Category Archives: 有期労働契約

有期労働契約49(F社事件)

おはようございます。 7月も終わりですね。早いですね。

さて、今日は、私用電話・メール、上司に対する反抗的態度等を理由とする店舗の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

F社事件(大阪地裁堺支部平成26年3月25日・労経速2209号21頁)

【事案の概要】

Xは、Y社に雇用期間1年の嘱託社員として雇用されていたところ、Y社から雇用契約の更新を拒絶されたため、その雇止めには解雇権濫用法理が準用され、かつ、その雇止めは、Y社が、Xの所属する労働組合及び執行委員長であるXを嫌悪し、同組合の弱体化を図るという不当な目的でしたものであり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないから、解雇権を濫用した無効なものであると主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、雇止め後の平成25年から判決確定の日まで、賃金25万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却
→雇止めは有効

【判例のポイント】

1 本件雇用契約は、契約期間を3か月間、9か月間と明確に定めて更新され、3回目以降の更新は、一貫して契約期間を1年間と明確に定めて更新されている。また、契約の更新手続の態様からすれば、嘱託社員としての雇用契約については、一般に、毎年、契約期間が明記された契約書が嘱託社員に送付され、当該嘱託社員がこれに署名押印して返送する手続が繰り返されており、Xの場合も同様であると推認される。 これらの事情に照らすと、本件雇用契約が期間の定めのない労働契約に転化したものであるとか、更新を重ねることによりあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたということはできない

2 しかしながら、Xにおいて、本件雇用契約が継続すると期待することに合理性が認められる場合には、期間満了によって本件雇用契約が当然に終了するものではなく、雇止めには相応の理由を要すると解するのが相当である。 ・・・以上によれば、本件雇止めについては、解雇権濫用法理が類推適用されると解するのが相当である。ただ、雇用契約が期間の定めのない契約に転化したり、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合と比較して、本件雇用契約における雇用継続の期待を保護する必要性は相対的に低いといえるから、本件雇止めの理由としては、それ程強いものが要求されるのではなく、一応の相当性が認められれば足りると解するのが相当である

3 ・・・以上によれば、本件携帯電話を用いたメール送受信や電話の大半には業務関連性がなく、勤務時間中に送受信されたメールや電話が相当数に上ることも勘案すると、Xは、本件携帯電話の貸与を受けるに際し、遵守事項を確認したにもかかわらず、勤務時間中に私事を行うなどしたと認められる。また、C、D及びEらに対する言動も、業務私事の拒否や無視、上司に対する暴言や反抗的態度等、従業員としての忠実義務に反するものであると認められる。・・・そして、このような非違行為の内容及び程度に加え、XがY社から二度にわたり警告を受けていることなどを踏まえると、不当労働行為目的等の特段の事情がない限り、Xの上記非違行為は、本件雇止めの相当な理由となり得ると解するのが相当である

使用者側のみなさんは、上記判例のポイント2についての考え方を参考にしてください。

雇用継続に関する合理的期待を保護するケースでは、雇止めに関する判断基準が若干緩くなるようです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約48(X学園事件)

おはようございます。
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←事務所のクリアファイル第4弾が完成しました。

今回は、栗坊ではなく、くり子ちゃんのクリアファイルです。

さて、今日は、期間雇用のカウンセラーの解雇は無効だが雇止めは有効とされた裁判例を見てみましょう。

X学園事件(さいたま地裁平成26年4月22日・労経速2209号15頁)

【事案の概要】

本件は、平成3年4月1日に契約期間を1年と定めてY社と雇用契約を締結したXが、平成23年8月29日にY社が行った解雇は無効であり、その後のY社による雇止めには合理的な理由がないとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成24年4月支給分以降の賃金及び賞与の支払いを求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 有期労働契約は、期間中は当事者双方が雇用を継続しなければならないという点で、雇用の存続期間を相互に一定期間保障し合う意義があることに照らせば、労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由」は、期間の定めのない労働契約の解雇において必要とされる「客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる事由」よりも厳格に解すべきであり、その契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由と解すべきである。しかるところ、業務日誌の不提出については、これにより健康相談センターの学生相談部門による総合的な学生支援業務の遂行に支障が生じたか否かは証拠上判然としないこと、執務場所の変更については、1か月強遅れたものの実現していること、アンケートについては、実施日数は3日で、回収枚数は10枚に満たないことに鑑みれば、これらのXの行為が平成24年3月末日の本件雇用契約の契約期間満了を待つことなく平成23年8月29日に直ちにXの従業員としての地位を喪失させざるを得ないような特別の重大な事由に当たるとすることには躊躇せざるを得ない
したがって、本件解雇は、上記各行為によりXが兼務教職員就業規則6条2号(勤務実績が著しく不良と認められるとき)に該当するか否かを問うまでもなく、無効であるというべきである。

