Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ34 違法な指導と慰謝料の金額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、元警察官らの人格権等侵害に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

熊本県・熊本県警察事件(福岡高裁平成29年9月15日・労判ジャーナル69号34頁)

【事案の概要】

本件は、熊本県警察に警察官として採用され、熊本県警察学校に入校した元警察官ら(A,B、C)が、熊本県に対し、警察学校の教官の指導に違法があり人格権等を侵害されるとともに、違法な退職勧奨により辞職を余儀なくされたとして、国家賠償法1条1項に基づき、それぞれ損害賠償金約569万円(逸失利益・慰謝料等)の支払を求めたところ、原審が、A及びBの各請求をそれぞれ11万円の限度で、Cの請求を22万円の限度で認容したため、元警察官ら及び熊本県がいずれも原判決を不服として控訴した事案である。

【裁判所の判断】

原判決一部変更
→A及びBの認容額を22万円に変更

【判例のポイント】

1 Hは、Aに対し、警察学校に在校しづらくなることを示しながら、監察課に連絡した教官によるAに対する暴行はなかったとしてこれを取り下げるように父親に働きかけることを要求したことが認められ、Aに対する不法行為となり、また、Fは、Bに教室の最後列の後ろに机を持って移動させているところ、このことが他の学生から孤立させられ、他の学生に対するいわば見せしめとされたような屈辱感をBに与えるものであるから、指導として違法といわざるを得ず、さらに、キャビネットの施錠忘れは警備当番であったLによるものであったが、同人のほかBを含む警備当番3名の連帯責任とされたものであるところ、Cのみに重量が少なくとも5キログラムある上記盾及び2023グラムのダンベルを持って走ることが命じられたこと、その時間も合計約1時間に達することを考慮すると、指導として合理性を欠くものといわざるを得ず、違法であること等から、Aらの請求はいずれも22万円等の支払を求める限度で理由がある。

これが日本の慰謝料の相場です・・・。

弁護士費用が費用倒れになるような金額しか認めてくれません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ33 パワハラ被害者が会社の調査に非協力的な場合の慰謝料額への影響(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、上司の不正を内部告発した准教授へのパワハラと損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

国立大学法人金沢大学元教授ほか事件(金沢地裁平成29年3月30日・労判1165号21頁)

【事案の概要】

(1)Y社が設置するY大学及びY大学院の准教授であるXが、Xが所属する教室の主任であったAに対し、①Aから度重なるハラスメント行為を受けたと主張して、不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき、1920万円+遅延損害金の支払いを求めるとともに、②前記のハラスメント行為により、Xは本件大学及び本件大学院において、平穏かつ充実した環境の下で研究教育活動を行うことを妨げられていると主張して、人格権及び准教授の学校教育法上の地位に基づき、Xが本件大学及び本件大学院で行う研究、学生に対する教授、研究指導活動についての妨害活動及び名誉毀損行為の差止めを求める事件(甲事件)、
(2)Aが、①Xによる上記(1)の提訴は、存在しないハラスメント行為について損害賠償及び差止めを求めるものであり、Xもハラスメント行為が存在しないことを熟知していたか、通常人であれば容易にそのことを知り得たのに敢えて提起したものであるから、訴えの提起自体が違法である、②Aは、Xの暴行により顔面打撲等の傷害を負ったなどと主張して、Xに対し、いずれも不法行為を理由とした損害賠償請求権に基づき、200万円+遅延損害金の支払を求める事件(乙事件)
(3)Xが、Y社に対して、①Y社が、AのXに対するハラスメント行為に加担し、またはこれを放置したとして、労働契約上の内部告発者の保護義務ないし職場環境の整備義務違反の債務不履行に基づき、又は、②Aの行為について民法715条ないし国家賠償法1条1項に基づき、合計1500万円+遅延損害金の支払いを求めるとともに、労働契約上の職場環境整備請求権に基づき、Xが本件大学及び本件大学院で行う研究、学生に対する教授、研究指導活動について、Aが妨害活動及び名誉毀損行為をすることをY社において防止すること及びY社がこれらに加担しないことを求める事件(丙事件)である。

