Category Archives: 有期労働契約

有期労働契約19(ノースアジア大学(仮処分)事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

ノースアジア大学(仮処分)事件(秋田地裁平成22年10月7日・労判1021号57頁)

【事案の概要】

Xは、平成15年4月、Y大学の専任講師として、期間の定めのない雇用契約により採用され、その後、准教授となった。

Y大学は、平成19年3月、「大学の教員等の任期に関する法律」に基づき、専任教員の任期に関する規程を制定し、専任の全教員に任期制を導入した。

これに伴い、XとY大学との間では、任期2年の任期制雇用契約が締結された。

ところが、Xは、平成21年11月、懲戒処分となり、准教授から講師に降格され、基本給も減額された。

平成22年2月、Xは、Y大学から本件雇用契約が同年3月末をもって終了する旨の通告を受けた。

Xは、本件更新拒絶が不当な雇止めにあたり、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 使用者と労働者の間で締結された期間の定めのある雇用契約が、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になったといえない場合であっても、当該契約で定められた期間の満了後にも継続して雇用されるとの労働者の期待に合理的な理由がある場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、使用者による雇止めに合理的な理由がない場合には、当該契約の期間満了後における使用者と労働者の間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の関係になると解すべきである。

2 ・・・結局のところ、任期法は、各大学が規則を定めることによって、その実情に合わせた任期制の導入を可能としていると解するべきであって、Y大学が主張するように、任期法に基づく任期制教員について一律に解雇件濫用法理が類推適用されないということはできない。

3 Xは、当初期間の定めのない労働契約を締結しており、その職務内容も専任教員としてY大学の常用的な職務を行っていたことからすれば、XとY大学との間の労働契約は長期間の継続を予定していたものであって、Xが任期制教員となったとはいえ、職務の重要性は増加しており、通算約7年間雇用が継続し、任期制導入後も1度更新されていることなどにかんがみると、Xが任期付き教員となったことによって、即座に両社の関係が長期的な雇用継続を予定しないものになったとはいえない

4 任期制規程を総合考慮すれば、Xが任期制の下でも雇用継続の期待を有することには一定の合理性がある。

5 Y大学が任期制導入に際して行った説明は極めて簡単で、任期制雇用契約書の提出期限が1週間にも満たなかったことなどからすると、Xが大学教員であることを考慮しても、従前の雇用契約から任期制に切り替わることによる不利益を十分に認識して任期制雇用契約を締結したということはできない

6 再任用を希望した教員が再任用されずに任期満了となった例は必ずしも多くなく、また、再任用の可否の判断においては、任期制導入前の状況との継続性が考慮されていたことを併せ考えれば、Y大学における再任用の運用は任期制導入前からの継続教員について配慮したものであったといえる

7 再任用の可否は、職名ごとに任期制規程で定められた最長年限までの期間を全体的に考慮した上で決定されており、雇用の継続性を推測させる一要素となるなどとして、Xには、本件雇用契約における任期の満了後にも雇用が継続するという合理的な期待が存在したというべきであり、本件更新拒絶には解雇権濫用法理が類推適用されると認められる。

8 平成21年度において、Xの評価が大きく下がったのは、本件アンケート送付とこれに伴う本件懲戒処分が多分に影響したものと推認されるところ、準教授からの降格と減給という本件懲戒処分は重きに失するといえ、相当性を欠くものということができる。

非常にマニアックな論点ですが、知っておくとよいです。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約18(学校法人加茂暁星学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、高校非常勤講師の雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

学校法人加茂暁星学園事件(新潟地裁平成22年12月22日・労判1020号14頁)

【事案の概要】

Xらは、Y高校の非常勤講師として期間を約1年間とする有期雇用契約を毎年更新してきた。

Xらの勤務年数は、それぞれ25年間と17年間であった。

Y高校は、平成19年2月、Xらに対し、「平成19年度の雇用に関しては学級減等のため、理科の非常勤講師時数は0時間となります」「あなたの雇用は平成19年3月25日までとなりますのでお知らせ致します。」旨の内容を記載した内容証明郵便を郵送した。

Xらは、本件雇止めは不当であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件雇止めは無効

【判例のポイント】

1 期間の定めのある雇用契約であっても、期間満了ごとに当然更新され、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には、期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり、その実質に鑑み、その効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推適用すべきであり、また、労働者が契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が存続、維持されてきた場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、期間満了後の更新拒絶(雇止め)について、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される。

