Category Archives: 解雇

解雇343 確たる証拠もなく産前休業直前に解雇したことと不法行為責任(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、売上金窃取等を理由とする妊娠中の普通解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

アニマルホールド事件(名古屋地裁令和2年2月28日・労判1231号157頁)

【事案の概要】

甲事件は、Y社に雇用されていたXが、後記窃取を理由に普通解雇されたが、窃取事実はなく解雇は無効であるなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇後である平成30年7月21日以降の賃金の支払を求めるとともに、違法解雇であり不法行為が成立するとして、解雇により受給できなかった出産手当金相当額52万7967円及び慰謝料300万円の小計352万7967円の損害賠償金のうち300万円の支払を求める事案である。

乙事件は、Y社が、Xが平成29年9月23日から平成30年5月11日の間の計40日間・41回にわたり、Y社の運営する動物病院の診療費明細書(控)を破棄・隠匿すると同時にレジスターから計26万3966円の診療費を窃取したとして、不法行為に基づき、上記診療費に加えて無形の損害100万円、弁護士費用50万円の損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効
→バックペイ

Y社は、Xに対し、17万7288円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、102万7967円+遅延損害金を支払え

X・Y社のその余の請求を棄却

【判例のポイント】

1 本件解雇は、客観的合理性・社会的相当性を欠いており、権利濫用と評価され、認定事実の平成30年5月11日以降の経過や本件訴訟での主張立証状況に鑑みても性急かつ軽率な判断といわざるを得ず、少なくともY社に過失が認められることは明らかであるから、Xの雇用を保持する利益や名誉を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。

2 Xは、Y社から確たる証拠もなく窃取を理由に産前休業の直前に解雇されたものであること、本件解雇の通告後、その影響と思われる身体・精神症状を呈して通院していることに照らすと、未払賃金の経済的損失のてん補によっても償えない特段の精神的苦痛が生じたと認めるのが相当である。・・・Xの精神的苦痛に対する慰謝料額として50万円が相当である。

窃盗、横領事案については、いかに裏付けをとるかが鍵となります。

「そうではないか」程度で解雇すると、訴訟になってから立証に苦労することになります。

訴訟になる前の段階から顧問弁護士に相談しながら対応することが大切です。

解雇342 解雇予告手当の除外認定に関する裁判所の考え方(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、窃盗を理由とする解雇と解雇予告手当に関する裁判例を見てみましょう。

石田商会事件(大阪地裁令和2年7月16日・労判ジャーナル105号36頁)

【事案の概要】

本件は、日用雑貨、食料品、書籍雑誌、服飾雑貨、タバコ、酒類の販売等を目的とするY社の従業員であったXがY社に対し、労働契約に基づき、未払時間外、休日及び深夜割増賃金計346万3286円及び平成29年12月支給分の未払賃金5万円+遅延損害金、平成29年9月分から同年12月分の交通費等計8万9584円+遅延損害金、労基法20条1項に基づき、解雇予告手当の一部である21万9519円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、267万4781円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、5万0032円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、4万5601円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、休憩時間が60分であったと主張し、これに沿う供述(陳述書の記載を含む。)をする。しかしながら、Xが応募した求人票及びXがY社と取り交わした雇用契約書には休憩時間150分と記載されている。また、甲号証として提出されたY社の従業員であったKの陳述書では、Xの昼の休憩時間が45分から60分程度であったと記載され、X自身採用面接の際には昼休憩が60分と説明を受けた旨述べている。さらに、昼の休憩に加えて、Xがタバコ休憩をとっており、それがXの認める範囲でも2,3回、1回当たり5分から10分程度あった。加えて、Xが勤務時間に322点も窃盗を繰り返し、窃取のために閉店準備時間まで待ったり、あるいは、窃取した商品をメルカリに出品するため、多数回にわたり、勤務時間に商品の写真を撮ったり、メルカリの顧客とやりとりを行っていた。そうすると、Xの上記供述部分を採用することができず、これらの事情に照らせば、Xの休憩時間は90分、特にa店で窃取を行っていた平成29年7月以降同年12月までについては、原告の休憩時間を120分と認めるのが相当である。
他方、上記のとおり、Xは統括バイヤーとして仕入れ業務等を行っていたこと、Xが応募した求人票では、休憩時間150分と記載される一方、月平均20時間の時間外労働がある旨の記載があり、現実に150分もの休憩を取れるのかは疑問があること(Y社も求人票の記載は統括バイヤーであるXには当てはまらない旨述べる。)等からすると、上記事情やXがバックヤードでさぼっていたとのY社の指摘を考慮しても、Xが150分も休憩をとっていたとまでは認められない

