Category Archives: 解雇

解雇15(ネスレ日本事件)

おはようございます。

さて、今日は、長期間経過後の懲戒処分に関する最高裁判例を見てみましょう。

ネスレ日本事件(最高裁平成18年10月6日・労判925号11頁)

【事案の概要】

Y社は、外資系食品メーカーである。

Xらは、Y社の従業員として工場に勤務していた。

Y社は、Xらを諭旨退職処分とし、退職願を提出すれば自己都合退職とし退職金全額を支給するが、提出しないときは懲戒解雇するとした。

Xらは、退職願を提出しなかったため、Y社から懲戒解雇された。

本件懲戒解雇の理由とされたのは、7年以上前の暴行、暴言、業務妨害などである。

Xらは、本件懲戒解雇は権利の濫用であり、無効であるとして、Y社に対して労働契約上の従業員たる地位にあることの確認を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

【判例のポイント】

1 懲戒処分が本件事件から7年以上経過した後になされたことについて、Y社は、警察および検察庁に被害届や告訴状を提出していたことから、これらの操作の結果を待って処分を検討することとしたという。
しかしながら、本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずとも処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。
しかも、捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず、実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨解雇処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

2 本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる

3 以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない

最高裁判例です。

1審は、Y社のXらに対する諭旨退職処分は、懲戒権の濫用にあたり無効であるとしました。

これに対し、原審は、事件発生から諭旨退職処分がされるまでには相当な期間が経過しているが、Y社は捜査機関による捜査の結果を待っていたもので、いたずらに懲戒処分をしないまま放置していたわけではないから、本件懲戒解雇は有効であるとしました。

原審(東京高裁)では、Y社の主張通りに判断されています。

不起訴処分の通知を受けてから懲戒処分をするまで1年程経過していますが・・・。

いずれにせよ、長期間経過後の懲戒処分が直ちに懲戒権の濫用となるわけではありません。

とはいえ、長期に及べば及ぶほど、懲戒処分に着手しないことの正当性はどんどん乏しくなっていきます。

労働判例百選[第8版]60では、以下のとおり解説されています。

濫用の成否については、長期の経過に至った諸般の事情や必要性を苦慮する必要があり、(1)長期の経過に至った必然性、(2)その間の当事者の姿勢、(3)長期の経過による企業秩序の形成、(4)長期の経過による事実関係の把握の困難などの要素について慎重に検討されるべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇14(ニュース証券事件)

おはようございます。

さて、今日は、試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ニュース証券事件(東京高裁平成21年9月15日・労判991号153頁)

【事案の概要】

Xは、Y社(証券会社)に営業職の正社員として中途採用された。

Y社には、6か月の試用期間がある。

勤務開始後におけるXの手数料収入は、Y社の期待を下回るものであった。

Y社は、試用期間中(3か月強)に、Xを試用期間中に不適と認められたとして解雇した。

Xは、Y社に対し、解雇無効を理由とする地位確認及び賃金請求をした。

【裁判所の判断】

解雇無効(控訴棄却)

【判例のポイント】

1 本件雇用契約書には、本件雇用契約におけるXの試用期間を6か月とする規定が置かれているところ、試用期間満了前に、Y社はいつでも留保解約権を行使できる旨の規定はないから、XとY社との間で、Xの資質、性格、能力等を把握し、Y社の従業員としての適性を判断するために6か月間の試用期間を定める合意が成立したものと認めるべきである

2 そして、試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6か月の試用期間の経過を待たずしてY社が行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである

3 Y社が、Xは適格性を有しないと判断して本件解雇をすることは、試用期間を定めた合意に反してY社の側で試用期間をXの同意なく短縮するに等しいものというべきであって、Xが業務上横領等の犯罪を行ったり、Y社の就業規則に違反する行為を重ねながら反省するところがないなど、試用期間の満了を待つまでもなくXの資質、性格、能力等を把握することができ、Y社の従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められるのであれば格別、合意した試用期間である6か月におけるXの業務能力又は業務遂行の状態を考慮しないでY社が行った本件解雇(留保解約権の行使)は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することはできない

