Category Archives: 有期労働契約

有期労働契約69(学校法人目白学園事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、有期雇用の大学教員に対する雇止めが有効と判断された裁判例を見てみましょう。

学校法人目白学園事件(東京地裁平成28年6月17日・労判ジャーナル55号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、Y社により期間満了後の雇用契約の締結を拒絶されたことに関して、Y社に対し、主位的に、期間満了前に期間の定めのない雇用契約が黙示的に成立しており、上記の契約締結の拒絶は不当解雇に当たると主張し、また、予備的に、期間満了後の契約締結の拒絶は許されないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社の責に期すべき事由によりXの労務遂行が不能になったと主張して(民法536条2項)、雇用契約に基づいて、賃金等の支払を求め、さらに、違法に解雇ないし契約締結の拒絶をされたと主張して、不法行為に基づいて、慰謝料等の損害金等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社との間の平成21年度雇用契約は3年を雇用期間とする有期雇用契約が1回更新され、雇用期間を3年とする平成24年度雇用契約が締結されたにとどまっているから、その更新が多数回にわたって反復継続されたものと評価することはできず、また、Y社においては、平成24年度雇用契約を締結するに当たり、専任教員任用申請書について理事長の承認を得、Xを候補者とするY社教員予備選考報告書及びY社教員先行依頼書を添えてY社学長に発議し、Xを候補者とするY社教員資格審査答申書を同学長に提出し、最終的にXの任用について理事長の決裁を受けており、Xとの面接も行っていることが認められるから、その更新手続が形骸化し、曖昧なものであったということはできないこと等から、Xが無期の専任教員と職務内容が同様であったことを考慮しても、平成24年度雇用契約の期間満了後の契約締結の拒絶が無期雇用契約の解雇と社会通念上同視できると認めることはできない。

2 Y社の面接官は、平成21年度雇用契約の締結に先立ち、Xに対し、雇用期間が3年である旨を複数回説明し、その後、Y社は、Xとの間で、「雇用期間 平成21年4月1日から平成24年3月31日まで」、「契約更新の有無 甲において更新の可否を検討のうえ、本契約満了時に甲乙合意があった場合は、更に3年間の更新を行う」と明記された有期雇用教職員雇用契約書を取り交わしており、また、Y社において、期間の定めのある雇用契約により採用された専任教員につき、平成17年度以降、3年の雇用契約が2回以上更新された実例が存在しないことにも照らすと、Xが平成24年度雇用契約の期間満了時において有期雇用契約の更新を期待したとしても、その期待に合理的理由があると認めることはできないこと等から、Xの請求のうち予備的主張を前提とする地位確認請求、賃金請求及び損害賠償請求も、判断するまでもなく理由がない。

形式だけでなく、実質的にもしっかりと手続きを行うことの重要さがよくわかります。

どんな場合でも形式だけ整えるのでは不十分です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約68(阪急バス(正社員登用試験)事件)

おはようございます。

今日は、正社員登用試験の受験機会を与えなかったことが債務不履行等にあたらないとされた裁判例を見てみましょう。

阪急バス(正社員登用試験)事件(大阪地裁平成28年2月25日・労経速2282号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXら(Y社の契約社員であった者)に対して、平成25年1月中旬に実施された正社員登用試験を受験する機会を与えなかったことが、Y社の債務不履行又は不法行為に該当するとして、XらがY社に対し、慰謝料並びに弁護士費用+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社における正社員登用試験制度導入の経緯、実施回数等に鑑みれば、同試験制度は、主として正社員の欠員補充を目的とするものであると認められる。このような同制度の趣旨目的に照らすと、Y社は、同試験の受験資格等について、正社員の欠員状況や必要人数、更にはY社の経営状況や事業計画等を総合的に勘案した上で決定し、実施していると認められる。

