Category Archives: 労働災害

労災27(東芝事件)

おはようございます。

今日から、通常通り、事務所で仕事を始めます!

今年は、やりたいことがいっぱいあります

1年間、突っ走ります

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

東芝事件(東京地裁平成21年5月18日・判時2046号150頁)

【事案の概要】

Y社は、電気機械器具製造等を業とする会社である。

Xは、Y社に勤務し、液晶生産ライン開発プロジェクトの業務に従事していた。

Xは、過度の業務上の負荷を受けた結果、適応障害を発症し、その後、症状を増悪させ、うつ病を発症し、療養生活を余議なくされた。

【裁判所の判断】

熊谷労基署長による療養補償給付たる療養の費用及び休業補償給付を支給しない旨の処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 精神障害の発症については、環境からくるストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていると認められるから、業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

2 Xの労働時間に関する証拠として勤務表があり、これを基にしてXの労働時間を認定することとする。もっとも、同勤務表は、Xが当時作成したものではなく、Xの労働実態を反映しているとは言い難い上、勤務時間が長かったためXが社バスに乗れないことがあったこと、Xが疲労のため禁止されていた自家用車通勤したことがあったこと、他の同僚も遅くまで仕事をしていたことがあった旨供述していること等からすれば、労働時間が上記勤務表より長くても不自然ではない。他方、Xは、毎日午後11時以降まで勤務していた旨供述するが、客観的裏付けはなく、同僚の供述によれば、午後11時より前に帰社日もあったことが窺われ、Xが毎日午後11時以降まで勤務していたとまでは認められない。したがって、Xが上記勤務表から認められる労働時間よりも長時間の労働をしていたと認められ、客観的な裏付けがある範囲でこれを加算することとし、具体的には、上記勤務表記載の労働時間外にXが自ら業務のために更新したデータが認められる範囲で労働時間を修正することとし、Xの供述に照らし、データの更新の時刻から15分遅い時刻をもって終業時刻とする。

3 本件のXの一連の業務態様を総合的に観察して看取できることは、当該業務の内容、スケジュール、業務遂行に当たってのトラブルの発生とそれに対する本件会社の対応等、労働時間という要因が、Xの心理的負荷に重層的に影響を与え、時間を追って亢進させていったということである。
・・・以上のように、Xの業務を巡る状況を見ると、Xは、新規性のある、心理的負荷の大きい業務に従事し、厳しいスケジュールが課され、精神的に追い詰められた状況の中で、多くのトラブルが発生し、さらに作業量が増え、上司から厳しい叱責に晒され、その間にY社の支援が得られないという過程の中で、その間、長時間労働を余儀なくされていた。以上のXに対する心理的負荷を生じさせる事情は、それぞれが関連して重層的に発生し、Xの心理的負荷を一貫して亢進させていったものと認められるのであり、上記のようなXの業務による心理的負荷は、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であったといえる。

4 業務起因性を否定する埼玉労働局地方労災医員協議会及び沖野医師の意見は、上記の心理的負荷の強度について、個々の要因を分析して、必ずしも強度の心理的負荷とはいえないと評価するものである。上記の個々の分析的な評価自体を肯じる余地はないわけではないが、上記のとおり、本件におけるXの心理的負荷は、M2ライン立ち上げプロジェクトに関与し始めた時点から、Xは、上記のとおりの複数の要因に重層的に晒されたことに大きな特色があるのであり、上記の意見のように、分析的、個々的にして必ずしも強度でないという評価をすることが相当であるとは考えられない

上記判例のポイント4は、労働者側にとっては、非常に参考になります。

医師の意見書が、個々の要因を分析的に評価し、業務起因性を否定している場合には、この裁判例を参考にして、主張しましょう。

労災26(山田製作所事件)

写真(2)おはようございます

早朝ウォーキングから戻りました。

今日で今年も終わりですね

あっという間に一年が過ぎていきました。

慌ただしい毎日の中で、これからの目標を設定し、かつ、社会貢献の方法を模索してきました

明日からまた新しい一年が始まります。

今は、力を蓄える時期です。

近い将来、爆発させます

今日は、仕事の合間に、神社に行ってこようと思います

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

山田製作所事件(福岡高裁平成19年10月25日・労判955号59頁)

【事案の概要】

Y社は、オートバイの部品を含め自動車部品、農業用機械部品等の製造・販売を目的とする会社である。

Xは、Y社に入社し、Y社熊本事業部で一般従業員として稼働してきた。

Xは、自宅において、自殺した(死亡当時24歳)。

Xは、職業生活における適応に困難を認められたことはなく、入社以来、本件自殺当日まで、「うつ病」ないし「うつ傾向」との診断を受けたこともなかった。

Xの相続人は、Xが自殺したのは、それ以前に連日、肉体的・心理的に過重な負荷のかかる長時間労働を余儀なくされたことによってうつ病に罹患したことが原因であり、Y社にはXに対する安全配慮義務に違反した過失があると主張して、Y社に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求した。

