Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ50 暴行・人格権侵害を理由とする損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、暴行及び人格権侵害等を理由とする損害賠償責任が認められた裁判例を見てみましょう。

大島産業事件(福岡地裁平成30年9月14日・労経速2367号10頁)

【事案の概要】

甲乙事件は、Y社に雇用されて長距離トラック運転手として稼働していたXが、①Y社に対し、未払賃金929万7149円+遅延損害金を支払うよう求め、②B及びCに対し、Y社が前記①の未払賃金を支払わないことについて、Bが同社の代表取締役として、Cが同社の事実上の取締役として、それぞれ会社法429条1項又は民法709条に基づく損害賠償責任を負うと主張して、前記①の未払賃金+遅延損害金をY社と連帯して支払うよう求め、③Y社に対し、労働基準法114条に基づく付加金541万2912円+遅延損害金の支払を求め、④C及びY社に対し、CはXに対しパワーハラスメントと評価されるべき不法行為を行っていたところ、Cは民法709条に基づき損害賠償責任を負い、Y社は会社法350条の類推適用により事実上の取締役であるCがその職務を行うについてしたパワハラについて損害賠償責任を言うと主張して、165万円+遅延損害金を連帯して支払うよう求めるほか、Cに対しては前記165万円に対する不法行為の後である平成26年3月6日から平成27年8月31日まで同割合の遅延損害金の支払を求めた事案である。

丙事件は、Y社が、Xに対し、Xが平成25年9月28日及び平成26年3月7日に業務指示を受けていた運送業務を無断で放棄したため、Y社は受注していた運送業務を履行できず損害を被ったと主張して、不法行為又は債務不履行に基づき、229万7635円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、937万0829円(未払賃金)+遅延損害金を支払え

2 Y社はXに対し、494万8855円(付加金)+遅延損害金を支払え

3 C及びY社はXに対し、連帯して110万円(パワハラの慰謝料等)+遅延損害金を支払え

4 CはXに対し、110万円に対する平成26年3月6日から平成27年8月31日までの遅延損害金を支払え

5 XはY社に対し、12万2609円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、本件失踪1の後に復職を認めてもらおうとしてY社に戻った際、E常務に指示されて、社屋入口前で、Cが出社して来るまで土下座をし続け、出社して来たCはこれを一瞥したが土下座を止めさせることはなく、Xはその後も数時間にわたり土下座を続けたことが認められる。
従業員が数時間にわたり社屋入口で土下座し続けるという行為は、およそ当人の自発的な意思によってされることは考えにくい行為であり、Cとしても、Xが強制されて土下座をしていることは当然認識し得たものとみられる。にもかかわらず、前記認定のとおり、Cは制止することなくXに土下座を続けさせたのであるから、XはCの指示で土下座させられたのと同視できるというべきである。したがって、Cは、民法709条に基づき、土下座を続けさせられたことによりXが受けた身体的、精神的苦痛について不法行為責任を負う。
また、上記Cの行為は、XのY社での就労再開に関して行われたもの、すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについてされたものであるから、Y社は、会社法350条の類推適用により前記のXが受けた身体的、精神的苦痛について賠償責任を負う。

2 C名義のブログ記事は、これが他人から閲覧されればXの名誉を棄損する内容であり、前記のXに関する記事が掲載されることによって、Xの名誉を棄損するものであると認められる。そして、Cは従業員に対する名誉毀損行為を防止すべき義務を負っていたといえるから、ブログ記事の掲載を放置したことについて、民法709条に基づき不法行為責任を負う。
また、Cは事実上の代表取締役であると認められるから、Y社は、会社法350条に基づき、Cが職務を行うについてXに与えた精神的苦痛を賠償すべき責任を負う。

認容された未払賃金額もさることながら、事案の性質から来るレピュテーションダメージの方がよほど影響が大きいと思われます。

どこかの段階で口外禁止条項を付した和解ができなかったのでしょうか・・・。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ49 労災認定されている事案で裁判所が業務起因性を否定?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司による暴行が違法なパワーハラスメントと評価されたが、暴行を受けた労働者が発症した適応障害の業務起因性が否定された裁判例を見てみましょう。