2 ・・・雇用継続に対するXの期待利益には合理性が認められるというべきであり、したがって、解雇権濫用法理を類推適用し、雇止めには合理的な理由が必要であるというべきである。
そこで、合理的な理由の有無について検討するに、Xの業務日誌の不提出及び執務場所の変更の遅れは、いずれもY社の業務命令に違背するものであり、また、アンケートの実施は、Y社の就業規則19条(職場内規律)に触れるものであって、その態様等に照らし、Y社が本件雇用契約を更新しなかったことには客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる

期間途中での解雇が雇止めに比べてハードルが高いことがよくわかる事案ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約47(医療法人清恵会事件)

おはようございます。

さて、今日は、無期転換後の再雇用契約における雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人清恵会事件(大阪高裁平成25年6月21日・労判1089号56頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社から平成23年3月15日解雇又は雇止めをされたとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに賞与、解雇又は雇止め後の賃金及び不法行為に基づく損害の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件再雇用契約は、単に、簡易な採用手続により、1年間の有期雇用契約に基づいて補助的業務を行う従業員を新規に採用するような場合とは全く異なり、30年以上にわたって従来雇用契約に基づいて基幹業務を担当していたXと使用者たるY社との間で、双方の事情から、従来雇用契約を一旦終了させ、引き続き1年毎の有期雇用契約である本件再雇用契約を締結したものであり、加えて、契約更新が行われることを前提とする文言が入った本件再雇用契約書を取り交わしていることからすれば、Xの契約更新への期待は、客観的にみて合理的なものであるといえるから、本件再雇用契約を雇止めにより終了させることは、実質的に解雇と異ならないものと認めるのが相当であり、解雇権濫用法理が類推適用されるというべきである

2 雇止めという行為自体は、期間の定めのある雇用契約を期間満了により終了させ、契約を更新しないということにすぎないから、たとえ解雇権濫用法理の類推適用により当該雇止めが無効とされ、結果として契約更新の効果が生じたとしても、そのことから直ちに当該雇止め自体が不法行為に該当するような違法性を有するものであったと評価されるものではない。また、仮に当該雇止めが不法行為であると判断される場合であっても、当該不法行為により労働者に生じる損害は、雇止め後の賃金を失うことによる経済的損害であるから、当該雇止めが無効と判断され、当該雇止め後の賃金請求権の存在が確定すれば、原則として労働者の損害は填補されることとなる
そうすると、雇止めを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が認められる場合とは、当該雇止めについて、雇止め後の賃金の支払いによって填補しきれない特段の損害が生じた場合であると解される

上記判例のポイント1に示されているような事情があると、有期雇用であっても、解雇権濫用法理が類推適用されてしまいます。

契約書や更新手続等、事前に変更可能な部分から手を付けることをおすすめします。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約46(Y1(機構)ほか事件)

おはようございます。 6月に入りましたね。 今週も一週間がんばっていきましょう!

さて、今日は、元派遣社員であった契約社員の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

Y1(機構)ほか事件(神戸地裁尼崎支部平成25年7月16日・労経速2203号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社との間で労働契約書に雇用期間の定めのある労働契約を締結し、契約職員としてY1社のA事務所で勤務していたXが、Y1社から労働契約を1回更新されたものの、2回目の更新がされることなく労働契約に定められた期間が平成23年3月31日に満了したことに関し、XとY1社との間においては、上記労働契約は形式的には期間の定めがあるものの、実質的には期間の定めのないものと認識されていた、あるいは、Xは雇用の継続について合理的な期待を有していたのであるから、本件雇止めの効力を判断するに当たっては解雇権濫用法理が類推適用され、解雇の場合と同様に、本件雇止めを正当化する客観的に合理的な理由が必要であるところ、Y1社にはこのような理由はなかったから本件雇止めは無効であると主張して、Y1社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案である。

