Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ11(暁産業ほか事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、上司の発言が不法行為に当たるとして損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

暁産業ほか事件(福井地裁平成26年11月28日・労判1110号34頁)

【事案の概要】

本件は、Xが自殺したのは、C及びDのパワハラ、Y社による加重な心理的負担を強いる業務体制等によるものであるとして、XがY社らに対し、C及びDに対しては不法行為責任、Y社に対して主位的には不法行為責任、予備的には債務不履行責任に基づき、損害金1億1121万8429円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びCは、連帯して7261万2557円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 ・・・「会社辞めたほうが皆のためになるんじゃないか、辞めてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのならば家でケーキ作れば、店でも出せば、どうせ働きたくないんだろう」「いつまでも甘甘、学生気分はさっさと捨てろ」「死んでしまえばいい」「辞めればいい」「今日使った無駄な時間を返してくれ」
これらの発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、Xの人格を否定し、威迫するものである。これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントといわざるを得ず、不法行為に当たると認められる

2 CのXに対する不法行為は、外形上は、Xの上司としての業務上の指導としてなされたものであるから、事業の執行についてなされた不法行為である。本件において、Y社がCに対する監督について相当の注意をしていた等の事実を認めるに足りる証拠はないから、Y社はXに対し民法715条1項の責任を負うこととなる。

3 Xは、Cから注意を受けた内容のメモを作成するように命じられ、誠実にミスをなくそうと努力していた中で、Cから人格を否定する言動を執拗に繰り返し受け続けてきた。Xは、高卒の新入社員であり、作業をするに当たっての緊張感や上司からの指導を受けた際の圧迫感はとりわけ大きいものがあるから、Cの前記言動から受ける心理的負荷の内容や程度に照らせば、Cの前記言動はXに精神障害を発症させるに足りるものであったと認められる。そして、Xには、業務以外の心理的負荷を伴う出来事は確認されていないし、既往症、生活史、アルコール依存症などいずれにおいても問題はないのであって、性格的な偏りもなく、むしろ、上記手帳の記載を見れば、きまじめな好青年であるといえる。
そうすると、・・・本件自殺とCの不法行為との間の相当因果関係が認められる。

叱責の域を超えて、人格を否定したり、威迫したと評価される場合には不法行為と認定されます。

上司も人間ですから、感情的になってしまうこともあります。だからこそ、このような裁判例を参考にして、冷静な対応が求められます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ10(N社事件)

おはようございます。

今日は、労働条件の説明義務違反、パワハラを理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成26年8月13日・労経速2237号24頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、労働契約締結時において労働内容について説明する義務を怠り、また、Y社担当者からパワーハラスメントを受け、損害を被ったとして、民法709条及び715条に基づいて損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労契法4条1項は、使用者に対し、労働条件及び労働契約の内容について労働者の理解を深めるようにすべきことを定めているものの、同条項は使用者の努力義務規定あるいは訓示規定であって具体的な権利義務を定めたものとは言い難く、同条項から直ちに使用者の説明義務が認められるものではない

2 労基法15条1項は、使用者に対し、労働契約を締結する際、労働条件を明示することを義務付けており、労働条件には、労働者が従事すべき業務も含まれる。しかしながら、同条項違反の効果としては、即時解除権の発生と帰郷旅費請求権の発生とされており(労基法15条2項、3項)、労基法15条1項をもって、直ちに使用者に対して、労働条件に関して、違反した場合に損害賠償義務が生じるような私法上の具体的な説明義務を課したものとは解しがたい。また、実際問題としても、求人募集の時点と労働契約の締結時点においては、時間的な間隔があるため、求人募集の時点において示される労働条件と労働契約の締結時点において示される労働条件が食い違うことは往々にして生じうるところでもある。したがって、労基法15条1項は、労働契約を締結する際における労働条件を明示する義務を使用者に課したものといえるが、具体的な説明義務を使用者に課したものとまで解することはできず、同条項に反したからといって直ちに説明義務違反が生じると解することはできない