共立メンテナンス事件(東京地裁平成30年7月30日・労経速2364号6頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、適応障害に罹患し、その後休職となり、休職期間満了により自動退職とされたところ、Xは、同適応障害は、上司等から継続的にパワーハラスメントを受け、かつ、上司であったCからも勤務中に暴行を加えられたことによるものであると主張して労働契約上の地位確認を求めるとともに、Cの上記暴行につき、Cに対しては民法709条に基づき、Y社に対しては民法715条に基づいて、連帯して200万円の損害賠償(慰謝料)+遅延損害金の支払を請求し、さらに、前記の上司等による継続的なパワーハラスメントに加えて、Y社から一方的に年俸額を減額され、休職後には、Y社がXの標準報酬月額を不当に減額して届け出たことが原因で健康保険組合から受領する傷病手当金を不当に減額されたなどと主張して、Y社に対し、民法709条に基づき562万円の損害賠償+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社らは、連帯して、Xに対し、20万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Cは、平成27年7月11日午前、Xに対し、Xの仕事ぶりを非難して、Xの腕を掴んで前後に揺さぶる暴行を加えた上、別の客室で、再度、恫喝口調でXを詰問し、「やれよ。」「分かったか。」などと繰り返し述べて迫り、壁にXの身体を押し付け、身体を前後に揺さぶる暴行を加え、逃れようとしたXが壁に頭部をぶつけるなどし、Xに頭部打撲、頸椎捻挫の傷害を負わせたものであって、このようなCの行為が、Xに対する不法行為を構成することは明らかである。

2 上記Xの頭部打撲、頸椎捻挫の程度は、経過観察7日間を要する程度に止まっている上(Xは、本件事件から約2か月後の同年9月16日にもY1病院を受診しているが、医師の診察所見として意識清明で神経学的にも異常はなく、頭部CTの結果でも異常はないとされている。)、Cの行為態様としても、Xが主張するような頭部を壁に打ち付けるようなものではなかったことは前記で認定したとおりであり、その行為態様が強度なものであったとまではいい難いことや、Cの暴力行為としては、本件事件時の1日のみに止まっていることからすると、かかるCの暴行が、客観的にみて、それ単体で精神障害を発症するほどの強度の心理的負荷をもたらす程度のものと認めることには、躊躇を覚えざるを得ない。
そして、Xが、Y1病院のみならず本件事件当日に受診したY4病院でも、医師に対し錯乱状態や不眠症といった症状を訴えていることからすると、Xの適応障害の原因が本件事件以外の業務外の要因にもあるとの合理的な疑いを容れる余地がある

3 行政庁の上記判断が裁判所の判断を拘束する性質のものでないことはいうまでもないところであるし、前記のとおり、Cの暴力行為は本件事件当日のみのことであることや、Xの受けた傷害の程度が外傷を伴わないものでさほど重いものとはいえないことなどを考慮すると、上記労災医員の意見を過度に重視することは相当でないというべきである。

4 以上のとおり、Xに発病した適応障害が業務上の傷病に当たると認めることはできないから、本件自動退職が労基法19条1項により効力を生じないとするXの主張は、その前提を欠くものである。したがって、Xについては、平成28年1月12日の休職期間満了によりY社を退職したと認められ、これによりXとY社との間の本件雇用契約関係は終了したものであるから、Xの労働契約上の地位確認請求は理由がない。

非常に重要な裁判例です。

労災認定がされているにもかかわらず、裁判所は業務起因性を否定し、労基法19条1項の適用は認めませんでした。

裁判所がいかなる要素からこのような結論を導いたのかをしっかり理解することが大切です。

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セクハラ・パワハラ48 パワハラと指導の境界線とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、人事評価の濫用に基づく差額賞与等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