また、Xは、上記主張のほかに、A事務所に所長として勤務していたY1社の従業員であるY2から、面談の席でXの性的関係について尋ねられたり、職場にXが不倫をしているとのうわさを流布されるなどのセクハラを受けたり、上記の根も葉もないうわさを信じたY1社及びY2から、不当にもXを職場から排除するために本件雇止めをされたりして精神的苦痛を被ったと主張して、Y1社とY2に対し、連帯して慰謝料50万円等の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

いずれも請求棄却

【判例のポイント】

1 Xが担当していた業務は、Y1社にとって臨時的に生じた業務ではなく、恒常的に必要な業務であるといえるが、契約職員は、一般職員と異なり、チーフ業務や教育業務には従事しないこととされており、業務内容が一般職員と同一ではなかったこと、Xは、平成21年7月1日にY1社に雇用された契約職員であり、本件雇止めまでの勤務年数は1年9か月にすぎず契約更新回数も1回にとどまり、しかも、その1度の更新は、平成21年7月からの当初の雇用期間を年度末に終了するよう合わせるためのものであって、契約職員制度導入の当初から予定されていたものであること、Y1社の就業規則には契約更新の有無、更新の判断基準については個別に締結する労働契約において定める旨が記載されているところ、XとY1社との間で取り交わされた労働契約書には、労働契約の更新に関する事項として「労働契約の更新を行う場合あり」、「業務および要員体制の見直し、業務への適格性、勤務成績、事業縮小等による業務量の変化、経営状況の変化等を総合考慮して労働契約の更新を行うかどうかを決定する。」との記載があることが認められ、これらの事情からすれば、XとY1社との間の労働契約が、実質において期間の定めのない契約と異ならない状態にあったとか、労働者が契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに労働契約が存続、維持されてきたとはいえないことが明らかである。

2 司が職場内で部下が不倫をしているとのうさわがある旨を耳にした場合、上司として、業務効率の維持向上・職場環境の改善等の見地から、同僚等に対しそのようなうさわがあるか否かを確認したり、職員管理のために管理職間で情報の共有を図ったり、当該部下に対しそのようなうわさが出ないように留意してもらいたいと注意を喚起したりなどすることは、正当な業務行為であって違法性を帯びるものではない

有期雇用における雇止めの成功事例ですね。

顧問弁護士がいる会社では、最近、特に、本田技研工業事件判決以降、雇止めに関する方法が確立されてきているように思われます。

労働者側とすると、非常に戦いにくくなってきていますね。

有期労働契約45(大阪運輸振興(嘱託自動車運転手・解雇)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、運転手としての適格性欠如を理由とする期間途中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

大阪運輸振興(嘱託自動車運転手・解雇)事件(大阪地裁平成25年6月20日・労判1085号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に嘱託社員(自動車運転手)として1年の期間で雇用されていたXが、期間途中の平成23年6月29日に解雇されたのが無効であるとして、労働契約上の地位確認及び解雇後の賃金の支払を請求する事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、期間の定めのある労働契約の期間途中における解雇であるから、労働契約法17条1項により、やむを得ない事由がなければ無効となる。また、同条項にいう「やむを得ない事由」は、期間の定めのない労働契約における解雇に関する労働契約法16条の要件よりも厳格なものと見るべきであり、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由を意味すると解するのが相当である。

2 ・・・本件事故は、発信直後の車内で急に本件女性客が歩き始めたことから、安全確保のため、やむなくバスを停止させた際、本件乗客が転倒したというものであって、Xに特段の落ち度は認められず、転倒の原因がひとえにXのブレーキ操作にあると認めることもできない上、結果も軽微なものに終わったことに照らすと、本件事故をもってY社の運転手としての不適格性の顕れであるとするY社の主張は理由がない

