Category Archives: 労働災害

労災47(フィット産業事件)

おはようございます

また一週間はじまりました! がんばっていきましょう!!

今日は、午前中、公証役場へ行き、その後、労災の裁判が1件入っています。

午後は、建物明渡等の裁判が2件入っています。

裁判終了後、月一恒例のK・MIXです。 今回は、浜松まで行ってきます

ずみさん、おてやわらかに・・・

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、派遣社員のうつ病と損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

フィット産業事件(大阪地裁平成22年9月15日・労判1020号50頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータシステムの受託・開発等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、平成13年8月から、A社にY社の派遣社員として派遣され、A社が受注していた運行制御システムの開発業務に従事していた。

Xの平成14年9月から15年3月までの労働時間数は相当長時間に及んでおり(1か月当たり約171時間ないし291時間)、特に15年1月および2月の労働時間は過重ともいうべき程度存在していた。

Xは、心療内科を受診したところ、「不眠症、うつ状態」。「遷延性うつ反応」と診断された。

Y社は、15年4月、Xを休職扱いとした。また、Y社は、同年6月、Xの休職期間が3か月になったことを理由として、就業規則に基づき、Xを退職とする取扱いをした。

労基署長は、18年12月、Xのうつ病発症について、業務起因性が認められると認定した。

Xは、Y社に対し、債務不履行ないし不法行為に基づき、休業損害、慰謝料等の損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Y社に対し、約1500万円の損害賠償の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 一般的に、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っていると解するのが相当である(最高裁平成12年3月24日判決参照)。

2 Xは、Y社の業務によってうつ病を発症したところ、同疾病発症に当たって、Y社は、平成14年9月から平成15年3月までの間におけるXの労働時間、特に、平成15年1月及び同年2月におけるXの時間外労働時間は、かなりの程度に及んでおり、Y社としても、勤務日報等により、かかるXの長時間労働については十分に把握することができたというべきである。また、Xが担当していた本件運行制御システムは、要件定義の確定と同システム完成納期との間の期間が短く、同システムに係る作業については、主としてXが担当していたところXに対するY社の支援体制が確立していなかった
以上の事実を総合すると、Y社は、Xについて、当該業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったということができ、Xがうつ病を発症したものと認めることが相当である。
そうすると、Y社は、Xに対する安全配慮義務違反により、Xがうつ病を発症したこと、それにより被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。

3 ・・・以上の事実を踏まえると、Xのうつ病の発症及び発症後長期間経過したにもかかわらず治癒するに至っていないことに関しては、X自身の生活態度・業務態度が一定の範囲で寄与していたと認めるのが相当である。そうすると、X側にも過失があると認めるのが相当であって、上記したXの生活状況等を総合して勘案すると、その過失割合としては、2割とするのが相当である

本件では、先に労災の認定がされていたため、労働者側としては、比較的やりやすかったと思います。

今回も、裁判所は、会社側の「支援体制」の不存在について指摘しています。

その一方で、被災労働者の過失も認め、過失相殺を2割認めています。

労災46(いなげや事件)

おはようございます 同期の弁護士が無事出産しました Tちゃん、おめでとう。

写真昨夜は、司法書士のS先生とごはんを食べながら、事務所経営について語りました

特に業務の進捗管理、顧客管理についてどのようなシステムを構築すべきかを話しました。

←魚弥長久。 ここもおいしいです。 そんなに高くありません。

今日は、午前中、離婚調停が入っています。

お昼は、顧問先のAさんと食事をしながら、公益財団法人について話し合います。

午後は、刑事事件の打合せが1件入っています。

その後は、書面作成です

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、過労自殺に関する裁判例を見てみましょう。

いなげや事件(東京地裁平成23年3月2日・労判1027号58頁)

【事案の概要】

Y社は、スーパーマーケットチェーンを中心とした生鮮食品・一般食品・家庭用品・衣料品等の小売業等を目的とする会社である。

Xは、大学卒業後、平成11年4月にY社に正社員として入社し、死亡時、鮮魚部チーフとして勤務していた。

Xは、平成15年10月、自殺した。

Xの妻は、三鷹労基署長に対して、Xが精神障害を発病して自殺したのは過重な業務に従事したことに起因するものであると主張し、遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、いずれも支給しない旨の処分を受けたことから、その取消を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

三鷹労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 Xの手帳については、X自身が業務に関して日々記録していたものであり、業務の有無や内容について一応の信用性があるというべきであり、タイムカード外労働時間についても、これを根拠としている部分があるが、家族の記憶については、過去の長期に渡る出来事に係るものであるから、一般に、その信用性は、必ずしも高いとはいえないし、X妻の日記の記載及びこれと一致する家族の記憶についても、Xの外出の事実、出発・帰宅状況等の生活状況全般については一応の裏付けとするには足りないというべきである。また、通話記録及び家族による聞き取り結果については、Xが本件会社関係者と通話した事実及びXに電話で仕事に関する相談などをしていた事実がうかがえるが、通話記録にある時間帯にどのような内容の会話をしたか個別に特定することはできず、結局、Xの就労の事実との関連性が不明であるから、具体的な労働時間の裏付けとするには足りないといわざるを得ない。さらに、給油記録についても、Xが当該時刻に自宅付近にあるガソリンスタンドにおいて給油した事実を認めることができるが、Xの就労の事実との関連性が不明であり、具体的な労働時間の裏付けとするには足りないというべきである。