住商インテリアインターナショナル事件(東京地裁平成30年6月11日・労判ジャーナル81号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されている従業員がY社に対し、賞与に関して違法な人事評価をされたと主張して、雇用契約における賞与請求権に基づき、平成26年から平成28年までの各6月及び12月支給の賞与の差額として合計約7万円等の支払を求め、Y社の管理本部長であったA及び代表取締役であるBから、コンプライアンス上の問題に関するメールの送信を禁止されたり、厳重注意処分をされたりするなどのパワーハラスメントを受けたと主張して、安全配慮義務の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料200万円等の支払を求め、Y社の取締役兼管理本部長兼業務管理部長であるCからもコンプライアンス上の問題に関して被害申告すること自体を禁止されるなどのパワハラを受けたとして、安全配慮義務の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料100万円等の支払を求め、XがCの指示に反して、コンプライアンス上の問題に関するメールを送信したことを理由としてY社がXに対してした譴責処分は権利濫用に当たり無効であると主張して、同処分の無効確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

差額賞与等支払請求は棄却

パワハラに関する損害賠償請求も棄却

【判例のポイント】

1 Xは、業務管理部長兼取締役管理本部長兼総務・人事リーダーであったDや業務管理副部長であったEの言動に関して、自らの考えに固執し、元社長であったFやAらに対し、特段の根拠も示さずにDやEに対する誹謗中傷、個人攻撃にわたるようなメールの送信等を繰り返していたものであり、AがXに本件メールの撤回ないし取下げを促して口頭注意をし、Bが警告のため本件通知をしたことは、会社の秩序を維持するためにやむを得ないものといえ、Xの人格権を違法に侵害するものと認めることはできず、AがXに対して本件メールの撤回ないし取下げを促し口頭注意をしたことや、Bが本件通知をしたことが従業員の人格権を違法に侵害するものと認めることはできないから、A及びBによるXへのパワハラを認めるに足りず、これに基づくXのY社に対する損害賠償請求は、理由がない

2 Xは、上司であるCからコンプライアンス違反に当たらないようなことについてメールを送信することを禁止する旨の職務命令を受けていたにもかかわらず、これに従うことなく、その後もCやBに対し、同命令の撤回や謝罪を求めるメールの送信を繰り返していたというのであって、本件譴責処分は会社の秩序維持のためやむを得ず行われたものと解され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとはいえず、権利の濫用に当たらない

一連の経緯についてどれだけ裏付けがとれるかが勝敗を決します。

訴訟まで発展しそうな場合には、労使ともにエビデンスの確保がキモとなります。

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セクハラ・パワハラ47 パワハラによる精神疾患発症と解雇制限の適用の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司の暴行等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

共立メンテナンス事件(東京地裁平成30年7月30日・労判ジャーナル81号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していた元従業員Xが、適応障害に罹患し、その後休職となり、休職期間満了により自動退職とされたところ、Xが、同適応障害は、上司等から継続的にパワーハラスメントを受け、かつ、上司からも勤務中に暴行を加えられたことによるものであり、業務上の傷病であるから労基法19条1項により同自動退職は無効であると主張して労働契約上の地位確認を求めるとともに、上司の上記暴行につき、上司、Y社に対して、連帯して200万円の損害賠償等の支払、さらに、前記の上司等による継続的なパワハラに加えて、Y社から一方的に年俸額を減額され、休職後には、Y社がXの標準報酬月額を不当に減額して届け出たことが原因で健康保険組合から受領する傷病手当金を不当に減額されたなどと主張して、Y社に対し、民法709条に基づき562万円の損害賠償等の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

上司の暴行に基づく損害賠償請求は一部認容(20万円)