2 整理解雇とは、使用者が経営不振の打開や経営合理化を進めるために、余剰人員削減を目的として行う解雇をいうところ、Xらの雇止めにおいて、Xらに非違行為等の落ち度は全くないのであって、Y学校も使用者側の経営事情等により生じた非常勤講師数削減の必要性に基づく雇止めであること自体は否定していない以上、Xらの雇止めは使用者が経営合理化を進めるために余剰人員削減を目的として行った雇止めであるとみることが相当である。
したがって、Xらが主張するとおり、Xらの雇止めには整理解雇の法理を類推適用すべきと解する。すなわち、Xらの雇止めの「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」の有無は、(1)人員削減の必要性、(2)雇止め回避努力、(3)人選の合理性、(4)手続の相当性の4つの事情の総合考慮によって判断するのが相当であると解する。

3 もっとも、非常勤講師は、Y学校との間の契約関係の存続の要否・程度に、専任教員とはおのずから差異があるといわざるを得ないので、Xらの雇止めが解雇権の濫用に当たるか否かを判断するに際しても、専任教員の解雇の場合に比べて緩和して解釈されるべきであり、それまで雇用していたXらを雇止めにする必要がないのに、Xらに対して恣意的に雇用契約を終了させようとしたなど、その裁量の範囲を逸脱したと認められるような事情のないかぎり、「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在するといえ、解雇権の濫用に当たると認めることはできない

4 非常勤講師の雇止めの場合に要求される「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が、専任教員の解雇の場合に比べて緩和して解釈されるべきことからすれば、雇止め回避努力として、Y学校において希望退職者募集等の具体的な措置をとることまでは必要なかったというべきである。
しかしながら、Y学校がXらを雇止めするに当たって、財政上の理由からして非常勤講師の人件費をどれだけ削る必要があるか等についておよそ検討したとは認められないことからすれば、Y学校が、非常勤講師の大量雇止め以外に財政状況改善手段を検討したという事情は認められない。また、その他Xらの雇止めに際し、何らかの回避措置がとられたことを認めるに足りる証拠はない。
以上からすれば、Y学校において、何らかの雇止め回避努力をしたとは到底認められない。


期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態にある期間の定めのある雇用契約の雇止めの意思表示は、実質的には解雇の意思表示にあたります。

そのため、解雇権濫用法理が類推適用されます。

整理解雇の場合と同じように、手順をしっかり踏まないと、このような結果になります。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約17(安川電機八幡工場事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

安川電機八幡工場事件(福岡地裁小倉支部平成16年5月11日・労判879号71頁)

【事案の概要】

Y社は、電気機械器具・装置及びシステムの製造並びに販売を主な事業目的とする会社である。

Xは、Y社に雇用期間を3か月と定めて雇用され、約14年間にわたりその契約を期間満了後ごとに更新していた。

Y社は、Xに対し整理解雇をするため、解雇を予告するした上で、雇用期間途中に整理解雇を行った(本件雇止め)。

Xは、整理解雇は、要件を満たさず無効であるとして争った。

なお、Y社は、本件整理解雇の意思表示には雇用期間満了時の雇止めの意思表示が含まれていると主張を追加した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

雇止めとしても無効

Xの精神的苦痛に対する慰謝料として50万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 有期労働契約の雇用期間内における解雇は、やむを得ない事由がある場合に限り許される(民法628条)。そして、本件においては、Y社の生産量に対し余剰となっているパート労働者の人員削減の必要性は存すると認めるものの、本件整理解雇の対象となったパート労働者は31名であり、残りの雇用期間は約2か月、Xらの平均給与が月額12~14万円あまりであること、本件整理解雇によって削減される労務関係費はY社の事業経費のわずかな部分であって、Y社の企業活動に客観的に重大な支障を及ぼすものとはいえず本件整理解雇をしなければならないほどのやむを得ない事由があったとは認められない。

2 本件整理解雇の意思表示には雇用期間満了時の雇止めの意思表示が含まれていたものと解するのが相当である。

3 Xの雇用期間が約14年にわたり半ば自動的に更新してきたこと、Y社においてXらスタッフは、所得金額に上限を設ける必要がなく、正社員以上の残業が可能で、X・Y社ともに雇用継続を当然のことと認識して長期間にわたり更新を繰り返してきたこと等から、X・Y社間の雇用関係は、実質的には期間の定めのない労働契約が締結されたと同視できるような状態になっていたものと認められ、本件雇止めにも解雇法理が類推適用される。