2 本件条文には、契約社員としての雇用期間が満4年に達した者に対して「直近の」正社員登用試験の受験資格を与える旨の文言がないこと、上記認定した正社員登用試験制度の趣旨及び受験資格者の推移、茨木分会会長が作成した「正社員登用試験について」と題する書面にも本件条文と同一の内容しか記載されていないこと、そもそも上記認定説示のとおり、正社員登用試験の導入された趣旨目的が正社員の補充という点にあったことから、同試験を受験するために必要となる勤続年数は、正社員の定員の充足状況に応じて決定されるため、勤続年数4年になれば必ず正社員登用試験を受験できるとは限らなかったこと、これまでのY社における正社員登用試験の受験資格や1年間の受験回数の推移等の事情を総合的に勘案すると、Xらが主張するような点がXらとY社との間の契約社員に係る雇用契約の内容となっていたといえないと認めるのが相当である。

3 Xらは、契約社員としての雇入れの際、Y社はXらに対し、「正社員登用制度はあるが、勤務成績がよくても、会社の都合次第で、5年経っても、10年経っても正社員になれない場合もある」というように説明すべきであったなどと主張するが、上記認定した正社員登用試験導入の経緯、同試験の実施状況等に鑑みれば、Y社において、Xらが主張するような法的義務(説明義務)があるとは解し難く、同主張はそれ自体失当というほかない。

制度目的やこれまでの運用からすると、正社員登用試験の受験資格については、会社に裁量が与えられており、契約社員全員に当然に認められているものではないという認定です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約67(ラボ国際交流センター事件)

おはようございます。

今日は、Y社に労働契約法の潜脱の意図を有していたとは認められず、雇止めが有効とされた裁判例を見てみましょう。

ラボ国際交流センター事件(東京地裁平成28年2月19日・労経速2278号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の有期雇用職員であったXが、平成26年3月31日をもってY社に雇止めされたところ、Xは、Y社に対し、同雇止めの無効を主張して、地位確認、賃金請求及び損害賠償請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 契約更新手続が極めて形式的なものであったとは認められず、かえって、毎期毎にXY社間で新たな労働条件での契約更新がなされてきたものと認められることから、期間の定めが形骸化していたとは認められない。また、Xは、「なぜこれだけやっているのにあなたは社員ではないの?」と質問されるとのことであるから、「社会通念上」Y社の正社員と同視できる状況にあったとも認められない。よって、XY社間の雇用契約が、同条1号における期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できるとは認められない。
もっとも、本件は「当該有期雇用契約が更新されることについて合理的な理由がある」(労働契約法19条2号)ものと認められる

2 Xは、担当業務の遂行能力には秀でたものがあったと思われるが、Y社の他の職員との協調性には問題が認められる。また、仕事を1人で抱え込む状態が長期間継続すると、何らかの問題がXの担当業務に発生したときに、Y社全体として責任をもって適切に対処することが困難となる弊害がある。そして、Y社の事業運営上の問題点に鑑みれば、Y社の事業運営上もXによる専任体制を維持することが困難となっていたことは明らかであり、Y社において、XY社間の雇用契約の見直しを迫られたことにはやむを得ない事情があったというべきである

3 なお、本件は労働契約法19条2号の事案であり、同条1号における「期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる」ものでもないのであるから、解雇(同法16条)における判断と同程度の厳格な判断を求められるわけではない

4 なお、Xは、本件雇止めは、労働契約法18条・19条を潜脱する意図で実施されたと主張し、これに沿う証拠として、C氏のメールを提出する。同メールには、「新労働契約法の施行が今年4月1日。1年間雇用し、1回更新すると、労働者に、無期雇用の期待が生まれるため、本来は、来年3月で雇止めをするのが、組織運営上は望ましい。」、「こうした確約をとらずに、2015年3月末を迎え、その時になって、私には無期雇用の権利があると主張されるとかなりやっかいなことになるので」との記載がある。
・・・C氏のメールは、C氏の個人的意見の域を超えず、Y社組織全体としての意見とは認められない。
・・・そうすると、Y社が労働契約法の潜脱の意図を有していたとは認められず、Xの当該主張は採用できない。

2号事案です。

多くの場合、この2号事案ですが、上記判例のポイント3は、使用者側・労働者側ともに理解した上で主張立証をすることが求められます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約66(学究社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、雇用契約が更新されることについて合理的期待があったとは認められなかった裁判例を見てみましょう。

学究社事件(東京地裁平成28年1月19日・労経速2275号24頁)