3 ・・・X運転のバスが前方の停留所に停車するため減速しながら走行中、前方を走行していた原動機付自転車との車間距離が徐々に縮まったところ、原動機付自転車は、前方の停留所に停車中の先行するバスを右側から追い越そうとする挙動を一瞬示したものの、にわかに進路を左に切り返し、よろめくようにX運転のバスの進路を妨害したため、Xが急制動を余儀なくされ、その結果、乗客1名が捻挫の傷害を負ったことが認められる。このような状況からすれば、Xの急制動は、原動機付自転車との衝突を回避するためにはやむを得ない措置であったと認めることができる。確かに、Xは原動機付自転車との車間距離を詰め過ぎていたと評価する余地はあるものの、原動機付自転車が上記のように危険な進路妨害をすることは予見の範囲を超えており、当初挙動を示したように右側へ車線変更して先行するバスの後方に問題なく停車することができたと認められるから、運転手としての適格性を疑わせるほどの過失があるとまでは認められず、また、乗客の負傷の程度が重大であったと認めるに足りる証拠もない

もともと労働者の勤務不良を理由に解雇するのは容易なことではありません。

ましてや有期雇用の期間途中の解雇となるとさらにハードルが高くなります。

小さなミスをたくさん積み重ねても解雇が有効になるわけではありません。

会社の顧問弁護士と相談の上、慎重に対応をしてください。

有期労働契約44(北港観光バス(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、高齢と糖尿病を理由とする再雇用更新拒否(雇止め)に関する裁判例を見てみましょう。

北港観光バス(雇止め)事件(大阪地裁平成25年1月18日・労判1078号88頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Xとの間の期間の定めのある雇用契約を更新せずに雇止めにしたことから、Xが、Y社に対し、当該雇止めは不当労働行為に当たり、解雇権濫用法理の類推適用により無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位があることの確認ならびに雇止め後の賃金および慰謝料の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 雇用契約書及び就業規則上は、Y社では定年を60歳とし、65歳までは再雇用制度を採用しているが、雇用契約書上は65歳以上の、就業規則上は65歳を超える従業員については個別に判断するものとされている。そうすると、65歳を超える従業員については、雇用継続への合理的期待がないとみる余地もないとはいえない
しかし、Xは、Y社との間で平成13年ころ雇用契約を締結したが、契約当初は雇用契約書が作成されておらず、その後、遅くとも平成16年ころから契約書を作成するようになったものの、当初、契約書の表題は業務請負契約書となっていたことが認められ、XとY社との間で雇用契約が締結された当時は、雇用期間について明確な合意がなされていたとはいい難い
その後、65歳以上の従業員の雇用を個別に判断する旨の記載のある雇用契約書が作成されるようになったが、実際の運用をみると、65歳を超える運転手も相当数の者が契約を更新されており、本件雇止めが行われた平成22年9月20日当時で、A営業所の従業員の約16%、平成23年1月1日当時でも約10%が65歳以上であったことが認められるX自身も、平成19年2月16日に65歳に達した後も複数回の契約更新を経ていることも併せ考えると、Xが、平成22年9月20日の時点で、雇用継続に対する期待を抱くことは客観的にみて合理的である
よって、本件雇止めに合理的理由がない場合には、本件雇止めは無効というべきである。

2 ・・・以上のとおり、Xの体力、健康状態が業務に耐えられない状況にあったとは認められず、高齢運転手を減少させるというY社の方針は、それだけでは本件雇止めの合理的理由とはなり得ないことからすると、本件雇止めは無効というべきであり、XとY社との間の雇用契約は、従前と同様の条件で更新されたとみるのが相当である。

3 本件雇止め自体は、契約期間が満了した労働者と新たに契約を結ばないということにすぎず、何らかの積極的な行為を伴うものではなく、また、仮に無効な雇止めがなされた場合でも、そのことが訴訟によって明らかとなり、未払賃金が支払われれば、当該労働者の損害は填補されるといえるから、無効な雇止めがなされたからといって、そのことが当然に慰謝料を生じさせるような不法行為に該当することになるわけではない。

契約書の記載内容から形式的に判断するのではなく、本件のように、実際の運用から判断するという手法は、多くの労働事件でとられているものです。

形だけ整えればよいという甘い考えは通用しないというわけですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約43(社会福祉法人新島はまゆう会事件)

おはようございます。 10月も終わりですね。あと2か月で今年も終わりです。

さて、今日は再雇用後の雇止めの効力に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人新島はまゆう会事件(東京地裁平成25年4月30日・労判1075号90頁)

