Category Archives: 労働災害

労災37(リクルート事件)

おはようございます。

昨夜は、旅行代理店静岡支店長Aさんと毎度おなじみのYさんと新年会でした

Aさん、電車間に合わなかったですね・・・

次回は、Yさんと遠征に行きますよ!!

今日は、特に予定が入っていないので、書面を作成します。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

リクルート事件(東京地裁平成21年3月25日・判時2061号118頁)

【事案の概要】

Y社は、就職情報誌の発刊その他各種情報の提供、企業の人事・組織等に関する各種サービスの提供等を行う会社である。

Xは、Y社の従業員として、就職情報事業編集企画室に配属され、その後、インターネット上の就職情報サイトの編集制作職として業務に従事していた。

Xは、休日に、自宅でくも膜下出血を起こし、死亡した(死亡当時29歳)。

【裁判所の判断】

中央労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡について行われるが、業務上死亡した場合とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される。
また、労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、上記にいう、業務と死亡との相当因果関係の有無は、その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。

2 そして、脳・心疾患発症の基礎となり得る素因又は持病を有していた労働者が、脳・心疾患を発症する場合、様々な要因が上記素因等に作用してこれを悪化させ、発症に至るという経過をたどるといえるから、その素因等の程度及び他の危険因子との関係を踏まえ、医学的知見に照らし、労働者が業務に従事することによって、その労働者の有する素因等を自然の経過を超えて増悪させたと認められる場合には、その増悪は当該業務に内在する危険が現実化したものとして業務との相当因果関係を肯定するのが相当である。

3 Xのくも膜下出血発症前の6か月間において証拠上明らかに認められる1か月当たりの時間外労働時間は、39時間22分、67時間32分、83時間44分、25時間30分、71時間20分、50時間30分になるところ、Xは、これに加えて、1か月に1、2回の休日労働や一定の時間外労働に従事していたことや、平日の深夜ないし未明や休日に自宅で業務を行っていたことが推認できる。そして、Xは、週に数回、徹夜ないしはそれに近い状況で業務を行うことを繰り返しておりその業務自体から直ちに過重な精神的負荷を受けていたとはいえないとしても、質の高い仕事を行うべく一定の精神的負担を受けていたことを考慮すると、Xの業務は、特に過重なものであったというべきである

4 Xは本件疾病であるくも膜下出血を発症しているのであるから、その発症の基礎となり得る素因等又は疾患を有していたことは明らかであるが、その程度や進行状況を明らかにする客観的資料がないだけでなく、同人は死亡当時29歳と相当程度に若年であり、死亡前に脳・心臓疾患により医療機関を受診したり受診の指示を受けた形跡はなく、血圧についても境界域高血圧又はこれを僅かに超える程度のものに過ぎず、健康診断においても格別の異常は何ら指摘されていないことから、・・・他の確たる発症因子がなくてもその自然の経過により血管が破裂する寸前にまで進行していたとみることは困難である。

深夜までの勤務や休日勤務、徹夜での勤務をしている従業員の方は、やはり健康状態に気をつけなければいけません。

・・・私も気をつけなければいけませんね

まだまだ大丈夫、自分は大丈夫、と思っていても、たまにはちゃんと休養をとるべきですね。

と、自分に言い聞かせています。

労災36(東加古川幼稚園事件)

おはようございます。

自宅で、本日の証人尋問の準備中でございます

今日も、昨日に引き続き、午前中に刑事裁判が1件あります。

午後は、ずっと証人尋問です

夕方、事務所で1件、裁判の打合せをし、その後、新年会です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

東加古川幼稚園事件(東京地裁平成18年9月4日・労判924号32頁)

【事案の概要】

Y社は、兵庫県加古川市内において、4か所の無許可保育園を設置、運営していた。

Xは、Y社において、保母として勤務していた。

Xは、適応障害に分類される精神障害を発症し、入院検査を受けることとなり、Y社を退職した。

Xは、入院翌日、精神的不安が消失し、検査値に異常がないと認められ、退院して自宅療養をすることになった。

Xは、教会において洗礼を受け、元気を取り戻し始め、新しい保育園探しを開始するなどした。その際、Xは、Y社に対し、離職票の発行を要求したところ、Y社は5月の連休明けにならないと発行できないなどとしXと口論となった。結局、Y社は、連休前に離職票を発行した。

Xは、離職票を受領した2日後、自宅において自殺した。

【裁判所の判断】

加古川労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である。
そして、精神障害の発症については、環境由来のストレスと、個体側の反応性、脆弱性との関係で、精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていると認められることからすれば、業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

2 Xは、保母としての経験が浅かったのに、Y社で課せられた業務内容は極めて過酷なものであったというべきである。かかるY社での過酷な業務に加え、Xに対し、本件2月7日指示及び園児送迎バス時刻表作成業務が課せられたのであり、かかる業務内容は、Xに対し、精神的にも肉体的にも重い負荷をかけたことは明らかであり、Xならずとも、通常の人なら、誰でも、精神障害を発症させる業務内容であったというべきである。ましてや、Xは、これまで精神病や神経症の既往歴はなく、精神科医らの意見書等をも考慮すると、Xは、Y社の過重な業務の結果、適応障害に分類される精神障害を発症したというべきであり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

