Category Archives: 解雇

解雇5(試用期間中の解雇その2)

おはようございます。

昨日、試用期間の途中で、不適格として解雇する場合、解雇すべき時期の選択を誤ったとして、解雇無効と判断されるケースがあると書きました。

そこで、今日は、このように判断している判例を見てみましょう。

医療法人財団健和会事件(東京地裁平成21年10月15日判決・労判999号54頁)

【事案の概要】

Xは、Y病院に総合事務職として採用された。

Y病院には、3か月の試用期間がある。

勤務開始後におけるXの手数料収入は、Y社の期待を下回るものであった。

Y社は、試用期間満了まで20日間程度を残す時点で、Xを、事務能力の欠如により、常勤事務職員としての適性に欠けることを理由に、解雇した。

Xは、Y社に対し、解雇無効を理由とする地位確認、賃金請求等をした。

【裁判所の判断】

解雇無効。

【判例のポイント】

Y病院は、試用期間3か月間のうち20日間程度を残して解雇をしているところ、残りの試用期間を勤務することによって、XがY病院の要求する常勤事務職員の水準に達する可能性もあったのであって、Y病院は解雇すべき時期の選択を誤ったものといえ、解雇は、試用期間中の本採用拒否として客観的に合理的な理由を有し社会通念上相当であるとまでは認められず、無効である。

この判例では、Xの業務遂行についてY病院の教育・指導が不十分であったとはいえず、Xの起こしたミスないし不手際は、Y病院における業務遂行能力・適格性について相応のマイナス評価を受けるものであると判断しています。

Y病院では、Xがパソコンに関する実務経験がなかったことから、試用期間中、1か月ごとに面接を行い(実際、2回面接を実施しています)、教育・指導をしていたようです。

それにもかかわらず、「解雇すべき時期の選択を誤った」との理由により、解雇は無効となりました。

とても興味深い事件ですね。

ただ、この判例をどの程度参考にするべきかについては検討の余地がありそうです。

この判例からすると、試用期間満了前に解雇すると「解雇すべき時期の選択を誤った」とされてしまうようにも思えます。

しかし、裁判所がこのように判断したのには、やはり理由があります。

いかなる事案においても、同じように判断されるわけではありません。

この事件では、第1回目の面接において、Xは、上司のA(課長代理)からデータ入力等について指摘されました。

指摘を受けた後、Xは、第2回目の面接までの間、データ入力ミスについて指摘されることはなくなる等、業務状況等に改善が見られました。

第2回目の面接において、Xは、Aから、未だY病院が常勤事務職員として要求する水準に達していないと指摘されました。

Xは、一度は退職する意向を示したものの、Y病院は、引き続き試用期間中は、Xの勤務状況を見て、常勤事務職員の水準に達するかどうかを見極めることとなりました。

裁判所は、このような経緯や、Xの勤務状況が改善傾向にあること等が、上記判断につながったものと思われます。

事案によっては、このような判断もあり得るということを頭に入れておくことが大切ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇4(試用期間中の解雇その1)

おはようございます。

ほとんどの会社が、3か月~6か月程度の試用期間を設けていると思います。

試用期間中であれば、簡単に解雇できると誤解している方はいませんか?

試用期間中であっても、そう簡単には解雇は認められません。

判例を見てみましょう。

ニュース証券事件(東京地裁平成21年1月30日判決・労判980号18頁)

【事案の概要】

Xは、Y社(証券会社)に営業職の正社員として中途採用された。

Y社には、6か月の試用期間がある。

勤務開始後におけるXの手数料収入は、Y社の期待を下回るものであった。

Y社は、試用期間中(3か月強)に、Xを試用期間中に不適と認められたとして解雇した。

Xは、Y社に対し、解雇無効を理由とする地位確認及び賃金請求をした。

【裁判所の判断】

解雇無効。

【判例のポイント】

1 試用期間における解約権留保の趣旨・目的は、企業が従業員の採用にあたっては、採用決定の当初の段階では、その者の資質、性格、能力等が当該企業の従業員としての適格性を有するか否かについての必要な調査を十分に行えないために、後日における調査や観察に基づいて最終的な決定を留保することにある。試用者は、従来勤務していた企業を退職したばかりか、本採用を期待して他企業への就職の機会と可能性をも放棄している等の事情も存するのであるから、これらの事情に照らすと、留保解約権の行使は、その趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合に限り認められるとするのが相当である

2 Xの手数料収入は高いものとはいえないが、わずか3か月強の期間の手数料収入のみをもってXの資質、性格、能力等が会社の従業員としての適格性を有しないとは到底認めることはできず、本件解雇(留保解約権の行使)は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することはできない。

3 Xの成績に改善の見込みがないとのY社の主張を裏付ける証拠は全く存しない。

4 Xを即戦力として採用しており、資質能力の判断には3か月で十分であるとのY社の主張に対しては、本件雇用契約書の規定などから、6か月の試用期間が経過した時点で留保解約権の行使を行う趣旨であったとした。

試用期間中の解雇(留保解約権行使)は、三菱樹脂事件最高裁大法廷判決(昭和48年12月12日)の規範が採用されています。

三菱樹脂事件は、新規学卒者の採用後における試用期間が問題となりましたが、上記判例は、中途採用の事案についても同様の規範を用いています。

なお、試用期間の途中で、不適格として解雇する場合、残りの試用期間で、会社が要求する能力水準に達する可能性もあり、解雇すべき時期の選択を誤ったものであるとして、解雇無効と判断されるケースがあります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇3(勤務成績不良による解雇その2)