4 もっとも、パート労働者の雇用契約は、景気変動等による生産量の増減に応じて製造ラインの要員を調整するという目的のもとに、短期的有期契約を前提として簡易な採用手続で締結されるものである以上、本件雇止めの効力を判断する基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員の場合とはおのずから合理的な差異があるということはできる

5 本件整理解雇と本件雇止めは、無効であるとともに、違法というべきであるから、不法行為を構成するものである。そして、Xは、平成8年ころ離婚し、本件整理解雇当時56歳で、24歳の長女と2人で暮らし、日中はY社で就労した後、夜間は焼鳥屋で働いていたことのおか、Y社がXを解雇した経緯その他本件に現れた諸事情を斟酌すると、Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、50万円が相当である。 

会社とすれば、通常、期間雇用やパートタイマーの従業員は、整理解雇が簡単にできると考えてしまうと思います。

しかし、本件裁判例同様、裁判所は、そんなに簡単に整理解雇を認めてくれません。

特に、長年にわたり、正社員と同様の仕事をしてきた従業員の場合、実質を重視され、厳しく判断されます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約16(明石書店事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

明石書店事件(東京地裁平成22年7月30日・労判1014号83頁)

【事案の概要】

Y社は、本の出版および販売等を業とする会社である。

Y社では、期間の定めのない契約の従業員を正社員と呼び、有期労働契約の従業員を契約社員と呼んでいる。採用時は、全員、契約社員である。

Xは、Y社と有期労働契約を締結し、入社し、制作部に配属された。

Xは、Y社と、平成19年10月9日~平成20年4月30日、平成20年5月1日~平成21年4月30日、平成21年5月1日~平成22年4月30日と、労働契約を更新してきた。

しかし、平成21年5月1日~平成22年4月30日の労働契約の契約書には、「本件労働契約期間満了時をもって、その後の新たな労働契約を結ばず、本件契約は終了する。」(本件不更新条項)との記載がある。

Y社は、本件不更新条項を根拠として、Xを雇止めにした。

これに対し、Xは、本件雇止めは無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 期間の定めのある労働契約は、期間が満了すれば、当然に当該契約は終了することが約定されているのであり、原則として、期間の満了とともに、労働契約は終了することになる。しかし、期間の定めのない労働契約においては解雇権濫用法理が適用される一方で、使用者が労働者を雇用するにあたって、期間の定めのある労働契約という法形式を選択した場合には、期間満了時に当然に労働契約が終了するというのでは、両者の均衡を著しく欠く結果になることから、判例法理は、雇用継続について、「労働者にある程度の継続を期待させるような形態のものである」という、比較的緩やかな要件のもとに、更新拒絶に解雇権濫用法理を類推適用するという法理で運用している。もとより、具体的な解雇権濫用法理の類推適用をするについては、当該契約が期間の定めのある労働契約であることも、総合考慮の一要素にはなるものの、これを含めた当該企業の客観的な状況、労働管理の状況、労働者の状況を総合的に考慮して、更新拒絶(雇止め)の有効性を判断するという運用を行っているのであり、このような判例法理は、個別の事例の適切な解決を導くものとして、正当なものとして是認されるべきである。

2 本件においては、Xの労働契約の3度目の更新にあたって、更新の前年にY社の方針のもとに、本件不更新条項が付されたことから、Y社は、上記の判例法理の適用外になったと主張する。しかし、少なくとも従前においては、Y社の社内においては、期間の定めのある労働契約を締結していた契約社員には、更新の合理的な期待があると評価できることは明らかである

3 このような状況下で、労働契約の当事者間で、不更新条項のある労働契約を締結するという一事により、直ちに上記の判例法理の適用が廃除されるというのでは、上述の期間の定めの有無による大きな不均衡を解消しようとした判例法理の趣旨が没却されることになる。

4 本件不更新条項の根拠として、Y社は、厚生労働省告示に従ったのであるのであると主張するが、Y社が主張する方針、特に概ね3年を目処に正社員化できない契約社員の雇用調整を行うことの合理性を窺わせる事情が想定できないことを考えれば、本件不更新条項を付した労働契約締結時の事情を考慮しても、本件雇止めの正当性を認めることはできない。

突如、合理的理由なく、契約更新をしない旨の条項を入れただけでは、雇止めは有効にはなりません。

上記判例のポイント1の視点は、会社側も持っておくべきです。

有期労働契約だからといって、そんなに簡単に解雇できませんので、ご注意ください。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約15(河合塾事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

河合塾事件(最高裁平成22年4月27日・労判1009号5頁)