2 Xの業務について、A店への移動後短期間でのB店への移動と同時に、新任チーフへの就任、新装開店準備業務の担当等といった出来事の重なり、チーフ就任に伴う業務の質的・量的な増加に加えて、自身の人事考課の重要な要素ともなる新装開店後の売上増を期待される立場に置かれたことに伴う強度の精神的プレッシャー、周囲の支援状況、長時間労働による疲労の蓄積等を総合的に検討すれば、その他の原告指摘にかかるその他の業務上の出来事について検討を加えるまでもなく、Xの本件疾病発病前の業務の心理的負荷の創業評価は、「強」であるとするのが相当である。

3 以上のとおり、Xの本件疾病発病前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であり、その他精神障害の発病につながる業務以外の心理的不可や個体側要因もないのであるから、判断指針・改正判断指針によっても、Xの本件疾病発病が同人の業務に起因するものであると認めることができる。

参考になるのは、判例のポイント1です。

本件では、タイムカードに記録されていない労働時間があると原告が主張し、手帳や日記、携帯電話の通話記録等を提出しましたが、裁判所は採用しませんでした。

そして、「平成15年当時はタイムカードの打刻時刻いかんにかかわらず一律の時間外手当しか支給していなかったことからすれば、店長が従業員に対してタイムカードを業務終了よりも早く打刻するように指示する理由もなかった」として、タイムカードの打刻に基づいて、労働時間を算定しています。

判決の結果には影響していませんので、本件に関してはいいのですが、いろいろなことを考えてしまいます。

本当にそうなのかな・・・。

労災45(メディスコーポレーション事件)

おはようございます

土曜日、日曜日は、朝から晩まで、事務所に缶詰状態でした。

HPの作成→訴状・準備書面の作成→筋トレを疲れ果てるまで回転させていました

栗坊photo 034おかげで筋肉痛です

事務所の中に、筋トレ道具があります。

税理士K山先生もたまにうちの事務所で筋トレをしています。

仕事は体力です。 まじめにそう思います。

体力がなければ、いい仕事なんてできっこないと本気で思っています。

肉体的にも精神的にも強くなりたいです。

強くなって、依頼者や事務所スタッフを守りたいです。

今日は、午前中、静岡新聞の担当者と打合せが入っています。

午後は、建築紛争の裁判の打合せです。

夕方から、月1恒例のK・mix Radio the Boom!です。

ずみさんのアドリブがこわい・・・

その後、その足で、不動産会社D社に移動し、不動産セミナーです。

今日の担当は、僕です。 お題は、

貸家の老朽化に伴う立退き・建替えの上手な対処法

です。

今日も一日がんばります!!
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さて、今日は、過労自殺と安全配慮義務に関する裁判例を見てみましょう。

メディスコーポレーション事件(前橋地裁平成22年10月29日・労判1024号61頁)

【事案の概要】

Y社は、介護付き有料老人ホームの運営等を営む会社である。

Aは、Y社の代表取締役である。

Xは、大学卒業後、信用金庫で勤務後、平成14年10月にY社に入社し、平成16年8月当時には、財務経理部長の職にあった。

Aが、Y社に入社した頃、Y社では、株式上場を計画していたことから、Aは管理本部の株式店頭公開準備室課長に就任した。

平成16年度に入ってからは、6施設の新規開業等、Aの担当する業務の負担は増加していた。

Xは、平成16年8月、道路上の車内において自殺を図り死亡した。

Xの自殺前6か月間の時間外労働時間は、概ね月100時間を超えており、長いときには月228時間に達していた。

Xの相続人である妻、子らは、Y社及びY社代表取締役Aを相手とし、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Y社に対する請求は認容(合計約6500万円)

Aに対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 うつ病の発症原因について、今日の精神医学及び心理学等においては、「ストレス-脆弱性」理論に依拠することが適当であると考えられている。すなわち、環境からくるストレスと個体側の反応性及び脆弱性との関係で、精神的破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても破綻が生じる。したがって、業務と本件うつ病との間の相当因果関係の有無の判断に当たっては、業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因を総合考慮して判断するのが相当である。

2 Y社は、使用者としてXを業務に従事させていたところ、本件自殺前には、Xの時間外労働時間が、6か月という長期間にわたって、平均約100時間以上もの極めて長時間に及んでいたのであるから、Xが過剰な時間外労働をすることを余儀なくされ、その健康状態を悪化させることがないように注意すべき義務があったというべきである。
また、Xは、上記過剰な時間外労働時間に加え、Y社の資金繰りの調整等を担当したことにより、心理的負担の増加要因が発生していたにもかかわらず、Y社は、Xの実際の業務の負担や職場環境などに配慮することなく、その状態を漫然と放置していたのであるから、このようなY社の行為は、上記注意義務に違反するものである。

