Category Archives: 労働時間

労働時間50 携帯電話を保有する営業社員に事業場外みなし労働時間制の適用の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、携帯電話を保有する営業社員に事業場外みなし制の適用が認められた事案について見てみましょう。

ナック事件(東京地裁平成30年1月5日・労経速2345号3頁)

【事案の概要】

Xは、株式会社であるY社に勤務する営業担当社員であったところ、Y社は、平成25年12月19日、Xに自宅待機を命じた上、「Xが、顧客に対し、虚偽の契約条件を説明し、Y社の印鑑を悪用して作成した書面を提示するなどの不正な営業活動を行って、顧客との間で不正に契約を締結しながら、正当に契約が成立したかのように装って、Y社から契約実績に応じた成績給を詐取し、業務上の混乱及び経済的損害を与えた」旨の理由を主張して、遅くとも平成26年3月4日までにXを懲戒解雇した。

本訴事件、反訴事件は、解雇前の労働契約関係及び解雇理由とされた不正な営業活動に関連して、それぞれ賃金や不当利得、損害賠償等を請求する事案である。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法38条の2第1項によれば、事業場外労働みなし制を適用するためには、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し」,かつ「労働時間を算定し難い」ことを要する。
この「労働時間を算定し難い」ときに当たるか否かは、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告がされているときは、その方法、内容やその実施の態様、状況等を総合して、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認めるに足りるかという観点から判断することが相当である(最判平成26年1月24日参照)。
なお、携帯電話等の情報通信機器の活用や労働者からの詳細な自己申告の方法によれば労働時間の算定が可能であっても事業場外労働みなし制の適用のためには労働時間の算定が不可能であることまでは要さないから、その方法の実施(正確性の確認を含む。)に過重な経済的負担を要する、煩瑣に過ぎるといった合理的な理由があるときは「労働時間を算定し難いとき」に当たるが、そのような合理的な理由がないときは使用者が単に労働時間の算定を怠っているに過ぎないから、「労働時間を算定し難いとき」に当たらないというべきである。

2 ①Xは、営業担当社員として事業場(支店)から外出して複数の都道府県にまたがって顧客のもとを訪問する営業活動に従事することを主要な業務としていたこと、
訪問のスケジュールは上司が具体的に決定することはなく、チームを構成する原告ら営業担当社員が内勤社員とともに決定していたこと、
③訪問のスケジュールの内容は内勤社員による把握やスケジュール管理ソフト入力である程度共有化されていたが、上司が詳細又は実際との異同を網羅的に把握したり、確認したりすることはなかったこと
④訪問の回数や時間はXら営業担当社員の裁量的な判断に任されていたこと、
⑤個々の訪問を終えた後は、携帯電話の電子メールや電話で結果が報告されていたが、書面による出張報告書の内容は簡易で、訪問状況が網羅的かつ具体的に報告されていたわけではなく、特にXに関しては、出張報告書に顧客のスタンプがあっても本当に訪問の事実があったことを客観的に保証する効果はなかったこと
⑥出張報告書の内容は、添付された交通費等の精算に関する領収書に日時の記載があれば移動の事実やそれに関連する日時は確認できるが、それ以外の内容の客観的な確認は困難であり、Y社から訪問先の顧客に毎回照会することも現実的ではないこと
⑦上司は、Xら営業担当社員に業務の予定やスケジュールの変更につき具体的に指示を出すことはあったが、Xら営業担当社員の業務全体と比較すると、その割合が大きいとはいえないこと
⑧Xら営業担当社員の訪問に上司その他の監督者が同行することはなく、チームを組む内勤社員もXの上司その他の監督者ではなかったこと
⑨Y社は、Xが訪問の際、不当営業活動を繰り返していたことを相当期間把握できないままであったことが認められる。これらの認定事実を総合すると、Xの労働時間の大部分は事業場外での労働であり、具体的な業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に照らして、Y社がXの勤務の状況を具体的に把握することは、かなり煩雑な事務を伴わなければ不可能な状況にあったということができるから、Y社がXの事業場外労働の状況を具体的に把握することは困難であったというべきである。

