Category Archives: 解雇

解雇25(西濃シェンカー事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、休職期間満了後の措置に関する裁判例を見てみましょう。

西濃シェンカー事件(東京地裁平成22年3月18日・労判1011号73頁)

【事案の概要】

Y社は、航空運輸取扱業、海上運送取扱業等を営む会社である。

Xは、Y社との間で、担当すべき職種や業務を限定せず、期間の定めのない労働契約を締結した者である。

Xは、平成17年3月、自宅において、脳出血を発症し、その後遺症により右片麻痺となった。

Xは、Y社から、平成18年3月から1年間の休職を命じられた。そして、その後、休職期間に係る就業規則の規定の変更に伴い、Xに適用される休職期間が1年から1年6か月伸ばされた。

Xは、平成19年10月から、概ね週に3日の頻度でY社本社に出社し、1日に約2時間30分程度、人事部において作業に従事した。なお、Y社からXに対し、上記作業に従事したことに対する対価は支払われていない。

Y社は、Xに対し、平成20年10月、就業規則の規定に基づいて、休職の延長期間の満了日をもって退職となる旨を通知し、本件退職の取扱い後、その就労を拒否している。

これに対し、Xは、休職期間満了の前の平成19年10月に既に復職していた、本件退職扱いが労働契約上の信義則に違反するから無効であると主張して、労働契約上の地位確認と退職扱い後の賃金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

本件退職取扱いは、有効。

【判例のポイント】

1 本件作業従事は、Xのリハビリのための事実上の作業従事という域を出ないものであり、平成19年9月の休職期間満了時点で復職という取扱いがなされたとはいえない

2 Y社の本件休職期間満了後の取扱いは、休職期間を平成20年10月31日まで延長したものと捉えざるを得ないが、これは就業規則所定の解雇事由の適用を排除するという趣旨において、一種の解雇猶予措置と位置づけられるものであって、Y社が上記休職期間延長措置をとったこと自体を論難することはできず、また、本件退職取扱いの時点において、Xの片麻痺が従前の通常業務を遂行できる程度に回復していないことは明らかであり、Xから配置の現実的可能性がある具体的業務の指摘があったとも認められない等として、本件退職取扱いが労働契約上の信義則に反し、無効であるとはいえない。

3 仮に、Y社において、雇用労働者の数的状況が障害者雇用促進法43条の規定に反する状況にあったとしても、Y社が本件退職取扱いの時点で、Xに対し契約社員としての再雇用の道を開いていることからすれば、上記判断が左右されるものではない

4 XとY社との間の労働契約は、Xが就業規則が規定する「治癒」または「復職後ほどなく治癒することが見込まれる」場合に至らず、Y社がこれを認めることもなかったから、休職期間満了により終了している。

本件は、会社が、従業員にリハビリ出社をさせた上で、復職の可否を検討したものです。

リハビリ出社という方法自体を知っていても、具体的にどのように実施すればよいのかよくわからないという会社もあると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇24(福島県福祉事業協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、変更解約告知が問題となった裁判例について見てみましょう。

福島県福祉事業協会事件(福島地裁平成22年6月29日・労判1013号54頁)

【事案の概要】

Y社は、知的障害者施設等の事業所を経営する社会福祉法人である。

Xは、栄養士として、Y社が経営する授産園において、正規職員として労務の提供をしていた。

Y社は、Xを含む栄養士らに対し、Y社の給食部門の職員の雇用形態を「契約雇用職員」の形態に変更すること、そのため、同部門の職員には、一度退職してもらい再雇用する形となること、希望退職届を出さない場合には解雇扱いになることを告げた。

その後、Y社は、対象者に対して、上記方針を説明し、文書は配布する等した。

この間、Xは、自らの転職先の相談のために職業安定所を訪れ、その際に同所の職員に対し、Xが組合支部を結成し労働争議中であるとの話をしたが、その後職業安定所では、Y社において労働争議がなされていることを理由として、職安法20条1項に基づき、求職者に対しY社を紹介することをしなかった。

結局、Xは、Y社の説明や扱いに納得できず、退職届や意思確認書を提出しなかった。

Y社は、Xを求人妨害や組合の活動を理由にして、Y社の就業規則に基づく諭旨解雇にした。

Xは、本件解雇が無効であるとして、地位の確認、賃金支払いを求めるとともに、慰謝料を請求した。

【裁判所の判断】

解雇は無効

慰謝料として30万円を支払うよう命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、Xを諭旨解雇するに当たり、30日以上前にその予告をせず、解雇時に、30日分の平均賃金を支給していないばかりか、諭旨解雇による制裁を審査、確認するために、諭旨解雇の前に開催することとされている特別委員会も設置しておらず、Y社の就業規則上、必要な手続を何ら遵守していない。
このように、本件解雇は、就業規則上の諭旨解雇事由もなく、また、就業規則上必要な最も基本的と考えられる手続にも違反してされたものであるから、無効である