【事案の概要】

Y社は、介護施設を経営する社会福祉法人である。

Xは、Y社を平成23年4月末日で定年退職したが、Y社の再雇用制度に基づき、雇用期間を平成23年5月1日から平成24年3月31日まで、労働契約を締結し、調理員として稼動した。

Xは、平成24年2月1日、Y社に対し、同年4月1日から2年間の継続雇用を希望する旨の

申出書を提出した。これに対し、Y社は、同年2月20日、Xに対し、本件再雇用契約を更新しない旨を通知した。

【裁判所の判断】

本件雇止めは無効

【判例のポイント】

1 Xが本件再雇用契約締結のために署名押印したのは、「契約更新なし」の記載が削除された労働契約書であること、Xには当該労働契約書と同じ時期に「契約更新なし」の記載が削除された労働条件通知書が交付されたことは、・・・によって認められる。したがって、本件再雇用契約の締結の経過は、X主張のとおりであったと認められ、「契約更新なし」の文言が敢えて削除されたという経緯に照らすと、本件再雇用契約は更新の合意が含まれていたものと認められる

2 Y社の調理室においては、平成23年4月に調理員が新たに採用され8人体制となったこと、Xの退職が発表された後の24年2月に開催された調理室会議では、前年度調理員が増員になった分、多忙な中でもサービスの向上を図ってきたのに、Xの退職でサービスの低下が懸念されるとの趣旨の発言があったこと等に照らすと、8人体制は、施設入居者各人の要介護度等に応じて要求されるきめ細かなサービスの質を維持するために必要な人員体制であったというべきであり、また、1年以上の育休を取得する予定であったAが24年3月に急遽職場に復帰していることも合わせ考慮すると、本件通知時に調理室の人員が過剰であったとは認められず、Xを調理室に配置することは可能であったと認められ、したがって、Xは本件更新要件をすべて満たす者と認められ、同年2月1日に更新の申込みをしたことにより、再雇用職員就業規則9条1項に基づいて本件再雇用契約が更新されたと認められる。

労働者側からすると、判例のポイント2のように、会社側が人員過剰であると主張するのに対し、それに反する事実をどれだけ主張立証できるかがポイントとなります。

使用者側からすると、整理解雇の場合と同様に、解雇(雇止め)理由に記載した内容と実際の状況の整合性をどれだけ保てるかがポイントになってきます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約42(いすゞ自動車(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期労働契約社員の一時休業時の賃金請求権、雇止めの効力に関する裁判例を見てみましょう。

いすゞ自動車(雇止め)事件(東京地裁平成24年4月16日・ジュリ1459号127頁)

【事案の概要】

Y社は、第1グループXらについて、各人の契約期間満了日までの所定労働日について休業として、その間労基法26条、臨時従業員就業規則43条及び労働契約法8条に基づき、平均賃金6割の休業手当を支給した。

Xらは、休業期間中の賃金請求をした。

【裁判所の判断】

XらのY社に対する休業期間中の賃金請求を認めた。

その他は請求棄却。

【判例のポイント】

1 一般に使用者が企業を運営するに当たり、企業運営の必要の範囲内で、それに見合う人数の労働者と、相応の労働条件の下で労働契約を締結しているのが通常なのであり、使用者が労務を受領しないのは、例外的な事態であるから、本件休業のように、労働者が労働を提供し、使用者がこれを受領しないことが、使用者の責に帰すべき自由に基づくものと推認されると解するのが相当である。そして、この意味での帰責事由がないというためには、休業の必要性、両当事者の状況等の事情に照らして、休業がやむを得ないものと認められることが必要である

2 一般に、Y社での臨時従業員のように、期間の定めのある労働契約を締結している労働者は、正社員(期間の定めのない従業員)に比して長期雇用に対する合理的期待は相対的に低くなると考えられるが、その一方で、当該契約期間内の雇用継続及びそれに伴う賃金債権の維持については合理的期待が高いものと評価すべきである。そして、第1グループXらは、Y社の臨時従業員として、労働期間内での昇級、昇進等の期待なく、固定された賃金収入を主な目的として短期間の期間労働契約を締結、更新しているのであって、その意味でも、雇用継続期間中の賃金債権の維持についての期待は高度の合理性を有するというべきである。そうすると、本件休業命令は、合意退職に応じなかった臨時従業員全員を対象として、その契約期間の満了日までとする包括的、かつ一律に定め、第1グループXらは、3か月以上もの間、その平均賃金の4割相当額を支給しないとするもので、本件休業により第1グループXらが被る不利益は重大かつ顕著であるというべきである。以上のような、第1グループXらの置かれた状況に鑑みれば、このような期間の途中に一定の期間の休業を命じるについては、より高度の必要性が認められなければならないというべきである