3 Y社は、毎年定期的に健康診断を実施しているところ、Xが自殺する直前の健康診断においては、Xの健康状態は良好であり、業務態度及びその言動を見ても、Xの精神状態に変調はなかったのであるから、Xの自殺について予見可能性はなかったと主張する。
しかし、長時間労働の継続などにより疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者に心身の健康を損なうおそれがあることは、広く知られているところであり、うつ病の発症及びこれによる自殺はその一態様である。そうすると、使用者としては、上記のような結果を生む原因となる危険な状態の発生自体を回避する必要があるというべきであり、事前に使用者側が、当該労働者の具体的な健康状態の悪化を認識することが困難であったとしても、これだけで予見可能性がなかったとはいえないのであるから、使用者において、当該労働者の健康状態の悪化を現に認識していなかったとしても、当該労働者の就労環境等に照らして、当該労働者の健康状態が悪化するおそれがあることを容易に認識し得たというような場合には、結果の予見可能性があったと解するのが相当である

4 これを本件についてみるに、Y社が本件自殺までにXの具体的な健康状態の悪化を認識し、これに対応することが容易でなかったとしても、(1)Y社の副社長がXの疲れた様子を認識していたこと、(2)Xの時間外労働時間が6か月という長時間にわたって約100時間を超えており、Xは、支援体制が採られないまま、過度の肉体的・心理的負担を伴う勤務状態において稼働していたこと、(3)Y社は、平成15年7月に、桐生労働基準監督署の労働基準監督官から「過重労働による健康障害防止について」という指導勧告を受けていたことに照らすと、Y社において、上記勤務状態がXの健康状態の悪化を招くことは容易に認識し得たといわざるを得ない。
したがって、Y社には、結果の予見可能性があったものというべきである

5 Aは、平成16年当時、Y社の代表取締役であった者であるが、代表取締役の下に副社長を配置し、その下に管理本部を含む6つの部署を配置し、Xの直属の上司は当時CであったなどのY社

労災44(川崎重工業事件)

おはようございます

昨日は、すごい雨でしたね

島田の裁判所から車で帰る途中、前がほとんど見えず、怖かったです

今日は、午前中は、顧問先でK・MIXラジオの打合せです

午後は、簡裁で、民事調停1件、裁判1件、他の事務所で裁判の打合せが1件という流れです。

というわけで、あまり事務所におりません。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、精神疾患・自殺と労災に関する裁判例を見てみましょう。

川崎重工業事件(神戸地裁平成22年9月3日・労判1021号70頁)

【事案の概要】

Y社は、従前より、鉄道車両の製造の受注はしていたが、鉄道車両のみならず、電力設備、車両整備基地、軌道設備、通信・案内設備、信号・保安設備及び総合管理室等を一体とした鉄道システムを受注・納入する事業を行うことを目的として、平成9年1月、同事業の準備のため、交通システム推進部が東京本社に設置された。

Xは、昭和46年、Y社に入社し、その後、プラントビジネスセンター産機プラント部輸送空港システムグループ等で勤務した。

Xは、平成12年12月、医師の診察を受け、うつ病の診断を受けた。

Xは、その後も治療を受けながら職務を遂行していたが、平成14年5月、自宅で自殺した。

Xの妻は、Xの自殺は、過重な業務に起因するうつ病によるものであると主張した。

【裁判所の判断】

神戸東労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡について行われるが、業務上死亡した場合とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される。
また、労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、上記にいう、業務と死亡との相当因果関係の有無は、その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。

2 そして、同法による労働災害補償制度が使用者等の過失の有無を問わず、業務に内在する危険が現実化したことにより、当該労働者に生じた損害を一定の範囲で填補するという危険責任の法理に依拠したものであること、また、うつ病をはじめとする精神障害の発症については、単一の病因ではなく、素因、環境因の複数の病因が関与すると考えられていること、さらに、精神障害の病因としては、個体側の要因としてのストレス半の反応性、脆弱性等もあり得ることからすれば、上記相当因果関係があるというためには、これらの要因を総合考慮した上で、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、当該災害の発生が業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したことによるものとして、これを肯定できると解すべきである。

3 業務に内在する危険性の判断については、上記の危険責任の法理にかんがみれば、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきである。

4 このような平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発症させる程度に危険度を有しており、他方で、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、精神障害の発症は、まさに業務に内在する危険が現実化したものであるといえ、業務と精神障害発症及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。

