Category Archives: 労働時間

労働時間40(ビソー工業事件)

おはようございます。

今日は、警備員らの仮眠・休憩時間の労働時間該当性と差額賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ビソー工業事件(仙台高裁平成25年2月13日・労判1113号57頁)

【事案の概要】

Xらは、A社との間で労働契約を締結し、同社が保安・防災等の業務を受託していた宮城県立B病院で警備員として勤務していたが、Y社が、A社に替わって平成19年4月1日以降の上記業務を落札してこれを受託したことから、同年3月末日頃、Y社との間で、労働契約を締結し、同年4月1日以降、Y社の従業員として同種の勤務を続けていた。

本件は、Xらが、Y社に対し、Y社との労働契約上は仮眠時間や休憩時間とされていた時間帯について、実際には労働からの解放が保障されておらず、労働時間に当たるのに、その点を踏まえた適正な賃金の支払を受けられなかったと主張して、平成19年4月分から平成21年12月分までの適正な賃金と実際に支払われた賃金との差額相当額につき、主位的に労働契約に基づく未払賃金として、予備的に賃金支払拒否を理由とする不法行為に基づく損害賠償として、各々請求した事案である。

原審は、Xらの主位的請求について、仮眠・休憩時間も全部労働時間に当たると判断してXらの請求を大筋で認めた

これに対し、Y社のみが控訴をし、Xらは不服申立てをしなかった。

【裁判所の判断】

仮眠・休憩時間が全部労働時間に当たるとした原審を破棄

予備的請求は棄却

【判例のポイント】

1 実作業に従事していない仮眠・休憩時間とされている時間帯であっても、労働からの解放が保障されていない場合には、労働基準法上の労働時間に当たるというべきであり、その時間帯に労働契約上の役務の提供を義務付けられていると評価される場合には、労働者は労働からの解放を保障されているとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれているということができ、使用者に賃金の支払義務が生じる。しかし、他の従業員が業務に従事していて仮眠・休憩時間中に実作業に従事する必要が生じることが皆無に等しいなど、実質的に実作業への従事が義務付けられていないと認めることができるような事情がある場合には、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているとは評価できず、労働基準法上の労働時間に当たらないと解するのが相当である(大星ビル管理事件最高裁平成14年2月28日、大林ファシリティーズ(オークビルサービス事件)最高裁平成19年10月19日)。

2 本件係争期間中に仮眠・休憩時間中の警備員が例外的に実作業に従事した頻度が前記の程度にとどまっていたことにも照らすと、仮眠、休憩時間中の警備員が常時、守衛室や仮眠室でも業務に従事する態勢を要求されて緊張感を持続するよう強いられてはいなかったというべきである。
以上によれば、本件係争期間において仮眠・休憩時間中に実作業に従事した事例は極めて僅かであり(その中には必ずしも客観的に当該警備員が実作業に従事する必要性はなかったが、他の警備員への配慮等から引き受けたものもあったと見受けられる。)、例外的に実作業に従事した場合には実作業時間に応じた時間外手当を請求することとされていたのであって、Xら警備員に対しては、仮眠・休憩時間中に守衛室又は仮眠室で業務に従事する態勢を要求されていなかったのである。そうすると、Y社は、一般的、原則的に仮眠・休憩時間中も業務に従事する義務をXらに課していたものではなく、Xらも一般的にこのように義務付けられていると認識していたとは認められない。したがって、本件において、仮眠・休憩時間中に実作業に従事することが制度上義務付けられていたとまではいえないし、少なくとも仮眠・休憩時間中に実作業に従事しなければならない必要が皆無に等しいなど、実質的にXらに対し仮眠・休憩時間中の役務の提供の義務付けがされていないと認めることができる事情があったというべこである。

