Category Archives: 有期労働契約

有期労働契約59(市進事件)

おはようございます。

今日は、学習塾講師の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

市進事件(東京地裁平成27年6月30日・労経速2257号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約を締結し、Y社経営の学習塾で講師として稼働していたところ、年齢を理由として雇止めされたAと、能力を理由として雇止めされたBが、いずれの雇止めも無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位の確認並びに雇用契約に基づく給与及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 50歳不更新制度は、同制度を支える社会的事実が存在しないのに50歳を超えて雇用契約を更新しないこととするものであるから、定年制度との異同や、雇用対策法との関係について検討するまでもなく、合理性のある制度とは到底認められないし、社会的相当性も到底認められないものといわざるを得ない
学習塾等の経営会社が生徒にとって魅力ある授業を求め、魅力ある授業をできない塾講師について雇用を継続しないこと自体には問題がないとしても、それを実際の基準として具体化する方法とその適用の在り方は慎重に検討されなければならず、50歳不更新制度のように、一律に50歳をもって理想的な授業ができなくなると決めつけることはできないのであって、かかる一律の基準には合理性も社会的相当性も認められず、これは、解雇であれば解雇権濫用に当たるものというべきである

2 Bについては、生徒に「授業がわかりやすい」などと感じさせるには不足があり、授業の進め方等に改善すべき点があったことや、生徒からその旨のクレームがあったこと、E教室長から何回かアドバイスをしたこと等が一応は認められるものの、Y社において、これが喫緊の課題として認識され、重大事としての対応がとられるほどの状態であったと認めることはできないから、この点をもって、Bを雇止めにすることに合理性があるとするY社の主張はたやすく採用することができない
・・・Y社は、様々な事情を挙げて、本件B雇止めには合理性がある旨主張するが、いずれも合理性を認めるには不十分であり、また、これらの不十分な事情を総合しても十分な合理性を認めることはできないから、本件B雇止めについて合理性を認めることはできない。・・・したがって、本件B雇止めは、解雇であれば解雇権濫用に当たるというべきである。

50歳不更新制度に合理性が認められないことは争いがないところです。

会社としては、労務管理をもう少し上手いことやらなければいけません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約58(中外臨床研究センター事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、有期労働契約の更新拒絶が有効された裁判例を見てみましょう。

中外臨床研究センター事件(東京地裁平成27年9月11日・労経速2256号25頁)

【事案の概要】

Xは、Y社に対し、有期労働契約の更新拒絶が権利の濫用に当たるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、前記労働契約に基づき、未払賃金及び賞与合計864万円、平成24年1月から毎月25日限り賃金月額27万円及び遅延損害金、平成24年から毎年6月末日及び12月末日限り賞与54万円及び遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

本件訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降の金員の支払を求める部分に係る訴えを却下する。

その余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件労働契約は、1回更新され、その期間は通算して3年10か月である一方、LDM業務とは、・・・何らの訓練も要さずにY社に入社して即時に処理可能なものとは認められないものの、なお中外製薬からの出向社員が担当する薬剤の臨床開発と比較すると、なお周辺的、定型的な性質を有する業務であると認められる
そうすると、本件労働契約が、その契約期間の満了時に本件労働契約を更新しないことにより本件労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより、当該労働契約を終了させることと社会通念上同視できる事情があるとは認められない。もっとも、Xにおいて本件労働契約の契約期間の満了時に本件労働契約が更新されるものと期待することには合理性があるものと認められるが、前記のとおりの本件労働契約の更新の回数及びXの業務の内容に照らせば、前記合理性を高いものと評価することはできない

2 ・・・Xには、Y社における業務の中で、自らの注意不足、周囲とのコミュニケーションに対する拒否的反応が散見され、これに起因する多数の過誤が発生していたものと認められる。
そして、これらの過誤は、個々に検討する限りでは、Xが主張するとおり、軽微なものと評価すべき事実も散見されるものの、これらが繰り返された回数、頻度及び平成18年3月から平成21年12月までの間、特段の改善傾向が見受けられないことに照らせば、Xの業務態様は芳しいものとは認め難いのであって、これに反するXの主張は理由がない。