5 被告は、うつ病発症後の業務上の負荷については、業務起因性の判断に用いるべきではないと主張する。また、判断指針及び改正判断指針も、概ね精神障害の発症前6か月間の業務による心理的負荷について検討するとし、精神障害の発症後、自殺に至るまでの間における業務による心理的負荷を考慮していない。
しかし、例えば、業務上の負荷によりうつ病等の精神障害を発症した者が、まだ完全に行為選択能力や自殺を思いとどまる抑制力を失っていない状態において、改めて、社会通念上、平均的労働者がうつ病を発症する程度の心理的負荷を受けた結果、希死念慮を生じ、自殺を行う場合があり、そのような場合には、相当因果関係を認めるのがむしろ合理的であるといえる。そうすると、精神障害の発症後においては、業務上の負荷を、その程度にかかわらず業務起因性の判断の際の考慮要素としてはならないとする被告の主張は、採用することができない

6 平成12年7月、韓国案件を担当するようになった後のXの心理的負荷は非常に大きなものであったと認められ、その平均的負荷の強度は、判断指針によれば「Ⅱ」と評価されるが、Y社から嘱望されて再入社し厚遇を受けている以上、それに見合う実績を上げることを自他ともに期待されていたXが、失敗が許されないというだけでなく、失敗すればY社における自らの存在価値も問われかねないことが予想され、他方で、当該業務の内容は、Xが過去にY社で経験してきた製鉄関連業務とは全く異なり、ギャップを生じていたこと等からすれば、Xの負担していた業務量そのものが恒常的な長時間労働をするようなものではなかったとしても、上記の事情は、平均的な労働者にとって同様の立場に置かれた場合には心理的負荷の強度の修正要素となるというべきであり、「Ⅲ」に修正されるべきである

上記判例のポイント5は、参考になります。

また、業務起因性の判断にあたり、見落としがちな事実をしっかり拾えるか、その事実を適切に評価できるかにより、結果が変わってくるのがよくわかります。

労災43(富士通事件)

おはようございます

今日は、午前中は、裁判が1件入っているだけです。

午後は、掛川に移動し、離婚調停をし、夕方、事務所で1件打合せです

夜は、中・高の同級生であり、現在、税理士をしているH君と会食です

学生時代の友人と一緒に仕事ができるのは、本当に嬉しいことです。

多くの仲間が各方面でがんばっているので、僕も負けてられません

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、いじめによる精神障害罹患に関する裁判例を見てみましょう。

富士通事件(大阪地裁平成22年6月23日・労判1019号75頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社に入社した。

Xの職務内容は、主にパソコン操作の講師等を行う業務に従事し、顧客先に訪問してパソコン操作の講習を行うほか、社内でのインストラクター業務にも従事してきた。

Xは、自己の仕事の幅を広げようと考えて営業部の部内勉強会に参加した際、部内の全員が参加していたのに、同僚の女性社員から「あなたが参加して何の意味があるの」等と文句を言われた。

京都国際会議場で開催された会場の受付を担当した際、同じく受付支援にきていた京都支社の社員から悪口を言われたり、いやがらせをされる等のいじめにあった。

社内の女性社員らの間で、Xに対する陰口がIPメッセンジャーを利用して行き交い、同社員らはメッセージ授受の直後にお互いに目配せをして冷笑するなどしたことから、Xは、上記IPメッセンジャーによる女性社員ら間の悪口について認識していた。

Xは、Y社を休職し、病院を受診して自律神経失調症との診断を受け、精神科の専門医から「不安障害、うつ状態」との診断を受けた。

Xは、平成17年6月、「休職期間満了により、解雇する」旨の辞令を受けた。

【裁判所の判断】

京都下労働基準監督署長がした療養補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。
→業務起因性肯定。

【判例のポイント】

1 業務と精神障害の発症・増悪との間に相当因果関係が認められるための要件であるが、「ストレス-脆弱性」理論を踏まえると、ストレスと個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であるといえることが必要とするのが相当である。

2 そこで、如何なる場合に業務と精神障害の発症・増悪との間で相当因果関係が認められるかであるが、今日の精神医学において広く受け入れられている「ストレス-脆弱性」理論に依拠して判断するのが相当であるところ、この理論を踏まえると、業務と疾病との間の相当因果関係は、ストレスと個体側の反応性、脆弱性とを総合的に考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして認められるのに対し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であると認められない場合は、精神障害は業務以外の心理的負荷又は個体側要因に起因するものといわざるを得ないから、それを否定することとなる。

3 Xに対するB等同僚の女性社員のいじめやいやがらせであるが、個人が個別に行ったものではなく、集団でなされたものであって、しかも、かなりの長期間、継続してなされたものであり、その態様もはなはな陰湿であった。以上のような事実を踏まえると、Xに対するいじめやいやがらせはいわゆる職場内のトラブルという類型に属する事実ではあるが、その陰湿さ及び執拗さの程度において、常軌を逸した悪質なひどいいじめ、いやがらせともいうべきものであって、それによってXが受けた心理的負荷の程度は強度であるといわざるをえない。しかも、Xに対するいじめやいやがらせについて、Y社の上司らは気づいた部分について何らかの対応を採ったわけでもなく、また、Xからその相談を受けた以降も何らかの防止策を採ったわけでもない。Xは、意を決して上司等と相談した後もY社による何らの対応ないしXに対する支援策が採られなかったため失望感を深めたことが窺われる

