Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ80 産後休暇明けの週勤務日数について、産前勤務より少ない日数を提案したことが、いわゆるマタニティーハラスメントに該当しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、産後休暇明けの週勤務日数について、産前勤務より少ない日数を提案したことが、いわゆるマタニティーハラスメントに該当しないとされた事案について見ていきましょう。

A市事件(宮崎地裁令和5年7月12日・労経速2528号26頁)

【事案の概要】

本件は、医師であるXが、勤務していたB病院を運営するY市に対し、Xが産休から復帰する直前に次年度の勤務日を週5日から週1日に減らす変更を告げられたことによりXの抱える精神疾患が悪化したなどとして、国家賠償法1条に基づく損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 B病院は、令和3年4月以降も会計年度任用職員として雇用することを前提として、週1日(水曜日)の勤務を提案した。この提案は、Xが精神障害の影響によって睡眠が十分にとれず、B病院から至近の官舎からの出勤でも勤務開始時刻等に配慮が必要であったところ、産休明けは育児の負担が重なるうえ、A市外からの通勤が予定されており、更なる配慮が必要であると思われたことからされたもので、育児をしながらの遠距離通勤での勤務に慣れていけば勤務日を増やす余地があるものであった。

2 B病院では医師が不足しており、Xが産休に入った直後に別の医師を採用したことによってXが余剰人員となったということではない。また、Xが雇用されてから産休に入るまでの間、Xの抱える精神障害等を踏まえて種々の勤務条件の配慮がなされており、妊娠や出産を理由としてXを勤務条件で不利益に取り扱う意図があったとは認めがたい
前記提案の週1日の勤務では、Xが居住するZ市における保育所利用のための基準要件の一部を満たさないことになるが、B病院において、当該基準を把握していたとは認められないし、当該基準を一時的に満たさない場合において、直ちに入園許可が取り消されなくなるかどうかも定かではない。また、Xが当該要件を満たす働き方を希望した場合に、B病院がこれを受け入れなかったとも認定できない。

本件のような事案においては、多くの場合、「マタハラ」との関係で腫れ物に触るような対応を余儀なくされていることと思います。

本件では上記判例のポイント2のような事情が認定されたことから違法とは判断されませんでした。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ79 上司らの嫌がらせに基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、上司らの嫌がらせに基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

ゆうちょ銀行事件(水戸地裁令和5年4月14日・労判ジャーナル139号32頁)

【事案の概要】

本件は、旧郵政省に採用され、郵政民営化後はY社に雇用されて就労していたXが、Y社に対し、Xは、平成19年9月18日以降、上司から恣意的に担当業務を制限されたり、同僚から悪口を言われたりする嫌がらせを受け続け、これらの行為について、Y社は職場環境配慮義務を怠ったなどと主張して、債務不履行に基づき、損害金合計1億1000万円(慰謝料1億円と弁護士費用1000万円の合計)+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、55万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 平成23年6月からY社の千葉地域センター課長代理の地位にあったBは、Xに対し、平成25年11月12日、退職届を書いたかとの旨尋ねる発言をし、平成26年8月13日、自身の退職届を渡して、これを千葉地域センター所長へ提出するよう述べたことが認められる。
BのXに対する各言動は、Xに対して、その上司であったBにおいて、Y社を退職するよう示唆し、さらに、Xが自らY社を退職するよう精神的に圧力をかける行為と見られてしかるべきものであり、客観的に見て、社会通念に照らし、度を過ぎた言動というべきである。
そして、Bは原告が配属されていた職場における課長代理の地位にあり、Xの上司として、Xが精神的に安全な環境で執務できるその職場環境を整備するべき立場にあったのであるから、BのXに対する各言動は、直接、Y社において、Xがその職場において精神的な健康の安全を確保しつつ労働することができるよう配慮するべき義務を怠ったものと解される。
したがって、この点において、Y社には、Xに対する職場環境配慮義務違反の債務不履行が認められる。