3 これに対し、Xらは、B病院は大規模医療機関で急患等の非常事態がいつ発生するか予測不可能であり、警備業務もこれに即時対応することが求められていて、B病院も本件仕様書で常時4人以上が実作業に対応できる態勢をとるよう定めていたのであって、Xらは仮眠・休憩時間中も緊張を強いられていたと主張する。しかし、上記のような突発的な業務に備えて、監視警備等業務に当たる警備員以外に仮眠・休憩時間帯ももう1人の警備員が守衛室で待機し、巡回警備業務中も必要があればこれに応じる態勢がとられていたこと、本件仕様書も4人以上が常時業務に従事することまで義務付けるものではなく、基本的に上記のような態勢によって対応が可能であったと認められること、Xらはシャワーを浴び、着替えをして仮眠室で仮眠をとっており、休憩時間中は必ずしも守衛室での待機が義務付けられていなかったことなど先に認定説示したところからすれば、Xらが仮眠・休憩時間中も常時緊張を強いられていたと認めるのは困難であり、上記主張は採用することができない。

労基法上の労働時間性の問題の中でも、この警備員等の仮眠・休憩時間の問題は、業務内容について丁寧に主張立証しなければ、結論がどちらに転ぶかわかりません。

この事案でも一審と二審で結論が異なっています。

労使ともに注意が必要な分野です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間39(ヒロセ電機(残業代等請求)事件)

おはようございます。

今日は、変形労働時間制・事業場外労働適用の有無と残業代等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ヒロセ電機(残業代等請求)事件(東京地裁平成25年5月22日・労判1095号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において勤務していたXが、時間外労働に対する賃金及び深夜労働に対する割増賃金と付加金の支払いを求めるとともに、内容虚偽の労働時間申告書等をXに作成、提出させたとして不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則70条2項によれば、時間外勤務は、直接所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めないこと等が規定されている。
また、平成22年4月以降の時間外勤務命令書には、注意事項として、「所属長命令の無い延長勤務および時間外勤務の実施は認めません。」と明記されていること、かかる時間外勤務命令書についてXが内容を確認して、「本人確認印」欄に確認印を押していることが認められる。
・・・以上からすると、Y社においては、就業規則上、時間外勤務は所属長からの指示によるものとされ、所属長の命じていない時間外勤務は認めないとされていること、実際の運用としても、時間外勤務については、本人からの希望を踏まえて、毎日個別具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたこと、実際に行われた時間外勤務については、時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載して、翌日それを所属長が確認することによって、把握されていたことは明らかである。
したがって、Y社における時間外労働時間は、時間外勤務命令書によって管理されていたというべきであって、時間外労働の認定は時間外勤務命令書によるべきである

2 Y社の旅費規程には、出張(直行、直帰を含む)の場合、所定就業時間勤務したものとみなすと規定されており、出張の場合には、いわゆる事業場外労働のみなし制(労基法38条の2)が適用されることになっている。実際にも、Xの出張や直行直帰の場合に、時間管理をする者が同行しているわけでもないので、労働時間を把握することはできないこと、直属上司がXに対して、具体的な指示命令を出していた事実もなく、事後的にも、何時から何時までどのような業務を行っていたかについて、具体的な報告をさせているわけでもないことが認められる。Xも、出張時のスケジュールが決まっていないことや、概ね1人で出張先に行き、業務遂行についても、自身の判断で行っていること等を認めている(X本人)。なお、Xは、Y社がXに指示していた業務内容からして必要な勤務時間を把握できたはずであると主張しているが、かかる事実を認めるに足りる具体的な事実の指摘はなく、Xの主張を認めるに足りる証拠はない。
以上からすると、Xが出張、直行直帰している場合の事業場外労働については、Y社のXに対する具体的な指揮監督が及んでいるとはいえず、労働時間を管理把握して算定することはできないから、事業場外労働のみなし制(労基法38条の2第1項)が適用される

3 Xは、出張や直行直帰の日については、事前に訪問先や業務内容について具体的な指示を受け、指示どおりに業務に従事していたと主張する。しかしながら、Xの訪問先や訪問目的について、Xが指示を受けていたことは認められるが、それ以上に、何時から何時までにいかなる業務を行うか等の具体的なスケジュールについて、詳細な指示を受けていた等といった事実は認められず、Xの事業場外労働について、Y社の具体的な指揮監督が及んでいたと認めるに足りる証拠はない。