3 一方、Y社は、正社員及び定年後再雇用従業員については、本件休業期間中、平成21年3月の1か月に4日間の個別の休業日を設定、実施するのみで、それに伴い支給される休業手当の金額についても、基本日給の100%を支給している。これは、上記のとおり、期間の定めのある労働契約によって職務に従事する労働者が置かれている状況に照らして考えると、著しく均衡を欠くとの評価を免れないといわざるを得ない。

4 以上によると、Y社に本件休業によって、平均賃金の4割カットによらなければならないというだけの、上記の高度の必要性までをも認めることは困難であるといわなければならない。そうすると、本件休業がやむを得ないものであると認めることはできない
以上によれば、本件休業によるY社の労務提供の受領拒絶については、「債権者の責めに帰すべき事由」によるとの推認を覆すに足りる事由はないから、第1グループXらのY社に対する民法536条2項に基づく賃金請求権は、これを認めることができる。

上記判例のポイント1の規範は、実務においても使う場面があります。

支払う賃金額を抑えるという理由から、なんでもかんでも休業にするというのはダメなわけです。

もっとも、1、2か月という短期間の休業の場合には、仮に当該休業がやむを得ないものとは認められなかったとしても、会社が従業員に支払うべき金額は、平均賃金の40%分にとどまる(つまり、それほど大きな金額にはならない)こと、それゆえ訴訟リスクが必ずしも高いとはいえないことなどの理由から、「ダメもと」で休業とする場合もありうると思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約41(ダイキン工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、直接雇用された請負会社社員らに対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

ダイキン工業事件(大阪地裁平成24年11月1日・労判1070号142頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として就労していたXらが、平成22年8月31日に労働契約の期間満了を理由として雇止めされたことにつき、労働契約における期間の定めは無効であり、仮に有効であるとしても本件雇止めは解雇権濫用法理の類推適用により無効であると主張し、労働契約上の地位確認及び未払賃金の支払を請求するとともに、Y社が同法理潜脱の目的でXらに期間の定めのある労働契約の締結を事実上強制し、不安定な状態に置き続けた末に本件雇止めに及んだ一連の行為が不法行為に当たると主張して、精神的苦痛に対する慰謝料の支払いを請求する事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 労働契約は、労働者ガ使用者の指揮命令下に労務を提供し、その対価として使用者が賃金を支払うことを本質とするものであって、これらの点につき意思表示が合致する限り、黙示の意思表示によっても労働契約の成立を認めることは可能であるが、そのためには、労務提供や賃金支払等の実態に照らして、二者間に事実上の使用従属関係が認められ、一方においては指揮命令下における労務提供の意思が、他方においては当該労務提供に対し賃金を支払う意思が、それぞれ客観的に推認されることが必要である。
そして、労働者派遣(労働者派遣法2条1号)が行われている場合であっても、派遣元が形骸化している反面、派遣先と派遣労働者の双方において、上記のような黙示の意思が労務提供や賃金支払等の実態から客観的に推認され、互いに合致している場合には、明示の契約形式にかかわらず、派遣先と派遣労働者との間に黙示の労働契約の成立を認める余地がある

2 XらのY社における労務提供の枠組みにおいて、請負会社はXらの採用、賃金等の就労条件に加え、その他一定限度の就業態様について決定し得る地位にあり、Y社との関係でも独立した企業としての実体を有しており、形骸化した存在と評価し得る実態にはなく、Xらと請負会社との間の労働契約を無効と解すべき特段の事情は見当たらない。他方で、Y社がXらの採用や賃金等の就労条件を事実上決定していたとは認められず、Xらも労働契約の相手方がI社等の請負会社であることを認識していたことが認められる。以上によれば、Xらの就労実態から、XらとY社との間に事実上の使用従属関係があるとは認められず、労働契約締結に向けられた黙示的な意思を推認させる事情もまた認められない。

