Category Archives: 労働災害

労働災害57(富国生命・いじめ)事件

おはようございます
__←先日、久しぶりに「アンアン」のピザをテイクアウトして、事務所で食べました

さすがに一人で2枚は食べられません。休日出勤をしていたスタッフと一緒に食べました。

具がてんこもりです。 やみつきになりますね。

今日は、午前中は、顧問先会社の打合せが入っています。

お昼は支部総会に参加します。

午後は、建物明渡しの裁判が1件、新規相談が1件、裁判の打合せが2件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、いじめ・嫌がらせによるうつ病発症・休業と業務起因性に関する裁判例を見てみましょう。

富国生命・いじめ事件(鳥取地裁平成24年7月6日・労判1058号39頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において営業職のマネージャーとして勤務していたXが、Y社鳥取支社長であったA及び鳥取支社米子営所長であったBの、逆恨みによるいじめ、嫌がらせにより、過重な心理的負荷を受け精神疾患(ストレス性うつ病)を発症し、3週間にわたり休業に追い込まれたとして、鳥取労基署長に対して労災保険法による休業補償給付を各休業期間について請求したところ、処分行政庁がそれぞれの期間ともに不支給処分を行ったことから、それぞれ不支給処分には、Xの罹患した精神疾患を業務に起因するものではないと誤って判断した違法があるとして、同処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

鳥取労基署長による休業補償給付不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 相当因果関係の判断基準である、当該業務自体が、社会通念上、当該基礎疾患を発症させる一定以上の危険性の有無については、職場における地位や年齢、経験等が類似する者で、通常の勤務に就くことが期待されている平均的労働者を基準とするのが相当である。
そして、労働者の中には、一定の素因や脆弱性を有しながらも、特段の治療や勤務権限を要せず通常の勤務に就いている者も少なからずおり、これらの者も含めて業務が遂行されている実態に照らすと、上記の「通常の勤務に就くことが期待されている平均的労働者」とは、完全な健常者のみならず、一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の軽減を要せず通常の勤務に就き得る者を含むと解することが相当である。
そこで、当該業務が精神疾患を発症ないし増悪させる可能性のある危険性ないし負荷を有するかどうかの判断に当たっては、当該労働者の置かれた立場や状況、性格、能力等を十分に考慮する必要があり、このことは業務の危険性についていわゆる平均的労働者基準説を採用することと矛盾するものではない。

2 被告は、精神障害の業務起因性は、判断指針及び認定基準に基づいて行われるべきであると主張する。
しかしながら、判断指針及び認定基準は、各分野の専門家による専門検討会報告書に基づき、医学的知見に沿って作成されたもので、一定の合理性があることは認められるものの、精神障害に関しては、生物学的・生理学的検査等によって安定できるものではなく、診断に当たっては幅のある判断に加えて行うことが必要であり、あたかも四則演算のようなある意味での形式的思考によって、当該労働者が置かれた具体的な立場や状況等を十分斟酌して適正に心理的負荷の強度を評価するに足りるだけの明確な基準となっているとするには、いまだ十分とはいえない
したがって、精神障害の業務起因性を判断するための一つの参考資料にとどまるものというべきである

3 Xは、平成15年2月初旬から本件発症に至る同年7月末の終わりまでの間に、上司とのやり取り、それによって生じた軋轢、感情的対立及び自己を巡る環境の変化から精神的負荷を蓄積させていったことになり、また、この間においてXに蓄積していた精神的負荷は、平均人の立場から見ても非常に強いものだったと解される。そして、Xの症状が、一連の出来事によるXの精神的負荷の蓄積に併せて、前記のとおり悪化し、その強い精神的負荷は、仕事や職場において得てして見られる上司と部下の関わり、人間関係に端を発し、営業成績や職場環境によって醸成されたものであることからすれば、社会通念上、Xの精神的負荷は業務の遂行により発生し、しかも、その発症は発症すべくして発症したものというべきであり、Xの精神的負荷は、客観的にみてストレス性うつ病を発症させる程度に過重であったと認めるのが相当である。
したがって、本件では、社会通念上、Xの業務に内在ないし随伴する危険の現実化として、本件発症に至ったものということができるから、本件発症との間には相当因果関係が存在する。

上記判例のポイント2は、判断それ自体には特に目新しいさはありませんが、言い回しは参考になりますね。

労働災害56(DNPメディアテクノ関西事件)

おはようございます また一週間が始まりましたね。今週もがんばっていきましょう!!
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←先日、スタッフと一緒に静岡駅の駅南にある「あさ八」に行ってきました

写真は、「焼きトマト」です。 めちゃうまなので、よく注文します。

まだまだ駅南には、知らないお店がたくさんあるので、開拓していきたいと思います。
 
今日は、午前中は、顧問先の会社の社長と打合せです。

午後は、証人尋問の打合せが1件入っています。

夕方からは、月一恒例のラジオです。

夜は、弁護士会で労働事件の勉強会に参加します。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、労働者の自宅での転倒事故と業務との因果関係の有無に関する裁判例を見てみましょう。