【裁判所の判断】

1 甲事件のうち、差止請求に係る訴えは却下
2 甲事件Aは、Xに対し、165万円+遅延損害金を支払え
3 甲事件XのAに対するその余の請求は棄却
4 甲事件AのXに対する請求は棄却
5 丙事件のうち、XのY社に対する行為請求及び差止請求に係る訴えは却下
6 Y社は、甲事件Xに対し、220万円+遅延損害金を支払え
7 Xの丙事件Y社に対するその余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Aの行った違法な行為のうち、①Xの使用する機器室とセミナー室との間に間仕切り状のホワイトボード等を設置させた行為、②本件鍵の管理に係る行為、③本件発言をした行為、④D事務部長に「X助教授の勤務実績について(報告)」と題する書面を提出した行為及び⑤平成24年度以降の授業の割当てに係る行為については、国会賠償法1条1項の適用があるため、Y社は、上記①ないし⑤の行為によって生じた損害について、Xに対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。

2 ・・・このようなAの行為の態様、継続された期間等に鑑みれば、Aの上記行為によるXの不利益は座視できないものがある。しかしながら、他方、Y社の職員らによるハラスメントを調査するための面談にXが応じなかったことが、Aによるハラスメント行為が長期化したことの一因となったことも否定できない(Xの行動は、Y社職員らによるハラスメント調査に対する不信感を拭えなかったことも影響していたと解されるけれども、事態の解決に向けた対応・態度をとることは可能であったと思われる。)。
これら本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、Xが、Aの上記行為による受けた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、150万円をもって相当と認める。

ハラスメントを受けた従業員が会社の調査に応じなかったことが慰謝料算定に影響を及ぼしているようです。

影響を及ぼした結果、具体的にいくら金額が減額されたのかまでは明らかではありませんが、参考になる判断ですね。

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セクハラ・パワハラ32 代表者の不適切発言を理由とする慰謝料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、代表取締役の従業員に対する言動等について会社に会社法350条に基づく責任が認められた裁判例を見てみましょう。

F社事件(長野地裁松本支部平成29年5月17日・労経速2318号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXらがY社らに対して次のとおりの請求をする事案である。
1 Xらが、Y社の代表取締役であるAから在職中にパワーハラスメントを受けたと主張して、Aに対しては不法行為に基づき、Y社に対しては会社法350条に基づき、慰謝料等の支払を求めるもの(請求の趣旨1項)。
2 Xらが、平成25年度夏季賞与を根拠なく減額されたと主張して、Y社に対し、減額分の支払を求めるもの(請求の趣旨2項の一部及び3項の一部)。
3 Xらが、会社都合退職の係数によって算定された退職金が支給されるべきであると主張して、Y社に対し、支給された退職金との差額の支払を求めるもの(請求の趣旨2項の一部,3項の一部,4項及び5項)。
4 X2が、違法な降格処分をされたと主張して、Y社に対し、当該処分によって支給されなかった賃金相当額の支払を求めるもの(請求の趣旨3項の一部)。

【裁判所の判断】

1 Y社らは、連帯して、X1に対し22万円、X2に対し110万円、原告X3に対し5万5000円、X4に対し5万5000円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、12万6265円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、201万9744円+遅延損害金を支払え。
 Xらのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 AのX2に対する下記の発言はいずれも不法行為に当たる。
(ア)平成25年4月1日の「係長もいますね。女性の方もいらっしゃいます。そういう方も含めてですね、これは私がしている人事ではありませんから、私ができないと思ったら降格もしてもらいます」との発言は、X1とX2を降格候補者として挙げており、根拠もなく同原告らの能力を低くみるものである
(イ)同月8日の「人間、歳をとると性格も考え方も変わらない」との発言は、年齢のみによって原告X2の能力を低くみるものである。
(ウ)同月15日の「自分の改革に抵抗する抵抗勢力は異動願いを出せ。」との発言は、50代はもう性格も考え方も変わらないから、X2を含む50代の者を代表者に刃向かう者としており、年齢のみによってX2らの勤務態度を低くみるものである。同月19日の「社員の入替えは必要だ。新陳代謝が良くなり活性化する。50代は転勤願を出せ」との発言も、X2を含む50代の者をY社の役に立たないとしており、年齢のみよってX2らの能力を低くみるものである。