【事案の概要】

Y社は、予備校を経営する会社である。

Xは、Y社との間で、期間1年の出講契約を25年間にわたり繰り返してきた非常勤講師である。

Xは、平成18年度の出講契約の担当コマ数について合意できないことを理由に、Xとの出講契約を締結しなかったことが雇止めにあたるとして、地位確認、賃金、慰謝料等を求めた。

Y社は、平成17年12月、受講生の大幅な減少見込み、受講生の授業アンケートの結果に基づく評価が低いことを理由に、18年度の1週間あたりの担当コマ数を従前の7コマから4コマに削減する旨通告した。

Xは、文書で、週4コマの講義は担当するが、合意に至らない部分は裁判所に労働審判を申し立てた上で解決を図る旨返答した。

Y社は、そのような扱いはできないとして、結局、平成18年度の出講契約は締結されなかった。

【裁判所の判断】

雇止めとはいえない。

Y社の対応は不法行為に当たらない。

【判例のポイント】

1 平成18年度の出講契約が締結されなかったのはXの意思によるものであり、Y社からの雇止めであるとはいえない

2 Xの担当講義を削減することとした主な理由は、Xの講義に対する受講生の評価が3年連続して低かったことにあり、受講生の減少が見込まれる中で、大学受験予備校経営上の必要性からみて、Xの担当コマ数を削減するというY社の判断はやむを得なかったものというべきである

3 Y社は、収入に与える影響を理由に従来どおりのコマ数の確保等を求めるXからの申入れに応じていないが、Xが兼業を禁止されておらず、実際にも過去に兼業をしていた時期があったことなども併せ考慮すれば、Xが長期間ほぼY社からの収入により生活してきたことを勘案しても、Y社が上記申入れに応じなかったことが不当とはいい難い。

4 また、合意に至らない部分につき労働審判を申し立てるとの条件で週4コマを担当するとのXの申入れにY社が応じなかったことも、上記事情に加え、そのような合意をすれば全体の講義編成に影響が生じ得ることからみて、特段非難されるべきものとはいえない

5 そして、Y社は、平成17年中に平成18年度のコマ数削減をXに伝え、2度にわたりXの回答を待ったものであり、その過程で不適切な説明をしたり、不当な手段を用いたりした等の事情があるともうかがわれない

6 以上のような事情の下では、平成18年度の出講契約の締結へ向けたXとの交渉におけるY社の対応が不法行為に当たるとはいえない。

この事案は、第1審、原審、上告審で、裁判所の判断が異なります。

さまざまな事案の捉え方があることがわかり、大変勉強になります。

試験問題なんかにいいんじゃないかな。

第1審(福岡地裁平成20年5月15日・労判989号50頁)では、本件出講契約は労働契約であるとしたうえで、本件出講契約の終了は雇止めと認めました。

しかし、常に前年度と同程度の出講コマ数が確保された本件出講契約の継続を期待することは、いわば主観的願望の域を出ないものである等とし、雇止めは有効であるとしました。

第2審(福岡高裁平成21年5月19日・労判989号39頁)では、本件出講契約を労働契約であると見るのは躊躇されるとし、労働契約であるとは認めませんでした。

しかし、最高裁の判断と同様に、Xが承諾書を指定された期日までに提出しなかったことから出講契約が締結されなかったのであるから、Y社による雇止めとするのは無理があるとしました。

他方で、Y社のいささか理不尽ともいうべき強硬一辺倒の態度が、Xの消極的な抵抗へと追い込んでいったという面があることを否定できず、その限りで、Y社の対応は、Xに対する不法行為を構成するとして、慰謝料350万円を認めました。

福岡高裁、思い切りましたね!

ただ、結局、最高裁で破棄されてしまいました。

非常勤講師の雇止め事案に関する裁判例は、雇用継続への合理的期待が低いことを理由に、解雇権濫用法理の類推適用に比較的慎重な姿勢をとることが多いです。

本件もそのような判例のひとつです。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約14(日本ヒルトンホテル事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

日本ヒルトンホテル事件(東京高裁平成14年11月26日・労判843号20頁)

【事案の概要】

Y社は、ホテル経営等を目的として設立された会社であり、ホテル「ヒルトン東京」等の経営を行っている。

Xらは、有料職業紹介事業を営む配膳会に登録され、その紹介を受けて、Y社に雇用され、ヒルトンホテルにおける厨房での食器の洗浄及び管理業務に従事していた。

Y社は、バブル崩壊後のビジネス需要や消費減退により経営が悪化したため、平成11年春に正社員の労働組合と交渉し、ボーナス減額、特別休暇の削減の同意を得るなどしたが、配膳人に対しても、労働組合との団体交渉を経たうえで、通知書を交付して、労働条件の引下げを通知した。