3 以上の検討によれば、本件更新拒絶には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められない事情はないというべきである。

有期雇用契約の雇止めの有効性を判断する場合、上記判例のポイント1で示されているとおり、業務の性質を検討する必要があります。

通常の解雇の場合とは少し異なる視点が加わるので、その点を忘れないようにしましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約57(日本レストランエンタプライズ事件)

おはようございます。

今日は、職種限定の有期契約労働者に対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

日本レストランエンタプライズ事件(東京高裁平成27年6月24日・労経速2255号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から雇止めされたXが、同雇止めが無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、雇止め後の賃金及び遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求を棄却したので、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、就業規則上勤務箇所や職場の変更が可能とされていたと主張する。
しかし、XとY社の雇用契約上は、職種は本件配送業務に限定されていたことは争いがないのであるから、Y社に、Xの職種を変更して雇用を継続するよう配慮する義務があるとはいえない

2 Xは、肩腱板断裂は労働災害であり、雇止めの可否については慎重に検討すべきであると主張するが、Xにおいて労働契約で限定された職務の遂行が困難である上、当直業務は独立の配置換えの対象となるような業務とはいえないなど、本件における事情を総合すると、労働基準法19条1項の解雇制限の趣旨が本件のような場合にまで及ぶとはいえない

(原審での判断)

3 XとY社との雇用契約に基づき、月に20日以上、1日平均7時間以上勤務していたのであり、勤務形態は臨時的なものでなかったと認められる。そして、XとY社の間では、本件配送業務を目的とする雇用契約が約5年6か月にわたり多数回更新されてきたことからすれば、Xには契約更新の合理的期待(労働契約法19条2号)が認められる
ただ、雇用期間の定めが明示された契約書が更新の度に作成されていたのであり、XとY社の雇用契約が期間の定めのない契約と同視できる状態(労働契約法19条1号)に至ったとまでは認められない

4 Xは、本件雇止めの時点で、本件配送業務に従事できる状態ではなかったと認められる。Xは、Y社との間の雇用契約においてXが従事すべき業務として定められた本件配送業務に就くことができない状態であったので、Y社が契約を更新しなかったことについて合理性・相当性が認められる

労災発生時に雇止めをすることには躊躇する場合もあろうかと思います。

当然のことながら、ケースバイケースで判断していかなければなりませんが、仮に雇止めをする場合には、上記判例のポイント2を参考にしてください。

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有期労働契約56(社会福祉法人東京都知的障害者育成会事件)

おはようございます。

今日は、寮建替えに伴う世話人業務契約更新拒絶の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人東京都知的障害者育成会事件(東京地裁平成26年9月19日・労判1108号82頁)

【事案の概要】

本件は、Y社運営のA寮の世話人として業務を行っていたXに対し、Y社がA寮が廃寮となったとして世話人業務に関するX・Y社間の契約の更新拒絶をしたところ、Xは、Y法人に対し、X・Y社間の上記契約は雇用契約であり、上記更新拒絶は権利濫用として無効であると主張して雇用契約上の地位確認および賃金請求を求めた事案である(主位的請求)。

なお、Xは、本件において、X・Y社間の契約が雇用契約と認められない場合の業務委託契約上の地位確認および委託料請求(予備的請求1)ならびに更新拒絶が有効とされる場合の損害賠償請求(予備的請求2)も合わせて求めている。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、510万余円を支払え(予備的請求2の一部認容)。

【判例のポイント】

1 本件契約は、「業務委託契約書」の表題でX・Y社間でこれまで契約締結がなされており、条項についても「次の業務を委託し、世話人がこれを受託した。」と業務委託であることが明示されていること、本件契約の条項上、Y社の就業規則の適用は予定されていないこと、・・・雇用契約のような指揮命令関係があるわけではないことを認めていること、がそれぞれ認められる。
以上の諸点に鑑みれば、本件契約が業務委託契約であることは明らかであり、Xの主位的請求は理由がない。