DNPメディアテクノ関西事件(大阪高裁平成24年6月8日・労経速2157号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の事業場において写真製版作業に従事していたXが、過重労働による疲労の蓄積等が原因で、正月休み中の自宅で失神、転倒した結果、外傷性頸髄損傷を受傷し、四肢不全麻痺を後遺したと主張し、Y社に対し、労働契約又はこれに準ずる法律関係上の安全配慮義務違反ないし不法行為による損害賠償を請求した事案である。

争点は、(1)Y社がXに対して安全配慮義務を負うべき法律関係にあるのか、(2)業務と転倒との因果関係、(3)Y社の責任、(4)Xの損害額である。

原審は、争点(1)につき、X、Y社間には、雇用等の典型的な労働契約関係があったとは直ちにいえないとしても、実質的な使用従属関係があったものと評価することができるから、Y社は、Xに対し、使用者と同様の安全配慮義務を負っていたものと解されるとし、争点(2)につき、Xの転倒と業務との因果関係を認定するには、なお疑問の余地が残るとし、結局、Xの請求を棄却した。

これに対し、Xが控訴を申し立てた。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→労働者の自宅での転倒事故と業務との因果関係を否定

【判例のポイント】

1 Xが時間を近接して2回転倒しているのは同一原因によるとみるのが自然で、この場合、当日の飲酒の影響下における平衡感覚の乱れによる転倒と、X主張のような身体内在的要因による失神、転倒の二方向からの理解が可能であるが、Xが正月休みに入って5日目であったことをも考え合わせると、本件各転倒を業務と関連付けることには相当な疑問を払拭することはできないが、他の転倒原因(失神)の可能性も排除できない状況にある

2 Xは、本件各転倒前3か月の実労働時間として事業場への入退門時刻をタイムレコーダーに打刻した入退記録表を整理した「労働時間表」のとおり主張し、X本人も「平成10年11月、12月には多数回にわたる徹夜勤務があり、平成10年12月21日から同月23日にかけて連続徹夜勤務をし、12月29日から1月1日までの正月休みには疲労困憊してほとんど家で寝ていた。」旨述べているが、Xの業務には手待ち時間が多かったこと等から在社時間即労働時間と判断できず、また在社時間から休憩時間を除いた時間をXの労働時間と仮定しても、Xの労働時間がXの主張するような過酷なものであったとは到底認められず、またXが供述する長時間労働や過重労働に関する供述もあいまいさが否定できず、Xの供述を否定する事実、証拠が見られること等に照らせば、平成10年10月から12月にかけての労働によりXにある程度の疲労が蓄積されていたとしても、平成10年12月28日から本件各転倒事故までの間には、労働負荷から解放され、当該疲労が回復する程度に休養ができていると推測される。 

要するに、業務起因性についてはよくわからないということです。

そうともいえるけど、そうじゃないといえなくもない。

また、タイムレコーダーに打刻されている時間から労働時間を推測するということはよくある話ですが、本件では、より実質的に仕事の内容をみたときに、Xの業務には手待ち時間が多かったという事実に着目し、仕事の苛酷さについて消極的な心証を抱いたようです。

労働災害55(C高校事件)

おはようございます また一週間が始まりましたね。今週もがんばっていきましょう!!
__←先日、いつもお世話になっている社長と、ホテルセンチュリー内にある「けやき」の特別賞味会に行ってきました

7種類の料理が鉄板の上で調理されて出てきました。

写真は、2品目「鱈の白子のムニエール 鮪と赤ワインのソースで」。

白子をムニエルにして食べたのは初めてです。 とてもおいしかったです。

今日は、午前中は、管財人代理をやっている破産事件の第1回債権者集会が入っています。

午後は、裁判が2件(うち1件は証人尋問)が入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、教諭の修学旅行帰途中の突然死と公務起因性に関する裁判例を見てみましょう。

C高校事件(東京地裁平成24年4月23日・労判1055号79頁)

【事案の概要】

Xは、昭和60年、高校教諭として東京都に採用され、平成11年から、C高校に転任した。

Xは、平成14年、高校生203名を修学旅行に引率し、羽田空港で生徒を解散させた。

その後、空港内を巡回した際の生徒のもめ事の対応をした後、疲労が激しいとして早めに帰路についた。

Xは、駅のバスロータリーのバス停でバスを待つ間に卒倒した。

Xは、病院に救急搬送されたが、同日、死亡した。

【裁判所の判断】

地公災基金東京都支部長による公務外認定処分を取り消す
→公務起因性を肯定

【判例のポイント】

1 地方公務員災害補償法に基づく補償は、公務上の疾病等の災害に対して行われ、同法31条にいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく負傷又は疾病と死亡との間には相当因果関係が認められることが必要である。そして、地方公務員災害補償制度が、公務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に、それによって職員に発生した損失を補償する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、その負傷又は疾病が当該公務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である

2 被告は、修学旅行の引率業務が、脳・心臓疾患を発症する危険を内在する業務ということになれば、全国の公立高等学校において、修学旅行を行うことができない自体になりかねない等と主張するが、一口に修学旅行と言っても、文化施設の見学等から本件のようなスキー実習のようなものまでその内容には多様なものがあり、引率教員の人数や生徒に対する指導の程度(夜間巡回の頻度や時間等)、複数の引率教員ら内部のそれぞれの教員の立場や役割、また、修学旅行の引率前の職務従事状況等によって、引率教員の負担に大きな差が生じうることは当然のことであって、被告の上記主張が本件に妥当する主張であるとは考えられない

