Category Archives: 解雇

解雇363 就業状況不良等を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、就業状況不良等を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

産業と経済・やまびこ投資顧問事件(東京地裁令和3年9月24日・労判ジャーナル120号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、Y社による普通解雇が無効であるとして、Y社に対する雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同契約に基づく未払賃金等支払、同契約に基づき、同解雇前の令和元年12月支払分の給与のうち欠勤に伴い支払われなかった13万円の支払、並びにY社がXに金融商品取引法に違反する取引を共用したことや同解雇が不行為に当たるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料700万円の賠償を求めるとともに、A社に対し、A社がY社を実質的に支配していたなどとして、Y社に対するのと同内容の各請求をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、違法取引を強要されたとは認められないにもかかわらずこれを強要されたと言って監督官庁への告発を示唆して和解の名目で金銭的要求を行った上、その後、14日間欠勤し、その多くが無断欠勤であったばかりか、その間にA社およびY社を非難する旨のSMSを送り続け、Y社に対する反抗的な態度を明らかにし、このようなXの言動については、就業規則所定の解雇理由である従業員の就業状況が著しく不良で、就業に適しないと認められたときに当たり、Xを解雇することについての客観的に合理的な理由があるというべきであり、そして、以上のような労働者の言動については、Y社も不適切な取引関係の形成に関与したことがうかがわれることは否定し難いものの、Y社に対し金銭的要求を行うなどしていることからすれば、その是正を求めるための正当な言動とは解し難い上、正当な理由なく就労を拒否し、反抗的な態度を明らかにしたものであって、Y社との信頼関係を著しく損ねたものというべきであり、また、Y社は、Xに対し、適切に弁明の機会を付与し、Xもこれに応じて弁明をするなどしており、本件解雇については手続的にも相当性を欠くというべき点は見受けられないから、本件解雇は、社会通念上相当であると認められるから、本件解雇は有効である。

内部告発をする場合には、告発を正当化するだけのエビデンスを用意しておかないと、立場が逆転しかねませんので注意が必要です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇362 即戦力社員の試用期間満了後の本採用拒否の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、即戦力社員の試用期間満了後の本採用拒否の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

日本オラクル事件(東京地裁令和3年11月12日・労判ジャーナル120号2頁)

【事案の概要】

本件は、コンピュータ・ソフトウェアの研究、開発等コンピュータ・ソフトウェア関連の事業を行う会社であるY社と通信業界の専門家である「テレコム・イノベーション・アドバイザー」として雇用契約(年収1560万円、試用期間3か月)を締結して入社したが、試用期間満了時に解雇された元従業員Xが、Y社に対し、解雇は合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 テレコム・イノベーターの職責は、専門知識に基づき、通信業界の顧客の役員・部長級の社員と、技術革新について議論し、Y社が提供するソリューションの営業につなげていくことであり、そのためには、相手の意見・考え方を理解した上で、通信業界における深い知識に基づいて、海外における業界の最新動向に関する情報を提供し、議論を進めることが必要であり、そのために必要なコミュニケーション能力は、相当に高度なものであることが推認される

2 客観的にその存在が裏付けられているXのコミュニケーションにおける問題は、Xが、以上のテレコム・イノベータ―に必要とされるコミュニケーション能力を有していないことを端的に明らかにするものであるといわざるを得ない。

3 本件雇用契約により留保された前記解約権は、試用期間中の執務状況等についての観察等に基づく採否の最終決定権を留保する趣旨のものであると解されるから、その解約権の行使の効力を考えるに当たっては、当該観察等によってY社が知悉した事実に照らして検討する必要があり、本件雇用契約締結までにY社が知っていた事実については考慮することができない
・・・以上のようなXの問題は、応募者と採用面接担当者という役割が明確にあり、その職歴からすれば、Xも対応に慣れていたことが推認される採用面接において、Y社が知ることは不可能であったと認められる。

即戦力を期待され、高額の給与で中途採用された従業員の場合、解雇のハードルは下がります。

また、試用期間における解約権の行使に関する考えたについて、上記判例のポイント3を確認しておきましょう。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇361 就労意思喪失と解雇無効地位確認請求の帰趨(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、就労意思喪失と解雇無効地位確認請求の帰趨に関する裁判例を見ていきましょう。

エヌアイケイ事件(大阪地裁令和3年9月29日・労判ジャーナル120号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、Y社がした普通解雇が無効である旨主張し、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求め、また、Xが、Y社の代表取締役であるB及び取締役であるCに対し、同人らが不法行為に基づく損害賠償責任を負い、あるいは、取締役として会社法429条に基づく損害賠償責任を負うものであり、それら各損害賠償責任に係る支払義務がY社の賃金支払義務と不真正連帯関係にある旨主張し、不法行為又は会社法429条に基づく、上記未払賃金と同額の損害金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求棄却

