Category Archives: 解雇

解雇411 外資系企業に中途採用された従業員への職務遂行能力不足を理由とした解雇の有効性を否定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、外資系企業に中途採用された従業員への職務遂行能力不足を理由とした解雇の有効性を否定した事案を見ていきましょう。

PAGインベストメント・マネジメント事件(東京地裁令和5年10月27日・労経速2555号21頁)

【事案の概要】

本件は、世界中の機関投資家から預託された資産を基に投資運用を行う会社の日本法人であるY社に勤務していたXが、(1)業績評価が不良であることなどを理由に令和3年6月30日付けで解雇されたことについて、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、②同年7月分の未払賃金15万9356円+遅延損害金、③同年8月分から本判決確定の日まで毎月25日限り月額82万1000円の割合による金員+遅延損害金の各支払を求めるとともに、(2)Xの上司がXに対する退職勧奨に関する情報等が記載されたメールを、当該情報を知らない同僚らを宛先に含めて送信したことにより、Xの社会的評価が低下し、精神的苦痛を被ったなどと主張して、使用者責任による損害賠償請求権(民法709条、715条)に基づき、慰謝料100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 解雇無効→バックペイ
2 Y社はXに対し、15万9356円+遅延損害金を支払え
3 Xのその余の請求を棄却する

【判例のポイント】

1 Xが所属する部署は、投資家やY社の経営陣向けにPAGが運用するファンドに関する各種データを提供する部署であって、令和3年7月当時、同部署のメンバーはXを含めて6名と少数であったこと、Xは年俸900万円という相当程度の労働条件で中途採用され、その職務内容としては投資家向けの四半期レポートの作成等とされていたことが認められる。そして、これらの事情に加え、世界有数の投資運用会社であるPAGの日本法人であるY社が投資家の信頼するファンドに関する最新の情報を迅速かつ正確に提供することが重要であることからすれば、Xが同部署で2番目に低いアソシエイトの職位であることを考慮しても、本件労働契約上、課せられた期限内に、担当分野についての正確な内容の資料を作成する能力が相当程度高い水準で求められていたというべきである。

2 Xは、正確性及び迅速性に関する職務遂行能力に問題があり、その業績評価は不良であったものの、本件解雇当時においては、「会社の人的資源を開発する絶え間ない努力、十分な個人指導、カウンセリング、及び警告を与えてもなお」、是正し難い程度であったとまでは直ちに認められず、Xにつき、解雇事由に該当する事実は認められない。したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから(労働契約法16条)、無効である。

能力不足を理由とする解雇については、その判断基準が曖昧なため、使用者側は、訴訟での立証に工夫が必要です。

多くの裁判例で、上記判例のポイント2のような判断がされていることを留意する必要があります。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇410 海外勤務者の退職・解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、海外勤務者の退職・解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

アイウエア事件(東京高裁令和4年1月26日・労判1310号131頁)

【事案の概要】

本件は、A塾という名称で学習塾を運営するY社に平成25年6月1日付けで入社し、同月13日から中華人民共和国(中国)内に所在するA塾A1校において講師として勤務していたXが、同年9月末日を退職日とする同月1日付け退職願に署名押印したものの、退職の意思表示は不存在であり、又は仮に存在していたとしても心裡留保若しくは虚偽表示により無効であって、同年10月1日以降もY社との雇用関係が継続していたとした上、平成28年12月27日にY社によってされた解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるとともに、Xに対する不法行為に該当するなどと主張して、Y社に対し、①労働基準法37条1項に基づき、平成27年11月1日から平成29年1月26日までの未払割増賃金合計167万7307円+遅延損害金の、②労働基準法114条に基づき、付加金167万7307円+遅延損害金、③民法536条2項に基づき、Y社が再就職した平成29年4月1日の前日までの間の未払基本賃金50万4460円+遅延損害金、④民法709条に基づき、損害金143万2832円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

原審は、Xの上記各請求について、①未払割増賃金合計126万7361円+遅延損害金、②付加金126万7361円+遅延損害金、③未払基本賃金44万8360円+遅延損害金、④損害金49万5000円+遅延損害金の各支払を求める限度でこれらを認容し、その余をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