2 Y社は、平成29年12月支給分の賃金減額は、統括バイヤーの解任に伴うものであるから有効である旨主張する。しかしながら、職務手当については、平成27年4月頃にも5万円の減額がされており、また、一方でY社は、職務手当の全額が超過勤務手当であるかのような主張もするなど、職務手当に役職手当に相当するものが含まれているのか、それがどの程度であるのかが判然とせず、Xが統括バイヤーから解任されたからといって、直ちに平成29年12月頃の職務手当の減額が有効であるとは認められない

3 Xは、Y社の商品を322点も窃取したことを理由として解雇されたものであるから、Xの解雇は、労働者の責めに帰すべき事由に基づくものと認めるのが相当である。
よって、Xの解雇予告手当支払請求には理由がない。

「え?除外認定受けなくてもいいの?」と思われる方もいるかと思います。

一般的には以下の規定のとおり、除外認定を受ける必要があります。

【労基法20条】
1 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない
3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

【同法19条2項】
前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない
*「行政官庁の認定」=所轄労基署長の解雇予告除外認定
*ちなみに、20条違反は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(同法119条1号)。

しかしながら、裁判所は、本件裁判例同様、除外認定がなくても、「労働者の責めに帰すべき事由」がある場合には解雇予告手当の支払を不要と解しています。

ただし、非常に危ないので鵜呑みにしないように!!(結果、セーフだっただけですから)

事前に顧問弁護士に相談をしつつ、慎重に対応していきましょう。

解雇341 自家用車への不正給油と懲戒免職処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、自家用車への不正給油と懲戒免職処分に関する裁判例を見てみましょう。

津市事件(津地裁令和2年8月20日・労判ジャーナル105号28頁)

【事案の概要】

Xは、津市の職員であるが、公用車の自動車燃料給油伝票を用いて、Xの自家用車に不正に給油したことを理由に、津市長Aから懲戒免職処分を受け、更に、三重県市町総合事務組合管理者Cから、退職手当等の全額を支給しないこととする退職手当支給制限処分を受けた。
本件は、Xが、津市に対し、本件免職処分が違法であると主張して、その取消しを求める(第1事件)とともに、被告組合に対し、本件制限処分が違法であると主張して、その取消しを求める(第2事件)事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 各非違行為のうち、最も重大な非違行為である非違行為1について見ると、津市の参事であったXは、平成26年8月から平成28年11月までの間に63回にわたって、X車両を使用していたにもかかわらず、給油伝票に公用車の車両番号等の虚偽の記載をして、給油業者及び津市の担当職員を欺罔し、X車両に不正に給油を受け、津市に27万0831円の損害を与えたことが認められる。そして、津市においては、私用車を利用し、その使用料を請求できるのは、当該職員が公用車を利用することが困難な場合等に限定されており、Xの職場の公用車の配備状況からすれば、Xは、X車両を公務に利用する許可を受けて、その使用料を津市に請求することはできなかったのである。
このように、Xは、給油伝票に虚偽の記載を行うという積極的な欺罔行為によって、本来請求し得ないX車両のガソリン代を津市に支出させているのであり、この行為態様やその期間の長さ等に鑑みれば、これは相応に重い非違行為であるというべきであり、本件指針にいう詐取に該当するものであると解される。

2 以上のとおり、Xの非違行為1の態様は相応に悪質なもので、その動機に特段酌むべき事情があるともいえず、Xの地位に照らすと、この非違行為1が公務に及ぼす影響も決して軽視できるものではない。これらの事情を勘案すると、Xがその勤務状況について高い評価を得ていたこと、Xが非違行為の後には反省の態度を示し、津市のために勤務をしていること、Xは全額の被害弁償をしていることなどのXに有利な事情を勘案した上で、免職処分を選択するに当たっては特に慎重な配慮を要することを踏まえても、津市長の判断は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることはできない。

裁判官によっては、相当性の要件で解雇の有効性を否定することもあり得るかなと思います。

ときどき「え、まじで!?これでも解雇無効なの?」と思ってしまう裁判例を見かけますので、油断はできません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇340 代表者に対する暴行を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、代表者に対する暴行等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

モロカワ事件(東京地裁令和2年6月3日・労判ジャーナル104号40頁)