【事案の概要】

本件は、60歳の定年後、嘱託社員としてY社に継続雇用されていたXが、再雇用満了年齢(満65歳)に達した日の翌日である平成26年11月8日から同月30日までの再雇用契約の更新を拒絶されたことについて、就業規則等では再雇用満了年齢に達した年月の月末までが再雇用期間とされているから、同月30日まで再雇用契約が更新されることについて合理的期待があったなどと主張して、Y社に対し、再雇用契約に基づき、同月8日から同月30日までの給与13万0908円+遅延損害金、併せて、この再雇用契約の更新拒絶が不法行為を構成すると主張して、慰謝料10万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの携わっていた業務は教務事務(教材の作成・編集)であり、これは必ずしも臨時的な業務ではないものの、継続性が強く必要とされる業務内容であったと認めるべき証拠もない
従前の事実経過をみると、更新への期待を生じさせるような言動がY社側にあったとは認められず、本件雇用契約の契約期間中には、Y社は、Xとユニオンに対し、同契約に係る契約書に明記された平成26年11月7日をもって1年間の再雇用期間(契約期間)は満了し、それ以降の更新はしない旨を伝えていた経緯がある

2 Xは、本件雇用契約にY社の「定年後再雇用規程」が適用される旨主張するが、仮にY社の「定年後再雇用規程」が適用されるとしても、Xの再雇用期間が平成26年11月30日までとなるわけではなく、再雇用期間(契約期間)は原則として1年単位で、1年未満の再雇用期間(契約期間)は例外であるのに対し、Xのように、1か月未満という極めて短い再雇用期間(契約期間)を予定して定年後再雇用期間を更新する必要があるという事態は考え難く、実際に、Y社においてそのような事例があったとは認められない

3 これらの事情を併せ考えると、本件雇用契約の更新について合理的期待があった旨のXの主張は理由がないというべきである。
したがって、Xに本件雇用契約が更新されることについて合理的期待があったとは認められない。

業務内容の非継続性を1つの理由として判断されています。

また、更新への期待を生じさせる言動についても認定されていないため、請求が棄却されています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約65(A農協事件)

おはようございます。

今日は約17年間更新してきた季節労働者の雇止めと未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

A農協事件(東京高裁平成27年6月24日・労判1132号51頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が運営する営農センターにおいて、平成8年以降約17年間にわたり、いわゆる季節労働者として春、秋の育苗業務及び米の集荷業務等に従事していたXが、平成24年秋以降の労働契約締結を拒否されたことについて、不当な更新拒絶であるなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の地位の確認並びに未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの請求を、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに135万1378円等の支払を求める限度で認容して、その余を棄却した。

【裁判所の判断】

Xの請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 労働契約法19条2号は、期間満了後も従前の有期労働契約が継続することに対する労働者の期待と、期間満了により従前の有期労働契約を終了させる使用者の必要性との調整をはかるため、労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されて継続するものと期待することについて合理的な理由が認められる場合において、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、契約期間の満了時までに当該有期労働契約の更新の申込みをしたとき又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたときは、雇止めは認められず、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなす旨を規定する。同号は、従前の有期労働契約を継続させる一種の法定更新を定める規定であり、法定更新の法律効果の発生を明確にするため、契約期間の満了時までに当該労働契約の更新の申込みをしたこと又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたことをその法定更新の要件と定めるものである。

2 労働契約法18条2項は、ある有期労働契約と他の有期労働契約との間の空白期間がある場合であっても、有期労働契約の反復更新により期間の定めのない労働契約への転換の有無を判断するについて、同期間が一定限度内であれば両契約期間を通算することを認めており、また、同法19条も、有期労働契約終了後に新たな契約締結の申込みをした場合であっても、当該契約期間満了後「遅滞なく」上記申込みをしたときは、使用者が同条所定の条件で当該申込みを承諾したものとみなす旨を規定していることからすれば、同条2号を類推適用するについて、従前の有期労働契約と同号により更新された後の有期労働契約が連続しており、各契約間に全く空白のないことまで求めているものではないと解すべきであるものの、同号の趣旨及び「当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合」という文理からすれば、同号の類推適用をするためには、上記空白期間は、各有期労働契約の契約期間との対比などから、従前の有期労働契約が法定更新によって継続されると法律上評価することができる程度のものにとどまることを要するものというべきである。しかし、本件各労働契約における各労働契約間の空白期間は、上記の程度にとどまるものとは認められないことは上記に判示するとおりである。