2 係長としてXの上司であったDは、平成27年10月20日、同月28日、同月30日、同年11月10日、同月12日、同月19日、平成28年2月4日及び同月9日、職場において、Xの頭髪に整髪料をつけて、Xの髪をいじってその髪型を変えるなどして、そのまま就労させ、このことは、Xにとって不本意であったとの旨の記載並びに記載部分及び供述部分がある。
これに対し、Dの陳述書及び証言中には、Xが日常的に髪がぼさぼさであったり、ふけがたまっていたりしていて、女性社員からXについて、ふけがあって近寄るのが嫌だなどと言われていたため、外部業務に行く際、身だしなみを整えるために、自身の整髪料をあげるか貸すかして、その使い方を教えたことはあるが、Xの髪を触ったり、整髪料をつけたりしたことはないとの記載部分及び証言部分がある。
しかし、真実、Xの髪や衣服などにふけが付着するなどして周囲に不快感を与える状況であったというのであれば、上司であるDとしては、まずは、Xにその旨指摘して、ふけを払うなどの措置を講じるよう促すのが自然というべきところ、Dがそうすることはせず、Xにふけの存在やこれを改善するよう指摘や指導をすることなく、ふけの除去に効果があるとは思われない整髪料を渡してその使い方を教えただけであったというのは、事の流れとして不自然、不合理である。
したがって、Dの上記記載部分及び証言部分は、採用できない。
以上によれば、Dは、多数回にわたり、Xの意に反して、その髪に整髪料をつけて直接いじって髪型を変えるなどして、職場において就労させることを繰り返していたことが認められる。
そして、Dの上記行為がXに屈辱感を与え、その人格的利益を侵害するものであることは明らかというべきである。さらに、これがXが精神的に安全な環境で執務できるその職場環境の整備に配慮すべき立場にあったXの上司によって行われたものであり、加えて、Xの髪型の変化は、Xの他の上司においても、容易にこれを認識できたものと推認され、同上司らにおいても、Dの上記行為を制止する措置をとってしかるべきであったといえる。
したがって、Dの上記行為やこれを看過した周囲の上司らの行為は、Y社において、Xに対する職場環境配慮義務を怠ったものと解されるものであって、Y社には、職場環境配慮義務違反の債務不履行が認められる。

1億円の慰謝料請求をし、認容されたのは50万円です。

印紙代や弁護士費用からしますと評価が難しいところです。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ78 宛先やCCに該当者以外を入れ、部下を叱責するメールを送信したこと等による譴責処分等が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、宛先やCCに該当者以外を入れ、部下を叱責するメールを送信したこと等による譴責処分等が有効とされた事案を見ていきましょう。

ちふれホールディングス事件(東京地裁令和5年1月30日・労経速2524号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結したXが、Y社から、他の従業員らに対するパワー・ハラスメントに該当する行為があったとして、始末書を提出するよう命じる旨の譴責処分を受け、その後、Y社の社長室に配転する旨の命令を受けたことから、本件譴責処分は理由を欠くものとして無効であって、本件配転命令も無効である旨主張して、Y社に対し、本件譴責処分の無効確認、XがY社の社長室で勤務する雇用契約上の義務がないことの確認及びXをY社の海外事業部に配転することを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、令和2年3月13日、アジア市場における広告代理店の選定に関し、AがCを選定することを前提に検討を進めていたことについて、Dアジア事業本部長及びAに対し、CcにK及びMを入れた上で、もともと打ち合わせた内容とは違うとして、「Aさんの言動にも目に余るものを感じております」などと記載した電子メールを送信している。
このうち、「Aさんの言動にも目に余るものを感じております」との文言は、Xの部下であったAの言動について客観的な事実を指摘することなく、感情的にAを叱責する印象を与えるものであったことは否定し難い上、前記電子メールは、Dアジア事業本部長からAが中心になって前記検討を進めてほしい旨の指示を受けた後に、A以外の者を宛先やCcに入れて送信されたものであって、業務上必要かつ相当な範囲を超えてAを叱責するものであったというべきである。
Xは、前記電子メールは、AがXを無視してDアジア事業本部長と二人で検討を進めていたことが組織の秩序を乱す行為であることを、Dアジア事業本部長に対して発信したものである旨主張しているものの、仮に広告代理店の選定に関するAの検討内容やその過程に何らかの問題があったとしても、Xとしては、AやDアジア事業本部長との間で個別に指導や相談を行うことで足り、A以外の者を宛先やCcに入れて前記電子メールを送信することが、業務上必要かつ相当であったとはいい難い
そうすると、Xが前記電子メールを送信したことについて後にAに謝罪したことを考慮しても、XがA以外の者を宛先やCcに入れて前記電子メールを送信し、Aを叱責したことは、他の従業員を業務遂行上の対等な者と認め、職場における健全な秩序及び協力関係を保持する義務に反して、上司としての地位を利用し、Aへの嫌がらせを行った行為に当たるものと認められ、Y社の就業規則55条2項、59条1号、63条4号、67条1項に反し、111条18号、19号の懲戒事由に該当する。