3 ・・・以上を総合すると、Xの発症前1週間の公務は、質的にも量的にも、日常の勤務と比較して特に過重であったと認められ、従前からの疲労を回復する機会を持つことができないままに本件死亡に至ったものと考えられるのであり、Xの上記基礎疾患が、その自然の経過によって直ちに急性心筋梗塞に至るまで増悪したとみることは困難であり、他に確たる増悪要因が見出せない本件においては、Xが従事した上記の公務による過重な精神的、身体的負荷が上記基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、発症させたとみるのが相当であり、公務に内在する危険が現実化したものとして、公務と本件死亡の原因である急性心筋梗塞の発症との間に相当因果関係の存在を肯定することができる

上記判例のポイント2にあるように、被告は、反論として、修学旅行の引率業務一般についてとりあげていますが、裁判は、当該事案について審理するものであるため、どれだけ一般論を展開してもあまり意味がありません。

労災事件(に限りませんが)は、事実を丁寧に拾い、業務(公務)過重性を主張・立証することが重要です。

抽象論を繰り広げても仕方がありません。

労働災害54(中部電力ほか(浜岡原発)事件)

おはようございます
写真 2012-10-19 20 15 50
←先日、事務所の近くのお祭りに行ってきました。

テンションが上がり、たこやき、焼きとうもろこし、お好み焼きなどを買ってしまいました。

完全におなかいっぱいになってしまい、夜ごはんを食べられませんでした。
 
今日は、午前中に裁判が3件入っています。

午後は、新規相談が1件、打合せが2件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、中皮腫で死亡した孫請会社社員の遺族による損害賠償請求についての裁判例を見てみましょう。

中部電力ほか(浜岡原発)事件(静岡地裁平成24年3月23日・労判1052号42頁)

【事案の概要】

本件は、孫請会社である有限会社A工業の従業員としてY1社の浜岡原子力発電所においてメンテナンス業務に従事していたXが、腹膜原発悪性中皮腫により死亡したことについて、Xの遺族がY1社、元請会社のY2社、下請会社のY3社の安全配慮義務違反またはY1社が所有する工作物である浜岡原発の瑕疵によるアスベストばく露によって死亡したと主張して、Y1社らに対して、債務不履行または不法行為による損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Y1社に対する請求はいずれも棄却

Y2社、Y3社に対しては、連帯して、5000万円強の賠償義務を認めた。

【判例のポイント】

1 安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随的義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般に認められるべきものである(最高裁昭和50年2月25日)。
そして、注文者と請負人との間において請負という契約の形式をとりながら、注文者が単に仕事の結果を享受するにとどまらず、請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合、すなわち、注文者の供給する設備、器具等を用いて、注文者の指示のもとに労務の提供を行うなど、注文者と請負人の雇用する労働者との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合には、その間に雇用関係が存在しなくとも、注文者と請負人との請負契約及び請負人とその従業員との雇用関係を媒介として間接的に成立した法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入ったものとして、信義則上、注文者は当該労働者に対し、使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものと解するのが相当である。これは、注文者、請負会社及び下請会社と孫請会社の従業員との間においても同様に妥当する

2 安全配慮義務の前提として、使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命・健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないと解される(福岡高裁平成元年3月31日)。
・・・アスベストの粉じんは、これを人が吸引した場合には、悪性中皮腫等を発症させて人の生命・健康を害する危険性があるところ、Y2社及びY3社は、上記のとおり、これを予見することが可能であったといえるから、労働者が石綿の粉じんを吸入しないようにするために万全の措置を講ずべき注意義務を負担していたと解される。
具体的には、Y2社及びY3社には、アスベストが使用されている材料をできる限り調査して把握し、A工業の現場作業指揮者や作業員であるXらに対して周知すべき注意義務がある。また、アスベストの人の生命・健康に対する危険性について教育の徹底を図り、Xらに対してマスク着用の必要性について十分な安全教育を行うとともに、アスベスト粉じんの発生する現場で工事の進行管理、作業員に対する指示等を行う場合にはマスクの着用や湿潤化を義務付けるなどの注意義務があった

3 工作物責任は、工作物が通常有すべき安全性を欠くときに認められ、工作物の構造、用法、場所敵環境及び利用状況等の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきであると解される(最高裁昭和56年12月16日)。
・・・シール材はポンプに配管を連結する箇所等に使用される原子力発電所において必須の部品であり耐熱性、強度などの点でアスベスト含有製品の使用が適していること、シール材については現在においても法令によってアスベストの使用禁止から除外されていること、アスベスト非含有の適当な代替品が当時なかったことが認められる。そうすると、アスベスト非含有の代替品を使用することは当時としては不可能ないし著しく困難であったといえるから、社会通念上、工作物が通常有すべき安全性を欠くということはできない

地元静岡の裁判例です。

上記判例のポイント1の安全配慮義務については、応用可能性があり、参考になりますね。

工作物責任は否定されています。

労働災害53(フォーカスシステムズ事件)