2 Xが世話人として従事していたA寮と「はうす池上」「池上なのはな」がグループホームとしての同一性を欠くことは明らかである。・・・本件ではA寮の建物所有者であるAが建物を取り壊したことにより、A寮の運営が不能となり、「グループホーム運営に支障」が生じたこととなるため、Y社は本件契約の更新を行うことはできない。そうすると、本件通知が権利濫用であるとはいえず、Xの主張は理由がない。そして、本件通知が有効である以上、Xの予備的請求1は理由がない。

3 Xの法的構成は不明確であるが、本件通知に違法はなく、その他、Y社の債務不履行事実を認めるに足りる証拠はない
もっとも、民法651条1項は、委任契約において、債務不履行責任に基づく解除とは別の解除権を認めた反面として、同条2項において相手方当事者からの損害賠償請求を認めた規定であって、債務不履行の事実は要件事実として不要である。また、業務委託契約は、契約の性質上、民法の典型契約のうち、委任契約に類する性格を有する契約であり、民法651条2項の適用又は類推適用の余地はある

4 Y社のあるべき対応として「はうす池上」「池上なのはな」の世話人にXが就任できない代わりに他のY社運営のグループホームの空きのある世話人にXを就任させることも、本来十分考えられるところである
・・・Y社がXに「はうす池上」「池なのはな」の世話人として従事させないことの代わりにXに対し損害賠償させることが本件において不当とはいえない。

5 これに対し、Y社は、「やむを得ない事由」(民法651条2項ただし書)に該当する旨主張する。
確かに、Y社の主張のとおり、本件契約が終了するのは、業務を行うべきA寮の建物所有者であるAが取り壊しを決めたために廃寮となり、Xが業務を行えなくなることにあるから、直接の終了原因となったのは、第三者であるAの判断である。
しかし、Y社は、A寮の取壊し前から新建物の建築に向けて相当程度の関与を続けていたことが認められ、その中で新建物の設計・内装にはY社の意向がかなり反映されていることは明らかである。第三者の独自の判断によるとまではいえない。前記のXの事情及び前記諸事情と比較した場合に、Xの損害賠償請求が否定されるような「やむを得ない事情」があるとは到底言えず、採用することはできない

この判決内容には、原告代理人も、内心、驚いているのではないでしょうか。

民法651条2項ただし書の「やむを得ない事由」の有無が争点となっており、裁判所の判断を読んでもわかったようなわからないような内容です。

原告側は、担当裁判官に恵まれた形です。

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有期労働契約55(X学園事件)

おはようございます。

今日は、非常勤講師の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

X学園事件(東京地裁平成26年10月31日・労経速2232号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期雇用契約を締結し、Y社の設置する高等学校において非常勤講師として勤務したが、平成25年度において契約の更新が行われなかった。Xが、①Xにおいて雇用契約が更新されることについて合理的な理由なく更新を拒絶したと主張氏、労働契約法19条2号に基づき労働契約上の地位の確認、並びに②本件雇止め後の賃金、賞与及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払いを求めるとともに、③担当授業の間に生じる空き時間につき、これが労働時間であると主張し、当該空き時間に対応する平成23年度の未払賃金として58万0800円、平成24年度の未払賃金として41万6300円及びこれらに対する遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 有期雇用契約の契約期間の満了時における雇用契約更新に対する合理的期待(労働契約法19条2号)の有無を判断するに当たっては、最初の有期雇用契約の締結時から、雇止めされた有期雇用契約の満了時までのあらゆる事情を総合的に勘案すべきであるところ、具体的には、当該労働者の従事する業務の客観的内容、契約上の地位の性格、当事者の主観的態様、契約更新の際の状況及び同様の地位にある他の労働者の契約更新状況等の諸事情を勘案することが相当である。