その余は請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの頭部打撲、頸椎捻挫の程度は、経過観察7日間を要する程度に止まっている上、上司の行為態様としても、その暴行態様が強度なものであったとまでは言い難いことや、上司の暴行行為としては、本件事件時の1日のみに止まっていることからすると、かかる上司の暴行が、客観的にみて、それ単体で精神障害を発病するほどの強度の心理的負荷をもたらす程度のものと認めることには、躊躇を覚えざるを得ず、そして、Xが、東京臨海病院のみならず本件事件当日に受診した木場病院でも、医師に対し錯乱状態や不眠症といった症状を訴えていることからすると、Xに発病した適応障害が業務上の傷病に当たると認めることはできず、本件自動退職が労基法19条1項により効力を生じないとするXの主張は、その前提を欠くものであるから、Xは、休職期間満了によりY社を退職したと認められる。

2 Y社がXについての標準報酬月額の変更要件に関する解釈を誤ってその変更の届出を行った結果、Xの傷病手当金の支給額の減額がされたと認められるが、その後、Xからの健康保険被保険者資格確認請求手続を経て、Xの標準報酬月額は是正され、傷病手当金の追加支給がされて、その経済的損失は回復されているもので、Y社が故意に事実に反する内容の届出をしたものではないことに鑑みると、この点に関して、Xに慰謝料請求を認めるべき精神的損害が発生したと認めることはできないというべきである。

上記判例のポイント1のように、労基法19条1項の適用を巡って、精神疾患とその原因行為との間に相当因果関係が認められるかどうかが争われることがあります。

医療記録等をしっかり確認をしながら判断をする必要があります。

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セクハラ・パワハラ46 パワハラ発言の客観的証拠がない場合の裁判所の判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、パワハラ及び違法な雇止めに基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

セイハネットワーク事件(大阪地裁平成30年7月6日・労判ジャーナル81号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、上司から叱責等のパワーハラスメントを受け、これによって生じた欠勤を理由にY社から違法な雇止めをされたとして、Y社及び上司に対し、不法行為又は使用者責任に基づく慰謝料500万円の損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、上司が、Xに対し、長年にわたり、「風邪をひいてはいけない」、「欠勤3回目はクビやで」、「仕事があるのはありがたいんやで」などと叱責し続けた旨主張するが、Xの上記供述を裏付けるに足りる的確な証拠はないこと、Xは、上司が、平成25年4月以降、変則的なスケジュールを組んでXに休養を与えなかった旨主張するが、同月以降のXの休日や具体的な勤務日(シフト)の決定に上司が関与したことを認めるに足りる証拠はないこと、上司は、Xに対し、平成25年4月以降の勤務形態について、Xの健康状態に配慮して、日曜日を含む週休2日のフルタイムBを提示しているのであり、あえてXについて変則的なスケジュールを組んだり、組むよう指示したりする理由はないことに鑑みれば、Xの上記主張は理由がないというほかないから、Xに対して、上司によるパワハラがあったとは認められない。

2 Xは、多数回にわたり欠勤しただけでなく、事前に連絡することなく欠勤(無断欠勤)したことが複数回あり、事前に連絡できなかった合理的な理由も明らかではなく、Xが主張するように、何らかのストレスが原因で欠勤する場合であっても、事前に連絡することすらできないという事態は通常想定し難いのであり、無断欠勤に対してY社から繰り返し注意を受けていたにもかかわらず、Xが平成25年10月に無断欠勤を繰り返したことに照らせば、本件雇止めが客観的に合理性を欠くとか、社会的に相当性を欠くと評価することはできず、ましてや本件雇止めに不法行為を校正するほどの違法性があるということはできない。

ハラスメントの客観的裏づけがない場合、上記判例のポイント1のような認定になってしまいます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ45 上司の不適切発言に基づく損害賠償請求と会社のレピュテーションダメージ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不適切な言動に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

システムディ事件(東京地裁平成30年7月10日・労判ジャーナル81号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、賃金及び賞与を理由なく減額したと主張して、減額分の賃金・賞与、合計約491万円等の支払を求め、また、Y社に対し、上司らの退職強要等に係る債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求(休業損害、治療費及び通院交通費並びに慰謝料の損害金合計約539万円等)の支払を求め、代表取締役であるAの暴言に係る不法行為に基づく慰謝料に関し、Aに対しては不法行為、会社に対しては会社法350条又は使用者責任に基づき、連帯して慰謝料50万円等の支払を求め、また、会社に対し、民法536条に基づく休職期間満了後の賃金・賞与請求、合計約501万円等の支払を求め、また、上記復職後の減額分の賃金約12万円及び未払賞与約47万円等の支払を求め、さらに、有給休暇分の賃金・通勤手当等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