メールでCCを入れて叱責したことが指摘されています。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

 

セクハラ・パワハラ77 ハラスメント及び安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ハラスメント及び安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人社団慈昴会事件(札幌地裁令和5年3月22日・労判ジャーナル138号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営するクリニックで就労していた看護師が、Y社に対し、当該クリニックの院長からハラスメントを受けたと主張して、安全配慮義務違反又は民法715条に基づき、損害賠償金110万円等の支払を求めるとともに、当該クリニックの更衣室のロッカーの戸が外れて看護師が受傷した事故につき、安全配慮義務違反に基づき、損害賠償金110万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 院長の発言は、そもそも看護師がマスクの着用を促したことに対するものであると認められる上に、「クソ生意気な女」、「バカ面白くない」、「バカ女」などというその侮辱的な内容のほか、繰り返し「バカ」という侮辱的な言辞が用いられていること、医師と比べて看護師を著しく低く評価する趣旨の表現が含まれていることからすれば、看護師に対する指導・教育の範疇にとどまるなどとは到底評価することができず、看護師に対する不法行為を構成することが明らかであり、そして、Y社自身、院長の言動が看護師に対する指導・教育であると主張していることを踏まえると、院長の上記の不法行為につき、Y社が使用者責任を負うことは明らかであり、看護師の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額としては、10万円をもって相当と認める。

このような事案における慰謝料の相場を知ることができます。

金額よりもレピュテーションダメージの方が大きいです。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ76 ゼネラルマネージャーのパワハラに基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、ゼネラルマネージャーのパワハラに基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

日本ビュッヒ事件(大阪地裁令和5年2月7日・労判ジャーナル137号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、Y社から解雇されたが、その後、Y社は解雇を撤回したため、Xが、Y社に対し、なおも従業員としての地位に不安があるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに将来分の賃金の支払を求め、さらに、Y社のゼネラルマネージャーらから受けたパワーハラスメントやY社による解雇が不法行為又は債務不履行を構成するとして、使用者責任又は債務不履行に基づく損害賠償請求として慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求却下

損害賠償請求として50万円認容

【判例のポイント】

1 (1)GMは、Xが、マネージャーの地位にはなく、a営業所長との役職も存在しないなどとして、Xがこれまで果たしてきた役割を否定する内容のメールをXだけでなく、他のマネージャーにも送信したものであり、このようなGMの行為は、Xの自尊心を深く傷つけるものであって、軽率のそしりを免れず、不法行為を構成するというべきであり、(2)GMによる10月5日ミーティング以降のXに対するメールの送信等は、自らの言動の問題性を何ら顧みることなく、これに恐怖心等を抱くXへの心情にも全く配慮しないまま、自らの指示に従おうとせず、逆に自らを失脚させようとしたXをY社から排除すべく行われたものであると認めるのが相当であって、社会通念上許容される範囲を逸脱し、従業員の人格権を侵害し、不法行為を構成するというべきであり、(3)本件解雇に解雇理由がないことが明らかであり、その目的が不当といえること、GMが独断で本件解雇に及んだこと等に照らすと、本件解雇は、GMが自らの権限を濫用して行った恣意的で著しく社会的相当性を欠くものというべきであって、GMは、本件解雇後、Xが担当していた顧客や販売会社に対し、解雇したXの評価を貶めるような発言をしたことと併せ、不法行為を構成するというべきである。