Xの労働時間は、本件自殺から1か月前は110時間06分、同1か月前から2か月前は118時間06分、同2か月前から3か月前は84時間48分であった。また、上記期間内におけるXの連続勤務は最高13日間であり、深夜10時を越えて勤務したのは12日間である。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、総額約7430万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの上記時間外労働・休日労働の時間数は、Y社の三六協定に定める1か月当たりの時間外労働時間の月45時間を著しく超過し、本件自殺から1か月前の期間及び同1か月から2か月間の期間は約2.6倍に至っている。同協定においては、上記の目安を超えて労使が協議の上延長することができる時間は1か月当たり61時間とされているが、Xの上記期間における時間外労働・休日労働時間はかかる61時間も大きく超えるものである。
平均残業時間が60時間以上となるとライフイベントの合計点数は極めて高く(ストレス度が強くなる。)なるとされ、さらに長時間労働は、心身の余力や予備力を低下させ、ストレス対処能力を大幅に低下させ、その結果、ちょっとしたストレスフルな出来事に対してもパニックに陥りやすい状態が作られるとの専門的知見を勘案すれば、このような顕著な時間外・休日労働は、それ自体で過酷な肉体的・心理的負荷を与えるものであったといえる

2 Xは、本件自殺3か月前から過重な長時間労働に従事したことによる肉体的・心理的負荷に、1か月余り前には、発注先からの新たな品質管理基準への対応が会社として迫られる中、リーダーへ昇格するなどの心理的負荷等が更に加わるという正に過重労働の最中に、他に特段の動機がうかがわれない状況で、本件自殺に及んでいるものであり、その経過からして、本件自殺と業務との間に因果関係がある。

3 Y社は、Xを過重な長時間労働の環境に置き、これに加え、Xがリーダーへ昇格したことなど心理的負担の増加要因が発生していたにもかかわらず、Xの実際の業務の負担量や職場環境などに何らの配慮をすることなく、その状態を漫然と放置していたのであって、かかるY社の行為は、不法行為における過失(注意義務違反)をも構成する

4 Xの変調が表面化してから自殺へ至るまでの経過は急進的であり、X本人や家族にとっても専門医の診療を受けるなどの行動を取ることは容易でなかったといえる。他方、Xの就労状況からすれば、同人からの訴えを待つまでもなく、使用者であるY社が当然に労働時間の抑制その他適切な措置を取るべきであったといえるから、この点で、Xの側に過失を認めることはできない。
また、本件自殺の原因について家族関係などの個人的な要因を認めることはできず、Xの性格などに上記損害額を減額すべき要因を認めることはできない。したがって、本件において、過失相殺を認めることは相当でない

このケースでも、高額の損害賠償が認められています。

本件では、直属上司の叱責等が心理的負荷の一要因とされています。

指導の必要性との関係から、線引きが難しいところですが、合理性のない単なる厳しい指導の範疇を超えたものについては、いわゆるパワハラと評価され、心理的負荷の一要因と判断されてしまいます。

この点については、部下を持つ会社幹部、上司のみなさんが意識しなければいけないところです。

また、上記判例のポイント4は、労働者側としては参考になりますね。

いつも申し上げていることですが、会社としては、従業員の労働時間が長くなっている場合、様子がおかしいと感じた場合には、早急に対応をとらなければ、大変なことになります。

重要なのは、いざというときに、適切な対応をとることができる組織作りです。

どのような組織作りを目指すべきかについては、顧問弁護士や顧問社労士に聞いてみて下さい。

必ず方法はあります!!

労災25(日本マクドナルド事件)

写真こんにちは。

早朝ウォーキングから戻りました

今日は、いつもとは違うルートで、5時間ほど山登りをしてきました

今日は、午後に2件打合せがあるだけです。

あとは、事務所で、書面を作成します

夜は、顧問先の社長と税理士のK先生と今年最後の忘年会です

今日も一日がんばります!!

日本マクドナルド事件(東京地裁平成22年1月18日・判時2093号152頁)

【事案の概要】

Y社は、日本全国に約3600店舗を設置し、労働者約10万人を使用して、ハンバーガー・レストラン・チェーンの経営を行っている会社である。

Xは、大学卒業後、X社に入社し、店舗の店長代理として、店舗運営の実務等の業務に従事していた。

Xは、勤務時に、急性心機能不全を発症し、死亡した。

Xの本件疾病発症前6か月における時間外労働時間は、本件疾病発症前2か月~6か月の平均時間外労働時間は、64時間40分~73時間45分であり、全て45時間を超えている。

【裁判所の判断】

川崎南労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である。

2 Xは、本件疾病により心臓突然死したものであり、Xの死因は、突発性心室細動による急性心機能不全であると認められること、基礎疾患は特定できないが、全くの健常人に心室細動が起こることは考え難く、突発性心室細動には、心筋イオンチャネル異常等何らかの潜在的な異常の関与が存在すると考えられていることから、Xには、何らかの基礎疾患があった可能性が高いというべきである。上記認定事実の上畑意見は、長時間で、ストレスの大きい労働は、自律神経の過度な緊張を来し、疲労蓄積や過労状態の発症に強く関連し、心室細動等心臓刺激伝達系の異常を引き起こす可能性が大きいと捉えている。また、上記認定事実の石川意見によっても、死因の特定ができずその発症には外的リスクファクターより、内的異常の関与が大きいとはいうものの、長時間でストレスの大きい労働と本件疾病発症との関連性を否定するわけではない
以上によれば、本件疾病の発症が、Y社におけるXの業務に内在する危険が現実化したものと評価できるのであれば、本件疾病と業務の条件関係を肯定することができると解すべきである