この裁判例は、以前検討したニュース証券事件(東京地裁平成21年1月30日判決・労判980号18頁)の控訴審判決です。

結論としては、一審の判断が維持されました。

試用期間満了前に解雇をする場合には、「より一層高度の合理性と相当性」が必要であるといっています。

ここまで言われると、会社としては試用期間の途中で解雇することは非常に困難ですね。

従業員としては、この裁判例の理由付けは使えると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇13(和光商事事件)

おはようございます。

今日も引き続き、部下が不正行為を行った場合における上司の責任に関する裁判例を見ていきます。

和光商事事件(大阪地裁平成3年10月15日・労判598号62頁)

【事案の概要】

Y社は、金融業等を目的とする株式会社である。

Xは、Y社の常務取締役として、代表取締役に次ぐ地位にあり、Y社の主たる営業である貸付業務の全体を統括し、併せて従業員に対する教育管理等を行っていた。

Xの部下は、抵当権設定登記を行わないまま顧客に貸付けを実行し、その結果、946万3740円を回収することが不可能となった。

Y社は、Xが常務取締役として、Y社に対し、部下の業務遂行を監督し、これを指導すべき職務上の義務を負っていたにもかかわらず、部下の報告を虚偽と知りながら黙認し、さらに、事実の報告を押しとどめることによって未回収金を発生させるに至った行為は、上記義務に違反する行為であるとして、Xを懲戒解雇した

Xは、懲戒解雇の効力を争った。

Y社は、これに対抗し、Xに対し、未回収金相当額の損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

Y社のXに対する損害賠償請求は、請求額の3分の1の限度で認容。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の業務体制が整備されていれば、抵当権未設定の事実はXからの報告がなくても容易に知り得たはずであるとして、Xの義務違反の程度は軽微であったと主張した。
これに対し、裁判所は、「仮にY社の業務体制に不備があったとしても業務を統括する立場にあったXの責任がこれを理由に軽減されるはずがない。体制に不備があれば、X個人が果たすべき役割はそれだけ重大になりその責任は重くなる。」と判断した。

2 Xが賠償すべき具体的金額については、雇用関係における信義則及び公平の見地から諸事情を慎重に検討し、決定すべきである。

(1)Y社のように金銭貸付を業務とする企業の従業員は、その給与からみて容易に返済できない額の貸付を担当しているのが通常であることから、仮に従業員の落ち度で未回収となった金銭のすべてを当該従業員個人が賠償すべきとすることは、従業員にとって余りにも酷な結果をもたらす。

(2)Y社就業規則にも「従業員が故意または過失によって会社に損害を与えたときは、その全部または一部の損害賠償を求めることがある」との規定があり、全額請求することが原則であるとは定められていない。

(3)Y社の貸付金利は、利息制限法に違反するものであった疑いが強い。

(4)本件懲戒解雇が有効であり、これによりXは本件貸付について十分な制裁を受けたと評価できる。

やはり、上司が部下の不正行為を黙認し、会社に報告せず、会社に損害が発生した場合には、責任を負うことになってしまいます。

もっとも、よほどのことがない限り、会社が被った損害の全部を賠償する、ということにはなりません。

上司のみなさん、くれぐれも黙認しないようにしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇12(国際油化事件)

おはようございます。

今日は、部下が不正経理に関する上司の責任についての裁判例を見てみましょう。

国際油化事件(福岡地裁昭和62年12月15日判決・労判508号10頁)

【事案の概要】

Y社は、石油類の販売等を業とする会社である。

Xは、Y社の従業員であり、入社12年目から、Y社福岡支店支店長となった。

Y社は、福岡支店において不正経理(架空売掛総額2億円超、流用された現金売上1億5000万円余)が行われたとして、Xを懲戒解雇した。

Xは、本社経理部の責任者は、本件に関し、役員報酬を、2ヵ月間、3%減額という極めて軽微な処分を受けたにとどまっており、これと比較すると、Xの処分は極めて重いもので、著しく均衡を失すると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