おはようございます 3連休も終わり、また1週間が始まりましたね。

今週もがんばっていきましょう!!
写真 2012-10-06 7 30 42
←3連休は、山にウォーキングに行きました

毎週末は、山登りから一日が始まります。  

今日は、午前中は事務所の内装についての打合せと弁護士会での法律相談が入っています。

午後は、裁判が2件入っています。

夜は、弁護団会議です。

今日も一日がんばります!!
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さて、今日は、長時間労働等による精神障害発症・死亡に関する裁判例を見てみましょう。

フォーカスシステムズ事件(東京高裁平成24年3月22日・労判1051号40頁)

【事案の概要】

X(死亡時25歳)は、平成15年4月にY社にシステムエンジニアとして採用され、通信ネットワーク関係のシステム設計、構築および運用試験等の業務に従事していたが、18年7月に異動となり、携帯電話端末の組み込みソフト開発チームの所属となった。

Xは当初ベテランの従業員と組み、調査検討業務等に従事していたが、改修や再試験実施に手間取った結果、当初引渡し予定であった8月中旬時点で、予定の業務の30%程度しか進行せず、その結果Xの残業時間も増加していった。

同年9月、Xは自宅から都内にある勤務地に出勤するかのように出かけたが、携帯電話の電源を切って、無断で欠勤して河川敷のベンチでビール等をラッパ飲みし、意識不明で倒れているところを発見されたが、すでに心配停止状態で死亡していることが確認された。

Xの死亡について、中央労基署長は業務災害と認定して、遺族補償年金等を支給している。

【裁判所の判断】

Y社の安全配慮義務違反を認めた
→約4400万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 当裁判所も、Xは、長時間労働、配置転換に伴う業務内容の変化・業務量の増加等の業務に起因する心理的負荷等が過度に蓄積したために精神障害(うつ病及び解離性逓走)を発症し、正常な認識と行為の選択が著しく阻害された状態で過度の飲酒行為に及んだため急性アルコール中毒から心停止に至り死亡したものであり、使用者であるY社の代理監督者は、Xの従事していた業務が上記精神障害を発症するなど心身の健康を損ねるおそれのある状態にあることを認識し又は認識し得たにもかかわらず、心理的負荷等を軽減させる措置を採らなかったことから、従業員に対する安全配慮の義務に違反しているものと認められ、このような従業員の心身の健康に配慮すべき義務は、使用者として尽くすべき一般的注意義務になると解されるから、Y社は不法行為(使用者責任)に基づきこれにより発生した損害を賠償する責任があると判断する

2 ・・・これらによれば、長時間の時間外労働と精神障害との一般的関連性は認められるところ、本件では、Xの時間外労働は本件当日前2か月間においていずれも100時間を超えているのみならず、配置転換に伴う業務内容の変化・業務量の増大、単体試験業務専任となることの心理的影響などにより相当重大な心理的負荷が生じ、蓄積しており、それらのことがXの行動や表情に表れているのであって、そのような状態にあった中で本件当日の飲酒行為に及んだのである。そして、これらの一連の出来事に基づいて精神医学の知見からXの従事していた業務と精神障害の発症及び飲酒行為との間には因果関係があるとする天笠医師の意見には十分合理性がある。そして、Xが精神障害を発症する原因は他に考えられないことをも併せ考慮すると、Xの従事していた業務による心理的負荷とその精神障害の発症との間には強い関連性があると認められる

3 ・・・他方において、Xの長時間労働は恒常的なものであり、必然的に睡眠時間の不足も日常的なものとなるから、就労後の時間を適切に使用し、できるだけ睡眠不足を解消するよう努めるべきであったところ、就寝前にブログやゲームに時間を費やしたのは、自ら精神障害の要因となる睡眠不足を増長させたことになり、その落ち度は軽視できないものである
・・・以上の観点のうち、Xにおいても、自らの趣味のために睡眠不足を招いたことは、それが心身の健康を損ねる大きな要因であることから、自己の意思によって健康管理に努めるべきであったと指摘することも可能であり、この点はXの落ち度として相応の考慮をせざるを得ないのであり、その他第1審原告らに生じた損害の全てについてY社にその責めを負わせるのは損害の分配における公平の観点からは相当でなく、第1審原告らに3割の過失割合を認め、上記損害を減ずるのが相当である。

時間外労働時間が100時間を超えていることのみから、会社の責任を問われてもおかしくありません。

本件は、労働者に3割の過失相殺が認められてはいますが、会社は4000万円を超える損害を賠償する責任を負うことになりました。

長時間労働については、くれぐれも注意しましょう。

労働災害52(ジェイフォン事件)

おはようございます 今日で一週間も終わりですね。

明日から3連休ですね。 私は、静岡から脱出する予定です
写真 12-07-01 12 19 26
←このカレー、そのまま食べられるんです。

豆腐にこれをかけて食べると、めちゃめちゃおいしいです。

今日は、朝から島田警察署に接見に行ってきます

9時から事務所で打合せがあるので、それまでには戻ります。

今日は、朝から晩までずっと事務所で打合せです。 

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、技術系社員のうつ病発症・自殺と業務起因性に関する裁判例を見てみましょう。

ジェイフォン事件(名古屋地裁平成23年12月14日・労判1046号42頁)