2 Y2は、同年7月12日、Aに対して、平成25年夏季賞与のマイナス考課について説明した際に「辞めてもいいぞ」と述べているところ、上記マイナス考課は理由のないものであって、理由のなく賞与を減額した上で「辞めてもいいぞ」と述べているのであるから、上記マイナス考課はX2を退職させる目的でされたものと認められる。
また、本件降格処分も理由のないものである上、Aは本件降格処分を行うに当たって、処分の軽重を決定する重要な要素であるX2の経理処理によってY社に生じた損害の多寡の確認をしていないし、懲戒処分の基準を定めた賞罰規程の内容の確認もしていないのであって、このような結論ありきの姿勢は、本件降格処分がX2を退職させる目的であったことを推認させるものといえる。

3 AがX2を退職させる目的で理由のない賞与減額と懲戒処分を立て続けに行ったことは悪質である。また、AがX2を侮辱する発言を繰り返していることも軽視できない。
他方、不法行為の期間が長いとはいえない上に、平成25年5月と6月は目立ったものはなく、継続的な不法行為があったともいえないという事情も存在する。
これらを総合すると、X2に対する慰謝料としては100万円、弁護士費用としては10万円を相当額と認める。

4 X2は、誰を接待したのか不明の支払申請書や飲食日が不明又は修正液で白塗りされた請求書に基づいてBの交際費の経理処理をしたのであるが、このようなY社のための費用であるのか、当該事業年度の費用なのかを確認することなく経理処理したことはずさんなものというほかない
他方、上記の事情によってBの交際費として計上したものが税務署から交際費であることを否認されたというような事情は見当たらず、X2の上記の経理処理がY社の納付した延滞税及び重加算税についてどの程度の原因となっていたのかは証拠上明らかではない。また、本社は、Y社の交際費が販売子会社の中でも突出して多いことをかねてから把握していながら、Y社が利益を上げていたとして、Y社の交際費について精査することがなかったのであり、顧問会計事務所も問題点を指摘しなかったことも併せ考慮すれば、X2の交際費の経理処理が延滞税及び重加算税に影響を与えていたとしても、それを主にX2の責任であったとすることはできない
したがって、X2の会計処理は、就業規則93条1項4号所定の事由に当たるものの、上記の事情に照らすと、X2を降格処分としたことは相当性を欠くというべきである。

仮に思っていても言っていいことと悪いことがあります。

それは政治家も経営者も同じことです。

パワハラ問題は、「そんなことを言ったら問題になるに決まっているでしょ」ということを平気で言ってしまうデリカシーのなさが1つの原因になっているわけです。

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セクハラ・パワハラ31 指導とパワハラの境界線は?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司によるパワハラの存否と賃金仮払いの可否等に関する裁判例を見てみましょう。

バイエル薬品(仮処分)事件(宮崎地裁平成28年8月18日・労判1154号89頁)

【事案の概要

本件は、Y社の従業員であるXが、平成27年4月1日以降、上司のパワーハラスメント等を原因とした心身の不調により出社困難になったとして出社しなかったところ、Y社は、同年9月分までの給与を支払ったものの、その後、退職を促すのみで給与の支払を行わないなどと主張して、Y社に対し、主位的に、雇用契約に基づき、平成28年2月分以降本案判決確定に至るまで、毎月末日限り55万8883円の賃金の仮払を求め、予備的に、労働基準法26条に基づき毎月33万5330円(賃金の6割)の休業手当の仮払を求める事案である。

【裁判所の判断】

申立て却下

【判例のポイント】

1 ・・・しかし、同陳述書によれば、B所長は、①会議の際、XがB所長の話に集中していない様子であったことから注意指導を行った、②取引先建物内において、Xが担当先について十分把握していなかったことから今後の営業活動に関する指示を行ったというのであり、部下であるXに対する注意指導、指示として合理的理由に基づくもので、その態様も一般的に妥当な方法と程度にとどまるものであるといわざるを得ない。
・・・以上によれば、本件において、Y社の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)、又は「責に帰すべき事由」(労働基準法26条)によりXが出社できなくなったということはできない。

2 なお、Xは、労働基準法26条の「責に帰すべき事由」は、民法536条2項の場合よりも広く解される旨判示した最高裁判所昭和62年7月17日判決(ノースウェスト航空事件)を指摘するも、本件は、同最判とは事案を大きく異にする上、そもそも本件においては、上記のとおり、B所長によるハラスメント行為自体の疎明を欠くといわざるを得ない以上、同最判の判示について特別の検討が必要であるとはいえない