1 原判決主文2項を取り消す。

2 上記取消部分に係るXの請求を棄却する。

3 その余の本件控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 少なくともXにおいては、Y社とXとの雇用契約が、就労ビザ取得までの短期間で終了する前提で締結されたなどとは認識していなかったものとみるのが相当であるとともに、Y社から、転籍出向後もY社の海外赴任規定の適用を前提とした手当の支給等が行われることや、転籍出向後もY社への帰任が前提となっているかのような説明を受けていたXにおいて、転籍後もY社との雇用契約が存続するとの認識を有していたとしても不自然ではなかったものと認めることができる。
そうすると、Y社における「転籍」が一般に「それまで在籍していた会社を退職して別の会社に属すること」を意味し、Xが「転籍出向」を自ら選択して本件退職願を提出したとの事実が存したとしても、本件における上記の事実関係の下においては、Xにおいて、上記のような意味での「転籍」を自ら選択し、Y社との雇用契約を終了させる意思に基づいて本件退職願を提出したものとは認められないものというべきである。

2 Y社は、原判決言渡し後である令和3年11月12日、前記第2の2(5)のとおり、Xに対し、原判決主文1項で認容された未払割増賃金及び遅延損害金を含む合計286万2783円を支払ったものであるところ、原判決主文1項には仮執行宣言が付されており、Y社は当審においてもXの未払割増賃金請求を争っているものの、上記の支払については、原判決主文1項が維持されることを前提とした、留保付きの弁済とみることができるから、その限度で弁済の効力を有するものと解するのが相当である。したがって、本件においては、裁判所が付加金の支払を命ずるまでに使用者が未払割増賃金の支払を完了したものとして、Y社に対し付加金の請求を命じないこととする。

第一審で付加金の支払を命じられた場合の対抗策としては、控訴し、判決が確定する前に遅延損害金を含め全額支払うということですが、仮執行宣言が付されている場合(通常付されています)、上記判例のポイント2のような別の論点が出てきます。

この点は少しマニアックではありますが、弁済をしても付加金が認められてしまうか否かに関連する重要な論点ですので、是非、押さえておきましょう。

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解雇409 コロナ禍での整理解雇につき、解雇回避努力が不十分とはいえないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、コロナ禍での整理解雇につき、解雇回避努力が不十分とはいえないとされた事案を見ていきましょう。

カーニバル・ジャパン事件(東京地裁令和5年5月29日・労経速2545号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、①Y社がXに対してした解雇は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後である令和2年7月分以降の賃金として同月から毎月末日限り38万5783円+遅延損害金の支払を求め、②Y社の代表取締役であるBに対し、違法な解雇をしたことを理由とする不法行為又は会社法429条1項に基づく損害賠償金110万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本判決確定日の翌日以降を支払日とする賃金+遅延損害金の支払を求める部分は却下

その余は請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇を行うに当たり、経費削減のために、月額約2300万円であった販売費を月額200万円~400万円に大幅に削減したほか、月額300万円の出張旅費・交際費を全額削減し、大阪営業所を閉鎖した。年間約6000万円の負担を生じる事務所の賃料についてはY社は、一部区画を解除しようと貸主と交渉したが、貸主が解約を拒んだため解約はできなかった。
人件費の削減についても、4名いた派遣社員の契約を全て契約期間満了により終了させているほか、解雇に先立ち、人員削減の対象者23名に対し、特別退職金(Xについては月給の約4.7箇月分)の支払及び年次有給休暇の買取りの提案を伴う退職勧奨を実施しており、退職勧奨の対象とならなかった従業員及び役員については、その給与(報酬)を令和2年7月から同年11月まで20%削減した。
以上のとおり、Y社は、解雇回避のため、一定の経費削減を行ったものと評価できる。