3 もっとも、求人募集に応募する労働者は、募集条件として示された内容が労働契約締結時に大きく変更されることはないであろうと期待して応募しているのであるから、使用者としては、かかる労働者の期待に著しく反してはならないという信義誠実義務を負うものと解することはできる

4 パワハラについては、一応の定義付けがなされ、行為の類型化が図られているものの、極めて抽象的な概念であり、これが不法行為を構成するためには、質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。具体的にはパワハラを行ったとされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条の所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。
本件についてみると、そもそも、Xがパワハラを受けたと主張する時期や前後の経緯などは明確でなく、そもそも、Xの主張するところをもって、民法上の不法行為が成立しえるものといえるのか疑問であるし、その点をおくとしても、CやEは、Xに対して、Xが主張するような言動をとったことはないと否定しており、Xの供述以外に、Xの主張を裏付ける客観的な証拠もない

上記判例のポイント1、2は驚くような内容ではありませんが、労使ともに理解しておくべき内容です。

パワハラについては、立証不十分のため認定してもらえませんでした。

十分に準備をしてから戦いに挑まないと、多くの言動は立証できないことをいいことに事実を否定されてしまいます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ9(サントリーホールディングスほか事件)

おはようございます。

今日は、パワハラでうつ病発症・休職等を理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

サントリーホールディングスほか事件(東京地裁平成26年7月31日・労判1107号55頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Xの上司であったAからパワーハラスメントを受けたことにより鬱病の診断を受けて休職を余儀なくされるなどし、また、Y社の○○室長であったBがAの上記パワーハラスメント行為に対して適切な対応を取らなかったことによりXの精神的苦痛を拡大させたとして、A及びBには不法行為(民法709条、719条1項)が成立すると主張するとともに、Y社にはXに対する良好な作業環境を形成等すべき職場環境保持義務違反を理由とした債務不履行及びAの使用者であること等を理由とした不法行為(民法715条1項、719条1項)が成立する等と主張して、Y社らに対し、休業損害等合計2424万6488円の損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びAは、連帯して297万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Aの言動は、AがXを注意、指導する中で行われたものであったと認められるものであるが、一方、Aの上記言動について、AがXに対する嫌がらせ等の意図を有していたものとは認めることはできない
しかしながら、「新入社員以下だ。もう任せられない。」というような発言はXに対して屈辱を与え心理的負担を過度に加える行為であり、「何で分からない。おまえは馬鹿」というような言動はXの名誉感情をいたずらに害する行為であるといえることからすると、これらのAの言動は、Xに対する注意又は指導のための言動として許容される限度を超え、相当性を欠くものであったと評価せざるを得ないというべきであるから、Xに対する不法行為を構成するものと認められる。

2 Aの上記言動は、本件診断書を見ることにより、Aの部下であるXが鬱病に罹患したことを認識したにもかかわらず、Xの休職の申出を阻害する結果を生じさせるものであって、Xの上司の立場にある者として、部下であるXの心身に対する配慮を欠く言動として不法行為を構成するものといわざるを得ない。

3 Bは、X及びA双方に事情を聞くとともに、複数の関係者に対して当時の状況を確認するなどして適切な調査を行ったものといえる。そして、Y社においては通報・相談内容及び調査過程で得られた個人情報やプライバシー情報を正当な事由なく開示してはならないとされていることからすると、Bにおいて調査結果や判断過程等の開示を文書でしなかったことには合理性があったものといえ、しかも、Bは、Xに対し、Aへの調査内容等を示しながら、口頭でAの行為がパワーハラスメントに当たらないとの判断を示すなどしていたものであって、Bに違法があったということはできず、原告の上記主張は理由がない。

4 AのXに対する行為は、Y社の事業の執行について行われたものであって、不法行為を構成する以上、Aの使用者であるY社には使用者責任が成立する。
なお、本件全証拠を検討しても、Y社に職場環境保持義務違反及びY社自身のXに対する不法行為を認めるに足りる証拠はなく、Y社の債務不履行責任及び共同不法行為責任に係るXの主張はいずれも理由がない