減額分等未払賃金・賞与等支払請求の一部認容(休業損害254万7963円、治療費及び通院交通費8万9900円、慰謝料80万円等)

不適切な言動等に基づく損害賠償等請求の一部認容(慰謝料20万円)

【判例のポイント】

1 Xは、A及び事業部長であるGから、不適切な言動により罵倒されるなどしながら繰り返し退職を迫られ、退職に応じなければ会社C本社に転勤させてそれまでの営業以外の業務に就かせて賃金を更に減額するなどと言われ、複数回欠勤するようになり、Gから担当業務の変更や賃金の減額を通告され、その後、医師からうつ状態と診断され、これを原因として休職するに至ったことが認められるから、Y社は、Xに対し、本件雇用契約に基づく注意義務を怠り、AやXの上司らにおける不当な言動や一方的な賃金の減額等を行ってXの意思決定を不当に制約するとともにその人格権を違法に侵害し、これによって、Xはうつ状態を発症するに至ったものと認められ、Y社は、Xに対し、債務不履行に基づき、Xに生じた損害を賠償する責任を負う。

2 AのXに対する発言等が、Xがうつ状態による1年6か月に及ぶ休職期間の満了後に、ようやくこれが寛解して臨んで面会の席上で行われたこと、上記発言中において、AはXに対して「裏切り」「寄生虫」という言葉を複数回用いたこと、AがXに対してこのような発言をしたのはこれが初めてではないことなどの事情を総合考慮すれば、AのXに対する上記発言によって生じたXの精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円が相当である。

使用者側とすれば、この裁判による金銭的負担のみならず、上記のような内容の裁判例が会社名とともに残ることによるレピュテーションリスクについても事前に検討しなければなりません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ44 パワハラの認定方法とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワーハラスメントは存在しないとして不法行為に基づく損害賠償請求が否定された事案を見てみましょう。

三栄製薬事件(東京地裁平成30年3月19日・労経速2358号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、①Xの意思に反して平成28年9月30日付け自己都合退職と扱われたことにより、同年10月1日から同月20日まで就労不能になったとして、民法536条2項に基づき、同年10月分の未払賃金14万1034円の支払、②Y社の専務であるB2からパワーハラスメントを受けたなどとして、民法709条及び同法715条に基づき、968万2658円の損害賠償金の支払、③労働契約に基づき、平成27年6月3日から平成28年9月29日までの未払割増賃金45万0418円+遅延損害金、④労働基準法114条に基づき、未払割増賃金45万0418円と同額の付加金の支払を各求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、18万6501円+遅延損害金を支払え

