Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ31 指導とパワハラの境界線は?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司によるパワハラの存否と賃金仮払いの可否等に関する裁判例を見てみましょう。

バイエル薬品(仮処分)事件(宮崎地裁平成28年8月18日・労判1154号89頁)

【事案の概要

本件は、Y社の従業員であるXが、平成27年4月1日以降、上司のパワーハラスメント等を原因とした心身の不調により出社困難になったとして出社しなかったところ、Y社は、同年9月分までの給与を支払ったものの、その後、退職を促すのみで給与の支払を行わないなどと主張して、Y社に対し、主位的に、雇用契約に基づき、平成28年2月分以降本案判決確定に至るまで、毎月末日限り55万8883円の賃金の仮払を求め、予備的に、労働基準法26条に基づき毎月33万5330円(賃金の6割)の休業手当の仮払を求める事案である。

【裁判所の判断】

申立て却下

【判例のポイント】

1 ・・・しかし、同陳述書によれば、B所長は、①会議の際、XがB所長の話に集中していない様子であったことから注意指導を行った、②取引先建物内において、Xが担当先について十分把握していなかったことから今後の営業活動に関する指示を行ったというのであり、部下であるXに対する注意指導、指示として合理的理由に基づくもので、その態様も一般的に妥当な方法と程度にとどまるものであるといわざるを得ない。
・・・以上によれば、本件において、Y社の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)、又は「責に帰すべき事由」(労働基準法26条)によりXが出社できなくなったということはできない。

2 なお、Xは、労働基準法26条の「責に帰すべき事由」は、民法536条2項の場合よりも広く解される旨判示した最高裁判所昭和62年7月17日判決(ノースウェスト航空事件)を指摘するも、本件は、同最判とは事案を大きく異にする上、そもそも本件においては、上記のとおり、B所長によるハラスメント行為自体の疎明を欠くといわざるを得ない以上、同最判の判示について特別の検討が必要であるとはいえない

パワハラと指導との区別については、評価の問題ですので、いつまでたっても争いはなくなりません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ30 パワハラを理由とする解雇の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、パワハラ等に基づく解雇無効地位確認等請求についての事例を見てみましょう。

マテル・インターナショナル事件(東京地裁平成29年1月25日・労判ジャーナル62号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結していた元従業員Xにおいて、①Y社に対し、試用期間中にされた解雇の無効を主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、これを前提として平成27年9月1日から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額100万円等の支払を求め、②Y社の代表取締役に対し、本件解雇に至るまでのXに対する言動及び本件解雇がXに対する不法行為を構成するとして、不法行為に基づく損害賠償として損害金200万円等の支払を求め、③Y社に対し、上記②の代表取締役の不法行為は、会社法350条に基づきY社の損害賠償責任を生じさせるとして、損害金200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 解雇事由の部下であるAに対するパワーハラスメントは重大な非違行為であり、解雇事由のパワーハラスメント行為の是正を実質的に拒絶する言動と相俟って、本件解雇の合理性を十分に基礎づける事由となるものであるが、解雇事由のパワーハラスメントは、その態様に鑑みて、ただちにXを会社から排除しなければY社の会社秩序及び就労環境の取り返しが付かないような破壊ないし悪化をもたらすがごとき、一刻を争う深刻さがあったものとまではいえないから、XのAに対する言動に是正の可能性がある限り、本件解雇の社会通念上の相当性を基礎づけるものとはいえず、そして、解雇事由のパワーハラスメント行為の是正を実質的に拒絶する言動は、代表取締役において、Xが冷静さを取り戻すための対応を執ることなく、本件解雇に及んだことは、社会通念上の相当性を欠くものといわざるを得ない。

2 Xには、パワーハラスメント行為ともなり得るようなAに対する違法な言動があり、また、部下であるBに対する不適切な指揮命令があったうえ、これを指摘し改善を促そうとした代表取締役の指導ないし注意に対しても、問題をすり替えて、部下従業員に対する適切な対応をすること等、本件解雇については、解雇の客観的な合理性が認められるものであるから、本件解雇をもって著しく相当性を欠く、違法な権利侵害行為となるものであるともいえず、また、仮に、本件解雇について不法行為が成立するとしても、本件解雇が無効となり、Xの労働契約上の地位が確認されるとともに、バックペイとして給与相当の経済的な損失が填補されることにより、Xの精神的損害も回復されるものというべきであるから、慰謝料により慰藉すべきことを相当とする精神的苦痛は存在しないものというべきである。