2 本件解雇後の経過について、令和4年1月4日の面談におけるGMらのXに対する発言は、自らの問題を何ら顧みることなく、Xに非がある旨を述べ、退職を迫るものであり、およそ許容し難いものであって、Xの人格権を侵害する不法行為を構成するというべきであり、本件けん責処分は、Xに対する不法行為を構成するというべきであり、従業員を敵視し、退職させようとの意図のもとに自宅待機状態を継続させていることは、不法行為を構成するというべきである。

退職させる意図での自宅待機命令は、それ自体が不法行為と評価される可能性がありますので注意が必要です。

自宅待機命令をする場合は、合理的な理由があるかについて客観的に判断しましょう。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ75 民事訴訟法における違法収集証拠の取扱い(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、妊娠した歯科医師の診療予約をしにくくした行為が不法行為に該当するとされた事案を見ていきましょう。

医療法人社団A事件(東京地裁令和5年3月15日・労経速2518号7頁)

【事案の概要】

本件は、Y法人と労働契約を締結しているXが、①Aから、「不法行為一覧表」記載の不法行為を受けたと主張して、不法行為に基づく損害賠償並びに医療法46条の6の4が準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づき、Y社らに対し連帯して、336万4362円+遅延損害金の支払を、②令和2年1月支給分の給料について、有給休暇取得分(1日)が反映されておらず、未払賃金があると主張して、5万3345円+遅延損害金の支払を、③令和2年10月支給分の給料について、有給休暇取得(1日)が反映されておらず、未払賃金があると主張して、6万4849円+遅延損害金の支払を、④安全配慮義務が果たされていないため、労務の提供ができないと主張して、未払賃金として、48万4877円+遅延損害金の支払を、令和4年7月から本判決確定の日まで、毎月15日限り88万4389円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、5万3345円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、6万4849円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、45万6036円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、令和4年7月から本判決確定の日まで、毎月15日限り、83万1595円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 民事訴訟法が証拠能力(ある文書や人物等が判決のための証拠となり得るか否か)に関して何ら規定していない以上、原則として証拠能力に制限はなく、当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて採集されたものである場合に限り、その証拠能力を否定すべきである。
これを本人についてみると、①証拠Aは、許可なく診療録を写真撮影したもの、②証拠Bは、許可なく予約画面等を写真撮影したものであるが、これらを前提としても、著しく反社会的な手段を用いて採集されたとはいえないから、証拠能力を肯定すべきである。
③証拠Cは、控室の会話に関する秘密録音の反訳書面で、控室におけるXとAとの会話、Xが不在時の控室内における本件歯科医院のスタッフの会話を、X以外の発言者の知らないところでその発言を録音されたというものであって、これを前提としても、当該録音が著しく反社会的な手段を用いて採集されたとはいえないから、証拠能力を肯定すべきである。
また、甲第107号は、診察ブースにおけるXと患者との会話の秘密録音の反訳書面である。当該患者は、守秘義務を負っている歯科医師のXが許可なく、会話を録音し、それを外部に提出することは全く想定していないのが通常であり、当該患者の人格権に関する侵害の度合いは高いことは否定できないが、これを前提としても、録音された当該患者が証拠の排除を求める場合はさておき、少なくともY社らとの関係においては、著しく反社会的な手段を用いて採集されたものとまではいえないので、証拠能力を肯定すべきである。

ご覧のとおり、民事訴訟においては、かなり広く証拠能力が認められています。

とはいえ、一線を越えてしまうと大きな問題になりますので注意が必要です。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ74 大学教授らの厳しい叱責等が違法なハラスメント行為にあたらないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、大学教授らの厳しい叱責等が違法なハラスメント行為にあたらないとされた事案を見ていきましょう。