【事案の概要】

第1事件のうち本訴請求事件は、Y社で稼働していたXが、平成30年10月18日、Y社の代表者であるBに暴行を加えたなどとして、同年11月9日、同日付けで、Y社から普通解雇をされたところ、同解雇は無効であると主張して、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、②雇用契約に基づき、同年12月以降、本判決確定の日に至るまで毎月25日限り、月例賃金65万円の支払を求めるとともに、③雇用契約に基づき、平成28年12月25日支払分から平成30年10月25日支払分までの未払残業代875万6019円+確定遅延損害金51万3918円と翌20日から支払済みまで同様の割合による遅延損害金の支払並びに同月25日支払分の未払残業代10万0966円の支払を求め、さらに、④労基法114条に基づき、付加金885万6985円の支払、⑤不当な懲戒解雇による慰謝料請求として、不法行為に基づき、慰謝料100万円の支払をそれぞれ求めた事案である。

第1事件のうち反訴請求事件は、Y社が、Xに社宅として本件建物を賃貸していたところ、本件解雇により賃貸借契約が終了したとして、Xに対し、賃貸借契約終了に基づき、本件建物の明渡しと、債務不履行に基づき、賃貸借契約終了の日の翌日である平成30年11月10日から本件建物明渡しまで1か月当たり18万9500円の賃料相当損害金の支払を求めた事案である。

第2事件は、Y社の代表者であったBが、本件暴行によって負傷したとして、Xに対し、不法行為に基づき、治療費等の損害金100万9100円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

XはY社に対し建物を明け渡せ。

Xは、Y社に対し、平成30年11月17日から建物明渡済みまで1か月当たり5万4200円の割合による金員を支払え。

Xは、Bに対し、30万9100円+遅延損害金を支払え。

Xの本訴請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Bに対し、暴行を加えたものであって、しかも、これにより、全治4週間を要する見込みの左肋骨骨折、左手足打撲の傷害を負わせたものである。しかも、Xは、暴行自体は認めつつも、Bが暴言を述べたからであるとか、Bが先に暴行をしてきたなどと主張し続けていたものであり、それ以上に適切な慰謝の措置を講じなかったものである。
しかも、Y社は、代表取締役であるBを中心に、その家族が枢要な役職を担って運営されてきた会社であって、その娘婿であるXも、そうした縁故の下、稼働してきたと推認することができる。しかるところ、本件暴行は、そうした企業活動の中心にあったBに対して行われたものであって、Y社が、これを背信行為であるとして重く見たとしても、それが不合理であるともいえない。
そうしてみると、本件暴行が酔余の所為であったことや、Xが長年Y社に勤務してきたことなど、Xに酌むことのできる事情を考慮するにしても、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであるとは認められない

2 Y社は、本件解雇の際、直ちに労基法20条1項本文所定の平均賃金(解雇予告手当)の支払をしておらず、その支払がなされたのは平成30年11月16日のことであると認められる。そして、所轄労働基準監督署長の除外認定を経た形跡があるとも認められず、同項ただし書所定の事由があったとまではたやすく認め難いところ、同条同項所定の措置を経ていない解雇の通知は、即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間を経過するか、又は通知の後に予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生じるものである(最高裁判所昭和35年3月11日第二小法廷判決参照)。本件において、Y社が即時解雇に固執する趣旨であったとみるべき事情は認められないから、本件解雇は、その支払時である平成30年11月16日をもって効力を生じたものと認めるのが相当である。

前記判例のポイント2は、初歩的な判例知識ですので、押さえておきましょう。

解雇事案は必ず事前に顧問弁護士に相談の上、冷静に対応することが求められます。

解雇339 提訴時の記者会見は解雇事由となる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、育児休業取得妨害等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券事件(東京地裁令和2年4月3日・労判ジャーナル103号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていた原告が、①Y社から育児休業取得の妨害、育児休業取得を理由とする不利益取扱いをされたとして、不法行為による損害賠償請求権(不利益取扱いについては一部債務不履行による損害賠償請求権も根拠とする。)に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めるとともに(損害賠償請求)、②Y社がXに対してした平成29年10月18日休職命令は無効であるとして、民法536条2項に基づき、平成29年10月分の未払賃金,同年11月分の未払賃金円+遅延損害金(休職期間賃金請求)、③Y社がXに対してした平成30年4月8日解雇は無効であるとして、民法536条2項に基づき、同年12月分から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金(解雇後賃金請求)の支払を求め、④雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(地位確認請求)事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに対し警告をしたにもかかわらず、本件訴訟において、Y社の内部文書である本件収益一覧表を顧客名等について黒塗りすることなく証拠として提出し、第三者による閲覧及び謄写が可能な状態に置いたことは「Y社及び取引先の経営情報、営業上の秘密、その他公表していない情報を他に漏らした場合」(戦略職就業規程70条3号)に当たる旨主張する。
しかしながら、Xが訴訟代理人弁護士を通じて本件収益一覧表を提出した先は裁判所であり、Y社は閲覧制限を申し立てる方法により閲覧の対象者は当事者に制限することができ、また実際にも申立てがされていて、第三者が閲覧及び謄写した事実はない(記録上明らかな事実)。そうすると、Xの行為は軽率のそしりは免れないとしても、本件収益一覧表を他に漏らした場合に当たるとまでは評価することができない。上記Y社の主張は失当であり採用することができない。