上記判例のポイント1で示されているパワハラで解雇する場合の判断基準は参考になりますね。

なかなかハードルが高いです。

解雇の有効性が相当性の要件で判断されている場合には、上記判例のポイント2のように慰謝料請求は通常否定されます。

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セクハラ・パワハラ29 男子学生による男性講師に対するセクハラ行為と慰謝料額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、男子学生による男性講師へのセクハラ行為の存否と職場環境配慮義務等に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人M学園ほか(大学講師)事件(千葉地裁松戸支部平成28年11月29日・労判1174号79頁)

【事案の概要】

Xは、Y社に雇用され、Y社が経営するZ大学で英語の非常勤講師として稼働していたものであるが、本件のうち、Aに対する請求は、Xが、自身のクラスの生徒であるAから、授業中に臀部を触られるなどしたため多大な精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき慰謝料100万円及び弁護士費用10万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

他方、Y社に対する請求は、Y社はXとAとの言い分が対立している状況の下で、X代理人立会いの下でX本人からの事情聴取をせず、不十分な調査をするにとどめた上、XとAとの関係の改善に向けた方策を何も講じなかったことから、Xが多大な精神的苦痛を被ったとして、労働契約における債務不履行に基づき慰謝料150万円及び弁護士費用15万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Aは、Xに対し、11万円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、88万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 XがAの行為によって受けた精神的衝撃は、決して小さなものではないと考えられるが、Aはあくまで「ノリ」で行為に及んだもので、A自身の性欲を刺激興奮させ、又は満足させるという性的意図の下に及んだものとは認め難く(最判昭和45年1月29日参照。したがって、Aの行為は、刑法176条の強制わいせつ罪に該当するものではない。)、この意味において、Aの行為の違法性は、さほど強いものではないというべきである。
加えて、「ノリ」で行為に及んだAからすれば、Xが提訴するほどまでに精神的苦痛を被るとは予想していなかったことがうかがえる上、Aの年齢等を考慮するとAがそのような認識を持ったとしてもそれはやむを得ない側面があることも否定できず(なお、これは、Aの行為が法的に許されるということを意味するものではない。)、そういった事情からすれば、AがXに支払うべき慰謝料の額については、相当因果関係の点からそれほど高い金額を認定することは困難であって、結論としては、10万円が相当である。

2 Y社が、A(2回)及びX(1回)に対する事情聴取並びに出席していた学生4名からの電話による事情聴取により、AがXの臀部に触った可能性は否定できないとの印象を有していたところ、その後Xから再度の事情聴取をせずに、ハラスメント調査委員会が前記のようなEらの印象を覆してAによるハラスメント行為はなかったという結論を下したことについては、不十分な調査によって被用者であるXに不利な結論を下したという外はなく、Y社の措置は労働契約上の義務に違反するものと認められる。
また、Y社の措置は、結局のところXの思いを封じ込める形で事態の解決を図ったものといわざるを得ず、XとAとの関係を「改善させるため」の具体的方策を講じたとは認め難いのであり、加えて、Y社がAに対して次回のXの授業への出席を見合わせるよう指導し、次いでAの英語科目のクラスを変更する措置をとったことが事実であるとしても、これらの措置はXとの関係を改善させるものではなく、単に両者間のトラブル再発を防止するために意味があるにとどまるのであって、この点においても、Y社には労働契約上の義務違反が存するといわざるを得ない。