損害としては、887万3642円を認定し、その後、素因減額(4割)、損益相殺をした後、270万円+弁護士費用(1割)という結論になりました。

どの会社でも起こり得る話です。

特に上司のみなさんは、成績不良な部下を持った場合には、感情的な対応をしないようにくれぐれも注意してください。

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セクハラ・パワハラ8(国立大学茨城大学(ハラスメント・名誉毀損)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、ハラスメント訴訟提起等を非難する学長所見などに対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

国立大学茨城大学(ハラスメント・名誉毀損)事件(水戸地裁平成26年4月11日・労判1102号64頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、D学部教授であったXらが同学部の学部長Eから受けたハラスメント言動に関する苦情申立てに対するY社の処理が不適切であったとしてY社に対し損害賠償請求訴訟を提起したことを非難する内容の文書並びに上記言動を原因とするXらのEに対する損害賠償請求訴訟におけるXらによる私的録音及び同録音記録の使用を非難する内容の文書を、それぞれ、Y社教職員全員にメールで一斉配信し、かつ、Y社管理の教職員専用電子掲示板に上記各文書を掲載したことにより、Xらの名誉が毀損されるとともにY社教職員らのXらに対する新たなハラスメントを招くなどXらの職場環境が悪化したなどとして、XらがY社に対し、709条(仮に民法上の不法行為責任が認められない場合には国家賠償法1条1項)に基づき名誉毀損による慰謝料各120万円の支払及び民法415条に基づき職場環境整備義務違反による慰謝料各150万円の支払並びに各慰謝料に対する遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条(仮に民法上の不法行為責任が認められない場合には国家賠償法1条1項)に基づき上記各文書の上記電子掲示板からの削除を求める事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料合計200万円を支払え

Y社に登録された教職員のパーソナルコンピューターからのみ閲覧可能な教職員専用の「全学電子掲示板」の中の「学長室だより」から「2教授が茨城大学を訴えた訴訟問題に関する「学長所見」」及び「大学における公式会議での私的録音記録の利用について」と題する書面を削除せよ

【判例のポイント】

1 一般に、文書による特定の表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断すべきであるところ(最高裁昭和31年7月30日判決)、一般の読者は、通常、文書に記載されている記事のうち、名誉毀損の成否が問題となっている記載部分のみを取り出して読むわけではなく、当該記事の全体及び前後の文脈から当該記載部分の意味内容を認識ないし理解し、これに評価を加えたり感想を抱いたりするものであると考えられるから、ある記事が他人の社会的評価を低下させるものであるか否かを判断するに当たっては、名誉毀損の成否が問題とされている記載部分の内容のみから判断するのは相当ではなく、当該記載部分の記事全体における位置付けや、表現の方法ないし態様、前後の文脈等を総合して判断するのが相当である。

2 また、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかによって、名誉毀損に係る不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、当該表現がいずれの範ちゅうに属するかを判別することが必要となるが、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属すると解するのが相当である(最高裁平成9年9月9日判決、最高裁平成16年7月15日判決)。

3 Xらは、本件掲示板から教職員宛学長所見及び本件文書を削除することを求めているところ、上記の各事情に加え、Xらは既にY社を退職しているものの、現在までXらとY社との間における前訴は継続していること、教職員宛学長所見及び本件文書は4年ないし5年以上も公表され続けていること、Y社が本件掲示板の中から教職員宛学長所見及び本件文書の削除をすることは容易であることからすると、Xらの名誉を回復する措置として、Y社に対し教職員宛学長所見及び本件文書の削除を命じるのは相当である

労働事件というよりは、名誉毀損事案ですかね。

裁判所の考え方を知るにはとてもいい裁判例だと思います。

参考にしてください。

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セクハラ・パワハラ7(ホンダカーズA株式会社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、元従業員による未払賃金・損害賠償請求(パワハラ)に関する裁判例を見てみましょう。