【事案の概要】

Xは、昭和42年7月にY社に入社し、ほぼ数年おきに転勤等を繰り返しながらY社ないしY社のグループ会社において約27年間にわたり勤務した後、Y社に在籍したまま、平成6年4月、A社に在籍出向し、13年4月、Y社からA社に転籍した。

Xは、A社への出向の前後ころから仕事による精神的ストレス(出向をリストラと受けとめていたためそのストレスや出向後は、長時間労働による睡眠不足やクレーム処理等の職務のきつさを訴えるようになった)をしばしば訴えるようになった。

Xは、平成6年11月、体重減少、食欲低下等の自覚症状があったため、受診したところ、うつ病であると診断された。

Xは、その後も受診を断続的に続けたが、平成14年、自殺した。

【裁判所の判断】

名古屋西労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 うつ病を含む精神疾患は、当該労働者の従事していた業務とは直接関係のない基礎疾患、当該労働者の性格傾向、精神の反応性、適応能力及びストレス対処能力等並びに生活歴等の個体側の要因、その他環境的要因などが複合的、相乗的に影響し合って発症に至ることもあるから、業務と精神疾患の発症との間に相当因果関係が肯定されるためには、単に業務が他の原因と共働原因となって精神疾患を発症させたと認められるだけでは足りず、業務自体に、社会通念上、精神疾患を発症させる一定程度以上の危険性が存することが必要であると解するのが相当である

2 うつ病の発生機序については、医学上も未だ完全には解明されていない分野であり、その発病原因となった出来事の全てを特定すること自体が困難な場合も多い上、現在の医学水準においては心理的負荷の蓄積というものを客観的、定量的に数値化することが必ずしも容易でないことも併せ考慮すれば、うつ病と心理的負荷との相当因果関係を完全に医学的に証明することは困難な場合があることは、否定できないところである。
もっとも、法的概念としての因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである

3 業務とうつ病との相当因果関係を判断するに当たっても、発病前の業務内容及び生活状況並びにこれらが労働者に与える心理的負荷の有無及び程度、さらには、当該労働者の基礎疾患等の身体的要因や、うつ病に親和的な性格等の個体側の要因等を具体的かつ総合的に判断した上で、これをうつ病の発症等に関する医学的知見に照らし、社会通念上、当該業務が労働者の心身に過重な負荷を与える態様のものであり、これによって当該業務にうつ病を発症させる一定程度以上の危険性が存在するものと認められる場合に、当該業務とうつ病との間の相当因果関係を肯定するのが相当である。

4 うつ病を発症させる一定程度以上の危険性の存否を判断するに際し、業務の過重性・業務上の心理的負荷の強度を判断するにあたっては、同種の労働者を基準にして客観的に判断する必要があるが、企業に雇用される労働者の性格傾向等が多様なものであることはいうまでもないところ、被災労働者の損害の填補並びに被災労働者及びその遺族の生活補償という労働者災害補償制度の制度趣旨に鑑みれば、業務の過重性・業務上の心理的負荷の程度は、一般的・平均的な同種労働者、すなわち、職種、職場における地位や年齢、経験等が類似する者で、業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者の中で、その性格傾向等が最も脆弱である者(ただし、同種労働者の性格傾向等の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準として、客観的に判断すべきである(したがって、Xが主張する本人基準説は採用できない。)。

5 本件うつ病は、本件自殺まで一度も寛解するに至らず抗うつ薬の服用による症状の多少の緩和と厳しい職場環境および業務状況の中で我慢しながら仕事を続けたことによる症状の悪化を神戸も繰り返しながら、次第に慢性化していったものと推認されるのであり、本件うつ病は第1次受診以降、本件自殺に至るまで回復しなかったどころか、第4次受診時および第5次受診時には自殺念慮を抱くまでに増悪化していたと推認される。

6 本件うつ病発症前6か月間にXが従事した業務は、質的に過重と評価できることに加え、Xは同時期、少なくとも月に約100時間程度の時間外労働を4か月にわたり行っていたと認められるから、量的にも過重な業務であったと評価でき、本件うつ病の発症には、業務起因性が認められる。

この裁判例では、平均人基準説のうち、最脆弱説を採用し

労働災害51(A市役所職員・うつ病自殺)事件

おはようございます。 また一週間が始まりましたね。今週もがんばっていきましょう!
写真 12-04-21 16 43 00
←土、日に、気仙沼に行ってきました

被災者の方を対象とした法律相談と相続のセミナーをやりました。

今後も定期的に行きたいと思います。

今日は、午前中、裁判が2件入っています。

うち1件は、労働事件です。

お昼は、スタッフ全員で食事をします。

午後は、静岡で裁判が1件、その後、富士の裁判所へ行き、労働事件の裁判です

その後、すぐに静岡に戻り、月一恒例のラジオ出演です。

夜は、税理士K山先生、先輩弁護士の事務所、うちの事務所でお食事会です

今日は4件裁判が入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、うつ病自殺と労災に関する最高裁判例を見てみましょう。

A市役所職員・うつ病事件(最高裁平成24年2月22日・労判1041号97頁)

【事案の概要】

Xは、A市役所の職員であった。

Xの遺族は、Xのうつ病発症およびこれに続く自殺が公務に起因するものであると主張し、公務外認定処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