3 Xは、Y社がX代理人不在のままX本人から事情聴取を行ったことを問題視するところ、弁護士から受任通知を受けた場合には、委任者本人と直接接触することは避けるべきであり、そのことを知らない場合であれば、顧問弁護士等に相談するなどして弁護士が受任した場合にとるべき対応について指導を仰ぐべきであったといえる。
この意味において、Y社の対応は問題があったといわざるを得ないが、弁護士からの受任通知を受けた場合に委任者である本人と接触すべきでないということは、法曹関係者間では格別、世間一般においてはかような認識が広く行き渡っているとはいい難いところがあることに加えて、X本人はあくまで被害者として事情聴取を受けたものであって、弁護士立会いの必要性は加害者に対する事情聴取の場合よりも小さいと考えざるを得ない。
そうすると、この点をもって慰謝料増額事由と評価するのは、相当とはいえない。
その点を措くとしても、Y社はAの履修継続及び事態の早期決着を目指すことを優先して、X側の言い分を尊重しない行動に出たものという外はなく、Y社のかような対応は、非常勤講師である原告を精神的に相当傷つけたものと認められる。
その上で、Y社がXに支払うべき損害賠償の額については、Xが既に再就職を果たしていることを含め、諸々の事情を総合すると、80万円が相当である。

いつもながら、本件のような類型の裁判で裁判所が認める慰謝料の金額はせいぜいこの程度です。

場合によっては費用倒れとなってしまいます・・・。

とにかく慰謝料の金額が低いのですよ・・・。

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セクハラ・パワハラ28 自宅待機期間中の給与を平均賃金の6割とすることの是非(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、セクハラ行為に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ほけんの窓口グループ事件(大阪地裁平成28年12月15日・労判ジャーナル61号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、女性従業員に対するセクハラ行為を理由として、懲戒解雇処分を受けたため、Xが、かかる行為はしておらず、同処分は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、平成26年12月以降の賃金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇無効確認請求は棄却

未払賃金等支払請求は一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、女性従業員に対し、平成25年11月、マフラーで首を絞めて駐車場の奥まで引きずり、キスをするというセクハラ行為に及んだもので、その態様は粗暴かつ悪質で、刑事犯にも該当しうる行為である上、Xは平成23年12月及び平成24年7月にも深夜の公園や路上で女性従業員に無理矢理キスをするというセクハラ行為に及び、さらに、平成24年8月にも午後11時頃に女性従業員を公園に連れて行こうとしたのであり、このようなXの一連の行為が、就業規則の懲戒解雇事由に該当することは明らかであるところ、上記態様の悪質性やセクハラ行為の回数のほか、XがY社による調査を受けても、セクハラ行為そのものをすべて否認し、Y社や女性従業員に対する謝罪や反省の態度を一切示していなかったことにも鑑みれば、Y社がXを懲戒解雇処分としたことについては相当性があると認められ、本件懲戒解雇処分は有効であるから、XのY社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求及び本件懲戒解雇処分後の賃金請求についてはいずれも理由がない。

2 一般論として、自宅待機命令は、使用者が、労働者に対し、一方的に就業を禁止するものであるから、使用者は、民法536条2項により、その間の賃金支払義務を負う場合が多いものと解されるが、民法536条2項は任意規定であり、就業規則でこれと異なる規定を置くことは排除するものではなく、就業規則49条2項は、従業員の行為が懲戒事由に該当するおそれがある場合に、その調査や懲戒処分の決定に必要な期間に限り自宅待機命令をし、その間の賃金を平均賃金の6割とするものであって、就労を許容しないことに実質的な理由がある場合に限定されており、その期間も限定されていること、その金額も労働基準法26条の休業手当と同額であることに鑑みれば、同規定には合理性があると認められる。

上記判例のポイント2は参考になりますね。

もっとも、現行の制度を変更する場合には、不利益変更となりますので、そう簡単にはできませんが。

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セクハラ・パワハラ27 パワハラ事案で慰謝料400万円が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラを理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

コンビニエース事件(東京地裁平成28年12月20日・労判1156号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営するコンビニ店舗で平成22年9月から平成23年12月26日までの間勤務していたXが、その勤務期間中に、Y社の代表者であったA及び前記店舗の店長であったBから、暴行、サービス残業の強要等のいじめ・パワーハラスメントを日常的に受けたと主張して、Y社らに対し、損害賠償等として3287万3765円+遅延損害金等の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びAは、Xに対し、連帯して930万4211円+遅延損害金を支払え

Bは、Xに対し、910万4211円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、人とコミュニケーションをとるのが苦手であり、物事がうまくいかないとすぐ投げ出してしまうところもあって、本件3店舗でも、手順が悪かったり、仕事が遅かったりしたことがよくあったと認められ、このようなXに注意、指導をしようとしたのがきっかけになっていることもうかがわれるが、前記認定に係る事実は、いずれも適正な業務上の注意、指導の範疇を超え、暴力を伴うなど、相手方たるXに過度の心理的負荷を与えるものとして、いじめ・パワハラに当たり、不法行為を構成するというべきである。