ホンダカーズA株式会社事件(大阪地裁平成25年12月10日・労判1089号82頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、未払賃金(アドバイス奨励金)、労基法37条所定の時間外割増賃金、深夜割増賃金及び同法114条に基づく付加金を請求するとともに、先輩従業員から業務指導に名を借りた暴言、暴行等のパワーハラスメントを受けたと主張して、Y社に対し、民法715条又は労働契約上の安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払いを請求する事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、割増賃金113万4799円及び付加金59万7208円の支払え。

2 その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本訴で請求するアドバイス奨励金の対象となるアドバイスや作業を具体的に特定することなく、Xが作成した平成21年1月~22年12月分の「月度アドバイス」に作業実施日が記載されたアドバイス内容の項目数に単価を乗じた金額と、毎月の給与明細から把握できる実際の奨励金支給額との差額を通算して請求しているが、これをもって「月度アドバイス」記載の各項目が奨励金の支給要件を満たしているとの主張立証がなされているとはいえない。

2 Xの割増賃金計算の基礎となる賃金は、基本給、皆勤手当、資格手当、ファイトマネー及びアドバイス奨励金であること、このうちファイトマネー及びアドバイス奨励金は、一種の出来高払制の賃金として、労働基準法施行規則19条1項6号に基づき割増賃金を算定すべきであること、割増賃金算定の前提となる平成21年及び平成22年の1年間における1月平均所定労働時間は、各170.5時間であることが認められる。

3 Xのパワーハラスメントに関する主張には、X本人の供述や陳述書等の記載以外の裏付けがない。加えて、Xは、自らY社代表者宛に文書を提出し、それを契機として直接対話する機会を得た経験を有しながら、それ以降、Dの粗暴な言動に苦しめられている旨の文書は、退職に至るまで一度も提出した形跡が窺われないことX側申請証人であるB工場長も、Xに対し職場でいじめが行われていたとの認識はなく、Xに対する粗暴な言動について見聞きしたところもないことに鑑みれば、Xの供述は総じて信用することができない。
よって、X主張のパワーハラスメントについては、その事実を認めるに足りる証拠がなく、また、認められる事実関係を前提にしても、およそXに対する不法行為や安全配慮義務違反を構成するとは認め難い。

特に上記判例のポイント3は、パワハラ事案の難しさが出ていますね。

客観的な証拠をそろえるのは本当に大変です。

ましてや、原告が申請した証人が職場でいじめが行われていたとの認識がなく、原告に対する粗暴な言動を見聞きしていないと証言するのでは・・・。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ6(M社事件)

おはようございます。

さて、今日は、従業員に対する暴言、暴行、退職強要行為と不法行為に関する裁判例を見てみましょう。

M社事件(名古屋地裁平成26年1月15日・労経速2203号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として勤務していたXの相続人らが、Xが自殺したのは、Y社の代表表取締役であるA及びY社の監査役であるBのXに対する暴言、暴行あるいは退職強要といった日常的なパワーハラスメントが原因であるなどとして、主位的には、Aらに対し、不法行為に基づき、Y社に対し、会社法350条及び民法715条に基づき、それぞれ損害賠償金及び遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y社に対し、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償金及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

なお、Xの死亡について、名古屋東労働基準監督署長は労災支給決定をしている。

【裁判所の判断】

Y社及びBは、合計約3600万円を支払え

Cに対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成21年1月23日に本件退職届を作成しているところ、(1)本件退職届にはY社が被った損害(1000万円から1億円)をXが一族で返済する旨の記載があったものと認められるが、Xにその支払能力があったとは窺えず、また、Xの一族にその返済をすべき責任があったとも窺えないから、Xが本件対処届の作成に任意に応じたものとは考え難いこと、・・・(3)Xは、同月19日にAから本件暴行を受けていたことからすれば、本件退職届を作成した当時において、Xは、Aを畏怖していたと認めるのが相当であることを考慮すると、AがXに対して本件退職届の内容で退職願を書くように強要したと認めるのが相当である。

2 AのXに対する暴言、暴行及び退職強要のパワハラが認められるところ、AのXに対する前記暴言及び暴行は、Xの仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、Xを威迫し、激しい不安に陥れるものと認められ、不法行為に当たると評価するのが相当であり、また、本件退職強要も不法行為に当たると評価するのが相当である。