3 Y社は、それぞれの有期労働契約が開始される少し前にXに対して契約締結の意向を伝え、契約開始時に契約書を作成していることは前記のとおりであるところ、各有期労働契約の終了から次の有期労働契約の開始までの間に3か月ないし4か月の期間があることは前記のとおりであることからすれば、このようなY社による契約締結の意向の伝達は、直近の有期労働契約の終了時3か月ないし4か月程度経過後にされる上、上記伝達時から直ちに契約期間が開始するものでもないことに照らすと、直近の有期労働契約が更新される法律効果の発生を明確にする役割を果たしているとは認められないのであって、その他、有期労働契約の契約期間の満了時までに当該有期労働契約の更新の申込みをしたこと又は当該契約期間の満了時遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたことと同視し得るような事実関係も認められないことを併せ考慮すれば、Y社とXの各有期労働契約に同法19条2号を類推適用することは、同条が、その法定更新の法律効果の発生を明確にするため、「契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした」こと「又は当該契約期間の満了時遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした」ことを要する旨を規定する趣旨に反するものといわざるを得ない。

4 以上判示の点を総合すると、Xが、平成8年からほぼ毎年、春期と秋期にY社との間で本件各労働契約を締結してきたことなどの前判示の諸事情を考慮しても、本件各労働契約について、労働契約法19条2号を類推適用することはできないものというべきである。

季節労働者に対する雇止めの問題について、労働契約法18条2項との関係について解釈を示してくれています。

労働契約法18条2項は以下のとおりです。

当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない

相当長期にわたり有期雇用が続いている本件においても、労働契約法19条2号の適用は否定されています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約64(トミテック事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、図書館副館長の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

トミテック事件(東京地裁平成27年3月12日・労判1131号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある労働契約を締結していたXが、Y社による同契約の更新拒絶は、信義則に照らし許されず、違法、無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、労働契約に基づき、平成24年4月1日から平成25年7月15日までの15か月半の賃金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 本件労働契約は、期間の定めのある労働契約であり、当初の契約期間は平成23年3月31日までであったが、同期間の満了時に更新され、契約期間が平成24年3月31日までになったものと認められるところ、Xにおいて、上記の新たな契約期間の満了時に同契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められ、かつ、本件更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときには、平成24年3月31日の経過による期間満了後のXとY社との間の法律関係は、本件労働契約が更新されたのと同様の法律関係になるものと解するのが相当である。

2 Y社において、館長、副館長を含むb図書館の全ての職員について、期間の定めのある労働契約を締結したのは、雇用の前提となる同図書館の管理運営業務が、委託期間を5年とする時限的な業務であり、委託期間満了後の雇用維持を保障することができないことを主たる理由とするものと解することができ、その理由には合理性を認めることができるが、他方において、委託期間中は、司書となる資格を有する従業員を常時一定数配置しておく具体的必要性があり、期間の途中で従業員の数を減らすことが予定されていたとか、従業員の数を減らす必要が生じたなどの事情は認められず、むしろ、Y社は、図書館業務の効率的運営や職場環境の整備といった観点から、従業員を継続して雇用するとの方針をとっていたことが認められるから、Xにおいて、いまだ委託期間の中途である平成24年3月31日の経過による雇用期間の満了時に、本件労働契約が更新されるものと期待することには、合理的な理由があったというべきである。

3 C館長は、Xについて、「職員としての立場を自覚した行動が十分とれていない。」、「報告が少ない。」とか、「館長への報告や連絡が極めて少ない。」、「職員としての自覚が十分でない。」などといった記載のある書面を作成し、Y社に提出したことが認められる。
しかしながら、上記各書面の記載は、いずれも抽象的な表現にとどまり、そのような評価の根拠となった具体的事実の指摘はない。また、上記書面には「現在、棚替え、BDS、など多忙で、休日も自宅で仕事をしている状態で、きちっとした評価をするに相当する時間がとれません。」との記載があるから、上記各書面は、C館長が自発的に作成したものではなく、被告がC館長に作成を指示したものであると認められるところ、被告において、定期的な勤務評定が実施されているにもかかわらず、あえて上記書面の作成を指示した経緯及び目的は明らかでない。そうすると、上記各書面の記載をそのまま信用することはできないというべきである。
そして、以上のほかに、原告について、被告が主張するような業務遂行能力の不足や勤務態度の不良があったことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件更新拒絶は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないというべきであるから、原告と被告との間には、本件労働契約が更新されたのと同様の法律関係が存在することになる。