第1審(名古屋地裁平成20年11月27日・労判1013号116頁)・・・うつ病自殺の公務起因性を否定
第2審(名古屋高裁平成22年5月21日・労判1013号102頁)・・・うつ病自殺の公務起因性を肯定
最高裁・・・うつ病自殺の公務起因性を肯定(上告棄却、上告受理申立て不受理)

【判例のポイント】

1 (第1審)・・・その判断は、平均的労働者ないしは当該職員と同種の公務に従事し遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する職員を基準として、勤務時間、職務の内容・質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害を発症させられる程度に強度の心理的負荷を受けたと認められるかを判断し、これが認められる場合に、次に、公務外の心理的負荷や個体側の要因を判断し、これらが存在し、公務よりもこれらが発症の原因であると認められる場合でない限りは相当因果関係の存在を肯定するという方法によるのが相当である。
Xは、量的にはもちろん、質的にも過重な事務を行ったとは認めがたいこと、B部長の指導は、直ちに不当なものとはいえないこと等からすると、Xのうつ病は、Xのメランコリー親和型性格、執着性格といった個体側の要因により大きな発症の原因があることが窺えるから、Xの公務とうつ病発症等との間に相当因果関係が存在するとは認められない

2 (第2審)・・・基本的には同種の平均的職員、すなわち、職場、職種、年齢及び経験等が類似する者で、通常その公務を遂行できる者を一応観念して、これを基準とするのが相当であると考えられるが、そのような平均的職員は、経歴、職歴、職場における立場、性格等において多様であり、心理的負荷となり得る出来事等の受け止め方には幅があるところであるから、通常想定される多様な職員の範囲内において、その性格傾向に脆弱性が認められたとしても、通常その公務を支障なく遂行できる者は平均的職員の範囲に含まれると解すべきである。
Xは、これまで経験したことのない福祉部門の部署であり、重要課題も多く抱えた児童課に異動となったのみではなく、当時の児童課には本件保育システムの完成遅れ、ファミリーサポートセンター計画の遅れなどの重要問題を抱えており、しかも、それは事前に知らされていたわけではなく、異動の後に事情を知らされ、課長としては早急に対応を迫られる問題であったこと、しかも、当時のXの上司は、パワハラで知られていたB部長であり、現実に、Xが児童課に異動後すぐに課別の検討課題についての報告書の提出やヒアリングを求められたり、ファミリーサポートセンター計画に関する文案についてB部長の決裁がなかなか得られず、Xの部下であり担当者であるD補佐に対して大きな声で厳しく非難するような事態が生じたことなどによる心理的負荷が重なり、そのために、Xは、平成14年4月下旬ころから同年5月6日の連休明けころまでの間にうつ病を発症したものであることが認められ、発症後も、管理職研修での事前準備が間に合わなかった不全感、本件ヒアリングにおけるB部長からの厳しい指導や指示などにより、さらに病状を増悪させるに至り、それにより、Xは、自殺するに至ったものと認められる。そして、上記心理的負荷は、平均的職員を基準としても、うつ病を発症させ、あるいは、それを増悪させるに足りる心理的負荷であったと認めるのが相当である

地裁と高裁で、事実認定が異なったために結論がひっくり返りました。

最高裁は、高裁の判断の維持したので、公務災害が認定されました。

労災や公務災害の裁判(に限りませんが)では、事実を丁寧に主張することが求められます。

結果、必然的に、記録の量が膨大になります。

裁判官に判決を書きやすいようにいろいろと工夫をしなければいけません。

労災50(マルカキカイ事件)

おはようございます

昨日は、社労士勉強会の後、プチ忘年会をしました。

社労士の先生が1人新しく増えました! 興味のある社労士の先生方のご参加、歓迎いたします!

次回は、2月初旬です。テーマは、不当労働行為についてです。

今日は、午前中は、刑事裁判が入っています。

お昼は弁護士会で支部総会。

午後は、もう1つ、刑事裁判です。こちらは、恐喝未遂の否認事件の第2回証人尋問です。

準備は万全です!! 今回もどこまで証言の信用性を崩せるかがポイントです。

裁判終了後、事務所で新規相談が1件入っています。

夜は、弁護士M先生と税理士K山先生と忘年会です

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、執行役員部長の出張中の死亡と労災保険法上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

マルカキカイ事件(東京地裁平成23年5月19日・労判1034号62頁)

【事案の概要】

Y社は、各種産業機械や建設機械の卸販売を業とする会社である。

Xは、昭和40年にY社に入社し、業務に従事していた者である。

平成10年12月、XはY社の理事に就任したが、この際、Y社はXが一般従業員を退職したとして取り扱い、退職金を支払っている。12年2月にXはY社の理事を退任して取締役に就任した。

13年12月、Y社において執行役員制度が導入されたことに伴い、Xは執行役員に就任した。

Xは、平成17年2月、商談のため福島県へ出張した。その際、橋出血(大脳と小脳を連絡する部位である「橋」での出血)により死亡した(当時62歳)。

Xの妻は、Xの死亡は業務(過重労働)に起因するものであるとして、労災保険法に基づく遺族補償給付等の請求をした。

これに対し、労基署長は、Xは労基法9条に該当する労働者とは認められないとして不支給とする決定をした。

【裁判所の判断】

船橋労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→Xの労働者性を肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法上の労働者とは、(1)使用者の指揮監督の下において労務を提供し、(2)使用者から労務に対する対償としての報酬が支払われる者をいうと解すべきであり、これに該当するかどうかは、実態に即して実質的に判断するのが相当である。