3 ・・・以上によれば、短期間のうちに行われた本件暴行及び本件退職強要がXに与えた心理的負荷の程度は、総合的に見て過重で強いものであったと解されるところ、Xは、警察署に相談に行った際、落ち着きがなく、びくびくした様子であったこと、警察に相談した後は、「仕返しが怖い。」と不安な顔をしていたこと、自殺の約6時間前には、自宅で絨毯に頭を擦り付けながら「あーっ!」と言うなどの行動をとっていたことが認められることに照らすと、Xは、従前から相当程度心理的ストレスが蓄積していたところに、本件暴行及び本件退職強要を連続して受けたことにより、心理的ストレスが増加し、急性ストレス反応を発症したと認めるのが相当である。・・・したがって、Aの不法行為とXの死亡との間には、相当因果関係があるというべきである。

4 AはY社の代表取締役であること、及び、AによるXに対する暴言、暴行及び本件退職強要は、Y社の職務を行うについてなされたものであることが認められるのであるから、会社法350条により、Y社は、AがXに与えた損害を賠償する責任を負う。

5 ・・・以上によれば、Xの逸失利益は、2655万5507円(365万4763円×0.7×10.380=26555507円(小数点以下切り捨て)である。なお、上記金額は、原告ら主張の逸失利益1452万1387円を上回るが、他の費用と合計した金額が、原告らの請求額の範囲内に収まる限り、処分権主義あるいは弁論主義違反の問題は生じないというべきである。

自殺とパワハラとの間の因果関係が肯定されています。

それはさておき、上記判例のポイント5ですが、逸失利益が原告ら主張の金額を上回る判決になっています。

被告からすると、原告の請求した逸失利益が上限だと思って防御しますので、不意打ちになりませんかね・・・。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ5(C社事件)

おはようございます。

さて、今日は、上司による暴行および支配行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

C社事件(大阪地裁平成25年6月6日・労判1082号81頁)

【事案の概要】

Xは、平成21年3月から平成23年6月27日付けで退職するまで、Y社の従業員として雇用されていた者である。

Xは、上司であったAから胸部を拳で殴るなどの暴行を受けたり、「預かる」と称して運転免許証や携帯電話を提出させるなどの支配的行為を受けたとして、Y社らに対し、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

A及びY社に対し、連帯して23万0140円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 そもそも使用者が従業員に対し所持品検査を行うことは、業務上の不正防止等、企業の経営維持にとって必要とされる場合であっても、当然に適法視されるものではなく、それを必要とする合理的理由があって、就業規則等の根拠に基づき、一般的に妥当な方法と程度で、職場の従業員に対し画一的に実施されるなどの要件を満たすことが必要と解される(最高裁昭和43年8月2日判決)。ましてや、使用者といえども、従業員の私的領域にわたる指揮監督権を有するものではないことは当然であって、たとえ私生活面での規律を正すことが業務の改善に資することが期待されるとしても、そのような目的で所持品検査を行うことが正当化される余地はない

2 Xは、Aから受けた一連の暴行や私物の点検等の支配的行為により受けた精神的苦痛の慰謝料は100万円を下らないと主張する。
AのXに対する一連の暴行と財布と通帳の点検、運転免許証や携帯電話の取り上げといった私的領域への介入あるいは生活への支障を伴う財産権侵害行為は、Xに対し相応の精神的苦痛を与えたことは明らかであるが、他方で、暴行については、痛み止めの投薬と湿布の処方を要する傷害を負ったほかは、治療を要するような負傷をした事実が認められないこと、財布と通帳の点検については、当時のXが快く思わなかったことは当然であるとしても、著しい苦痛を受けたとまでは認め難いこと等に鑑みると、これらに対する慰謝料としては20万円を認めるのが相当である