パワハラと指導との区別については、評価の問題ですので、いつまでたっても争いはなくなりません。

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セクハラ・パワハラ30 パワハラを理由とする解雇の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、パワハラ等に基づく解雇無効地位確認等請求についての事例を見てみましょう。

マテル・インターナショナル事件(東京地裁平成29年1月25日・労判ジャーナル62号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結していた元従業員Xにおいて、①Y社に対し、試用期間中にされた解雇の無効を主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、これを前提として平成27年9月1日から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額100万円等の支払を求め、②Y社の代表取締役に対し、本件解雇に至るまでのXに対する言動及び本件解雇がXに対する不法行為を構成するとして、不法行為に基づく損害賠償として損害金200万円等の支払を求め、③Y社に対し、上記②の代表取締役の不法行為は、会社法350条に基づきY社の損害賠償責任を生じさせるとして、損害金200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 解雇事由の部下であるAに対するパワーハラスメントは重大な非違行為であり、解雇事由のパワーハラスメント行為の是正を実質的に拒絶する言動と相俟って、本件解雇の合理性を十分に基礎づける事由となるものであるが、解雇事由のパワーハラスメントは、その態様に鑑みて、ただちにXを会社から排除しなければY社の会社秩序及び就労環境の取り返しが付かないような破壊ないし悪化をもたらすがごとき、一刻を争う深刻さがあったものとまではいえないから、XのAに対する言動に是正の可能性がある限り、本件解雇の社会通念上の相当性を基礎づけるものとはいえず、そして、解雇事由のパワーハラスメント行為の是正を実質的に拒絶する言動は、代表取締役において、Xが冷静さを取り戻すための対応を執ることなく、本件解雇に及んだことは、社会通念上の相当性を欠くものといわざるを得ない。

2 Xには、パワーハラスメント行為ともなり得るようなAに対する違法な言動があり、また、部下であるBに対する不適切な指揮命令があったうえ、これを指摘し改善を促そうとした代表取締役の指導ないし注意に対しても、問題をすり替えて、部下従業員に対する適切な対応をすること等、本件解雇については、解雇の客観的な合理性が認められるものであるから、本件解雇をもって著しく相当性を欠く、違法な権利侵害行為となるものであるともいえず、また、仮に、本件解雇について不法行為が成立するとしても、本件解雇が無効となり、Xの労働契約上の地位が確認されるとともに、バックペイとして給与相当の経済的な損失が填補されることにより、Xの精神的損害も回復されるものというべきであるから、慰謝料により慰藉すべきことを相当とする精神的苦痛は存在しないものというべきである。

上記判例のポイント1で示されているパワハラで解雇する場合の判断基準は参考になりますね。

なかなかハードルが高いです。

解雇の有効性が相当性の要件で判断されている場合には、上記判例のポイント2のように慰謝料請求は通常否定されます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ29 男子学生による男性講師に対するセクハラ行為と慰謝料額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、男子学生による男性講師へのセクハラ行為の存否と職場環境配慮義務等に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人M学園ほか(大学講師)事件(千葉地裁松戸支部平成28年11月29日・労判1174号79頁)

【事案の概要】

Xは、Y社に雇用され、Y社が経営するZ大学で英語の非常勤講師として稼働していたものであるが、本件のうち、Aに対する請求は、Xが、自身のクラスの生徒であるAから、授業中に臀部を触られるなどしたため多大な精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき慰謝料100万円及び弁護士費用10万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