3 Y社は、カードリーダーで労働時間管理も実施し、朝礼出席も指示しているが、朝礼に出席せず、顧客訪問に直行することもあり、事業場外労働の開始及び終了の各時点をある程度把握可能であるにとどまり、事業場外労働全体の実情を困難なく把握可能であったとはいえない
前掲最判平成26年1月24日で労働時間算定の困難性が否定された事案は、スケジュールの遵守そのものが重要となる旅行日程の管理を業務内容とし、また、ツアー参加者のアンケートや関係者に対する問合せで具体的な報告内容の正確性の確認が可能であり、本件とはかなり事案を異にするものといえる。

4 以上によれば、Xは労働時間の一部について事業場外で業務に従事しており、かつ、Xの事業場外労働は労働時間を算定し難い場合に当たる。

事業場外みなし労働時間制の適用が肯定された例です。

上記判例のポイント2をよく読んでみましょう。

適用範囲はそれほど広くはありません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間49 携帯電話の貸与と自宅待機の労働時間性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、事故対応のために携帯電話を貸与された場合の労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

都市再生機構事件(東京地裁平成29年11月10日・労経速2339号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、携帯電話を渡され、休日も3時間以内に現地集合できるように指示されていたので、休日に待機していたとして、主位的に時間外手当の支払を求め、予備的に不法行為に基づき手当相当額の財産的損害及び慰謝料の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最判平成24年2月28日、同平成19年10月19日)。

2 Y社からXに対し本件施設に3時間以内に到着できるよう自宅又はその周辺に待機するよう明示の指示はなかったと認められる。また、本件マニュアルのうち、本件資料には「(連絡)~3時間」に現地に集合する旨の記載はあるが、上記のとおり、本件資料の本件職場総務課長以外の者が行うべき対応の記載を見ても、1時間以内に本社へ出社、3時間以内に本社に到着などと記載されている者がおり、これらの者が全て記載された時間内に到着できるよう休日に待機を指示されていると解されるものではなく、本件マニュアルの他の資料を見ても「現地に赴く(できる限り早く)」などとなっているのであるから、本件資料は、事故等が起きたときの対応の目安を記載したものと解するのが自然である。
本件資料のみを見れば3時間以内に現地集合が必要と解釈することができないこともないが、3時間以内に現地集合するための待機の必要性について疑問があればXは容易に質問できたはずであり、それを妨げる事実は認められない上、本件業務に関して行われた4月3日のC所長からの説明、同月9日の合同ミーティング、同月20日頃のC所長からの説明、同月23日及び21日の安全衛生管理に関する研修会、毎月の時間外勤務の報告など待機の必要性の有無を確認しやすい機会が多数あったにもかかわらず、同年12月4日まで行われていない。これはXとしても本件資料により待機が指示されていたわけではないと理解していたことを推測させる(Xの認識がいかなるものであったとしても、本件資料により休日の待機が指示されていたとは認められない。)。
さらに、Y社貸与の携帯電話の携帯を指示されたからといって、当該携帯電話に連絡があるのは事故等が起こった場合のことであり、利用者からの問合せのように通常起きることが予測されているものではなく、平成25年度から平成27年度を見ても1件も連絡が必要となる事故等は起きておらず、Xが本件業務を担当している期間にも当該携帯電話にメールや電話があったことはなかったのであるから、業務の性質としても待機が必要なものとはいえず、待機の指示があったとはいえない
緊急連絡網にY社貸与の携帯電話番号よりも自宅の電話番号の方が上に記載されていることについては、Y社が携帯電話を貸与しているのであるから、自宅にいなくてもY社貸与の携帯電話へ連絡があると考えるのが自然であるから、これにより自宅待機を指示されていたとはいえない
Xが休日に常に自宅に待機していたわけではなく、外出していたことを認めていることからしても、Xとしても自宅待機の指示はなかったと認識していたといえる。
加えて、XはC所長から休日に登山に出かけると事前に言われることがあり、その時は必ず自分が対応できるようなおさら気が休まらなかったと供述しているが、本件資料によればXとは別にC所長も3時間以内に出社となっているにもかかわらず、休日に待機せずに外出していたことをXは認識していたのであるから、かかるXの供述は、かえって本件業務の担当者が待機不要であることをXが認識していたことを裏付ける
したがって、Xは、本件業務を担当していたとしても、休日につき、労働からの解放が保障されていたというべきであり、使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえないから、Xの主張する時間外労働は労働時間とはいえない。

