Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ14(公立八鹿病院組合ほか事件)

おはようございます。

今日は、上司らのパワハラ等によりうつ病発症・自殺と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

公立八鹿病院組合ほか事件(広島高裁松江支部平成27年3月18日・労判1118号25頁)

【事案の概要】

本件の原審は、Xの遺族が、Y社らに対し、病院に医師として勤務していたXが、同病院における過重労働や上司らのパワーハラスメントにより、遅くとも平成19年12月上旬には、うつ病を発症し、自殺に至ったとして、債務不履行又は不法行為に基づき、合計2億1220万3317円+遅延損害金を求めた事案である。

原判決は、Y社に対し、約8000万円+遅延損害金の支払を命じた。

これに対し、双方が各敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約1億円+遅延損害金の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 本件病院において、Xが従事していた業務は、それ自体、心身の極度の疲弊、消耗を来し、うつ病等の原因となる程度の長時間労働を強いられていた上、質的にも医師免許取得から3年目(研修医の2年間を除くと専門医として1年目)で、整形外科医としては大学病院で6か月の勤務経験しかなく、市井の総合病院における診療に携わって1、2か月目というXの経歴を前提とした場合、相当過重なものであったばかりか、AやBによるパワハラを継続的に受けていたことが加わり、これらが重層的かつ相乗的に作用して一層過酷な状況に陥ったものと評価される。

2 Xは、本件病院赴任後、本件病院の関係者に悩みを打ち明けたり、前任者のように派遣元の大学病院に対し転属を願い出るといった対応をしていないのであるが、使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関する労働環境等に十分注意を払うべき安全配慮義務を負っており、労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、体調の異変等について労働者本人からの積極的な申告は期待し難いものであって、このことを踏まえた上で、必要に応じた業務軽減などの労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきであるから(最高裁平成26年3月24日判決)、前任者がそうであったからといって、Xが本件疾病を発症する以前に、責任感から自ら職務を放棄したり、転属を願い出る等しなかったことを捉えて、Xの落ち度ということはできない。

3 公共団体や企業等に雇用される労働者の性格が多様なものであり、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の加重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものというべきであるから、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、被害者の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである(最高裁平成12年3月24日判決)。

使用者は、上記判例のポイント2を十分理解しておかなければなりません。

従業員から申し出がない場合であっても、様子がおかしかったり、欠勤が多い場合には、業務軽減等の配慮をする必要があります。

言うは易しですが、訴訟になれば、このような判断がなされますので注意しましょう。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ13(アンシス・ジャパン事件)

おはようございます。

今日は、心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したとして損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

アンシス・ジャパン事件(東京地裁平成27年3月27日・労経速2251号12頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社がXとの労働契約上の義務として負う安全配慮義務又は労働者が労働しやすい職場環境を整える義務を怠った旨を主張し、Y社に対し、民法715条の不法行為責任又は同法415条の債務不履行責任に基づく損害賠償(慰謝料)等として合計700万円を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、50万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 CがXをパワハラで訴えるという出来事が生じたのは、主として、インストールサポートをXとCとの二人体制とした上でXをチームリーダーとする体制が維持されてきたことに起因するものと解されるのであり、人事部においてパワハラの事実はないと判断されたことも踏まえれば、この出来事の発生に関してXに特段の帰責性はないというべきである。
本件のように二人体制で業務を担当する他方の同僚からパワハラで訴えられるという出来事(トラブル)は、同僚との間での対立が非常に大きく、深刻であると解される点で、客観的にみてもXに相当強い心理的負荷を与えたと認めるのが相当であり、X自身、Xをパワハラで訴えたCと一緒に仕事をするのは精神的にも非常に苦痛であり不可能である旨を繰り返しD部長らに訴えているのであるから、Y社は、上記のように強い心理的負荷を与えるようなトラブルの再発を防止し、Xの心理的負荷等が過度に蓄積することがないように適切な対応をとるべきであり、具体的には、X又はCを他部署へ配転してXとCとを業務上完全に分離するか、又は少なくともXとCとの業務上の関わりを極力少なくし、Xに業務の負担が偏ることのない体制をとる必要があったというべきである。

