、一定期間の改善指導を行っても職務遂行上必要な水準まで上達する見込みがないとき)及び同条12号(前各号の他、解雇に該当する合理的事由があるとき)に該当し、本件解雇には、就業規則上定められ、合理的と認められる解雇の理由が存する。

2 Xの解雇理由に共通するのは、Xが自己の判断で独善的かつ専断的に業務を遂行するという点であり、Xには、上司の指示に従い他の職員と協同して業務を遂行するという、組織の中で職務を遂行するに当たり求められる基本的な姿勢が欠けているといわざるを得ず、また、Xが、上司や同僚職員からの指導に対して真摯に耳を傾ける姿勢を欠き、本件けん責処分により改善の機会が付与されたにもかかわらず、その後も自己の勤務態度を改めることがなかった経緯も踏まえると、Xの勤務態度について、指導等による改善が見込めるものでもないから、Xに対し解雇をもって臨むことはやむを得ず、本件解雇の手続にも特段不適切な点は認められないことなどを踏まえると、本件解雇は社会通念上相当として是認することができること等から、本件解雇に解雇権を濫用した違法があるとはいえず、本件解雇は有効である。

このような事案の場合、使用者側もしびれを切らしてすぐに解雇してしまう例がありますが、それではいけません。

指導・教育・改善の機会を与えたにもかかわらず改善しなかったという一連の流れについてエビデンスを残す意識を持つことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇305 整理解雇が無効と判断される理由とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

7日目の栗坊トマト。どんどん成長しています!

今日は、学部廃止を理由とする大学教員らの整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人大乗淑徳学園事件(東京地裁令和元年5月23日・労判ジャーナル89号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、Y社の設置する大学に勤務していた元教員らが、Y社が元教員らの所属していた学部の廃止を理由としてした解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇後の月例賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社が国際コミュニケーション学部の廃止を決定したこと自体を不合理ということはできないものの、Y社の財務状況が相当に良好であったことや、同学部の廃止と同時期に人文学部の新設が決定され元教員らの担当可能な授業科目が多数新設されたことによれば、国際コミュニケーション学部の廃止に伴う人員削減の必要性が高度であったとはいえないというべきであり、それにもかかわらず、Y社は、人文学部への応募の機会を与えず、個別に相談したいなどと述べて、本件各労働契約の存続に期待を言動に出て、結果的に解雇回避の機会を喪失させたばかりか、元教員らを学部に所属させずに他学部の授業科目を担当させるなどの解雇回避努力を尽くすこともなく、元教員らに対する説明や元教員らとの協議を真摯に行うこともしなかったことなどの諸事情を総合考慮すれば、本件解雇は、解雇権を濫用したものであり、社会的相当性を欠くものとして無効である。

上記のような事情があるとすれば、解雇回避努力を尽くしたとはいえないため、整理解雇は無効となるでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇304 弁明の機会を与えなくても解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、代表取締役に対する暴行等と退職慰労金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

トーア事件(大阪地裁平成31年3月7日・労判ジャーナル88号35頁)

【事案の概要】

本件は、本訴において、Y社の元従業員Xが、①Y社並びにY社の代表取締役であったC及びBが、長年にわたってXに過重労働を強いたため、Xがうつ病に罹患し、精神的苦痛を被ったとして、Y社らに対し、安全配慮義務違反(債務不履行)ないしは不法行為に基づき、慰謝料800万円等の支払、②XがY社を退職したとして、Y社に対し、雇用契約に基づき、退職慰労金約478万円等の支払を求め、反訴において、Bが、Xに対し、①平成24年3月以降平成27年11月まで計約1227万円を支払わせた、②脅迫して計250万円を支払わせた、③Bの顔面を殴打するなどの暴行を加えて傷害を負わせた、④上記平成22年以降の言動に加え、Bの体を縄で縛って写真を撮影するなどしてBの人格権を侵害し、精神的苦痛を被らせたとして、Xに対し、各不法行為に基づき計約1969万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金等支払請求棄却