3 Y社らは、Xの度重なる業務上の不始末や営業成績の不振と、Aの指導に対する態度の悪さが、Aを感情的にさせて損害の発生と拡大に寄与したとして、過失相殺を主張する。
しかし、Xの勤務状況に問題があるとしても、AのXに対する不法行為を正当化し得るものではなく、むしろ、Y社における良識と人権感覚を欠いた従業員への指導・管理の在り方ことが、Aが行ったような粗暴で威圧的な言動を誘発したというべきであるから、Xに生じた損害について過失相殺をすることは相当でない。

従業員の所持品検査については、最高裁判例があるので、参考にしてください。

弁護士が原告側の代理人としてパワハラ事案を担当する際、気をつけなければならないのは、依頼者に過大な期待を持たせないことです。

一般的に、「パワハラ」の違法性を立証することは容易ではないことに加え、仮に認定されたとしても、期待するような多額の慰謝料は認めてもらえないことが多いと思います。

つまり、費用倒れの可能性が出てきてしまうため、そのあたりを受任する際にしっかりと説明することが大切です。

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セクハラ・パワハラ4(アークレイファクトリー事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣先上司らによるパワハラ行為に対する損害賠償請求等に関する裁判例を見てみましょう。

アークレイファクトリー事件(大津地裁平成24年10月30日・労判1073号82頁)

【事案の概要】

本件は、派遣労働者として就労していたXが、その派遣先であったY社の従業員らから、度々、いわゆるパワハラに該当する行為を受け、同派遣先での労務に従事することを辞めざるを得なかったとの理由により、Y社に対し、①同従業員らの不法行為に関する使用者責任として、退職後の逸失利益、慰謝料および弁護士費用合計272万4085円、②固有の不法行為責任として、退職後の逸失利益、慰謝料及び弁護士費用合計272万4085円の総計442万4085円(なお、前記①および②の各退職後の逸失利益102万4085円の範囲につき、前記使用者責任とY社固有の不法行為責任は競合関係)および遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求のうち、慰謝料88万円を認めた。

【判例のポイント】

1 Y社の正社員であるFおよびEが、Xに対し、ゴミ捨てなどの雑用を命じていたことにつき、他の仕事ができないと決めつけ、あえて行わせたとまでは推認することはできないが、他方、Y社の正社員であり、Xを含む派遣労働者を指示・監督する立場にあるFらは、指揮命令下にある部下に対する言動において、その人格を軽蔑、軽視するものと受け取られかねないよう留意し、特に、派遣労働者という、直接的な雇用関係がなく、派遣先の上司からの発言に対して、容易に反論することが困難であり、弱い立場にある部下に対しては、その立場、関係から生じかねない誤解を受けないよう、安易で、うかつな言動は慎むべきところ、FらのXに対する各言動は、いずれも、その配慮を極めて欠いた言動で、その内容からすると、Fらの主観はともかく、客観的には、反論が困難で、弱い立場にあるX(の人格)をいたぶる(軽蔑、軽視する)意図を有する言動と推認でき、その程度も、部下に対する指導、教育、注意といった視点から、社会通念上、許容される相当な限度を超える違法なものと認められるから、Y社従業員であるFらのXに対する不法行為があったと認めるのが相当である。

2 Y社は、Fらを従業員として使用する者で、Fらによる前記で認定した不法行為は、FらおよびXが、Y社業務である本件労務に従事する中で、Y社の支配領域内においてなされたY社の事業と密接な関連を有する行為で、Y社の事業の執行について行われたものであるから、Y社は使用者責任を負うと認められ、また、Fらは、Xを含む派遣労働者に対する言葉遣いについて、Y社の上司から指導・注意および教育を受けたことはなかったことを自認しており、Y社が、その従業員であるFらの選任・監督について、相当の注意を怠ったと認めるのが相当である。

3 派遣先であるY社は、派遣労働者であるXを、本件労務に従事させるにあたり、これを指揮監督する立場で、Y社の正社員であるFらに対し、弱い立場、関係から生じかねない誤解を受けないよう、安易で、うかつな言動を慎み、その言動に注意するよう指導、教育をすべきところ、本件では、Fらに対して、本件苦情申出に至まで、何らの指導、教育をしていなかったことからすると、少なくとも、職場環境維持義務を怠った程度が、社会通念に照らし、相当性を逸脱する程度のもので、その結果、Xは、Fら、Y社の従業員らから、人格権侵害といえる言動等を被ったものと評価できるから、同義務違反に基づく、Y社固有の不法行為責任を認めるのが相当である