2 ・・・そうすると、D部長が、Xに対し、その心理的負荷等が過度に蓄積することがないように注意して指揮監督権限を行使していたと認めることはできないから、使用者であるY社としても、Y社がXに対して負う注意義務(業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意する義務。)を果たしていないと認めざるを得ないというべきである。

3 Y社は、Xに対し、インストールサポートに伴い疲労や心理的負荷等を過度に蓄積してXの心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負っているところ、同義務に違反したものと認められるが、このY社の注意義務違反によりXが心身の健康を損なったものとまでは認められない。しかし、Xは、Cからのパワハラの訴えによって相当強い心理的負荷を受けたと認められるものであり、その後も、Cとの協働は精神的にも無理である旨をD部長らに繰り返し訴えていたものの、この訴えに沿った対応がとられないまま、最終的には、D部長から「この会社を辞めるか、この状況の中でやるべき仕事をやるか。」と言われ、Y社を退職するに至ったとの経緯からすれば、Xが心身の健康を損なったと認められるまでに至っていないからといって直ちにXの損害を否定することはできず、上記の事実経過に照らせば、Y社の注意義務違反によりXが精神的苦痛を被ったことは明らかというべきであるから、かかる精神的損害については50万円をもって慰謝するのが相当である。

上記判例のポイント1は、是非参考にしてください。

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セクハラ・パワハラ12(Y事件)

おはようございます。

今日は、性的発言等のセクハラ等を理由とする懲戒処分等が有効とされた最高裁判例を見てみましょう。

Y事件(最高裁平成27年2月26日・労経速2243号3頁)

【事案の概要】

本件は、男性従業員であるXらが、それぞれ複数の女性従業員に対して性的な発言等のセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」)等をしたことを懲戒事由としてY社から出勤停止の懲戒処分を受けるとともに、これらを受けたことを理由に下位の等級に降格されたことから、Y社に対し、上記各出勤停止処分は懲戒事由の事実を欠き又は懲戒権を濫用したものとして無効であり、上記各降格もまた無効であるなどと主張して、上記各出勤停止処分の無効確認や上記各降格前の等級を有する地位にあることの確認等を求めている事案である。

【裁判所の判断】

懲戒処分は有効

【判例のポイント】

1 X1は、営業部サービスチームの責任者の立場にありながら、従業員Aが精算室において1人で勤務している際に、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等について殊更に具体的な話をするなど、極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり、また、X2は、上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず、従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取り上げて著しく侮辱的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。このように、同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し、Xらが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる

2 しかも、Y社においては、職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け、セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど、セクハラの防止のために種々の研修を受けていただけでなく、Y社の管理職として上記のようなY社の方針や取組を十分に理解し、セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し、職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって、その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない

3 そして、従業員Aは、Xらのこのような本件各行為が一因となって、本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり、管理職であるXらが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等がY社の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである。

4 原審は、Xらが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして、これらをXらに有利な事情としてしんしゃくするが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや、本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような事情があったとしても、そのことをもってXらに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである

非常に重要な判例です。

セクハラ事案では、原告から上記判例のポイント4のような主張がなされますが、この最高裁判例を前提とするかぎり、採用される可能性は低いと思われます。

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セクハラ・パワハラ11(暁産業ほか事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、上司の発言が不法行為に当たるとして損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

暁産業ほか事件(福井地裁平成26年11月28日・労判1110号34頁)

【事案の概要】

本件は、Xが自殺したのは、C及びDのパワハラ、Y社による加重な心理的負担を強いる業務体制等によるものであるとして、XがY社らに対し、C及びDに対しては不法行為責任、Y社に対して主位的には不法行為責任、予備的には債務不履行責任に基づき、損害金1億1121万8429円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びCは、連帯して7261万2557円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 ・・・「会社辞めたほうが皆のためになるんじゃないか、辞めてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのならば家でケーキ作れば、店でも出せば、どうせ働きたくないんだろう」「いつまでも甘甘、学生気分はさっさと捨てろ」「死んでしまえばいい」「辞めればいい」「今日使った無駄な時間を返してくれ」
これらの発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、Xの人格を否定し、威迫するものである。これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントといわざるを得ず、不法行為に当たると認められる