損害賠償等請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、平成9年以降、Y社から、退職するまでの間、深夜までの残業を強いられ、土日も休むことができなかった旨主張するが、具体的な各日の労働時間の主張・供述がない上、タイムカードのデータを見ても、そのような深夜までの残業を行っていたことは窺われず、そのほかXが残業を行っていたことを裏付けるに足りる証拠はなく、Xが平成9年以降過重労働を行っていたことを認めるに足りる証拠はないから、Y社らの過失によるXの法益侵害ないしY社の安全配慮義務違反Xの主張は、その前提を欠く。

2 Bが、共謀したXらから暴行を受け傷害を負ったと認められ、また、Xによる脅迫等の事実が認められ、これらの認定事実は、少なくとも就業規則懲戒事由に該当すると認められ、さらに、上記各事実について、Y社の代表者に対するものであること、多数回にわたり暴行に及んでいること、肋骨骨折等その結果の重大性、執拗な脅迫の態様、支払わせた金額が大きいこと等に照らせば、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会的に相当であると認められるところ、Xは、懲戒解雇が弁明の機会も付与することなく行われており、適正手続も欠くと主張するが、上記のとおり、懲戒事由の内容がY社の代表者であるBに対する暴行・傷害であり、脅迫であることに鑑みれば、Y社がXに弁明の機会を付与しなかったからといって、上記相当性を失わせるものではなく、Xの行為は、これまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為であるといえるから、Xの退職慰労金請求には理由がない。

上記判例のポイント2は押さえておきましょう。

弁明の機会を与えなかった場合、手続的要件を欠くと争われますが、懲戒事由が重い場合、手続的要件を欠いたとしても、それだけで相当性要件を否定されるわけではありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇303 わいせつ行為に関する使用者責任と求償の割合(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、わいせつ行為を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマト運輸事件(大阪地裁平成31年2月7日・労判ジャーナル88号44頁)

【事案の概要】

本件は、本訴請求において、Y社の元従業員が同人に対する懲戒解雇処分が無効であることを理由として、労働契約上の地位確認を求めるとともに、民法536条2項に基づき、平成27年12月25日から本判決確定日までの間、毎月25日に支払われるべき賃金等の支払を求め、反訴請求において、Y社が、上記懲戒解雇処分の理由である、Xの就業時間中における女性に対するわいせつ行為によって、使用者として示談金の支払を余儀なくされたとして、民法715条3項に基づき、示談金相当額の求償を求めるとともに、同わいせつ行為によって、社会的信用が著しく毀損されたことを理由として、民法709条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

示談金相当額の求償は認容

社会的信用が毀損されたことを理由とする損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、集荷業務中に集荷先企業の女性従業員Aに対し、その意に反して身体を抱きしめ、左胸を触る行為をしたものであり、かかる行為は、会社就業規則の42条9号、同条4号、同条14号及び同条15条に該当するということができ、そして、同行為の性質や内容に照らすと、本件懲戒解雇が不当に重いものとはいえないから、同処分が権利濫用に該当し無効であるとはいえないから、本件懲戒解雇が無効であることを前提とする本訴請求は、いずれも理由がない。

2 XのAに対する行為は、就業時間中になされたものであり、Y社の事業の執行につきなされたものであるといえるから、Y社はAに対し、民法715条1項による損害賠償責任を負い、その損害賠償責任を果たしたY社は、Xに対し、民法715条3項による求償を請求することができ、そして、XがAに対して故意にわいせつ行為に及んだものであること、Xの行為がY社就業規則のうち特に42条9号に違反するものであること、Xが以前にも女性に対する性的な行為を原因としてY社から懲戒処分を受けていたことに照らすと、業務上生じた損害の公平な分担の見地に照らしても、Y社のXに対する求償権を制限するのが相当であるとはいえないが、他方、Y社においては、XのAに対する行為によって、Aに対する示談金の支払を余儀なくされた以上に、社会的信用が毀損され損害が生じたと認めるに足りる的確な証拠はないから、民法709条に基づき、社会的信用を毀損されたことに対する損害賠償の支払いを求める部分は理由がないものというべきであり、XはY社に対し、民法715条3項に基づき、120万8026円等を支払う義務がある。

