Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ70 パワハラ等に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラ等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

山九事件(東京地判令和3年12月24日・労判ジャーナル123号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員が、Y社に対し、内部告発を契機としてY社から差別的取扱いをされ、長期にわたって不当な人事考課が繰り返されて昇格できないという不利益等を受け、かつ、Y社の従業員からパワーハラスメントを受けたと主張して、雇用契約上の平等的取扱義務等に違反する債務不履行又は不法行為に基づき、また、パワハラについては職場環境維持義務等違反の債務不履行又は使用者責任に基づき、損害賠償金660万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社から、長期にわたりXに対する不当な人事考課を繰り返されて昇格させない、現場就労をさせない、残業申請をさせないという差別的ないし不利益取扱いをされたと主張するが、人事考課の内容自体は、年度毎のXの業務遂行状況、業務態度及びトラブル等の出来事を踏まえ、合理的な人事評価がされてきたと認められ、Xには協調性の欠如や規律軽視の態度、独善的な振舞い、コミュニケーション能力の欠如が明らかであり、Xを再び建設現場に配置すれば、多数の関係者に危険を招き、客先の信頼を失いかねないというY社の判断は正当な理由に基づくものであり、Xは建設現場における監督者又は監督補助者としての適格性を欠いているといわざるを得ず、Y社がXを建設現場での業務に配置しなかったとしても、これは正当な人事権の行使であり、また、Y社がXに残業申請をさせない取扱いをしたことを認めるに足りる証拠はない等から、Y社のXに対する取扱いが雇用契約上の平等取扱義務、人格尊重義務等に違反する債務不履行又は不法行為を構成するとのXの主張は、これを認めるに足りる証拠がなくいずれも採用することができない。

使用者とすると、上記裁判所の事実認定につながる証拠をどれだけ事前に準備できているかがポイントとなります。

証拠を残すという意識が希薄なまま労務管理を行うと、いざ訴訟になった時に厳しい戦いとなります。

日頃の労務管理におけるエビデンスの残し方については顧問弁護士に相談をすることをお勧めいたします。

パワハラ・セクハラ69 テレアポ業務を命じたことがパワハラにあたらないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、テレアポ業務を命じたことがパワハラにあたらないとされた事案を見ていきましょう。

シナジー・コンサルティング事件(東京地裁令和3年2月15日・労判1264号77頁)

【事案の概要】

本件は、テレアポ業務を命じたことがパワハラにあたるかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

パワハラにはあたらない

【判例のポイント】

1 Xは、「テレアポ業務」を強要されてこれが不法行為に当たると主張し、Y社も、Xに同業務を命じた理由の一つとして原告の勤務態度規律があった事実は認めているが、そもそも不動産の営業を担当するXに対して電話での営業を命じること自体は使用者の裁量の範囲内にあると考えられる。そして、Y社は、Xが上司に日々の具体的な業務遂行状況を報告しなかったことを問題であると認識していたこと、Xが本件雇用契約の締結に先立ち「テレアポ営業では1日1200件電話をしたこともあります。これまでの人脈と経験で積極的に行動し成果につながる仕事がしたいと思っています。」などと記載した職務経歴書を提出して自己の長所として訴えていた経緯があることを踏まえて、業務内容及びその成果がY社から見て明確と評し得る「テレアポ業務」を担当させることによって上記問題の解消を意図したからといって、それが報復・懲罰ということにはならず、使用者の裁量を逸脱した違法な指揮命令であると評価することはできない

1日中シュレッダーをかける業務を命じるのとは訳が違います。

通常の業務範囲として許容される業務を命じることは使用者の権限として許容されていますので、本件では上記の結論になりました。

ハラスメント該当性については顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

セクハラ・パワハラ68 同僚らの嫌がらせ等に基づく慰謝料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、同僚らの嫌がらせ等に基づく慰謝料等請求に関する裁判例を見てみましょう。