3 うつ病の特徴的な症状は抑うつ気分、意欲・行動の制止、不安、罪責間、睡眠障害であるところ、Xには病院退院後本件自殺に至るまでの間に上記のようなうつ状態の特徴的な症状がみられた。・・・Xは、病院退院後も、自殺に至るまでの間、精神障害であるうつ状態に特徴的な症状がたびたび出ていたと認めるのが相当であり、自殺するまでの間に、Xの症状が寛解したと認めるに足りる的確な証拠は存在しないというべきである。

4 精神障害が寛解していたとの主張については、当該病院には精神科がなく、診察した医師も精神科医でないことや、当該病院を短期間で退院し、精神科受診を勧められなかったことが、精神医学的に適当な措置であったかどうかは疑わしいこと、うつ病には気分変動があり、これを繰り返しながら回復していくことを考えると、受洗や就職活動の開始は、寛解したと認める決め手にならない

5 本件自殺が精神障害によるものではなく、いわゆる「覚悟の自殺」であるとの主張についても、たしかにXの遺書の内容は理路整然としており、文字の乱れもないが、精神的抑制力が著しく阻害された場合や、うつ状態による希死願望が生じた場合に、必ず文字が乱れるという関係は認められない

本件で特徴的なのは、退職後1か月経過後に自殺した点です。

退職後の事情により自殺したとなれば、業務起因性が否定されます。

本件では、在職中の事情によると判断されました。

被告の主張に対する裁判所の判断は、とても参考になります。

なお、この事案は、本件行政訴訟のほかに、民事訴訟も提起されており、最高裁判所(最三小決平成12年6月27日・労判795号13頁)で、損害賠償請求が肯定されました。

ただし、本人の性格や心因的要素が過失相殺の対象とされ、8割の減額がされています。

労災35(富士電機E&C事件)

おはようございます。

今日は、午前中は、遺産分割調停です。

午後は、労働事件、相続等の相談が3件、労災の裁判、刑事裁判の判決、免責審尋です。

そして、今日は、被疑者国選担当日。

いつ接見に行けばいいのだろうか・・・

どうか遠くの警察署で逮捕されませんように

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

この裁判例は、会社のメンタルヘルス対策にとって、非常に参考になるものです。

富士電機E&C事件(名古屋地裁平成18年1月18日・労判918号65頁)

【事案の概要】

Y社は、富士電機のグループ会社であり、公共事業、富士電機関連の各種プラント、建物・高速道路等の設備・電気工事等を業とする会社である。

Xは、Y社に入社後、開発部に配属されたのを皮切りに、本社の設備部等において、電気工事の予算管理、原価管理、現地施行管理等の業務に従事し、その後、関西支社の技術第三部技術課長として大阪に赴任し、この異動により単身赴任することになった。

Xは、病院において、診察を受け、「自律神経失調症」の診断書の交付を受け、職場を離れ、約3か月間、自宅静養した。

その後、当時の上司Aから比較的容易な業務従事の提案があり、Xは職場復帰した。Aの提案は、A自身の判断によるもので、Y社社内での協議等を経たものではなかった。

その後、Xは、中部支社の技術部第三課長として名古屋に単身赴任し、民間・官公庁の建設現場の電気工事に関する業務に従事したが、単身赴任中の社宅で自殺した。

Xの遺族は、Y社に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

請求棄却
→Y社に安全配慮義務違反は認められない

【判例のポイント】

1 Xはうつ病に罹患し自宅療養を経たものの、自らの希望により職場復帰を果たしたこと、技術課長として処遇されることを承知のうえ、自ら中部支社への転勤を希望した結果、中部支社の技術部第三課長として赴任したこと等に照らせば、中部支社への転勤を契機にうつ病の症状が軽減する傾向にあったと推認することができること、その結果、Xのうつ病は遅くとも平成10年12月8日頃の時点で、完全寛解の状態に至ったものと認められる。

2 昨今の雇用情勢に伴う労働者の不安の増大や自殺者の増加といった社会状況にかんがみれば、使用者にとって、被用者の精神的な健康の保持は重要な課題になりつつあるが、精神的疾患について事業者に健康診断の実施を義務づけることは、精神的疾患に対して、社会も個人もいまだに否定的印象を持っていることなどから、プライバシーに対する配慮が求められる疾患であり、プライバシー侵害のおそれが大きいといわざるを得ない

3 労働安全衛生法66条の2、労働安全衛生規則44条1項について、精神的疾患に関する事項についてまで医師の意見を聴くべき義務を負うということはできず、労働安全衛生法66条の3第1項所定の、事業者が負う就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるべき義務も、精神的疾患に関する事項には当然に適用されるものではないと解するのが相当である