労働時間に関し、非常に参考になる裁判例です。

使用者側のみなさんは、是非、この裁判例を参考にして社内規程の作成、運用をしてみてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間38(ワールドビジョン事件)

おはようございます。 

さて、今日は、元従業員らの事業場外みなし時間制適用の可否について見ていきましょう。

ワールドビジョン事件(東京地裁平成24年10月30日・労判1090号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、労基法37条所定の時間外労働を行ったとして、Y社に対し、時間外手当等の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に約120万円、X2に約70万円、X3に約120万円、X4に160万円を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xらは営業職であって勤務時間については自己責任で決めていたものであって、労働時間を算定し難いものであるから、労基法38条の2第1項による事業場外みなし規定の適用があると主張するが、Xら提出にかかる出勤表には、Y社事務所に出勤した場合の始業時刻、終業時刻のみならず、外勤により直行、直帰した場合の場所のみならず時刻(出発等の時刻と思われる。)等についても記載されているものであって、Y社が、従業員からこれらの出勤表の提出を受けることにより、Xらの労働時間を管理していたことは明らかである。この点に加え、Y社において、Xらの労働時間の算定が困難であることを基礎付ける事情についてそれ以上の主張、立証がないことに照らすと、Xらに労基法38条の2の事業場外みなし規定が適用される旨のY社主張を採用することはできないというべきである。

2 Y社は、残業については事前申告がなされた場合にのみ時間外手当が支払われることになっていると主張するが、正社員雇用勤務規則にも、明確にかような事前申告制を定める規定は存在しないことからすれば、Y社の主張を採用することはできない。
また、出勤表から認められる時間外労働の状況に照らすと、Xらの残業は恒常的な状況にあり、Y社もこのような状況を当然認識していたと認められるにもかかわらず、それを禁止したり抑制することなく推移した結果、そのような状態が継続していたものと認められるもので、Xらは、Y社の黙示の業務命令の下で時間外労働等を行っていたと認めるのが相当であって、この点からもY社の主張を容れる余地はない。Y社は、Xらの労働時間についてはその自主性に任せていたものであるとも主張するが、使用者には、従業員の労働時間を管理すべき義務があることにも照らすと、その自主性に委ねていることを理由に、時間外手当等の支払義務を免れると解することはできない

最高裁の考えからすれば、出勤表で労働時間を管理できていた以上、事業場外みなし労働時間性の適用を肯定することは難しいでしょうね。

また、使用者側とすれば、上記判例のポイント2は参考にすべき点ですね。

「自主性に任せていた」との主張は、使用者が労働時間を把握する義務を負っていることからすると、なかなか難しいわけです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間37(八重椿本舗事件)

おはようございます。 

さて、今日は、化粧品等販売会社従業員に対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

八重椿本舗事件(東京地裁平成25年12月25日・労判1088号11頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対して、①未払の早出出勤(始業時刻前の出勤)手当、休日出勤手当、賞与の支払いを求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金の支払いを求める事案、②不法行為に基づいて、未払の早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額の損害賠償を求める事案、③主位的には正社員を定年退職した後に嘱託社員としての地位を有することの確認を求め、予備的には期間雇用の契約社員としての地位を有することの確認を求めるとともに賃金と遅延損害金の支払いを求める事案、④Xが発明考案したにもかかわらず、Y社がXの了解を得ずに公開技報(自分の発明の権利化を希望しないが、他人に権利化されることを防止したい者が、自分の発明内容を公表するための刊行物)に公開したため、Xが特許申請をすることができなくなった一方、Y社がXの発明を導入し不当に利得を得ているとして、不当利得の返還を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、残業手当として12万9722円+付加金として同額を支払え

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 そもそも、労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、使用者の指揮命令下にあるか否かについては、労働者が使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事しているといえるかどうかによって判断されるべきである。
そして、終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、始業時刻前の出社(早出出勤)については、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や、生活パターン等から早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである

2 本件では、Y社の始業時刻は8時30分であるところ、Xは常にそれよりも1時間も早い、7時30分前後に出社していたとのことであるが、そもそも1時間も早く職場に来る必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。また、X自身、タイムカード打刻後、食堂でいろいろと話をすることがあったとか、常時やらなければならない仕事があったわけでもないと述べている(X本人)。さらに、Y社は、平塚労基署からXの上長が早出出勤しているときは、早出出勤の必要性があったとして、早出出勤分の残業代を支払うよう指導を受け、これに従い、6万0340円の時間外手当を支払っている。
そうすると、Xが残業代を請求している早出出勤については、労働時間に該当すると認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ず、Xの請求は認められない。

3 2年の短期消滅時効(労働基準法115条)にかかる早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額を不法行為に基づいて請求するについては、Xにおいて、Y社の不法行為の内容、それによってXのいかなる権利が侵害され、Xがいかなる損害を被ったのか、不法行為と損害との因果関係の存在、Y社の故意又は過失を主張立証する必要がある
ところで本件においてXは、・・・単なる時間外割増賃金の債務不履行を述べているだけであって、不法行為責任の発生根拠について具体的な主張立証がなされているとは認めがたい。・・・以上からすると、Xの不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。

使用者側は、早出出勤について労基法上の労働時間性が争点となった場合には、上記判例のポイント1の視点を明確に主張すべきです。

タイムカードの打刻時間をそのまま労働時間算定の証拠とされないようにしなければなりません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間36(レガシィほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、税理士資格を有さず、税理士名簿への登録も受けていなかった者の業務は専門業務型裁量労働制の「税理士の業務」とはいえないとされた裁判例を見てみましょう。

レガシィほか事件(東京高裁平成26年2月27日・労経速2206号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社ら双方に雇用されていたXが、Y社らに対し、時間外労働についての割増賃金の未払があるなどとして、割増賃金、遅延損害金、付加金等を求めた事案である。

Y社らは、Xには裁量労働制が適用されるなどと主張して争った。

なお、一審は、裁量労働制の適用を否定し、Y社らに対し、約200万円の割増賃金の支払+20万円の付加金の支払いを命じた。

【裁判所の判断】

遅延損害金について、14.6%(賃確法6条1項)を商事法定利率の6%に変更した。

付加金の支払を命じた一審の判断を変更し、付加金の支払いは命じなかった。

その余は控訴棄却

【判例のポイント】

1 賃確法6条2項は、賃金の支払遅滞が「天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合」に同条1項を適用しないとしていて、これを受けた賃確法施行規則6条は、厚生労働省令で定める遅延利息に係るやむを得ない事由として、天災地変(1号)、事業主が破産手続開始の決定を受け、又は賃金の支払の確保等に関する法律施行令2条第1項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなったこと(2号)、法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難であること(3号)、支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っていること(4号)、その他前各号に掲げる事由に準ずる事由(5号)を規定している。本件では、Xの時間外労働の割増賃金支払の前提問題として、専門業務型裁量労働制がXに適用されるか否かが争点の一つとなっていて、その対象業務の解釈が争われているところ、この点に関する当事者双方の主張内容や事実関係に照らせば、Y社らがXの割増賃金の支払義務を争うことには合理的な理由がないとはいえないというべきである。したがって、Xの未払割増賃金に対する遅延損害金については、商事法定利率によるべきこととなる。

2 本件に顕れた一切の事情、特に、賃確法6条1項及び同法施行令1条による年14.6%の割合による遅延損害金の支払い請求の当否について判断したところを考慮すると、本件においては、Y社らに対し、労働基準法114条所定の付加金の支払いを命じるのは相当ではない。

一審判決については、こちらを参考にしてください。

上記判例のポイント1は非常に重要です。

使用者側としては、是非、この裁判例を参考にして争ってみてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間35(エンゼル事件)

おはようございます。

 