2 本件では、1年数か月にわたっていじめ・パワハラが継続された上、その態様をみても、暴力的ないじめ・パワハラでは、身体に対する具体的な危険を伴うものがいくつもあり、右手の傷に関しては、具体的な後遺障害を認定するまでには至らず、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料や休業損害を認めることはできないものの、その結果は軽視できないし、その他の部位に対する暴行も含めて、場合によっては重大な結果を生じかねなかったことは否定し得ないのであって、非常に悪質である。精神的・経済的ないじめ・パワハラでも、商品を買い取らせるなど、様々な方法で経済的負担を強要したりしており、非常に悪質である。かかるいじめ・パワハラにより、Xが身体的にも、精神的にも多大な苦痛を被ったことは明らかであって、このほかに、具体的な損害としては算定し難い事柄など、本件に顕れている諸事情を総合考慮すると、個別に認めたもののほかに、慰謝料として400万円を認めるのが相当である。

パワハラ事案としては、非常に高額な慰謝料が認められています。

態様を見るかぎり、刑事責任も問われる可能性が高い事例です。

通常問題となる指導とパワハラの区別のような限界事例とは程遠いケースです。

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セクハラ・パワハラ26 ハラスメント加害者の反省の程度と懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ハラスメント行為を理由とする懲戒解雇の有効性が争われた裁判例を見てみましょう。

Y社事件(東京地裁平成28年11月16日・労経速2299号12頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社の行った懲戒解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年8月以降本判決が確定するまでの間の賃金及び年2回の賞与の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、平成26年3月末にB及びDに対するハラスメント行為によりY社から厳重注意を受け、顛末書まで提出したにもかかわらず、そのわずか1年余り後に再度F及びEに対するハラスメント行為に及んでおり、短期間に複数の部下に対するハラスメント行為に及んだ態様は悪質というべきである。また、Xによる上記行為の結果、Fは別の部署に異動せざるを得なくなり、Eに至っては適応障害に罹患し傷病休暇を余儀なくされるなど、その結果は重大である。

2 Xは、2度目のハラスメント行為に及んだ後も、自身の言動の問題性を理解することなく、あくまで部下への指導として正当なものであったとの態度を一貫して変えず、全く反省する態度が見られない。Xは、本人尋問において、1回目のハラスメント行為後のJらによる厳重注意について、「緩い会話」であったと評しており、この点にもXが自身の言動の問題性について軽視する姿勢が顕著に現れているというべきである。また、Xの陳述書や本人尋問における供述からは、自身の部下に対する指導方法は正当なものであり間違っていないという強固な信念がうかがわれ、Xの部下に対する指導方法が改善される見込みは乏しいと判断せざるを得ない。
このように、Xは、部下を預かる上司としての適性を欠くというべきである。

上記判例のポイントのように、訴訟における原告の主張や本人尋問の内容から原告が反省していないこと、自身の言動は正しかったという偏った考え方への固執を明らかにし、懲戒解雇等の処分の正当性を補足することができます。

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セクハラ・パワハラ25 同僚職員に対する土下座要求とその場にいた他の従業員に対する不法行為該当性(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、亡郵便局員の致死性不整脈突発死に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(福岡高裁平成28年10月25日・労判ジャーナル58号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の設置するA郵便局、B郵便局等の郵便局において郵便局員として稼働していたXについて、Xが病気休職中に、当時所属していたC郵便局の駐車場に駐車した車両内において、ストレスを原因とする致死性不整脈を突発して死亡したのは、Xがその上司である郵便局長らからいわゆるパワーハラスメントを受けたためであるなどと主張して、不法行為又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、Xに生じた損害金の一部である1億円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料300万円を認容