4 Y社の安全衛生規程を根拠として、Y社の主治医等からの意見聴取義務や就業場所の変更の措置を講ずるべきなどの法的義務が発生するとも認めがたい。

5 もっとも、Xは、自らうつ病に罹患したことを報告していたことから、Y社としては、Xのうつ病罹患の事実を認識していたものといわざるを得ず、そのようなXが、職場復帰し、就労を継続するについては、Y社としても、同人の心身の状態に配慮した対応をすべき義務があったものといわざるを得ない

6 Y社はXを職場復帰させる過程において、内部的な協議や医師等の専門家への相談を経ないなど、いささか慎重さを欠いた不適切な対応があったことは否めないものの、同人の職場復帰に際し、同人の希望を踏まえて、診断書記載の休養加療期間よりも前に復帰を認め、担当業務・配置を決定するなど、心身の状態に相応の配慮をしたと認められることから、Y社に安全配慮義務違反があったとまで認めることはできない

この裁判例は、会社として、従業員のメンタルヘルス対策を講ずるにあたり、非常に参考になります。

精神疾患に罹患した従業員の職場復帰と会社の対応は、とても難しい問題です。

会社として、どこまでの対応が求められるのかは、ケースバイケースです。

顧問弁護士や顧問社労士に相談の上、対応方法をじっくり検討してください。

労災34(天辻鋼球製作所事件)

おはようございます。

今日は、特に予定が入っていません。

ちょっと疲れ気味なので、午前中だけ仕事をします。

午後は休憩

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

天辻鋼球製作所事件(大阪地裁平成20年4月28日・労判970号66頁)

【事案の概要】

Y社は、各種金属球並びに各種非金属球の製造及び販売などを目的とする会社である。

Xは、平成10年4月からY社に勤務し、3か月の実習期間を経て情報システム課に2年8か月在籍した後、平成13年4月から生産企画課に配属され、特殊球の製造の進行計画及び管理等の業務に従事していた。

Xは、職場を異動した直後、執務中に小脳出血及び水頭症を発症し、重篤な障害(半昏睡、全介護)を残した。

なお、Xは、小脳の先天的な脳動静脈奇形(AVM)という基礎疾患を有していた。

AVMとは、本来は毛細血管を介してつながるべき脳内の動脈と静脈が、これを介さずに繋がっている状態の奇形をいい、この奇形部分において血流が異常に速く、正常な血管に比べて血管壁が薄くて弱いため血管が破裂しやすくなっている疾患である。

北大阪労基署長は、平成13年10月、本件発症が業務上のものであると認定した。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、総額約1億9000円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、平成13年4月1日付けで生産企画課に異動して間もない段階で、慣れない業務を担当していたこと、前任者からの引継ぎ自体に3日間連続で午前8時40分ころから午後10時まで要した他、日曜日の午前中から夕方までの時間を要しており、しかも、このように説明を受けた内容を理解するために、さらなる時間を要したものと考えられる。これらに照らせば、Xの生産企画課における業務は、経験を有する同課の職員であれば容易にこなせる業務であったとしても、経験の浅いXにとっては、相当程度大きな負担となったものと認められる

2 他方、Xの労働時間について検討するのに、本件発症前1か月間におけるXの時間外労働時間の合計は、約88時間30分にのぼるところ、特に、Xが平成13年4月2日に生産企画課に異動してから本件発症に至るまでの12日間における時間外労働時間の合計は、約61時間であり、これを1か月(30日間)当たりの数値に換算すると、約152時間30分に相当することから、同期間におけるXの労働時間は、極めて長時間にわたっていたということができる。その上、Xは、上記12日間に1日も休日を取ることなく、連続して業務に従事していたものであるから、この側面から見ても、業務の負担は大きいものであったと認められる。

3 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。したがって、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。

4 これを本件についてみるのに、Y社は、Xの使用者として、労働者であるXの生命、身体、健康を危険から保護するよう配慮する義務を負い、その具体的内容として、適正な労働条件を確保し、労働者の健康を害するおそれがないことを確認し、必要に応じて業務量軽減のために必要な措置を講ずべき注意義務を負っていた。そして、生産企画課においては、同課の責任者である同課長が使用者たるY者に代わってXに対し、業務錠の指揮監督を行う権限を有していたものであるから、同課長は、Y社の上記注意義務の内容に従って、Y社に代わってその権限を行使すべきであったと認められる。特に、生産企画課に異動した後におけるXの労働時間が相当長時間にわたっており、しかも、その内容から見ても業務の負担が大きかったことは、前記のとおりであったのであるから、生産企画課長としては、Xの労働時間、その他の勤務状況を十分に把握した上で、必要に応じて、業務の負担を軽減すべき注意義務を負っていたというべきである