3 Y社における業務のシフトは、不規則な勤務であって、その性質上、深夜勤務を含む業務形態であり、しかも、Xをはじめとする正社員は、所定労働時間を超えて勤務することがほとんどで、勤務実績どおりに時間外労働を申告しておらず、いわばサービス残業を行うことが常態化していた勤務態勢であったことを指摘しなければならない。この業務態様は、単に交替制の深夜勤務というだけでなく、業務の不規則性や実際の労働時間の長さに、心理的にも長い拘束時間を従業員に意識させるものであり、心血管疾患に対するリスクを増大させる要因となるものである

4 自宅にも持ち帰っていたパソコン上の作業のうち、本件システムの更新に関する業務は、本件システムはXが開発したものであること、上司の指示によるものの、直接の上司である店長との関係では、本件店舗で作業することが憚られる環境にあり、しかも、後には休日の出勤を禁止されたことからすれば、そのメンテナンス作業は、X自身の責任を感じさせられる作業であって、精神的な緊張を強いられるものであるといわなければならない。

5 Xには、従前の健康診断で、脳・心臓疾患の原因となる異常は認められず、解剖所見でも特記すべき異常が認められないものであり、Y社の業務により、負荷の強い業務に強い時間にわたって晒され、さらに直前の業務の負荷が増大することにより、自律神経の過度な緊張を来し、疲労蓄積や過労状態の発症に強く関連し、心室細動等心臓刺激伝導系の異常を引き起こした可能性が極めて高いということができる。
そうすると、Xには、何らかの基礎疾患が存在していた可能性はあるものの、上記のメカニズムにより、業務上の過重負荷によりその自然の経過を超えて増悪して本件疾病が発症したということができる。すると、本件疾病の発症は、Y社におけるXの業務に内在する危険が現実化したものと評価でき、業務と本件疾病との間には相当因果関係があることを認めることができるのである。

日本マクドナルド事件といえば、名ばかり管理職の問題が有名ですが、本件は、過労死事件です。

本件では、自宅でのパソコン作業等にも業務遂行性が認められました。

また、被災者の死因が医学的に特定できなかったにもかかわらず、不規則な仕事、深夜勤務、サービス残業の常態化等が認められるとして、結果として業務起因性が肯定されています。

従業員にこのような働かせ方をさせている会社は、従業員の健康状態にご注意ください。

「様子がおかしいな」、「最近、残業が続いているな」と思ったら、適切に対応してください。

労災24(マツヤデンキ事件)

おはようございます。

土曜日、日曜日と仙人のもとで修行をしてきたため、パワーアップしました

今日は、午前中に1件刑事裁判の判決があるだけです。

午後は、接見、書面と年賀状の作成、掃除を少々という予定です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、身体障害者の労災に関する裁判例を見てみましょう。

マツヤデンキ事件(名古屋高裁平成22年4月16日・労判1006号5頁)

【事案の概要】

Y社は、家庭電化製品の小売等を業とする会社である。

Xは、慢性心不全(身体障害者等級3級)の基礎疾患を有しており、Y社に身体障害者枠で採用され、店舗で接客販売業務に従事することになった。Xの仕事は、立ち仕事であったが、体に負担がないように、重い物を持たせない、出荷・配送、出張修理などの業務には就かせないこととされていた。

Xは、採用から1か月半後に、慢性心不全を基礎疾患とする致死性不整脈・心停止を発症して死亡した(死亡当時37歳)。

 
【裁判所の判断】

豊橋労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 相当因果関係の有無を判断する基準について判断するに、確かに、労働基準法及び労災保険法が、業務上災害が発生した場合に、使用者に保険費用を負担させた上、無過失の補償責任を認めていることからすると、基本的には、業務上の災害といえるためには、災害が業務に内在または随伴する危険が現実化したものであることを要すると解すべきであり、その判断の基準としては平均的な労働者を基準とするのが自然であると解される。

2 しかしながら、労働に従事する労働者は必ずしも平均的な労働能力を有しているわけではなく、身体に障害を抱えている労働者もいるわけであるから、Y社の主張が、身体障害者である労働者が遭遇する災害についての業務起因性の判断の基準においても、常に平均的労働者が基準となるというものであれば、その主張は相当とはいえない
このことは、憲法27条1項が「すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と定め得、国が障害者雇用促進法等により身体障害者の就労を積極的に援助し、企業もその協力を求められている時代にあっては一層明らかというべきである

3 したがって、少なくとも、身体障害者であることを前提として業務に従事させた場合に、その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には、その業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となるというべきである
なぜなら、もしそうでないとすれば、そのような障害者は最初から労災保険の適用から除外されたと同じことになるからである

