Category Archives: 管理監督者

管理監督者12(PE&HR事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

PE&HR事件(東京地裁平成18年11月10日・労判931号65頁)

【事案の概要】

Y社は、ベンチャー企業に対する投資、経営コンサルタント業、有料職業紹介事業などと目的とする会社である。

Xは、Y社の「パートナー」の職種に応募して採用された。

Y社は従業員数が10名に満たない規模の会社であって、就業規則を制定していなかった。

Xは、Y社入社後、会社の管理部門としては経理・労務を担当し、営業部門にあってはオフィス担当の職にあったが、部下はいなかった

Xは、退職後、Y社に対し、時間外割増賃金の支払い等を求めた。

Y社は、Xが管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者と定義されるところ、一般的にはライン管理職を想定しているが、他方、企業における指揮命令(決定権限)のライン上にはないスタッフ職をも包含するものとされるY社における人員構成からすると、Xがライン管理職に該当しないのは明らかであるから、管理監督者に該当するスタッフ職にXがあるといえるのかどうかが問題となる

2 会社に雇用される労働者のうちで、時間外勤務に関する法制の適用が除外される理由としては、当該仕事の内容が通常の就業時間に拘束される時間管理に馴染まない性質のものであること、会社の人事や機密事項に関与するなどまさに名実ともに経営者と一体となって会社の経営を左右する仕事に携わるものであることが必要とされる。そして、このような労働時間の制限及び時間管理を受けないことの反面ないし見返りとして、会社における待遇面で勤務面の自由、給与面でのその地位にふさわしい手当支給等が保障されている必要があるものというべきである。

3 XについてのY社からの出退勤時刻の厳密な管理はなされていたようには思われないものの、出勤日には社員全員が集まりミーティングでお互いの出勤と当日の予定を確認しあっている実態からすると、Xには実際の勤務面における時間の事由の幅はあまりないか相当狭いものであることが見受けられる。

4 時間外手当が付かない代わりに管理職手当であるとか特別の手当が付いている事情が見受けられず、月額支給の給与の額もそれに見合うものとはいえない。

5 Y社における人員構成からは管理職と事務担当者の職分が未分化であり、Xが経理・労務の責任を負っていたといっても社内でXしかそれを担当する者がいないことなどの勤務実態が認められる。

6 XのY社における地位・就業面・給与面での待遇に照らすと、Xが労基法の労働時間、休憩及び休日を規制する法の適用の除外を受けるに値する管理監督者の職にあるものとは認めることができない。

Xはいわゆる「スタッフ管理職」です。

この事件では、部下がいないスタッフ管理職が管理監督者に該当するかが問題となり、否定されました。

今後、スタッフ管理職の管理監督者性を肯定する裁判例も出てくるのでしょうか・・・。

部下がいない管理監督者!? よくわからないですね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者11(神代学園ミューズ音楽院事件)

おはようございます。

さて、今日は管理監督者に関する裁判例を見ていきます。

神代学園ミューズ音楽院事件(東京高裁平成17年3月30日・労判905号72頁)

【事案の概要】

Y社は、音楽家を養成する専門学校である。

Xらは、Y社の従業員であり、それぞれ事業部長、教務部長、課長の職にあった。Xらは、既にY社を退職している。

Xらは、Y社に対し、時間外労働割増賃金等を請求した。

Y社は、Xらが管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者が時間外手当支給の対象外とされるのは、その者が、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨に出たものと解される。

2 Xらは、いずれもタイムカードにより出退勤が管理され、出勤は他の従業員と同様の午前8時30分に余裕を持った出勤をしていた。

3 時間外労働等の実績に応じた割増賃金の支払を受けていた。

4 有給休暇の取得についても、特に他の従業員と異なる待遇を受けていたと認めるに足りる証拠はない。

5 X1は、Y社の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し、教務部の従業員の人事考課及び講師の人事評価を行って、Y社社長に対し報告していた。
→しかし、X1が、Y社社長の指示や承諾を得ることなく、X1の裁量で教務部にかかわる業務を行っていた事実を認めることはできない