未払賃金請求一部認容

【判例のポイント】

1 本件解雇後におけるXの就労の意思について、Xは、本件解雇の直後である令和元年7月9日、本件解雇が無効であることを前提とし、Y社に対して労働契約上の権利を有する地位確認を求める旨の本件訴えを提起しているから、Xが、本件解雇時において、既に就労の意思を喪失していたと認めるには足りないが、Xが独自にコンピューターシステムの技術者の紹介等を行うようになり、その結果、翌々日支払の約定の下、実際にY社での就労時を大きく上回る収入を得るようになった最初の月である令和元年12月をもって、XはY社での就労の意思を喪失したと認めることが相当である。

解雇事案において、解雇後一定期間経過後に他社へ転職した従業員について、就労意思の喪失が問題となります。

過去の裁判例を見る限り、この点の裁判所の判断は担当裁判官によって認定結果が異なります。

今回の事案のように、Y社の就労時を大きく上回る収入を得るようになったという事情がある場合には、比較的就労の意思の喪失が認定される傾向にあります。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇360 数多くの解雇理由を主張したものの解雇が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、就業規則違反等による解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

清流出版事件(東京地裁令和3年2月26日・労判1256号78頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、①Y社による普通解雇が無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同契約に基づき、給与月51万4300円+遅延損害金の支払、毎年12月10日限り賞与125万8000円+遅延損害金の支払をそれぞれ求め、②Y社がXに対し行った配置転換及びその後の過小要求が不法行為に当たるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料100万円の賠償+遅延損害金の支払を求め(請求4)、③Y社がXに対し行った退職勧奨が不法行為に当たるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、②と同額の賠償等を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効
→バックペイ認容

その余の請求棄却

【判例のポイント】

1 Xについては、私用での外出時のルールに違反したことがあった点及び本件リストをY社に無断でX端末に保存していた点でY社の就業規則等に違反する点があったが、それぞれの事情が直ちに本件主位的解雇を相当とするほどの事情とはいい難いのは上記のとおりであり、それらの点を併せ考えてみても、本件主位的解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を濫用したものとして無効であるというべきである。

2 Xがa会に本件手紙を交付したことをもって直ちに本件予備的解雇が相当であったということはできないし、本件主位的解雇について述べたところと併せて考えても、本件予備的解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を濫用したものとして無効であるというべきである。

それぞれの違反行為が些細な内容の場合には、どれだけたくさんの就業規則違反を主張してもそれをもって解雇が有効になるわけではありません。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇359 採用内定成立は否定されたが、期待権侵害による損害賠償は認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、採用内定成立は否定されたが、期待権侵害による損害賠償は認められた事案を見ていきましょう。

フォビジャパン事件(東京地裁令和3年6月29日・労経速2466号21頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、①主位的に、Y社との間で解約留保権付労働契約(採用内定)が成立しており、Y社による採用内定の取消しが無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、当該労働契約に基づく令和元年3月分から判決確定日までの賃金月額39万円+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、Xの労働契約締結に対する期待は法的保護に値する程度に高まっていたものであり、その後、Y社が従前提示した賃金では採用しない旨を一方的に通告したことによりXY社間の労働契約が成立せず、Xが収入を失うなどの損害を被ったと主張して、不法行為(期待権侵害)に基づき、Y社に対し、損害賠償金422万4000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Xの主位的請求をいずれも棄却する。

Y社は、Xに対し、59万4000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当時、従業員の採用を決定する権限はAにあり、Bはその権限を有していなかったものと認められる。
そして、①平成31年1月21日にXがBに対しY社へ転職したい旨を告げた際、Bが、Xに対し、採用に当たり、Y社の現場責任者及び会長(A)との面接を受けることになる旨を説明したこと、②一次面接の後、BがXに対し同面接の結果が良好であった旨を告げた際にも、Aとの面接が不要である旨の発言はしていないこと、③同年2月に入った後、Xが、Eとの間で、Aとの面接について言及し、「傾向と対策」を要望したことに照らすと、同年1月31日の時点で、Xは、Bが従業員採用について自ら決定する権限を有していなかったことを認識していたものと認めるに十分であり、Y社は、Xに対し、Bの代表権に加えた制限を対抗することができるというべきである(会社法349条5項の反対解釈)。
したがって、Bの行為によりXとY社との間で解約留保権付労働契約が成立したとはいえず、Xの上記主張は採用することができない。