国立大学法人A大学事件(旭川地裁令和5年2月17日・労経速2518号40頁)

【事案の概要】

第1事件は、Y大学の准教授であるA及び同助教であるBが、同享受であるC及び同講師であるDから、ハラスメント行為を受け、抑うつ状態となり、病気休暇取得を余儀なくされるなどの精神的苦痛を受けたと主張して、それぞれCらに対し、不法行為に基づき、330万円の損害賠償+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

第2事件は、Aらが、Cらによるハラスメント行為を受け、精神的苦痛を受けたと主張して、それぞれY大学に対し、民法715条、415条又は国家賠償法1条1項に基づき、第1事件と同額の330万円の損害賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Cの各発言は、Aの引越業者への連絡の失念という業務上のミスに端を発し、その報告を怠ったことに関する業務態度を指導する中でされたものと認められる。そして、Cが、A、B両名に対し、以前から同様の業務態度に関する指導を繰り返していたことや、上記ミスにより本来不必要な費用負担が生じたことに加えて、上記のとおり、Cは、Iから、A、B両名が研究ばかりして動物実験施設の業務を職員に丸投げしているとの報告を受けていたところ、当時、Aは、Cの知らないところで研究助成金の学内申請をしており、そのことに関して、共同研究者への配慮を理由として、Cに報告しないことを正当化する発言をしたことや、H棟の運用開始に向けた業務に遅れが生じていたことなどが認められ、Cが、同会話の中で、Aの返答に怒りを覚えたことは、ある程度、理解し得るものといえる。
Cの「どつき倒したいくらいむかついてんだよ」という発言自体は、当該部分のみを見れば、部下に対する発言として、不適切なものといわざるを得ないが、他方で、会話中、同程度に不適切な発言が繰り返されているものではなく、むしろ、他の場面では、Aのキャリアや成長に期待する趣旨の発言もされているなど、会話全体の内容を踏まえると、Cによる叱責が相当長時間に及んだことを考慮しても、いまだ業務指導として適正な範囲を超えるものとまではいえず、違法なハラスメント行為に当たるとまでは認められない。

ぎりぎりの評価ですが、発言の一部分を切り取るのではなく、会話全体の内容を考慮するという考え方は理解しておくべきです。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ73 使用者の職場環境を調整する義務違反が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、使用者の職場環境を調整する義務違反が認められた事案を見ていきましょう。