2 ・・・以上によれば、Xは、一般従業員であったときから、理事に就任し、次いで取締役に就任し、更に執行役員に就任したという一連の経過を通じて、その間に役職の異動はあったものの、船橋営業所を拠点として、一貫して、建設機械部門における一般従業員の管理職が行う営業・販売業務に従事してきたものであり、その業務実態に質的な変化はなかったものということができる

本件では、Xの労働者性を否定する事情がいくつもある中で、業務実態に質的な変化がなかったことを重視し、労働者性を肯定しています。

なお、原告の主張の中でも述べられている「執行役員」の位置付けですが、

執行役員については『業務執行に関しては相当の裁量権限を有するもの、法的には会社の機関ではなく、一種の重要な使用人(会社法362条4項3号)である。会社との契約が雇用契約か委任契約かの点については、通常は前者である』(江頭憲治郎「株式会社法(第3版)」380頁)、「会社法上は特に規定がない『執行役員』については『労働者』といえる場合が多いと考えられる。」(菅野和夫「労働法(第9版)」96頁)などと説明されており、執行役員を労働者と考えるのが、学者や実務家の一般的解釈であった。

ということです。

執行「役員」だから労基法上の「労働者」ではないという考えは、捨てましょう。

労災49(大庄ほか事件)

おはようございます また1週間はじまりました。 今週もがんばっていきましょう!!

写真 11-12-02 12 01 14←「魚弥長久」でお昼ごはん。刺身定食。新鮮でおいしいですよ!

おすすめ!

今日は、午前中、富士の裁判所で労働事件の裁判です。

午後は、静岡に戻り、裁判が1件、新規相談が1件、医療事故の打合せが1件入っています。

夜は、刑事裁判の打合せをした後、後輩弁護士A君と食事に行きます

今日も一日がんばります!!
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さて、今日は、長時間労働と労災に関する裁判例を見てみましょう。

大庄ほか事件(大阪高裁平成23年5月25日・労判1033号24頁)

【事案の概要】

Y社は、大衆割烹店を全国展開している会社である。

Xは、大学卒業後、Y社に入社し、大衆割烹店で調理関係の業務に従事していたが、入社約4か月後に急性左心機能不全により死亡した(死亡当時24歳)。

Xの父母が、Xの死亡原因はY社での長時間労働にあると主張して、Y社に対しては不法行為または債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、また、Y社の取締役であるZら4名に対しては不法行為または会社法429条1項に基づき、損害賠償を請求した。

Y社側は、第1審判決を不服として、控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 取締役は、会社に対する善管注意義務として、会社が使用者としての安全配慮義務に反して、労働者の生命、健康を損なう事態を招くことのないよう注意する義務を負い、これを懈怠して労働者に損害を与えた場合には会社法429条1項の責任を負うと解するのが相当である

2 勤労意欲の強い社員に対して、その社員の個人的利害を説く方法が相当であるとは考えられない。会社として早朝勤務を禁じるのであれば、その旨直截に伝える方法を採るべきであったのに、これを採らなかったのは、Y社において各現場店舗の責任者である店長や調理長に過重労働の問題性を認識させる措置がとられておらず、店長や調理長にも、その認識が乏しかったためであると考えられる。

3 当裁判所は、Y社が入社直後の健康診断を実施していなかったことが安全配慮義務違反であると判断するものではない。しかしながら、健康診断により、外見のみからではわからない社員の健康に関する何らかの問題徴候が発見されることもあり、それが疾病の発生にまで至ることを避けるために業務上の配慮を行う必要がある場合もあるのである。新入社員の健康診断は、必ずしも一斉に行わねばならないものではなく、適宜の方法で行うことが可能なのであるから、Y社が入社時の健康診断を自ら就業規則に定めながらこれを行わなかったことを、Y社の社員の健康に関する安全配慮義務への視点の弱さを表す事実の一つとして指摘することは不当ではない

4 当裁判所は、Y社の安全配慮義務違反の内容として給与体系や三六協定の状況のみを取り上げているものではなく、Y社の労働者の至高の利益である生命・健康の重大さに鑑みて、これにより高い価値を置くべきであると考慮するものであって、Y社において現実に全社的かつ恒常的に存在していた社員の長時間労働について、これを抑制する措置がとられていなかったことをもって安全配慮義務違反と判断しており、Y社取締役らの責任についても、現実に従業員の多数が長時間労働に従事していることを認識していたかあるいは極めて容易に認識し得たにもかかわらず、Y社にこれを放置させ是正させるための措置を取らせていなかったことをもって善管注意義務違反があると判断するものであるから、Y社取締役らの責任を否定する控訴人らの主張は失当である。なお、不法行為責任についても同断である