今日は、マンションの管理人らの時間外労働等の賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

エンゼル事件(新潟地裁長岡支部平成25年10月24日・労経速2195号9頁)

【事案の概要】

本件は、リゾートマンションの管理組合から管理業務の委託を受けていたY社に雇用されていたXらが、雇用期間中、時間外労働及び時間外かつ深夜労働をしたとして、Y社に対し、平成23年9月10日までの未払に係る労働基準法所定の時間外労働等に係る賃金及び付加金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらが、Y社から本件マンションの管理業務として、本件マンション出入口、駐車場出入口及び南側避難経路部分等の除雪をするよう指示され、8時前あるいは降雪量の多い日は17時以降も除雪業務に従事したことがあったが、Y社がXらに対し降雪量等に応じて8時前ないし17時以降に除雪作業に従事するよう業務として指示していたことを明らかにする証拠はなく、また、Xらが8時前あるいは17時以降に除雪作業に従事した日が具体的にいつであったのかを認めるに足りる証拠もない。そうすると、XがY社の業務として8時前あるいは17時以降に除雪作業をしたと認めることはできないというべきである

2 ・・・17時から本件大浴場の営業終了までの時間は、Xらは自由に過ごすことができ、管理人として行うことを指示された業務はなく、物理的・時間的に一切の拘束を受けていなかったのであるから、17時から本件大浴場の営業終了までの時間については、上記の指示された作業をしていた時間についてのみ時間外労働をしたと認めることができるというほかない

3 Xらは、本件大浴場営業日において、Y社に業務として指示されて、営業開始が8時30分の日は6時30分頃から1階管理人室内にあるボイラーの点火スイッチを押す点火作業及びモニターで点火を確認する作業を15分以内とみられる短時間、営業終了が20時、21時ないし22時である日はその後ボイラーの点火スイッチを切って消火するとともに本件大浴場を巡回して設備の異常がないかを点検し、消灯と施錠を行う作業を30分以内とみられる短時間それぞれしていたことが認められる

4 Y社は、平成23年9月までに、Xらが主張する時間外労働等のうち、本件大浴場が営業する日については、・・・支払ったところ、この支払額は、Xらが請求する平成21年8月11日から平成23年9月10日までの賃金支給日に支給すべき時間外労働等の時間及び賃金額(更には遅延損害金)に見合うものといえる。そうすると、XらにはY社に対する時間外賃金等の請求権は存在せず、したがって付加金請求権も存在しないということができる。

時間外労働に関する指揮命令の存在と時間外労働の存在を立証しきれていないので、このような判断になっています。

現実には、労働時間をちゃんと管理していない会社において、労働者が正確に時間外労働を立証することは極めて困難です。

確かに立証責任は労働者(原告)側にあるわけですが、ある程度、立証責任を緩和しないと、労働時間の管理をちゃんとやらない会社のほうが訴訟では有利になるというのもいかがなものかと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間34(オリエンタルモーター事件)

おはようございます。

 

さて、今日は、労務提供の義務付け等は認められないとして時間外労働の未払賃金請求等を認めなかった裁判例を見ていきましょう。

オリエンタルモーター事件(東京高裁平成25年11月21日・労経速2197号3頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、①平成22年7月から12月までの間、常時1時間ないし5時間程度の残業をしたとして未払賃金及び労基法114条に基づく付加金の支払いを、②退職時に法律上の原因なく金銭の支払いを強要されたとして不当利得に基づく支払金の返還を、③飲み会への参加や一気飲みを強要されて自律神経失調症を発症したとして使用者責任に基づく損害賠償金の支払いをそれぞれ求める事案である。

なお、原審(長野地裁松本支部平成25年5月24日)は、①の未払賃金及び付加金請求の一部を認容し、その余の請求を棄却した。

【裁判所の判断】

原判決中控訴人敗訴部分(上記①)を取り消す。

上記の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、ICカードの使用履歴によれば、Xが平成22年7月1日から10月31日まで連日残業をしていたことが認められると主張する。しかし、ICカードは施設管理のためのものであり、その履歴は会社構内における滞留時間を示すものに過ぎないから、履歴上の滞留時間をもって直ちにXが時間外労働をしたと認めることはできない。そこで、上記ICカード使用履歴記載の滞留時間にXが時間外労働をしていたか否かについて検討する。