しまむら事件(東京地裁令和3年6月30日・労判ジャーナル116号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社の従業員であったXが、同じ職場で勤務していたY2及びY3から暴行、パワーハラスメント、嫌がらせ等を受けたとして、Y2及びY3に対し、共同不法行為責任に基づき、Y2及びY3の使用者であるY1社に対し、使用者責任及び職場環境配慮義務の債務不履行責任に基づき、慰謝料140万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告らはXに対し、連帯して、5万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y2は、9月中旬以降、Xに対し、「仕事したの。」と言うようになり、店長代理のBにもXに仕事をしたか聞くと面白いから聞くようにけしかけ、実際にBがY2に言われたとおりXに「仕事した。」と質問し、これに対してXが拒絶反応を示していることに照らすと、Y2は、Xに対し、Xの拒絶反応等を見て面白がる目的で「仕事したの。」と言っていることが認められる。したがって、Y2のこの行為は、Xに対する嫌がらせ行為であるといえる。加えて、Y2の9月26日午後1時頃のXに対する行動も、その前後の経緯からすると、Xに対する嫌がらせ行為の一環として行われたものと認められる。
また、Y3もY2と同じ時期に、Xに対し、個別に、あるいはY2と同じ機会に「仕事したの。」とY2と同じ内容の発言をしているのであるから、Y2と同様にXの拒絶反応等を見て面白がる目的でしたと認められる。したがって、Y3のこの行為は、Xに対する嫌がらせ行為であるといえる。
そして、Xはこれらの嫌がらせ行為により精神的に塞ぎ込んで通院するまでに至ったのであるから、Y2及びY3の行為によりの人格権が侵害されたということができる。
以上によれば、Y2及びY3は、Xに対し、共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

2 Y2及びY3によるXに対する嫌がらせ行為の態様、継続期間、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、Y2及びY3による嫌がらせ行為によりXが受けた精神的苦痛を慰謝するには5万円が相当である。

裁判所が認定する慰謝料額の相場がわかりますね。

弁護士費用等を考えるとなかなか提訴の判断が難しいところですね。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ67 ハラスメント防止委員会決定の名誉感情侵害該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、ハラスメント防止委員会決定の名誉感情侵害該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

A大学ハラスメント防止委員長ら事件(札幌地裁令和3年8月19日・労判1250号5頁)

【事案の概要】

本件は、大学教授であったXが、勤務していた大学のハラスメント防止委員会による決定により名誉感情を侵害されたとして、同決定の取消し並びに不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料160万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

決定取消しを請求する部分は却下

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件決定は、本件大学において、ハラスメントに相談や苦情申立てを受けた本件委員会が、その調査結果や対応措置、処分の検討結果を学長に報告するというもので、私人による事実行為に過ぎず、Xに対する具体的な権利義務を形成する法的効果を生ずるものではなく、本件決定の取消しによる権利関係の変動等も観念できない上、その取消権を認めるべき実体法上の根拠も見当たらない。したがって、本件訴えのうち本件決定の取消しを求める部分について、訴えの利益は認められない

2 本件委員会による決定は、学内におけるハラスメントの相談や苦情申立てについて調査した上、その対応措置及び処分の検討の結果等を学長に報告するものであって、加害者である被申立人の言動に対する否定的評価が含まれ得ることは、その性格上当然に想定されているといえ、これが被申立人に通知されることも、本件委員会規程上、不服申立ての機会を確保するために定められた手続であって、被申立人を非難する目的で否定的評価を告知するものではない
そして、本件決定は、本件発言が人権侵害に当たる旨を判断しているものの、その否定的な評価は、発言自体に向けられたほかは、Xによる同様の案件が2度目であることや、Xにおいてハラスメントに当たるとの認識がないことを指摘するに留まっており、それ以上に、Xの人格攻撃に及んだり、殊更に侮辱的表現を用いたりするものではなく、本件委員会の決定として想定される限度を超えてXの名誉感情を傷つけるものとは認め難い。かえって、本件決定においては、懲戒処分に至らない口頭での厳重注意等を相当とするに留めるとともに、付帯事項(留意点)として、Xに対する措置だけでなく、大学内の組織的な対応や管理職等がとるべき対策等についても言及し、本件決定による措置がXとH教授の関係性の改善に資するよう望む旨が表明されていることが認められ、本件決定の文脈全体をみても、Xに対する一方的な非難や攻撃を意図したものではないことがうかがえる
・・・以上によれば、本件決定は、法的保護に値するXの人格的利益を侵害するものとは認められないから、X主張の不法行為は成立しない。