Xのその余の請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 本件パワハラ等の事実を認めることができないのは上記のとおりであるから、本件パワハラ等の事実が存在することを前提とするXの上記供述はにわかに採用することはできない。また、Xは、本件合理的配慮を記載したメモを作成してY社に交付したと述べるが、同メモの存在を裏づける的確な証拠はなく、本件カルテにも、XがY社に本件合理的配慮を要望していたことを窺わせる記載はない上、Xは診断書すらY社に提出しておらず、通院状況や服薬状況について、Y社との間で情報交換をしていたことを窺わせる事情も存在しないことからすれば、XとY社との間で本件合理的配慮を提供することの合意があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2 確かに、Xは、同月5日に行われたY社との話し合いにおいて、労務の提供を申し出ているが、その理由は、XとY社との間で、既に合意されていた平成28年10月20日付の退職を撤回して、引き続き、Y社で勤務し続けたいというものであった。Xは、本件労働契約について、平成28年10月20日付で合意解約するとの申込みをし、Y社は承諾の意思表示をしているため、合意解約は有効に成立している。したがって、Xは、既に合意解約の申込みの意思表示を撤回することができない状況にあったにもかかわらず、一方的に同月20日付退職を撤回するとして労務の提供を申し出たものであることからすれば、Y社において、既に退職が決まっているXに行わせる業務はCへの引継業務以外にはなく、Xの退職の撤回を受け入れることはできないとして、その就労を拒絶したことには合理的な理由があったといえる。また、Y社は、本件口論後のXの言動を踏まえて、Xが同年9月30日付で退職の申込みをしたものと考え、同日付合意退職の扱いにしたものであるところ、本件口論後、XはCへの引継業務を行うことを強く拒絶していたことからすれば、Y社において、本件労働契約が同年9月30日付で合意解約されたものと判断し、そのような処理をしたこともやむを得ないものであったということができる。
以上に照らすと、Xが平成28年10月1日から同月20日までの間、就労不能となったことについて、Y社の責めに帰すべき事由があると認めることはできないから、平成28年10月分の未払賃金請求については、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

上記判例のポイント2の経緯は実際にあり得ることです。

微妙な判断が求められる場面ですが、この裁判例を参考にしてください。

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セクハラ・パワハラ43 退職勧奨のパワハラ該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラによる適応障害発症と休職期間満了後の退職の可否に関する裁判例を見てみましょう。

公益財団法人周南市医療公社事件(山口地裁周南支部平成30年5月28日・労判ジャーナル78号22頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間で雇用契約を締結し、Y社の事務局内で勤務していたところ、Y社の代表理事であるA、Y社の理事兼事務局長であるB、Y社の経営アドバイザーであったC、Y社の事務部総務課課長補佐であったD及びY社の事務部総務課主任であるEから、平成25年3月22日から平成27年1月14日まで、パワーハラスメント行為を受けたことにより、適応障害に罹患して休職するに至り、給料、期末手当及び勤勉手当を減額されて、その後、休職期間満了により退職扱いされたとして、(1)Y社に対しては、①休職期間満了により退職扱いされたことについて、これが無効であるとして労働契約上の地位の確認、②休職後の民法536条2項に基づく給料、期末手当及び勤勉手当の合計82万2161円+遅延損害金の支払い、③退職扱い後の民法536条2項に基づく給料(月額28万5762円)、6月期末手当、勤勉手当(年額55万6337円)及び12月期末手当、勤勉手当(年額60万8090円)+遅延損害金の支払い、④Y社自身の不法行為による民法709条、Aらの不法行為による民法715条又はXとの雇用契約の債務不履行に基づき、損害賠償金1134万9023円+遅延損害金について、Aらとの連帯支払いを求めるとともに、(2)Aらに対しては、⑤Aらの共同不法行為による民法709条、719条に基づき、損害賠償金1134万9023円+遅延損害金について、Y社との連帯支払いをそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
 Y社は、Xに対し、82万2161円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、平成27年2月から本判決確定の日まで、毎月21日限り28万5762円、毎年6月30日限り55万6337円、毎年12月10日限り金60万8090円+遅延損害金を支払え。
 Y社、A及びBは、Xに対し、連帯して、574万9023円(うち300万円についてはCと連帯して、うち200万円についてはDと連帯して、うち100万円についてはEと連帯して)+遅延損害金を支払え。
 Cは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、300万円+遅延損害金を支払え。
 Dは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、200万円+遅延損害金を支払え。
 Eは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、100万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Bは、本件退職勧奨に際し、Xに対し、「自分の生かせるところへ行ったらどうかね」「今までどおりというふうにはいかないから場所を出てもらうようになる」「会議室もないし、ここのところに場所がないから。そういうところで仕事やってもらうし」「あなたの人件費も浮くんだから」「出ていかないというからじゃね、それに見合った仕事に」「仕事をみつけなさいよちゅうて」「自分で探してこいって」「まともな場所はここしかないからじゃね、あとは部屋と呼べるようなところはないから、今度はここが出たら、もうどっか空いてるスペースに行ってもらう」「ここでお前は嫌われている。誰も一緒に仕事をしたくない。他の仕事を探せ」「エッジにおるんよ」「廊下で作るわけにはいかんじゃろうがね、パソコンやら。だからそういう仕事はできなくなる」などと発言した。
退職勧奨に際して、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現を超えて、当該労働者に対して、不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりした場合には、違法なものとなるというべきである。
これを本件についてみると、まず、Bは、Xが退職すればXの人件費が浮く、Xは嫌われていて、誰も一緒に仕事をしたくないなどと、名誉感情を不当に害するような言辞を用いており、精神的な攻撃を加えるものである
また、Xは、そもそも、経歴、資格を見込まれた管理職候補として採用されており、これまでいわゆる現業には従事していなかったところ、Bの上記各発言は、Xに執務場所も、デスクワークの仕事も与えずに、X自ら仕事を探すことを求めるものであり、人間関係から切り離して隔離したり、過小な要求をしたりするなどして、不当な心理的圧力を加えるものである
そうすると、Bが行った本件退職勧奨は、違法、不当なパワハラ行為であると認められる。