2 本件解雇の意思表示は、「就業規則に基づき諭旨解雇を命ずる」と明記されており、それ以外の解雇事由は全く表記されていないうえ、本件解雇がされるまでに、Y社は、給食部門の職員全体に対する説明や文書配布をしているほかは、個別に解雇の意思表示をしておらず、一方、解雇の方針を示した後も整理解雇の当否をめぐってXも3回にわたり団体交渉をしていたことなどに照らすと、本件解雇は、諭旨解雇を理由としてなされたことが明らかであり、本件解雇に変更解約告知の効力があるものとして、整理解雇の要件を踏まえて、その有効性を主張するY社の主張は、その前提を欠き失当である

3 仮に、本件解雇が変更解約告知の意思表示を含むものということができるとしても、その有効性は否定される。すなわち、職員の雇用形態を変更する主な理由は、自立支援法の施行により、利用者の負担が増えるため、給食にかかる人件費を抑えることで、その軽減を図るというものであったが、Y社には、将来の経営に備えて、経費の削減等をする必要性があったこと自体は否定し得ないものの、本件解雇の際、職員の雇用形態の変更や、これに応じない場合に解雇をしなければならないほどの経営上の必要性があったと認めることはできないし、その対象として、Y社の給食部門の職員を選定することの合理性もない
したがって、本件解雇には、整理解雇としての合理性を基礎づけるような事情はうかがわれないから、仮に、本件解雇が、整理解雇類似のものと考えられるとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、解雇権を濫用したものとして無効である。

4 以上のとおり、本件解雇は、無効であるところ、Y社は、X代理人から、XをはじめとするY社の給食部門の職員について、雇用形態を変更したり、これに応じない職員を解雇することに合理的な理由がない旨の書面の送付を受けていたことに加え、諭旨解雇については、前述のとおり、理由がないことが明らかであることからすると、Y社は、本件解雇に、理由がないことを認識し、又は容易に認識し得たというべきである
そうすると、本件解雇は、Xに対する不法行為に当たるというべきところ、Xは、本件解雇によって、相当の精神的苦痛を受けたものと認められる。そして、本件解雇が全く理由のない諭旨解雇であること、XとY社との間の団体交渉、仮処分決定、労働委員会の救済命令手続の経過に鑑みて、Y社は、本件解雇をしない又はこれを回避する等、違法行為を是正する機会を有していたにもかかわらず、Xの要求を拒否し続け、紛争解決を不当に長期化させ、これを困難にしたものと評価せざるを得ないことをも併せて考慮すれば、Xの精神的苦痛は、単に賃金の支払を受けることによって慰謝されるものではないと考えられる。
したがって、Xに対する慰謝料は、本件に顕れた一切の事情を考慮し、30万円と認めるのが相当である。

変更解約告知の採用について、裁判所は明らかに否定的です。

変更解約告知の法理とは、会社の経営上必要な労働条件変更(切下げ)による新たな雇用契約の締結に応じない従業員の解雇を認めるものです。

これが簡単に有効とされれば、会社側としたら、とっても都合の良い法理になります。

よほどのことがない限り、変更解約告知は有効と判断されませんので、会社としては、手を出さないほうがいいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇23(ビーアンドブィ事件)

おはようございます。

さて、今日は、不正経理等による懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ビーアンドブィ事件(東京地裁平成22年7月23日・労判1013号25頁)

【事案の概要】

Y社は、サービス業を目的とする会社で、事業内容として、カラオケボックス「カラオケ館」等を経営している。

Xは、Y社に正社員として期間の定めなく雇用され、Y社総務人事部部長の立場にあった。

Y社では、毎年、新年店長会を実施していたところ、平成22年の店長会は、Xが実施担当者とされ、準備を担当した。

Y社は、Xが、その過程で下見費用、参加者への寄贈品代金等の付替え、旅行代理店に対する付替え請求指示等を行った事実を把握した。

Y社は、精査・調査のためとして、Xに自宅待機を命じたうえで、退職勧奨を行ったが、Xが応じなかったため、懲戒解雇を通告した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