社内におけるいじめ、いやがらせは、一般的に立証が難しいです。

今回は、IPメッセンジャーの履歴が残っていました。

勤務時間中に何をやっているんですかね・・・。

よほど暇なんでしょうかね。

Xが会社に対し、別途、損害賠償請求をする可能性もあります。

会社としては、社員間のいじめや理不尽ないやがらせに目を光らせなければいけません。

また、当事者から相談があった場合には、迅速に適切な対応をとる必要があります。

この裁判例を教訓にしてください。

会社の社会的評価を著しく低下させることになります。

会社にとって、優秀な社員を失うことほど大きな損失はありません。

労災42(三洋電機東京食品設備事件)

おはようございます。

今日は打合せが入っていません。

一日、書面作成といろいろな準備をします

今日もGさんに手伝ってもらいます。

Gさん、いつもありがとうございます

ちょっと疲れ気味ですが、へこたれません!!

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

三洋電機東京食品設備事件(横浜地裁平成21年2月26日・労判983号39頁)

【事案の概要】

Y社は、三洋電機等が製造・販売した業務用食品設備機器、厨房機器の技術的な保守・点検サービス等を業とする会社である。

Xは、Y社において、担当エリア内の顧客先を訪問するなどして製品の修理業務等を行うサブカスタマエンジニア(サブコン)として勤務していた。

Xの勤務形態は、1日の修理予定が存在しているものの当日の変更が常態化しており、また、Y社の24時間修理体制の下、勤務日については24時間待機とされ、月1、2回程度、緊急の修理要請に応じて深夜・早朝修理に赴くことを余儀なくされていた。さらにXは、1週間に1回程度と頻度は低いものの、夏季の30度前後の環境の中、零度前後の冷凍倉庫内において修理業務を行うこともあった。

Xは、自宅において、高血圧性脳出血を発症し、重度の右片麻痺と失語症を発症して休業した(発症当時55歳)。

Xは、本件疾病を発症して休業したことについて、労災保険法に基づく休業補償給付を請求したところ、相模原労働基準監督署長から不支給決定を受けたため、その取消しを求めた。

本件争点は、本件疾病の業務起因性であるが、その中でも、Xの実労働時間および時間外労働時間の推計が特に争われた。

【裁判所の判断】

相模原労基署長による休業補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 脳血管疾患は、その発症の基礎となる血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等の個人に内在する要因(基礎的要因)により、長い年月の生活の営みの中で徐々に形成、進行及び増悪するといった自然の経過をたどり発症するものである。
しかし、業務による過重な負荷が加わることにより、発症の基礎となる血管病変等をその自然の経過を超えて著しく増悪させ、脳血管疾患を発症させる場合があるとされる。

2 業務の過重性の判断に当たっては、発症前6か月間における就業態様について、労働時間、勤務の不規則性、拘束時間の長さ、出張の多さ、交代制勤務や深夜勤務の有無・程度、作業環境(温度環境、騒音、時差)、精神的緊張を伴う業務か否かなどの諸要素を考慮して、総合的に評価することが相当である

3 Xの労働時間について、Y社は、Xの出退勤時間を管理しておらず、Xの出退勤時間を明らかにする客観的証拠はないことから、Xの労働時間については、客観的に明らかとなっている個々の作業時間から推計せざるを得ない。そして、かかる推計に当たっては、本件推計時間表、Xの各作業の件数、サブコンの各作業1件当たりに要する時間等をもとに、事務作業、修理および移動、連絡、ミーティング、部品購入といった個々の作業に要する時間を集計するという方法によりXの実労働時間を推計し、実際のXの時間外労働時間は発症前6か月間平均で1か月当たり約108時間であると認めるのが相当である。

4 上記のような恒常的な長時間労働は、その労働密度や休日数の少なさを併せ考慮すると、Xに対し、強度の身体的・精神的負荷を与え、著しく疲労の蓄積をもたらすものであったと言わざるを得ず、また、Y社の24時間の修理体制の下、Xの勤務の不規則性は、相当程度のものであったというべきであり、さらに、夏季の冷凍倉庫内における修理業務がXの脳疾患を誘発ないし増悪させた可能性も否定できない
そして、Xは、上記のような恒常的な長時間労働等に従事する中で、体調不良を訴えるようになり、本件疾病発症日前日まで20日間に及ぶ連続勤務に従事した後、本件疾病を発症したこと等を総合考慮すると、Xの業務は、客観的にみて、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務であったというべきである。

本件裁判例は、会社が、労働時間について適切な管理を怠っていた場合について、とても参考になる判断をしています。

被災者側は、客観的に明らかとなっている個々の作業時間から推計するという方法は、強く主張していくべきです。

会社側の「実労働時間が不明である」との主張が通ってしまうのであれば、しっかり労働時間を管理している会社が馬鹿を見ることになり、不当です。

推計作業は、とても骨の折れる作業ですが、ここで努力を惜しんでいけません。

裁判所に「必ず労災と認めてもらう!!」という熱意を示しましょう。

決してあきらめてはいけません!!