2 本件駐車場管理命令は、本件病院の駐車場の管理、植栽、施肥、草引き(除草作業)、清掃作業、駐車料金の回収等の業務を行うことを命ずるものであるところ、①Xが経歴や資格を見込まれた管理職候補として採用されており、Xがこれまで現業に従事した経歴がなかったこと、②Y社では、平成26年2月以前から、総務課職員が、駐車場の料金の回収は行っていたものの、除草作業や清掃作業等は行っていなかったことからすれば、本件駐車場管理命令は、業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた仕事を命じるものであり、違法、不当なパワハラ行為であったといえる

3 Aらのパワハラ行為があったと認められること、証拠によれば、Xの主治医であるB医師が、Aらのパワハラ行為によって適応障害を発症した旨詳細な意見書を作成しており、その信用性を疑わせる事情がないことからすれば、Xの上記主張を認めることができる。
そうすると、Xの適応障害は、労働基準法19条の定める「業務上の疾病」にあたり、被告公社によるXの退職扱いは解雇制限を定める同条に反し、無効であるから、Xは,Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にある。

上記判例のポイント2の視点は押さえておきましょう。

従業員の資質・経歴からして、業務上の合理性のない業務命令や配置転換等をすると違法と判断される可能性がありますので注意しましょう。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ42 休職期間満了に伴う復職の可否の判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラに基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ビーピーカストロール事件(大阪地裁平成30年3月29日・労判ジャーナル76号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に在籍中、上司Aからパワーハラスメントの被害を受けたとして、Y社及び上司Aに対し、不法行為に基づき、慰謝料等を請求し、また、上司Aのパワハラによってうつ病を発症し、会社を休職しており、その後に復職できる状況となったが、Y社が職場環境調整義務を怠ったため、復職をすることができず賃金相当額の損害が毎月発生しているとして、不法行為に基づき、賃金相当損害金を請求し、さらに、復職の許可を受けたものの会社に復職しなかったことを理由にY社から解雇されたが、Xが、Y社が職場環境調整義務を怠ったため復職できなかったものであり、当該解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 休職期間中であった従業員が復職するに際しては、使用者においては、復職のための環境整備等の適切な対応を取ることが求められるが、もっとも、その個別具体的な内容については、法令等で明確に定められているものではなく、使用者が事業場の実情等に応じて、個別に対応していくべきものといえるところ、Xについて、一応の業務軽減が図られていること、Xは、直行直帰を主たる勤務形態とする営業担当従業員であり、業務の遂行はX自身の判断で調整可能であったこと、d支店における営業担当従業員の業務が特に負担の重い業務であるとまではいえず、Xが休職中は、4名で行っていた業務を3名で対処できていたこと、取引先に対し、同行しての引継は予定されていなかったが、平成28年5月17日のやり取りからすれば、Xが同行しての引継を求めれば、上司も対応する余地があったと考えられ、このような措置が取られなかったのは、Xからの要望がなかったためであること等から、本件において、Y社において、法的義務に違反したとまでは認められない。