6 X2は、経理支出について関与していた。
→しかし、X2が、経理にかかわる権限を一手に掌握し、Y社社長の指示や承諾を得ることなく、多額の出費をX2の判断で行っていたとの事実を認めることはできない

7 結局、Xらは、それぞれ事業部長及び教務部長として、その業務遂行に対する職務上の責任をY社から問われることはあっても、その職責に見合う裁量を有していたものと認めるに足りる的確な証拠があるとはいえない

「社長の指示や承諾を得ることなく」自分の裁量で決定できる人が、どれだけいるのでしょうか・・・。

ちょっと管理監督者の範囲が狭すぎるような気がしますが、いかがでしょうか。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者10(岡部製作所事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

【事案の概要】

Y社は、プラスチック成形・加工等を業とする会社である。

Xは、Y社における工場の営業開発部長の職にあり、営業・商品開発業務を行っていた。

Xの基本給は、月34万円、管理職手当は月11万円であった。

Xは、Y社に対し、休日出勤による時間外賃金、付加金等を請求した。

Y社は、Xが管理監督者である等と主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金の支払いを命じた。

付加金満額の支払いも命じた。

【判例のポイント】

1 Xの業務遂行に際して、大半の期間はXの業務は1人で遂行している。
月例で開催されるY社における経営会議において、Xは管理職としてメンバー召集されていたが、当該会議は各部門の業務遂行状況等の報告・掌握のための場として機能しているものの、重要事項の決定は取締役会においてなされ、経営会議で会社の経営方針等について決が取られるような決定機関として機能していなかった。
 
→XのY社への経営参画状況は極めて限定的である。

2 常時部下がいて当該部下の人事権なり管理権を掌握しているわけではなく、人事労務の決定権を有せず、むしろ、量的にはともかく質的にはXの職務はXがY社内で養ってきた知識、経験及び人脈等を動員して一人でやり繰りする専門職的な色彩の強い業務であることが窺える

3 Y社の従業員の出退勤管理はタイムカードによる管理が原則となっていたところ、Xほか一部の者には、タイムカードが配布されずにいた。
Xは、住まいが遠方にあり、工場へは午前9時から9時30分の間に出勤しており、出勤が遅くなっているのに合わせて退勤時刻も一般の終業時刻より30分繰り下げて退勤していた。このような勤務状況にあることもあって、Y社のタイムカードによる自動処理に馴染まないことからXにはタイムカードが配布されていなかった
→勤務時間も実際上は一般の従業員に近い勤務をしており、Xが自由に決定できるものではない。

裁判所は、Xには管理職手当が出されており、経営会議にも参加しており、タイムカードによる出退勤管理がなされていなかったにもかかわらず、管理監督者ではないと判断しました。

管理職手当は置いておくとして、経営会議の点とタイムカードの点については、原告側がその実態を主張立証したことにより、上記のような判断に至ったものです。

このように検討していくと、つくづく「管理監督者」の範囲は狭いな、と感じます。

なお、裁判所は、特に理由を説明することなく、付加金の満額を認めています。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者9(セントラル・パーク事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

セントラル・パーク事件(岡山地裁平成19年3月27日・労判例941号23頁)

【事案の概要】

Y社は、ホテルや駐車場等を経営し、軽食喫茶店も、一時経営していた会社である。

Y社は、社長、専務らを中心とするいわゆる同族会社である。

Xは、Y社との間で、料理長として勤務する旨の期間の定めのない雇用契約を締結した。Xの業務内容は、Y社が経営するホテルのレストラン等の料理の企画、実行及び他の料理人の指揮・監督であった。

Xは、Y社退職後、時間外労働手当、付加金等の支払いを求めた。

これに対し、Y社は、Xが労基法41条2号の管理監督者であるから、時間外労働手当を請求できる地位にない等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金の支払いを命じた。