【判例のポイント】

1 Xは、不正な経理操作を知ってから、本社がこれを発見するまでの間、本社に全く報告をしていない

2 この間、監査役によって福岡支店の監査がなされ、また、本社から支店に対し、長期未入金につき報告を求められたが、このいずれのときにも、Xは、本件不正について触れなかった。

3 この間、Xは、不正の再発を防止するための方策を全くとっていない

4 Xは、不正な経理操作を行った従業員が個人的出捐による補填をもって事態を隠蔽することを容認した。 

5 Xは、福岡支店支店長として、支店業務全体を監督する職責を追っているのであるから、Xに対する処分が、経理本部長に対するものより重いものであることは合理性がある

上司が、部下の不正行為を認識した場合には、直ちに会社に知らせましょう。

監督責任を問われる可能性があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇11(関西フェルトファブリック事件)

おはようございます。

さて、今日は、部下が不正行為をしたとして、上司を懲戒解雇したケースを見てみましょう。

関西フェルトファブリック事件(大阪地裁平成10年3月23日判例・労判736号39頁)

【事案の概要】

Y社は、フェルトの製造、加工、販売を主たる事業内容とする株式会社である。

Y社は、XがY社営業所長であった際、経理担当社員Aが多額にわたる金銭横領行為を行ったことについて、以下の理由で、Xを懲戒解雇した。

(1)Xは、Aが反復継続して多数回にわたり、Y社の金銭を横領している事実を少なくとも未必的に知りながら、Aとともに着服金で飲食等をした。

(2)Xは、Aの監督者としての職務を怠り、Aの業務上横領行為に注意を払うことなく漫然と放置した重大な過失により、Aの行為を未然に防止し得なかったばかりか、Aとともに漫然と飲食を繰り返すなどしてその発覚を遅延させて損害を拡大させた。

Aが横領した金額は、約2年間で、合計約3800万円以上である。

Xは、懲戒解雇の効力を争い、あわせて名誉毀損による慰謝料請求とY社の社報などへの謝罪文の掲載等を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

【判例のポイント】

1 XがAの横領行為に積極的に加担ないし関与したとは断定できないが、Aが営業所の経理手続を一手に握っている以上、Xが健全な常識を働かせればAの行為に不審の念を抱き、金銭を横領していることを知り得る状況にあった

2 Xが営業所長として経理関係のチェックを著しく怠ったためにAの横領行為の発見が遅れ、Y社の被害額が増大した

3 Aの横領額は、Xの営業所長在任中に目立って増加し、かつ、XとAは多数回にわたり飲食を共にするなどして、かえってAの横領行為を助長したふしがある

なお、Xは、本件懲戒手続が、Xに対する十分な弁明の機会を与えることなく行われ、かつ事前の警告もなく懲戒解雇が行われたものであって、適正手続に違反すると主張しました。

これに対し、裁判所は、事情聴取の方法がある程度詰問調であったとしても、横領という不祥事の真相解明のためにはことの性質上ある程度やむを得ないと考えられ、とくに強制にわたっていたとは認められないとして、Xの主張を認めませんでした。

上司のみなさんは、自分が不正行為をしないのは当然のこととして、部下が不正行為をしているのを発見した、もしくは発見しえた場合には、適切に対応することが求められています。

積極的に加担ないし関与しなくても、責任を問われることがありますので、ご注意を。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇10(崇徳学園事件)

おはようございます。

今日は、不正経理に関する最高裁判例を見てみましょう。

崇徳学園事件(最三小判平成14年1月22日・労判823号12頁)