非常にチャレンジングな訴訟ですが、結果としては上記のとおり、認められませんでした。

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セクハラ・パワハラ66 第三者委員会が認定したパワハラを理由とする懲戒解雇が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、第三者委員会が認定したパワハラを理由とする懲戒解雇が無効とされた事案を見ていきましょう。

社会福祉法人ファミーユ高知事件(高知地裁令和3年5月21日・労経速2459号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社が運営するaセンターのセンター長の職に就いていたXが、①Y社に対し、Y社がしたXの懲戒解雇は懲戒事由を欠いた違法なものであると主張して、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件契約に基づく賃金請求権に基づき、未払賃金及び未払賞与+遅延損害金の支払を求め、さらに、②Y社らに対し、違法な本件懲戒解雇と、本件懲戒解雇に至る過程におけるY社代表者であるA理事長及びその娘であるY2による執拗な嫌がらせによって精神的苦痛を被ったと主張して、Y社は社会福祉法45条の17、一般社団法人法78条に基づき、Y2は民法709条に基づき、慰謝料300万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 平成22年頃、Gが、Xの許可を得て施設利用者のパンの実習を2回行い、一定問題があったもののもう少し実習を続けてあげたい旨Xに伝えたところ、Xが当該施設利用者に対して実習を行うこととした理由等を尋ねたこと、これに対してGがとるべき対応を聞いたところ、Xが自ら考えるよう告げたことは当事者間に争いがない。
Y社らは、Y2がK同席のもとでGから聞き取ったとする内容が記載された書面にGが署名をした文書を提出し、同書面中には、番号2-1に関するY社らの主張に沿う内容の記載があり、また、本件調査報告書は、Y社ら主張の事実が存在した旨が記載されている。しかしながら、G報告書の番号2-1に関する記載内容には、当該対応があった時期を特定する記載はない一方で会話の内容等は相応に詳細であるところ、聞き取りが行われた平成30年時点で既に8年が経過している事実について詳細な聞き取りが可能であった理由が何ら明らかでなく、また、その記載内容からすれば、当該対応の前提となる事実関係に関する客観的な資料(少なくとも施設利用者に関して本件センターが作成した文書、当該実習に関して作成された決済関係の資料等)が存在するはずであるが、そのような客観資料による裏付けもされていない。本件調査報告書中の番号2-1に関する記載も、G報告書同様、客観資料に基づく裏付けがない。そうすると、これらの証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社ら主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社らの主張を認めるに足りる適切な証拠はない。

2 まず、Xは、職員が入所者の支援に行き詰った時には、原点回帰して思考を整理するための質問を行ったり、自ら考えることを促したりする旨主張し、X本人はこれに沿う供述をしているところ、本件センターが、障害があっても自分らしい生活を送ることができるよう、適切な支援を提供し、利用者を主体として、自立と自律を柱とする各々の目標に向けた能力獲得のためのトレーニングを実施すること等を理念、特長としており、施設利用者それぞれの障害や個性に応じたサービスの提供を謳っていることからすれば、Xが主張する上記業務方針は、本件センターの理念等と整合するといえ、Xがそのような対応をすること自体は通常の業務指示と評価することができる。そして、Gが行った実習はXの許可を得ていたものではあるものの、一定の問題が生じていたというのであるから、当該問題に対する対応を含め、実習の目的等を確認することや、改善方法等をGに考えさせることは通常の業務の範疇のやりとりと解される。その他に、Xの言動がGに対するパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる具体的な経緯や事情の存在は認められない
したがって、番号2-1の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。