従業員の能力不足や勤務態度不良を理由に解雇や雇止めをする場合、具体的な事実を記載した書面を証拠として提出する必要があります。

抽象的な理由だけで解雇・雇止めをしても、裁判所は認めてくれません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約63(三洋電機(契約社員・雇止め)事件)

おはようございます。

今日は、約30回更新した後の事業譲渡等を理由とする雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

三洋電機(契約社員・雇止め)事件(鳥取地裁平成27年10月16日・労判1128号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、Y社のXに対する解雇ないし雇止めは無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成25年4月から判決確定の日までの賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社との間の雇用契約は、約30年にわたり更新されてきたものの、契約期間満了の都度、雇用契約を締結し直すことにより、雇用契約を更新してきたことが認められるのであるから、本件の雇用契約を終了させることについて、期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できるとまでいうことは困難であり、労働契約法19条1号該当性は、これを否定せざるを得ないというべきである。

2 Xに生じた雇用契約の更新への合理的期待が生じ、かつ、これが消滅したとか大きく減弱したとかいうことはできなから、Xにおいて、雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるというべきであって、労働契約法19条2号該当性が認められる。

3 本件雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」といえるか(同法19条柱書)が問題となるところ、既に認定・検討したとおり、Xには、雇用契約の更新の合理的期待を有していたといえるし、本件雇用契約は、約30年にわたり更新されてきたものであるが、他方、その更新の大半において、Y社は、契約書を作成し直しているし、労働条件が変更するごとに契約書を作成しXに提示してきており、更新手続は厳格であって、契約書の文言上も、当然には更新することが予定されているとはいえないこと、Xが所属していたG事業部が人員余剰となり、Y社に事業移管されて鳥取地区から撤退するなど、Y社の鳥取地区における事業は縮小の一途をたどっていたことからして、雇用契約の更新に寄せられる期待の合理性は相対的には減弱していたと評価すべきである。そうすると、本件雇止めにおいては、その理由自体に強度の合理性が要求されるべきであるとはいえず、Xから寄せられる上記期待に見合った程度の合理性さえ欠くといった場合においてはじめて「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合に該当するというべきである

上記判例のポイント3の考え方は非常に参考になります。

期待の合理性についてあるかないかの2択で考えるのではなく、強弱で捉えた上で、減弱している事情がある場合には、それに見合った雇止めの理由があれば足りると考えるわけです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約62(エヌ・ティ・ティ・ソルコ事件)

おはようございます。

今日は、長年更新を繰り返してきたパート社員に対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

エヌ・ティ・ティ・ソルコ事件(横浜地裁平成27年10月15日・労判1126号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社のパートタイム社員として勤務していたXが、Y社との間で15年7か月にわたり期間1年又は3か月の雇用契約を約17回更新してきたにもかかわらず、Y社が平成25年11月28日にXの業務遂行能力不足ないしY社の業務上の理由により同年12月31日をもってXを雇止めにしたのは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上不相当であると主張して、Y社に対し、雇用契約が更新されたものとして雇用契約上の地位確認を求めるとともに、本件雇止め後の賃金・賞与及び遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 Y社は、NTTのグループ会社からコールセンター業務を受託して運営することを主な業務としているところ、Xが従事していた104業務は、受託業務の中でも長く受託されてきた業務であり、規模が縮小しているとはいえ、同様に長く受託してきた他の業務が終了したり、一部の業務は他社に移行したりする中で、一定の人員が確保され、なお継続しているもので、Y社の恒常的・基幹的業務であると認められる。