事実認定の点で非常に参考になりますね。

手待時間に該当するかについてはよく訴訟でも争点となるところですので是非参考にしてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間48 病院における休憩時間は手待時間?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、常勤・非常勤による労働と労働時間算定等に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人社団E会(産科医・時間外労働)事件(東京地裁平成29年6月30日・労判1166号23頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき次の金員の支払を求める事案である。
(1)平成24年7月1日から平成26年4月20日までの所定時間外、法定時間外及び深夜の労働に係る残業代合計1761万8939円+遅延損害金
(2)付加金

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、1525万9177円+遅延損害金、8万9615円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 労働契約において、労働の時間帯、態様等に応じて異なる内容の賃金が定められている場合において、どちらに基づいて残業代算定のための「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額」(労基法37条1項)を認定すべきか、問題となる。
労基法施行規則23条は、本来の業務とは別の「宿直又は日直の勤務で断続的な業務」につき、労働基準監督署長の許可を得ない限り労働時間の規制から除外しているが、宿直又は日直の勤務でも「断続的な業務」に当たらないもの又は労働基準監督署長の許可を得ないものは割増賃金に関する労働基準法37条を含む労働時間に関する規定が適用されるから、本来の業務に係る賃金が「通常の労働時間又は労働日の賃金」に当たり、本来の業務に係る賃金に割増を加えた賃金が支払われるべきと解される。この場合、宿直又は日直の勤務に係る宿日直手当その他の特別の賃金が定められていても、宿日直手当は、労働基準法施行規則23条に基づいて労働時間に関する規定の適用から除外されて割増賃金が発生しないことを前提とするものであり、宿直又は日直の勤務が全体として許可その他の適用除外の効力発生要件を満たしていないにもかかわらず、宿日直手当の金額に限って労働者に不利な効力を認めるべきではないから、「通常の労働時間又は労働日の賃金」には当たらないと解すべきである。本来の業務の延長であって「断続的な業務」に当たらない、又は宿日直手当が低廉に過ぎるものと判断されて労働基準監督署長の許可を得られないこともありうるところ、本来の賃金額を割増した割増賃金でなく、宿日直手当又はこれに宿日直手当若しくは本来の業務に係る賃金を基礎とした割増分のみを加えた賃金の支払で足りるものとすると、結局、使用者は、宿日直手当を低廉に定めることで、労働基準法施行規則23条の要件を満たさなくとも時間外労働等に伴う経済的負担を軽減できることになってしまい、相当でない
以上のよれば、Xの当直勤務については、本件常勤契約に基づく日勤に係る年俸を基礎賃金として、時間外労働等の残業代を計算すべきである。

2 使用者が当座従事すべき業務がないときに労働者に休息を指示し、又は労働者の判断で休息をとることを許していても、休息の時間を「午後○時○分まで」「○分間」などと確定的に定めたり、一定の時間数の範囲で労働者の裁量に任せたりする趣旨でなく、一定の休息時間が確保される保障のない中で「別途指示するまで」「新たな仕事の必要が生じる時まで」という趣旨で定めていたに過ぎないときは、結果的に休息できた時間が相当の時間数に及んでも、当該時間に労働から離れることが保障されていたとはいえないから、あくまで手待時間であって、休憩時間に当たるとはいえないというべきである。

3 Y社の労働時間の否認には一部理由がある。賃確法6条2項、同法施行規則6条4号、5号によれば、「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っている」場合又はこれに準ずる事由の存する期間は同法6条1項の年14.6パーセントの利率の適用を免れることができるから、本判決が確定するまでの間は、上記利率の適用を免れることができ、遅延損害金の利率は民法所定の年5パーセントにとどめるべきである。ただし、本判決が確定すれば、上記期間に当たらないことは明らかであるから、本判決確定の日の翌日以降は上記利率を適用すべきである。

上記判例のポイント2については、病院での勤務状況に鑑みれば使用者側の主張も理解できないことはありませんが、労基法上の議論としてはやはり難しいものがあります。

これから先ますます人手不足になってきますので、このような問題は立法上解決されない限り争いはなくならないでしょうね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間47 専門業務型裁量労働制が無効と判断される理由(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制と労使協定に関する裁判例を見てみましょう。