2 Y社の代表取締役であるBは、①平成31年1月21日、Y社への転職を希望したXに対し、採用された場合の給与が当時b社から得ていた給与(月額34万円)を上回る月額39万円となることをいわゆる定額残業代部分の有無も含めて明言し、②同月31日、Y社の現場責任者であるCらとの面接(一次面接)を終えたXに対し、同面接の結果が良好であった旨を告げるとともに、就業開始の具体的日程について言及しており、採用に関し確度の高い発言をしたものということができる。また、③それまで、b社から複数の従業員がY社に転職しており、Aとの面接の結果転職に至らなかった事例も存在せず、④b社からY社に転職した従業員の一人であるEは、一次面接の後、b社を退職した際の手順を尋ねたXに対し、Xも同様に採用されるであろうとの認識から、即座に、「明日Fさん、Gさんに辞意を表明してください」と具体的な手順を教示している。そして、Xは、これらの結果、それまでの待遇を上回る条件でY社に採用されることが確実であるとの認識を抱き、b社に対し退職届を提出したものと認められる。
以上の経過を踏まえると、Y社から書面等による正式な採用の通知はなされておらず、Xにおいても採用に至るにはAとの面接が必要であることを認識していたと認められることを踏まえても、上記のXの認識(期待)は法的保護に値するものというべきであり、Y社が、Xがb社を退職する直前(在籍最終日の2日前)になって、Bの提示(給与月額39万円)説明を覆し、それまでの待遇(給与月額34万円)をも下回る条件(給与月額30万円)を提示したことは、Xの期待権を侵害するものであって不法行為を構成する

よく内定取消しで問題となる「期待権侵害」ですが、本件では、採用内定の成立自体は否定されましたが、期待権侵害は認められました。

なお、期待権侵害の場合は、通常、逸失利益までは認められず、慰謝料として本件同様の金額が認められることが多いです。

内容取消しをせざるを得ない場合には、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。

解雇358 休職期間満了による退職扱いおよび予備的解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間満了による退職扱いおよび予備的解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

丙川商店事件(京都地裁令和3年8月6日・労判1252号33頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として稼働していたXらが、それぞれ適応障害等を発症したとして、Xは平成29年11月2日から、X2は同年9月28日から休職していたが、Y社が、主位的に、X1につき平成30年8月2日付け、X2につき同年6月28日付けで休職期間満了による退職扱いとし、また、予備的に、Xらにつき令和元年10月30日付けで解雇するとの意思表示をしたことから、Y社に対し、本件各退職扱い及び本件各解雇はいずれも無効であると主張して、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②労働契約に基づき、Xらが復職を申し出た平成31年2月分以降の未払賃金+遅延損害金の支払を求めている事案である。

反訴は、Y社が、Xらが休職を開始して以降、Xらの社会保険料等を立て替えて支払ってきたとして、Xらに対し、不当利得に基づき、それぞれ立替金相当額の利得金+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求認容

Y社の反訴請求棄却

【判例のポイント】

1 本件就業規則17条1号は、休職事由の一つとして、文言上、「業務上の傷病により欠勤し3カ月を経過しても治癒しないとき(療養休職)」と規定している。一方で、本件訴訟において、Xらは、Xらの各休職事由につき、「業務上の傷病」であるとは主張しておらず、「業務外の傷病」として取り扱われることについて当事者間に争いはない
Y社は、労働基準法上、業務上の傷病により休職中の従業員を退職させることはできないから(同法19条)、本件就業規則17条1号に「業務上の」とあるのは明白な誤記であり、正しくは「業務外の」であるとして、Xらに同号が適用されると主張する。
確かに、業務上の傷病の場合に休職中の従業員を解雇することは労働基準法19条に反し、強行法規違反として無効の規定となるから、本件就業規則17条1号に「業務上の」と記載されているのは、同規則作成時において、何らかの誤解等があった可能性は否定しきれない。また、一般に、業務外の傷病に対する休職制度は、解雇猶予の目的を持つものであるから、本件就業規則17条1号を無効とはせずに、「業務外の傷病」であると解釈して労働者に適用することは、通常は労働者の利益に働く解釈であると考えられる。
しかしながら、本件においては、上記規定による休職期間満了後も引き続きY社から休職扱いを受けてきたXらが、上記休職期間満了により既に自然退職となっていたか否かが争われている。このような場面において、労働者の身分の喪失にも関わる上記規定を、文言と正反対の意味に読み替えた上で労働者の不利に適用することは、労働者保護の見地から労働者の権利義務を明確化するために制定される就業規則の性質に照らし、採用し難い解釈であるといわざるを得ない。
したがって、本件就業規則17条1号を「業務外の傷病」による休職規程であるとして、これをXらに適用することはできないというべきである。