5 それにもかかわらず、生産企画課長は、前記注意義務を怠り、引継時に当たっては、担当者が従前担当していた業務の一部を軽減するなど、一定の配慮は行ったものの、Xの現実の時間外労働時間の状況を正確に把握せず、しかも、Xの長時間勤務を改善するための措置を何ら講じることなくこれを放置した結果、Xを本件発症に至らせたものであるから、民法709条に基づき、本件発症によって生じた損害を賠償すべき責任を負う
このように、Y社に代わり労働者に対し、業務上の指揮監督を行う権限を有すると認められる生産企画課長は、使用者であるY社の事業の執行について、前記注意義務を怠り、Xを本件発症に至らせたものであるから、Y社は、民法715条に基づき、本件発症によって生じた損害を賠償すべき責任を負う。

6 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾病とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾病の態様、程度等に照らし、加害者に損害の全額を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、加害者の疾患を斟酌することができると解される。
もとより、XにAVMが存在したこと自体をもって、Xの過失として評価することはできないものの、他方で、これを全てY社の負担に帰することは、公平を失するというべきである。そこで、Y社の注意義務違反の内容・程度、XのAVMの状況、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すれば、本件においては、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、722条2項を類推適用して、本件発症によって生じた損害の20%につき、素因減額をするのが相
当である

本件も、労働時間が長時間にわたっていることが決め手となっています。

賠償額は約2億です

会社としては、やはり、従業員の労働時間管理を甘くみてはいけません。

労働時間管理の具体的方策については、顧問弁護士や顧問社労士に質問してください。

労災33(セイコーエプソン事件)

おはようございます。

もう金曜日ですか・・・?

今日は、午前中に遺産分割の打合せが1件、離婚訴訟が1件入っています

午後は、遺産分割協議を含め4件打合せが入っています。

夜は、弁護士会で弁護団会議です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

セイコーエプソン事件(東京高裁平成20年5月22日・判時2021号116頁)

【事案の概要】

Y社は、情報関連機器、精密機器の開発、製造、販売及びサービス等を主要な事業とする会社である。

Y社は、平成12年ころ、プリンターの製造を国内生産から海外生産に切り替えた。

Xは、Y社の従業員として、海外現地法人の技能認定業務等に従事していたが、出張先である東京都内のホテルにおいて、くも膜下出血を発症し死亡した(死亡当時41歳)。

【裁判所の判断】

松本労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法に基づく労災補償制度は、損害の填補それ自体を直接の目的とするものではなく、被災労働者とその遺族の人間に値する生活を営むための必要を満たす最低限度の法定補償を迅速かつ公平に行うことを目的とするものであり、業務に内在または随伴する危険が現実化して負傷、疾病、障害又は死亡が発生した場合には、使用者及び保険を管轄する政府に無過失の補償責任が発生するとすることにその制度趣旨があり、その補償責任は、危険責任の法理に基づくものと解するのが相当というべきである。

2 前記労災補償制度の目的・趣旨に照らせば、被災労働者が従事していた業務が、被災労働者の疾病の発症につき一定以上の危険を有していたと認められる場合には、被災労働者の従事していた業務と同人の疾病の発症・増悪との間には相当因果関係が認められ、業務起因性は肯定されると解するのが相当である。本件のごとき、脳・心臓疾患の発症に関しても同様であり、被災労働者が、脳・心臓疾患を発症する前に従事していた業務が、被災労働者に発症した脳・心臓疾患の発症につき一定以上の危険を有していたと認められる場合には、被災労働者の従事していた業務と同人に発症した脳・心臓疾患との間には相当因果関係が認められ、業務起因性は肯定されるというべきである。

3 そして、社会通念上、(1)被災労働者の脳・心臓疾患発症当時、同人の基礎疾患(血管病変等)が、確たる発症の危険因子がなくてもその自然経過により脳・心臓疾患を発症させる寸前まで進行していたとは認められないこと、(2)被災労働者が、脳・心臓疾患を発症させる前に、同人の基礎疾患(血管病変等)をその自然経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷(過重負荷)のある業務に従事していたと認められること、(3)被災労働者には、他に脳・心臓疾患を発症させる確たる発症因子はないと認められること、の3つの要件を満たせば、被災労働者が脳・心臓疾患を発症させる前に従事していた業務は、被災労働者の脳・心臓疾患の発症につき一定以上の危険を有していたと認められるべきである。

4 本件において、Xがくも膜下出血を発症した当時、同人の解離性脳動脈瘤の基礎的な血管病態が、その抱える個人的なリスクファクターのもとで自然経過により、一過性の血圧上昇でいつくも膜下出血が発症してもおかしくない状態まで増悪していたとみるのは困難であり、むしろ、Xは、フィリピンやインドネシアでのほぼ連続した出張業務に従事し疲労が蓄積した状態であったところ、インドネシアから帰国後ほとんど日を置かず東京台場でのリワーク作業に従事せざるを得ず、かつ、その業務に従事中、解離性動脈瘤の前駆症状の増悪があったにもかかわらず、業務を継続せざるを得ない状況にあったものであり、それらのことが上記基礎的疾患を有するXに過重な精神的、身体的な負荷を与え、上記基礎的疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、その結果、解離性脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血が発症するに至ったとみるのが相当である。そうすると、被災者がくも膜下出血により死亡したのはその従事していた業務の危険性が現実化したことによるものということができ、したがって、Xのくも膜下出血の発症と業務との間には相当因果関係があり、Xは業務上の事由により死亡したものというべきである。