これに対し、通知書を交付された配膳人179名のうち95%に当たる170名は、労働条件の変更に同意した。Xを含む配膳人は、労働条件変更を争う権利(別途訴訟で争う権利)を留保しつつY社の示した労働条件のもとに就労することを承諾するとY社に通知した(異議留保付き承諾の意思表示)が、Y社は、Xらを雇止めした。

Xらは、Y社に対し、従業員としての仮の地位を定める仮処分を申し立てるとともに、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、慰謝料の支払いを求める訴訟を提起した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効。

【判例のポイント】

1 (1)Xらは、本件雇止めまでいずれも約14年間という長期間にわたりY社との間の日々雇用の関係を継続してきたこと、(2)Y社も、資格規定を定めるなど配膳人の中に常用的日々雇用労働者が存在することを認めるとともに、Xらを常勤者等に指定したこと、(3)Xらは、週5日勤務を継続していたこと、(4)Y社と組合は、Xら組合員の勤務条件に関して、交渉を定期的に行い、常用的日々雇用労働者について他の配膳人より高い基準での合意をしてきたこと、(5)本件雇止め当時、XらにおいてY社と同程度ないしそれ以上の条件で、他のホテルにスチュワードとして勤務することは困難であったこと等の事情が認められ、これらの事情を総合すると、常用的日々雇用労働者に該当するXらとY社の間の雇用関係においては、雇用関係に雇用労働者に該当するXらとY社の関係の雇用関係においては、雇用関係にある程度の継続が期待されていたものであり、Xらにおけるこの期待は、法的保護に値し、このようなXらの雇止めについては、解雇に関する法理が類推され、社会通念上相当と認められる合理的な理由がなければ雇止めは許されない

2 XらとY社の間の雇用関係が簡易な採用手続で開始された日々雇用の関係であること、ある日時における勤務は、Xらが希望しY社が採用して初めて決定するものであること、Xらは配膳人からスチュワード正社員になる道を選択せず、配膳人であることを望んだこと等のXらとY社の間の雇用関係の実態に照らすと、本件雇止めの効力を判断する基準は、期間の定めのない雇用契約を締結している労働者について解雇の効力を判断する基準と同一ではなく、そこには自ずから合理的な差異がある

3 Y社が、配膳人に対する労働条件を本件通知書の内容に従って変更することには経営上の必要性が認められ、その不利益変更の程度組合との間で必要な交渉を行っていること、配膳人のうち95%に相当する者の同意が得られていること等の事情を総合すれば、本件通知書に基づく労働条件の変更には合理性が認められるというべきであり、Y社が日々雇用する配膳人に対し、将来的に変更後の労働条件を適用して就労させることは許されるものというべきである。

4 XらとY社は、日々個別の雇用契約を締結している関係にあったのであるから、本件労働条件変更に合理的理由の認められる限り、変更後の条件によるY社の雇用契約更新の申込みは有効である。

5 Yらの本件異議留保付き承諾は、Y社の変更後の条件による雇用契約更新の申込みに基づくY社とXらの間の合意は成立しないとして後日争うことを明確に示すものであり、Y社の申込みを拒絶したものといわざるを得ない

6 本件労働条件変更は、変更の必要性、変更の程度からやむを得ないものと認められ、合理的理由があること等の事情によれば、本件雇止めには社会通念上相当と認められる合理的理由が認められ、本件雇止めは有効である

一審では、雇止めは無効とされています。

一審は、上記判例のポイント1のような事情は、Xら配膳人の労働条件の切下げを正当化する理由とはなりえても、直ちにXらに対する本件雇止めを正当化するに足る合理的な理由であるとは認めがたいと判断しました。

また、一審は、異議留保付承諾をしたことを理由に雇止めをすることは許されないとしています。

このような理由で雇止めが許されるならば、Y社に、配膳人に対し、必要と判断した場合はいつでも配膳人にとって不利益となる労働条件の変更を一方的に行うことができ、これに同意しない者については、同意しなかったとの理由だけで雇用契約関係を打ち切ることが許されるからです。

いわゆる変更解約告知の問題です。

このような一審の判断とは異なり、上記のとおり、高裁は雇止めを有効と判断しました。

会社側が手続を踏んで雇止めにしたことを評価したものだと思います。

会社側、労働者側ともに、参考にすべき裁判例ですね。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約13(学校法人立教女学院事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