京色彩中嶋事件(京都地裁平成29年4月27日・ジュリ1514号116頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対し、時間外手当のほか、賃金減額の無効、有給休暇を消化した日の未払い賃金、付加金、長時間労働によりうつ病に罹患したことについての不法行為又は債務不履行である安全配慮義務違反による損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

 Y社は、X1に対し、934万0114円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、165万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、500万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、277万1777円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、157万6922円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X3に対し、185万2680円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X3に対し、80万5288円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X4に対し、306万6332円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X4に対し、136万4085円+遅延損害金を支払え。

【裁判所の判断】

1 専門業務型裁量労働制を採用するためには、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定を行うことを要する(労基法38条の3第1項)。
また、個別の労働者との関係では、専門業務型裁量労働制を採用することを内容とする就業規則の改定等により、専門業務型裁量労働制が適用されることが労働契約の内容となることを要する。

2 Y社の平成22年秋頃の従業員数は合計19名、専門業務型裁量労働制の採用に当たり対象となる従業員は11名であるところ、Cが労働者の過半数を代表する者とされた際の選出の手段、方法は不明であり、協定届上「推薦」とあるが、C本人及びXらを含むY社の従業員合計6名はいずれもCを従業員として選出するための会合や選挙を行ったことはないと述べており、これらの従業員は、また、同様に、平成23年の就業規則改定に際して労働者代表を選出するための会合や選挙を行った事実もないと述べている。
これに対し、Y社は、労働者代表の選出は、社会保険労務士の指示に従い、従業員のうちの事務を担当していたDに任せていたと述べるのみであり、その具体的な選出方法について何ら説明することができず、結局のところ、当該事業所に属する従業員の過半数の意思に基づいて労働者代表が適法に選出されたことをうかがわせる事情は何ら認められない

3 就業規則が、平成23年の改訂の前後を通じて実際にY社の事務所内の棚に保管され、従業員が手に取れる状態となっていたこと、また、その保管場所が従業員に周知されていたことを裏付ける客観的な証拠はない。むしろ、平成26年7月に行われたY社と労働組合(b労)との団体交渉において、組合側から就業規則の設置場所を聞かれ、Y社側の弁護士が事務所内のAの座っているところの本棚にあると聞いていると説明するのに対して、X1が見たことがないと述べていることに照らすと、保管場所が従業員に周知され、いつでも閲覧し得る状態になっていたということはできないことが明らかである。

4 ・・・このようなY社による理由のない降格、賃金減額のストレスと、長時間労働の負荷とは、時期的にはうつ病の発症の直前ではないものの、これらを解決するために労働組合に加入したX1に対して、さらに不当労働行為が行なわれていること、他に、当時、X1にうつ病の発症の原因となるようなストレスがあったことをうかがわせる事情は特段認められないことからすると、X1のうつ病の発症は、Y社の上記行為に起因するものと推認することができる。
したがって、X1に、減額分の賃金の補填や時間外労働に対する対価の支払のみではまかなえない精神的苦痛を与えたものということができる。
以上の経緯を総合考慮すると、X1に生じた精神的苦痛を慰謝するには150万円をもって相当と認める。

どえらい金額になってしまっていますね。

上記判例のポイントのとおり、法律上求められている手続を無視すると最終的にはこうなってしまいます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間46 WEB学習の労働時間性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、WEB学習等の労働時間性が否定された裁判例を見てみましょう。

西日本電信電話ほか事件(大阪高裁平成22年11月19日・労経速2327号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、平成14年5月からはA社に出向し、平成18年7月からはB社に出向しているXが、Y社に対し、①Y社の全社員販売の取組としてY社が通常の勤務時間外にY社のグループ企業の商品を友人知人に販売したことに要した時間、②通常の勤務時間外にWEB学習に従事した時間が、いずれも、Xが従事した労働時間に当たるとして、平成17年5月から平成19年4月までの間に、Xが上記①②に従事したとする時間及び早朝出勤をして業務に従事したとする時間につき、①時間外手当及び休日手当として382万2320円+遅延損害金、②時間外手当及び休日手当に対する付加金として382万2320円+遅延損害金の支払いを求めた事案である。