付加金の支払いも命じた。

【判例のポイント】

1 Xは出退勤について厳格な規制を受けずに、自己の勤務時間について自由裁量を有しているとは認めがたい。

2 現場での料理人の配置を決める以上に、各料理人の昇給の決定やY社の労務管理方針の決定への参画など、特段の労務管理についての権限があったわけではない。

3 Xの給与面での待遇は、Y社内においては高いものであったとしても、その待遇の故をもって管理監督者に該当するとはいえず、その待遇も管理監督者に該当しないとしても、不自然に高いものということはできない。

勤務時間について、Y社では、料理人であるXの作成したシフト表に基づき他の料理人は勤務し、Xは、その勤務時間割もシフト表によって自ら決定していたし、自己の出退勤時間や休日について、社長や専務に対し、逐一報告や了承をとっていなかったようです。

しかし、裁判所は、以下のように判断し、Xの出退勤に厳格な規制がないと評価することはできないとしました。

「しかし、Xは、他の料理人と同様の勤務時間帯に沿ってシフト表に自らを組み込み、他の料理人と同様に、ホテルレストラン等において料理の準備、調理、盛り付けといった仕事を行っていたのであって、Xを含む5人の料理人がそれぞれ月5日以上の休日を取っているため、4人の料理人でホテルレストラン等の調理を担当する日も多く、Xがシフト表を作成するからといって、自己についてのみ、自由に出退勤時間を決めたり、その都合を優先して休日をとったりすることが実際には困難であったことは容易に推認できる。」

形式よりも実質を重視したわけです。

また、Y社が料理人を採用する際、Xの関与の程度について、裁判所は以下のように判断しています。
「Xは、Y社が料理人を採用する際には、Y社社長に候補者を推薦したり、募集や採用の手続を自ら行ってはいたが、Xの判断のみで採用や解雇が決定されたということはないし、Xが採用を推薦することが直ちにY社の採用につながるものではなかった。」

う~ん・・・Xは社長ではありませんので、Xの判断のみで決定できるわけがありません。

その他、裁判所は、以下のとおり判断し、付加金の支払いを命じました。

Y社は、かつてはタイムカードによって従業員の出退勤時刻の把握をしていたにもかかわらず、労働基準監督署から法定労働時間外労働に対する割増賃金の不払等について是正勧告を受けた後間もなく、タイムカードを廃止し、その後は、出勤した従業員に出勤簿に押印させるのみとして、従業員の出勤時刻はもちろん退勤時刻を客観的に記録、把握する仕組みを何ら設けていないことが認められ、Y社は、労働時間の適正な把握という使用者の基本的な責務を果たしていないと評価するほかない。そして、Y社において労働時間を適正に把握していれば、本件紛争もより早期に的確に解決し得たものと考えられるし、Xが本件請求期間においてシフト表記載の時刻よりも早く出勤し、又は遅く退勤したことがあったことについては、証明には至らないものの、相当程度の可能性が存在するのである。
そうすると、……本件ではY社に付加金の支払を命ずることが相当である

そして、本件では、裁判所の裁量によって付加金を減額するのが相当というまでの事情は認められない。

未払残業代等の請求をする際、会社がちゃんとタイムカード等で労働時間を管理していないことがあります。

今回のケースは、労基署による是正勧告後に、あえて労働時間の管理を放棄したもので、悪質と言わざるを得ません。

そのため、裁判所も、付加金の支払いを満額認めたようです。

付加金は、裁判所の裁量により減額されたり、支払わなくてもよいと判断されることがあります。

付加金について満額支払われるべきであると主張する際の理由づけとして参考になりますね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者8(日本ファースト証券事件)

おはようございます。

さて、今日も、管理監督者に関する裁判例を見ていきましょう。

日本ファースト証券事件(大阪地裁平成20年2月8日・労判959号168頁)