おはようございます。

今日は、昨日とは逆で、勤務成績や勤務態度の不良を理由とする解雇が有効とされたケースです。

裁判上有効とされたケースと無効とされたケースでは、どのような点に違いがあるのでしょうか。

1 日水コン事件(東京地裁平成15年12月22日判決・労判871号91頁)

(1)原告は、被告からコンピューター技術者として豊富な経験と高度の技術能力を有することを前提に、被告の会計システムの運用・開発の即戦力となり、将来は当該部門を背負って経つことをも期待されて、SEとして中途採用された。

(2)それにもかかわらず、日常業務に満足に従事できないばかりか、特に命じられた業務についても期待された結果を出せなかった上、直属の上司の指示に対し反抗的な態度を示し、その他の多くの課員とも意思疎通ができず、自己の能力不足による業績不振を他人の責任に転嫁する態度を示した。そして、やり直しの機会を与えられたにもかかわらず、以前の原告に対する評価と変わらなかった結果に終わった。

(3)このように、原告は、単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達していないというのではなく、著しく劣っていたその職務の遂行に支障を生じており、かつ、それは簡単に矯正することができないものと認められる。

2 テレマート事件(大阪地裁平成13年12月21日判決・労経速1797号8頁)

(1)原告は、食料品等の通信販売を業とする会社に雇用され、正社員となった。

(2)入社後、原告は、商品の注文等の電話を受ける受電係、買受商品についてのクレーム対応等をするクレーム係に配属された。受電係は、商品のキャンセル等の電話を受けた際は、「お客様メモ」と呼ばれる所定のメモ用紙に電話の内容等を記載し、クレーム係に提出することになっていた。

(3)原告は、お客様メモの記載が乱雑であることにつき再三にわたって会社より注意を受けていたが、その態度を改めなかった。

このように、単なる能力不足や勤務成績不良だけで解雇が有効となっているわけではありません。

能力不足や勤務成績不良(しかも客観的に明らかでなければいけない)は、あくまでも、解雇の前提条件にすぎません。

これに加えて、

①やり直しのチャンスを与えていること(会社が注意をしていること)

②従業員の対応に問題があること

が必要であるようです。

①・②については、その都度、しっかり記録を残しておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇2(勤務成績不良による解雇その1)

おはようございます。

勤務成績不良を理由に解雇する場合、そう簡単には解雇は認められません。

以下の2つの参考判例で確認しましょう。

1 エース損害保険事件(東京地裁平成13年8月10日決定・労判829号5頁)

(1) 長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなけれはならない程度に至っていることを要する

(2) (1)に加え、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである

2 セガ・センタープライゼズ事件(東京地裁平成11年10月15日決定・労判770号34頁)

(1)平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである

(2)解雇された従業員は、確かに従業員の中で下位10%未満の考課順位ではある。しかし、この人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能力が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。
 相対的に10%未満の下位の考課順位に属する者がいなくなることはありえない。

(3)他の解雇事由との比較においても、「労働能率が劣り、向上の見込みがない」という解雇事由は、極めて限定的に解さなければならないのであって、常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできない。

もちろん、勤務成績や勤務態度の不良を理由とする解雇が有効と認められるケースもあります。
しかし、それらは、やはり、重大な程度に達している場合です。

では、どの程度の勤務成績不良であれば、解雇が有効とされているのでしょうか。

次回、解雇を有効とした判例を検討してみたいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇1(T運送事件)

おはようございます。

今日は、解雇に関する裁判例を見てみましょう。

T運送事件(大阪地裁平成22年1月29日判決・労判1003号92頁)

【事案の概要】

会社は、女性事務社員2名をいじめ等の陰湿な行動によって退職に追い込んだこと、事務スキル向上の望みがないことを理由として、従業員Xを解雇した。

従業員Xは、いじめ等の事実について否定している。

会社は、事実関係の確認をしておらず、Xの直属上司がXに対して注意指導を行ったとは認められない。

Xは、解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、賃金の支払いを請求した。

【裁判所の判断】

解雇は無効(会社側控訴)。

【判例のポイント】

1 Xの女性事務社員に対する言動に多少配慮の欠ける点があったことは否定できないが、いじめ等の行為を行っていたとまでは認められない。

2 仮に、Xのいじめ等があったとしても、会社が当該事実について、両者の言い分を十分に聴取した上で、Xに対し、明確な注意指導あるいは懲戒を行うなどして、Xの態度及び職場環境の改善等を図るべきであるが、これらの措置をとったとは認められない。

3 Xの事務スキル不足の事実は認められない。

会社としては、きっちりと事実確認をしなくてはいけません。

また、解雇する前にやるべきことがたくさんあります。

社長、いきなり解雇するのはやめましょう。

裁判になったらたいてい負けます(くらいに思っておいて下さい)。

あと、「能力が低い」という会社側の主張はほとんどの場合、通りません。

小さなミスを必死になってかき集めてきて、能力が低いと主張してくることがよくあります。

これまで、全くミスについて指導したり、処分しないで、「能力が低いから解雇」と言ってみたところで、ダメです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。