原判決は、XのY社に対する請求のうち、早朝出勤は業務上の指示によるものではなく、むしろXは健康上の理由から時間外勤務を禁止されていたことから労働時間とは認められないとしたが、Xは、上記①②に従事したもので、この時間は労働時間に当たると判断し、上記①につき214万3049円+遅延損害金、上記②につき60万円+遅延損害金の支払いを求める限度で認容した。

【裁判所の判断】

原判決中Y社敗訴部分を取り消す。

上記取消部分に係るXの請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 WEB学習は、パソコンを操作してその作業をすること自体が、Y社が利潤を得るための業務ではなく、むしろ、Y社が、各従業員個人個人のスキルアップのための材料や機会を提供し、各従業員がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものであるといえる。そのため、単にアクセスする回数を増やしたり時間をかけることに意味があるのではなく、学習効果を上げるところに意味があるのであるから、その成果を測るためには、技能試験等を行うしかないが、Y社において、そのような試験が行われているわけでもない。使用者からしても、各従業員が意欲をもって、仕事に取り組み、仕事に必要な知識を身につけてくれることは重要であるから、WEB学習を奨励し、目標とすることを求めるものの、その効果は各人の能力や意欲によって左右されるものであるから、WEB学習の量のみを捉えて、従業員の評価をすることに意味はないのであって、WEB学習の推奨は、まさに従業員各人に対し自己研鑽するためのツールを提供して推奨しているにすぎず、これを業務の指示とみることもできないというべきである。
したがって、WEB学習の上記のような性質・内容によれば、これに従事した時間を、労務の提供とみることはできないというべきであり、これを業務の一環として実施するよう業務上の指示がなされていたとも評価できないことから、XがWEB学習に従事した時間があったとしても、それをY社の指揮命令下においてなされた労働時間と認めることができない。

研修会や勉強会の労働時間性が問題となることがありますが、それも強制なのか任意なのかがポイントとなってきます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間45 使用者の判断による裁量労働制除外の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不良な言動等を理由とする降格・裁量労働制除外と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日立コンサルティング事件(東京地裁平成28年10月7日・労判1155号54頁)

【事案の概要】

本件は、労働者であるXが、使用者であるY社に対し、違法・無効な解雇を受け、解雇前の降格及び裁量労働制から適用除外も違法・無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに平成25年10月以降の降格、裁量労働制からの適用除外及び解雇の無効を前提とした毎月73万4667円の賃金及び同年9月以前の降格及び裁量労働制からの適用除外の無効を前提とした賃金の未払分の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、次の金員を支払え。
(1) 金11万2557円及びこれに対する平成25年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 金24万3218円及びこれに対する平成25年8月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(3) 金2万2488円及びこれに対する平成25年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 裁量労働制は、労働時間の厳格な規制を受けず、労働時間の量ではなく、労働の質及び成果に応じた報酬支払を可能にすることで使用者の利便に資する制度であり、労働者にとっても使用者による労働時間の拘束を受けずに、自律的な業務遂行が可能とする利益があり、裁量労働制に伴って裁量手当その他の特別な賃金の優遇が設けられていれば、その支払を受ける利益もあるから、ある労働者が労働基準法所定の要件を満たす裁量労働制の適用を受けたときは、いったん労働条件として定まった以上、この適用から恣意的に除外されて、裁量労働制の適用による利益が奪われるべきではない
ことに一般的な新卒者採用ではなく、その個別の能力、経歴等を勘案して裁量労働制の適用及び裁量手当を含む賃金が個別労働契約で定められている事情があるときは、労働者の裁量労働制の適用及びこれによる賃金の優遇に対する期待は高い。
Xは、新卒者ではなく、4回にわたる面接その他の審査でコンサルタントとしての能力、経歴等を審査された上、個別労働契約で裁量労働制の適用及び裁量手当を含む年俸が決定され、役職も「シニアコンサルタント」と、コンサルタント業務に従事する社員限定の職名が付せられていたから、このような事情があるといえる。
労働時間に関する労働条件がみだりに変更されるべきでなく、法的安定を確保すべきことは、1か月単位の変形労働時間制において、就業規則に基づく一定の要件を満たす勤務割表等でいったん労働時間を具体的に特定した後の変更は、その予測が可能な程度に変更の具体的事由を定めておく必要があること、労働基準法上は休日の特定は必須でないが、労働契約上いったん特定されれば、休日振替には労働者の個別的同意又は休日を他の日に振り替えることができる旨の就業規則等の明確な根拠を要することにも現れている。
賃金に関する労働条件がみだりに不利益な変更を受けるべきものでないことも無論である。
したがって、個別的労働契約で裁量労働制の適用を定めながら、使用者が労働者の個別的な同意を得ずに労働者を裁量労働制の適用から除外し、これに伴う賃金上の不利益を受忍させるためには、一般的な人事権に関する規定とは別に労使協定及び就業規則で裁量労働制の適用から除外する要件・手続を定めて、使用者の除外権限を制度化する必要があり、また、その権限行使は濫用にわたるものであってはならないと解される(土田道夫「労働契約法」317、322、323頁参照)。