【事案の概要】

Y社は、有価証券の売買、有価証券指数等先物取引等を業として行う会社である。

Xは、Y社の大阪支店長として入社し、約1年後に退職した。

Xは、Y社に対し、休日出勤に対する時間外割増賃金等を請求した。

Y社は、Xが管理監督者に該当するなどと主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、請求を棄却した。

【判例のポイント】

1 Xは、大阪支店の長として、30名以上の部下を統括する地位にあり、Y社全体から見ても、事業経営上重要な上位の職責にあった。

2 大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限を有しており、中途採用者については実質的に採否を決する権限が与えられていた

3 人事考課を行い、係長以下の人事についてはXの裁量で決することができ、社員の降格や昇格にういても相当な影響力を有していた

4 部下の労務管理を行う一方、Xの出欠勤の有無や労働時間は報告や管理の対象外であった

5 月25万円の職責手当を受け、職階に応じた給与と併せると賃金は月82万円になり、その額は店長以下のそれより格段に高い

6 このようなXの職務内容、権限と責任、勤務態様、待遇等の実態に照らしてみれば、Xは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある管理監督者にあたるというべきである。

これらの判断とは対照的に、Xはさまざまな反論をしていますが、すべて認められていません。

例えば、

X 「外務員日誌の作成を求められるなど労働時間の管理を受けている。」
裁判所 「外務員日誌の作成が交通費の実費精算と営業経過の備忘のためであったことは、Xも認めているところであって、これをもって労働時間が管理されていたということはできない。」

X 「自らも降格処分を受けていることをもって、自身に人事権がなかった証拠である。」
裁判所「証拠によれば、Xの降格は、部下の営業成績が悪かったことに対する管理者責任を問われた結果であることが認められ、かえってXに支店の経営責任と労務管理責任があったことを裏付ける。」

X 「待遇としても、以前勤めていた会社では、Y社での給与より、残業手当込みで月額15万円以上高かったと述べ、Y社における待遇は高いものではなかった。」
裁判所 「賃金体系も契約内容も異なる会社での給与額だけを単純に比較して、その多寡を決することはできないし、Y社における月額80万円以上の給与が、Xの職務と権限に見合った待遇と解されないほど低額とも言いがたい。」

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者7(姪浜タクシー事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

姪浜タクシー事件(福岡地裁平成19年4月26日・労判948号41頁)

【事案の概要】

Y社は、タクシーによる旅客運送業等を業とする会社である。

Xは、タクシー乗務員としてY社に雇用され、営業部次長となり、定年退職した。

Xは、Y社に対し、在職中の時間外労働及び深夜労働の割増賃金と付加金等請求した。

Y社は、Xは管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、時間外労働の割増賃金の請求を棄却した

深夜労働割増賃金の請求は認めたが、付加金の請求は棄却した。

【判例のポイント】

1 Xは、営業部次長として、終業点呼や出庫点呼等を通じて、多数の乗務員を直接に指導・監督する立場にあった。

2 乗務員募集についても、面接に携わってその採否に重要な役割を果たしていた。

3 出退勤時間についても、多忙なために自由になる時間は少なかったと認められるものの、唯一の上司というべきA専務から何らの指示を受けておらず、会社への連絡だけで出先から帰宅することができる状況にあったなど、特段の制限を受けていたとは認められない
なお、Xは、勤務シフトに拘束されて出退勤時間の自由はなかったと主張するが、勤務シフトが作成されていたのは、営業部次長の重要な業務である終業点呼や出庫点呼に支障を来さないためであると認められるのであり、それ自体で出退勤時間の自由がないということはできない。