4 そして、本件においては、Xは、障害者の就職のための集団面接を経てY社に身体障害者枠で採用された者であるから、当該業務を基準とすべきであり、本件Xの死亡が、その過重な負荷によって自然的経過を超えて災害が発生したものであるか否かを判断すべきである。

5 立位による販売業務という労働強度は、Xの心不全の重傷度からみて運動耐容能の基準を超えており、また、死亡前11日間(うち2日は休日)の時間外労働がそれ以前より増え、慢性心不全患者のXにとってはかなりの過重労働であったと推認できることなどからXの業務の過重性を認めたうえで、時間外労働が増えるまでは特に慢性心不全の悪化はみられなかったことから、Xの致死性不整脈による死亡は、過重業務による疲労ないしストレスの蓄積からその自然的悪化を超えて発生したものであるとして、業務起因性が肯定される。

本件で重要なのは、上記判例のポイント3です。 

業務の過重性を「平均的労働者」を基準に判断するか、「被災者本人」を基準に判断するかについて、よく議論されます(個人的には、あまり結論に影響ないと思うのですが・・・)。

この点について、本件では、原則として、平均的労働者を基準としたうえで、「少なくとも身体障害者であることを前提として雇用・業務に従事させた場合に、その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には、その業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となるというべき」としました。

障害者雇用促進法との関係で、今後、非常に参考になる(会社側としては参考にすべき)裁判例です!

なお、このケースは、上告されています。

労災23(小田急レストランシステム事件)

おはようございます。

メリークリスマス

今日と明日、福島県郡山市に行ってきます

弁護団の先生(通称、仙人)の別荘にお邪魔してきます

それでは、行ってきます!

みなさんも、素敵なクリスマスをお過ごしくださいませ

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

小田急レストランシステム事件(東京地裁平成21年5月20日・判タ1316号165頁)

【事案の概要】

Y社は、小田急電鉄沿線地域に洋食及び和食の専門店等各種飲食店を展開するとともに、小田急電鉄及び小田急百貨店の社員食堂、小田急電鉄の社内サービス等を運営する総合フードサービス事業を営む会社である。

Xは、Y社に入社し、その後、営業第1部第1事業付料理長に配置転換された。

Xは、ある日、自宅を出た後、配置転換後に勤務することとされていたイタリア料理店に出勤しないまま所在不明となり、そのころ、長野県内の雑木林で自殺した。

【裁判所の判断】

渋谷労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は、業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、業務と死亡との相当因果関係の有無は、その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。

2 そして、精神障害の病因には、個体側の要因としての脆弱性と環境因としてのストレスがあり得るところ、上記の危険責任の法理にかんがみれば、業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきであり、このような意味での平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発症させる危険性を有しているといえ、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、業務と精神障害発症及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である

3 ここで、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷とは、精神障害発症以前の6か月間等、一定期間のうちに同人が経験した出来事による心理的負荷に限定して検討されるべきものではないが、ある出来事による心理的負荷が時間の経過とともに受容されるという心理的過程を考慮して、その負荷の程度を判断すべきである

4 また、精神疾患を引き起こすストレス等に関する研究報告等をふまえるときは、心理的負荷を伴う複数の出来事が問題となる場合、これが相互に関連し一体となって精神障害の発症に寄与していると認められるのであれば、これらの出来事による心理的負荷を総合的に判断するのが相当である。

5 なお、厚生労働省基準局通達による「判断指針」は、その策定経緯や内容に照らして不合理なものとはいえず、業務と精神障害発症(及び死亡)との間の相当因果関係を判断するにあたっては、医学的知見に基づいた判断指針をふまえつつ、これを上記観点から修正して行うのが相当であると解される

6 Xのうつ病発症前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であり、うつ病の発症につながる業務以外の心理的負荷やXの個体側要因もないのであるから、判断指針によっても、Xのうつ病発症が同人の業務に起因するものであると認めることができる。
また、Xのうつ病発症後の業務の心理的負荷の強度についても、少なくとも「中」程度のものであって、うつ病に特徴的な希死念慮の他にXが自殺をするような要因・動機を認めるに足りる証拠はないから、Xの自殺についても、同人が従事した業務に内在する危険が現実化したものと評価するのが相当である。

この裁判例の特徴は、行政通達の判断指針を考慮して相当因果関係の有無を検討している点です。

また、うつ病発症後死亡前の業務も検討対象としている点も特徴的です。

従業員側としては、参考にすべき判例です。

労災22(Aワールド事件)

おはようございます。

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

Aワールド事件(東京地裁平成20年3月24日・労判962号14頁)

【事案の概要】

Y社は、葬祭用等の仕出し料理の調理、営業、配達等の事業を行う会社である。

Xは、Y社に入社し、その後、営業課長となった。

Xの業務内容は、葬儀社への営業活動、葬儀の料理の見積りや打合せ、集金、取引先からのクレーム対応等であった。

Xは、通夜現場に自動車で煮物用の皿を届けた帰路、気分が悪くなり、救急車で病院に搬送され、くも膜下出血と診断され、入院治療を受けたが、その後、死亡した(死亡当時47歳)。