4 Xは、前記不法行為により、本件労務に従事することを辞めざるを得なかった旨主張するが、本件労務に従事するにあたり、派遣会社との間で、雇用契約を結んでいたものにすぎず、前記不法行為の結果、本件派遣期間満了後も、同派遣期間を更新し、Fらのもとで、就労することは困難であったことのみならず、前記不法行為の結果、派遣会社との間における雇用契約関係も終了せざるを得なかったことを認めるに足る証拠は何ら存在せず、かつ、本件派遣期間満了後、少なくとも、派遣会社から、他の派遣先に、派遣してもらって、就労することができなかったことを認めるに足る証拠もないことから、本件派遣期間満了後、Xが、再就職するまでの逸失利益につき、前記不法行為と相当因果関係があるとは認められない

Xは、派遣先会社の上司の発言を録音しており、これを証拠としたために、裁判所はパワハラを認定しやすかったわけです。

派遣先会社の方は、上記判例のポイント1を参考にしてください。

また、使用者責任のほかに会社の固有の不法行為責任を問われることがありますので、ご注意ください。

金額はそれほど大きなものではありませんが、会社のイメージを壊すものですので、安易には考えないことをおすすめします。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ3(C社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、事務職員へのパワハラ・セクハラと解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

C社事件(大阪地裁平成24年11月29日・労判1068号59頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、①Y社の代表者であるAからパワハラを、②Y社の従業員(専務)であるBからセクハラを、それぞれ受けたとして、不法行為に基づき、Y社及びA、そしてY社及びBに対し、それぞれ連帯して慰謝料の支払い(なお、Y社に対しては、いずれも債務不履行に基づく請求を選択的に併合している。)、③Y社から不当に解雇されたとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社と代表者Aは、Xに対し、連帯して30万円を支払え。

Y社と専務Bは、Xに対し、連帯して30万円を支払え。

解雇は無効→ただし、解雇による逸失利益の損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 証拠によれば、AがXに送信したメールにも、AがXに乱暴な口調や解雇をちらつかせたりして命令したり、行き過ぎた表現でミスを責めているものが認められるなど、Xの前記供述を裏付ける事実が認められるのに対して、それを否定するAやBの各供述は後述するように直ちには採用することができないことや、本件減給分の9万円を後にXに支払っていることなどを総合考慮すれば、Xの供述等はおおむね信用することができ、Xの前記主張は主要な点について認めることができる。

2 Xが供述している内容は、具体的かつ詳細で、証拠によれば、本件解雇後約1か月後から一貫して主張していることが認められる上、XがBと仕事以外の連絡を取るようになった経緯や、本件解雇をされたと主張する日の前日にBと一緒に食事をするなどの経緯、翌日も出勤するやBから事務室に呼び出されたことなど、主要な点は、Bにおいても認めている。そして、Xにおいて、むしろ退職を相談し、それを親身にのっていたBのセクハラを捏造してBを窮地に追いやる動機も特段認められないのに対して、セクハラを否定するBの供述は後述するように直ちには採用することができないことからすれば、Xの供述等はおおむね信用することができ、Xの上記主張は認めることができる。

3 XはY社から本件解雇をされたことが認められ、しかも、その原因は、Bから自分と交際するかY社を退職するかとの二者択一を執拗に迫られた結果、XがY社の退職を選択し、その一部始終をAに報告したところ、本件解雇をされたというものであって、Xが解雇されなければならない理由は何らないことは明らかである。