事案によっては、求償権を制限される事案もありますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇302 パワハラによる精神疾患罹患と診断書の評価(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、勤務成績不良等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ピーエーピースタジオトリア事件(東京地裁平成30年12月26日・労判ジャーナル87号89頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して就労していたXが、Y社から解雇されたことについて、同解雇は客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当と認められず解雇権の濫用に当たり無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約による賃金請求権に基づき、解雇後の賃金等の支払並びに会社代表者による暴言、執拗な退職勧奨、上記解雇等がXに対する不法行為に当たるとして、同不法行為によって被った精神的苦痛に対する慰謝料として200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料20万円認容

【判例のポイント】

1 Y社は、年2回各従業員に対し改定の理由を説明して納得してもらった上で給与額を増減しているもので、Xに対しても、アミューズメント事業の売上が上がっていないこと等の理由を説明して、納得を得た上で減額したものであるとし、本件給与減額1については、Xの同意があるものであって有効である旨主張するが、Y社代表者は、電話によるXへの叱責の後、同意書等も取り付けることなく翌月からXの給与額を減額したものであって、この間に、Xの真意に基づく給与減額に対する同意があったことをうかがわせる事情は認められないから、本件給与減額1は無効というべきである。

2 本件雇用契約締結後のXの業績が、会社就業規則20条1項(1)所定の解雇事由に当たるといえるほど不良であったということはできず、また、勤務態度等について検討するに、Xにつき会社就業規則20条1項(2)の解雇事由に当たるということはできないこと等から、本件解雇については、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当と認められないものであって、解雇権の濫用に当たるというべきであり、労働契約法16条により無効と認められる。

3 Y社代表者が面談の際に激昂してXに対してした各発言はXに対する不法行為に該当するものであって、Y社は、会社法350条、民法709条により上記不法行為によりXに生じた損害につき賠償すべき責任を負うところ、Xの損害についてみるに、Xは、診断書及び診療録を根拠に、Y社代表者の発言により適応障害に罹患した旨主張するが、X主張に係るY社代表者の言動には違法とまではいえないものや、その言動自体が証拠上認めるに足りないものも多く含まれていることからすれば、同診断書及び診療録の記載をもって、Y社代表者の不法行為となる言動によってXが適応障害に罹患したとは直ちに認めることはできないが、他方、Y社代表者の同発言内容に照らすと、これにより、Xが相応の精神的苦痛を被ったことは否定できないところであるから、Xの精神的苦痛に対する慰謝料としては20万円と認めるのが相当である。

上記判例のポイント1のようなケースでは、同意が真意に基づくものか否かが判断の対象となります。

また、判例のポイント3のように診断書が提出されているとしても、客観的事情と合致しない場合には、裁判所は診断書記載のとおりには認定しないことを押さえておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇301 賃金減額合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、能率低下等を理由とする解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ネクスト・イット事件(東京地裁平成30年12月5日・労判ジャーナル86号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、平成27年4月の賃金減額及び平成28年4月の解雇は、いずれも理由がなく無効であるとして、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇後の賃金として、雇用契約に基づき、平成28年6月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、賃金減額前3か月間の平均である月額約32万円等の支払、Y社による解雇は不法行為にも当たるとして、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円等の支払並びに同意なく減額された平成27年4月分から平成28年4月分までの賃金の差額分として、雇用契約に基づき、約114万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

賃金減額は無効

【判例のポイント】

1 本件給与体系変更に対するXの同意は、賃金の減額に対する同意であり、賃金債権の一部放棄に対する同意と同視できるから、Xの同意が、自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに有効となるところ、Xは、Y社従業員から本件給与体系の変更を告げられた際、給与の減額になることを明確に認識したうえで、入社前に聞いていないなどとして受け入れない意思を表明し、その後総務部長から送信されてきた給与についての確認書には、職を失わないために渋々署名押印したことなどを踏まえると、Xの本件給与体系変更に対する同意が自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないこと等から、本件給与体系変更による賃金の減額は無効であり、Xは、Y社に対し、減額された賃金分の支払請求権を有する。