5 控訴人Aは管理本部長、控訴人Bは店舗本部長、控訴人Cは支社長であって、業務執行全般を行う代表取締役ではないものの、Xの勤務実態を容易に認識しうる立場にあるのであるから、Y社の労働者の極めて重大な法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは明らかであり、この点の義務懈怠において悪意又は重過失が認められる。そして、控訴人Dは代表取締役であり、自ら業務執行全般を担当する権限がある上、仮に過重労働の抑制等の事項については他の控訴人らに任せていたとしても、それによって自らの注意義務を免れることができないことは明らかである(最高裁昭和44年11月26日大法廷判決)。また、人件費が営業費用の大きな部分を占める外食産業においては、会社で稼動する労働者をいかに有効に活用し、その持てる力を最大限に引き出していくかという点が経営における最大の関心事の一つになっていると考えられるところ、自社の労働者の勤務実態について控訴人取締役らが極めて深い関心を寄せるであろうことは当然のことであって、責任者のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり、この点の義務懈怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。なお、不法行為責任についても同断である。

この事件の第1審判決については、以前、ブログで取り上げました。 こちらをどうぞ。

大阪高裁は、Y社側の控訴を棄却しました。

金額が金額ですし、役員の責任も認められていますので、会社側は大変です。

会社を経営している社長のみなさん、同じ過ちを繰り返さない

労災48(富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ事件)

おはようございます 

昨夜は、原発問題についての勉強会の後、フェイスブックでいつもお世話になっている先輩弁護士のI先生と偶然お会いし、一緒にお食事をしました I先生、ご馳走様でした。 今後ともよろしくお願いいたします。

料理の写真、撮るの忘れた・・・

今日は、午前中、遺産分割調停が入っています。

午後は、建物明渡しに関する民事調停、労働事件に関する裁判が入っています。

夜は、事務所スタッフの誕生日会です 

さて、今日は、プログラマーの労災に関する裁判例を見てみましょう。

富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ事件(東京地裁平成23年3月25日・労判1032号65頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピューターソフトウェアの研究・開発、システムインテグレーション・サービスの提供等を目的とする会社である。

Xは、専門学校を卒業後、平成14年4月にY社に雇用され、さまざまなプログラムの作業チームに配属され、プログラム作成、修正、機能確認テスト、画面プログラム作成等の業務に従事していた。

Xは、規模の大きなプロジェクトに配属される前から、継続的に、相当程度長時間に及ぶ時間外労働に従事することを余儀なくされ、上記プロジェクトに配属された平成15年4月には、時間外労働時間が大幅に増加して月100時間以上に達し、同年9月に至るまで、継続的に、相当程度長時間に及ぶ時間外労働に従事せざるを得ず、その間、徹夜の作業や休日出勤もあった。しかしながら、Xの在任中、上記プログラムには全く増員がなかった。

Xは、その後、2度、休業を余儀なくされ、精神疾患の薬物の過量服用を原因とする急性薬物中毒によって死亡した。

【裁判所の判断】

川崎北労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険の危険責任の法理及び「ストレス-脆弱性」理論の趣旨に照らせば、業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきである。このような意味での平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発病させ死亡に至らせる危険性を有しているといえ、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、業務と精神障害発病及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。
そして、判断指針・改正判断指針は、いずれも精神医学的・心理学的知見を踏まえて作成されており、かつ、労災保険制度の危険責任の法理にもかなうものであり、その作成経緯や内容に照らして不合理なものであるとはいえない。
したがって、基本的には判断指針・改正判断指針を踏まえつつ、当該労働者に関する精神障害発病に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌して、業務と精神障害発病との間の相当因果関係を判断するのが相当である
なお、改正判断指針は、処分行政庁による本件処分時には存在しなかったものであるが、判断指針・改正判断指針は、いずれも裁判所による行政処分の違法性に関する判断を直接拘束する性質のものではないから、当裁判所は、判断指針のみならず、改正判断指針に示された事項をも考慮しつつ、総合的に本件処分の違法性を検討するものとする

2 被告は、Xの発病した精神障害を原因として必ず過量服薬の傾向が生じるわけではないし、Xが、処方されていない薬物を自ら入手してまで服用したり、処方された薬物を過剰に所持したりしていた上、産業医のほか、主治医の指導にもかかわらず、過量服薬を継続して、時には入院治療を勧められながらもこれを拒否して自ら適切な治療の機会を逸したことなどの諸事情によれば、Xの過量服薬は、X個人のパーソナリティを原因とするものであると解すべきであり、Xの発病した精神障害と過量服薬による死亡との間には、相当因果関係が認められないと主張する。
しかし、本件全証拠をもってしても、Xに発病した精神障害以外に過量服薬の原因となるような疾病の存在はうかがわれないし、被告主張に係るXのパーソナリティがその過量服薬の傾向に如何なる機序で影響を及ぼしているかについての医学的知見は存在せず、必ずしも明らかになっているとはいえないといわなければならない。そして、これまで判示してきたところによれば、Xが、自らに発病した精神障害の症状としての睡眠障害や希死念慮等に苦しみながら、その影響かにおいて薬物依存傾向を示すようになり、過量服薬の結果、死亡するに至った経緯が認められるのであるから、精神障害の発病と過量服薬の結果としての死亡との間に、法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)を肯定することができるというべきである

事案が少し特殊ですが、裁判所の判断方法としては、オーソドックスなものだと思います。