第1審では、業務起因性を否定しましたが、控訴審では、これを肯定しました。

第1審では、Xの海外出張の業務は特段考慮せず、長時間の時間外労働はなかったとして業務起因性を否定しました。

これに対し、控訴審では、上記のとおり、時間外労働は月平均30時間を下回るとしながらも、度重なる海外出張という過重な精神的、肉体的負荷で疲労が蓄積したことを重視し、業務起因性を肯定しました。

出張業務が多い場合の労災事件では、労働者にとって、非常に参考になる裁判例ですね。

労災32(富士通四国システムズ事件)

おはようございます。

今日は、午前中に自己破産の打合せが1件だけ入っています。

午後は、掛川市役所で法律相談をし、静岡に戻って、打合せが2件です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

富士通四国システムズ事件(大阪地裁平成20年5月26日・判タ1295号227頁)

【事案の概要】

Y社は、富士通の関連会社であり、ソフトウェアの開発、作成等を主たる業務とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、大阪事業所内にあるソリューション統括部において、SEとして、プログラミング等の業務に従事していた。

Xは、うつ病であるとの診断を受け、Y社を欠勤するに至ったが、これは安全配慮義務違反に基づくものであるとして、Y社に対し、損害賠償等を求めた。

なお、大阪中央労基署長は、Xの疾病が業務上のものであると認め、療養補償給付及び休業補償給付等を各支給する旨の決定をしている。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、総額約1260万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 旧労働省は、通達「心理的負担による精神障害等に係る業務上外の判断指針」において、精神障害等に関する業務上の疾病の判断について基準を示し、精神障害は、業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因が複雑に関連して発病するとされていることから、精神障害の発病が明らかになった場合には、(1)業務による心理的負荷の強度、(2)業務以外の心理的負荷及び(3)個体側要因について各々検討し、その上でこれらと当該精神障害の発病との関係について総合判断するものとしている

2 Xには、恒常的に本件業務による強度の心理的負荷がかかっていたのに対し、業務以外の側面において、強度に心理的負荷がかかっていたとされるような事情はなく、Xの個体側要因を過大に評価し、これが客観的に精神疾患を生じさせるおそれがあるとみることは相当ではない。

3 Y社は、Xとの間の雇用契約上の信義則に基づき、使用者として、労働者の生命、身体及び健康を危険から保護するように配慮すべき義務
(安全配慮義務)を負い、その具体的内容として、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、さらに、健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び内容の軽減、就労場所の変更等適切な措置を採るべき義務を負うというべきである

4 なるほど、Y社は、1週間に1回、本件開発プロジェクトの進捗会議を開催し、個別の面談を行うなどとして、Xの作業の進捗状況を把握し、作業に遅れが出た場合にはXの補助をし、業務を一部引き継いだり、補充要員を確保するなどして、Xの業務軽減につながる措置を一定程度講じたことが認められる。しかしながら、X時間外労働時間は、上記業務軽減を行っても、なお1か月当たり100時間を超えており、このような長時間労働は、それ自体労働者の心身の健康を害する危険が内在しているというべきである。そして、Y社は、このようなXの時間外労働を認識していたのであるから、これを是正すべき義務を負っていたというべきである。それにもかかわらず、Y社は、上記義務を怠り、Xの長時間労働を是正するための有効な措置を講じなかったものであり、その結果Xは、本件業務を原因として、本件発症に至ったものである。
したがって、Y社は、Xに対する安全配慮義務に違反したものであるから、民法415条により、本件発症によってXに生じた損害を賠償すべき責任を負う。

5 ・・・もとより、Xのような技術者は、一定期間に高度の集中を必要とする場合もあると考えられるため、勤務形態について、ある程度の裁量が認められるべきものであるとはいえるが、Xは、入社間もない時期に、生活が不規則にならないようにとの正当かつ常識的な指導・助言を上司・先輩から受けたにもかかわらず、これを聞き入れることなく自らが選んだ勤務形態を取り続けた結果、ついに本件発症に至ったものである。このような勤務態度が、原告の生活のリズムを乱し、本件業務による疲労の度合を一層増加させる一因となったことは明らかである
・・・そこで、Y社の安全配慮義務違反の内容・程度、Xの勤務状況、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すれば、民法418条の過失相殺の規定を類推適用して、本件発症によって生じた損害の3分の1を減額するのが相当である

裁判所も認めていますが、会社としては、それなりに業務軽減措置を取っていましたが、やはり、時間外労働が月100時間を超えていると、なかなか難しいですね。

Y社が主張したXの勤務状況に関し、裁判所は「損害の3分の1を減額する」という判断をしました。

会社側としては、従業員の労働時間が長時間にならないように徹底して管理しなければいけません。

従業員側としては、本件のように、過失相殺されないように、自己管理をしっかりとしなければいけません。

労災31(労災1~30のまとめ) 