2 Y社は、希望退職者募集を実施しなかったが、Y社の正社員の従業員は約67名であり、これが5部門に分かれ、その部門内でもそれぞれ役割が細分化されていたところ、希望退職者を募集すると、上記各部門で枢要な役割を果たしている従業員が、希望退職者募集に応じて退職するおそれがあり、そうなると業務に支障が生じ、組織が存続できなくなる可能性が高かったと認められる。
仮に、応募した者のうちY社が承認した者のみに早期退職を認めるという方法をとったとしても、いったん希望退職者募集に応じた者の帰属意識及び勤労意欲の低下は避けられず、組織の存続が困難になることに変わりはない
そして、整理解雇は、事業組織の存続のために行われるものであるから、事業組織の存続という目標が達成できる範囲で、客観的に実行可能な解雇回避措置をとれば足りるもので、上記事情の下で、Y社において希望退職者募集をしなかったことをもって、解雇回避努力が不十分であったということはできない

3 上記内容の雇用調整助成金では、一日当たり8330円までしか支給されないことから、賃金の全額を支払った場合には、人件費を50%削減したこととならないし、賃金を減じた場合には、休業を命じているといっても、賃金を減じられたことに不満を感じる従業員がY社を退職することは予想されるから、Y社の組織の存続が困難となる。また、受給期間が令和2年7月1日から100日分に限られており、最も楽観的な運航再開見込み時期であった令和3年4月までであっても、雇用を維持することはできない見通しであった。
したがって、令和2年6月4日の時点において、Y社が雇用調整助成金を受給することによって、人件費を50%削減しつつ事業再開時に通常営業ができるような組織を維持することは困難であり、Y社が、同日の時点で、雇用調整助成金を受給することなく、従業員23名に対し退職勧奨をしたことはやむを得ないというべきである。

4 Y社は、人員削減の対象者に対し、個別に面談して、特別退職金の支払及び年次有給休暇の買取り等を提示した上で、退職勧奨を行い、回答期限こそ面談の4日後であったが、従業員の要望を踏まえ、同年6月15日付けとされていた退職日を同月30日付けに変更する旨の提案を行った。また、本件解雇前に実施された団体交渉においては、説明資料を交付してY社の財務状況を説明し、本件3名の質問を受けて、Xを人員削減の対象者として選定した理由、雇用調整助成金の利用しなかった理由及び希望退職者の募集を行わない理由について、それぞれ回答しており、Y社の応対には虚偽はなく、妥当なものと認められる。

上記判例のポイント2、3によれば、一部、手続について不十分と評価され得る事情もありますが、裁判所は上記理由を示して救済してくれています。

全体的な事情からして、整理解雇はやむを得ない状況であったと考えたのでしょう。

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解雇408 懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為に基づく懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為に基づく懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

富士通商事件(東京地裁令和5年7月12日・労判ジャーナル144号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社が行った解雇は無効である等と主張して、Y社に対して、解雇無効地位確認及び未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 Y社はXに対して懲戒解雇の意思表示をしており、懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、その存在をもって当該懲戒処分の有効性を根拠付けることはできないものというべきであるところ、Y社の主張する事情は、解雇理由証明書に記載されておらず懲戒当時にY社代表者が認識していなかったと認められるから、これらの事情があったとしても、本件懲戒解雇の有効性を根拠づけることはできず、その他、本件では、Y社の主張する懲戒事由が認められないことから、本件懲戒解雇は無効であるから、Xは、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあるとともに、Xが令和3年7月7日以降に労務を提供していないのは、Y社の責めに帰すべき事由によるものといえるから、Y社は、56万3721円の支払義務を負う。

上記太字部分の事情からすれば解雇事由とするのはなかなか難しいですね。

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解雇407 頻繁に傷害事件を起こした従業員の解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、頻繁に傷害事件を起こした従業員の解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