2 Xは、休職期間満了後も会社に出勤せず、Y社は、再三にわたって出勤を求め、欠勤を続けた場合は解雇とすることもあり得ることまで明示したものの、Xは出勤しなかったものであり、かかる行為は、Y社の就業規則における解雇事由に該当し、そして、労務の提供は、労働契約における労働者の中核をなす債務であるところ、Xは自らの意思でそれを行わず、しかもその期間が半年以上の長期にわたっていること等の本件の事情を総合すれば、本件においてY社がした解雇が解雇権を濫用したものとは認められないから、本件解雇は有効である。

休職期間満了後の復職に関する問題です。

会社としてどのような対応をとるべきかについてはなかなか判断が難しいと思いますので、弁護士と方針について検討しながら進めていきましょう。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ41 職場環境配慮義務違反が否定されるために求められる具体的内容(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、自死した亡従業員の会社等に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

関西ケーズデンキ事件(大津地裁平成30年5月24日・労判ジャーナル77号22頁)

【事案の概要】

本件は、亡従業員Xの遺族らが、Xが勤務していたY社運営の本件店舗の店長が、Xに対し、注意書の徴求、競合店舗の価格調査の強要等のパワハラを行ったことにより、同人が自死したとして、店長には不法行為が成立し、また、店長の使用者であるY社には使用者責任又は安全配慮義務違反を原因とする債務不履行が成立すると主張し、Xの遺族らが、店長に対しては不法行為に基づき、Y社に対しては主位的に使用者責任に基づき損害賠償金約3508万円等の連帯支払を求め、Y社に対して予備的に債務不履行に基づき、損害賠償金同額の損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料100万円を認容

【判例のポイント】

1 店長がXに本件配置換えについての意向を打診した際に説明した価格調査業務の内容は、Y社の親会社であるA社が編成するマーケットリサーチプロジェクトチームの業務内容に匹敵する業務量であるにもかかわらず、これをフルタイムで勤務する時給制の非正規雇用労働者1人が地域で競合する1店舗のみに専従するという意味において、極めて特異な内容のものであり、たとえ、店長に、Xに対して積極的に嫌がらせをし、あるいは、本店店舗を辞めさせる意図まではなかったとしても、本件配置換えの結果、Xに対して過重な内容の業務を強いることになり、この業務に強い忌避感を示すXに強い精神的苦痛を与えることになるとの認識に欠けるところはなかったというべきであるから、店長による本件配置換え指示は、Xに対し、業務の適正な範囲を超えた過重なものであって、強い精神的苦痛を与える業務に従事することを求める行為であるという意味で、不法行為に該当すると評価するのが相当であるから、Xに対する店長の行為のうち、本件配置換え指示については、Xに対する不法行為を構成する。

2 Y社においては、店長等の管理職従業員に対してパワハラの防止についての研修を行っていることパワハラに関する相談窓口を人事部及び労働組合に設置した上でこれを周知するなど、パワハラ防止の啓蒙活動、注意喚起を行っていることが認められるし、本件においても、Xは店長からの本件配置換え指示について、パワハラに関する相談窓口となっているY社労働組合の書記長に対して相談したところ、書記長は、これを受けて部長に対して本件配置換えを実行させないように指示されたいとの連絡をしているのであって、Y社における相談窓口が実質的に機能していたことも認められるから、Y社としては、パワハラを防止するための施策を講じるとともに、パワハラ被害を救済するための従業員からの相談対応の体制も整えていたと認めるのが相当であるから、Y社の職場環境配慮義務違反を認めることはできない

たとえ、積極的に嫌がらせをする意図まではなかったとしても、不法行為に該当することは当然あり得ます。

また、ハラスメントに対する対応策については、上記判例のポイント2が参考になります。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。