【判例のポイント】

1 Z局長が、C郵便局の職員朝礼の際に、Xの同僚の職員を他の職員の前で土下座させたものであって、たとえ、それがXに対して行われたものでなかったとしても、Xを含むその場にいたすべての職員に対する関係においても不法行為を構成するものであり、Xを含む職員に対する安全配慮義務に違反する行為であったと認めるのが相当であり、また、Z局長からXに対する、「窓口には、就かせられん」、「いつ辞めてもらってもいい」などという発言は、Xがうつ病に罹患していることを知っていた上司であるX局長が、窓口業務を希望していたXに対してする発言としては不適切であり社会通念上の相当性を欠くものであることは明らかであって、不法行為に該当し、Y社に安全配慮義務違反があったといわざるを得ず、さらに、うつ病により病気休暇を取得していたXが職場復帰を求めた際の面談において、Xに対して職場復帰の時期を遅らせることを強く求めた言動も、不法行為に該当し、また、Y社に安全配慮義務違反があったと優に認めることができる。

2 本件言動とXが被った精神的苦痛及びXのうつ病の増悪との間に相当因果関係を認めるのが相当であり、Z局長の職員に土下座をさせるという社会的相当性を欠いた本件言動に直面したXが、息苦しさを覚えたものであり、本件言動を目撃したXが精神的苦痛を被ったことは優に推認され、Z局長による本件言動とこれによりXが被った精神的苦痛及びXのうつ病の増悪との間には、相当因果関係が認められるが、他方で、Xの死亡と、本件言動との間に相当因果関係を認めることはできない

3 Xが精神的苦痛を受けたことに対する慰謝料としては、その不法行為又は安全配慮義務違反の程度や、これらによってXのうつ病が増悪したことに照らすと、300万円が相当であると認められ、損害額の算定にあたり、Xがうつ病に罹患していたこと等を踏まえても、過失相殺及び素因減額すべきでない。

Xに対して土下座をさせたものではないけれど、その場にいたXを含む職員全員に対しても不法行為を構成するとされていますが、そういうものでしょうか・・・?

自分がXの代理人だとして、このような主張をしたか(できたか)自信がありません。

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セクハラ・パワハラ24 企業が設定した目標が達成困難であるとハラスメントにあたる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、役職定年制度規程に基づく支店長の地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

北おおさか信用金庫事件(大阪地裁平成28年8月9日・労判ジャーナル57号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の支店長の地位にあったXが、役職定年制度規程に基づき専任職として処遇されることとなったが、Xを専任職として処遇することは人事権の濫用に当たるとして、支店長の地位にあることの確認及び主位的に不法行為に基づく損害賠償として、予備的に(第二次請求として)雇用契約に基づく賃金請求として、専任処遇後の差額賃金・賞与の支払を求めるとともに、本件処遇が不法行為に当たる、本件処遇後にハラスメントを受けたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 職位は、当該会社における制度設計によっては、当該職位に基づいて付与される賃金等の待遇を表す地位と捉えることも可能であるところ、Y社では、役席によって役割給の金額が定まるとされていること、支店長の役割給が22万0500円であるのに対し、担当副部長の役割給が14万2500円であることが認められ、かかる制度設計からすれば、職位が支店長であるのかそれとも担当副部長であるのかによって、支給を受ける役割給の金額が異なることとなり、そして、Xが、現在もY社に在籍しており、今後も毎月継続的にY社から役割給を含む賃金の支払を受ける地位にあることからすれば、Xが支店長として役割給を受ける地位にあるか否かを判断することが紛争の抜本的解決にも資するということができるから、Xの請求は、確認の利益があるといえる。

2 Xについては、Y社もその渉外力・交渉力については高い評価をしており、実際、本件処遇後も、良好な営業成績を上げていることに照らしても、Xが渉外力・交渉力を要する業務については能力を有しているといえるものの、支店長として、組織運営という業務に従事するに足りるかという観点からみた場合には、Y社が求める水準には達していないと評価したことが不当であったということはできず、本件処遇が人事権の濫用に当たるということはできない。

3 本件処遇が人事権の濫用に当たると認めることはできないから、本件処遇が不法行為に当たるということもできず、また、Xが勤務経験がない拠点内の支店に配属されたことをもって、不平等な取扱いを受けたということはできず、さらに、企業が目標を設定する際に、容易に達成可能な目標を達成するのではなく、達成が困難な目標を設定した上で、職員に奮起を求めることとすること自体には問題がなく、そして、企業が従業員個人の目標を設定すること自体にも問題はないから、融資獲得目標額がY社が定めたものであり、その額が高額であったことをもって、ハラスメントであるということはできないこと等から、本件処遇が不法行為に当たること、あるいはXが本件処遇後にハラスメントを受けたことを認めるに足りる証拠ない。