建設会社S事件(大阪地裁令和5年10月27日・労判ジャーナル144号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、勤務していたXが、Y社による解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成30年4月3日にY社の従業員に対する傷害事件を起こした後、令和2年3月6日及び同月9日に立て続けにY社の協力業者に対する傷害事件を起こし、いずれもY社の業務遂行中に起こしたものであり、Y社の企業秩序を害したものというべきであるし、特に、同月9日のGに対する傷害事件は、手術を要するものであり、結果が重大であり、Xは、Y社代表者からF及びGに対する謝罪を求められたにもかかわらず、同人らに対し、一切謝罪をせず、損害賠償についても、Y社が行い、Xは何ら対応しないなど、態度を改めることがなかったところ、Y社は、Xを直ちに解雇せず、現場作業員から営業職への配置転換を行ったものであり、これは解雇回避措置と評価できるものであるが、Xは、F及びGに対する傷害事件の約1年5か月後に実父に対する傷害事件を起こし、逮捕、勾留、起訴及び公判を経て、執行猶予付き有罪判決を言い渡されたものであるから、Xの粗暴傾向は、非常に根深く、もはや改善の余地はないと評価し得る状況であったと認められ、Y社は、保釈前にXを直ちに解雇することなく、保釈後にXと面談し、事情を聴取した上で、退職勧奨をし、Xがこれに応じなかったことから、最終的に本件解雇の意思表示をしたものであることに照らせば、本件解雇は、客観的に合理的な理由が認められ、社会通念上相当として是認できる場合に当たると認められる。

丁寧に丁寧に手続きを進めたということがよくわかります。

民事事件でありながら刑事事件の判決を見ているようです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

 

解雇406 業務によって貯まったポイントの私的費消を理由とする解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務によって貯まったポイントの私的費消を理由とする解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

中央建物事件(大阪地裁令和5年10月19日・労判ジャーナル143号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して就労していたXが、Y社による解雇は無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、総務部における勤務中、上司から、担当業務であった酒類購入によって貯まった本件ポイントを当該酒類の購入に充てるように指示があったにもかかわらず、Xは、酒類購入業務によって貯まった本件ポイントを私的に費消しているところ、その使途が美容用品や家電製品等の多岐にわたることに照らすと、本件ポイントには、現金に類似する通用性・利便性があったと考えられ、本件ポイント費消は、Y社に対し、Xが業務上委ねられていた現預金を私的に利用することと同等の経済的損害を与えるものであって、これと同様の信頼関係の破壊をもたらすものであったといわざるを得ないから、本件ポイント費消の性質及び経緯、費消額及び用途並びに回数及び期間に照らすと、本件ポイント費消は、XのY社従業員としての職務上の義務に反するものであり、本件解雇についての客観的に合理的な理由に当たるものと認められる。

魔が差したというか出来心というか・・・とはいえ、ポイントの私的利用は、上記のとおり、現預金の私的流用に類似することから考えれば、懲戒解雇を選択することもやむを得ないと思います。

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解雇405 普通解雇及び懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、普通解雇及び懲戒解雇の有効性が争点となった事案を見ていきましょう。

ネットスパイス事件(大阪地裁令和5年8月24日・労判ジャーナル141号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社に対し、XがY社からされた令和3年1月14日付けでの解雇が無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求をするとともに、労働契約に基づき、本件解雇の翌月から毎月の賃金支払日である10日限り41万円の賃金+遅延損害金の支払請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件解雇の際に交付した労働契約終了通知書には、解雇理由として、アドテクノロジー製品開発の進捗が停滞しており、開発体制を再検討する旨が記載されているのみであり、Xの能力不足や経歴詐称を指摘する文言はないし、懲戒解雇に係る就業規則の条文の摘示もない
また、本件解雇の約2週間後に交付された解雇理由証明書には、「解雇理由は、新製品開発の停滞により会社業績が悪化し、人員削減が必要になったため」と冒頭に記載した上で、その後の箇所で具体的な理由として、令和2年9月期において赤字決算となり、翌年9月期決算では会社業績がさらに大幅に悪化することが確実な状況であること、経費の大半が人件費であることを指摘した上で、Xが人員削減の対象となった理由として、本件製品専任であったこととプログラミングの基礎の習得が十分でないことが記載されており、以上の記載内容は本件解雇が整理解雇であることを強くうかがわせるものであるといえる。
以上のとおり、本件解雇に伴ってY社からXに対して交付された文書からは、Xに対して企業秩序違反を指摘する記載が全くなく、かえって、整理解雇であることを強くうかがわせる記載があることからすると、本件解雇は普通解雇と解するほかなく、懲戒解雇の意思表示を含むものとは認められない