2 本件学校における非常勤講師の契約期間は1年間であり、Y社の事情により雇用延長の必要が生じた場合、雇用契約を更改する方法がとられていたが、本件学校において、非常勤講師が必要となる科目及びその人数は、当該年度の生徒のクラス選択及び科目選択並びに専任講師ないし専任教諭への時間数の配分によって変わりうることは前記で認定した事実に照らして明らかであり、前年度に必要とされていた非常勤講師であっても、翌年度にその必要性が維持されるという関係にないことは自明である。このことは、本件学校において、非常勤講師の雇用契約を締結する際は、担当コマ数、給与額等を新たに定めた上で1年単位の契約を新たに締結する方法を採用していることからも明らかである。
また、本件学校の非常勤講師は、私立学校教職員共済組合の加入条件を満たすために専任講師に近いコマ数を担当することになっていたが、専任講師及び専任教諭とは異なり、授業以外の業務に関与しないこととされていた。
以上の点からすると、本件学校の非常勤講師は、専任講師と同程度の授業負担を負っているとはいえ、飽くまでも臨時的な地位であることが前提であり、その結果、期待されている業務も、生徒指導等、授業以外で教員の指導力が求められる業務は除かれ、授業を行うことに限定されているということができる

3 ・・・こうした客観的状況に照らすと、Xが、飽くまで臨時的な地位である非常勤講師として、実例がほぼ存在しないにも関わらず、4年を超えて勤務することができると期待するに値する合理的な事情があるとはいえない

業務内容があくまでも臨時的なものであるということを重視し、契約更新の合理的期待を認めませんでした。

更新回数が多数回にわたったとしても、それだけで合理的期待が肯定されるわけではありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約54(北海道大学(契約職員雇止め)事件)

おはようございます。

今日は、更新3回後の期間満了を理由とする雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

北海道大学(契約職員雇止め)事件(札幌高裁平成26年2月20日・労判1099号78頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に契約期間1年間の契約職員として雇用され、3回の契約更新を繰り返してきたXが、平成23年3月31日の契約期間満了をもって雇止めとされたことは許されないとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認、雇止め後から本判決確定の日までの賃金及び遅延損害金並びに本件雇止めが不法行為であるとして慰謝料100万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

一審(札幌地裁平成25年8月23日)は、Xの請求を棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→雇止めは有効

【判例のポイント】(原審について)

1 本件においては、平成19年4月の本件労働契約締結の際、Xが3年雇用の方針を認識していたこと、更に、Xが、平成16年4月に短時間勤務職員として雇用された際にも3年雇用の方針を認識していたことは争いがない。当裁判所は、本件で最も問題になる点は、Xにおいて3年雇用の方針を認識した時点において、既に、雇用継続についての合理的期待を有していたと認められるか否かであると考える。

2 ①雇用継続の合理的期待を有するに至った後にXが3年雇用の方針を認識する(あるいは認識し得る)に至ったという場合であれば、使用者が事後的に設けた(労働者に認識させた)雇用期間の制限により労働者の雇用継続の合理的期待が消滅したと判断することが許されるのかという点が重要な論点になるが、②雇用継続の合理的期待を有するに至る前に、Xが3年雇用の方針を認識していたという場合であれば、その方針を前提に、Xが雇止めの時点で雇用継続の合理的期待を有していなかったとしても、①のような問題は生じないから、この区別は、本件の結論に大きな影響を及ぼす重要な点である

3 Xは、自らが従事していた謝金業務は、非正規職員と比較しても不安定であり、財源を厚生科研補助金に依存しており、その支給がなくなれば、終了する可能性があることを認識していたのであるから、そのような謝金業務に最長で1年半従事したからといって、Xが3年雇用の方針を認識した時点において、その方針を超えて勤務が継続されるという合理的期待を有するに至っていたとはいえない。平成16年4月当時、C教授の研究に対する厚生科研補助金の支給は、平成17年3月31日までの予定であったから、その時点で、Xがある程度の勤務継続の期待を抱いたとしても、それが合理的なものと評価し得るのは、平成17年3月31日までが限度である。