4 他の従業員に比べ、基本給及び役務給を含めて700万円余の高額の報酬を得ていたのであり、Y社の従業員の中で最高額であった

5 XがY社の取締役や主要な従業員の出席する経営協議会のメンバーであったことや、A専務に代わり、Y社の代表として会議等へ出席していた

6 これらを総合考慮すれば、Xは、いわゆる管理監督者に該当すると認めるのが相当である。

上記4から、待遇については、金額そのものではなく、他の従業員との比較で判断されることがわかります。

そのため、例えば、1000万円の報酬をもらっていても、他の従業員もそれくらいもらっている場合には、不十分ということになります。

なお、深夜割増賃金についての付加金については、特に具体的な理由を述べることなく、「本件の内容等にかんがみ、これを認めないこととする」と判断しています。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者6(ボス事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き、管理監督者に関する裁判例を見ていきます。

ボス事件(東京地裁平成21年10月21日・労判1000号65頁)

【事案の概要】

Y社は、コンビニや飲食店の経営等を目的とする会社である。

Xは、Y社経営のコンビニ(A店)の店長ないし副店長であった。

Xは、Y社に対し、未払給与、時間外手当、付加金等の支払いを求めた。

Y社は、Xは管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金(743万円)の支払いを命じた。

付加金請求については棄却した。

【判例のポイント】

1 Xは、A店の店長として、店舗経営に一定の裁量があり、Y社全体の経営にも全く関与がなかったわけではない。

2 A店のアルバイトについてすら、募集、採用、解雇につき、実質的な権限があったとはいえず、また、人事考課への実質的な関与も認められない

3 店舗における労働時間の管理についても、労務管理の実質的権限はない

4 Xは、自らの出退勤もタイムカードによってY社に管理され、遅刻によって不利益な処分を受けたこともある

5 賃金面での待遇が、役職者以外の者と比べ、時間外勤務手当を支払わなくとも十分といえるほど厚遇されているとはいいがたい

6 以上からすると、Xは、Y社の店舗の店長として、A店の経営に一定の裁量権を有し、Y社全体の経営にも全く関与していないわけではないけれども、その権限、勤務態様、賃金等の待遇を考慮すると、管理監督者に該当するとまではいえないというのが相当である。

コンビニの店長で、この事案のように、ほとんど実質的権限がない場合には、管理監督者性は否定されます。

フランチャイズ契約上の制約がかなりありますね。

Y社は、6店舗のコンビニを経営しているようです。

今回認められた未払割増賃金は743万円

各店舗に店長がいるわけですから、単純計算、743万円×6人=約4500万円・・・

なお、この事案では、裁判所は、以下のとおり判断し、付加金の支払いを命じませんでした。

「Y社は各コンビニ店の責任者である店長を労基法41条2号の管理監督者と認識して時間外勤務手当を支払ってこなかったこと、店長としての業務の性質上当然に早朝又は深夜の勤務が予定されることから基本給とは別に店長手当を支払うことで早朝又は深夜勤務についての手当を支払う対応をしてきたこと所轄の労働基準監督署においてもY社の前記対応を認識した上、特段の異議を述べず、勧告、指導をしなかったことが認められる。
これらの事実からすると、Y社について、付加金という制裁を課すことが必ずしも相当とはいえないから、当裁判所は、Y社に対し、労基法114条に基づく付加金の支払を命ずることはしない。」

労基署の指導がなかったことが大きいのでしょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件と比較するとよくわかります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者5(センチュリーオート事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

センチュリーオート事件(東京地裁平成19年3月22日・労判938号85頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車の修理及び整備点検、損害保険代理業等を目的とする有限会社である。

Xは、Y社入社時から退職時までの間、営業部長の職にあった。

Xは、Y社に対し、未払賃金、時間外割増賃金、付加金の支払い等を求めた。

Y社は、Xが管理監督者に該当するから、労働時間に関する労基法の規定は適用されないと主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、時間外割増賃金及び付加金の請求を否定した。