2 Xは、残業の内容として日報を作成していた旨主張する。しかし、日報が実習の経過を示すものであって会社の業務に直接関係するものではないこと、提出期限も特になく、必ず当日中に提出しなければならないとの決まりもなかったこと、Xの実習スケジュールにおいては実習メニューとは別に概ね35分ないし65分間の日報作成の時間が取られていたことは認定したとおりである。実習期間中には設けられた日報作成時間が5分間である日が3日あるが、上記のとおり日報について提出期限がなく、当日提出の決まりもなかったのであるから、この3日間について残業が必要であったということもできない。

3 Xは、時間外労働として翌日訪問する営業先の下調べ等をしていた旨主張するが、Xは、Y社に出社していた間は実習中であって、販売目標その他の営業ノルマを課されたこともなく、平成22年12月になるまでは1人で営業先に赴くこともなかったというのであるから、仮にXがその主張するような下調べをしていたとしても、これをもって労務の提供を義務付けられていたと評価することはできない

4 Xは、残業として発表会への参加を強制されていた旨主張するので検討する。・・・しかし、これらの発表会は実習中の新人社員が自己啓発のために同僚や先輩社員に対し実習成果を発表する場として設定されたものであり、会社の業務として行われたものではなく、これに参加しないことによる制裁等があったとも認められないから、Y社が業務として発表会への参加を指揮命令したものということはできない。

5 以上によれば、XがICカード使用履歴記載の滞留時間に残業して時間外の労働をしていたものとは認められないから、XのICカード使用履歴に基づく主張は理由がない

残業代請求の実務に一石を投じる判例ですね。

使用者側は、この裁判例を参考にして主張を展開するべきです。

労働者側は、これまでのように、タイムカード等の打刻時間のみから残業時間を算定するという安易な方法だと、足下をすくわれる可能性がありますので、注意が必要です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間33(Y本舗事件)

おはようございます。 

今日は、休日出勤手当の請求の一部等が認められた裁判例を見てみましょう。

Y本舗事件(東京地裁平成25年12月25日・労経速2196号21頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、①未払の早出出勤(始業時刻前の出勤)手当、休日出勤手当、賞与の支払を求めると共に、労働基準法114条に基づく付加金の支払いを求める事案、②不法行為に基づいて、未払の早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額の損害賠償を求める事案、③主位的には正社員を定年退職した後に嘱託社員としての地位を有することの確認を求め、予備的には期間雇用の契約社員としての地位を有することの確認を求めるとともに賃金と遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、休日出勤手当の一部である12万9722円及びこれと同額の付加金の支払いを命じた。

その余の請求は棄却。

【判例のポイント】

1 そもそも、労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、使用者の指揮命令下にあるか否かについては、労働者が使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事しているといえるかどうかによって判断されるべきである

2 そして、終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、始業時刻前の出社(早出出勤)については、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や、生活パターン等から早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである
本件では、Y社の企業時刻は8時30分であるところ、Xは常にそれよりも1時間も早い、7時30分前後に出社していたとのことであるが、そもそも1時間も早く職場に来る必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。また、X自身、タイムカード打刻後、食堂でいろいろ話をすることがあったとか、常時やらなければならない仕事があったわけでもないと述べている。さらに、Y社は、平塚労基署からXの上長が早出出勤しているときは、早出出勤の必要性があったとして、早出出勤分の残業代を支払うよう指導を受け、これに従い、6万0340円の時間外手当を支払っている。そうすると、Xが残業代を請求している早出出勤については、労働時間に該当すると認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ず、Xの請求は認められない