第三者委員会はパワハラを認定したようですが、裁判所は上記のとおり、パワハラの存在を否定しました。

裁判官においてすら原審と控訴審で評価が異なることは珍しくありませんので特におかしなことではありません。

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セクハラ・パワハラ65 パワハラの調査過程に違法が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、幼稚園の園長のパワハラ行為は否定されたが、被告の調査過程に違法が認められた事案を見ていきましょう。

京丹後市事件(京都地裁令和3年5月27日・労経速2462号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y市に任用され,幼稚園の教諭として勤務していたXが、①平成27年度に勤務していたa幼稚園のB園長からパワーハラスメントに当たる言動等を受けたこと、②Y市が、上記パワハラについて適切な調査を怠ったこと、③上記パワハラの証拠としてY市に提出したXの日記のコピーを、Xの承諾なく、Y市職員によって複製され、また、市長以外の者に閲覧され、さらに、地方公務員災害補償基金京都支部及びB園長に交付されるなどしたこと、④Y市職員に対し、同日記のコピーの返還を求めたが、返還してもらえなかったことにより、うつ病を発症し、又はうつ病が悪化したなどと主張して、安全配慮義務違反による債務不履行又は国家賠償法1条に基づき、損害賠償金1695万9246円+遅延損害金の支払を求めるとともに、⑤違法な分限免職処分を受けたこと及び⑥上記分限免職処分後に、Y市から、緊急時職員参集に係るテストメールを誤送信されたことにより、精神的苦痛を被ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金55万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y市は、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y市職員が、公務災害補償基金に対し、本件日記のコピーを提供した行為は、Xのプライバシーに係る情報の目的外利用に当たるところ、Xが上記行為を当然に許容していたと評価することはできず、また、条例に基づく行為であるともいえないから、Xの事前の同意がない限り、許されないというべきである。そして、本件日記には、XがB園長から受けたとされるパワハラの内容やそれを受けてのXの思いなどが記載されており、その秘匿性も相当程度高いことにも照らせば、Y市職員の上記行為は、Xのプライバシーを侵害するものとして、国家賠償法上違法である。

2 パワハラの調査目的のためであるからといって、B園長に対して本件日記のコピーそのものを交付して書き込みをさせ、それを保管させることは、Xのプライバシーに係る情報の適切な管理に係る合理的な期待を裏切るもので、必要性・相当性の認められる範囲を超えており、Xが上記行為を許容していたと評価することはできない
したがって、Y市職員が、B園長に対し、Xの承諾を得ることなく、本件日記のコピーを交付して書き込みをさせ、それを保管させた行為は、Xのプライバシーを侵害するものとして、国家賠償法上違法である。

3 Xの上記診療記録によれば、Xは、本件日記が市長だけに見せるとの条件で提供されたものであることを前提とした上で、市長以外の者が閲覧するなどしたことについて、本件日記が「流出している」、「出回っている」ものと捉えて、Y市における本件日記の取扱いについて不満や不安を抱いていることが認められる。しかるに、本件日記の提供の際、上記のような条件が付されていたとの前提自体が認められないことは、既に判示したとおりである。また、Y市職員は、公務災害補償基金に対し、本件日記を、Xの公務災害の認定請求に関する調査資料として提供したことが認められるところ、これはXの主張事実を裏付けるものとしての提供であったと考えられる。Xは、Xの母を通じてY市に対し、本件日記をXの主張事実を裏付けるものとして、Y市におけるパワハラの調査のために提供したものであるが、その利用目的そのものとは異なるものの、趣旨とするところには共通するものがある。さらに、Xは、本件日記のコピーがB園長に交付されていたことを平成30年6月26日に知ったことが認められるが、他方でXは、その前の平成29年12月28日に本件訴訟を提起し、Xの日記を甲第1号証として証拠提出しており、これがB園長の目に触れることも覚悟していたものである。
以上の事情に照らせば、Xのうつ病が長期化している状況があったとしても、その原因がY市職員の上記各違法行為にあるとして、その治療費や休業損害までの賠償を相当因果関係のある損害として認めることは困難である。