1年間の賃金仮払いを認めたが、雇用契約上の地位の保全は却下した

【判例のポイント】

1 労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合には、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効であると規定している。
同条は、これまでの学説と裁判例によって形成され、近時の最高裁判例によって要約された懲戒権濫用法理が法文化されたものであって、その内容は、(1)懲戒処分の根拠規定が存在していること、(2)懲戒事由への該当性、(3)相当性の3つの要件から構成されているものと解される(菅野和夫「労働法第9版」431頁以下)。
なお、「労働者の行為の性質及び態様」とは、当該労働者の態様・動機、業務に及ぼした影響、損害の程度のほか、労働者の情状・処分歴などを意味する(土田道夫「労働契約法」448頁)。

2 女性同伴で観光旅行を行い、その費用を会社の負担に付け回したことは、業務上の権限を逸脱する行為で就業規則に違反するが、同伴した女性は妻であったと認められること、オープンな形で事が運ばれていて画策といえるほどの策動性があるか疑問があること、下見費用2万3100円はY社の経営規模からみて僅少であり後にXが全額支払っていること、結果的に本件店長会を滞りなく実施させたことなどを考慮すると、懲戒解雇事由である「その事案が重篤なとき」に該当しない。

3 懲戒処分の効力を判断するに当たっては、当該処分の理由を個別に検討するだけでなく、全体的な見地からもこれを行うべきものと解されるが、処分事由を全体的にみても懲戒解雇事由に当たらない。

4 本件懲戒解雇は、Xに対して全く最終的な弁明の機会等を付与することなく断行されており、拙速であるとの非難を免れず、この点において手続的な相当性に欠けており社会通念上相当であるということはできない

5 仮の地位を定める仮処分は、Xに生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができるのであるから、賃金仮払いの仮処分についても、X及びその家族が困窮し、回復し難い損害を受けるおそれがあるか否かという観点から、他からの固定収入の有無、資産の有無、同居家族の収入の有無等を考慮の対象としつつ、仮払いを認めることによって使用者が被る経済的不利益を比較考慮して、その保全の必要性を判断すべきである

6 なお雇用契約の中核をなす権利は賃金請求権であって、その一部について仮払いが認められた以上、これに加えて雇用契約上の地位の保全を認める必要性はないものというべきである

本件のような経費、業務費等の不正経理は業務上横領に該当しうることから、特に非違性が高い行為です。

そのため、懲戒解雇を含む懲戒処分を相当とする裁判例は非常に多いです。

本件では、就業規則の懲戒解雇事由の1つである「その事案が重篤なとき」の文言解釈により、解雇事由は存在しないと判断されました。

就業規則には違反するが、懲戒解雇事由とまではいえない、ということです。

このあたりは、会社が判断するのは、極めて困難です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇22(N事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

N事件(東京地裁平成22年3月15日・労判1009号78頁)

【事案の概要】

Y社は、カーテンその他の室内装飾品の輸入販売等を業とする会社であり、大阪、名古屋、福岡および札幌に支店または営業所を有している。

Xは、Y社の正社員として、百貨店内において、Y社が輸入する室内装飾品の販売業務に従事していた。

Y社は、Xが勤務している百貨店の販売業務を代理店に委託することに伴い、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は、解雇権を濫用するものであり、また、男女雇用機会均等法6条4号の規定に違反するから無効であると主張するとともに、本件解雇を通知する際のY社従業員の言動が不法行為にあたると主張し、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効。

不法行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 いわゆる整理解雇は、雇用調整及び人員削減の方法の中でいわば最終的な手段ともいうべきものであり、また、労働者に帰責事由がないにもかかわらず、使用者の都合による一方的な意思表示により雇用関係を終了させるものであって、賃金を生活の基盤とする当該労働者に著しい影響を及ぼし得るものである。したがって、整理解雇は、当該企業を経営する立場からする合理的な判断のみから直ちにし得るものではなく、手続的な観点をひとまず措くとしても、人員削減の必要性に加え、(1)人員削減の手段として解雇を選択することの必要性及び合理性があるか否か、(2)被解雇者の選定が客観的に合理的な基準に従って公正にされているか否かという観点から、やむを得ないものと認められることが必要であり、このように認めることができない場合には、当該解雇は客観的に合理的な理由を欠き、また、社会通念上も相当であると認められないものというべきである。

2 本件雇用契約においては、Xの就業場所が特定されておらず、Y社において、本件撤退に当たり他の販売担当者に対する退職勧奨や雇止めを含め、Xの配転先を探すべく真摯に努力することは解雇回避努力として必須のものと評価しうるところ、Y社はそのような努力をしていないから、人員削減の手段として解雇を選択することの必要性と合理性があるとはいえない

3 また、Xが解雇の対象となったのは撤退することになった店舗の販売担当者であったということに尽きるのであって、被解雇者の選定が客観的に合理的な基準に従って公正にされているともいえない