4 仮にXが謝金業務に従事した期間を実質的には雇用的関係であると評価した場合には、平成14年10月頃から平成23年3月31日の本件雇止めまでの間に8年半の雇用的期間があったことになる。しかし、形式的に雇用的期間が相当連続したと評価したとしても、その実質は変わらないのであり、謝金業務に従事していた期間は、上記のように不安定で、雇用継続の合理的期待を持ち得ない雇用的関係であることに変わりはない。しかも、Xは、そのような雇用的関係が最長でも1年半続いた段階で3年雇用の方針を認識するに至っている。そうすると、謝金業務に従事した期間を実質的に雇用的関係であると評価したとしても、本件雇止め当時、Xが雇用継続の合理的期待を有していなかったという上記判断が変わるものではない。

5 なお、大学の非常勤講師として、1年の雇用契約が20回更新され、21年間にわたって勤務を継続してきた者につき、解雇に関する法理を類推しなかった原審の判断が維持された事例として、最高裁平成2年12月21日判決(亜細亜大学事件)がある連続した雇用的期間が相当継続したと評価したからといって、当然に解雇に関する法理が類推されるわけではなく、その雇用的期間の性質、実質が問題になると解される

非常に参考になる裁判例です。

特に上記判例のポイント3、4は理解しておくべき考え方ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約53(東京医科歯科大学事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、期間の定めのある大学の助教の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

東京医科歯科大学事件(東京地裁平成26年7月29日・労経速2227号28頁)

【事案の概要】

Xは、Y社が設置する東京医科歯科大学の助教として、期間を定めてY社に雇用されていたが、雇止めされた。本件は、Xが、本件雇止めに効力がないと主張し、Y社に対し、地位確認と雇止め後の月例賃金及び期末手当の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 任期のある助教にも、定年の定めのある職員就業規則が適用され、採用の日から35年以内の期間支給される初任給調整手当の定めのある職員給与規則が適用されることに加え、本件大学の大学院医歯学総合研究科(歯学系)においては平成25年3月に任期が終了する3年任期の助教で再任を希望した33名のうち30名が再任されたことからすれば、任期のある助教も継続した雇用が前提とされているものと認められる。そして、X自身、過去2回の再任を経ていることからすれば、Xには、更新の合理的期待が認められる。

2 教員任期に関する規則において、再任の可否を決定するに際しては業績審査を行うものとされており、原則として更新されるという期待までは認められない。再任の業績審査は、大学教員としての適格性の判断という性質上、本件大学の専門的裁量的な判断に委ねざるを得ないものであり、その判断過程に著しく不合理なものがない限り、雇止めの合理的理由が肯定されると解するのが相当である

3 再任の決定の判断過程は、分野長による評価が最も重要視されていることは双方当事者の主張から明らかである。
Xの分野長であるC教授は、Xの再任不適とした判断過程について、①Xに対して、本件基準①を満たす論文を作成するよう再三指導してきたが、Xは応えなかった、②分野長に着任してからさほど期間が経過しておらず、Xの再任を否定するような評価をするのは憚られたので業績評価表1及び理由書1を作成した、③D学部長からXのヒアリングの結果を伝えられ、その際受けた指摘が自己の考えと同じであったため、業績評価表2及び理由書2を提出し直したと、Y社の主張に沿う供述をする。
上記①から③については、次のとおり指摘ができる。まず、①については、XがC教授による度重なる指導にも全く応えなかったとすれば、理由書2にそのことが記載されているはずであるが、そのような記載はない。次に、②については、C教授が業績評価表1等を作成した平成24年10月は、同教授が分野長に就任してから1年が経過しており、Xの業績を評価する期間としては十分であったし、C教授自身の管理職としての評価が疑われるような安易な評価をしたというのも考え難い。そして、③については、D学部長自身、平成24年12月に研究業績の評価を2として、「引き続き、活躍を期待する」と記載した評価結果を通知しているのであって、同年11月に行われたヒアリングの結果で際に再任不適の評価をしたというD学部長の供述は信用できない