2 CのXに対する不法行為は、外形上は、Xの上司としての業務上の指導としてなされたものであるから、事業の執行についてなされた不法行為である。本件において、Y社がCに対する監督について相当の注意をしていた等の事実を認めるに足りる証拠はないから、Y社はXに対し民法715条1項の責任を負うこととなる。

3 Xは、Cから注意を受けた内容のメモを作成するように命じられ、誠実にミスをなくそうと努力していた中で、Cから人格を否定する言動を執拗に繰り返し受け続けてきた。Xは、高卒の新入社員であり、作業をするに当たっての緊張感や上司からの指導を受けた際の圧迫感はとりわけ大きいものがあるから、Cの前記言動から受ける心理的負荷の内容や程度に照らせば、Cの前記言動はXに精神障害を発症させるに足りるものであったと認められる。そして、Xには、業務以外の心理的負荷を伴う出来事は確認されていないし、既往症、生活史、アルコール依存症などいずれにおいても問題はないのであって、性格的な偏りもなく、むしろ、上記手帳の記載を見れば、きまじめな好青年であるといえる。
そうすると、・・・本件自殺とCの不法行為との間の相当因果関係が認められる。

叱責の域を超えて、人格を否定したり、威迫したと評価される場合には不法行為と認定されます。

上司も人間ですから、感情的になってしまうこともあります。だからこそ、このような裁判例を参考にして、冷静な対応が求められます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ10(N社事件)

おはようございます。

今日は、労働条件の説明義務違反、パワハラを理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成26年8月13日・労経速2237号24頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、労働契約締結時において労働内容について説明する義務を怠り、また、Y社担当者からパワーハラスメントを受け、損害を被ったとして、民法709条及び715条に基づいて損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労契法4条1項は、使用者に対し、労働条件及び労働契約の内容について労働者の理解を深めるようにすべきことを定めているものの、同条項は使用者の努力義務規定あるいは訓示規定であって具体的な権利義務を定めたものとは言い難く、同条項から直ちに使用者の説明義務が認められるものではない

2 労基法15条1項は、使用者に対し、労働契約を締結する際、労働条件を明示することを義務付けており、労働条件には、労働者が従事すべき業務も含まれる。しかしながら、同条項違反の効果としては、即時解除権の発生と帰郷旅費請求権の発生とされており(労基法15条2項、3項)、労基法15条1項をもって、直ちに使用者に対して、労働条件に関して、違反した場合に損害賠償義務が生じるような私法上の具体的な説明義務を課したものとは解しがたい。また、実際問題としても、求人募集の時点と労働契約の締結時点においては、時間的な間隔があるため、求人募集の時点において示される労働条件と労働契約の締結時点において示される労働条件が食い違うことは往々にして生じうるところでもある。したがって、労基法15条1項は、労働契約を締結する際における労働条件を明示する義務を使用者に課したものといえるが、具体的な説明義務を使用者に課したものとまで解することはできず、同条項に反したからといって直ちに説明義務違反が生じると解することはできない

3 もっとも、求人募集に応募する労働者は、募集条件として示された内容が労働契約締結時に大きく変更されることはないであろうと期待して応募しているのであるから、使用者としては、かかる労働者の期待に著しく反してはならないという信義誠実義務を負うものと解することはできる

4 パワハラについては、一応の定義付けがなされ、行為の類型化が図られているものの、極めて抽象的な概念であり、これが不法行為を構成するためには、質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。具体的にはパワハラを行ったとされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条の所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。
本件についてみると、そもそも、Xがパワハラを受けたと主張する時期や前後の経緯などは明確でなく、そもそも、Xの主張するところをもって、民法上の不法行為が成立しえるものといえるのか疑問であるし、その点をおくとしても、CやEは、Xに対して、Xが主張するような言動をとったことはないと否定しており、Xの供述以外に、Xの主張を裏付ける客観的な証拠もない