2 Xは、本件のような労使紛争において社内的な解決を図ることができない場合に、裁判所を通じた法的措置をとり、その際に世論の喚起及び支援を求めて記者会見をし、取材を通して自らが訴訟において主張する事実関係を述べることは一般的に行われており、このような行為は表現の自由として憲法上保障されているからXの前記各発言を原告の不利益に考慮することは許されない旨主張する。
Xが記者会見をして自らが訴訟において主張する事実関係を述べること自体は表現の自由によって保障されるものであることはもとよりであるが、表現の自由も他人の名誉権や信用など法律上保護すべき権利・利益との間で調整的な文脈での内在的制約に服さざるをえないというべきであって、記者会見における表現行為であるとの一事をもって、その内容がどのようなものであっても対第三者との間において許容されるべきことにはならないというべきである。かような観点からすれば、訴訟追行に必然的なものではない記者会見を通して広く不特定多数の人に向けて情報発信をした事実が客観的真実に反する事実により占められ、Y社の名誉や信用等を侵害する場合、これを解雇理由として考慮することが許されないと解することはできない。

3 Xは、育児休業から復帰した直後からハラスメントを受けたとし、B、D及びEが繰り返しXに対しXの誤解であることを説明したものの、かえってXは広く世間に対し同内容の主張を情報発信することを繰り返した。このようなXの言動は本件解雇に至るまで続いており、Xに改善の兆しは見られない。また、Xは、自らの担当顧客について「利益を生まないし、これからもそうはならないであろう」顧客などと指弾し、担当顧客の評価を不当に貶めるような発言をした。加えて、Y社では、Xの別紙の情報発信を理由として顧客取引の停止等の影響が実害として発生していることが認められる。そして、X自身も、平成29年11月2日記者会見において、Xによるハラスメントを訴えたことを理由に既にY社との取引を止めたという噂も耳にしている、この動きは広がる一方である旨述べていて、別紙の情報発信によりY社に与える打撃及び影響を十分に認識し認容しながら、Y社からの警告を受けてもなお、あえて情報発信を継続したと理解することができる。Xは、日本株及び日本株関連商品の営業業務の担当として高い職務実績をあげY社の当該業務の成果に大きく貢献することが期待され高額の給与が保証されている戦略職であり、別紙の一連の情報発信及び情報の拡散行為は、戦略職として求められている期待に著しく反するものであって、本件雇用契約上の信頼関係は修復不可能な状態になっているということができる。

上記判例のポイント2は注意が必要ですね。

提訴時の記者会見について裁判所の考え方が示されていますので参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇338 身元保証契約の効力が及ぶ範囲とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、窃盗を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

近畿中央ヤクルト販売事件(大阪地裁令和2年5月28日・労判ジャーナル102号34頁)

【事案の概要】

第1事件は、乳製品乳酸菌飲料の販売等を目的とするY社の従業員であったXがY社による懲戒解雇が無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、主位的に、労働契約に基づき、平成29年11月分の未払賃金9万7147円+遅延損害金、同年12月から本判決確定の日まで毎月25日限り16万円の賃金+遅延損害金、別紙割増賃金一覧表「割増賃金未払額」欄記載の各割増賃金+遅延損害金、労基法114条に基づき、上記未払割増賃金のうち325万5837円と同額の付加金+遅延損害金の各支払、XとY社との間において、XのY社に対する売上金領得に係る不法行為に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認、予備的に、不当利得に基づき、9万7147円+法定利息の支払を求める事案である。

他方、第2事件は、Y社の従業員であったXがY社の管理する自動販売機から売上金を回収する際、自動販売機内の売上金を着服(窃取)し、Y社の権利を故意に侵害したとして、Xについては不法行為に基づき、Xの同損害賠償債務をB及びCが連帯保証したとして、B及びCについては連帯保証契約に基づき、連帯して、窃取された売上金相当額等計137万0460円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Xの債務不存在確認の訴えを却下する。