4 Xは、Y社部長らが、差別的で理不尽な本件解雇を通知した際、Xに対し、その勤務態度が不良であるというXの名誉を著しく損なうような虚偽の事実をもって本件解雇を正当化する本件書面を突きつけ、それに沿った説明をしたと主張する。
しかしながら、・・・このような事情に照らすと、本件書面に記載された自らの勤務態度に係る事実関係を強く否定するXの供述があることのみをもって、就業先から原告の勤務態度に関する報告があった等とする本件書面に記載された内容が全くの虚偽であり、これをY社があえて記載したとまで認めることはできない。

5 Xは、本件解雇が男女雇用機会均等法6条4号の規定に違反すると主張するが、平成20年3月から平成21年8月までの間に現に解雇されたY社の従業員はXのみであり、また、Y社において退職勧奨の対象者を女性に限っていたと認めることもできない。したがって、本件解雇が同号の規定に違反するということはできず、整理解雇である本件解雇が無効であるからといって、直ちに本件解雇をしたこと自体が不法行為に当たるとまでいうこともできない。

オーソドックスな整理解雇の事案です。

解雇回避努力が甘いと、簡単に無効と評価されてしまいます。

会社が整理解雇を選択する場合、よほどしっかり準備をしなければ、有効にならないことは、多くの裁判例から明らかです。

この裁判例でも言われているとおり、整理解雇は、リストラの「最終的な手段」です。

リストラ=整理解雇では、まず有効とは判断されませんのでご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇21(フィリップ・モリス・ジャパン事件)

おはようございます。

さて、今日は、コンプライアンス規定に違反した等の理由でなされた諭旨退職処分に関する裁判例を見てみましょう。

フィリップ・モリス・ジャパン事件(東京地裁平成22年2月26日・判時2077号158頁)

【事案の概要】

Y社は、たばこの販売促進業務等を目的とする会社である。

Xは、Y社の正社員であり、退職するまで、たばこのルート営業等に従事していた。

Xは、当時、Y社の首都圏リージョン内ユニットマネージャーの地位にあり、同ユニットに在籍する7人のテリトリーセールスマネージャーの管理監督をしていた。

Xは、Y社の職務倫理規定に違反した。また、Xの部下に対し、上司らが暴力行為をしたなどという虚偽の報告をするよう働きかけたりした。

Y社は、Xに対し、自宅待機命令と他の社員との連絡を禁じる旨の命令をはしたが、Xは、自宅待機中、部下らに電話をかけた。

事態を重く見たY社は、コンプライアンス委員会において審議し、(1)Xがコンプライアンス調査について守秘義務を課されたにもかかわらず、周囲にその内容を漏らしたこと、(2)Xが部下に対し上司について虚偽の報告をするよう求めたこと、(3)Xが他の社員との連絡を禁じる旨の命令に違反して、部下に電話をかけたこと、(4)Xが部下に対しパックレールの使用を指示した事実が発覚したことに基づき、Xを諭旨退職とするという意思決定をした。

Xは、Y社に対し、退職願を提出して退職の意思表示をしたことについて、この意思表示は、諭旨退職事由がないのにY社の人事部長の強迫により強制されたものであるからこれを取り消すなどと主張して、仮の地位確認と賃金仮払いを求めた。

【裁判所の判断】

諭旨退職処分は有効

【判例のポイント】

1 Xは、・・・会社諸規程・方針に違反したものということができる。特に、Xは、Y社が奨励する「スピークアップ」を悪用して、Y社のコンプライアンス調査を誤らせようとしたものと考えられるのであり、その違反の程度は重大というべきである。

2 コンプライアンスやインテグリティ(高潔さ、廉直さ)を重視するY社において、ユニットマネージャーであるXが、部下に対しパックレールの使用を指示しておきながら関与を認めず、さらにこれを交通事故のようなものというのは、Y社の方針等に合わない無責任な態度といわざるを得ない。

この裁判例で、注目すべきなのは、上記判例のポイント2です。

裁判所が、Y社は「コンプライアンスやインテグリティ(高潔さ、廉直さ)を重視する会社」であることを認めています

訴訟になったときに、裁判所から、このような評価をしてもらうことは会社にとっては非常にありがたいことです。

判決理由を読むと、フィリップ・モリス・ジャパンのコンプライアンスに対する姿勢がわかります。

会社としては、日頃、どのような対策をとれば、裁判所からこのような評価をしてもらえるのか、じっくり検討するべきだと思います

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇20(ビー・エム・シー・ソフトウェア事件)

おはようございます。

さて、今日は整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ビー・エム・シー・ソフトウェア事件
(大阪地裁平成22年6月25日・労判1011号84頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータソフトウェアの開発、販売および保守業務等を業とする会社である。