2 ・・・Xは、賃金が低くパートタイム社員と扱われているが、一般の常用労働者とほぼ変わらない勤務条件で勤務していたものと認められる。
さらに、Xの雇用契約更新状況をみると、約17回の更新を経て勤続年数が15年7か月に及んでおり更新手続は、契約期間終了前後にロッカーに配布されるパートタイマー雇用契約書に署名押印し、これを提出するというごく形式的なものであり、形骸化していたといわざるを得ない。
この点、B所長は、更新の際に面談等をしていたと証言するが、その内容は具体性を欠いており、信用できない。
以上に鑑みれば、本件雇止めは、期間の定めのない雇用契約における解雇と社会通念上同視できると認めるのが相当である。
したがって、X・Y社間の雇用契約は労働契約法19条1号に該当すると認め、本件雇止めについては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められるか否かを判断する。

3 ・・・Y社のいう他業務への転出の勧めは、他業務の内容等を掲示して紹介するというものにとどまり、他業務を希望する社員は改めて他業務の担当部署で採用面接を受けなければならず、適性がなければ採用されないのであるから、雇止め回避策としては不十分であるといわざるを得ない
また、Y社が雇止め対象者に対し雇用継続の希望を確認して他業務の紹介等をしたのは、雇止めの通告後であると認められ、通告前に個別に雇用継続の希望を確認したり、希望する業務を聴取したりしたことは認められないから、Y社の上記措置は雇止め回避策ではなく、雇止めを前提とした不利益緩和策にすぎない

4 本件雇止めについては、人員削減の必要性は存在するものの、客観的に合理的な理由あるいは社会通念上の相当性の要件充足性の程度は弱いものであるから、相応の手厚い雇止め回避措置を講じることが期待されるところ、Y社は、Y社の他業務担当部署への異動を予定していないとしても、雇止め後に引き続き円滑に他業務に従事できるよう雇止め通告前から調整を図るなど、より真摯かつ合理的な努力をする余地があったというべきであるから、人員削減の必要性の点における上記要件充足性の程度の弱さを補完するに足りる程度に手厚い雇止め回避努力がされたとは認められない

多くの裁判例が労契法19条2号事案であるのに対し、今回の裁判例は1号事案です。

どのような場合に19条1号に該当するのかをこの裁判例から読み取り、実務に活かしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約61(警備会社A事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、3か月ごと14回更新してきた準社員に対する雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

警備会社A事件(東京地裁立川支部平成27年3月26日・労判1123号144頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間の有期雇用契約が期間の定めのないものに転化したか、そうでないとしても、実質的に期間の定めのない雇用契約と同視できるから、Y社がした雇用契約を更新しない旨の通知は解雇権の濫用に当たり許されないとして、Y社に対し、’(1)雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、雇用契約の更新を拒絶されたとする平成25年1月以降毎月11万7270円の賃金の支払いを求めるとともに、(2)Y社の不当解雇により精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づく慰謝料160万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約に係る雇用契約書には、契約の更新に関する記載はなく、3か月の雇用期間が終了する前に、新たに雇用期間を3か月とする雇用契約書を作成しており、当然更新を重ねたことはないこと、訴外会社とXとの間の雇用契約は、訴外会社が警備業務を受託しなくなったことにより、雇止めを受けて終了したのであり、本件雇用契約は、訴外会社とXとの間の雇用契約とは、法的には全く別のものと評価されること、本件雇用契約の更新回数は、14回にわたっているものの、本件雇用契約の期間は3か月であるから、通算して3年9か月であること、Xは、上記のような経緯でY社に採用された際に、既に65歳になっており、Xと同様に、Y社に採用されることになった者の中には、Xよりも高齢の者も複数いたが、いずれも、既に退職しており、Y社から雇止めを受けた者もいること、Xは、本件雇止めの当時、本件施設の派遣隊員の中では最高齢の68歳で、次回の更新をすれば69歳に達するという者であったこと、本件施設は、複雑な構造をしており、かつ、車両認証システムや専門の管制室が備えられており、これらの点に適切に対応し得る判断力や俊敏さが求められていることが認められこれらの事情に照らせば、本件雇用契約は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているとも、期間満了後にY社が雇用を継続すべきものと期待することに合理性があるものともいえないから、いわゆる解雇権濫用法理を類推適用する余地はない