労災41(日本通運株式会社事件)

おはようございます。

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

日本通運株式会社事件(大阪地裁平成22年2月15日・判時2097号98頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物運送事業、航空運送代理店業、旅行業その他の事業を営む会社である。

Xは、Y社において旅行関連業務に従事していた。

Xは、うつ病に罹患し自殺した。

Xの妻は、Y社に対し、Xがうつ病に罹患し、自殺したのは、Y社の安全配慮義務違反又は不法行為によるものであると主張し、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Xの損害として、300万円(慰謝料)を認容した。

【判例のポイント】

1 Xは、高校卒業後、Y社に入社し、旅行部門で添乗業務に従事した後、子会社へ出向し、関西、成田の空港事業所等で勤務していた者であるが、高校一年生のときに受けた虫垂炎手術後、血清肝炎を発症し、軽快したものの完治はしていなかったところ、Y社に入社後の健康診断で血清肝炎を指摘され、Y社の健康指導員の指導を受けるようになり、C型慢性肝炎の治療として内服、静脈注射を受け、その間にインターフェロン治療を提案されたがこれに応じなかった。
平成16年4月、Xは、Yの支店に異動となったが、その頃インターフェロン治療を受けることを決め、上司らに申告したところ、衛生管理担当の次長から転勤直後に入院治療を受けることを非難するような発言をされた。
同年5月、Xは、入院しインターフェロンの投与を開始し、副作用等による一時中断があったものの、同年7月に退院し、以後通院による治療を受けることとなった。
そこで、Xは、復職のため次長らと面談したが、その際に、次長から「治療に専念した方がよいのではないか。自分から身を引いたらどうか」等退職を示唆する発言がされ、Xに相当の精神的衝撃を与え不安症状を強めた。

2 これはXの精神面を含む健康管理上の安全配慮義務に違反するものであり、この行為によりXのそのころ発症した不安、抑うつ状態を持続、長期化させ、うつ病の発症に相当程度寄与したものであることから、本件うつ病の発症との間に相当因果関係が認められる

3 しかし、当時のXの病態、症状等を最大限に考慮しても、Y社において、Xが自殺することについてまで具体的な予見可能性や予見義務があったとは認められないことから、Xの自殺との間に相当因果関係は認められない。

この裁判例は、Xがうつ状態等の精神症状を発症させる危険性があることについての予見可能性、予見義務があったとしながら、自殺することまでの予見可能性、予見義務があったと認めることはできないとしました。

被災者側としては、裁判所にこのような判断をされるのは、非常に嫌です。

本件裁判例は、自殺までの予見可能性をいとも簡単に否定しました。

判決理由を読んでいても、なんだかよくわかりません・・・。

自殺事案における予見可能性の対象については、判断が分かれるところです。

厳密な予見可能性を要求すれば、多くの自殺事案における加害者の責任が否定されてしまうことになります。

なお、交通事故事案の最高裁判決や電通事件最高裁判決は、特定の精神障害や自殺を具体的に予見できたかどうかを検討することなく、加害者の損害賠償責任を認めています。

労災40(トヨタ自動車事件)

おはようございます。

昨日も、夜遅くまでK山組のみなさんと飲んでいました

今日は、午前中は、裁判の打合せが1件と破産の相談が1件です。

午後は、家裁で離婚調停をして、その後、破産等の打合せが2件です。

夜は、O社のOさんとお食事です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成15年7月8日・労判856号14頁)

【事案の概要】

Y社に勤務していたXは、昭和63年8月、ビルから飛び降り自殺をした(死亡時35歳)。

Xは、当時、複数車種の改良設計で忙殺されており、組合の職場委員長への就任や、開発プロジェクト、南アフリカ共和国への出張命令を受けており、強い心理的負荷を受けていた。

Xの遺族は、Xの自殺は、過重な業務に起因するうつ病によるものであると主張した。

【裁判所の判断】

岡崎労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務と傷病等との間に業務起因性があるというためには、労働者災害補償制度の趣旨に照らすと、単に当該業務と傷病等との間に条件関係が存在するのみならず、社会通念上、業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化として死傷病等が発生したと法的に評価されること、すなわち相当因果関係の存在が必要であると解せられる。

2 精神疾患の発症や増悪は様々な要因が複雑に影響し合っていると考えられているが、当該業務と精神疾患の発症もしくは増悪させた原因であると認められるだけでは足りず、当該業務自体が、社会通念上、当該精神疾患を発症もしくは増悪させる一定程度の危険性を内在または随伴していることが必要であると解するのが相当である。

3 そして、うつ病の発症メカニズムについてはいまだ十分解明されていないけれども、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務錠ないし業務以外の心身的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければストレスが小さくても破綻が生ずるとする「ストレス-脆弱性」理論が合理的であると認められる。