上記判例のポイント1、2は驚くような内容ではありませんが、労使ともに理解しておくべき内容です。

パワハラについては、立証不十分のため認定してもらえませんでした。

十分に準備をしてから戦いに挑まないと、多くの言動は立証できないことをいいことに事実を否定されてしまいます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ9(サントリーホールディングスほか事件)

おはようございます。

今日は、パワハラでうつ病発症・休職等を理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

サントリーホールディングスほか事件(東京地裁平成26年7月31日・労判1107号55頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Xの上司であったAからパワーハラスメントを受けたことにより鬱病の診断を受けて休職を余儀なくされるなどし、また、Y社の○○室長であったBがAの上記パワーハラスメント行為に対して適切な対応を取らなかったことによりXの精神的苦痛を拡大させたとして、A及びBには不法行為(民法709条、719条1項)が成立すると主張するとともに、Y社にはXに対する良好な作業環境を形成等すべき職場環境保持義務違反を理由とした債務不履行及びAの使用者であること等を理由とした不法行為(民法715条1項、719条1項)が成立する等と主張して、Y社らに対し、休業損害等合計2424万6488円の損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びAは、連帯して297万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Aの言動は、AがXを注意、指導する中で行われたものであったと認められるものであるが、一方、Aの上記言動について、AがXに対する嫌がらせ等の意図を有していたものとは認めることはできない
しかしながら、「新入社員以下だ。もう任せられない。」というような発言はXに対して屈辱を与え心理的負担を過度に加える行為であり、「何で分からない。おまえは馬鹿」というような言動はXの名誉感情をいたずらに害する行為であるといえることからすると、これらのAの言動は、Xに対する注意又は指導のための言動として許容される限度を超え、相当性を欠くものであったと評価せざるを得ないというべきであるから、Xに対する不法行為を構成するものと認められる。

2 Aの上記言動は、本件診断書を見ることにより、Aの部下であるXが鬱病に罹患したことを認識したにもかかわらず、Xの休職の申出を阻害する結果を生じさせるものであって、Xの上司の立場にある者として、部下であるXの心身に対する配慮を欠く言動として不法行為を構成するものといわざるを得ない。

3 Bは、X及びA双方に事情を聞くとともに、複数の関係者に対して当時の状況を確認するなどして適切な調査を行ったものといえる。そして、Y社においては通報・相談内容及び調査過程で得られた個人情報やプライバシー情報を正当な事由なく開示してはならないとされていることからすると、Bにおいて調査結果や判断過程等の開示を文書でしなかったことには合理性があったものといえ、しかも、Bは、Xに対し、Aへの調査内容等を示しながら、口頭でAの行為がパワーハラスメントに当たらないとの判断を示すなどしていたものであって、Bに違法があったということはできず、原告の上記主張は理由がない。

4 AのXに対する行為は、Y社の事業の執行について行われたものであって、不法行為を構成する以上、Aの使用者であるY社には使用者責任が成立する。
なお、本件全証拠を検討しても、Y社に職場環境保持義務違反及びY社自身のXに対する不法行為を認めるに足りる証拠はなく、Y社の債務不履行責任及び共同不法行為責任に係るXの主張はいずれも理由がない

損害としては、887万3642円を認定し、その後、素因減額(4割)、損益相殺をした後、270万円+弁護士費用(1割)という結論になりました。

どの会社でも起こり得る話です。

特に上司のみなさんは、成績不良な部下を持った場合には、感情的な対応をしないようにくれぐれも注意してください。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ8(国立大学茨城大学(ハラスメント・名誉毀損)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、ハラスメント訴訟提起等を非難する学長所見などに対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