2 これに対して、Xは、更新に合理的期待があったとして、①Y社が、採用面接や新任研修時に、元気であればいつまででも働いてもらってよい、F社K店では75歳を過ぎても元気で頑張っている人がいるなどの発言をしたこと、②Y社が、本件雇用契約の次回の更新後の日に予定されている警備員現任教育受講案内をXに送付したこと、③Dが、平成25年1月のシフト表の変更を命じなかったり、Xが同月1日及び2日に出勤したにもかかわらず、強い指導をしなかったこと等と主張する。
しかし、①については、Y社代表者は、そのような発言をしたことを否定しており、また、Y社が当時から、ISO9001の認証を受けており、その登録継続や競合他社との競争力の強化のために、正社員の構成比率を高め、若返りを図ることを進めていたと推認されるところ、Y社代表者が、Y社の企業方針に沿わない趣旨の言動をするとは考えにくい。また、②については、Dが甲7の送付は、単にY社本部における事務手続き上の間違いに過ぎない旨の供述をしていることに照らせば、上記の事実を過度に評価すべきではない。さらに、③については、Dは、既に、平成24年9月に、Xに対し、本件雇止めについて告げていること、平成25年1月分のシフト表にXが記載されていることに気付かなかったこと、平成25年1月1日、2日に、Xに対し、出勤の必要はない旨を重ねて述べていることは、上記認定のとおりである。したがって、Xの上記主張は、いずれも採用することができない。

有期雇用の場合は、雇用期間満了ごとに、自動更新にせずに、しっかりと新たに雇用契約書を作成することが大切です。

また、雇止めに期待を抱かせる言動は安易にしないことが大切です。

加えて、過去の裁判例を研究し、裁判所が重要視している点を頭にしっかり入れておくことが求められます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約60(シャノアール事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、約8年半更新を繰り返したアルバイトに対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

シャノアール事件(東京地裁平成27年7月31日・労判1121号5頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社の下で長期間アルバイトとして勤務してきたが、Y社の方針により雇止めされたことに対し、雇止めの無効を主張して、地位確認及び賃金請求をする事案である。また、Xが加入した組合とY社との間での団体交渉等でのY社の発言が不法行為に該当するものとして、慰謝料の請求もしている。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 アルバイトの有期労働契約の契約更新手続が形骸化した事実はなく、X・Y社間の労働契約は期間満了の都度更新されてきたものと認められることから、本件雇止めを「期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該機関の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視」することはできず、労働契約法19条1号には該当しない

2 あくまで印象論ではあるが、当裁判所にはXとH店長との契約更新手続における会話にぎこちなさを感じており、組合交渉中であることを割り引いて考えるとしても、XとH店長とのコミュニケーションの密度の薄さを推認させる。そうすると、H店長がXの勤務頻度の低さを問題視し、雇止めを検討することは不合理ではない
結局のところ、本件ではY社組合間での組合交渉が継続していたことから、H店長が店長権限でXを雇止めすることが結果としてできなかったにすぎず、本来であれば、本件雇止め当時、XはH店長から勤務頻度の少なさを理由として雇止めされてもおかしくない立場にあったと客観的に評価される
・・・以上を総合とすると、Xの雇用継続の期待は単なる主観的な期待にとどまり、同期待に合理的な理由があるとはいえないことから、労働契約法19条2号にも該当しない

3 ・・・しかし、本来議論は論理的に行われるべきところ、議論においては主張を的確に捉えることに主眼が置かれるはずである。Xは、G人事部長の述べる理由の一部の言葉をとらえて不法行為の成立を問題としていることになるが、議論全体からすればごく一部の事項であるし、理由は主張と関連づけて理解されるべきものである。G人事部長にXの人格を傷付ける意図があったことを認めるに足りる証拠がないことをも考慮すると、当裁判所としては、G人事部長の発言の評価につき、やや不相当な面があったきらいはあるとしても、違法な発言とまでは評価できない。その他、Y社の発言が違法であると認めるに足りる証拠はない。

交渉中の一部の発言を取り上げて、その発言を不法行為と捉えられた場合、上記判例のポイント3を参考にしてみてください。

交渉全体、前後の文脈から判断すれば、不法行為とまではいえないということも多々あろうかと思いますので。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。