Category Archives: 解雇

解雇353 通勤手当の不正受給等を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、通勤手当の不正受給等を理由とする大学教員の懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人甲大学事件(東京地裁令和3年3月18日・労経速2454号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社が設置する大学において准教授の地位にあったXが、通勤手当を不正に請求したなどとして、Y社から平成30年10月9日付けで免職処分とされ、同月22日までに退職願を提出しなかったため、同月31日付けで懲戒解雇されたことについて、Y社に対し、同処分は懲戒権を濫用したものであり無効であるとして、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、同懲戒解雇後である同年11月から毎月22日限り月額賃金48万6045円及び平成30年12月分の賞与額113万2888円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対して懲戒処分をするに当たっては、使用者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の動機、態様、結果、影響等のほか、当該行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の労働者に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有していると解すべきであり、使用者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に限り、無効と判断すべきものである。

2 本件通勤手当受給及び本件無届通勤は、採用当初より、支給される通勤手当と実際に通勤に係る費用との間の差額を利得する目的で、かつ、届け出た公共交通機関ではなくバイク通勤をする意図でありながら、その目的、意図及び実際にバイク通勤を継続した事実をY社に秘匿するため、あえてY社大学の構内の職員用無料駐車場ではなく、本件店舗に駐輪し、しかも、公共交通機関による通勤手当とバイク通勤による実費との差額を利得するにとどまらず、あえて遠回りの通勤経路を届け出ることにより、公共交通機関による通勤手当を受給していた場合に本来得られる金額より更に高額の通勤手当を6年以上の長期にわたり受給し続けたものであり、Y社に採用後一度も通勤定期券を購入したことがないことも踏まえると、受給額全額について詐欺と評価し得る悪質な行為であって、その経緯や動機には酌むべき事情は見当たらない。
本件通勤手当受給によってY社が被った損害は、合計約200万円と多額であり、仮にXがバイク通勤ではなくY社指摘経路によって通勤していた場合であっても、X届出経路との差額が100万円以上生じることとなり、生じた結果は重大である。Xは、本人尋問において反省している旨供述するものの、本件懲戒処分の前に行われたY社調査委員会及びY社懲罰委員会においては、具体的な反省の弁を述べることがないばかりか、大学の玄関においてバイク、タクシー、自家用車で通勤している者をそれぞれ確認して通勤届出と照合して指導するのがY社の事務職員の職責であるのに、自分は注意されたことはなく、Y社の方で注意すべきであったなどとY社に責任を転嫁する言動に及んだ上、不正受給の金額を明示されたにもかかわらず、本件懲戒処分以前に自主的に受給した通勤手当を返還もすることなく、本件懲戒処分後にY社からの訴訟提起を受けてこれを返還したにすぎないことも踏まえると、本件懲戒処分時において本件通勤手当受給及び本件無届通勤につき真摯に反省していたものとは到底認められない
以上に判示した本件通勤手当受給の悪質性、これに係る経緯及び動機に酌むべき事情が見当たらないこと、結果の重大性、真摯な反省が見られないことに加え、Y社において他の教職員が同様の不正受給を行うことを抑止する現実的な必要性が高いことも踏まえると、上記懲戒事由該当行為のみでも、戒告やけん責にとどまらず、免職を含む重い懲戒処分が相当である。
以上に判示した本件各行為の内容やその程度等に関する事情を総合すると、Xは、悪質な詐欺と評価すべき行為により重大な結果を生じさせた上、全体的に規範意識の欠如が顕著であるだけでなく、自己の行為を隠蔽する行動に出るとともに、自己の責任を自覚せず、他者に責任を転嫁するような言動を繰り返すなどしたものであり、Y社大学の教員として、学生を指導育成するとともに、その研究を指導する職責を担うにふさわしいとは到底いえないと評価せざるを得ない
そうすると、過去に懲戒処分歴がないことに加え、本件懲戒処分による現実的な不利益を含むXに有利な事情を最大限考慮しても、懲戒処分のうち最も重い懲戒解雇ではなく、退職届を提出した場合には退職と扱って一定の退職金が支給される免職を選択したY社の判断は、社会通念上相当なものであり、裁量権の逸脱又は濫用があったということはできない。

最初はほんの出来心かもしれませんが、積み重なるとこのようになってしまいます。

気を付けましょう。

解雇をする上で必要なプロセスについては、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。

解雇352 復職の可否に関する判断における主治医と産業医の意見の相違(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、業務外負傷による休職期間満了後の退職扱いの適法性に関する裁判例を見てみましょう。