3 Xは、2年の短期消滅時効によって消滅している早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額を不法行為に基づいて請求している。
2年の短期消滅時効にかかる早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額を不法行為に基づいて請求するについては、Xにおいて、Y社の不法行為の内容、それによってXのいかなる権利が侵害され、Xがいかなる損害を被ったのか、不法行為と損害との因果関係の存在、Y社の故意又は過失を主張立証する必要がある
ところで本件にXは、①Y社が黙示的に時間外勤務を命じながら、時間外割増賃金を支払わなかったとか、②Y社が本件労働契約どおりに賃金を支払う意思がなく無給でXを勤務させた等と主張しているが、①については単なる時間外割増賃金の債務不履行を述べているだけであって、不法行為責任の発生根拠について具体的な主張立証がなされているとは認めがたい。また、②については、Y社は本件労働契約どおりに基本給(月額)を支払っており、無給でXを勤務させたとは認めがたい。

上記判例のポイント2の早出出勤に関する判断は、使用者側としては押さえておきたいところです。

また、広島高裁でのとある判決が出て以降、よく消滅時効にかかった分について不法行為に基づいて請求することがありますが、そう簡単にはいきませんね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間32(レガシィほか事件)

おはようございます。

今日は税理士法人以外の会社も兼務する税理士の補助業務者に対する専門業務型裁量労働制の適用に関する裁判例を見てみましょう。

レガシィほか事件(東京地裁平成25年9月26日・労経速2194号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社ら双方に雇用されていたXが、Y社らに対し、時間外労働についての割増賃金の未払があるなどとして、割増賃金、遅延損害金、付加金等を求めた事案である。

Y社らは、Xには裁量労働制が適用されるなどと主張して争った。

【裁判所の判断】

裁量労働制の適用を否定
→Y社らに対し、約200万円の割増賃金の支払+20万円の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務を対象とし、その業務の中から、対象となる業務を労使協定によって定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定によりあらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度である。・・・ここで「税理士の業務」を専門業務型裁量労働制の対象と定めるが、ここで「税理士の業務」とは、法令に基づいて税理士の業務とされている業務をいい、税務相談がこれに該当すると解するのが相当である。

2 ・・・Y社らは、このような税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務について、実質的に「税理士の業務」を行うものと評価して、専門業務型裁量労働制の対象と認め得ることを前提に、Xに専門業務型裁量労働制が適用されると主張するものであると理解される(なお、Xによる業務が、税理士又は税理士法人が行うべき税務書類の作成等の業務でなく、単なる税理士の補助的業務であるというのであれば、そもそも実質的に「税理士の業務」を行うものと評価する前提を欠くといわざるを得ない。)。
しかしながら、・・・税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務を専門型裁量労働制の対象と認め得るためには、少なくとも、その業務が税理士又は税理士法人を労務の提供先として行われるとともに、その成果が当該税理士又は税理士法人を主体とする業務として顕出されることが必要であるというべきである。
これを本件についてみると、・・・専門型裁量労働制を適用することはできないというべきである。

3 Y社らは、いくつかの事情を摘出して、Xの割増賃金請求が信義則に違反する旨を主張するが、いずれの事情をもってしても、Xの請求が信義則違反であると評価するに足りない。
特に、Y社らは、Xが背信的意図に基づく機密保持義務違反行為に及んだことを強調するが、仮に、XにY社ら摘示の事実があり、それによりY社らが損害を被ったとしても、それをもってXの賃金請求が信義則違反である旨を主張することは、Xに対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権としてXの賃金債権を相殺するものにほかならず、賃金全額払の原則(相殺禁止の趣旨を包含する。)を定めた労働基準法24条1項本文の趣旨を潜脱するものであることが明らかである

4 Y社らは、労働基準法の規定に違反して、Xに対する時間外労働等についての割増賃金の支払をしなかったものであるところ、その違反の程度や態様については、専門業務型裁量労働制に係る法令の解釈適用を誤ったことに起因するものであり、必ずしも悪質であるとはいえない。他方、Y社らは、本件訴訟に至って以降、賃金全額払の原則を定めた労働基準法24条1項本文の趣旨を潜脱するものであることが明らかな主張を重ねるなどして、Xに対する未払割増賃金の支払をしようとしなかったという事情も存する。これらの諸般の事情を総合考慮すれば、本件においては、Y社らに対し、同法114条ただし書所定の期間内の付加金として、20万円の支払を命じるのが相当である。