【事案の概要】

Xは、Y学園の長期計画推進室長として雇用され、翌年からY学園の法人事務局次長を兼務していた。

Y学園は、Xが
(1)台風災害復旧工事に関し、法人事務組織規程、決裁規程、経理規程等に違反し、適切な事務処理、会計処理を行わず、またZ社に工事代金の不当な水増し請求をさせるなどしてその任に背き、Y学園に損害を与えた

(2)リース契約に関し、必要もないのにZ社を介在させ、虚偽の契約をっせるなどして不当な利益を得させた

(3)職務専念義務違反など日常の勤務態度が劣悪である

等を理由として、懲戒免職処分とした。

Xは、これを不当として、従業員たる地位の確認、賃金等支払いを請求した。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分は有効。

【判例のポイント】

一審は、法人の重要な地位にあるXには、(1)の背任行為のみでも懲戒免職処分に値するなどとして、同処分を相当とした。

二審は、(1)~(3)の事由が就業規則所定の懲戒事由に該当することを認めつつも、(1)については、第一次的には経理課長に責任があること、XにZ社に不当な利益を得させる目的、意図がなかったこと、(2)については、Xが、Z社に不当な利益を得させるためにリース契約を締結したものではなく、また、適正な経理処理が行われなかったことには課長らにも応分の責任があること、(3)Xの勤務態度は劣悪とまではいえず、本来の業務遂行には問題がなかったこと、課長や局長には何らの懲戒処分がなされなかったことから、Xの懲戒免職処分は、無効と判断した。

そして、最高裁は、一審判決を正当と判断しました。

やはり、この横領や不正経理等に関しては、厳しい判断がされる傾向にあります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇9(東京海上損害調査事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇に関する裁判例を見てみましょう。

東京海上損害調査事件(大阪地裁平成12年3月31日・労判788号49頁)

【事案の概要】

Y社は、保険会社A社の子会社であり、A社が発注する自動車等保険事故の損害額見積もり、状況調査等を業としている。

Xは、Y社の従業員であり、自動車事故の原因調査等を行うアジャスターとして22年間勤務してきた。

アジャスターは、調査報告書の作成・提出および個人所有の業務使用車両の総走行距離・業務走行距離の申告に基づき、調査料および車両経費等をY社から支払われることになっていた。

A社の検査部がY社の調査業務等を抽出検査した際に、Xの車両経費請求書記載の走行距離に不審な点が判明し、Xは、事情聴取を受けた後、同事情聴取の際に虚偽説明をしたことを認める旨の始末書をY社に提出した。

さらに、Xは、事情聴取を受ける中で、通勤交通費の過剰請求、調査料の不正取得、虚偽の明細書や整備請求明細書の作成等を認めた。

Y社は、Xを懲戒解雇することに決め、Xに弁明を求めたが、弁明がなかったため、即日懲戒解雇した。

Xは、Y社主張の解雇事由の存在を否定するとともに、懲戒解雇の相当性を争い、訴訟を提起した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

【判例のポイント】

1 アジャスターの行う調査の結果はA社の支払う保険金の認定の際の資料等に使用され、これに誤りがあればY社の信用喪失のみならず、発注元のA社の信用喪失、保険金過払い等の不利益につながることから、各アジャスターが作成する調査報告書の適正と正確性はY社存立の根幹に関わるものである

2 Xの解雇事由のうち、走行距離の虚偽説明や通勤交通費の不正請求のみであれば懲戒解雇を相当と認めるに逡巡されるが、その主眼は、面談調査した旨記載した虚偽の調査報告書の作成および調査料不正取得の点にあり、Y社の信用を毀損し背信性が強いものである。

なお、Xは、解雇事由が存在するとしても、本件解雇は、
(1)処分が重すぎるということ(相当性の原則に反する)

(2)始末書提出はけん責処分であり、本件懲戒解雇は二重処分となる(一事不再理の原則

(3)過去の同種事案のすべてが懲戒解雇になっているわけではなく、処分の均衡を欠く(平等取扱いの原則に反する)