おはようございます。

一昨日、昨日と事務所で仕事ができなかったので、今日は、一日、書面をばんばん作成します

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、これまで見てきた労災の裁判例について簡単に振り返ります。

労災1(電通事件)
安全配慮義務について
労災2(日鉄鉱業事件)
会社の予見可能性について
労災3(三共自動車事件、コック食品事件)
労災保険と損害賠償との関係について
労災4(住友軽金属工業事件)
団体定期保険、生命保険に基づく保険金と死亡退職金について
労災5
保険給付に関する救済制度について
労災6
審査請求の手続について(1)
労災7
審査請求の手続について(2)
労災8(KYOWA事件)
損害賠償請求認容(約8400万円)
労災9(日本電気事件)
業務起因性肯定
労災10(大正製薬事件)
業務起因性肯定
労災11(神戸屋事件)
業務起因性肯定
労災12(NTT東日本北海道支店事件)
業務起因性肯定
労災13(和歌山銀行事件)
業務起因性肯定
労災14(九電工事件)
損害賠償請求認容(約9900万円)
労災15(大庄ほか事件)
損害賠償請求認容(約7860万円)
労災16(鳥取大学附属病院事件)
損害賠償請求認容(約2000万円)
労災17(グルメ杵屋事件)
損害賠償請求認容(約5500万円)
労災18(NTT東日本北海道支店事件(控訴審))
業務起因性肯定
労災19(日本トラストシティ事件)
業務起因性肯定
労災20(康正産業事件)
損害賠償請求認容(約1億8000万円)
労災21(粕屋農協事件)
業務起因性肯定
労災22(Aワールド事件)
業務起因性肯定
労災23(小田急レストランシステム事件)
業務起因性肯定
労災24(マツヤデンキ事件)
業務起因性肯定
労災25(日本マクドナルド事件)
業務起因性肯定
労災26(山田製作所事件)
損害賠償請求認容(約7430万円)
労災27(東芝事件)
業務起因性肯定
労災28(日研化学事件)
業務起因性肯定
労災29(中部電力事件)
業務起因性肯定
労災30(北海道銀行事件)
業務起因性否定

これからも、30個ずつ、索引目的で、まとめていきたいと思います。

労災30(北海道銀行事件)

おはようございます。

今日は、浜松のホテルウェルシーズン浜名湖で弁護団会議があります

本来は、1泊2日なのですが、私は、明日、予定があり、今夜、帰宅します

この裁判も、予定されていた証人尋問がすべて終了し、残すは、最終準備書面の作成だけです。

最後まで力を抜かず、がんばりますよ!!

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

北海道銀行事件(札幌地裁平成19年3月14日・判タ1251号203頁)

【事案の概要】

Xは、昭和58年にY社に入社し、本店や各支店で勤務してきたが、平成10年にうつ病との診断を受け、通院治療を受けてきたが、同年、Y社を退職した。

Xは、長時間労働やいじめ等により心理的負荷を受けてうつ病を発症し、その後、Xのうつ病発症が明らかになったにもかかわらず、Y社が療養を認めないなどの対応をとったことにより、Xのうつ病を悪化させたものであるから、Xのうつ病は、業務上の心理的負荷を要因として発症したといえ、Xの従事した業務とうつ病の発症との間には相当因果関係が認められるなどと主張した。

【裁判所の判断】

札幌東労基署長による休業補償給付不支給処分は適法である。
→業務起因性否定

【判例のポイント】

1 精神障害の発症や増悪は、現代の医学的知見では、環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神破綻が生ずるか否かが決せられ、環境由来のストレスが強ければ個体側の脆弱性が小さく友精神障害が起きる一方、個体側の脆弱性が大きければ環境由来のストレスが弱くとも精神障害が起きるとする「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていることからすれば、業務と精神障害の発症との間の相当因果関係の有無を判断するについては、ストレス(業務による心理的負荷及び業務外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

2 そして、業務による心理的負荷が社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえるか否かの判断に当たっては、通常人を基準として、精神障害の発症の原因とみられる業務の内容、勤務状況、業務上の出来事等を総合的に検討するべきである。

3 ところで、個体側の要因については、顕在化していないものもあって客観的に評価することが困難である場合がある以上、他の要因である業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷が、一般的には心身の変調を来すことなく適応することができる程度のものにとどまるにもかかわらず、精神障害が発症した場合には、その原因は潜在的な個体側要因が顕在化したことに帰するものとみるほかはないと解される

4 このように個体側の要因については、顕在化していないものもあって客観的に評価することが困難である場合がある以上、他の要因である業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷が、一般的には心身の変調を来すことなく適応することができる程度のものにとどまるにもかかわらず、精神障害が発症した場合には、その原因は潜在的な個体側要因が顕在化したことに帰するものとみるほかはないと解される

5 業務そのものが一般的に過重なものであるといえない以上、たとえ本人にとって過重であり、他にストレスとなる要因が見つからなかったとしても、業務起因性があるとは認めることはできない。