国立大学茨城大学(ハラスメント・名誉毀損)事件(水戸地裁平成26年4月11日・労判1102号64頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、D学部教授であったXらが同学部の学部長Eから受けたハラスメント言動に関する苦情申立てに対するY社の処理が不適切であったとしてY社に対し損害賠償請求訴訟を提起したことを非難する内容の文書並びに上記言動を原因とするXらのEに対する損害賠償請求訴訟におけるXらによる私的録音及び同録音記録の使用を非難する内容の文書を、それぞれ、Y社教職員全員にメールで一斉配信し、かつ、Y社管理の教職員専用電子掲示板に上記各文書を掲載したことにより、Xらの名誉が毀損されるとともにY社教職員らのXらに対する新たなハラスメントを招くなどXらの職場環境が悪化したなどとして、XらがY社に対し、709条(仮に民法上の不法行為責任が認められない場合には国家賠償法1条1項)に基づき名誉毀損による慰謝料各120万円の支払及び民法415条に基づき職場環境整備義務違反による慰謝料各150万円の支払並びに各慰謝料に対する遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条(仮に民法上の不法行為責任が認められない場合には国家賠償法1条1項)に基づき上記各文書の上記電子掲示板からの削除を求める事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料合計200万円を支払え

Y社に登録された教職員のパーソナルコンピューターからのみ閲覧可能な教職員専用の「全学電子掲示板」の中の「学長室だより」から「2教授が茨城大学を訴えた訴訟問題に関する「学長所見」」及び「大学における公式会議での私的録音記録の利用について」と題する書面を削除せよ

【判例のポイント】

1 一般に、文書による特定の表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断すべきであるところ(最高裁昭和31年7月30日判決)、一般の読者は、通常、文書に記載されている記事のうち、名誉毀損の成否が問題となっている記載部分のみを取り出して読むわけではなく、当該記事の全体及び前後の文脈から当該記載部分の意味内容を認識ないし理解し、これに評価を加えたり感想を抱いたりするものであると考えられるから、ある記事が他人の社会的評価を低下させるものであるか否かを判断するに当たっては、名誉毀損の成否が問題とされている記載部分の内容のみから判断するのは相当ではなく、当該記載部分の記事全体における位置付けや、表現の方法ないし態様、前後の文脈等を総合して判断するのが相当である。

2 また、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかによって、名誉毀損に係る不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、当該表現がいずれの範ちゅうに属するかを判別することが必要となるが、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属すると解するのが相当である(最高裁平成9年9月9日判決、最高裁平成16年7月15日判決)。

3 Xらは、本件掲示板から教職員宛学長所見及び本件文書を削除することを求めているところ、上記の各事情に加え、Xらは既にY社を退職しているものの、現在までXらとY社との間における前訴は継続していること、教職員宛学長所見及び本件文書は4年ないし5年以上も公表され続けていること、Y社が本件掲示板の中から教職員宛学長所見及び本件文書の削除をすることは容易であることからすると、Xらの名誉を回復する措置として、Y社に対し教職員宛学長所見及び本件文書の削除を命じるのは相当である

労働事件というよりは、名誉毀損事案ですかね。

裁判所の考え方を知るにはとてもいい裁判例だと思います。

参考にしてください。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ7(ホンダカーズA株式会社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、元従業員による未払賃金・損害賠償請求(パワハラ)に関する裁判例を見てみましょう。

ホンダカーズA株式会社事件(大阪地裁平成25年12月10日・労判1089号82頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、未払賃金(アドバイス奨励金)、労基法37条所定の時間外割増賃金、深夜割増賃金及び同法114条に基づく付加金を請求するとともに、先輩従業員から業務指導に名を借りた暴言、暴行等のパワーハラスメントを受けたと主張して、Y社に対し、民法715条又は労働契約上の安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払いを請求する事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、割増賃金113万4799円及び付加金59万7208円の支払え。

2 その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本訴で請求するアドバイス奨励金の対象となるアドバイスや作業を具体的に特定することなく、Xが作成した平成21年1月~22年12月分の「月度アドバイス」に作業実施日が記載されたアドバイス内容の項目数に単価を乗じた金額と、毎月の給与明細から把握できる実際の奨励金支給額との差額を通算して請求しているが、これをもって「月度アドバイス」記載の各項目が奨励金の支給要件を満たしているとの主張立証がなされているとはいえない。