アメリカ合衆国のA社は、Y社の100%の株主である。

Xは、Y社の従業員であり、Y社の関西営業所において、営業事務職員として勤務していた。

Y社は、Xに対し、「先般来の日本における業務縮小により、事業の運営上やむを得ない事情により従業員の減員が必要となったためという理由等を記載した解雇予告通知書を送付し、Xについて、解雇する旨の意思表示をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 いわゆる整理解雇の有効性については、人員削減の必要性が認められることを前提として、解雇回避のためにいかなる措置が講じられたか、対象者の人選に合理性があるか否か、当該労働者との協議あるいは当該労働者に対する説明の程度といった諸事情を総合的に勘案して判断するのが相当であると解される

2 まず、Y社に人員削減の必要性があったか否かという点についてみる。たとえ外資系グループ企業において就労しているとはいえ、わが国で就労している労働者は、原則として、わが国の労働市場において労働の機会を確保し、生活を維持していく必要があることにかんがみれば、わが国における外資系グループ企業が、親会社の意向を受けて整理解雇を行う場合であったとしても、わが国における企業の収益の状況等を問わず。本社からの人員削減の指示・意向のみをもって、人員削減の必要性があったと認めるのは相当とはいえない。したがって、たとえ外資系グループ企業であったとしても、人員削減の必要性があるか否かという点については、親会社の意向もさることながら、我が国と親会社との関係、親会社の収益状況、我が国企業の業務内容及び収益状況、今後の見通し等初犯の事情を勘案して判断するのが相当である

3 本件解雇時点において、(1)Y社には2億7800万円の利益が発生していること、(2)米国本社に関しても、特段利益が減少するなどの状況にあるとはいえないこと、(3)Xが就労していた関西営業所については、本件解雇が決定した後に事務所規模を縮小していること、(4)東京本社の営業部において新規募集をしていること、以上の点が認められ、このうち、特に、本件解雇時点におけるY社の利益額の点及び米国本社の経営状況にかんがみると、人員削減の必要性の有無が経営上の判断を伴うものであることを考慮してもなお、果たしてY社において人員削減の必要性があったといえるのか疑問があるといわざるを得ない。

4 次にY社の解雇回避努力の点についてみる。Xに対しては、雇用継続に向けたその他の措置についての提案はなされていないこと、Y社は本件解雇に先立って、希望退職者を募集していないこと、Xが勤務していた関西営業所の事業縮小(事務所移転)は、本件解雇後に行われたこと、賃金の減額等の人員削減以外の解雇回避措置がなされたことを認めるに足りる的確な証拠はないことの諸事情を勘案すると、本件解雇にあたって、Y社は解雇回避努力に努めたとは認め難い

外資系だろうと、特別扱いはしませんよ、という裁判例です。

判断内容は、オーソドックスそのものです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇19(ウップスほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、子会社解散と同族企業グループ内での雇用責任に関する裁判例を見てみましょう。

ウップスほか事件(札幌地裁平成22年6月3日・労判1012号43頁)

【事案の概要】

Y社は、生コンクリートの製造販売事業、コンクリート製品の製造販売事業等を主な目的とする会社であり、同族会社である。

Y社は、いわゆるアイザワグループの中核的な企業である。

Z社は、貨物自動車運送事業等を主な目的とする会社であり、アイザワグループのグループ企業となった後は、同グループの運送部門として運営されてきた。

A社は、生コンクリート及びコンクリート製品の製造、販売とその輸送業務等を主な目的とする会社であり、アイザワグループのグループ会社である。

Xは、Z社に雇用され、コンクリートミキサー車のミキシングオペレーター(MO)としての業務に従事してきた。

Z社に雇用されている従業員のうち、Xを含む33名のMOは、全員がA社に出向する形で労務を提供していた。

Z社は、Xを、ミーティングでの不規則発言や人事担当者に対する威圧的言動等を理由に懲戒解雇した(第1次解雇)。

Z社は、Xを相手方として、労働審判を申し立て、その中で、Xを普通解雇にする旨の意思表示をした(第2次解雇)。

その後、Z社は、Xに対し、Z社の解散を理由として解雇した(第3次解雇)。

A社においてMO業務を行っていた従業員については、Xを除いた大部分の従業員が、A社のセンター長が設立したB会社に雇用され、A社におけるMO業務に従事するようになった。

Xは、第1次解雇ないし第3次解雇はいずれも無効であるとして、地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