【裁判所の判断】

三鷹労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡等にについて行われるのであり、労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには、業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である。そして、労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である。

2 Y社の所定労働時間は午前10時~午後7時30分(休憩90分)の1日8時間であったところ、タイムカードには出勤時刻の打刻はあるが退勤時刻の打刻はなく、一律に認定もできず、Xの時間外労働時間数は明確な計算が困難であるが、明確に算定できるもの(労働実態およびタイムカードから推計)に相当の労働時間数を加算したものと考えるのが、早朝出勤や通夜等の後片付け手伝いなども行っていたXの労働実態に照らして相当である。

3 業績を上げるためには、Xが上記のような勤務形態をとることを余議なくされていたと評価することが可能であり、過重な時間外労働をし、休日取得が不十分であったことは、Xの業務に内在した問題であって、相当に過重な労働実態は、本件会社におけるXの業務に内在する危険と評価できる。

4 Xは、相当過重な業務への従事により、血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ、本件疾病を発症したと評価できるから、本件疾病発症と死亡は業務に起因すると認められ、業務に起因しないことを前提にして行われた本件不支給処分は違法である。

判例のポイント2は、労働者側としては、使える理屈です。

明確に時間外労働時間が算出できない場合でも、あきらめる必要はありません。

なお、この裁判例の興味深いのは、2名の医師および教授による意見は、いずれもXの業務と本件疾病発症との間には業務起因性が認められないとし、本件発症は、Xのリスクファクター(年齢、喫煙、飲酒)による自然的な経過によるものであると結論づけているにもかかわらず、以下のとおり判断し、業務起因性を肯定した点です。

「Xについては、年齢、喫煙、飲酒というリスクファクターが存在することは確かである。しかし、上記の佐藤医師意見及び小西教授意見の内容を見れば、上記のリスクファクターが本件疾病発症の直接の原因であるとまで断定するだけの具体的な根拠がある訳ではなく、結局、業務の過重性との相対的な関係において、そのリスクファクターを論じているに過ぎないのであって、XのY社における時間外労働時間数並びに休日及び連続勤務に関する具体的な事実と業務の過重性に関する評価に鑑みると、両意見の結論はその前提を失うものであるといわなければならない。したがって、上記の佐藤医師意見及び小西教授意見は、上記判断を左右するものではない。」

要するに、医師や教授の意見書で業務起因性を否定されても、簡単にあきらめてはいけないということです。

労働者側にとっては、勇気づけられますね。

労災21(粕屋農協事件)

おはようございます。

・・・さ、寒い

自宅で書面作成中です

今日は、午前中、裁判1件と打合せ1件。

午後は、裁判1件と明日の刑事裁判のための接見と打合せ1件です。

夜は書面作成にあてます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

粕屋農協事件(福岡高裁平成21年5月19日判決・労判993号・76頁)

【事案の概要】

Y社は、福岡県糟屋郡粕屋町に本所を有し、合計14の支所を擁し、職員数が正規職員だけでも260名余、臨時職員等を含めると320名余に及ぶ農協である。

Xは、昭和62年9月からY社に臨時職員として採用され、平成元年4月から正規社員となった。

Xは、本人の希望により、未経験の金融業務部門に配転がなされ、その1か月半後にうつ病エピソードを発症した。

Xは、うつ病エピソード発症の約4か月後、山林道脇で自殺した(死亡当時46歳)。

【裁判所の判断】

福岡東労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働者の精神障害による自殺が「労働者が業務上死亡した場合」に当たるというためには、当該精神障害が労基法施行規則別表第一の二第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することを要すること、すなわち、当該精神障害の業務起因性が認められなければならない。そして、労災保険制度が、危険責任の法理に基づく労働基準法上の使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、ここでの業務起因性は、単なる条件関係では足りず、業務と当該精神障害との間に相当因果関係が認められることを必要とし、これを認めるためには、当該精神障害が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要であり、その評価は、平均的な労働者の受け止め方を基準として、(1)業務による心理的負荷、(2)業務以外の要因による心理的負荷、(3)個体側の反応性、脆弱性を総合考慮して行うのが相当である。ただし、「平均的な労働者」の受け止め方を基準とするといっても、労働者の年齢、経験、資質、性格、健康状態等はまさに多種多様であって、このような事情をおよそ考慮しないというわけにはいかなのであり、むしろ、当該労働者の年齢、経験などの客観的な要素は当然考慮すべきである。また、それ以外の資質、性格、健康状態など、多分に主観的・個別的要素についても、それが当該職場における通常の労働者の範疇から逸脱した全く特殊な事情ということではなく、かつ、使用者側においても当該事情を認識し、把握していたという場合には、むしろ十分に配慮しなければならないものというべきである。