2 Xの行った作業からプログラマーとしての能力が欠如しているとは認められず、Xに対して業務上の注意及び指導がされていたともいえないから、本件解雇は普通解雇として客観的合理的理由があり、社会通念上相当であるとはいえない。

普通解雇と懲戒解雇は、「解雇」という点では共通していますが、法的性質が異なるため、解雇の意思表示をする際は、どちらの解雇をするのかを意識する必要があります。

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解雇404 解雇の意思表示の存否及び離職証明書の不実記載(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解雇の意思表示の存否及び離職証明書の不実記載に関する裁判例を見ていきましょう。

ビッグモーター事件(水戸地裁令和5年2月8日・労判ジャーナル140号2頁)

【事案の概要】

本件は、自動車及び自動車部品販売業並びに自動車修理、解体業及びレッカー作業等を目的とするY社に雇用されていたXが、Y社から解雇されたが、本件解雇は違法であり、また、Y社が離職票に不実の記載をしたことにより国民健康保険税の軽減を受けることができなかったとして、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金合計452万5959円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求一部認容(Xの請求額452万5959円を認容)

【判例のポイント】

1 Y社は、解雇の意思表示について否認しており、本件解雇に客観的合理的理由があり、社会通念上相当であることについての具体的主張をしていない。そして、Xが、他の従業員に自分の業務を手伝わせたり、車検の台数制限などを行ったりしていたという問題のある言動があったとは認められず、XとY社との間の雇用契約を直ちに一方的に解消し得る解雇事由があるとは認められないこと、Dエリアマネージャーは、Xについて解雇が認められるとは思っていなかったことに照らせば、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、違法である。

2 Xは、本件解雇により離職したものであり、「非自発的理由による失業」であり、Xは、Y社に対して、解雇されたとの認識を明示していたにもかかわらず、Xに、離職証明書に記載する離職理由について何ら確認することなく、本件離職証明書に「労働者の個人的な事情による離職」であり、「離職理由に異議」がないとの虚偽の記載をしたものと認められる。
事業主が離職証明書について虚偽の記載をした場合について、罰則が設けられているものであること(雇用保険法83条1項1号)に照らしても、上記のY社による虚偽記載が、Xに対する違法な行為であると認められることは明らかであり、Y社に上記記載が違法であることについての認識があったものと認められる
したがって、Y社による本件離職証明書の不実記載は、Xに対する不法行為に当たる。

上記判例のポイント2については注意が必要です。

このような事態にならないように慎重に手続きを進めることが求められます。

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解雇403 配転命令に従わず19日間連続で欠勤した警備員の懲戒解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、配転命令に従わず19日間連続で欠勤した警備員の懲戒解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

ティー・オーオー事件(東京地裁令和5年2月16日・労経速2531号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し警備員として勤務していたXが、Y社から令和3年4月5日付けで配転命令を受けたこと、同年5月7日付けで懲戒解雇されたことに関し、本件配転命令及び本件解雇がいずれも無効である旨主張して、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②本件雇用契約に基づき本件配転命令以降(令和3年4月1日から本判決確定の日まで)の賃金月額40万4868円+遅延損害金の支払、③本件雇用契約に基づき業績一時金1万8000円(令和3年9月から本判決確定の日まで毎年7月及び12月)+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、有効な本件配転命令を拒否し、正当な理由なく令和4年4月16日から同年5月7日までの22日間、勤務シフト上の労働日としては19日間連続で欠勤したものということができる。
雇用契約においては、出勤して労務を提供するということが最も基本的かつ重要な債務であるから、Xは重大な債務不履行をしたというべきであり、これにより、Y社が代替要員の確保に奔走するなど迷惑を被ったことは当然であり、企業秩序を著しく害する行為であるといえる。その期間についても、勤務シフト上の労働日単位で見ても19日連続というように長期間であるし、Xは、Y社から書面による警告を受けながらも、Y社に対し、自宅待機にした上で休業手当を支払うように要求していたことなどから、本件解雇をせずとも、その後、欠勤を続けていた可能性が極めて高いというべきである
したがって、Xは、少なくとも、就業規則43条2号(出勤常ならず改善の見込みのないとき)、7号(第16条から第21条まで、又は第36条、第37条、第53条の規定に違反した場合であって、その事案が重篤なとき)及び9号(その他前各項に準ずる程度の不都合な行為を行ったとき)の懲戒解雇事由に該当するといえる。また、本件解雇は、懲戒解雇として、客観的に合理的な理由を有するということができる。