珍しい事案ですね。

就業規則作成時のケアレスミスにより、休職期間満了による退職処分が認められなかったわけです。

就業規則の作成は、必ず顧問弁護士や社労士に依頼しましょう。

解雇357 外国人技能実習生が行った退職の意思表示の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、外国人技能実習生が行った退職の意思表示の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

岸良海産興業事件(札幌地裁令和3年5月25日・労判ジャーナル116号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と外国人技能実習制度を利用して雇用契約を締結したモンゴル国籍を有する元従業員Xが、Y社に対して、本来は解雇事由がないにもかかわらず、解雇事由があるが依願退職にしてもよいなどとY社が申し向けてXに退職の意思表示をさせたことが、詐欺、錯誤及び不法行為に当たるなどと主張して、主位的に、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、技能実習の機会を奪われたことについて不法行為に基づく損害賠償として慰謝料100万円等の支払、退職後の残りの雇用期間に対応する賃金の支払を求めるとともに、予備的に、違法な退職勧奨等を理由とする不法行為又は債務不履行責任として、得られるはずの賃金相当額の逸失利益239万円、慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xによる一連の行為は、同僚実習生に対する暴行、暴言及び金銭の無心という、それ自体がY社における制裁の対象となる行為であるのみならず、同僚実習生を帰国に追いやったり、体調不良を生じさせたりする程度に及ぶものであり、また、Y社から一度訓戒を受けるとともに本件約束事項を交わして、再度雇用契約を継続する機会を与えられたにもかかわらず、約束した日の翌日からその約束を破るものであり、実習生及び従業員合わせて15名程度の小規模な会社の社内秩序を乱すものであり、協調性に欠け就業に適さないと認められるから、客観的にも解雇事由が存在したものと認められるところ、Xは、自主退職か解雇かの選択を迫られた中で、Y社との間で、退職申入れを行ったことが認められ、そして、Xには、客観的に解雇事由が存在し、Y社との間で交わされた本件約束事項を守ることができなかったことも踏まえて、自ら退職の申入れをしたものと認められるから、Xには動機の錯誤は認められないし、Y社の詐欺及び不法行為も認められない。

この事案においても、詰まるところ、Xの自由な意思の有無が問題となっているわけですが、裁判所は、客観的な事情を勘案した上で判断していることがよくわかりますね。

本件のような事案は判断が難しいと思いますので、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。

解雇356 整理解雇における解雇回避努力の重要性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ストーンエックスフィナンシャル事件(東京地裁令和3年4月26日・労判ジャーナル114号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、Y社がXにした平成31年3月8日付け解雇について無効であると主張し、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、雇用契約による賃金支払請求権に基づき未払賃金等の支払を求めるとともに、雇用契約上賞与を支払う旨の約定があったなどと主張して、雇用契約による未払賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払賞与等支払請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社の管理会計上の営業損益は、他社との競争激化でY社の扱うFX取引量が減少したことにより、赤字となり、移転価格会計制度で米国親会社が赤字による損失を引き受けることでY社の販売費及び一般管理費に7パーセントを上乗せした収入を得ることができていたところ、米国親会社からY社に対して繰り返し経費削減要求がされた中で人員削減も要求されたのであるから人員削減の必要はあるといえるが、希望退職者募集ないし退職勧奨について、説明できているのはXのみであり、Y社は希望退職者募集に係る詳細な事実についてこれを認めるに足りる証拠を提出しないから、本件判断にあたり、希望退職者募集はXに対するもの以外は有無ないし内容について不明であり、解雇回避努力は甚だ不十分というほかなく、Y社が主張するXを被解雇者に選定した理由は、基準の客観性に乏しいことを指摘せざるを得ないこと等から、①人員削減の必要性はあるといえるものの、②解雇回避努力は甚だ不十分でこれを認めることができず、③被解雇者の選定の妥当性にも疑問が残ることから、④手続の相当性に関する具体的事情を検討するまでもなく、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であるとも認められず、解雇権を濫用したものとして無効というほかない。

人員削減の必要性が認められているにもかかわらず、手続面で不備があったために無効と判断されています。

解雇をする上で必要なプロセスについては、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。

解雇355 横領を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、横領を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

小市モータース事件(東京地裁令和3年4月13日・労判ジャーナル114号40頁)