ハラスメントの調査方法について留意すべき点です。

仮に目的が正当であったとしても、手段が相当でない場合には、違法と判断されますので注意が必要です。

ハラスメント調査は、必ず顧問弁護士に相談をしながら進めていくことをおすすめいたします。

セクハラ・パワハラ64 セクハラ発生後に会社のとるべき対応とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、セクハラの行為者とされる原告に対する会社の対応につき、職場環境配慮義務違反が否定された事案を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁令和2年3月27日・労経速2443号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であり、心因反応(以下「本件傷病」という。)であるとの診断を受けて休職中であったXが、後記のとおり、Y社から、平成30年8月末日限りで休職期間満了によりY社から退職したものとされたところ(以下「本件退職措置」という。)、本件傷病は、Y社がXをセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」ということがある。)の加害者として扱うなど職場環境配慮義務を尽くさなかった結果、発症したもので業務に起因するものであり、Xはその療養中であったものであるから、本件退職措置は、労基法19条に照らし無効であるなどと主張して、Y社との間で、①労働契約上の権利を有する地位にあること確認を求めるとともに、②Y社に対し、職場環境配慮義務違反(債務不履行)に基づき、損害金2569万6026円+遅延損害金の支払を、また、③Y社に対し、労働契約に基づき、平成30年9月から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額47万7709円の賃金と月額4万3631円の退職積立金、毎年6月10日及び12月10日限り各95万5418円の賞与+遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社がXに対する職場環境配慮義務を負っていることを前提に、その義務違反として、本件トラブルに関し、関係従業員から詳細に事実を聴取すべき義務の違反があったと主張する。
しかしながら、Y社は、本件トラブルの申告者であるBから事情を聴取しているばかりでなく、Xからも、そのヒアリングにおいて、本件発言の経緯を含めて言い分を聴取しており、必要範囲の確認は施しているものと認められるから、その所為に不足があるとは認められず、義務違反があるとは認められない。
この点、Xは、Y社がXに対するヒアリングにおいて曖昧な言葉で事実確認を行ったなどとも主張し、この点も問題視するが、証拠によっても、Bから問題とされたトラブルの内容については明確に特定できており、そのように認めることはできない。
Xは、Y社がXの主張を一顧だにせず始末書の提出や謝罪を強制したなどとその態度や措置も問題視しているが、Y社は、本件発言の経緯を含めてXの言い分を聴取しており、Xの主張をおよそ顧みなかったなどとは認め難い。また、Y社は、謝罪や始末書の提出をする意向があるかを原告に尋ね、Xも、本件発言の経緯は経緯としつつも、自己の不用意な発言を詫び、謝罪や始末書の提出にも任意応じる旨の意向を示したものであって、かかる経過に強制の事実は見出し難い。
Xは、Y社が懲戒を仄めかしたなどとして、この点についても主張しているが、謝罪の場でのDの発言は一般論にとどまるものと認められ、これを超えて懲戒としての具体的措置が検討された形跡もなく、かえって、爾後、特に会社から何か要求することもないので業務に集中していただきたいとY社から申し伝えられてもいることは前判示のとおりであって、この点から具体的な義務違反があるということもできない
Xは、XとBとをしばらく同じ部署で就労させ続けたことについても問題視するが、本件トラブルについては、謝罪の場が設けられたことにより、Bから人事部に謝意が述べられたメールが送られるなど一応の収束を見せていたものであり、Xから質問のメールこそ人事部宛に送られることがあったものの、その内容に、Bと同じ部署で稼働したくないとの申出までは書かれておらず、実際にもBの異動まで特段トラブルを生じているとも認められていなかったのであるから、Xの主張するような異動を命じるべき義務がY社に生じていたということもできない。
Xは、Y社が再調査をしなかったことが前記義務違反を構成するとも主張する。しかし、B申告に係る本件トラブルは、謝罪の場の設置によりひとまずの収束を見せ、その後、特段のトラブルなくBは異動し、Dからの再調査を一からすることになるがよいかというメールに対してもXにおいて特段明確な異議や異論が示されることのないまま事実経過が推移してきていたものであり、Y社としては本件トラブルを収束させたとの認識であったものである。もとより、BとXとの間では、謝罪の場においても本件発言の経緯をめぐって見解の齟齬が見られるなど、見解の相違がなお残っていたとはいえるが、当時、その認識の齟齬を埋めることのできる具体的な物証があることが見込まれたわけでもない。
しかも、Y社としては、本件トラブルを重大なものとまでは認識しておらず、Xに対し、Xが応じた前記措置のほかは、懲戒処分を含め、特段の措置をとることは何ら検討していなかったものでもある。そうすると、Y社が、その後Bとの間にトラブルが生じてもいなかった本件トラブルについて、再度調査を行うこととした場合における従業員間での紛議の再発も懸念し、特段の再調査までは行わなかったとしても、その対応は不合理なものということはできず、Xが主張するような義務違反を構成するものとは認め難い。
その他、Xは、本件トラブルについてY社所定の「セクハラ・パワハラに関する相談・苦情への対応の流れ」の手順書に則った取扱いがされていないこと、本件発言がどうして被害感情に結びつくかについてXがY社に質問しているのにY社がこれに適切に回答していないことも指摘する。
しかしながら、前者の点については、その指摘に係る手順書は、Y社内の同申出に関する基本的な手順を定めたものとはいえても、事案の内容や申告者の意向を措いて、いついかなる場合にもそのように取扱うべき趣旨のものとまでは解し難く、この点に関するXの主張は前提を異にするものといわざるを得ない。また、後者の点についても、Xは、自身に対するヒアリングにおいて、被害者の気持ちが重要であるなどとして本件発言の不適切なことを自認し、謝罪の意向も示していたものであるし、そもそもY社においてX指摘の質問に仔細応じなければならない義務があると認めるべき根拠に乏しい
したがって、これらの点によっても、Xが主張するような義務違反があるとは認め難い。