2 上記(1)ないし(3)の各要素を総合考慮して当該精神障害の業務起因性について判断するといっても、上記3つの要素がどのように絡み合うかによって幾つかの場合分けが可能である。
まず、(1)による心理的負荷が、社会通念上、客観的に見て、それのみで精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定することができる。
これに対し、(1)による心理的負荷が、それのみでは精神障害を発症させるまでに過重であるとは認められない場合においても、(2)による心理的負荷又は(3)の個体側要因のいずれかと相俟って、又は、その両者と合わさることにより精神障害が発症したという場合も考えられる。このように、いわば複合的な要因が絡み合って精神障害が発症したという場合の業務起因性の有無はより慎重な検討が求められることになる。
他方、(1)及び(2)による心理的負荷が、単独では、いずれも一般的には精神的な変調を来すことなく適応することができる程度のものであるのみならず、両者が合わさっても同様のことがいえるにもかかわらず、精神障害が発症したという場合には、その要因は(3)によるものとみるほかはなく、もとより業務起因性は否定される。

3 Xの精神障害発症は、本件配置転換後の業務による心理的負荷((1)の要因)と同人の個体側の反応性ないし脆弱性((3)の要因)とが相俟って発症したも のと解せられ、(ア)本件配置転換による心理的負荷、(イ)配転後の業務内容および目標額の設定等による心理的負荷、(ウ)Xに対する援助体制の不十分さなどからすれば、本件発症は業務に内在する危険の現実化と認めるべきものである。

この裁判例のポイントは、上記判例のポイント1の部分です。

また、判例のポイント2のように具体的に判断基準を示す裁判例は多くありません。

非常に参考になります。

労働者の性格などの主観的要素を明示的に判断基準に入れ、それが通常の労働者の範疇から逸脱した全く特殊な事情ではなく、かつ、使用者側がそれを認識・把握していた場合には、それに十分に配慮しなければならないとしている点です。

このように業務起因性判断において個々の労働者の主観的事情を考慮に入れて保険事故の範囲を拡大することは、以下のとおり、労災保険制度のいくつかの重要な特徴と抵触するおそれがあると言われています(ジュリスト1413号126頁参照)。

すなわち、第1に、業務との関連性の薄い(労働者側の事情による)事故にまで範囲が拡大すると、業務に内在する危険が現実化したことに対して使用者が負う個人責任を担保するために使用者のみが保険料を負担するという労災保険制度の基本的性格と相容れなくなる。

第2に、労働者側の個別的・主観的な事情によって給付の有無を決めることは、公的保険である労災保険制度の客観性・公平性の要請と抵触する。

第3に、労働者の主観的事情を考慮に入れて業務起因性の判断が複雑になると、保険事故を定型化し被災者に迅速な給付を行うという要請が実現困難になる。

他方で、労災補償制度は、使用者の民事上の損害賠償責任を担保するために設けられた制度であることからすると、労災保険法上の業務起因性の判断において、使用者の損害賠償責任の判断(最高裁電通事件判決)と同様に使用者に一定の予防的配慮を求めることは、理論的に一貫性が
あるものともいえます。

労災20(康正産業事件)

おはようございます。

現在、自宅で尋問の準備中です

今日は、終日、浜松で弁護団会議です

明日、浜松の裁判所で証人尋問があり、そのための最終確認です。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

康正産業事件(鹿児島地裁平成22年2月16日・労判1004号77頁)

【事案の概要】

Y社は、飲食店及びレストランの経営等を目的とする会社で、鹿児島県内を中心とする九州地方において、「ふぁみり庵」(和食レストラン)、「はいから亭」(焼肉レストラン)、「寿しまどか」(回転寿司)等の業態で、飲食店約50店舗を経営している。

Xは、Y社が経営する飲食店(札元店)の支配人をしていたが、自宅で就寝中に心室細動を発症し低酸素脳症となった(発症当時30歳)。Xは、現在に至るまで意識不明で寝たきりの状態であり、両親が自宅において24時間態勢で介護を行っている

Xの両親は、Xの本件心室細動発症・低酸素脳症による完全麻痺が、Y社が安全配慮義務に違反してXに長時間労働を強いたためであるとして損害賠償を求めた。

Xの労働時間は、本件発症前1か月間で344時間15分、本件発症前2か月から6か月で月平均368時間30分であった。法定労働時間を超える時間外労働は、それぞれ176時間15分、200時間30分に上り、休日以外の勤務日における拘束時間は、平均して1日当たり12時間を超える。また、休日も丸1日の休みが取れることはほとんどなく、本件発症前、Xは203日間連続して出勤していた。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、後遺障害および介護状況等に基づき算定し、過失相殺、労災保険給付を損益相殺をするなどしたうえで、1億8000万余円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの総労働時間及び時間外労働時間の長さ、休息の不足、勤務時間中の業務量の多さ等に照らせば、本件発症直前のXには、心身の疲労が相当程度蓄積していたものと認められる。また、札元店では、人で不足にもかかわらず人員が補充されず、かつ人件費の制約をも課せられていたことにより、正社員3名の中でも特にX1人に業務の負担が集中していた上、売上や人件費の目標値達成を厳しく求められていながら、なかなかこれらを達成できずにいたのであるから、Xは、精神的にも過度の負担を受けていたといえる。
よって、Xの従事していた業務は、身体的にも精神的にも過重なものであったというべきである。