2 Xの割増賃金計算の基礎となる賃金は、基本給、皆勤手当、資格手当、ファイトマネー及びアドバイス奨励金であること、このうちファイトマネー及びアドバイス奨励金は、一種の出来高払制の賃金として、労働基準法施行規則19条1項6号に基づき割増賃金を算定すべきであること、割増賃金算定の前提となる平成21年及び平成22年の1年間における1月平均所定労働時間は、各170.5時間であることが認められる。

3 Xのパワーハラスメントに関する主張には、X本人の供述や陳述書等の記載以外の裏付けがない。加えて、Xは、自らY社代表者宛に文書を提出し、それを契機として直接対話する機会を得た経験を有しながら、それ以降、Dの粗暴な言動に苦しめられている旨の文書は、退職に至るまで一度も提出した形跡が窺われないことX側申請証人であるB工場長も、Xに対し職場でいじめが行われていたとの認識はなく、Xに対する粗暴な言動について見聞きしたところもないことに鑑みれば、Xの供述は総じて信用することができない。
よって、X主張のパワーハラスメントについては、その事実を認めるに足りる証拠がなく、また、認められる事実関係を前提にしても、およそXに対する不法行為や安全配慮義務違反を構成するとは認め難い。

特に上記判例のポイント3は、パワハラ事案の難しさが出ていますね。

客観的な証拠をそろえるのは本当に大変です。

ましてや、原告が申請した証人が職場でいじめが行われていたとの認識がなく、原告に対する粗暴な言動を見聞きしていないと証言するのでは・・・。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ6(M社事件)

おはようございます。

さて、今日は、従業員に対する暴言、暴行、退職強要行為と不法行為に関する裁判例を見てみましょう。

M社事件(名古屋地裁平成26年1月15日・労経速2203号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として勤務していたXの相続人らが、Xが自殺したのは、Y社の代表表取締役であるA及びY社の監査役であるBのXに対する暴言、暴行あるいは退職強要といった日常的なパワーハラスメントが原因であるなどとして、主位的には、Aらに対し、不法行為に基づき、Y社に対し、会社法350条及び民法715条に基づき、それぞれ損害賠償金及び遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y社に対し、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償金及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

なお、Xの死亡について、名古屋東労働基準監督署長は労災支給決定をしている。

【裁判所の判断】

Y社及びBは、合計約3600万円を支払え

Cに対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成21年1月23日に本件退職届を作成しているところ、(1)本件退職届にはY社が被った損害(1000万円から1億円)をXが一族で返済する旨の記載があったものと認められるが、Xにその支払能力があったとは窺えず、また、Xの一族にその返済をすべき責任があったとも窺えないから、Xが本件対処届の作成に任意に応じたものとは考え難いこと、・・・(3)Xは、同月19日にAから本件暴行を受けていたことからすれば、本件退職届を作成した当時において、Xは、Aを畏怖していたと認めるのが相当であることを考慮すると、AがXに対して本件退職届の内容で退職願を書くように強要したと認めるのが相当である。

2 AのXに対する暴言、暴行及び退職強要のパワハラが認められるところ、AのXに対する前記暴言及び暴行は、Xの仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、Xを威迫し、激しい不安に陥れるものと認められ、不法行為に当たると評価するのが相当であり、また、本件退職強要も不法行為に当たると評価するのが相当である。

3 ・・・以上によれば、短期間のうちに行われた本件暴行及び本件退職強要がXに与えた心理的負荷の程度は、総合的に見て過重で強いものであったと解されるところ、Xは、警察署に相談に行った際、落ち着きがなく、びくびくした様子であったこと、警察に相談した後は、「仕返しが怖い。」と不安な顔をしていたこと、自殺の約6時間前には、自宅で絨毯に頭を擦り付けながら「あーっ!」と言うなどの行動をとっていたことが認められることに照らすと、Xは、従前から相当程度心理的ストレスが蓄積していたところに、本件暴行及び本件退職強要を連続して受けたことにより、心理的ストレスが増加し、急性ストレス反応を発症したと認めるのが相当である。・・・したがって、Aの不法行為とXの死亡との間には、相当因果関係があるというべきである。