いずれの解雇も無効。

【判例のポイント】

1 Xは、労働契約締結にあたり、Z社の人間とは一切接触がなかったこと、労働条件もA社により決定され、A社の指揮命令・監督の下で労務が提供されていたこと、人件費は実質的にA社が負担していたこと、解雇が実質的にはZ社ないしY社の判断で行われていたことからすると、解雇通知と解雇理由証明書がZ社名義で発行されたほかは、Z社の実質的な関与をうかがわせるような事情が見当たらず、A社を雇用主とし、Xをその労働者とする事実上の使用従属関係が存在していたことは明らかというべきである

2 Z社からの出向は形式的なもので、Z社はXらMOとの関係では、給与の支払いと明細書の発行等を行う代行機関にすぎなかったのであり、出向関係が実質的に存在しているとはいえないから、客観的な事実関係から推認し得るXとA社の実質的な合理的意思解釈としては、XとA社との間の黙示の労働契約の成立が認められるというべきであり、Xは、A社のMOとして採用され、A社との間で労働契約を締結したものと認めるのが相当である。

3 仮処分事件や別訴において、XがZ社を雇用主とする前提で解雇無効を主張していたとしても、形式的な雇用主に対応したものであって、Z社との労働契約関係とA社とのそれが両立しえないものではない。

4 Xの言動はただちに懲戒事由に当たるとは言いがたく、これをもって懲戒解雇とすることもできないから、第1次解雇、第2次解雇は無効である。

5 第3次解雇は、A社との実質的な労働契約関係の下での形式的な雇用主にすぎないZ社の解散が、XとA社との間の実質的な労働契約関係を解消する理由とはならないというべきであり、A社において、Xを解雇しなければならない具体的な経営上の必要性については、これを認めるに足りる具体的な主張立証はない。
したがって、第3次解雇は、XとA社との間の労働契約関係に影響を及ぼすものとはいえないというべきである。

ざっくり言うと、「形式」よりも「実質」を重視したということです。

経営主体の移転後に、新たな経営主体との労働契約関係の存続ないし承継が争われるケースにおいて、移転前と移転後の経営主体の実質的同一性を認めた裁判例はあまりありません。

本件では、当初から「実質的な労働契約関係」がA社にあるとして、労働契約の承継の問題とせず、A社の雇用責任を認めています。

これは、Z社、A社を含む関係企業すべてがY社を中心としたグループ企業であり、各社の経営管理、人事管理をY社に管理されているなど、Z社が事実上企業の一部門にすぎない状態であったという事情が重視されたものであると考えられます。

非常にめずらしいケースですが、いつかどこかで参考になるでしょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇18(静岡第一テレビ事件)

おはようございます。

さて、今日は、有効でない懲戒解雇の不法行為該当性について判断した裁判例を見てみましょう。

静岡第一テレビ事件(静岡地裁平成17年1月18日・労判893号135頁)

【事案の概要】

Y社は、放送法によるテレビジョンその他の一般放送事業等を営む株式会社である。

Xは、Y社に雇用され、その後、本社営業部長や編成部ライブラリー室担当部長の職にあった者である。

Xは、Y社から解雇されたものの、その後、当該解雇は相当性を欠くとして無効とする判決の確定により、Y社に復職した。

Xは、Y社に対し、本件解雇は、その理由とされた就業規則違反の事実が認められず、さらに、平等性、相当性及び適正手続を欠いている違法な処分であり、不法行為を構成すると主張した。

【裁判所の判断】

当該解雇は不法行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 懲戒解雇(諭旨解雇を含む)は、・・・それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

2 しかしながら、権利濫用の法理は、その行為の権利行使としての正当性を失わせる法理であり、そのことから直ちに不法行為の要件としての過失や違法性を導き出す根拠となるものではないから、懲戒解雇が権利の濫用として私法的効力を否定される場合であっても、そのことで直ちにその懲戒解雇によって違法に他人の権利を侵害したと評価することはできず、懲戒解雇が不法行為に該当するか否かについては、個々の事例ごとに不法行為の要件を充足するか否かを個別具体的に検討の上判断すべきものである

3 そして、従業員に対する懲戒は、当該従業員を雇用している使用者が、行為の非違性の程度、企業に与えた損害の有無、程度等を総合的に考慮して判断するものであって、どのような懲戒処分を行うのかは、自ずから制約はあるものの、当該事案に対する使用者の評価、判断と裁量に委ねられていること、他方、雇用契約は労働者の生活の基盤をなしており、使用者の懲戒権の行使として行われる重大な制裁罰としての懲戒解雇は、被用者である労働者の生活等に多大な影響を及ぼすことから、特に慎重にすべきことが雇用契約上予定されていると解されることを対比勘案するならば、懲戒解雇が不法行為に該当するというためには、使用者が行った懲戒解雇が不当、不合理であるというだけでは足らず、懲戒解雇すべき非違行為が存在しないことを知りながら、あえて懲戒解雇をしたような場合、通常期待される方法で調査すれば懲戒解雇すべき事由のないことが容易に判明したのに、杜撰な調査、弁明の不聴取等によって非違事実(懲戒解雇事由が複数あるときは主要な非違事実)を誤認し、その誤認に基づいて懲戒解雇をしたような場合、あるいは上記のような使用者の裁量を考慮してもなお、懲戒処分の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合に該当する必要があり、そのような事実関係が認められて初めて、その懲戒解雇の効力が否定されるだけでなく、不法行為に該当する行為として損害賠償責任が生じ得ることになるというべきである