2 Xは、本件配転命令を拒否し、正当な理由なく令和4年4月16日から同年5月7日までの22日間、勤務シフト上の労働日としては19日間連続で欠勤しており、長期間にわたり重大な債務不履行をしたものといえる。また、Y社は、本件解雇に先立ち、Xに対し、2度書面で出勤を命じるとともに従わない場合は処分する旨の警告をしており、手続的にも適正である
他方で、Xは、Y社が本件配転命令を撤回したり配転先を再度検討したりする旨を一度も述べていないにもかかわらず、Y社に対し、自宅待機にした上で休業手当を支払うように要求しており、働かずして支払を受けることを画策していたと思われるし、Y社が新しい配転先を検討している間自宅待機になった旨通知書に虚偽の記載をするなど、自身の要求を押し通そうとする姿勢が顕著であり、情状面も悪い。Xは、本件解雇をされなくても、その後、欠勤を続けていた可能性が極めて高いというべきである。
したがって、本件解雇は、懲戒解雇として、社会通念上相当であると認められる。

配転命令拒否を理由とする解雇の事案においては、前提となる配転命令の有効性がまずは判断され、仮に有効であると判断された場合には、かかる命令に反したことを理由とする解雇の相当性が問題となります。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇402 整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

リビングエース事件(大阪地裁令和5年2月3日・労判ジャーナル138号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社から整理解雇され、Xの地位確認等請求を認容する労働審判が確定した後、再度、Y社から整理解雇されたため、本件解雇は解雇権の濫用に当たり無効である旨主張し、雇用契約に基づき、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、未払賃金等の支払を求め、また、本件労働審判が確定したにもかかわらず、Y社がXの職場復帰を認めず、本件解雇をし、あるいは未払賃金の支払を拒否したのは違法である旨主張して、共同不法行為に基づき、Y社、代表取締役B、元代表取締役Cに対し、連帯して、慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求認容

損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 本件解雇当時、Y社の経営状況が悪化して人員削減が必要な状況にあったとはいえず、その他これを認めるに足りる証拠はなく、また、Y社は、経費削減について最大限できることはやり尽くした旨主張するが、かかる事実は認められず、役員報酬等の減額が十分といえるかには疑問があり、さらに、Bは、本件解雇をするに当たって雇用調整助成金が受給可能であるかどうかの検討をしていないことからすると、Y社の解雇回避努力が十分であったとはいえず、他方、本件解雇当時におけるY社の従業員は、Xのほかに、代表取締役であるBと女性事務員の2名であったことからすると、人員削減の必要性が肯定される限りにおいて、Xを解雇対象とすることが不合理であるとまではいえないから、本件解雇につき人選の合理性があったこと自体は否定できないが、Y社は、先行解雇が無効であることを前提とする本件労働審判に対して異議申立てをせずにこれを確定させており、本件労働審判の内容を履行すべき立場にあったところ、その後、民事調停を申し立て、民事調停が不成立となるや、Xに対して何ら事前説明をすることなく本件解雇をするに至ったものであり、本件解雇の手続が相当であったとは認められないから、客観的に合理的な理由があったとはいえず、解雇権を濫用するものとして無効である。

2 本件解雇は無効であるというべきであるが、本件解雇に至る経緯等を考慮しても、Y社による復職拒否及び未払賃金支払拒否が独自の不法行為を構成するとは認められず、あるいは、Xに上記未払賃金が支払われることによってもなお填補されない精神的損害が発生したとは認められないから、XのY社らに対する不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。

整理解雇を行う場合、一般的には経営がかなり逼迫した状況であるため、手順や手続を無視してしまうことがありますが、有効要件がかなり厳しいので、多くの事案で無効と判断されています。

整理解雇を行わざるを得ない場合には、事前に顧問弁護士に相談することが大切です。