日東電工事件(大阪地裁令和3年1月27日・労判1244号40頁)

【事案の概要】

Y社に雇用されていたXは、業務外の事故により負傷し、休職していたところ、Y社は、休職期間の満了により、Xとの雇用関係が終了したものとした。Xは、休職期間満了時点において休職事由が消滅していたから雇用契約は終了していない旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、休職期間満了日の翌日である平成29年2月4日から本判決確定の日までの間の賃金月額59万9753円及び年2回の賞与各165万5500円+遅延損害金の支払を求め、さらに上記雇用契約終了に至るY社の対応に違法性がある旨主張して、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)として100万円+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 E産業医は、復職審査会の場で、Xについて「復職可能とは判断できない」旨の意見を述べ、後に同意見及びその理由を記載した意見書を提出しており、上記診断書と反対の意見を述べている
そこで、検討するに、E産業医は、上記意見を形成するにあたり、X作成に係る「生活リズム確認表」をもって、休職期間満了時機に程近い10週間分にわたるXの生活状況等を確認した上、復職審査会に先立ってXと面談して業務一覧表を用いつつXの健康状態や就労能力について確認している。加えて、E産業医は、Y社の職場関係者及びXの主治医とも面談し、上記意見を形成しており、Xの業務内容や健康状態、身体能力を踏まえて業務の遂行可能性やその程度等について相当具体的に検討しているといい得る。
他方、Xの主治医がXの職場内容や就労環境について、Y社の従業員と面談し、具体的な情報を取得していたことは本証拠上うかがわれず、また、上記診断書はどのような通勤を前提として就業規則どおりの勤務について問題なく可能であるとしているのかも不明である。さらに、同診断書が作成されるに先立ち、Y社担当者は、X代理人に対し、復職可能との判定に必要となるであろう診断書の記載内容として「従前の業務にて、就業規則どおりの勤務ができること」等の文例を示しているところ、主治医作成の診断書の文言が先に示された文例に酷似しており、かつ本件雇用契約が終了に至るか否かといった時期・局面において主治医作成の診断書が作成されていることを踏まえると、主治医作成の診断書で示された所見は、復職を希望するXの意向を踏まえ、担当業務の具体的内容等を十分検討することなく記載された可能性が払拭できない
以上に加えて、Xの後遺障害の内容、身体能力、健康状態及び上述した労働条件に関するXの申入れ及び発言内容等も踏まえると、上記診断書の内容は、にわかに信用できないものである。

休職期間満了時における復職の可否判断について主治医と産業医の意見が相違することは珍しくありません。

その際、裁判所がどのような点に着目して各診断書の証拠価値を判断するのかがよくわかる事案です。

是非、参考にしてください。

今回の事案のようなケースにおいて、事前にいかなる準備をすべきかについては、顧問弁護士に相談するようにしてください。

解雇351 コロナ禍での業務転換・縮小を理由とする整理解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、コロナ禍での業務転換・縮小を理由とする整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

森山(仮処分)事件(福岡地裁令和3年3月9日・労判1244号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されバス運転手として勤務していたXが、業務縮小を理由としてY社に解雇されたところ、当該解雇権の行使は合理的理由を欠き無効であるから、Xは労働契約上の権利を有する地位にあると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに賃金の仮払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効
→賃金仮払い認容

【判例のポイント】

1 債務者(会社)は、新型コロナウイルス感染拡大によって、令和2年2月中旬以降、貸切バスの運行事業が全くできなくなり、同年3月中旬にはすべての運転手に休業要請を行う事態に陥ったこと、同年3月の売上は約399万円、同年4月の売上は約87万円であったこと、従業員の社会保険料の負担は月額150万円を超えていたこと、令和2年3月当時、雇用調整助成金がいついくら支給されるかも不透明な状況にあったこと等を考慮すると、その後、高速バス事業の為に運転手2名を新たに雇用したことを考慮しても、債務者において人員削減の必要性があったことは一応認められる

2 しかしながら、債務者は、令和2年3月17日のミーティングにおいて、人員削減の必要性に言及したものの、人員削減の規模や人選基準等は説明せず、希望退職者を募ることもないまま、翌日の幹部会で解雇対象者の人選を行い、解雇対象者から意見聴取を行うこともなく、直ちに解雇予告をしたことは拙速といわざるを得ず本件解雇の手続は相当性を欠くというべきである。