ハラスメント発生後の会社の対応をめぐって訴訟に発展することは少なくありません。

ガイドライン等で手続きの概要を知ることはできますが、被害者と加害者の認識のずれが大きい場合にいかなる事実認定をすべきは非常に難しい問題です。

必ず顧問弁護士に相談をしながら手続きをすすめていくことをおすすめいたします。

セクハラ・パワハラ63 休職期間満了後の復職時における対応と安全配慮義務違反(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、欠勤を理由とする懲戒処分等に関する裁判例を見てみましょう。

東菱薬品工業事件(東京地裁令和2年3月25日・労判ジャーナル103号94頁)

【事案の概要】

本件は、業務外の事由により欠勤していたY社の従業員Xが、Y社に対し、Y社が診断書の提出後に休職を命じたり、復職に当たって試用期間の設定をしたり、始末書の作成をさせたり、復職後にその職位を降格する懲戒処分等をしたことは、Xに対するハラスメントに当たるとして、Y社の不法行為責任、使用者責任ないし安全配慮義務違反による債務不履行に基づき、慰謝料等の支払、未払時間外手当等の支払、労基法114条に基づく付加金等の支払、本件懲戒処分が無効であるとして、役職手当の減額分等の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料(30万円)等請求一部認容

未払賃金等請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社によるハラスメント(1)ないし(9)を理由とする従業員の損害賠償請求については、軽作業であれば復職可能である旨の診断書の提出にもかかわらず、Xが従事可能な業務について十分な配慮をせず、休職を命じたこと、復職に当たって始末書を提出させたこと及び無効な本件懲戒処分を行ったことについて、Y社には少なくとも過失が認められるから、これらの一連の行為に関し、Y社は不法行為責任ないし安全配慮義務違反による債務不履行責任に基づく損害を賠償する義務を負い、そして、本件懲戒処分が無効とされることにより、役職手当の減額分に関する経済的損失は回復されるといえるものの、Xの復職が遅れたことにより、無収入の期間が生じたこと、Xが適応障害を発症したこと等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、Xが被った精神的苦痛の慰謝料としては30万円が相当である。