学校法人立教女学院事件(東京地裁平成20年12月25日・労判981号63頁)

【事案の概要】

Y学校は、短大、高校、中学校、小学校、等を運営する学校法人である。

Xは、派遣会社Aとの間で、派遣先をY短大、派遣期間3か月とする雇用契約を締結し、約3年間、短大総務課において業務に従事した。

その後Xは、Y短大で、1年の雇用期間の定めのある嘱託雇用契約を締結することにより嘱託職員として直接雇用され、その後2度にわたり同様の雇用契約を締結し、就労していた。

その後、Y短大は、Xを雇止めした。

Xは、本件雇止めは無効であると主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 嘱託雇用契約が2回の契約更新をもって反復継続されたものと評価することはできず、更新手続が形骸化していたともいえないから、本件嘱託雇用契約が実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状態いなっていたとはいえない。

2 本件嘱託雇用契約は、職員の妊娠など臨時の重要に対応した一時的なものではなく、もともと更新が予定されていたものであること、Xが嘱託職員として担当すべき業務は、短大総務課の恒常的な事務であったこと、1回目の更新である平成17年6月1日から18年5月31日までの嘱託雇用契約書には、契約更新に関して、1年ごとの契約更新とし、その後の更新については、契約期間満了時の業務量および従事している業務の進捗状況、Xの勤務成績・態度により判断すると明示され、その更新は専らXが担当する業務量の推移とXの勤務態度とによって判断することが合意されていたことのほか、2回目の更新である平成18年6月1日から19年5月31日までの本件雇用契約の締結に当たっての事務局長等の言動やこれに先立つ平成18年4月19日の嘱託説明会での説明、更新された嘱託雇用契約書の記載からすると、Xには、本件雇用契約が締結された時点において、本件雇用契約がなお数回にわたって継続されることに対する合理的な期待利益があるといわねばならず、本件雇止めについては、解雇権濫用法理の適用がある

3 嘱託職員の雇用継続期間の上限を3年とする方針を理由に当該嘱託職員を雇止めにするためには、当該方針があることを前提として嘱託雇用関係に入った職員に対しては格別、当該方針が採用された時点ですでにこれを超える継続雇用に対する合理的な期待利益を有していた職員に対しては、当該方針を的確に認識させ、その納得を得る必要があるところ、Xは、当該方針が採用され、その説明を受けた時点ですでにこれを超える継続雇用に対する合理的な期待利益を有し、かつ、当該方針に納得いていなかったのであるから、このようなXに対して、当該方針を一方的に適用して雇止めとすることは、Xの継続雇用に対する期待利益をいたずらに侵害するものであって許されず、また、本件雇止め当時、Y学校全体または短大総務課の業務の適切かつ円滑な遂行上、Xを雇止めしてまでその担当業務を本務職員に担当させなければならない必要があったとは認められず、そうすると、本件雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないから、無効である。

本件のポイントは、Y学校の人事委員会で出された、嘱託社員の契約期間の上限を3年とする方針を適用してなされた雇止めが、人事委員会の方針が出される以前に、すでに継続雇用に対する合理的な期待権を有するXに対しても有効といえるか、という点です。

裁判所は、Xの期待権を保護しました。

もう少しやり方を変えれば、結論が変わったかもしれません。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約12(藍澤證券事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

藍澤證券事件(東京高裁平成22年5月27日・労判1011号20頁)

【事案の概要】

Y社は、証券業を営む会社(従業員数約200名)であり、Xは、Y社の従業員であった。

Xは、大学卒業後、銀行、証券会社等に勤務していたが、うつ病に罹患し、障害等級3級と認定されていた。

なお、精神障害3級とは、「精神障害の状態が、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」である。

Y社では、一般事務を担当していて障害者が退職して法定の障害者雇用率を下回るようになった等の事情から、ハローワークを介して後任の障害者を一般事務要員として募集した。

Xは、Y社の求人票を見て、Y社に応募し、Y社はXを採用することとした(雇用期間半年)。

Y社は、Xに対し、勤務成績不良等を理由として契約期間を更新しない旨を告知した。

Xは、本件雇止めは合理的な理由のないものであって、解雇権濫用(類推適用)により無効であるなどと主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 障害者の雇用の促進等に関する法律5条は、障害者を雇用する事業者は、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定に努めなければならないと定めているのであるから、当該労働者が健常者と比較して業務遂行の正確性や効率に劣る場合であっても、労働者が自立して業務遂行ができるようになるよう支援し、その指導に当たっても、労働者の障害の実状に即して適切な指導を行うよう努力することが要請されているということができる。