Y社は、Xに対し、別紙原告金額シート「割増賃金未払額」欄記載の各金員+遅延損害金を支払え。

第2事件被告らは、Y社に対し、連帯して123万円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求及びY社のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xに交付された「雇用条件」と題する書面、Xに適用される本件嘱託規程には、営業手当にみなし残業代が含まれる旨の記載がない。また、本件嘱託規程には、営業手当等の各種手当は、職務内容等を勘案し、各人ごとに個別の雇用契約書で定める旨記載されているところ、Xの労働条件通知書(雇入通知書)には、基本賃金月給15万5000円とあるのみで営業手当に関する定めがない
この点、Y社の当時の給与規程において営業手当に関し、「ただし、営業手当には、時間外勤務手当相当額を含むものとする。」との定めがあったとしても、Xとの間においてはそれと異なる約定であった可能性を否定できない。Xの労働条件通知書においては、他の箇所(休暇等)では詳細について就業規則を引用する定めがある一方、賃金については給与規程を引用しておらず、営業手当に関する定めがないことは給与規程とは別段の定めがある可能性を裏付けるものといえる。
そうすると、Xとの関係では、Y社が主張する上記固定残業代の合意があったとは認められない。

2 第2事件被告らは、本件各身元保証契約の範囲がXとY社との間の当初の労働契約の範囲(遅くとも平成28年3月31日まで)に限られる旨主張する。
しかしながら、本件各身元保証契約自体には期限が定められていない。また、XとY社との間の労働契約が当初から一定期間の継続雇用が見越されていたことは当事者間に争いがない。さらに、Xの当初の労働契約とその後の労働契約でXの任地や職務内容に変更がなく、B及びCの責任を加重したり、監督を困難にするような契約内容の変更は認められない。そうすると、本件各身元保証契約を締結するに当たり、B及びCは、平成28年4月1日以降もXの行為について責任を負うことを想定していたものと考えられる。このように解しても、身元保証ニ関スル法律1条により存続期間が制限されるから同法の趣旨に反することにはならない。加えて、Xの行為によるY社の損害額が123万円である一方、XがY社以外で勤務し、平成30年1月以降月額30万円以上(平成30年7月から令和元年5月まで月額38万円,令和元年6月は39万5000円)の収入を得ており、Xにもある程度の弁済能力があると考えられ、したがって、B及びCに全額の保証責任を負わせても、過大な負担を負わせるとはいえないこと、Y社の過失を認めるに足りる証拠がないこと等の事情を斟酌すると、本件各身元保証契約の範囲は、Xの売上金着服行為に及び、その金額もY社が被った全額に及ぶと認めるのが相当である。
よって、B及びCは、Xの行為によりY社が受けた123万円の損害の賠償責任を負う。

民法改正により身元保証に関しても、極度額による制限が設けられましたが、考え方自体は参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇337 休職期間満了時における復職判断の方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務中負傷の症状固定約2か月後になされた解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

東京キタイチ事件(札幌高裁令和2年4月15日・労判1226号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結し、これに基づきY社のA工場でタラコの加工業務に従事していたXが、平成26年3月24日、業務中に右手小指を負傷して休職していたところ、症状固定後の平成29年12月25日付けで普通解雇されたため、Y社に対し、①本件解雇は無効であると主張し、Xが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、②雇用契約に基づき、復職が可能な日である平成30年4月1日以降の賃金及び賞与請求として、同年5月から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額6万8040円の賃金及び毎年7月10日限り5000円、毎年12月10日限り7000円の賞与+遅延損害金の支払を求めるとともに、③Xが右小指を負傷したことにつきY社の安全配慮義務違反があったと主張し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、後遺障害慰謝料180万円及び④Y社がXの復職要請に真摯に対応しなかったと主張し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、Xが解雇によって復職を阻止されたことについての慰謝料100万円並びに上記③及び④の慰謝料(合計280万円)に対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求をいずれも棄却したため、Xはこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

解雇無効

Y社はXに対し、161万1540円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、令和2年4月から本判決確定の日まで、毎月7万2324円+遅延損害金を支払え