3 債権者が解雇の対象に選ばれたのは、高速バスの運転手として働く意思を表明しなかったことが理由とされているところ、債務者は、上記ミーティングにおいて、高速バス事業を開始することを告知し、運転手らに協力を求めたものの、高速バスによる事業計画を乗務員に示し、乗務の必要性を十分に説明したとは認められないうえ、観光バスと高速バスとでは運転手の勤務形態が大きく異なり家族の生活にも影響することを考慮すると、当該ミーティングの場で挙手しなかったことをもって直ちに高速バスの運転手として稼働する意思は一切ないものと即断し、解雇の対象とするのは人選の方法として合理的なものとは認め難い
そうすると、本件解雇は、客観的な合理性を欠き、社会通念上相当とはいえないから、無効といわざるを得ない。

人員削減の必要性は一応認められつつも、その他の要件で無効と判断されてしまいました。

上記判例のポイント2は整理解雇前に実施すべき基本的なプロセスですので、しっかりと押さえておきましょう。

解雇をする上で必要なプロセスについては、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。

解雇350 上司に対する誹謗中傷を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司に対する誹謗中傷を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

IHI事件(東京地裁令和3年1月15日・労判ジャーナル111号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社から、平成30年11月27日付けで解雇されたことから、本件解雇が無効であると主張して、Y社との間で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、雇用契約に基づき、本件解雇日以降の月例賃金として、同日から本判決確定の日まで、毎月25日限り、月額36万円+遅延損害金の支払を求め、違法な本件解雇により精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、慰謝料50万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、上司から指示された防図書業務の点検用の説明資料を、その作成業務が無用のものであるなどとして、その指示に従って作成しなかったばかりか、その作成を指示する上司のBに対し、事ある毎に批判し、容易にその指示に従わなかったものである。
批判の内容も、Bをごみ呼ばわりしたり、頭がいかれているなどと指摘するといった激烈なものを含み、ときには同人の態度や発言を大笑、あるいは嘲笑し、同人を貶めることもあったと指摘することができる。
しかも、そうした所為は、Bやその上長、さらにはd総務部の担当者により、口頭、メールでの告知により再三注意、警告がされてきたものであるのに改まらず、二度にわたり懲戒処分をされてもなお改まらなかったものである。
なお、Xは、Xに対して二度にわたりされた懲戒処分(本件減給処分及び本件出勤停止処分)の効力も争っているが、Xには業務指示に従わず、上長の批判を公に繰り返すといった所為があったものであり、就業規則90条14号所定の事由があったと認められるところであって、しかも、その処分の内容が減給や出勤停止といった内容にとどまっていたことにも照らせば、その有効性は優にこれを肯認することができる。
そして、Xの上長に対する批判は、Bのみならず、Cに対しても向けられるようになっており、そうしたXの不服従の様子は収束の様子を見せていない
以上の点に照らせば、Xには、Y社主張のように、少なくとも就業規則94条1項5号の普通解雇事由はあったと認めることができ、上記のとおり再三の注意や指導、懲戒処分にもかかわらずXに反省の情を見出し難かったことにも照らせば、Xを解雇することとしたY社の判断は、社会通念に照らしても、やむを得ないものとして相当なものであったと認められる。
したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえず、有効と認められる。

これだけの事情が証明できれば、解雇が有効と判断されます。

訴訟になった際に立証できるように準備することが大切です。

いかなる準備をすべきかについては、顧問弁護士に相談するようにしてください。

解雇349 解雇後に転職した場合の「復職の意思」の有無に関する判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、トラック運転手に対する普通解雇の有効性と就労意思に関する裁判例を見てみましょう。

新日本建設運輸事件(東京高裁令和2年1月30日・労判1239号77頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社により平成28年6月25日付けで普通解雇されたが、本件解雇は無効である旨を主張して、Y社に対して、①労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②本件解雇後に生ずる月例賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、本件解雇は無効であるが、平成29年11月21日の時点で、XとY社との間でXがY社を退職することについて黙示の合意が成立したと判断し、Xの請求のうち、①を棄却し、②のうち平成29年11月分までの賃金から中間利益を控除した389万9974円+遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し、その余の請求を棄却した。