甲社事件(千葉地裁令和4年3月29日・労経速2502号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結しているXが、Y社が労働契約上の安全配慮義務に違反したため、上司及び同僚からパワーハラスメントやいじめを継続的に受け、これによって精神的苦痛を生じたと主張して、Y社に対し、労働契約上の債務不履行若しくは不法行為又は使用者責任に基づく損害賠償として330万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、88万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 【A】SVの発言について、本件出来事の後、セキュリティ部のオフィスで行われたXとの面談において、【A】SVの側から、労災申請への協力を求めるXの心の弱さを指摘するものともとれる発言があったという限度において認めることができることは、上記2(2)のとおりであるが、【B】SVの発言、【C】SVの発言については、これを認めるに足りる的確な証拠がなく、認めることができない。【A】SVの発言についても、社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない。【F】の発言、【D】UMの発言、【E】SVの発言、【G】の発言、【H】の発言、【I】の発言についても、それらの発言がされたことを認めるに足りる的確な証拠がなく、一部認めることができる発言等(上記2(5)の【D】UMの発言、【H】の平成29年11月22日の発言)についても、それが社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない
もっとも、Xは、これらのパワハラ及び職場における常習的ないじめがあったことを前提として、Y社が、Xの仕事内容を調整する義務に違反し、職場環境を調整する義務に違反したと主張するものである。そして、Xの仕事内容を調整する義務の違反については、(1)Xは、本件出来事の後、うつ症状が発症し、過呼吸の症状が出るようになったが、来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り、できる限り人に知られないようにしていたこと、(2)【q】医師ら及びハートクリニック【M】の医師は、休職の上、療養に専念することを勧めたが、Xは、出演者雇用契約の継続にこだわり、出演者としての就労を継続しながら治療を受けることを望んでいたこと、(3)Y社は、Xが出演者としての就労を継続することを前提として、なるべくゲストに接することがないように配慮したポジションである本件配役を配役したものであることからすると、Y社がXの仕事内容を調整する義務に違反したとまでいうことはできないが、職場環境を調整する義務の違反については、(4)Xは、過呼吸の症状が出るようになったことから、配役について希望を述べることが多くなったところ、過呼吸の症状が出るようになったことをXができる限り人に知られないようにしていたこともあり、他の出演者の中には、Xに対する不満を有するものが増えたのであって、Xは職場において孤立していたと認めることができるところ、(5)出演者間の人間関係は、来期の契約や員数に限りがある配役をめぐる軋轢を生じやすい性質があると考えられること、(6)Xは、本件出来事の後、うつ症状が発症し、過呼吸の症状が出るようになった後も、来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り、できる限り人に知られないようにしていたが、Xの状況は、遅くとも平成25年11月28日及び12月18日の面談により、【K】部長、【L】MGRの知るところとなったことによれば、Y社は、他の出演者に事情を説明するなどして職場の人間関係を調整し、Xが配役について希望を述べることで職場において孤立することがないようにすべき義務を負っていたということができる。
ところが、Y社は、この義務に違反し、職場環境を調整することがないまま放置し、それによって、Xは、周囲の厳しい目にさらされ、著しい精神的苦痛を被ったと認めることができるから、Y社は、これによって原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

これを読むと、組織の中で多数の従業員の職場環境を調整することは大変だなあ、とつくづく思います。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ72 分限免職処分の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、分限免職処分の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

長門市・長門消防局事件(最高裁令和4年9月13日・労判128号2頁)

【事案の概要】

本件は、普通地方公共団体であるY市の消防職員であったXが、任命権者であるY市消防長から、地方公務員法28条1項3号等の規定に該当するとして分限免職処分を受けたのを不服として、Y市を相手に、その取消しを求める事案である。

原審(広島高裁令和9月30日)は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件処分の取消請求を認容すべきものとした。
Y市の消防吏員としての素質、性格等には問題があるが、上告人の消防組織においては、公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、ある意味で開放的な雰囲気が従前から醸成されていたほか、職務柄、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、本件各行為も、こうした独特な職場環境を背景として行われたものというべきである。Xには、本件処分に至るまで、自身の行為を改める機会がなかったことにも鑑みると、本件各行為は、単にX個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等にのみ基因して行われたものとはいい難いから、Xを分限免職とするのは重きに失するというべきであり、本件処分は違法である。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

Xの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件各行為は、5年を超えて繰り返され、約80件に上るものである。その対象となった消防職員も、約30人と多数であるばかりか、Y市の消防職員全体の人数の半数近くを占める。そして、その内容は、現に刑事罰を科されたものを含む暴行、暴言、極めて卑わいな言動、プライバシーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等、多岐にわたる
こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れたXの粗野な性格につき、公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。
また、本件各行為の頻度等も考慮すると、上記性格を簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることにも不合理な点は見当たらない。
さらに、本件各行為により上告人の消防組織の職場環境が悪化するといった影響は、公務の能率の維持の観点から看過し難いものであり、特に消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが、消防職員や住民の生命や身体の安全を確保するために重要であることにも鑑みれば、上記のような影響を重視することも合理的であるといえる。

2 そして、本件各行為の中には、Xの行為を上司等に報告する者への報復を示唆する発言等も含まれており、現に報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、Xを消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難であるといえる。
以上の事情を総合考慮すると、免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても、Xに対し分限免職処分をした消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。そして、このことは、Y市の消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない

ちなみに、Xの本件各行為の主な内容は以下のとおりです。

①訓練中に蹴ったり叩いたりする、羽交い絞めにして太ももを強く膝で蹴る、顔面を手拳で10回程度殴打する、約2㎏の重りを放り投げて頭で受け止めさせるなどの暴行
②「殺すぞ」、「お前が辞めたほうが市民のためや」、「クズが遺伝子を残すな」、「殴り殺してやる」などの暴言
③トレーニング中に陰部を見せるよう申し向けるなどの卑わいな言動
④携帯電話に保存されていたプライバシーに関わる情報を強いて閲覧した上で「お前の弱みを握った」と発言したり、プライバシーに関わる事項を無理に聞き出したりする行為
⑤Xを恐れる趣旨の発言等をした者らに対し、土下座を強要したり、被上告人の行為を上司等に報告する者がいた場合を念頭に「そいつの人生を潰してやる」と発言したり、「同じ班になったら覚えちょけよ」などと発言したりする報復の示唆等

第一審、控訴審ともに分限免職処分は無効と判断しましたが、最高裁は有効と判断しました。

第一審、控訴審判決によれば、消防職員になると、上記のような滅茶苦茶な状況でも解雇は重すぎると。私、こんな職場、絶対やだ。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ71 従業員のパワハラ被害申告に対する債務不存在確認請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、従業員のパワハラ被害申告に対する債務不存在確認請求を見ていきましょう。

ユーコーコミュニティー従業員事件(横浜地裁相模原支部令和4年2月10日・労判1268号68頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、XがY社の従業員からマタニティハラスメントやパワーハラスメントを受けたとしてY社に対し謝罪文等を要求しているが、いずれのパワハラ等も存在しないとして、Y社のXに対する上記パワハラ等にかかる安全配慮義務違反による債務不履行、使用者責任又は会社法350条に基づく損害賠償債務及び謝罪文の交付義務が存在しないことの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 パワハラ等が不法行為に該当するか否かは、行われた日時場所、行為態様や行為者の職業上の地位、年齢、行為者と被害を訴えている者が担当する各職務の内容や性質、両者のそれまでの関係性等を請求原因事実として主張して当該行為を特定し、行為の存否やその違法性の有無等を検討することにより判断されることとなる。

2 別紙発言目録を見るに、発言時期、発言者、発言内容を記載しているようではあるものの、発言時期については、令和元年4月(ママ)と記載されているのみで、日時の記載はない全く同じ発言内容であっても、日にち等が異なるという場合、それぞれ別の行為として不法行為(パワハラ等)該当性の判断をすることとなる。また、同目録には、発言者の氏名と発言内容が記載されているのみで、職務内容や地位、行為の態様等は全く不明である。
以上のとおり、請求の趣旨1については、他の債務から識別して、その存否が確認しうる程度に特定がされていると認めることは困難と言わざるを得ない。

3 たしかに、債務不存在確認請求の訴えにおいて、権利を主張する者の主張内容によっては、その請求の趣旨の特定を細かく行い難くなること(例えば、日時については年月日頃という以上に特定ができない等)はあると思われるが、だからといって、特定の程度が直ちに緩和されるわけではない。本件についてみれば、行為者の職業上の地位、年齢、行為者と被害者を訴えている者(被告)が担当する各職務の内容や性質等をY社が特定して主張することは可能と解されるし、行為の日時・場所についても「月」までの特定ではなく「日」(最低でも何日頃)の特定をした上で社内でのことなのか社外でのことなのか等の特定は可能と解されるが、Xは、これらの特定をしないから、その請求は、やはり特定を欠く(他の債務から識別して、その存否が確認しうる程度の特定がない)と言わざるを得ない。

今回は債務不存在確認の訴えですが、ハラスメント事案全般について参考になります。

行為等の特定をできる限り行う必要がありますので、事前の準備が鍵を握ることは言うまでもありません。

日頃の労務管理におけるエビデンスの残し方については顧問弁護士に相談をすることをお勧めいたします。