2 しかし、同法は、障害者である労働者に対しても、「職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。」(第4条)として、その努力義務について定めているのであって、事業者の上記の協力と障害を有する労働者の就労上の努力があいまって、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念が実現されることを期待しているのであるから、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援及び指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負っているのである。

3 (1)Y社は、Xの病状に配慮して比較的簡易な事務に従事させ、また業務遂行に当たっては、Aを担当者として指導に当たらせ、Xの希望に沿って定時に帰宅させていた。
(2)Xの入社前に、総務人事部マネージャーのBがAに対しうつ病についてのレクチャーをし、A自身も自ら調べるなどしてうつ病に関する理解を深めてXに接していた。
(3)C人事部長からAに対し、Xにもう少し柔らかく話しかけるようにとの注意が与えられ、Aも納得して心がけていた。
(4)Aの指導に問題があれば、上司であるD本部長がAに注意をしていた。

4 ・・・そうすると、Y社は、Xをその能力に見合った業務に従事させた上、適正な雇用管理を行っていたということができる
ところが、Xは、作業場のミスを重ね、Aから具体的な指導を受けてもその改善を図らず、一度は契約の更新をしてもらったものの、就労の実状を改善することができなかったばかりか、名刺作成の際に失敗した用紙を無断でシュレッダーに掛けたり、これが発覚すると自分の机の中に隠すなどして、失敗を隠蔽するに及んでいるのである。このような事態を受けて、Y社は、やむなく本件雇止めを行ったのであるから、本件雇止めには合理的な理由があったものと認められる。

裁判所は、上記のように判断して、障害者雇用促進法違反というXの主張を退けました。

障害者雇用促進法をめぐって争われた裁判例はそれほどありません。

この裁判例では、障害者雇用促進法の趣旨について述べており、参考になります。

なお、障害者雇用促進法は、一定規模以上(平成10年7月から常時雇用労働者数が301人以上、平成22年7月からは200人以上に改正)の民間企業において1.8%以上の障害者雇用を求めています(障害者雇用率制度)。

雇用率制度の対象となるのは、従前、身体障害者または知的障害者でしたが、平成18年4月から、精神障害者についても算定対象に加わりました。

詳しくは、厚労省のHP参照

なお、この裁判例では、上記の争点以外にも、以下のような判断がされています。

使用者による就職希望者に対する求人は雇用契約の申込みの誘引であり、その後の協議の結果、就職希望者と使用者との間に求人票と異なる合意がされたときは、従業員となろうとする者の側に著しい不利益をもたらす等の特段の事情がないかぎり、合意の内容が求人票記載の内容に優先する。

求人票に記載された労働条件と実際の労働条件が異なることは少なくありません。

本件でも、問題となりましたが、結果としては、合意内容が優先すると判断されています。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約11(豊中市・とよなか男女共同参画推進財団事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

豊中市・とよなか男女共同参画推進財団事件(大阪高裁平成22年3月30日・労判1006号20頁)

【事案の概要】

Y財団は、とよなか男女共同参画推進センター条例に基づき設立された「とよなか男女共同参画推進センターすてっぷ」の運営を、豊中市から委託されている。

Xは、平成12年、Y財団に「すてっぷ」の館長として、期間1年として雇用され、平成15年4月に3度目の雇用期間の更新を受けたものの、以後は、組織変更後の館長に採用されることなく、平成16年3月、雇用が終了した(雇止め)。

これに対し、Xは、本件雇止めは、Xが男女共同参画社会の実現について活発に活動を続けていたことから、反動勢力(いわゆるバックラッシュ勢力)の不当な攻撃の対象となり、Y財団がそれらの勢力に屈して、Xを疎外して「すてっぷ」の組織変更を行うなどしたためであり、本件雇止めおよび新館長についての不採用は違法であるとして、Y財団らに対して、雇用契約における債務不履行または共同不法行為による損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