6 また、精神障害の発症自体については業務起因性を認めることができない場合であっても、発症後の業務が、社会通念上、客観的に見て、労働者に過重な心理的負荷を与えるものであって、これによって、既に発症していた精神障害がその自然の経過を超えて増悪したと認められる場合には、業務起因性を認めることができると解するのが相当である

7 藤田医師作成の意見書には、症状の発生機序として「仕事上分からない事が多いまま、主任業務に適応せざるを得ず、大きな心理的負担を感じていたと思われる。」「業務負担による反応性のうつ病と診断した。」、また、「仕事から離れている間は安定していたが、復帰に際して、また不安定となっていた。」などという記載があるが、同意見書は、患者であるXの訴えのみを聴取して業務による心理的負荷の大きさを判断していることが窺えることから、仕事を契機としてうつ病が発症したということを述べたにとどまると評価するのが相当である

この事件は、控訴審(札幌高裁平成19年10月19日・判タ1279号213頁)でも同様の判断がなされています。

この裁判例で注目すべきは、上記判例のポイント6です。

精神障害の発病について業務起因性が認められるか否かを問わず、精神障害発病後の業務による心理的負荷により精神障害が「増悪」した場合の業務起因性を認めています。

なお、判断指針は、「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること」を判断要素としており、あくまで発病前の心理的負荷を対象としています。

判断指針と裁判所の判断基準が異なる場合があるわけです。

労災が認定されなかった場合でも決して諦める必要はありません!!

労災29(中部電力事件)

おはようございます。

今日から通常業務を開始します

午前中、交通事故の相談が1件、その後、遺産分割調停

午後は、打合せが3件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

中部電力事件(名古屋高裁平成19年10月31日・労判954号31頁)

【事案の概要】

Xは、工業高校卒業後、Y社に勤務し、火力発電所等において一貫して現場の技術職として業務に従事してきた。

Xは、火力センター工事第1部環境整備課燃料グループに配属され、デスクワーク中心の業務に従事した。

Xは、その後、環境整備課の主任(一般職の最高職級に該当)に昇格したが、うつ病を発症し、これによる心神耗弱状態の下で自殺した。

【裁判所の判断】

名古屋南労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法に基づいて遺族補償年金及び葬祭料を支給するためには、業務と疾病との間に業務起因性が認められなければならないところ、業務と疾病との間に業務起因性があるというためには、単に当該業務と疾病との間に条件関係が存在するのみならず、業務と疾病の間に相当因果関係が認められることを要する。

2 そして、労働者災害補償制度が、使用者が労働者を自己の支配下において労務を提供させるという労働関係の特質に鑑み、業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に、使用者に何ら過失はなくても労働者に発生した損失を填補する危険責任の法理に基づく制度であることからすると、当該業務が傷病発生の危険を含むと評価できる場合に相当因果関係があると評価すべきであり、その危険の程度は、一般的、平均的な労働者すなわち、通常の勤務に就くことが期待されている者(この中には、完全な健康体の者のほかに基礎疾病等を有するものであっても勤務の軽減を要せず通常の勤務に就くことができる者を含む。)を基準として客観的に判断すべきである。

3 したがって、疾病が精神疾患である場合にも、業務と精神疾患の発症との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては、何らかの素因を有しながらも、特段の職務の軽減を要せず、当該労働者と同種の業務に従事し遂行することができる程度の心身の健康状態を有する労働者(相対的に適応能力、ストレス適所能力の低い者も含む。)を基準として、業務に精神疾患を発症させる危険性が認められるか否かを判断すべきである。

4 また、本件のように精神疾患に罹患したと認められる労働者が自殺した場合には、精神疾患の発症に業務起因性が認められるのみでなく、疾患と自殺との間にも相当因果関係が認められることが必要である。

5 うつ病のメカニズムについては、いまだ十分解明されてはいないが、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務上又は業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるか否かが決まり、ストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、反対に個体側の脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても破たんが生ずるとする「ストレス-脆弱性」理論が合理的であると認められる。

6 判断指針(「心理的負荷による精神的障害等に係る業務上外の判断指針について」)は、上級行政庁が下部行政機関に対してその運用基準を示した通達に過ぎず、裁判所を拘束するものではないことは言うまでもないし、その内容についても批判があり、現在においては未だ必ずしも十全なものとは言い難い
そこで、業務起因性の判断に当たっては、判断指針を参考にしつつ、なお個別の事案に即して相当因果関係を判断して、業務起因性の有無を検討するのが相当である。

7 Xの上司は、Xに対して「主任失格」、「おまえなんか、いてもいなくても同じだ」などの文言を用いて感情的に叱責し、かつ、結婚指輪を身に着けることが仕事に対する集中力低下の原因となるという独自の見解に基づいて、Xに対してのみ、複数回にわたり、結婚指輪を外すよう命じた。
これらは、何ら合理性のない、単なる厳しい指導の範疇を超えた、いわゆるパワーハラスメントとも評価されるべき
ものであり、一般的に相当程度心理的負荷の強い出来事と評価すべきであるとし、叱責や指輪を外すよう命じられたことは、1回限りのものではなく、主任昇格後からXが死亡する直前まで継続して行われていたと認められ、うつ病発症前、また死亡直前に、Xに大きな心理的負荷を与えたと認められる。