安全配慮義務違反は否定

【判例のポイント】

1 Y社としては、復職が可能であるとの主治医の判断を得ているとの申告を受けていたのであるから、本件診断書に基づいてXが就労不能であるか否かを判断するというのであれば、本件診断書を作成したF医師に問い合わせをするなどして、本件診断書の趣旨を確認すべきであったといえるし、その確認が困難であったような事情も特にうかがわれない。そして、そのような確認がされていれば、同医師からは、Xにおいて、小指に無理をかけないよう注意を払えば、慣れた作業や労作は可能である、小指が仕事に慣れるまでの間は仕事量を減らすなどの配慮が必要である、包丁を使う作業等も慣れれば不可能であるとはいえないなどの回答が得られたものと考えられる。
そうすると、製造部における作業が、冷たいタラコを日常的に取り扱うものであることや、頻回な手洗いが必要であることなど製造部における作業内容に関する諸事情を考慮しても、しばらくの間業務軽減を行うなどすれば、Xが製造部へ復職することは可能であったと考えられるところであり、本件解雇の時点において、Xが、製造部における作業に耐えられなかったと認めることはできない。なお、本件解雇の時点において、XがY社との雇用契約の本旨に従った労務を提供することが可能であったとは認められないとしても、慣らし勤務を経ることにより債務の本旨に従った労務の提供を行うことが可能であったと考えられるし、本件事故がY社の業務に起因して発生したことを前提としてXが労災給付を受給していたことも踏まえると、かかる慣らし勤務が必要であることを理由として、Xに解雇事由があると認めることは相当でない。

2 復職に向けた協議の中で、勤務時間や賃金等の具体的な条件の提示やXとの調整はなされていない
加えて、Y社は、Xに対し、清掃係への配置転換を拒否すれば解雇もあり得る旨を一切伝えておらず、製造部での業務に従事させることができない理由や、配置転換を受け入れなければならない理由等について十分な説明をしたこともうかがわれない。そうすると、上記Y社による提案は、Y社の担当者等がどのように認識していたかはともかく、客観的には、その時点でのXの漠然とした意向が確認されたに過ぎないものとみるべきであり、Xとしても、自分が、配置転換を受け入れるか、解雇を受け入れるかを選択していなかったものと認められる。したがって、このような提案によってY社が解雇回避努力を尽くしたものとみることはできない
・・・Y社としては、Xを解雇する可能性も視野に入れていながら、Xに対し、退職勧奨を行うこともなく症状固定のわずか約1か月後に本件解雇の意思表示がされたものである。そうすると、Xからすれば、一度も解雇を回避する選択の機会を与えられないまま、解雇されるに至ったというほかないものである。

休職期間満了時において、会社がいかに対応すべきかという問題はとても難しいです。

本件裁判例は会社の対応方法について示唆に富む内容ですので参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇336 自主退職が解雇にあたる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、原告の退職が実質的には被告による解雇にあたるとの主張を否定し、退職が有効と判断された裁判例を見てみましょう。

ドリームスタイラー事件(東京地裁令和2年3月23日・労経速2423号27頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、平成29年4月1日に飲食店の運営等を目的とする株式会社であるY社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、本件労働契約に基づいてY社の業務に従事していたが、妊娠中の平成30年4月末日をもってY社を退職したことについて、①Y社は、時短勤務を希望していたXに対し、月220時間の勤務時間を守ることができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を伝え、退職を決断せざるを得なくさせたのであり、実質的にXを解雇したものということができ、当該解雇は男女雇用機会均等法9条4項により無効かつ違法であるなどと主張して、Y社に対し、本件労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認や、解雇の後に生ずるバックペイとしての月額給与+遅延損害金の支払を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び弁護士費用相当額の損害金の合計110万円+遅延損害金の支払を求めるほか、②Y社は労基法所定の割増賃金を支払っていないなどと主張して、Y社に対し、労基法に従った平成29年4月から平成30年3月までの割増賃金合計157万2444円+遅延損害金や、当該割増賃金に係る労基法114条所定の付加金+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、55万2672円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、付加金42万8227円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社がXに対して月220時間の勤務時間を守ることができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を伝えていたと認めることはできず、したがって、Xにおいて、月220時間勤務を約束することができなかったため、退職を決断せざるを得なくなったという事情があったということはできない
また、Y社は、Xの妊娠が判明した後、Xの体調を気遣い、Xの通院や体調不良による遅刻、早退及び欠勤を全て承認するとともに、c店において午前10時から午後4時又は午後5時まで勤務したいというXの希望には直ちに応じることができなかったものの、Xに対し、従前の勤務より業務量及び勤務時間の両面において相当に負担が軽減される本件提案内容のとおりの勤務を提案していたものであり、これらのY社の対応が労基法65条3項等に反し、違法であるということはできない
さらに、上記のとおりの本件提案内容を提案するに至った経緯や、本件提案内容においても、Xの体調次第では人員が足りている午後3時までは連絡すれば出勤しなくてもよいとの柔軟な対応がされていたことからすると、本件提案内容自体、今後の状況の変化に関わらず一切の変更の余地のない最終的かつ確定的なものではなく、Y社は、平成30年4月3日及び同月4日の時点においても、今後のXの勤務について、Xの体調やY社の人員体制等を踏まえた調整を続けていく意向を有していたことがうかがわれる(Xは、Y社において高い評価を受けており、XとC店長及びD部長との間のLINEメールによるやり取りからも、C店長やD部長から厚い信頼を得ていたことがうかがわれ、Y社において、Xが退職せざるを得ない方向で話が進んでいくことを望んでいたと認めることもできない。)。
なお、C店長は、同月3日、Xに対し、自分の好きな場所で好きな時間帯に働きたいというのであれば、アルバイト従業員の働き方と同じであり、Xの希望次第では契約社員やアルバイトへの雇用形態の変更を検討することも可能である旨を伝えていたものの、上記のY社の対応を踏まえれば、一つの選択肢を示したに過ぎないことは明らかであり、このことをもって、雇用形態の変更を強いたということはできない
これらの事情によれば、Xの退職が実質的にみてY社による解雇に該当すると認めることはできない