2 本件の事情の下では、Xが、本件請求期間において、Y社の指揮命令の下で、タイムカード上の退勤時刻まで労務を提供していたことの立証は尽くされていないというほかないから、未払時間外手当に関するXの主張は採用できず、時間外手当及び付加金の各請求はいずれも理由がない。

私傷病による休職期間満了時の対応を誤ると訴訟に発展することは比較的よくあります。

対応方法は、事案によって異なりますので、必ず顧問弁護士に相談しながら対応することが肝要です。

セクハラ・パワハラ62 ハラスメント発生後に会社が行うべき適切な対応とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、身体的接触及びくじ引き行為に基づく慰謝料請求に関する裁判例を見てみましょう。

海外需要開拓支援機構ほか1社事件(東京地裁令和2年3月3日・労判ジャーナル102号44頁)

【事案の概要】

本件は、F社との間で労働契約を締結し、F社とB社との間の労働者派遣契約に基づいてB社に派遣されて就労していたXが、①B社の執行役員であったD及び取締役であったCの言動により人格権が侵害されたと主張して、C及びDに対し、不法行為に基づき、それぞれ慰謝料400万円+遅延損害金の支払を求め、②B社及びF社は上記人格権侵害に係る対応においてそれぞれ就業環境配慮・整備義務を怠ったと主張して、不法行為に基づき、B社に対し慰謝料200万円、F社に対し慰謝料400万円+遅延損害金の支払を求め、③B社がF社との間の原告に係る労働者派遣契約を更新しなかったことなどが労働組合法7条の不当労働行為に該当し、これにより原告の団結権等が侵害されたと主張して、B社に対し、不法行為に基づき、慰謝料200万円+遅延損害金の支払を求め、④B社の執行役員であるEは、B社の人事部長に対して不当な目的で上記労働者派遣契約の更新拒否等をするよう指示したと主張して、Eに対し、不法行為に基づき、慰謝料400万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Dは、Xに対し、5万円+遅延損害金を支払え。
Cは、Xに対し、5万円+遅延損害金を支払え。
Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Dは、XがDの手を払って拒否していることが明らかであるにもかかわらず、故意に複数回Xの肩に手を回そうとして、現にXの肩に触れたものであるところ、男性であるDが女性であるXの意思に反して複数回その身体に接触した上記行為は、Xの人格権を侵害する違法行為というべきであって,不法行為に当たる。
次に、Dは、派遣労働者であるXが執行役員であるDに対して拒否の意思を示すことは容易ではないことは明らかであるのに、XがDに対して拒否する意思を明確にしていることを意に介することなく複数回Xの肩に手を回そうとしたものであって、Xは、相応の羞恥心、強度の嫌悪感を抱いたものと推認される。他方、Dが接触した部位は肩というにとどまり、また、上記行為が10分間などの長時間に及んだとまでは認められない。なお、この点、Xは、Kに対し、LINEを用いて「私は大丈夫です」とのメッセージを送信しているが、その前後のやり取りからすれば、Kが太ももなどを触られたというのと比較して述べたのにすぎないことが明らかである。
以上の事情を考慮すれば、Xが被った精神的苦痛に対する慰謝料の額としては、5万円が相当である。

2 本件懇親会において実施された本件くじ引きは、参加した女性従業員らがG又はCと共にくじに記載された映画等の行事に参加することやGに手作りの贈り物をすることなどを内容とするものであって、これらがB社における業務でないことは明らかである。そして、本件くじ引きをさせた行為を客観的にみれば、くじ引きという形式をとることにより、単に映画等に誘うなどするのとは異なり、女性従業員らにおいて、その諾否について意思を示す機会がないままに本件くじに記載された内容の実現を強いられると感じてしかるべきものである。
しかも、本件くじ引きを企画したCは、B社の専務取締役であるから、派遣労働者であるXが本件くじ引き自体を拒否することは困難と感じたことは容易に推認される。
・・・以上によれば、Cが本件くじ引きをさせた行為は、Gの接待等を主たる目的として、Xの意思にかかわらず業務と無関係の行事にGやCと同行することなどを実質的に強制しようとするものであり、Xの人格権を侵害する違法行為というべきである。