4 本件解雇は、Xに軽微とはいえない就業規則違反の事実があったこと、Xおよび関係者に対する事情聴取等を経たうえで行われた等に照らせば、Y社の解雇の相当性判断に明白かつ重大な過失があったとはいえない。

「解雇権の濫用にあたるか」という問題と「不法行為に該当するか」という問題は別の問題ですので、当然、要件は異なります。

この裁判例は、具体的に有効でない解雇が不法行為に該当する場合の要件について判断しています。

「懲戒解雇の相当性の判断において、明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合」といっています。

また、その具体例もあげています。

会社としては、非常に参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇17(宮崎信金事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇無効判決確定後に注意すべき事項について参考になる裁判例を見てみましょう。

宮崎信金事件(宮崎地裁平成21年9月28日・判タ1320号96頁)

【事案の概要】

Xは、Y会社と雇用契約を締結し、Y社において勤務していた。

Y社は、宮崎新聞社代表取締役からY社の内部資料が外部に流出していることを告げられたのを契機に、流出文書調査委員会を発足させてXらの調査を行った。

Y社は委員会から調査結果および意見を受け、本件文書の外部流出についてはXらの関与が明らかであるとして、Xを懲戒解雇した。

本件懲戒解雇に伴い、社会保険事務所に対してXが社会保険資格を喪失したことを届け出るとともに、厚生年金基金に対してもXが加入員資格を喪失したことを届け出た。

これに対し、Xが懲戒解雇の無効確認等を求めて提訴し、最高裁において解雇無効で確定した。

Xは、Y社に復職した。Y社は、Xの復職に伴い、社会保険事務所から社会保険の加入方法について復職時から2年分のみ遡って加入する方法と復職時から再加入する方法がある旨の説明を受け、Xに対し、同様の説明を行った。

しかし、その後、Y社は社会保険事務所から以前の説明には誤りがったとして、社会保険の加入方法については以前説明した2つの方法のほか、解雇時に遡って加入する方法があり、従業員に対する解雇の無効が確定した場合には、解雇時に遡って加入するのが原則となる旨の説明を受けた。ところが、Y社はこの説明をXにしなかった

Xは、復職時から厚生年金に加入する旨をY社に伝え、Y社もその手続をとった。このためY社は懲戒解雇時から復職時までに対応する社会保険の使用者負担分の負担を免れている。

Xは、Y社がXの年金資格を遡及回復させなかったこと等が債務不履行ないし不法行為を構成するとして、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xらは解雇時に遡って厚生年金の被保険者資格、厚生年金基金の加入員資格を回復していた場合の年金の受給見込額と、復職時に被保険者資格、加入員資格を再取得していた場合の受給見込額の差額から、Xが負担すべきであった保険料を控除した額等の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 厚生年金保険法は、同法所定の強制適用事業所及び厚生年金基金の設立事業所の労働者は厚生年金保険及び厚生年基金に加入するものとし(同法9条、122条)、また、被保険者資格等は、使用者との間の使用関係が消滅するなどの事情がない限り存続するものとした上で、使用者が虚偽の資格喪失届出をすること等に罰則を設けている(同法13条、14条、102条、123条、124条、187条)。そして、社会保険事務所においても、解雇の無効が確定した場合には、厚生年金保険について、原則として、被保険者の資格喪失の処理を取り消し、解雇時から継続して加入していたものとする扱いがとられている。このような被保険者資格等に関する規定及び運用に照らすと、労働者は、使用者との雇用関係が消滅するなどの特段の事情のない限り、被保険者資格が存続するものと考え、また、加入期間に対応する年金を受給し得ると期待するのが通常である。

2 以上のような厚生年金保険法の規定及び労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の老後の生活保障に重要な役割を担うことを併せ考慮すると、労働者に対する解雇の無効が確定した場合には、使用者は、労働者の年金資格の回復方法について労働者の選択に委ねる余地があるとしても、使用者は、雇用契約に付随する義務として、当該労働者に対し、労働者が資格の回復方法について合理的に選択できるよう、被保険者資格等の回復に必要な費用及び回復により得られる年金額等、各加入方法の利害得失について具体的に説明する義務を負うものと解するのが相当である