労働者の退職が実質的には被告による解雇にあたると主張されることはときどきあります。

しかし、当該退職が使用者の退職強要によるとして損害賠償請求をするのとは異なり、自主退職は実質的に解雇であるとの主張は、想像以上にハードルが高いです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇335 諭旨解雇は無効で普通解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、カッター振り回し行為を理由とする懲戒解雇等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本電産トーソク事件(東京地裁令和2年2月19日・労判ジャーナル102号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社から懲戒解雇され、その後予備的に普通解雇されたところ、上記各解雇が懲戒権の濫用あるいは解雇権の濫用に当たり、労働契約法15条、16条により無効であるなどと主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同懲戒解雇後の賃金として、平成29年5月11日から本判決確定の日まで毎月10日限り23万3200円+遅延損害金の支払を求め、さらに、同懲戒解雇及び同普通解雇がXに対する不法行為に当たるとして、同不法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料として、1000万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、46万6400円+遅延損害金を支払え。
Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、平成29年4月のf部室内のレイアウト変更において、自席がFグループリーダーの横に配置されることに強く反発してこれを拒絶したにとどまらず、同月24日、前日の自己の退社後に席が移動されたことを知るや、G部長に対し、座席配置の変更について配慮のない行為をされ精神疾患を誘発した責任を同部長にとってもらうなどといったメールを送信し、翌25日もG部長に対し同旨の言動をして精神疾患に対する治療費を支払うよう求め、その住所を聞き出そうとしたり、同部長の前に立ちはだかったり、行く手を遮ろうとしたもので、被害妄想的な受け止め方に基づき、身勝手かつ常軌を逸した言動を執拗に繰り返したものといわざるを得ないし、その動機においても酌量すべき点はない。そして、Xは、翌26日も、病院への通院や弁護士の相談に行くための職場離脱を業務扱いにするよう求め、G部長にこれを断られるや、カッターの刃を持ち出してG部長の面前で自らの手首を切る動作をしたものであって、その動機は身勝手かつ短絡的である上、G部長や周囲の職員の対応いかんによっては自傷他害の結果も生じかねない危険な行為であったといえる。また、かかるXの行為によって、周囲の職員に与えた衝撃と恐怖感は大きかったものと推察されるし、2度も警察官が臨場する騒ぎとなったことも軽くみることのできない事情である。
このように、かかるXの一連の行為については、少なくとも、就業規則所定の懲戒事由としての「職務上の指示命令に従わず,職場の秩序を乱すとき」(80条3号)に該当することは明らかであるから、懲戒事由該当性が認められる。そして、前判示のとおりその態様も危険で悪質といえることや、この平成29年4月の部屋のレイアウト変更をめぐる一件以前にも、Xが種々の問題行動を繰り返していたことは前記認定事実のとおりであることからすれば、Xに対しては、相当に重い処分が妥当するといえないではない
しかしながら、他方で、G部長の適切な対応によるものとはいえ、この件によって傷害の結果は発生しなかったものであることや、前記認定事実のとおり、カッターの刃を持ち出したXの行為が自傷行為の目的に出たものであって、G部長や他の職員に向けられたものでなく、そのことはG部長も認識し得る状況にあったこと、前記のとおり、かかる行為が自己の要求を通すための自演であると認めるに足りる証拠はないこと、前記認定事実のとおり、Xが、gグループにおいて当初は種々雑多な業務に問題なく従事し、このうち、蛍光灯の掃除については約2000本にわたる蛍光灯をもう1名の社員と分担して行うなど、真摯な姿勢で業務に従事していた時期もあること、このレイアウト変更をめぐる件以前にも、Xに種々の問題行動があったことは前記認定事実のとおりであるものの、Xには懲戒処分歴はなかったことなど、Xにとって有利に斟酌すべき事情も認められる。このような事情をも勘案すると、1度目の懲戒処分でXを直ちに諭旨解雇とすることは、やや重きに失するというべきである。
以上のとおり、本件諭旨解雇及びそれに伴う本件懲戒解雇については、懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権の濫用に当たるものであって、労働契約法15条により無効であると認められる。