【事案の概要】

本件は、第1事件において、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社がXに対してした解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づく未払賃金として約217万円等の支払いと、Y社がした解雇が不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求権として480万円等の支払を求め、第2事件において、Xが、Y社の代表者取締役であるBに対し、BとY社は実質的に同一であり、Y社は完全に形骸化しているから、その法人格は否認されるべきであると主張して、労働契約に基づく未払賃金として約217万円等の支払いと、解雇が不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求権として480万円等の支払を求めるとともに、仮に法人格の否認が認められないとしても、Bは、Y社がXに賃金及び割増賃金を支払わなかったことや、違法に解雇したことについて、Y社の取締役としての任務懈怠があるとともに、民法709条の不法行為責任も負うと主張して、会社法429条1項ないし民法709条に基づく損害賠償請求権として、約697万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払賃金請求一部認容

損害賠償請求一部認容

【判例のポイント】

1 Y社における本件解雇は、単に解雇として無効というだけでなく、Xから何ら弁解を聴くことなく、十分な裏付けもとらずに会社財産を横領したものと一方的に決めつけ、Xの名誉を著しく損なう内容を記載した本件解雇辞令を、他の従業員の目にも触れるY社の本店内に掲示するという著しく不相当な方法で告知するという方法で行われるなど、著しく社会的相当性を欠いたものであり、その後、XにY社での就労を断念せざるを得ないような実力行動にも及んでいることも考慮すると、本件解雇は、違法にXの権利または法律上保護された利益を侵害するものとして、それ自体不法行為を構成すると認められる。

事前に弁護士や社労士に、解雇手続の進め方を相談できる状況にないのでしょうか。

これでは勝てるものも勝てません。

解雇をする上で必要なプロセスについては、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。

解雇354 解雇前の出勤停止期間につき賃金支払義務が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒解雇を有効としつつ、解雇前の出勤停止期間につき賃金支払義務が認められた事案を見てみましょう。

JTB事件(東京地裁令和3年4月13日・労経速2457号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結していたXが、出張旅費や会議打合費、交際費を不正受給したことを理由に懲戒解雇されたことについて、懲戒解雇は解雇理由の一部を欠く上、不正受給額が高額でないことなどに照らすと、上記懲戒解雇は社会通念上相当とはいえず解雇権を濫用したものとして無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成31年2月分から同年4月分までの未払賃金として81万8320円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

Y社はXに対し、81万8320円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件における経費の不正受給行為の悪質さの程度や、XがこれによってQやY社の秩序に与えた悪影響の程度に照らすと、諭旨退職に応じるか否かを決断するために与えられた猶予期間が数日しかなく、退職金の額も告げられなかったからといって、適正手続に反するということはできない。

2 本件出勤停止命令は、本件就業規則118条に基づき、本件における経費の不正受給の調査やこれに関する懲戒審査の円滑な遂行のために業務命令として出されたものであって、懲戒処分ではないし、これに引き続いてされた賃金の一部不払いも、正当な理由が認められない賃金の不払いであって問題はあるものの、懲戒処分としてされたものではない。したがって、本件懲戒解雇は、実質的にも二重処罰に当たるものではない。

3 Y社は、給与未払について、Xが長期間・多数回に及ぶ不正受給を行っており、その態様等も考慮すると出勤させた場合には証拠隠滅のおそれがあったことから、出勤させなかったものであり、Y社によって労務の提供を拒んだことについて「債権者の責に帰すべき事由」(民法536Ⅱ)があるとはいえず、Y社には本件出勤停止命令以後の賃金の支払義務はないと主張する。
しかしながら、本件の不正受給に係るゴルフの相手方や、不正受給に当たって飲食等の相手方と偽って申請された者は、Q外の者であり、XがQに出勤したとしても、自宅待機の場合に比べて、口裏合わせ等の証拠隠滅等のおそれが高まるとは考え難い。本件で、Xの出勤を禁止しなければならない差し迫った合理的な理由があったとまでは認め難いといわざるを得ない。
本件出勤停止命令は、本件不正受給の調査やこれに関する懲戒審査の円滑な遂行、職場秩序維持の観点から執られたものではあるものの、なおY社の業務上の都合によって命じられたものというべきであり、Y社は、本件出勤停止命令後も賃金支払義務を免れないというべきである。

上記判例のポイント3は悩ましいですね。

本件事案において、自宅待機命令が明らかに不当であると現場で判断するのは極めて困難であると思います。

とはいえ、裁判所の判断は理解できるところですので、参考にしてください。

解雇をする上で必要なプロセスについては、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。