これに対し、Y社が上記認容部分の棄却を求めて控訴し、Xは、上記棄却部分の認容を求めて附帯控訴した。

【裁判所の判断】

本件控訴を棄却する。

本件附帯控訴に基づき、原判決主文第1項及び第4項を次のとおり変更する。
①地位確認
②Y社はXに対し、759万9473円及び令和元年12月から本判決確定の日まで、月額28万6166円の割合による金員+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は、Y社はXとの交渉に臨む際に解雇を示す書面を作成していたが、交渉の過程において、Xに対する解雇の意思を撤回し、X自らが離職の意思を示した旨主張する。
しかし、Y社代表者は、上記のとおり、Xに本件解雇通知書等を示した上で、本件解雇通知書等を取るのか、それともこれまでの行動を謝罪するのかのいずれかを選択するように委ねたのであって、これはすなわち、Y社は、XがY社代表者の提示した上記条件に従わない限り解雇するとの意思表示をしたものであるから、Xが、本件解雇通知書等を手に取り、部屋を出て、Y社代表者の提示した条件に従うことを拒否する意思を示したことにより、同時点で、Y社代表者の解雇の意思表示が確定的にされたと認めるのが相当である。Y社代表者自らが本件解雇通知書を交付しなかったからといって、解雇の意思表示を撤回したとみる余地はない。

2 Xは、本件解雇後、代理人弁護士に相談した上、離職の2日後には、本件解雇が無効である旨通知し、Y社との間で労働契約上の権利を有する地位にあることを明示し、平成28年6月分以降の賃金の支払を求めているから、同通知が復職を求めるものであることは明らかであり、これに対し、Y社は回答書においてXが従業員の地位にないとして争っていて、Y社が勤務継続を要求してもY社がこれに応じないことも明らかであったから、Xが上記通知に加えさらに勤務継続を明示に要求しなかったとしても、そのことからXの離職時に就労意思がなかったということはできない。また、解雇された労働者が、解雇後に生活の維持のため、他の就労先で就労すること自体は復職の意思と矛盾するとはいえず、不当解雇を主張して解雇の有効性を争っている労働者が解雇前と同水準以上の給与を得た事実をもって、解雇された就労先における就労の意思を喪失したと認めることはできない
なお、Xは、平成28年7月からG建材、平成29年6月からH興業、平成31年2月から現在までK建材において稼働し、それぞれ転職を繰り返しており、各再就職先において、完全にその職務に専念し、Y社における就労意思を喪失したと認めるに足りる証拠はない

解雇後、他の会社に転職した場合に出てくる論点です。

復職の意思の有無の考え方について大変参考になる裁判例ですので押さえておきましょう。

解雇を行う場合には、必ず顧問弁護士に相談をしつつ、慎重に対応していきましょう。

解雇348 コロナ禍における整理解雇(リストラ)(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、コロナ禍におけるタクシー乗務員らの整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

センバ流通(仮処分)事件(仙台地裁令和2年8月21日・労判1236号63頁)

【事案の概要】

本件は、タクシー乗務員であるXらが、Y社に対し、Y社が令和2年4月30日付でした整理解雇は無効であるとして、労働契約上の地位保全及び賃金の仮払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は有期雇用契約の期間満了前の解雇であるから「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項)が必要である。やむを得ない事由の判断にあたっては、本件解雇が整理解雇でもあることからすると、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性、④手続きの相当性の各要素を総合的に考慮して判断すべきである。 

2 債務者の売上については、令和2年3月ころから、新型コロナによるタクシー利用客の減少による売上の減少が始まり、4月は激減した。債務者の4月の収支は約1415万円もの支出超過、4月30日の資産は総額約3133万円もの債務超過となっている。新型コロナの影響によるタクシー利用客の減少がいつまで続くのか不明確な状況であった以上、本件解雇時において、債務者に人員削減の必要性があること及びその必要性が相応に緊急かつ高度のものであったことは疎明がある。
しかし、今後については、給与は従業員を休業させることによって6割の休業手当の支出にとどめることが可能であり、しかも、雇用調整助成金の申請をすればその大半が補填されることがほぼ確実であった。また、燃料費、修繕費、保険料、自賠責保険料は、臨時休車措置をとることにより免れることができた
これらの事情を総合すると、債務者の人員削減の必要性については、ただちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったことの疎明があるとはいえない。 