2 Y社は、平成29年7月11日付けで予備的に本件普通解雇の意思表示をしていることから、同解雇の効力について検討する。
前記認定事実のとおり、Xは、Y社入社直後に配属されたaグループ在籍時において、顧客との対応がうまく行かなかった時などに顧客に対し声を荒げるなどのトラブルを起こし、上司や先輩社員からの注意に対しても感情を高ぶらせるなどして、顧客との接点の少ないあるいは接点のない部署に異動を命じられたものの、そのような部署であるc事業管理部やe部においても同僚職員や上司との間でもトラブルが絶えなかった。Xは、その後、f部に異動となり、約2年以上に及ぶ出向先開拓の期間を経て、f部・gグループに配属されたが、ここでも、配属後しばらく経った後から、気に入らない業務については断ったり、他の従業員とのトラブルを起こすようになり、遂に前記で判示したとおりの平成29年4月のレイアウト変更に端を発する事件を引き起こしたものである。
このように、Xが、入社後配属された複数の部署においてトラブルを起こし、最終的に職場でカッターの刃を持ち出すなどの事件を起こしたことからすれば、Y社としては、このように職場秩序を著しく乱した原告をもはや職場に配置しておくことはできないと考えるのはむしろ当然であるといえ、かつ、それまでにも、Y社が、トラブルを起こすXに対し、その都度注意・指導を繰り返し、いくつかの部署に配転して幾度も再起を期させてきたことは、前記認定事実に照らし明らかであって、もはや改善の余地がないと考えるのも無理からぬものということができるから、本件普通解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当であると認められる。

諭旨解雇は相当性の要件を欠き無効と判断されている一方で普通解雇は有効とされた事案です。

同じ解雇でもこのように結論が分かれることがわかる非常に勉強になる裁判例ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇334 会社が暴行の被害者に先行支払をした後の求償問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、暴行を理由とする諭旨解雇無効に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁令和2年2月27日・労判ジャーナル102号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結してマンションの管理人として就労していたXが、勤務中に第三者に暴行を加えて傷害を負わせたことを理由としてY社から諭旨解雇処分を受け、また、Y社及びXと上記暴行の被害者との間でY社及びXが同被害者に対して連帯して解決金60万円を支払う旨の訴訟上の和解が成立し、Y社が同解決金を支払ったところ、Xが、Y社に対し、上記諭旨解雇は無効であり、Y社がXを解雇したことが不法行為を構成する旨主張して、不法行為による損害賠償として、解雇日から定年までの賃金相当額458万円と慰謝料300万円等の支払を求め(本訴請求)、Y社が、Xに対し、連帯債務者間の求償として、Y社が支払った解決金相当額である60万円等の支払を求めた(反訴請求)事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求は棄却

反訴請求は認容

【判例のポイント】

1 XがGに対して暴行して傷害を負わせているから、準社員就業規則所定の「刑法犯に該当する行為を行った」に該当し、そして、本件傷害事件に至る経緯及びその態様についてみると、XがGから危害を加えられる危険性が高かったともいえないにもかかわらず、Xは、一方的にGに対して手拳で十数回殴打する暴行を加えたのであり、本件傷害事件におけるXの行為は悪質であるといわざるを得ず、しかも、Xは、本件傷害事件の当時、Y社の会社名及びロゴマークが入った制服を着用して本件マンションの管理人として勤務中であり、Y社の信用が毀損されるおそれの高い行為であるというべきであるから、本件諭旨解雇が社会通念上相当であると認められないということはできず、本件諭旨解雇が権利を濫用するものとして無効であるということはできない。

2 本件和解は本件傷害事件に係るXの不法行為による損害賠償債務及びY社の使用者責任による損害賠償債務についてされたものであるところ、本件傷害事件は、Xの故意による不法行為であり、XにおいてGに対する暴行をすることがやむを得ないという状況にあったとはいえず、しかも本件マンションの管理人としての業務内容を大きく逸脱するものであってY社において予見し得る行為であったといい難いことに照らせば、Y社がGに対して使用者責任による損害賠償債務を弁済した場合のXに対する弁済金相当額の求償については信義則上の制限を受けないというべきである。

妥当な結論です。

会社が使用者責任により被害者に支払をした場合には、上記判例のポイント2のような求償の問題が出てきます。その際、割合が争点となりますので注意してください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。