他方、Y社に対する請求は、Y社はXとAとの言い分が対立している状況の下で、X代理人立会いの下でX本人からの事情聴取をせず、不十分な調査をするにとどめた上、XとAとの関係の改善に向けた方策を何も講じなかったことから、Xが多大な精神的苦痛を被ったとして、労働契約における債務不履行に基づき慰謝料150万円及び弁護士費用15万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Aは、Xに対し、11万円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、88万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 XがAの行為によって受けた精神的衝撃は、決して小さなものではないと考えられるが、Aはあくまで「ノリ」で行為に及んだもので、A自身の性欲を刺激興奮させ、又は満足させるという性的意図の下に及んだものとは認め難く(最判昭和45年1月29日参照。したがって、Aの行為は、刑法176条の強制わいせつ罪に該当するものではない。)、この意味において、Aの行為の違法性は、さほど強いものではないというべきである。
加えて、「ノリ」で行為に及んだAからすれば、Xが提訴するほどまでに精神的苦痛を被るとは予想していなかったことがうかがえる上、Aの年齢等を考慮するとAがそのような認識を持ったとしてもそれはやむを得ない側面があることも否定できず(なお、これは、Aの行為が法的に許されるということを意味するものではない。)、そういった事情からすれば、AがXに支払うべき慰謝料の額については、相当因果関係の点からそれほど高い金額を認定することは困難であって、結論としては、10万円が相当である。

2 Y社が、A(2回)及びX(1回)に対する事情聴取並びに出席していた学生4名からの電話による事情聴取により、AがXの臀部に触った可能性は否定できないとの印象を有していたところ、その後Xから再度の事情聴取をせずに、ハラスメント調査委員会が前記のようなEらの印象を覆してAによるハラスメント行為はなかったという結論を下したことについては、不十分な調査によって被用者であるXに不利な結論を下したという外はなく、Y社の措置は労働契約上の義務に違反するものと認められる。
また、Y社の措置は、結局のところXの思いを封じ込める形で事態の解決を図ったものといわざるを得ず、XとAとの関係を「改善させるため」の具体的方策を講じたとは認め難いのであり、加えて、Y社がAに対して次回のXの授業への出席を見合わせるよう指導し、次いでAの英語科目のクラスを変更する措置をとったことが事実であるとしても、これらの措置はXとの関係を改善させるものではなく、単に両者間のトラブル再発を防止するために意味があるにとどまるのであって、この点においても、Y社には労働契約上の義務違反が存するといわざるを得ない。

3 Xは、Y社がX代理人不在のままX本人から事情聴取を行ったことを問題視するところ、弁護士から受任通知を受けた場合には、委任者本人と直接接触することは避けるべきであり、そのことを知らない場合であれば、顧問弁護士等に相談するなどして弁護士が受任した場合にとるべき対応について指導を仰ぐべきであったといえる。
この意味において、Y社の対応は問題があったといわざるを得ないが、弁護士からの受任通知を受けた場合に委任者である本人と接触すべきでないということは、法曹関係者間では格別、世間一般においてはかような認識が広く行き渡っているとはいい難いところがあることに加えて、X本人はあくまで被害者として事情聴取を受けたものであって、弁護士立会いの必要性は加害者に対する事情聴取の場合よりも小さいと考えざるを得ない。
そうすると、この点をもって慰謝料増額事由と評価するのは、相当とはいえない。
その点を措くとしても、Y社はAの履修継続及び事態の早期決着を目指すことを優先して、X側の言い分を尊重しない行動に出たものという外はなく、Y社のかような対応は、非常勤講師である原告を精神的に相当傷つけたものと認められる。
その上で、Y社がXに支払うべき損害賠償の額については、Xが既に再就職を果たしていることを含め、諸々の事情を総合すると、80万円が相当である。

いつもながら、本件のような類型の裁判で裁判所が認める慰謝料の金額はせいぜいこの程度です。

場合によっては費用倒れとなってしまいます・・・。

とにかく慰謝料の金額が低いのですよ・・・。

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セクハラ・パワハラ28 自宅待機期間中の給与を平均賃金の6割とすることの是非(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、セクハラ行為に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ほけんの窓口グループ事件(大阪地裁平成28年12月15日・労判ジャーナル61号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、女性従業員に対するセクハラ行為を理由として、懲戒解雇処分を受けたため、Xが、かかる行為はしておらず、同処分は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、平成26年12月以降の賃金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇無効確認請求は棄却