4 Y社が、一旦、Xを再任に適すると判断しながら、再任不適とした判断過程に合理性を認めるべき事情はなく、著しく不合理であったと認められる。したがって、本件雇止めには合理的理由を認めることができない。

再任の適否については大学側の専門的裁量的判断に委ねられているとしながらも、判断過程に「著しい」不合理があったと判断しました。

評価書1・理由書1と評価書2・理由書2との比較をしながら、判断過程の合理性を検討してくれています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約52(福原学園(九州女子短期大学)事件

おはようございます。

今日は、短大講師に対する体調不良等を理由とする雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

福原学園(九州女子短期大学)事件(福岡地裁小倉支部平成26年2月27日・労判1094号45頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、Y社の運営する短期大学において講師として勤務していたXが、Y社の行った雇止めは無効であると主張して、労働契約上の地位の確認及び未払賃金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 期間の定めのある労働契約は、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態になったとはいえない場合であっても、労働者において当該労働契約で定められた期間の満了時に当該労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、使用者による雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、当該契約の期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の関係となるものと解される。
これを本件についてみると、以下において検討するとおり、Xにおいては本件労働契約で定められた期間の満了時である平成24年3月31日当時、更新の実績が一度もなかったものの、Xにおいて本件労働契約が少なくとも3年間は継続して雇用され、その間に2回更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認めるのが相当である

2 Y社は、本件訴訟係属中である平成25年2月7日、更新されたとみなされた後の本件労働契約期間が満了する日である同年3月31日限りでの本件予備的雇止めを行った。本件予備的雇止めについては、改正後の労働契約法19条2号により、労働契約が更新されたものとみなされるかが問題となる
・・・本件雇止めについては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものとして、本件労働契約は新たな契約満了日を平成25年3月31日として更新されたのであるから、本件雇止めのみをもって直ちに労働契約法19条2号該当性が否定されることにはならないというべきである。
そして、契約期間の満了時における合理的期待の有無については、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情を総合的に勘案すべきものと解されるところ、本件労働契約におけるXの雇用継続への合理的な期待を基礎付ける事情について変更はみられず、その他新たにこれを否定するような特段の事情も見当たらない。

3 次に、労働契約法19条が規定する更新の申込みは、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものであれば足りると解される
本件においては、Xは、本件予備的雇止めの効果を争い、本件予備的雇止め後も本件訴訟を追行して遅滞なく異議を述べたといえる以上、本件予備的雇止めに対する反対の意思表示をして本件労働契約の更新の申込みをしたものと認めるのが相当である
そして、訴訟係属中にY社が争っていることのみをもって、有期労働契約が更新されたものとみなされるか否かの判断に影響するのは不当であるから、訴訟係属中になされた本件予備的雇止めについても合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものというべきである。
したがって、本件労働契約は、更新されたものとみなされた後の平成25年3月31日の契約期間が満了した後も、労働契約法19条2号により、従前と同一の労働条件で再度更新されたものとみなされる。

労働契約法19条の規定に関する裁判所の判断です。 是非、参考にしてください。

特に判例のポイント3は、今後、労働者側としては有効に活用したい点ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約51(富士通関西システムズ事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!

今日は、パワハラ対処を要望した女性期間雇用者の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

富士通関西システムズ事件(大阪地裁平成24年3月30日・労判1093号82頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、上司であったAから、パワーハラスメントに該当する嫌がらせを受けたうえ、これに対処するようY社に要望したところ、Y社から不当に雇止めされたなどとして、Y社に対する雇用契約上の地位の確認および雇止め後の賃金の支払いの請求ならびにY社らに対する不法行為または債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・以上見てきたとおり、XがAによるパワハラに該当すると主張する各言動は、いずれも、事実の存在自体が立証されていないか、仮に言動自体が事実であっても違法性を有しないものというべきであるから、Aの言動がパワハラに該当し、不法行為が成立するとのXの主張には理由がない。