相続関係でよく名前が出てくる税理士事務所の事件です。

税理士事務所では、税理士資格を持っていない従業員が、税理士業務を行っているところが多いと思いますが、労基法の文理解釈からすると、この裁判例の判断は妥当であるということになります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間31(ロア・アドバタイジング事件)

おはようございます。

さて、今日は、元企画営業部長からの残業代等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ロア・アドバタイジング事件(東京地裁平成24年7月27日・労判1059号26頁)

【事案の概要】

Y社は、昭和45年8月に設立され、広告製作、広告代理業等を事業内容とする会社である。

Xは、平成20年1月にY社に入社し、その後、企画営業部部長となったが、仕入超過取引に伴う個人的利益享受が疑われ、企画営業部部長代理に降格され、その頃にうつ病を発症し、休職状態となり、22年9月、自主退職した。

Xは、Y社に対し、未払割増賃金(時間外・休日)および遅延損害金ならびに付加金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

Y社に対して約1130万円の支払を命じた。

付加金として700万円を認めた。

【判例のポイント】

1 ・・・Xに対する本件賞与は、Y社給与規程11条に依拠してではなく、Y社代表者が諸般の事情を考慮して、その裁量により随意決定していたものであると認められ、そうだとすると、このようにして決定される賞与(的な金員)を「臨時に支払われた賃金」(労基法施行規則21条4号)ないしは「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」(同条5号)に当たるものとして、労基法37条1項所定の「通常の労働時間の賃金」から除外することは相当ではない。そうすると本件基礎賃金1の中には当然上記賞与部分も含まれることになり、したがって、本件請求期間1における単価は、本件年俸(最低800万円)を年間の本件所定労働時間数(160時間×12か月)で除すことにより算定すべきものと解される(なお菅野和夫著「労働法[第9版]」235頁参照)。

2 出張に伴う移動時間について、果たすべき別段の用務を命じられておらず、具体的な労務に従事していたと認めるに足る証拠がない場合には、労働時間に該当しない

3 納品物の運搬それ自体を出張の目的としている場合には、使用者の指揮命令下に置かれているものと評価することができるとして、労働時間に該当すると判断し、また、ツアー参加者の引率業務のサポートという具体的な労務の提供を伴っている場合には、労働時間に該当する

4 休日労働として行われた出張中の業務につき、場所的拘束性に乏しいうえ、当該業務の実施方法、時間配分等について直接的かつ具体的な指示等を欠いていた場合には、当該業務は労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に該当する。休日労働が法定外休日であって所定労働時間の定めがなくても、同条項の趣旨を類推して「所定労働時間労働したもの」とみなされる

5 出張(事業場外労働)の前後に事業場内においても業務従事がなされた場合に、当該事業場外の労働が1日の所定労働時間の一部を用いて行われているときには、当該事業場内・外を併せて労基法38条の2第1項が適用されて「所定労働時間労働したもの」とみなされる

6 内勤業務が出張時の業務(事業場外労働)に付随する業務であるとみることができるときには、一連の業務に事業場内・外を併せて労基法38条の2第1項が適用され、他方、内勤業務が出張時の業務(事業場外労働)に付随してそれと一体のものとして行われたことを認めるに足りる証拠がないときには、当該内勤業務は別途通常の労働時間として把握計算されるべきであり、この場合の「労働時間」は労基法38条の2第1項にいう「みなし労働」と「内勤労働時間」を合算することにより算定される。

労働時間の解釈については、本件のように残業代請求事件でよく問題となります。

使用者の指揮命令下に置かれていたか否かという抽象的な規範だけではどのように解釈してよいのか迷ってしまうことも多々あると思います。

そのような場合には、本件裁判例のように過去の裁判例がどのような解釈をしているのかを調べてみると、何かのヒントになると思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。