2 本件解雇は、Xが、誠実に営業活動を行わなかったことにより営業成績が悪かったことを理由とするもので、Y社の就業規則所定の解雇事由である「能率が著しく低下し、または向上の見込みがないと認めたとき」に該当し、実体面での理由は十分に存在すること、XのY社に対するスケジュールの報告に虚偽が相当数含まれており、訪問していないにもかかわらず交通費の精算を行ったものもあることを考慮すると、XとY社との信頼関係は破壊されているといわざるを得ないこと、解雇に向けた具体的な指導や警告が存在しない手続上の問題は、Y社の営業社員が全員経験豊富な中途採用社員であり、毎週営業会議を行っていたという状況の下では、Xの営業活動に対する不誠実さや営業成績の悪さを凌ぐものとはいえないというべきであることを踏まえると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である。

上記判例のポイント1については、特に注意が必要ですね。

とりあえず同意さえとれば何でも有効と考えるのはやめましょう。実務ではそういう取扱いはしていません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇300 長期欠勤を理由とする解雇が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、長期欠勤を理由とする解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

計機健康保険組合事件(東京地裁平成30年9月26日・労判ジャーナル83号56頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結して就労していたXが、海外にあるF国において買春を理由に逮捕起訴され帰国できなかったため欠勤したところ、Y社が、「自己の都合により欠勤30日を超え、その事由が正当と認め難い」とする就業規則所定の解雇事由に該当するとして、Xを解雇したため、Xが解雇が無効であると主張して、労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、上記解雇後本判決確定の日までの未払賃金及び賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件解雇理由は、「平成29年7月25日から、自己の都合により欠勤30日を超え、その事由が正当と認め難いため」であり、本件就業規則所定の解雇理由に該当するというものであるが、本件就業規則にいう「欠勤」については、所定休日ないし有給休暇における不就労は含まれないと解するのが相当であるところ、Xは、Xの妻及び弟を介してY社に対し、平成29年7月25日以降の欠勤について有給休暇の申請をしていることが明らかであり、Xによる上記有給休暇の申請は有効というべきであり、そして、平成29年7月25日の時点におけるXの有給休暇の残日数は19日であるから、これを全てXの欠勤日に充当すると、本件解雇の瑕疵が治癒されたとY社が主張する同年9月5日の時点では、いまだ欠勤日は11日にすぎないから、「引き続き欠勤30日を超え」に該当しないことが明らかであること等から、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を乱用したものとして無効である。

防ぐことができた争いですね。

事前に顧問弁護士等に相談をして冷静に対応していれば起こらなかった紛争かと思います。

解雇299 休職期間満了に伴う自然退職(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間満了による解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

Y社事件(大阪地裁平成30年10月30日・労判ジャーナル83号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で勤務していたXが、Y社から解雇されたが、同解雇は無効であるなどとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件の争点は、Xの退職理由が解雇か自然退職か及び当該退職理由によりXを退職扱いとすることの有効性であるところ、Y社は、平成28年1月11日、Xに、Y社の就業規則所定の休職事由に該当する事由があったため、Xに対し、同号に基づき、Xを休職させる旨の意思表示をしたところ、Y社の就業規則は、社員が休職期間満了のときに復職できなかった場合には、別途解雇等の意思表示を要せず、休業期間満了の日を退職の日として社員の資格を失う旨規定しているところ、Y社の就業規則上、就業3年未満の社員の休職期間は6か月であるから、Xは、休職期間(6か月)が満了する平成28年7月10日の経過をもって、Y社を自然退職したものとみるのが相当であり、また、Xは、別件判決で認定されたとおり、不当に賃金が引き下げられたため、Y社に復帰できなかった旨主張するが、Xが、賃金を不当に減額されたとして未払賃金の支払いを求めた別件訴訟の判決において、Y社は、Xに対し、給与制度改定に基づき、各種手当を適正に支給していることが認められるなどとして、Xの請求が棄却されたことが認められるから、Xの主張は採用できない