未払賃金等支払請求は一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、女性従業員に対し、平成25年11月、マフラーで首を絞めて駐車場の奥まで引きずり、キスをするというセクハラ行為に及んだもので、その態様は粗暴かつ悪質で、刑事犯にも該当しうる行為である上、Xは平成23年12月及び平成24年7月にも深夜の公園や路上で女性従業員に無理矢理キスをするというセクハラ行為に及び、さらに、平成24年8月にも午後11時頃に女性従業員を公園に連れて行こうとしたのであり、このようなXの一連の行為が、就業規則の懲戒解雇事由に該当することは明らかであるところ、上記態様の悪質性やセクハラ行為の回数のほか、XがY社による調査を受けても、セクハラ行為そのものをすべて否認し、Y社や女性従業員に対する謝罪や反省の態度を一切示していなかったことにも鑑みれば、Y社がXを懲戒解雇処分としたことについては相当性があると認められ、本件懲戒解雇処分は有効であるから、XのY社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求及び本件懲戒解雇処分後の賃金請求についてはいずれも理由がない。

2 一般論として、自宅待機命令は、使用者が、労働者に対し、一方的に就業を禁止するものであるから、使用者は、民法536条2項により、その間の賃金支払義務を負う場合が多いものと解されるが、民法536条2項は任意規定であり、就業規則でこれと異なる規定を置くことは排除するものではなく、就業規則49条2項は、従業員の行為が懲戒事由に該当するおそれがある場合に、その調査や懲戒処分の決定に必要な期間に限り自宅待機命令をし、その間の賃金を平均賃金の6割とするものであって、就労を許容しないことに実質的な理由がある場合に限定されており、その期間も限定されていること、その金額も労働基準法26条の休業手当と同額であることに鑑みれば、同規定には合理性があると認められる。

上記判例のポイント2は参考になりますね。

もっとも、現行の制度を変更する場合には、不利益変更となりますので、そう簡単にはできませんが。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ27 パワハラ事案で慰謝料400万円が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラを理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

コンビニエース事件(東京地裁平成28年12月20日・労判1156号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営するコンビニ店舗で平成22年9月から平成23年12月26日までの間勤務していたXが、その勤務期間中に、Y社の代表者であったA及び前記店舗の店長であったBから、暴行、サービス残業の強要等のいじめ・パワーハラスメントを日常的に受けたと主張して、Y社らに対し、損害賠償等として3287万3765円+遅延損害金等の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びAは、Xに対し、連帯して930万4211円+遅延損害金を支払え

Bは、Xに対し、910万4211円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、人とコミュニケーションをとるのが苦手であり、物事がうまくいかないとすぐ投げ出してしまうところもあって、本件3店舗でも、手順が悪かったり、仕事が遅かったりしたことがよくあったと認められ、このようなXに注意、指導をしようとしたのがきっかけになっていることもうかがわれるが、前記認定に係る事実は、いずれも適正な業務上の注意、指導の範疇を超え、暴力を伴うなど、相手方たるXに過度の心理的負荷を与えるものとして、いじめ・パワハラに当たり、不法行為を構成するというべきである。

2 本件では、1年数か月にわたっていじめ・パワハラが継続された上、その態様をみても、暴力的ないじめ・パワハラでは、身体に対する具体的な危険を伴うものがいくつもあり、右手の傷に関しては、具体的な後遺障害を認定するまでには至らず、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料や休業損害を認めることはできないものの、その結果は軽視できないし、その他の部位に対する暴行も含めて、場合によっては重大な結果を生じかねなかったことは否定し得ないのであって、非常に悪質である。精神的・経済的ないじめ・パワハラでも、商品を買い取らせるなど、様々な方法で経済的負担を強要したりしており、非常に悪質である。かかるいじめ・パワハラにより、Xが身体的にも、精神的にも多大な苦痛を被ったことは明らかであって、このほかに、具体的な損害としては算定し難い事柄など、本件に顕れている諸事情を総合考慮すると、個別に認めたもののほかに、慰謝料として400万円を認めるのが相当である。

パワハラ事案としては、非常に高額な慰謝料が認められています。

態様を見るかぎり、刑事責任も問われる可能性が高い事例です。

通常問題となる指導とパワハラの区別のような限界事例とは程遠いケースです。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ26 ハラスメント加害者の反省の程度と懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ハラスメント行為を理由とする懲戒解雇の有効性が争われた裁判例を見てみましょう。