【判例のポイント】

1 入社当時から退職するまでの間、Xは営業課長の職にあり、遅刻・早退等を理由としてXの基本給が減額されることはなかった

2 Xは営業課長として、営業部に所属する従業員の出欠勤の調整、出勤表の作成、出退勤の管理といった管理業務を担当していた

3 Xは、経営会議やリーダー会議のメンバーとしてこれらの会議に酒席していた。これらは、Y社代表者及び各部門責任者のみをその構成員とする会議であった

4 Xに支給された給与の額は、Y社代表者、工場長に次ぐ、高い金額であった

5 これらの事実によれば、Y社において、Xは営業部長という重要な職務と責任を有し、営業部門の労務管理等につき経営者と一体的な立場にあったと評するのが相当である

「営業部門の労務管理につき」という言い回しです。

マクドナルド事件のように「企業全体の事業経営」に関与することまでは要件とされていません。

なお、裁判所は、Xの主張について以下のように判断しています。

「労働時間の管理面については、確かにXは出退勤の際、タイムカードを打刻していたことが認められる。しかしながら、遅刻・早退等を理由としてXの基本給が減額されることはなかったのであるから、Xが出退勤の際にタイムカードを打刻していたとの事実のみから、直ちに、Xの労働時間が管理されていたと評することはできない。」

「Xは、新規採用者の決定権限や人事評価の決定権限は付与されていなかったと主張するが、XがY社代表者に営業部の人員の補充を求めたところ、Y社代表者が新規従業員を募集・採用した例があったこと、また、この際、Y社代表者がした採用面接の場にXが立ち会い、同面接後にはY社代表者から意見を求められたことからすれば、最終的な人事権がXに委ねられていたとはいえないものの、営業部に関しては、Y社代表者の人事権行使にあたり、部門長であったXの意向が反映され、また、その手続・判断の過程にXの関与が求められていたとみるのが相当である。したがって、X指摘の点は、前記の判断を左右するには足りない。」

このあたりは、参考になると思います。

タイムカードを打刻していたら管理監督者ではない、といった形式的な話ではないわけです。

この事案で、遅刻・早退した場合に、基本給の減額がされていたら、どのような結論になったのでしょうか。

やはり管理監督者性は否定されるのでしょうか・・・?

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者4(コトブキ事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する最高裁判例を見てみましょう。

なお、この事案は、ほかにも不正競争防止法上の営業秘密、競業避止義務等の争点があります。

コトブキ事件(最高裁二小平成21年12月18日・労判1000号5頁)

【事案の概要】

Y社は、美容室及び理髪店を経営する会社である。

Xは、Y社の従業員であり、「総店長」の地位にあった。

Xは、Y社を退社するに際し、Y社の営業秘密に属する情報が記載された顧客カードを無断で持ち出し、他の店舗で新たに始めた理美容業のためにこれを使用した。

Y社は、Xに対し、不正競争防止法4条、民法709条に基づき損害賠償請求をした。

これに対し、Xは、Y社に対し、XがY社勤務中の時間外割増賃金、深夜割増賃金などを請求する反訴を起こした。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、深夜割増賃金に係る反訴請求に関する部分を破棄し、東京高裁に差し戻す

【判例のポイント】

1 管理監督者性について(東京高裁の判断)
管理監督者とは、一般には労務管理について経営者と一体的な立場にある者を意味すると解されているが、管理監督者に該当する労働者については労基法の労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されないのであるから、役付者が管理監督者該当するか否かについては、労働条件の最低基準を定めた労基法の上記労働時間等についての規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有し、これらの規制になじまない立場にあるといえるかを、役付者の名称にとらわれずに、実態に即して判断しなければならない。

(1)Xは、Y社の総店長の地位にあり、代表取締役役に次ぐナンバー2の地位にあったものであり、Y社の経営する理美容業の各店舗(5店舗)と5名の店長を統括するという重要な立場にあった

(2)Y社の人事等その経営に係る事項については最終的には代表取締役の判断で決定されていたとはいえ、Xは、各店舗の改善策や従業員の配置等といった重要な事項について実際に意見を聞かれていた