この手の訴訟は、争点が複雑化しますが、本件はそこまで複雑ではないように感じます。

復職時の対応については、極めて専門的な判断が求められますので、弁護士にしっかり相談して進めましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇298 業務削減を理由とする出向帰任者の整理解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務削減を理由とする出向帰任者の整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

マイラン製薬事件(東京地裁平成30年10月31日・労経速2373号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、医療情報担当者(MR)として勤務していたXが、平成28年5月31日付けでされた解雇が無効であるとして、Y社に対し、①ⅰ)労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、ⅱ)平成28年6月分から平成29年3月分までの賃金合計506万2910円並びに同年4月分以降の賃金として毎月25日限り50万6291円+遅延損害金の支払を求め、これに対し、Y社が、主位的には本件解雇により、予備的には期間満了によりXとの間の社宅使用契約が終了したとして、②ⅰ)建物の明渡し及びⅱ)賃料相当損害金ないし未払社宅使用料の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 解雇は有効(Xの請求はいずれも棄却)

2 Xは、Y社に対し、建物を明け渡せ。

3 Xは、Y社に対し、平成28年8月1日から明渡済みまで1か月6万7000円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、全従業員数の4割を超える大規模な余剰人員が生じたという非常事態下において、その人事制度の仕組みや配転が困難であるという制約の枠内で、なし得る限りの有意な解雇回避措置を複数採っているということができる。それにもかかわらず、Xは、解雇回避措置を真摯に検討しなかったばかりか、Y社からの協議の申入れについて取り合わなかったのであって、Xの協力が得られない以上、Y社が上記各措置以上の解雇回避措置を採ることも困難であるから、人員削減の必要性が経営政策上の必要性にとどまることを踏まえても、Y社は、相応の解雇回避措置を講じ、解雇回避努力を尽くしたとみることができる。

2 Xは、その直近3年間の成績評価が本件選定基準に達しなかったため、Aへの出向者の選定から除外されているが、Aへの出向を実現し、一人でも多く解雇を回避するためには、同社が求める優秀な人材を選抜することが必要であったのであるから、その直近3年間の成績を基礎とした本件選定基準を設定することもまたその合理性を肯認することができる。
また、本件選定基準の対象となる成績評価は、毎年1回定期的に実施されているものであり、少なくとも、平成25年度分及び平成26年度分の成績結果は本人に対してフィードバックされていることからすれば、指標としての客観性は担保されているといえ、Y社の恣意的な操作が介在するおそれは少ない。
以上からすれば、Xが本件選定基準によってAへの出向対象者から除外されて、雇用契約解消の対象となることもやむを得ないといわざるを得ない。

3 Y社は、本件解雇に先立って、全体ミーティング、電子メール、書面による連絡を通じて、本件業務提携契約の内容、本件解除合意に至った経緯、判断過程の要旨、MR業務の消滅、本件解除合意の内容、Aへの出向に関する本件選定基準や選定の判断過程、退職パッケージの内容、社内公募の案内等について、自らの了知し得る情報について可能な範囲で繰り返し説明した上で、今後のXの処遇について相談にも乗っており、更なる協議も試みているのであって、十分な説明や協議を尽くしているとみることができる
Xは、Y社から、退職勧奨時には退職パッケージを提示されたが、本件解雇時には何らの不利益緩和措置を受けていない旨主張する。
しかしながら、Y社は、Xに対し、本件解雇直前まで継続的に、特別退職金等約867万円(月額賃金の約17か月分相当額)及び他社の再就職支援サービスからなる退職パッケージを繰り返し提示していたのであって、かかる不利益緩和措置を拒絶したのは他ならぬXである
以上によれば、本件解雇に先立って履践された手続きは不相当であるとはいえず、むしろ、具体的な事実経過に照らして十分な手続や協議がされたとみることができるのであって、手続の相当性を肯認することができる。

リストラ時にここまでの準備ができるといいのですが、多くの場合、このような余裕がないので、拙速なのはわかりつつ、手続きを進めざるを得ないことがあります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。