3 債務者は、本件解雇に先立ち、雇用調整助成金の申請や臨時休車措置の活用はしていない。厚生労働省や労働基準監督署、宮城県タクシー協会がホームページや説明会を利用して雇用調整助成金を利用した雇用の確保を推奨していたこと、東北運輸局がホームページを利用して臨時休車措置の利用を推奨していたこと〈など〉に照らすと、債務者は、本件解雇に先立ち、これらの措置を利用することが強く要請されていたというべきである。債務者の解雇回避措置の相当性は相当に低い。 

4 本件全疎明資料によっても、債権者らが顧客からのクレームが多いこと〈など〉の疎明があるとはいえない。そうすると、人員選択の合理性の程度も低い。

5 解雇通知は、整理解雇との関連性に欠ける記載が多く、団体交渉の席上での口頭説明では十分とはいえない。そうすると、本件解雇の手続きの相当性も低い。

コロナ禍における整理解雇事案です。

雇調金等について言及されており、昨今の特殊事情を考慮した判断となっています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇347 ストーカー行為を理由とする諭旨免職処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、スト―カー行為等を理由とする諭旨免職処分等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

PwCあらた有限責任監査法人事件(東京地裁令和2年7月2日・労判ジャーナル106号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結した労働者であるXが、使用者であるY社に対し、
(1)Y社がXに対してした懲戒処分としての諭旨免職処分、人事権の行使としての降格決定及び普通解雇がいずれも無効であると主張して、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認(請求1項)、②諭旨免職処分が無効であることの確認(請求2項)、③降格決定が無効であることの確認(請求3項)、④降格決定から平成31年2月末をもって普通解雇されるまでの未払賃金(降格決定による減額分)及びこれらに対する遅延損害金の支払(請求4項)、⑤普通解雇の翌月である同年3月から本判決確定の日までの賃金及びこれらに対する遅延損害金の支払(請求5項)、⑥平成30年7月から本判決確定の日までの毎年7月の賞与及びこれらに対する遅延損害金の支払(請求6項)、⑦平成30年12月の未払賞与(降格決定による減額分)及びこれに対する遅延損害金の支払(請求7項)を求めるとともに、
(2)上司らによるパワーハラスメント、降格決定、諭旨免職処分及び女性職員との接触を伴う業務の制限が違法であると主張して、民法709条、715条の不法行為責任又は民法415条の債務不履行責任(職場の環境配慮義務違反)に基づき、慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払(請求8,9項)を求め、
(3)Y社の語学学校費用補助制度を利用できなかったことやY社から裁判期日への出席の際に有給休暇を取得するように指示されたことが違法であると主張して、民法709条の不法行為責任に基づき、損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払(請求10項,11項)を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社がXに対して平成30年7月1日付けで行ったアソシエイト・ライトからアソシエイト・プライマリーへの降格が無効であることの確認を求める訴えを却下する。
 Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
 Y社がXに対して平成30年5月11日付けで行った諭旨免職の懲戒処分が無効であることを確認する。
 Y社は、Xに対し、平成31年3月から令和2年3月まで、毎月25日限り、36万1640円+遅延損害金を支払え。
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社から事情聴取を受けた際に、反省の弁を述べる一方で、被害女性が、入院したり、PTSDになったりはしておらず、普通に出勤しているのであるから問題はないのではないかなどといった被害女性への配慮を欠く発言をしていることからすると、Xが、本件ストーカー行為が被害女性に与えた精神的苦痛を十分に理解し、本件ストーカー行為を行ったことについて真に反省していたかは疑わしく、Y社において、Xには本件ストーカー行為を行ったことについて反省の態度が感じられないと判断したこと自体に問題があったとはいえない。
しかしながら、Xには、本件警告を受けた後も被害女性に対するストーカー行為を継続していたといった事情や、他の女性職員に対してストーカー行為に及ぶ具体的危険性があったといった事情までは認められない。また、Xには、本件ストーカー行為が発覚するまでに懲戒処分歴はなく管理職の地位にある者でもない。これらの事情を総合考慮すると、Xが本件ストーカー行為を行ったことについて真に反省していたかが疑わしい点を勘案したとしても、労働者たる地位の喪失につながる本件諭旨免職処分は、重きに失するものであったといわざるを得ない。そうすると、本件諭旨免職処分は、社会通念上相当であるとは認められない場合に当たる。