(4)事情聴取は一方的で、弁明の機会が与えられていない(適正手続に反する)

と主張しました。

これらは、懲戒処分の有効要件ですので、Xは、基本に忠実な主張をしたわけです。

参考までに、(2)一事不再理の原則についての裁判所の判断を見てみましょう(一部修正)。

「Xは、・・・本件始末書を提出したことで処分済みであると主張するところ、就業規則四五条には、懲戒として、譴責等の場合には始末書を提出させることとなっているから、原告がこれを懲戒と受け止めたということも全く考えられないことではない。
 しかしながら、Y社としては、これを懲戒処分として行ったものではないというのであり、原告の陳述書等にも、譴責処分として始末書の提出を求められた等の事情は全く記載されておらず、本件始末書提出を真にXが懲戒処分として受け止めていたかははなはだ疑問というべきであるし、本件始末書には岡山に行ったと虚偽説明したことのみについての謝罪等しか記載されておらず、仮にこれが譴責処分に当たるとしても、解雇事由の全貌(特に調査料の不正取得や内容虚偽の整備明細請求書を作成させたこと)が明らかになったのは、前記認定のとおり、その後のことであるから、本件解雇については、その一部に重複があるというに過ぎないことになるだけであって、そのために本件解雇が無効になるとは解されない。

このような主張をされることが予想されますので、会社としては、「始末書」ではなく、事実だけを記載した「報告書」を提出させるにとどめたほうがよいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇8(アサヒコーポレーション事件)

おはようございます。

さて、今日は、横領・不正領得行為を理由として解雇した事件について見てみましょう。

アサヒコーポレーション事件(大阪地裁平成11年3月31日・労判767号60頁)

【事案の概要】

X1は、Y社の洋酒部長であり、輸入洋酒の販売および保税事務を担当していた。

X2は、X1の部下である。

Y社に税関の立入検査があり、未通関商品の数量不足が判明した。

Y社は、X1らが横領したとして懲戒解雇した。

また、Y社がX1らを業務上横領容疑で告訴したため、X1は逮捕・勾留され(不起訴)、X2も取調べを受けた。

X1らは、懲戒解雇の無効確認を請求するとともに、無効な懲戒解雇およびY社がその事実を得意先等に書面で通知したこと、虚偽の告訴に関して、慰謝料を請求する訴訟を起こした。

Y社は、Xらの横領について損害賠償を請求する反訴を起こした。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

X1について慰謝料150万円、X2について慰謝料100万円が相当である。

Y社の反訴請求棄却。

【判例のポイント】

1 横領について、実際に在庫不足が存在したかどうか疑わしく、仮に在庫不足が存在したとしても、これがX1らの横領によるものであると認めるに足りる証拠はない。

2 懲戒解雇については、横領の事実が認められず、理由がない。

3 X1らの慰謝料請求については、懲戒解雇の判断が綿密な調査に基づいて行われたものでないことは明らかであり、懲戒解雇が重大な処分であることに鑑みると、軽率になされた懲戒解雇は不法行為を構成する。

4 Y社が懲戒解雇した事実を得意先等に書面で通知したことは、懲戒解雇が無効である以上、X1らの名誉を毀損する不法行為に該当する。

5 Y社がX1らを告訴したことは、合理的理由がないのに単なる憶測に基づいて告訴に及び、その後、当該犯罪事実が存在しないことが判明した場合には、当該告訴は不法行為を構成する。

社員の中に、横領等の疑わしい行為をしている者がいる場合、綿密な調査もなく、証拠が認められない場合に、懲戒解雇をすると、解雇は当然無効となり、さらに不法行為にも該当する可能性があります。

不正行為等により社員を処分する場合には、事実の確認、証拠の収集をしっかりと行いましょう。

軽率に懲戒処分をすると、社員から損害賠償請求をされますので、ご注意を。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇7(試用期間中の解雇その4)