3 Y社は、Xに対し、被保険者資格については解雇時に遡って加入する方法をのぞく2つの方法及び2年分遡及加入した場合に必要となる費用のみを説明し、加入者資格については復職時からの再加入する方法のみを説明するにとどまっているのであるから、Y社には、上記説明を怠った過失があるといわざるを得ない。

本件では、年金資格を遡及回復させなかったことの債務不履行ないし不法行為該当性が問題となりました。

裁判所は、解雇後の被保険者資格の回復について、使用者の「説明義務違反」を理由とする損害賠償請求が認容されました。

選択肢の説明義務があり、本件では、最も原則的な選択肢について説明がなされていなかったため、問題となりました。

会社としては、解雇無効確定後、従業員に対する説明内容については、顧問弁護士に確認した上で、ミスがないようにしたいところです。

解雇16(通販新聞社事件)

おはようございます。

さて、今日は、職場規律違反での解雇に関する裁判例を見てみましょう。

通販新聞社事件(東京地裁平成22年6月29日・労判1012号13頁)

【事案の概要】

Y社は、通信販売業界新聞「週刊通販新聞」等を発行している会社である。

Xは、Y社との間で雇用契約を締結して、平成18年から、通販新聞の編集長を務めていた。

Xは、A社との間で「図解入門業界研究 最新 通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」という書籍の執筆・出版について著作物印税契約を締結した。そして、Y社が作成して業界紙に掲載したグラフやランキング表を13項目にわたり本件書籍に使用した。

Xは、Y社代表者に原稿がほぼ完成したことを報告したところ、同人は特に何も言わなかった。また、同人に完成した本件書籍を渡した際も、同人は聞いた覚えがないと疑問を呈しながらも、「売れるかな」などと冗談を言って、とがめるような態度を示さなかった

しかし、翌日、Y社代表者は、前日とは打って変わって立腹した様子で「カラクリという表現が業界の印象を悪くする。著作権を侵害した」などと言い出して、本件書籍の回収を命じた。

そして、Y社代表者は、本件書籍の出版により、Y社の信用を損なったなどという理由で、Xに対し懲戒解雇を通告し、また、紙面にXが懲戒解雇された旨を社告として掲載し、同紙のウェブ版にも同様の記事を掲載した。

Xは、労働契約上の地位確認および賃金支払、不当な懲戒解雇ないし名誉棄損に基づく慰謝料、および謝罪広告の掲載を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

慰謝料として200万円の支払いを命じた。

Xの名誉回復措置として同紙1面に1回、同ウェブ版に1か月間の謝罪広告の掲載を命じた。

【判例のポイント】

1 Xが本件書籍を、通販業界の動向等を公平な立場から俯瞰的に執筆した本と説明していること、Y社代表者も、本件書籍の内容は問題がないと述べていること、Xは、「通販新聞執行役編集長」の肩書で本件書籍を執筆し、本件図表等の出典を明記していること、Xの印税収入は約20万円であり、約3か月をかけて仕事の報酬としてそれほど多額とはいえないことなどを考慮すると、Xは、本件書籍の執筆に際して、本来Y社に帰属すべき本件書籍の印税収入を私物化して経済的利益を図り、しかも、著作の名声を独占しようという身勝手な動機を有していたと認めることができない。また、前記のとおり、Xは、Y社代表者から、本件図表等の使用の許諾を得ていたと認めるのが相当であるから、Xが本件図表等を無断で使用したとは認められない
そうだとすると、Xが本件図表等を本件書籍に使用したことは、Y社の社会的信用や企業秩序を害するものではないというべきであるから、本件の懲戒事由には該当しない。

2 本件懲戒事由該当事実は存在しないのに、Y社はこれを断行したから、Y社には不法行為が成立する。

3 また、本件社告等の内容が、Xの社会的評価を低下させるものであること、本件社告等が通販業界をはじめとして、広く公表されたことは明らかであり、名誉棄損の不法行為も成立する。

裁判所は、名誉棄損の違法性の重大さに加え、本件懲戒事由該当事実が存在しないことから、本件懲戒解雇自体の違法性もかなり重大なものというべきであると判断し、慰謝料200万円、謝罪広告を認めています。

従業員が、謝罪広告の掲載を求めたいと思う場合、どのような請求をすればよいか等、参考になる裁判例です。

会社としては、懲戒解雇のハードルの高さを認識する必要があります。

その意味では、参考になる裁判例です。

この事件は、控訴されていますので、高裁の判断が待たれます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。