2 Y社には、定年後の嘱託社員を除き、有期雇用契約を結んでいる従業員はX以外におらず、Xとの契約は、Y社の元社長であるEの紹介による極めて例外的な契約であったことが認められる。また、Xは、入社前に、Eの妻から、「忙しい部署があって、人手が足りないから」と言われており、実際の担当業務も、もともとBが一人で担当していた業務の一部を分担するというものであったことが認められるから、XとY社との間の契約は、Y社の人手不足を解消するための臨時的なものであったとみるのが相当である。
そして、Y社は、契約期間を平成22年12月20日までとする労働契約書の締結に際し、Xに対し、受注売上業務を関連会社に移管したこと及びCの復帰により企画・業務部の人員に余剰が生じたことを説明して以後の契約更新をしないことを伝え、Xも、「会社の言うことはわかりました。」と答えて、不更新条項のある労働契約書に署名・押印して提出しているのであるから、たとえそれまでに2回契約更新が行われていたとしても、Xには、平成22年12月20日以降の契約更新について合理的期待があったとは認められず、本件雇止めは、解雇権濫用法理を類推適用すべき場合に当たらないというべきである

3 なお、仮に、本件について、Xに契約更新への合理的期待があったと認められるとしても、上記の様な契約締結に至る経緯、契約形態の特殊性、担当業務の内容等を総合考慮すれば、当該期待の程度は希薄というべきであり、企画・業務部の人員に余剰が生じている状況からすれば、いずれにしても、本件雇止めは相当というべきである。

パワハラで訴訟をする場合には、立証方法を事前に考えてから提訴する必要があります。

雇止めにおいて会社がとるべき手順については、過去の裁判例の蓄積が相当程度ありますので、それらを参考にしながらすすめるべきです。

顧問弁護士や顧問社労士に相談しながら行うことをおすすめします。

有期労働契約50(国立がん研究センター事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、期間の定めのある看護助手の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

国立がん研究センター事件(東京地裁平成26年4月11日・労経速2212号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、Y社が行った、雇用契約を更新しない旨の意思表示の効力を争い、Y社に対し、①労働契約上の地位確認、②上記雇用契約の期間満了日の翌日から判決確定の日までの賃金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 まず、XがY社に雇用されてからの再雇用の回数が1回、勤続年数が2年間にとどまることからすれば、本件雇用契約が、期間の定めのない契約と実質的に異ならない程度のものであったと認めるには足りない

2 また、看護助手の業務及び勤務時間が週31時間と短時間に設定され、昇給等の制度がないという常勤職員との条件面の差に照らせば、Y社は、看護助手については、その業務内容が広く一般の者に代替可能なものであることを前提に、看護助手の確保は専ら非常勤職員の雇用として行うべきであるとし、その方針を全うするため、任期は1年間とし、再度の雇用を前提としていない旨、看護助手らに対して明示的に説明をしてきたということができる。こうした状況下においては、Xが、任期満了後の雇用契約の継続(再雇用)を期待することに合理的な理由があるということはできないと言わざるを得ない。

3 Xは、Y社の非常勤職員就業規則では、非常勤職員は1年間で必ず退職するとは定められておらず、再び採用されることがある旨規定されていることをもって、雇用契約の更新が繰り返されることを期待していた旨主張する。しかし、非常勤職員を再度雇用することがあるとしても、その際に行われる任用審査が形式的なものではなかったことを踏まえると、上記期待に合理的な理由が認められるとまではいえない

4 以上のとおり、本件雇用契約について、期間の定めのない契約と実質的に異ならないともいえず、任期満了後の雇用契約の継続(再雇用)を期待することが合理的であるともいえないのであるから、本件雇止めには、解雇権濫用法理を類推適用する余地はない。

本件は、上記判例のポイント2のとおり、非常勤職員と常勤職員との間で業務内容や労働条件の差が明確であったため、両者を同一視されずにすみました。

逆に言うと、両者の差が形式的なものにすぎない場合には、当然、結論は異なり得ます。

参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。