おはようございます。

さて、今日は、試用期間中の解雇に関する裁判例です。

アクサ生命保険事件(東京地裁平成21年8月31日判決・労判995号80頁)

【事案の概要】

Y社は、外資系生命保険会社である。

Xは、Y社に中途採用され、期間の定めのない雇用契約を締結した(6ヵ月間の試用期間あり)

Xは、就労を開始したが、試用期間中に、経歴詐称の事実が発覚し、Y社から解雇(本採用拒否)の意思表示を受けた。

解雇理由書には、(1)Xが採用の前年にZ社で就業していた事実とZ社と係争中である事実をY社に事前に伝えていないこと、(2)それは重大な経歴であり、Y社の採用選考結果に多大な影響を与えるものであること、が記載されていた。

Xは、Z社での就労は3週間にすぎない、経歴を偽る意図はなく解雇権の濫用であるなどと主張して、提訴した。

【裁判所の判断】

解雇権の濫用に当たらず、本件解雇は有効。

【判例のポイント】

1 経歴の虚偽があれば、これを信用した採用者との信頼関係が損なわれ、採用した実質的理由が失われてしまうことも少なくないから、意図的に履歴書等に虚偽の記載をすることは、当該記載の内容如何では、従業員としての適格性を損なう事情であり得る

2 XがZ社での就労状況や係争を明らかにしなかったことは、Y社がXの採否を検討する重要な事実への手掛かりを意図的に隠したもので、「経歴詐称」と評価するのが相当である

Xは、「Y社がXに注意、指導をしたことはなく、解雇を回避するための努力もしなかった」と主張しています。

Xのこの主張に対し、裁判所は、以下のとおり述べています。

履歴書等の虚偽記載によって生じる状態(信頼関係の破綻)は、単に業務能力の育成の問題ではないし、試用期間中であれば、むしろ解雇を回避する要請は本採用以後のときよりも緩やかであると解すべきであるから、Xの指摘する事情があるとしても、そのことで本件解雇が客観的に合理的な理由を書いているとはいえない」

経歴の虚偽記載があれば、すべて解雇事由となる、というわけではありません。

「記載内容の如何」によっては、です。

本件の経歴詐称は、わずか3週間という短時間の就労の隠匿でしたが、その会社と係争中であったことも隠していた点が大きかったですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇6(試用期間中の解雇その3)

おはようございます。

試用期間中の解雇に関する判例をもう1つ紹介します。

オープンタイドジャパン事件(東京地裁平成14年8月9日判決・労判836号94頁)

【事案の概要】

Xは、人材紹介会社からY会社を紹介され、事業開発部長として年俸1300万円で採用された。

Y社には、3か月間の試用期間がある。

Xは、Y社から、Y社の業務運営方針に適合しないとし、雇用から2か月弱経過時に、本採用拒否の通知を受けた。

Xは、Y社に対し、解雇無効を理由とする地位確認及び賃金請求をした。

【裁判所の判断】

解雇無効。

【判例のポイント】

1 Y社の主張するXの業務遂行の状況は不良、または不適切であったとは認められない。

2 Xの事業開発部長としての能力がY社の期待どおりではなかったとしても、2か月弱でそのような職責を果たすことは困難というべきであり、Xの雇用を継続した場合に、Xがそのような職責を果たさなかったであろうと認めることはできない。

本件では、Y社が、具体的な本採用拒否理由を複数あげており、裁判所は、それらについて1つ1つ検討をしています。

結論としては、いずれも本採用拒否の理由としては不十分であると判断しました。

会社としては、有能な社員をとりたいのは当然のことです。

試用期間中に、社員の能力等を見極めたいと考えるのもよくわかります。

ただ、短い試用期間の中で、会社が要求する水準をクリアできるか否かで本採用の有無を判断する場合には、注意が必要です。

このような場合、裁判所が、【判例のポイント】の2のような判断をすることがあります。

要求する水準と見極める期間のバランスがポイントになってきますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。