2 Y社は、本件労使協定5条3号は、Y社が労働者の同意を得ることなく裁量労働制の適用を除外できることを認めたものであると主張する。
しかしながら、裁量労働制に関する労使協定は、労働基準法による労働時間の規制を解除する効力を有するが、それだけで使用者と個々の労働者との間で私法的効力が生じて、労働契約の内容を規律するものではなく、労使協定で定めた裁量労働制度を実施するためには個別労働契約、就業規則等で労使協定に従った内容の規定を整えることを要するから、労使協定が使用者に何らかの権限を認める条項を置いても、当然に個々の労働者との間の労働契約関係における私法上の効力が生じるわけではない
本件労働契約、Y社就業規則及び裁量勤務制度規則に本件労使協定5条3号を具体的に引用するような定めは見当たらず、むしろ、本件労使協定は、本件裁量労働制除外措置のあった平成25年6月時点では、労働者に対し、十分周知される措置が取られていなかったことが認められるから、本件労使協定5条3号に従った個別労働契約、就業規則等は整えられていないし、XとY社との間で黙示に本件労使協定5条3号の内容に従った合意が成立していると推認することもできない。

3 Y社は、正当な労働条件変更であれば、Xの同意を要しないとも主張するが、そのような労働条件変更は、就業規則に関する判例法理及び労働契約法10条によるものではなく、就業規則その他の労働契約上の根拠によるものとはいえないから、労働契約法上の合意原則(労働契約法3条1項、8条、9条)の例外とするだけの実定法上の根拠に欠ける
本件裁量労働制除外措置は、特定の労働者を対象としたもので、労働条件の集団的な変更で、個々の労働者から個別に同意を得ることが必ずしも容易でなく、一般的な規則の変更による形式上、個々の労働者に対する恣意的な取り扱いの余地が制限され、労働者一般の利益にかかわり労働組合等との交渉や意見聴取(労働基準法90条1項)を介して労働者の意見を反映される余地もある就業規則の変更による労働条件の変更(就業規則の変更で使用者に一定の範囲で労働条件を変更する権限を定めることを含む。)とは基礎的な条件がかなり異なる。
使用者の作成による就業規則の変更を介さないのであれば、使用者だけでなく、労働者からの労働条件の合理的な変更の余地もあるということになりかねないが、そのような帰結は労働条件の安定を欠く事態を招く。
個々の労働者の同意を得なくても本件裁量労働制の適用から除外できる権限を創設することは、それが合理的なものであれば、本件労使協定及び本件裁量労働制規則の改定で可能であり、直接、本件労働契約をY社のみの意思で変更する必要はない

特段異論のない判断です。

特に上記判例のポイント3はおっしゃるとおりです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間44 勤務時間中の業務外チャット時間も労働時間なの?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、過度の私的なチャットの利用は懲戒解雇事由に相当するが、費やした時間は労働時間とみなされるとされた裁判例を見てみましょう。

ドリームエクスチェンジ事件(東京地裁平成28年12月28日・労経速2308号3頁)

【事案の概要】

本訴事件は、XがY社に対し、平成26年7月8日付け懲戒解雇(予備的に普通解雇)は無効であり、Xは、同年8月11日付けで退職したものであるとして、労働契約に基づき、未払賃金等+遅延損害金、時間外労働に対する割増賃金+遅延損害金の支払いを求める事案である。

反訴事件は、Y社がXに対し、Xの業務中における業務外チャット時間が長時間であり、これを労働時間から控除すると給与が過払いであるとして、不当利得返還請求権に基づき、既払給与金15万8821円+遅延損害金、Xが社内のチャットにおいてY社に対する信用毀損行為をしたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき300万円+遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