Y社事件(東京地裁平成28年11月16日・労経速2299号12頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社の行った懲戒解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年8月以降本判決が確定するまでの間の賃金及び年2回の賞与の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、平成26年3月末にB及びDに対するハラスメント行為によりY社から厳重注意を受け、顛末書まで提出したにもかかわらず、そのわずか1年余り後に再度F及びEに対するハラスメント行為に及んでおり、短期間に複数の部下に対するハラスメント行為に及んだ態様は悪質というべきである。また、Xによる上記行為の結果、Fは別の部署に異動せざるを得なくなり、Eに至っては適応障害に罹患し傷病休暇を余儀なくされるなど、その結果は重大である。

2 Xは、2度目のハラスメント行為に及んだ後も、自身の言動の問題性を理解することなく、あくまで部下への指導として正当なものであったとの態度を一貫して変えず、全く反省する態度が見られない。Xは、本人尋問において、1回目のハラスメント行為後のJらによる厳重注意について、「緩い会話」であったと評しており、この点にもXが自身の言動の問題性について軽視する姿勢が顕著に現れているというべきである。また、Xの陳述書や本人尋問における供述からは、自身の部下に対する指導方法は正当なものであり間違っていないという強固な信念がうかがわれ、Xの部下に対する指導方法が改善される見込みは乏しいと判断せざるを得ない。
このように、Xは、部下を預かる上司としての適性を欠くというべきである。

上記判例のポイントのように、訴訟における原告の主張や本人尋問の内容から原告が反省していないこと、自身の言動は正しかったという偏った考え方への固執を明らかにし、懲戒解雇等の処分の正当性を補足することができます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ25 同僚職員に対する土下座要求とその場にいた他の従業員に対する不法行為該当性(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、亡郵便局員の致死性不整脈突発死に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(福岡高裁平成28年10月25日・労判ジャーナル58号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の設置するA郵便局、B郵便局等の郵便局において郵便局員として稼働していたXについて、Xが病気休職中に、当時所属していたC郵便局の駐車場に駐車した車両内において、ストレスを原因とする致死性不整脈を突発して死亡したのは、Xがその上司である郵便局長らからいわゆるパワーハラスメントを受けたためであるなどと主張して、不法行為又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、Xに生じた損害金の一部である1億円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料300万円を認容

【判例のポイント】

1 Z局長が、C郵便局の職員朝礼の際に、Xの同僚の職員を他の職員の前で土下座させたものであって、たとえ、それがXに対して行われたものでなかったとしても、Xを含むその場にいたすべての職員に対する関係においても不法行為を構成するものであり、Xを含む職員に対する安全配慮義務に違反する行為であったと認めるのが相当であり、また、Z局長からXに対する、「窓口には、就かせられん」、「いつ辞めてもらってもいい」などという発言は、Xがうつ病に罹患していることを知っていた上司であるX局長が、窓口業務を希望していたXに対してする発言としては不適切であり社会通念上の相当性を欠くものであることは明らかであって、不法行為に該当し、Y社に安全配慮義務違反があったといわざるを得ず、さらに、うつ病により病気休暇を取得していたXが職場復帰を求めた際の面談において、Xに対して職場復帰の時期を遅らせることを強く求めた言動も、不法行為に該当し、また、Y社に安全配慮義務違反があったと優に認めることができる。

2 本件言動とXが被った精神的苦痛及びXのうつ病の増悪との間に相当因果関係を認めるのが相当であり、Z局長の職員に土下座をさせるという社会的相当性を欠いた本件言動に直面したXが、息苦しさを覚えたものであり、本件言動を目撃したXが精神的苦痛を被ったことは優に推認され、Z局長による本件言動とこれによりXが被った精神的苦痛及びXのうつ病の増悪との間には、相当因果関係が認められるが、他方で、Xの死亡と、本件言動との間に相当因果関係を認めることはできない

3 Xが精神的苦痛を受けたことに対する慰謝料としては、その不法行為又は安全配慮義務違反の程度や、これらによってXのうつ病が増悪したことに照らすと、300万円が相当であると認められ、損害額の算定にあたり、Xがうつ病に罹患していたこと等を踏まえても、過失相殺及び素因減額すべきでない。

Xに対して土下座をさせたものではないけれど、その場にいたXを含む職員全員に対しても不法行為を構成するとされていますが、そういうものでしょうか・・・?

自分がXの代理人だとして、このような主張をしたか(できたか)自信がありません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。