おはようございます。
今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。
東京大学出版社事件(東京地裁平成22年8月26日・労判1013号15頁)
【事案の概要】
Y社は、東京大学における研究とその成果の発表を助成し、又は民間出版社において採算上刊行を引き受けないような優良学術図書の刊行、頒布等の事業を行い学術の振興、文化の向上に寄与することを目的とする財団法人である。
Xは、Y社の従業員として、編集局に所属し、学術書・教科書等の編集に携わったが、平成21年3月31日に定年退職した。
Y社には、再雇用契約社員就業規則があり、定年退職者の再雇用の条件として、健康状態が良好であり、再雇用者として通常勤務できる意欲と能力がある者等と規定されている。
しかし、Y社では、高年法9条2項にいう「継続雇用制度の対象となる高年齢者にかかる基準を定める労使協定」は締結されていなかった。
Xは、Y社所定の手続きに従って定年後の再雇用を求めたところ、Y社は、従来のXの勤務状態からすると、誠実義務および職場規律に問題があり、再雇用として通常勤務できる能力がないとしてこれを拒否した。
Xは、本件再雇用拒否は、正当な理由を欠き無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。
【裁判所の判断】
本件再雇用拒否は無効であるとして、再雇用契約の成立を認めた。
【判例のポイント】
1 法は、継続雇用制度の導入による高年齢者の安定した雇用の確保の促進等を目的とし、事業者が高年齢者の意欲及び能力に応じた雇用の機会の確保等に努めることを規定し、これを受けて、法附則は、事業者が具体的に定年の引上げや継続雇用制度の導入等の必要な措置を講ずることに努めることを規定していることによれば、法は、事業主に対して、高年齢者の安定的な雇用確保のため、65歳までの雇用確保措置の導入等を義務づけているものといえる。また、雇用確保措置の一つとしての継続雇用制度(法9条1項2号)の導入に当たっては、各企業の実情に応じて労使双方の工夫による柔軟な対応が取れるように、労使協定によって、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、継続雇用制度の措置を講じたものとみなす(法9条2項)とされており、翻って、かかる労使協定がない場合には、原則として、希望者全員を対象とする制度の導入が求められているものと解される。
2 以上のとおり検討した法の趣旨、再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況等にかんがみれば、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は、Y社との間で、同規則所定の取扱及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず、同定年退職者に対して再雇用拒否の意思表示をするのは、解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるというべきであるから、当該定年退職者とY社との間においては、同定年退職者の再雇用契約の申込みに基づき、再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。
3 ・・・上記判示の事情にかんがみれば、再雇用拒否理由の事実をもってしても、Xには、職務上備えるべき身体的・技術的能力を減殺すほどの協調性又は規律性の欠如等は認められず、再雇用就業規則3条(2)所定の「能力」がないと認めることはできない。
4 以上によれば、本件再雇用拒否は、Xが再雇用就業規則3条所定の要件を満たすにもかかわらず、何らの客観的・合理的理由もなくなされたものであって、解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であるというべきである。そうすると、Xは、再雇用就業規則所定の取扱い及び条件に従って、Y社との間で、再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するというべきであるから、Xの再雇用契約の申込みに基づき、X・Y社間において、平成21年4月1日付けで再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。
したがって、XがY社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。
本件は、これまでの裁判例とは異なり、再雇用拒否に対し、解雇権濫用法理を類推適用し、継続雇用を認めました。
とうとう出ましたね。
労働者側からすれば、画期的な判例です!
本件では、再雇用就業規則の解釈として、Y社において再雇用就業規則の解釈として、Y社において再雇用就業規則が制定された経緯(組合に対して、再雇用を希望する定年退職者を排除的に運用しないと説明したこと等)や、実際のY社における運用状況(これまで再雇用を拒否した例がないこと等)など固有の事情も考慮されています。
とはいえ、高年法9条の私法上の効力を認める結論となっています。
当然のことながら、Y社は、控訴しています。
高裁の判断が注目されます。
実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。