4 AはY社の代表取締役であること、及び、AによるXに対する暴言、暴行及び本件退職強要は、Y社の職務を行うについてなされたものであることが認められるのであるから、会社法350条により、Y社は、AがXに与えた損害を賠償する責任を負う。

5 ・・・以上によれば、Xの逸失利益は、2655万5507円(365万4763円×0.7×10.380=26555507円(小数点以下切り捨て)である。なお、上記金額は、原告ら主張の逸失利益1452万1387円を上回るが、他の費用と合計した金額が、原告らの請求額の範囲内に収まる限り、処分権主義あるいは弁論主義違反の問題は生じないというべきである。

自殺とパワハラとの間の因果関係が肯定されています。

それはさておき、上記判例のポイント5ですが、逸失利益が原告ら主張の金額を上回る判決になっています。

被告からすると、原告の請求した逸失利益が上限だと思って防御しますので、不意打ちになりませんかね・・・。

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セクハラ・パワハラ5(C社事件)

おはようございます。

さて、今日は、上司による暴行および支配行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

C社事件(大阪地裁平成25年6月6日・労判1082号81頁)

【事案の概要】

Xは、平成21年3月から平成23年6月27日付けで退職するまで、Y社の従業員として雇用されていた者である。

Xは、上司であったAから胸部を拳で殴るなどの暴行を受けたり、「預かる」と称して運転免許証や携帯電話を提出させるなどの支配的行為を受けたとして、Y社らに対し、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

A及びY社に対し、連帯して23万0140円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 そもそも使用者が従業員に対し所持品検査を行うことは、業務上の不正防止等、企業の経営維持にとって必要とされる場合であっても、当然に適法視されるものではなく、それを必要とする合理的理由があって、就業規則等の根拠に基づき、一般的に妥当な方法と程度で、職場の従業員に対し画一的に実施されるなどの要件を満たすことが必要と解される(最高裁昭和43年8月2日判決)。ましてや、使用者といえども、従業員の私的領域にわたる指揮監督権を有するものではないことは当然であって、たとえ私生活面での規律を正すことが業務の改善に資することが期待されるとしても、そのような目的で所持品検査を行うことが正当化される余地はない

2 Xは、Aから受けた一連の暴行や私物の点検等の支配的行為により受けた精神的苦痛の慰謝料は100万円を下らないと主張する。
AのXに対する一連の暴行と財布と通帳の点検、運転免許証や携帯電話の取り上げといった私的領域への介入あるいは生活への支障を伴う財産権侵害行為は、Xに対し相応の精神的苦痛を与えたことは明らかであるが、他方で、暴行については、痛み止めの投薬と湿布の処方を要する傷害を負ったほかは、治療を要するような負傷をした事実が認められないこと、財布と通帳の点検については、当時のXが快く思わなかったことは当然であるとしても、著しい苦痛を受けたとまでは認め難いこと等に鑑みると、これらに対する慰謝料としては20万円を認めるのが相当である

3 Y社らは、Xの度重なる業務上の不始末や営業成績の不振と、Aの指導に対する態度の悪さが、Aを感情的にさせて損害の発生と拡大に寄与したとして、過失相殺を主張する。
しかし、Xの勤務状況に問題があるとしても、AのXに対する不法行為を正当化し得るものではなく、むしろ、Y社における良識と人権感覚を欠いた従業員への指導・管理の在り方ことが、Aが行ったような粗暴で威圧的な言動を誘発したというべきであるから、Xに生じた損害について過失相殺をすることは相当でない。

従業員の所持品検査については、最高裁判例があるので、参考にしてください。

弁護士が原告側の代理人としてパワハラ事案を担当する際、気をつけなければならないのは、依頼者に過大な期待を持たせないことです。

一般的に、「パワハラ」の違法性を立証することは容易ではないことに加え、仮に認定されたとしても、期待するような多額の慰謝料は認めてもらえないことが多いと思います。

つまり、費用倒れの可能性が出てきてしまうため、そのあたりを受任する際にしっかりと説明することが大切です。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。