Y社はXに対し、未払残業代として235万1993円+遅延損害金を支払え

XはY社に対し、30万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件チャットは、その回数は異常に多いと言わざるを得ないし、概算で同時分になされたチャットを1分で算定すると1日当たり2時間、30秒で換算しても1時間に及ぶものであることからすると、チャットの相手方が社内の他の従業員であること、これまで上司から特段の注意や指導を受けていなかったことを踏まえても、社会通念上、社内で許される私語の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、職務専念義務に違反するものというべきである。
もっとも、職務専念義務違反(業務懈怠)自体は、単なる債務不履行であり、これが就業に関する規律に違反し、職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由になると解するべきである。

2 ・・・このように、本件チャットの態様、悪質性の程度、本件チャットにより侵害された企業秩序に対する影響に加え、Y社から、本件チャットについて、弁明の機会を与えられた際、Xは、本件チャットのやり取り自体を全部否定していたことからすれば、Y社において、Xは本件懲戒事由を真摯に反省しておらず、Xに対する注意指導を通してその業務態度を改善させていくことが困難であると判断したこともやむを得ないというべきである。

3 チャットの私的利用を行っていた時間を労働時間とみることについては、ノーワーク・ノーペイの原則との関係で問題を生じうるが、チャットの私的利用は、使用者から貸与された自席のパソコンにおいて、離席せずに行われていることからすると、無断での私用外出などとは異なり、使用者において、業務連絡に用いている社内チャットの運用が適正になされるように、適切に業務命令権を行使することができたにもかかわらず、これを行使しなかった結果と言わざるを得ない(Y社代表者も「管理が甘かった」旨述べている。)。

4 Y社は所定労働時間内になされたチャットと所定労働時間外になされたチャットの時間を区別して主張立証するものではないこと、所定労働時間外になされたチャットの態様をみても、いずれも同僚との間でなされたチャットであり、私語として許容される範囲のチャットや業務遂行と並行して行っているチャットとが混然一体となっている面があること、そのため明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することが困難であることを考慮すれば、所定労働時間外になされたチャットについても、Y社の指揮命令下においてなされたものであり、労働時間に当たるというべきである。

5 本件チャット(信用毀損)は、経理課長の地位にあり、Y社の経理状況を把握しているXにおいて、Y社が平成26年8月か9月には倒産するという事実を摘示するものであるところ、Y社の信用について、社会から受ける客観的評価を低下させるものであり、社内のチャット内での発言とはいえ、チャットに参加していない他の従業員への伝播可能性も十分肯定でき、現に従業員間で伝播していたことからすれば、Y社の信用及び名誉が毀損されたものと認められる。したがって、本件チャット(信用毀損)は、不法行為を構成すると認められる。

上記判例のポイント4を読むと、いかに日頃の労務管理が大切かがよくわかります。

裁判になってからではできることは限られています。

日頃から顧問弁護士等に相談をして予防法務を徹底することを強くおすすめします。

労働時間43 黙示の指揮命令の有無と労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、労基法上の労働時間に基づく未払時間外割増賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

武藤事件(東京地裁平成28年9月16日・労判ジャーナル58号51頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、時間外及び休日労働並びに所定労働時間を超えた法定労働時間内の労働を行ったと主張して、労働契約に基づいて、割増賃金約228万円及び法内残業分の未払賃金49万1054円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づいて、付加金約210万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、本件雇用契約書を取り交わすに当たり、従業員に対し、通常業務として、催事が開催される際に従業員が自らの商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことを命じたことはない旨の陳述・供述をしており、X本人も、当然に自分が行うものであると思っていた旨の陳述・供述をしているにとどまることからすると、他に特段の事情のない限り、Xが通常業務として自ら商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことをY社から義務付けられていたと認めることはできないところ、本件全証拠を検討してみても、特段の事情があると認めるに足りる証拠はないこと等から、たとえXが所定労働時間外に自ら商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことがあったとしても、当該行為がY社の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできず、これに要した時間が労基法32条の労働時間に該当するということはできないから、Xの割増賃金及び法内残業分の未払賃金の請求並びに付加金請求は、いずれも理由がない。