2 ①XとY社との間で令和元年度の目標設定が合意に至らなかったこと、②Xが、上司らに対し、質問事項を電子メールで繰り返し送信し、電子メールでの回答を要求することにより、上司らの業務に一定の支障が生じたこと、③Xが虚偽の内容を含む電子メールを上司らに送付したこと、④Xは、有給休暇を取得することなく、本件裁判期日に出席したことなどが認められ、これらのXの行為には問題があるといえるが、その内容や頻度、程度等に鑑みると、解雇せざるを得ないほどの重大な事由であるとまでは認めることができない。
以上によれば、Xの業務内容や勤務態度に問題があることは認められるが、すべてを総合考慮したとしても、解雇せざるを得ないほどの重大な事由があると認めることはできず、Xにつき、就業規則36条1項8号の「その他前各一号に準ずるやむを得ない事由があるとき」に該当する事由があるとはいえない。
・・・Xに就業規則所定の解雇事由は認められず、仮に解雇事由に該当する余地があったとしても、Xを解雇せざるを得ないほどの事由があるとまでは認めることができないから、本件普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めることはできず、労働契約法16条により、解雇権を濫用したものとして無効である。

いつもながら相当性の判断はとても難しいです。

予見可能性は極めて低いため、訴訟リスクを考えると慎重にならざるを得ません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

解雇346 正社員採用時における事実不告知を理由に懲戒処分できる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、学生運動関与秘匿を理由とする分限免職処分の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

京都府事件(京都地裁令和2年3月4日・労判ジャーナル108号38頁)

【事案の概要】

本件は、平成29年4月1日付で京都府に条件付採用され、京都府A課に勤務していたXが、京都府知事から同年9月30日付けで分限免職処分を受けたことから、これを不服として、京都府に対し、本件分限免職処分には裁量権の行使を誤った違法があると主張し、行政事件訴訟法3条2項に基づき、本件分限免職処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件訓告を受けたXについて、本件人事院規則10条2号又は4号に準じた分限事由が存在するか否かについて、本件無期停学処分及び本件放学処分の秘匿等の動機、理由として、条件付採用期間中の職員にある者がいわゆる学生運動関与とそれに関わる大学からの懲戒処分といった事実が正式採用に向けて不利に作用するものと憶測するのは自然の情であるものといえ、上記秘匿をもって勤務成績や公務員としての適正を殊更に否定する事情とまではならないというべきであり、また、学生運動は飽くまで、本件条件付採用の1年半以上も前のXがB大学との関係で行ったものであり、京都府とは無関係のものであり、そして、京都府での勤務を開始した平成29年4月以降に、XがB大学全学自治会同学会の学生運動に関与したことはなく、また、Xが、条件付採用期間中の京都府A課での勤務において、勤務成績や適性の面で問題視されるような行動をとったことをうかがわせる証拠も存在しないこと等から、本件分限免職処分は、裁量権の行使を誤った違法があるというべきである。

このように、裁判所は、入社時の「ウソ」にかなり寛大です。

安易に入社時の「ウソ」を理由に解雇をすることは避けるべきです。

しっかり顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

 

解雇345 精神疾患の業務起因性と解雇制限(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、労基法19条1項違反に基づく解雇無効地位確認等請求に関する事案を見てみましょう。

中央自動車工業事件(大阪地裁令和2年11月19日・労判ジャーナル108号16頁)

【事案の概要】

本件は、自動車の修理加工、販売、仲立等を目的とするY社の従業員であったXが休職期間満了により退職扱いとされたところ、XがY社の従業員の嫌がらせにより精神疾患に罹患し休職せざるを得なくなったのであって、Xの休職がY社の業務に起因するため、労基法19条1項により退職扱いとすることができないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成30年6月以降本判決確定の日まで毎月27日限り月額44万6000円の賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記Y社の従業員の嫌がらせ又はY社の退職扱いによりXの権利ないし法律上保護に値する利益を侵害され、また、これに対して何らの対応もしなかったY社に職場環境配慮義務違反があるとして、Y社に対し、使用者責任(民法715条1項)、不法行為(民法709条)又は債務不履行(民法415条)に基づき、慰謝料200万円及び治療費等34万5600円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Xが平成28年5月頃、適応障害を発症した旨主張し、これに沿うI医師の意見も存する。しかしながら、Xが平成19年6月23日、うつ病と診断され、その後、多少症状が軽減した時期はあるが、平成28年5月頃まで、抗うつ薬を中止できるような寛解状態には至っていないことからすると、それまでのうつ症状とは異質の、いらいら及び攻撃的な感情の出現を認められることを考慮しても、大阪労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見のとおり、「反復性うつ病性障害(F33)」が自然経過を超えて著しく悪化した可能性を否定できない