このケースも、日研化学事件同様に、パワハラを一原因とした自殺事案です。

会社としては、上記判例のポイント7のような上司の発言を防止しなければなりません。

また、この裁判例では、平均的労働者最下限基準説とほぼ異ならない基準を採用しています。

上記判例のポイント2、3のとおり、この裁判例は、同種労働者ないし平均的労働者を基準にしながら、その労働者群の中に「相対的に適応能力、ストレス適所能力の低い者も含む」としています。

この裁判例も、判断指針に依拠することについて消極的ですね。

労災28(日研化学事件)

おはようございます。

今日もまだ予定は入っていません

ちょっと海までドライブしようかと思っています。

海を見て、いかに自分が小さいかを再確認してきます

・・・病んでる?

それ以外は、書面作成に徹します!!

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

日研化学事件(東京地裁平成19年10月19日・労判950号5頁)

【事案の概要】

Y社は、医薬品の製造、販売等を業とする会社である。

Xは、大学卒業後、Y社に入社し、医療情報担当者(MR)として勤務していた。

MRの業務とは、製薬会社の営業担当者として医療機関を訪問し、自社医薬品に関する有効性、安全性等の情報を、医師をはじめとする医療従事者に的確に伝え、医療従事者からの情報を製薬会社にフィードバックすることにより、自社製品の適切な処方の拡大を推進する業務である。直接医師に面会して医薬品の説明を行う他、説明会を実施する等する。

Xは、家族や上司を名宛人とする8通の遺書を残し、自殺した。

【裁判所の判断】

静岡労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 精神障害の発症については、環境由来のストレスと、個体側の反応性、脆弱性との関係で、精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が、現在広く受け入れられていると認められることからすれば、業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定することが相当である。

2 ICD-10のF0~F4に分類される精神障害の患者が自殺を図ったときには、当該精神障害により正常な認識、行為選択能力及び抑制力が著しく阻害されていたと推認する取扱いが、医学的見地から妥当であると判断されていることが認められるから、業務により発症したICD-10のF0~F4に分類される精神障害に罹患していると認められる者が自殺を図った場合には、原則として、当該自殺による死亡につき業務起因性を認めるのが相当である。その一方で、自殺時点において正常な認識、行為選択能力及び抑制力が著しく阻害されていなかったと認められる場合や、業務以外のストレス要因の内容等から、自殺が業務に起因する精神障害の症状の蓋然的な結果とは認め難い場合等の特段の事情が認められる場合には、業務起因性を否定するのが相当である。

3 Xの上司であるZ係長は、Xに対し、「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している。おまえのカミさんも気がしれん、お願いだから消えてくれ」、「お前は会社を食いものにしている。給料泥棒」、「お前は対人恐怖症やろ」、「肩にフケがベターと付いている。お前病気と違うか」等と発言している。Z係長は、Xについて、部下として指導しなければならないという任務を自覚していたと同時に、Xに対し、強い不信感と嫌悪の感情を有していたものと認められる。

4 また、Xの所属していた係の勤務形態につき、直行直帰を原則とし、月曜午前の定例打合せのほかは、不定期に週1、2回集まるというもので、他の同僚やZ係長より上位の社員との接点がない等、Z係長から厳しい発言を受けることのはけ口がなく、本件会社が人事管理面から従業員間の関係を適正に把握しがたいことから、むしろ心理的負荷を高めるという側面がある

5 (1)Z係長の発言は、言葉自体が過度に厳しく、10年以上のMRとしての経験を有するXのキャリアを否定し、なかにはXの人格、存在自体を否定するものもあったこと、(2)Z係長のXに対する態度に、Xに対する嫌悪の感情の側面があること、(3)Z係長は、Xに対し、極めて直截なものの言い方をしていたと認められること、(4)静岡2係の勤務形態が、本件のような上司とのトラブルを円滑に解決することが困難な環境にあること、から、Z係長のXに対する態度によるXの心理的負荷は、人生においてまれに経験することもある程度に強度のものということができ、一般人を基準として、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重なものと評価するのが相当である。

本件は、Xの上司からのパワハラを原因とした自殺を労災と認めたケースです。

注目すべきは、上記判例のポイント4です。

上司のパワハラのみならず、上司とのトラブルを円滑に解決することが困難な環境にあることも業務起因性を肯定する一要因としている点です。

パワハラを原因とする以上、労災のほかに、民事事件として、会社は、損害賠償請求をされる可能性があります。

会社全体として、本件のような事態を回避する具体策を講じなければいけません。

会社の業種、規模、従業員の勤務形態等により対策の内容は異なると思います。

詳しくは、顧問弁護士又は顧問社労士に相談してみてください。