(3)Xは、毎月営業時間外に開かれる店長会議に出席している

(4)待遇面においては、店長手当として他の店長の3倍に当たる月額3万円の支給を受けており、基本給についても他の店長の約1.5倍程度の給与の支給を受けていた

(5)これらの実態に照らせば、Xは、名実ともに労務管理について経営者と一体的な立場にあった者ということができ、管理監督者に該当する。

2 深夜割増賃金について(最高裁の判断)
労基法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく、管理監督者に該当する労働者であっても、同項に基づく深夜割増賃金を請求することができる

管理監督者性を肯定した判例です。

この事案の興味深い点は、東京高裁が、Xの管理監督者性を肯定し、それを理由に、深夜割増賃金を含む時間外賃金の支払請求は認めなかった点です。

管理監督者1(概要)でも書きましたが、深夜労働については適用除外になっていないため、管理監督者であるというだけでは、深夜労働の割増賃金を支払わない理由にはなりません。

なお、最高裁は、管理監督者に対する深夜割増賃金の支払いについて以下のように述べています。

もっとも、管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約、就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者3(東和システム事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き、管理監督者に関する裁判例を見ていきましょう。

東和システム事件(東京高裁平成21年12月25日・労判998号5頁)

【事案の概要】

Y社は、ソフトウェア開発等を営む会社である。

Xは、Y社において、SEとして勤務していた。

Xは、課長代理の職位にあり、職務手当(1万5000円)の支給を受けていた

Y社では、管理職には職務手当のほか、基本給の30%に相当する「特励手当」が毎月の所定内賃金として支払われていた

Xは、Y社に対し、時間外手当および付加金等を請求した。
(Xが一定量の時間外労働をした事実については争いがない。)

Y社は、(1)Xは管理監督者にあたる、(2)仮に管理監督者でなくても、「特励手当」を時間外手当の算定基礎に含めるべきである、などと主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金、付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとわられず、実態に即して判断すべきであると解される。
具体的には、
(1)職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
(2)部下に対する労務管理上の決定権等につき一定の裁量権を有し、部下に対する人事考課、機密事項に接していること
(3)管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
(4)自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること
以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
→Xは、上記要件をみたさない。

2 Xに支給されていた本件「特励手当」は、超過勤務手当の代替または補填の趣旨を持つものであって、特励手当の支給と超過勤務手当の支給とは重複しないものと解せられるから、Xが受給しうる未払超過勤務手当から既払いの特励手当を控除すべきである

3 Y社に対し、付加金の支払いを命じるのが相当ではあるが、Y社の態度がことさらに悪質なものであったとはいえず、その額は未払超過勤務手当額の3割が相当である。 

昨日、見た「日本マクドナルド事件」と規範が異なります。

マクドナルド事件では、「企業全体の事業経営」に関与することが要件とされていました。

ところが、東和システム事件では、「ある部門全体の統括的な立場」にあることが要件となっています。

企業全体か部門全体か、かなり要件が異なります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

付加金について。

労働基準法第114条
「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は違反のあったときから2年以内にしなければならない。」

つまり、会社としては、未払金の倍額を支払わなければならない可能性があるわけです。

あくまで可能性です。

裁判所は、会社による労働基準法違反の態様、労働者の受けた不利益の程度等諸般の事情を考慮して、支払義務の存否、額を決定します。

本件裁判例では、付加金として3割の支払いを命じました。

 
ちなみに、労基法20条、26条、37条、39条6項は以下のとおりです。
20条・・・解雇予告手当
26条・・・休業手当
37条・・・時間外・休日・深夜労働の割増賃金
39条6項・・・年次有給休暇中の賃金

上記4つのほかは、付加金の請求はできません。

また、付加金については、判決確定の日の翌日から民事法定利率である年5%の遅延損害金も請求できます江東ダイハツ自動車事件・最一小判昭和50年7月17日・労判234号17頁)。

そして、付加金の請求は違反のあったときから2年以内にしなければなりません。この期間は除斥期間であると解されています。