3 Y社は、従前労働契約関係になかったXら支援従業員との間で新たに労働契約を締結するに当たり、生産量の増減に合わせた人員数の調整の必要性や、契機の先行きが不透明な当時の経済情勢を踏まえ、明確な意思をもって、2年6か月を更新の限度とすることとし、本件直用化の前後を通じ書面等も配布しつつそのことを一貫して説明し、就業規則にもその旨の規定を設け、その代わり無期の正社員として登用するための試験を実施していたことに照らすと、Xらにおいて、本件労働契約が2年6か月を超えて更新されることに対する合理的期待を有する余地はなかったというべきである

明確に更新限度を設けていることが、本件結論に大きく影響しています。

本田技研工業事件とともに参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約40(医療法人清恵会事件)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。た。

さて、今日は、有期転換後の再雇用契約における雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人清恵会事件(大阪地裁平成24年11月16日・労判1068号72頁)

【事案の概要】

Y社は、病院および診療所の設置、運営等を目的とする医療法人である。

Xは、Y社との間で、昭和53年9月21日付で期間の定めのない雇用契約を締結し、それ以降、Y社の本部ビルにおいて事務職員として勤務していた。なお、Xは、社労士資格の保有者である。

Xは、平成22年3月18日付(定年年齢60歳到達前)で本件再雇用契約を締結した。

Y社は、平成22年12月29日、Y社から本件再雇用契約を更新しないと伝えられた。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 ・・・Xは、当然のことながら、本件再雇用契約が1年間で終了することは想定しておらず、定年年齢である60歳、さらには定年後の再雇用に至るまで契約が更新されることを期待していたことは明らかであり、Y社もXのそのような期待を十分認識した上で本件再雇用契約書の文言を調整した上で調印に至ったものと認められる。
・・・以上のとおり、本件再雇用契約は、単に、簡易な採用手続により、1年間の有期雇用契約に基づいて補助的業務を行う従業員を新規に採用するような場合とは全く異なり、長年にわたって期間の定めのない雇用契約に基づいて基幹業務を担当していたXと使用者たるY社との間で、双方の事情から、期間の定めのない雇用契約を一旦終了させ、引き続き1年毎の有期雇用契約を締結したものであり、契約更新が行われることを前提とする文言が入った本件再雇用契約書を交わしていることからすれば、Xの契約更新への期待は、客観的にみて合理的な期待であるといえるから、本件再雇用契約を雇止めにより終了させる場合には、解雇権濫用法理が類推適用されるというべきである

2 ・・・以上のとおり、Xの業務量の減少については、その事実自体疑わしい上、仮に事実であったとすれば、Y社では、他の従業員について時間外労働が生じていたのであるから、Y社において適切な業務分担を指示すべきだったといえるのであって、このことが、本件雇止めの合理的理由になるとはいい難い

3 本件雇止めが不法行為に当たるかという点について検討すると、雇止め自体は、期間の定めのある雇用契約を期間満了により終了させ、契約を更新しないということに過ぎないから、たとえ解雇権濫用法理の類推適用により当該雇止めが無効とされ、結果として契約更新の効果が生じたとしても、そのことから直ちに当該雇止め自体が不法行為に該当するような違法性を有するものであったと評価されるものではない。また、仮に当該雇止めが不法行為であると判断される場合であっても、当該不法行為により労働者に生じる損害は、雇止め後の賃金を失うことによる経済的損害であるから、当該雇止めが無効と判断され、当該雇止め後の賃金請求権の存在が確定すれば、原則として労働者の損害は填補されることとなる
そうすると、雇止めを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が認められる場合とは、当該雇止めについて、雇止めの違法性を根拠付ける事情があり、かつ、雇止め後の賃金の支払いによって填補しきれない特段の損害が生じた場合であると解される。
これを本件についてみると、・・・証拠上、Y社がそのような違法な目的で本件雇止めを行ったとまでは認定することができない。

 有期雇用については、これまでにも多くの裁判例が出されていますが、通常の解雇の場合と同様の配慮が必要になってきますので、注意が必要です。

また、雇止めが無効であったとしても、当然に損害賠償請求が認められるわけではないことも、解雇の場合と同様です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。