4 たとえ、Aにおいて、BがXにそのようなセクハラを行ったとは到底思えず、XのBに関する報告は嘘だと思ったとしても、Bの当該セクハラ行為はXと二人きりの場で行われたものであり、そのように断定するだけの客観的な根拠があるわけではないのであるから女性従業員のXが代表者のAにBからのセクハラ被害を報告し、Aもそれにより初めてそのような事実が存在する可能性を認知した以上、事業主であるAは、まず、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認するために、当事者のXとB双方から事実関係について充分聴取した上で、いずれの主張が信用できるか慎重に検討すべきである。にもかかわらず、Aは、はなからXの被害申告が虚偽であると決めつけているのであって、Aには重過失があることは明らかであるから、本件解雇は、社会的相当性を欠くものとして違法というべきである。

セクハラ・パワハラともに事実を認定してもらうのは、想像以上に大変なことです。

裁判所がどのような点に着目して、事実を認定しているのかを参考にしてください。

もっとも、この裁判例は、セクハラ・パワハラ認定に厳密さが欠ける感は否めませんが・・・。

また、従業員からセクハラ・パワハラの報告を受けた際の事業主の対応方法については、上記判例のポイント4を参考にしてください。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ2(ザ・ウィンザー・ホテルズ・インターナショナル(自然退職)事件)

おはようございます。今週もがんばっていきましょう!!

さて、今日は、自然退職扱い社員からのパワハラを理由とする損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ザ・ウィンザー・ホテルズ・インターナショナル(自然退職)事件(東京高裁平成25年2月27日・労判1072号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から休職期間満了による自然退職扱いとされたXが、Aから飲酒強要等のパワーハラスメントを受けたことにより精神疾患等を発症し、その結果、治療費の支出、休業による損害のほか多大な精神的苦痛を受けたと主張して、Y社らに対し、不法行為(Y社については更に労働契約上の職場環境調整義務違反)に基づく損害賠償金477万1996円及び遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、上記精神疾患等は業務上の疾病に該当するなどとして、休職命令及びその後の自然退職扱いは無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び自然退職後の賃金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの本件請求について、Yらに対し、不法行為に基づく慰謝料70万円の連帯支払を求める限度で認容し、その余を棄却し、自然退職扱いが有効であると判断した。

【裁判所の判断】

Yらに対し、連帯して150万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Xは、少量の酒を飲んだだけでも嘔吐しており、Aは、Xがアルコールに弱いことに容易に気付いたはずであるにもかかわらず、「酒は吐けば飲めるんだ」などと言い、Xの体調の悪化を気に掛けることなく、再びXのコップに酒を注ぐなどしており、これは、単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為上も違法というべきである(本件パワハラ1-①)。また、その後も、Aの部屋等でXに飲酒を勧めているのであって、本件パワハラ1-①に引き続いて不法行為が成立するというべきである(本件パワハラ1-②)。
また、Aは、翌日、昨夜の酒のために体調を崩していたXに対し、レンタカー運転を強要している。たとえ、僅かな時間であっても体調の悪い者に自動車を運転させる行為は極めて危険であり、体調が悪いと断っているXに対し、上司の立場で運転を強要したAの行為が不法行為法上違法であることは明らかである(本件パワハラ2)。

2 Xは、本件休職命令に対し、Y社に異議を唱えたことはなく、平成21年7月13日に休職期間が満了すること及び復職の相談があれば早期に申し出るようY社から告知を受けていたが、復職願や相談等の申出を提出することなく本件自然退職に至ったものであって、Y社が労働契約上の信義則に反したとか、本件退職扱いが権利の濫用であるとはいえない
また、A及びY社の作為又は不作為とXが復職しなかったこととの間に因果関係があるとはいえないから、当審におけるXの予備的請求も理由がない。

労働者(被害者)側からすると、パワハラ事案については、どのようにその証拠を集めるかが重要です。

判例は、あくまでも認定結果ですので、これだけを読むと、「そりゃパワハラでしょ」と思ってしまうのですが、裁判官に認定してもらうための証拠集めが大変なのです。

また、上記判例のポイント2のように、休職期間中や解雇予告を受けてからの労働者の対応を見られることはよくあります。対応のしかたを誤らないように注意が必要です。

会社側からすれば、日頃から管理職研修を徹底することに尽きます。

これを怠ると、本件と同じように使用者責任を問われますのでご注意ください。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。