2 仮に、XがI医師の意見のとおり、平成28年4月後半頃に適応障害を発病していたとしても、発病前おおむね6か月の間に生じた可能性のある出来事は、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表の番号10(「お前なんか死ね。早よ死ね。」,「アホ!ボケ!」)のみである。
この点、Xは、認定基準においても、いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、発病の6か月前よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からの全ての行為を評価の対象とするとされていることを指摘する。
しかしながら、Dによる嫌がらせ行為が継続的に行われていたと認められないことは別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表「当裁判所の判断」欄記載のとおりである。
また、発病前おおむね6か月の間に生じた出来事に限定しないとしても、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表のうち、認められる可能性のある出来事は、番号4,5,8,10,11にとどまる。

3 加えて、これらを総合的に考慮したとしても、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表のとおり、これらが継続して行われているとはいえず、また、多人数が結託して行われたともいえない(Dの肩が当たったとしても治療を要するものでない)以上、認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」項目29(「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」)に沿って検討すれば、「強」である例には当たらず、心理的負荷の強度が「強」であるとは認められない
したがって、本件疾病の業務起因性を認めることができない
よって、本件疾病が業務上の疾病に該当することを前提とするXの地位確認請求及び賃金請求にはいずれも理由がない。

精神疾患の業務起因性の判断は本当に難しいです。

本件のように全く問題がないというわけではない事案において、業務上の疾病には該当しないと判断すれば、ほぼ間違いなく訴訟に発展します。

その覚悟を持ち、顧問弁護士に相談をしながら客観的に判断することが求められます。

解雇344 証拠の偽造・書面の虚偽記載と不当提訴(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、営業部長に対する懲戒解雇の存否等と不法行為該当性に関する裁判例を見てみましょう。

日成産業事件(札幌地裁令和2年5月26日・労判1232号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、①Y社がXに対してしたとされる懲戒解雇は存在せず、又は無効なものであるとして、労働契約に基づき、懲戒解雇の不存在又は無効を前提とした未払賃金及び遅延損害金の支払を求め、②懲戒解雇事由がないにもかかわらずY社がXを懲戒解雇したかのように装うなどしたため、Xが支給を受けるべき退職金共済制度に基づく退職一時金が減額されたとして、不法行為に基づき、同減額相当額の損害賠償及び遅延損害金の支払を求め、③上記②のように懲戒解雇したことを装い、上記退職一時金の受給を妨害し、不当な損害賠償請求をするなどしてXの人格権及び財産権を侵害したとして、不法行為に基づき、慰謝料等の損害賠償及び遅延損害金の支払を求め、④Y社が主張するXのY社に対する労働契約に基づく損害賠償債務は存在しないとして、その不存在の確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、未払賃金28万3800円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、61万4760円+遅延損害金

債務不存在確認認容

【判例のポイント】

1 本件損害賠償請求の内容をみると、本件約束手形の不渡りに伴う損害のみならず、XがY社の従業員としての地位を有していた間の本件経費についても、それが損害ではないことは明らかであるにもかかわらず損害賠償を求めている。また、本件損害賠償請求の方法をみると、存在しない本件懲戒解雇に係る本件懲戒解雇通知とともにしていることや、本件回答書において本件経費について明らかな虚偽記載をしていることに鑑みると、正当な権利の行使とは評価できない。加えて、Y社は、本件訴訟において、本件取引に係る決裁等に関してあえて事実と異なる主張をしたばかりではなく、Y社内部における決裁手続を経た本件申請認可書Aを改変した本件申請認可書Bや偽造した本件申請認可書Cを書証として提出しているのであって、もはや正当な権利の行使として許容される方法を逸脱していることは明らかである。そうすると、本件損害賠償請求及びそれに関する本件訴訟におけるY社の訴訟行為は、Xに対する不法行為となるものというべきである。

提訴や訴訟行為の不法行為該当性については、要件が厳しいので、そう簡単には認められませんが、本件くらいの事情があればさすがに認められます。

提訴や反訴の是非については、感情に任せず、冷静に判断する必要があります。

事前に顧問弁護士に相談することが大切です。