2 本件発症直前のXは時間外労働が月100時間を優に超える長時間労働に従事していたこと、この長時間労働によって相当程度の疲労の蓄積があったと認められること、人手不足とノルマ等の制約の中で、Xには精神的も過重な負荷がかかっていたと考えられること、業務による過重な負荷、特に長時間労働については、疲労の蓄積による心臓疾患発症への影響が指摘されていること、仕事のストレス要因は循環器疾患の発生に密接に関与するとされていること、Xには他に本件発症の原因となり得る基礎疾患等も認められないことなどを総合考慮すると、本件発症はXの従事していた過重な業務に内在する危険が現実化したものと推認するのが相当であり、Xの業務と本件発症との間には相当因果関係が認められるというべきである

3 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、上記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである

4 Y社においては、所定労働時間ないし法定労働時間という概念が極めて形骸化し、労働時間を管理する機能を有しない状態であったといわざるを得ない。
さらに、後述するとおりY社は正社員に対しては時間外労働に対する賃金も一切支払っていなかった。このことは、労働基準法の労働時間規制に対するY社の意識の低さを示すことはもちろんであるが、Y社にとって正社員の時間外労働が何らのコストも伴わないものであった以上、従業員、特に正社員の労働時間を人件費管理の観点から管理する必要性がなかったということにもつながっている。後述するような、Xの長時間労働に対する無関心ともいえるY社の姿勢は、正社員に対して一切の残業代を支払わないという労務体制にその根があるといっても過言ではない。

5 労働者は、一切の余暇を犠牲にして疲労の回復に努めることまでを求められるものではないとしても、一般の社会人として自己の健康の維持に配慮することが当然に期待されており、いかなる態様・程度の健康維持が求められるかは、当該労働者が提供する労務の内容、労働時間・賃金等の労働条件、労働者自身の健康状態等の諸要素に照らして、総合的に判断されるべきものである。本件では、そもそもXの労働が過重なものとなったことにつき、Y社に多分の非難可能性があることは前述のとおりであるが、その点を斟酌してもなお、Xの労働の実態、生活状況全般及び本件発症直前の健康状態等に照らせば、疲労が蓄積しているにもかかわらず睡眠時間を削って深夜にドライブや食事をするのは、健康維持の観点から労働者に合理的に期待される生活態度を逸脱しているというほかなく、当事者間の衡平を図る上では、このようなXの行動が本件発症に対して与えた影響を考慮せざるを得ない。
また、Xは本件発症に至るま

労災19(日本トラストシティ事件)

__おはようございます。

←昨日、下田から帰る途中に撮りました

来年の夏、キャンプに行く予定です

あいかわらず、早朝と深夜に書面作成をする日々が続いております。

今日は、午前中は裁判が1件、午後は、事務所で法律相談、打合せが5件、夜は、交通事故の勉強会です

その後は、せっせと書面作成に励みます

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

日本トラストシティ事件(名古屋地裁平成21年5月28日・労判1003号74頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社に就職し、国際事業部国際輸送部東京営業所で勤務していた。

本件営業所の主たる業務は、特定顧客の貨物を、陸上、海上、航空等の多用な輸送手段を組み合わせて海外輸送する国際複合一貫輸送の手配や書類作成業務であったが、Xは、特定顧客の日常的、定型的業務は担当せず、ODA案件その他のプロジェクト案件、設備移設案件のスポット案件に特化して、ほぼ一人で営業および輸送手配等の業務を行っていた。

また、Xは、世界各国への代理店を整備する業務も行っており、その候補の選定から代理店契約締結の交渉、契約書の作成も行っていた。

本件営業所のA所長は「Xの評価が最も高い」とし、また国際輸送部長からも同様の評価がなされていた。

Xは、気分(感情)障害を発症し、同障害に起因して、社宅において自殺を図り死亡した(死亡当時30歳)。

なお、Xは、自殺前2か月において月100時間超、同3~6か月には80時間程度の時間外労働を行っていた。

【裁判所の判断】

中央労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 相当因果関係があるというためには、当該災害の発生が業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができることを要すると解すべきである。そして、同法による補償制度が使用者等に過失がなくても業務に内在する危険が現実化した場合に労働者に生じた損害を一定の範囲で填補させる危険責任の法理に基づくものであること、また、精神障害、特に、うつ病の成因については、几帳面で真面目な性格等に代表される執着気質、メランコリー親和型といわれるうつ病の病前性格と、業務上及び業務外のうつ病の発症要因になりやすい出来事との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まると解するのが相当であることからすれば、相当因果関係があるというためには、これらの要因を総合考慮した上で、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、当該災害の発生が業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したことによるものとして、これを肯定できると解すべきである。

2 そして、その判断は、当該労働者と同種の業務に従事し遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する労働者(「平均的労働者」)を基準として、勤務時間、職務の内容・質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害を発症させられる程度に強度の心理的負荷を受けたと認められるかを判断し、これが認められる場合に、次に、業務外の心理的負荷や個体側の要因を判断し、これらが存在し、業務よりもこれらが発症の原因であると認められる場合でない限りは相当因果関係の存在を肯定するという方法によるのが相当である。