4 もっとも、ストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神破綻が生じるか否かが決まるといっても、両者の関係やそれぞれの要素がどのように関係しているのかはいまだ医学的に解明されている訳ではないのであるから、業務とうつ病の発症・増悪との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては、うつ病に関する医学的知見を踏まえて、発症前の業務内容及び生活状況並びにこれが労働者に与える心身的負荷の有無や程度、さらには当該労働者の基礎疾患等の身体的要因や、うつ病に親和的な性格等の個体側の要因等を具体的かつ総合的に検討し、社会通念に照らして判断するのが相当であると考えられる

5 Xは、7月下旬ないし8月上旬ころ本件うつ病に罹患し、本件うつ病による心神耗弱状態の下で本件自殺をしたものであり、Y社におけるXの業務が本件うつ病発症の要因の1つになっていたこと(すなわち、業務と本件うつ病発症との間に条件関係が存在していたこと)自体は明らかである。そこで、業務上の出来事がXの心身にどのような負荷を与えたかについて以下検討すると、いわゆる業務の過重性について本件を基準とする見解、すなわち本人が感じたままにストレスの強度を理解すれば足りるとする見解は採用できないけれども、ストレスの性質上、本人が置かれた立場や状況を充分斟酌して出来事のもつ意味合いを把握した上で、ストレスの強度を客観的見地から評価することが必要であり、本件においては、Xが従事していた業務が、自動車製造における日本のトップ企業において、内容が高度で専門的であり、かつ、生産効率を重視した会社の方針に基づき高い労働密度の業務であると認められる中で、いわゆる会社人間として仕事優先の生活をして、第1係係長という中間管理職として恒常的に時間外労働を行ってきた実情を踏まえて判断する必要があるというべきである

第1審は、業務上の心身的負荷の強度の判断については、「同種労働者(職種、職場における地位や年齢、経験等が類似する者で、業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし、同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当」であると判断しました。

いわゆる「平均的労働者最下限基準説」です。

これに対し、本件裁判例は、第1審とは異なる見解に立っています。

また、この裁判例は、Xが中間管理職の立場にあるという事実を判断要素として取り上げています。

このあたりは、労働者側として参考になる部分だと思います。

労災39(S学園事件)

おはようございます。

昨夜は、久々に税理士のK山先生とTさんと飲みに行きました

K山先生、ごちそうさまでした!

いろいろとやらなければいけないことがありますね・・・

がんばろ!!

今日は、午前中は、書面を作成します。

午後は、判決を聞いて、そのまま原告の方と一緒に県庁で記者会見です

夜は、裁判の打合せです。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

S学園事件(大阪地裁平成22年6月7日・労判1014号86頁)

【事案の概要】

Y社は、高等学校卒業生を対象とした分析化学の教育指導を行うことを目的とする2年制の専修学校である。

Xは、Y社に専任講師として雇用され、Y社が設置する専門学校で稼働していた。

Xは、うつ病を発症し、それにより休業を余儀なくされた。

【裁判所の判断】

天満労基署長による休業補償給付不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務と精神障害の発病との間の相当因果関係を判断するに当たっては、今日の精神医学において広く受け入れられている「ストレス-脆弱性」理論、すなわち「環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に大きければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても精神障害が起こる」という考え方に依拠するのが相当である。そこで、同理論を踏まえると、業務と疾病との間の相当因果関係の有無の判断においては、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性とを総合的に考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発病させる程度に過重であるといえる場合は、業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定することができる。これに対し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発病させる程度に過重であると認められない場合は、精神障害は業務以外の心理的負荷又は個体的要因に起因するものといわざるを得ないから、業務起因性を否定することとなる。

2 なお、被告が判断基準として主張する判断指針は、労働者災害認定のための行政の内部指針であって、大量の事件処理をしなければならない行政内部の判断の合理性、整合性、統一性を確保するために定められたものであるが、基準に対する当てはめや評価に当たって判断者の裁量の幅が大きく、また、業務上外の各出来事相互の関係、相乗効果等を評価する視点が必ずしも明らかでない部分がある
以上のような判断指針の設定趣旨及び内容を踏まえると、裁判所の業務起因性に関する判断を拘束するものではないといわなければならない。

3 Xは、少なくとも後期授業が開始した平成14年9月12日から本件引率業務のためイギリスへ出発する前日の平成15年2月14日までの間、量的(労働時間)にも質的(業務内容による精神的負担感や緊張感が伴うもの)にも過重な労働を行い、心身の疲労が蓄積していたにもかかわらず、初めての海外経験である本件引率業務に従事し、さらに、帰国当日の同年3月11日から休む間もなく連日多岐にわたる業務をこなして、心身の疲労が頂点に達した同月16日及び同月17日の両日に、Y学園長から他の教員らの面前で一日体験入学の準備に遅刻をしたことについて厳しい叱責を受け、遂にその限界を越え、精神障害を発病させたとみるのが自然である。そうすると、Xが本件学校において担当した業務は、社会通念上、本件精神障害を発病させる程度に過重な心理的負荷を与える業務であったと認めるのが相当である。