労働者自身も明示の指揮命令の存在を認めていないようです。

そうすると、裁判所に黙示の指揮命令の存在を認定してもらうほかありませんが、ここはクリアできなかったようです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間42(阪急バス事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、バス助役の仮眠時間につき労基法上の労働時間に当たらないとされた裁判例を見てみましょう。

阪急バス事件(大阪地裁平成27年8月10日・労経速2281号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、バス助役として勤務しているXが、時間外労働を行ったが割増賃金が支払われていないとして、平成23年1月から同年11月までについてはY社の違法な労務管理によって損害を被ったとして不法行為に基づき、同年12月から平成25年9月までについては雇用契約に基づき、その支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、62万1341円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金として62万1341円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 確かに、助役は、最終バスの点呼を行い、門の施錠や構内の点検を終了した後から始発バスの準備までの間、伏尾台営業所の事務室内にある仮眠室で仮眠することとされていたのであるから、滞在場所については場所的な拘束がなされていたといえる。
また、確かに、助役が仮眠室に泊まり込むことで、何らかの緊急事態等が発生した場合には、迅速な対応をとることが可能となることからすれば、仮眠時間中においても、労務提供の可能性が皆無であったとまではいうことができない
しかし、助役は、門の施錠や構内の点検終了後から、始発バスの準備までの間に、日常の業務として何らかの業務に従事することを求められていたわけではなく、実際のXら従業員の状況をも併せ考慮すると、門の施錠や構内の点検終了後から、始発バスの準備までの時間において、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価することは困難であり、仮眠時間中に、仮眠室においてすごしていた不活動仮眠時間については、原則として、労働からの解放が保障されており、労働契約上の役務の提供が義務付けられていなかったと評価することができる(なお、仮眠時間が労働時間に当たらないとしても、例外的に作業が必要となり、実際に作業に従事した時間については時間外労働として賃金の支払が必要となることは当然である。)。
したがって、本件における仮眠時間について、労基法上の労働時間に当たると認めることはできない。

2 Xが主張する損害は未払賃金相当額であるところ、Y社がXの労働時間を適正に把握しておらず、その結果、Xの割増賃金について一部が未払となっていたとしても、Xとしては、正しい労働時間を前提とした割増賃金を計算し、未払となっている割増賃金の不払を請求することができるのであるから、割増賃金の一部が未払であることをもって、Y社が労基法上の罰則を受けたり、Xとの関係で債務不履行責任を負うことはともかく、Xとの関係で直ちに不法行為を構成すると解することはできない。

約461万円の請求に対して約62万円という結論です(付加金も同額認められています)。 

大星ビル管理事件最高裁判決の考え方を踏襲しています。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間41(北九州市・市交通局(市営バス運転手)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、待機時間の労働時間性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

北九州市・市交通局(市営バス運転手)事件(福岡地裁平成27年5月20日・労判1124号23頁)

【事案の概要】

本件は、北九州市交通局に雇用され、市営バスの運転手として勤務するXらが、Y社に対し、時間外割増賃金の一部が未払であると主張して、未払時間外割増賃金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXらに対し、各未払残業代を支払え。

*X1:85万6087円、X2:74万2700円、X3:80万0300円、X4:72万8600円、X5:121万5371円、X6:78万5100円、X7:91万1250円、X8:108万1250円、X9:82万7500円、X10:121万1507円、X11:92万1800円、X12:95万5350円、X13:100万9010円、X14:36万6300円

【判例のポイント】

1 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間(「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れていることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。
したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

2 Xら乗務員は、調整時間中において、乗客の有無や周囲の道路状況等を踏まえて、適切なタイミングでバスを移動させることができるよう準備を整えておかなければならず、また、バスの移動業務がない転回場所やバスの移動業務を終えた後においては、実作業が特になければ休憩をとることができるものの、バスから離れて自由に行動することまで許されているものではなく、一定の場所的拘束性を受けた上、いつ現れるか分からない乗客に対して適切な対応をすることができるような体制を整えておくことが求められていたものであるから、乗務員らは、待機時間中といえども、労働からの解放が保障された状態にはなく、使用者の指揮監督下に置かれているというべきである
よって、本件の事実関係の下においては、転回時間であるか待機時間であるかを問わず、調整時間の全てが労基法上の労働時間に該当するというべきである。

最高裁の考え方からすれば、結論としてはやむを得ないですね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。