3 専門家の診断・治療歴がない場合には、得られた情報だけから発症時期を推測することは極めて困難である。そうすると、被災者が継続して過重な業務に従事する中で精神疾患を発症し自殺した事案においては、発症時期の特定が困難であるため、過重な業務によって精神疾患を発症させうる程度の精神的負荷を受けたとは直ちに断定できなくとも、その可能性があると判断される場合があり、その場合には被災者がもともと精神疾患に対する脆弱性を有するものとは推認できない。かつ、月100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以内の労働者に比べて、精神疾患発症までの期間が短く、発病から自殺に至るまでの期間も短いとの調査結果があることからすると、発症後に従事した業務も客観的にも過重であったと認定されるなら、継続する過重な業務により発症・悪化させられた精神障害により正常な認識、行為選択能力および抑制力が著しく阻害されるに至り自殺行為に出たものとして、業務と精神障害の発症・悪化、さらには自殺との相当因果関係があると推認すべき場合も存する

4 そうすると、判断指針及び専門検討会報告書の判断手法も、判断手法として有益な面があるとしても、これによらなければ、業務起因性が認められないというものではなく、当初の発症後重症化するまでの業務の過重性を考慮するべき場合も存するというべきである

5 以上とは別に、発症前及び発症後の業務が客観的に見て過重ではないとしても発症後も業務の必要から適切な業務の軽減を受けられなかった結果、症状が重症化して自殺に至った場合には、そのことが自殺の原因であるといわなければならないから、業務と自殺との間の相当因果関係は肯定されるべきである

この裁判例では、精神障害等にかかる業務起因性の判断枠組みを提示し、その判断について、いわゆる平均人基準説に立ち、労働の量および質が過重であるかを検討しています。

判例のポイント3および5は参考になります。

とくに判例のポイント5は、労働者側としては多いに参考にすべき点です。

労災18(NTT東日本北海道支店事件)

おはようございます。

今日は、午前中、浜松で離婚調停です

午後は、静岡に戻ってきて裁判1件、会議1件、夜は顧問先の忘年会です

怒濤の1週間はまだまだ続きます!

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

NTT東日本北海道支店事件(札幌高裁平成22年8月10日・労判1012号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の札幌での研修期間中、夜に帰省し、翌々日、先祖の墓参りに出かけた際に急性心筋梗塞を発症し、死亡した(死亡当時58歳)。

Xは、平成5年5月の職場定期健診で心電図の異常が見つかっており、同年8月には冠状動脈血管形成術の入院手術を受けているほか、継続して診察・投薬を受けていた。

Xは、基礎疾患があったが、研修に際し、管理医と面談し、体調に特別の問題がなかったことから、研修に参加できると判断した。

【裁判所の判断】

旭川労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 「過重労働における健康障害防止のための産業医研修テキスト」には、日本循環器学会の虚血性心疾患の一次予防ガイドラインでのリスクファクターとして、加齢(男性45歳以上)、冠動脈疾患の家族歴、喫煙習慣、高血圧(収縮期血圧140mmHg以上又は拡張期血圧90mmHg以上)、高コレステロール値220mg/dl以上又はLDLコレステロール値140mg/dl以上)、精神的・肉体的ストレス等が挙げられている

2 産業医研修テキストには、ストレス因子として把握すべき就業態様として、労働時間、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務のほか、出張の多い業務等が挙げられている上、仕事のストレスの原因となる可能性のある主な要因として、作業内容及び方法について、仕事上の役割や責任がはっきりしていないこと、労働者の技術や技能が活用されていないこと等が、職場組織について、職場の意思決定に参加する機会がないこと、昇進や将来の技術や知識の獲得について情報がないこと等がそれぞれ挙げられ、また、ストレス対策のために事業場から提供を受けるべき組織レベルの情報として、事業場で進行しつつあるか又は将来予想される組織の変化について、終身雇用制の中止、早期退職勧奨や人員削減、大幅なアウトソーシング、その他経営方針の大きな変更等が、事業場や職場の組織・作業上の特徴や問題点について、技術の変化が激しいこと、リストラや雇用不安、単身赴任等がそれぞれ挙げられている

3 本件研修の参加、雇用形態の選択から本件研修中も継続していた異動の可能性等への不安による肉体的及び精神的ストレスがXの陳旧性心筋梗塞をその自然の経過を超えて増悪させ、急性の虚血性心臓疾患を発症させたものとみるのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができるというべきである
したがって、Xの死亡は、労災保険法にいう業務上の死亡に当たるというべきである。

結論は、一審と同じです。

地裁の裁判例は、労災⑫を参照してください。

一審判決において、すでに「雇用形態選択に端を発するストレス」が「Xの心疾患に悪影響を及ぼした」ことは指摘されていました。

控訴審では、これに加えて、仕事のストレスとして多種多様なものをあげている「産業医研修テキスト」に依拠している点は、新しいです。

労働者側としては、非常に有効な証拠となりますね