3 Cによる本件懇親会及び本件くじ引きについて、B社がXの意向のままにハラスメントと認定し、Xの望むままの処分をしなければならない法律上の義務はない。また、B社は、Cによる本件懇親会及び本件くじ引きについて、Xが社外ホットラインに通報した後、速やかに関係者に対する事実関係の調査を実施し、弁護士の助言に基づいてCの行為を不適切と判断して厳重注意をしたのであって、その調査や判断の過程に不適切な点があったとの事実を認めるに足りる証拠はなく、B社が適切な調査等をしなかったと評価するべき理由はない。

4 Dの本件セクハラ行為についても、B社がXの主張するままにこれをセクシュアルハラスメントであると認定しなければならない法律上の義務はない。また、Xが社外ホットラインに通報した当時には既にDは退職しており、B社にDに対する処分をする前提がそもそもなかったのであるから、B社にDに対する調査や処分をするべき義務があったと解する根拠もない
さらに、仮にB社が実施した平成29年5月12日の研修においてXが主張するような説明(一般人の感じ方を基準として専門家や弁護士が検討して会社が決定する旨の説明)があったとしても、その内容が客観的に見て不適切であるというべき理由はない。

ハラスメント事案における慰謝料の金額は、本件のようにかなり低いです。

また、会社の責任については、事後の対応を適切に行うことにより回避することができます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ61 顧問弁護士によるハラスメント調査と利益相反問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワーハラスメントを理由とする懲戒処分(訓戒)が有効とされた事案を見てみましょう。

辻・本郷税理士法人事件(東京地裁令和元年11月7日・労経速2412号3頁)

【事案の概要】

【裁判所の判断】

Y社がXに対し行った訓戒の懲戒処分の無効確認請求は却下

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 B弁護士は、Y社の顧問弁護士であり、Y社から依頼を受けて本件調査を行った者であるが、同弁護士は、Y社から本件調査についての意見を聞くことなく本件調査を開始し、X及びEからそれぞれの言い分等を記載した書面の提出を受け、X及びA部長が所属する人事部の従業員のみならず、他の部署の従業員からも事情聴取を行った上で本件報告書を作成していることが認められる。
そして、B弁護士による調査が中立性、公平性を欠くというべき具体的な事情は事情は窺われず、また、上記のとおり本件調査は、複数の部署にわたるY社の従業員から事情を聴取して行われており、人事部における人間関係にとらわれない調査方法が用いられているということができる。さらに、本件報告書に至る過程に特段不自然・不合理な点は認められない。
以上によれば、本件報告書には信用性が認められ、同報告書に記載された事実を認めることが相当である。

2 Xは、本件懲戒処分を受けるに当たり、B弁護士から事実関係のヒアリングを受けたにすぎず、懲戒権者であるY社に対する釈明又は弁明の機会が与えられていないことから、Y社の就業規則において必要とされる手続が履践されていない旨主張する。
しかしながら、Y社の就業規則においては、「懲戒を行う場合は、事前に本人の釈明、又は弁明の機会を与えるものとする」との規定があるのみであり、釈明の機会を付与する方法については何ら定められていない。そして、本件懲戒処分に先立ち行われた本件調査は、法的判断に関する専門的知見を有し、中立的な立場にあるB弁護士が、Y社から依頼を受けて行ったものであるから、釈明の機会の付与の方法として適切な方法がとられたということができ、Y社の就業規則において必要とされる手続が履践されたというべきである。したがって、Xの主張は採用することができない。

本件では、Y社の顧問弁護士が調査をしており、「中立的な立場」といえるかが問題となりましたが、調査過程等に鑑み、肯定されています。

この類の紛争では、調査を担当した弁護士が、訴訟になった際にそのまま会社側の代理人となる場合があり、それが利益相反とあたらないか疑義が生じますので注意が必要です。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。