参考になるのは、上記判例のポイント2のいわゆる「ストレスの相乗効果」論です。

他の裁判例でもこのような言い回しをしているものもあります。

行政の判断指針が批判される点ですね。

労働者側としたら、この視点をもって、裁判で戦うべきです。

実際、判例のポイント3では、裁判所は総合的に判断しています。

それから、上記判例のポイント3に出てきますが、他の従業員の前で、叱責するのは、避けましょう。

誰だって、同僚の前で、叱責されたら、落ち込みます。

労災38(音更町農業協同組合事件)

おはようございます。

今日は、午前中は、ずっと裁判の打合せです。

午後も、裁判の打合せが3件、夕方から事務所会議です。

・・・接見に行かないと

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

音更農業協同組合事件(釧路地裁帯広支部平成21年2月2日・労判990号196頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社の事務職の正社員となり、酪農課、農産課を経て青果課に所属し施設管理業務を担当していたが、同課の係長が疾病で入院休職したので、同係長の担当していた販売業務の一部を分担するに至った。

Xは、業務増大のため疲労し、次第に体調の不良を訴えた。

Xは、Y社倉庫において、自殺した(死亡当時33歳)

Xの遺族は、Y社に対し、Xが過労によりうつ病に罹患し自殺したのは、Y社の職員に対する安全配慮義務違反によるものであるとして、損害賠償を請求した。

なお、北海道帯広労基署長は、Xの自殺は業務上災害であると認定した。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、約1億円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの自殺がY社における業務に起因するものであるか否かを検討するに当たっては、労働省労働基準局長の平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」と題する通達に従って認定するのが相当である。

2 Y社は、その雇用売る労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないよう注意し、もって、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っていると解するのが相当である。

3 Y社は、平成17年5月にタイムカード制を導入するまでは出勤簿でのみ職員の勤務を管理し、超過勤務についても職員の自己申告に委ね、これをチェックすることもしていなかったのであって、その労働時間管理は杜撰なものであったというほかないが、仮にそうであっても、課長は、上司としてXと職場をともにし、日々同人の動静を把握できる立場にあり、現にXの業務量が増大していることを認識していたものである。また、Xは、平成16年11月から度々体調不良や通院を理由として早退届や外出届を提出していた。こうした事情に加えて、平成17年2月にXが提出した自己申告書には、他部署への異動を希望する旨の記載があったこともあわせると、Y社は、Xが業務負担の増大及びこれを原因とする疲労の蓄積や体調不良に悩んでいたことを認識し、あるいは認識することが可能であったというべきである。
そうだとすれば、Y社は、遅くとも平成17年3月までには、Xの業務量を軽減する措置を講ずる義務があり、かつそのような措置を講ずることは可能であったというべきである。

4 ところが、Y社は、平成16年6月から翌9月にかけてわずか1か月間程度アルバイト2名を増員したほかは、Xの業務負担を軽減する措置を特段講じていない。それどころか、Y社は、平成17年4月1日付けで、Xを係長に昇格させているが、Xの青果課における従前の仕事ぶりや性格等からして同人が青果課係長職として相応しいかどうか十分に検討したかどうか疑問があり、しかも初めて管理職に就くXに対するフォローもしていないのである。その結果、Xの業務負担はさらに増大し、未処理案件は山積みとなり、Xは単純な業務ですら手をつかないような状態に陥ったものである。そうした状況下で、本件異物混入事件という、青果課係長としてのXの心に重い負担を与えたと思われる事件が発生し、さらに追い打ちをかけるように、本件異物混入事件の後処理をした翌日、課長による長時間の叱責があったのであって、これが決定的打撃となり、Xのうつ病エピソードを悪化させたものと推認するのが相当である。
したがって、Y社は、労働者であるXに対する安全配慮義務を怠ったというべきである。

5 Xは、平成16年6月以降、増大する業務負担に耐えながらも結局精神病に罹患し、妻と当時未だ1歳の娘を残し、33歳という若さで自ら命を絶つという非業の死を遂げたものである。Y社は、Xが心身に変調を来していることを現に認識し、あるいは認識し得べきであったにもかかわらず、特段の措置を講じなかったどころか、ほとんど何の配慮のないまま係長へと昇格させるという無謀な人事を断行し、さらには本件異物混入事件というXにとっても衝撃の大きかったと思われる事件の2日後に上司が長時間にわたって叱責を行った結果、Xを首つり自殺という惨い死に方へと追いやったものである。
こうした事情に照らすと、Xの死亡慰謝料は、3000万円をもって相当と認める。

会社側としては、大変参考になる裁判例だと思います。

従業員を昇格させる場合、通常、その従業員の職務上の責任は重くなります。

昇格させる際、その従業員が昇格後の職務上の責任を果たし得るか、また、その職務上の地位にふさわしい人物か否かについて、十分検討するべきです。

上記判例のポイント4は参考になりますね。

また、仕事上、上司が部下を叱責することはどの会社でもあることです。

しかし、これも方法、態様、程度によっては、パワハラと評価されること、本件同様に、労災につながり得ることを、十分認識するべきです。

いろいろな意見があるところだと思いますが、裁判所がそのように判断している現実をまずは受け入れましょう。