本件雇止めまたは本件不採用は、雇用契約上の債務不履行または不法行為には該当しない。

【判例のポイント】

1 「すてっぷ」の館長職の雇用関係は、地方公共団体の職務を行う特別職の非常勤の公務員の地位に準ずるものと扱われるべきであり、民事上の雇用関係の法理が適用されるよりも、市の特別職の職員の任免についての法理が準用されると解するのが相当である。したがって、「すてっぷ」館長としてのXの雇用について、期限を定めたからといって、これを違法ということはできず、また、雇用期間経過後の更新についても解雇の法理は適用されないから、期限付き雇用が数回更新されても期限付きでない雇用に転化するものではなく、信義則から更新の権利義務が生じることもなく、更新拒絶(雇止め)については原則として雇用者の自由であり、特段の合理的理由を必要とするものでもないというべきである

2 このように、XとY財団との雇用が公法的な意味合いをもつ法律関係に準ずるものと解すべきであることのほか、本件組織変更が行われる前後の「すてっぷ」の館長職が、常勤・非常勤、雇用期間の定めの有無、業務の内容などにおいて、実質上、同一の職務であるとはいいがたいことに鑑みると、Xが本件雇止めの後、当然に新館長に雇用されなかったことが、パートタイム労働法の趣旨に反することなどにより、違法であるということはできず、また、新館長の雇用は、「すてっぷ」の存立の目的からして、Y財団の政策的又は政治的裁量・責任のもとに行われるべきことから、その選任は選任権者の自由な裁量によるものであり、本件組織変更の前に非常勤館長として3度、3年余にわたり雇用期間が更新されてきたXが、当然に新館長に就任する権利を有していたとしてもそのこと自体について法的な権利を認めることはできない。したがって、本件雇止め又は本件不採用については、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に該当するものということはできない

本件は、任期付任用公務員に対する更新拒絶が問題となっています。

民間企業の有期契約労働者に対する期間満了に伴う更新拒絶については、これまで見てきた裁判例からも明らかなように、解雇権濫用法理の類推適用の可能性があります。

これに対して、任期付任用公務員に対する更新拒絶については、こうした雇止め制限法理を通じた救済が認められていません。

最近、任用の更新拒絶が不法行為に該当するとして損害賠償請求による救済が認められるケースも出てきていますが、逆に言えば、そこまでの救済しか認められていません。

公務員は、権利救済の点では、民間労働者と比較して、圧倒的に弱い立場におかれています。

流れが変わるまで、裁判を起こしていくしかないでしょうね。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約10(アンフィニ(仮処分)事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

アンフィニ(仮処分)事件(東京高裁平成21年12月21日・労判1000号24頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業を主な目的とする会社である。

Xらは、Y社と、派遣労働者として期間1年の有期雇用契約を締結し、A社に派遣されていたが、A社から発注量をほぼ半減させる旨の通告があったことを受けて、Y社は、Xらを含め全従業員との間で、順次個別に期間を半年とする雇用契約を締結し直し、Xらも同契約書に署名した。

Y社は、従業員らに対し、上積み条件のない希望退職の希望を通知したが、希望退職者がなかった。

そこで、Xらを含む22人の従業員を解雇した。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

賃金の仮払いとして、5割の限度で仮払いを命じた。

地位保全の仮処分は認めなかった。

【判例のポイント】

1 Y社がXらに対してした解雇は、契約期間中の解雇であるから、やむを得ない事由(労働契約法17条1項、民法628条)があることが必要であるところ、A社からの発注額が減少したこと、相手方が解雇に先立ち、上積み条件なしに退職希望者を募集したが応募者がなかったこと、Y社が解雇の対象者を選定する基準として、(1)入社半年以内の者と(2)出勤率の低い者から順に合計26名に満つるまでとしたこと、Xらが同基準(2)に該当したことなどの事情は、これらをもってやむを得ない事由があるというに足りないものであることは、原決定の説示するとおりである
したがって、Xらに対する解雇は無効である。

一審においても、「やむを得ない事由」の有無について検討されています。

一審の判断の要旨は以下のとおり。

人員を削減する経営上の具体的必要性が明らかではないこと、希望退職も募集期間が短期間で解雇の回避に向けた努力をつくしたものとは認められないこと、解雇対象者の選定の際にかかる基準を設けること自体は一定の合理性を有するものの、事前に何ら従業員に対する説明がないことなどから、Y者の解雇には「やむを得ない事由」があるとは到底認められず、無効である。

本件雇止めは、実質的には整理解雇です。

整理解雇の要件の厳しさがわかりますね。

Y社としても、いろいろ考えたのだと思います。

実際に、希望退職の募集や未消化有給休暇の補償を行っています。

それでもまだまだ足りないというわけです。

会社としては、整理解雇の手続について、よほど念入りに準備しなければ、まず無効となると思ってくださいませ。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。