上記判例のポイント3は是非参考にしてください。

高い目標を設定する自体は違法でもなんでもないと判断されています。

そりゃそうでしょ。

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セクハラ・パワハラ23 上司の不相当な対応が慰謝料請求は棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラに基づく損害賠償請求が棄却された裁判例を見てみましょう。

日東電工事件(大阪地裁平成28年9月2日・労判ジャーナル57号25頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、Y社に対し、配転合意の無効を理由とする配転先での就労義務の不存在確認を求めるとともに、上司からパワーハラスメントを受けたとして、使用者責任に基づく損害賠償請求等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、室長が、Xに対し、残業を禁止する一方で残業しなければこなせないような量の業務を課して、無給の残業を強要した旨主張するが、室長がXに対し無給の残業を強要したとは認められず、また、休憩時間中の昼寝を禁止したことまでを認めることはできず、さらに、室長のいずれのメールも、年休を取得しないで勤務するように述べたものではなく、その内容自体は、業務の適正な範囲内の指導であるが、他方、いずれのメールも、Xが年休の取得を申請した直後に送信されており、室長に年休の取得自体を非難する意思はなかったとしても、部下であるXの立場からすれば、年休取得を非難されているように受け止めることは無理もないといえるから、室長が上記各メールを送信したことは、時期において相当とはいえないが、Xの年休の取得がいずれも申請のとおり認められていることに鑑みると、室長が上記各メールを送信した行為は、慰謝料請求を認めるほどの違法性はないといえる

一部不適切な対応があったことは認められますが、不法行為を構成するほどの違法性は認められないという判断です。

不適切だからといって慰謝料の支払い義務が生じるとは限らないということを理解するには参考になる事案です。

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セクハラ・パワハラ22 エビデンスがない場合のパワハラに基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、視覚障害者のパワハラ等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

KDDIエボルバ事件(東京地裁平成28年8月2日・労判ジャーナル57号46頁)

【事案の概要】

本件は、てんかん及び左同名半盲の視覚障害を有し、Y社との間で、障害者雇用枠での雇用契約を締結し、稼働した後、退職したXが、Y社に対し、Xを侮辱し、パワハラをしたことが、職場環境配慮義務違反の債務不履行及び不法行為に当たると主張して、損害賠償として、精神的苦痛の慰謝料150万円の支払いを求め、また、本件健康診断の視力検査の際にXを受傷させたことが、安全配慮義務違反の債務不履行及び不法行為に当たると主張して、損害賠償として、治療費等22万円の支払いを求めるとともに、Xに対して違法な退職勧奨をしたことが不法行為に当たるとして、本件退職の意思表示をした日である平成25年11月8日から平成26年9月30日までの間の未払賃金相当損害金約223万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XがY社従業員から怒鳴りつけられ、侮辱されたという事実を裏付けるに足る的確な証拠はなく、また、Xを殊更晒し者にしてその人格を否定し、パワハラと評すべき対応をしたことをうかがわせる証拠はないこと等から、パワハラに関するXの主張は理由がない。

2 Xは、眼痛で欠勤していたところ、Y社の従業員から欠勤が続けば解雇になるという説明を受け、解雇か辞職かの二者択一を迫られて辞職しているが、Xの眼痛が業務上の負傷であるとは認め難く、解雇が制限されるとは認められないので、欠勤が続けば解雇になるとの会社の説明が虚偽であったとか、違法な退職勧奨に当たるとはいえないから、Y社従業員の説明が虚偽であり、違法な退職勧奨をしたことを前提とするXの錯誤の主張は、その前提を欠き、理由がないと言わざるを得ない。

パワハラ事案では、多くの場合、原告側(労働者側)の立証の困難さをどう克服するかが鍵となります。

言った言わないのレベルと、仮に言ったとして、それが違法と評価できる程度のものかというレベルがあり、

前者をクリアできない限り、後者の問題になり得ません。

立証をどうするかということを事前に考えておく必要があるわけです。

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