Category Archives: 解雇

解雇45(セイビ事件)

おはようございます。

さて、今日は、執行役員に対する懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

セイビ事件(東京地裁平成23年1月21日・労判1023号22頁)

【事案の概要】

Y社は、建築物等の管理保全および建設業の請負等を目的とする会社である。

Xは、昭和53年、Y社に従業員として雇用された後、平成18年6月、執行役員・マネジメントサービス部長としなった。

平成22年1月、Y社の発行済株式の5%以上を有する株主が、Y社取締役会に臨時株主総会の開催を要請し、これを受けて一部株主等から社長らに対する辞任要求がなされた。さらに4月、社長や専務等の現取締役4名の解任と新取締役5名の専任を議題とする臨時株主総会の招集を請求する書面が提出され、そこには、新取締役として、現常務のほかXらの名前があげられていた。

その後、臨時株主総会が開催され、決議を行なったが、いずれも反対多数により否決された。

社長は、臨時株主総会終了後、Xらを呼び出し、Xらに対し「会社を騒がせた責任」をとって、退職するか否かを回答してもらいたいと話した。

Xらがこの要求を拒否したため、Y社は、Xらに対し、執行役員等を退任し、部長とする旨の人事発令を行った。

平成22年5月、Y社懲戒委員会が開催され、Xらの懲戒処分が検討され、結果、X1らについて懲戒解雇相当との結論に至った。

Y社は、懲戒委員会の諮問結果を受け、Xらを懲戒解雇した。

Xらは、本件懲戒解雇は、違法・無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対する懲戒処分を検討するに当たっては、特段の事情がない限り、その前提となる事実関係を使用者として把握する必要があるというべきである。そして、本件就業規則71条が、「懲戒の審査及び決定の手続」を懲戒委員会にかけるべきこと、懲戒処分に当たって、本人に十分な弁明の機会を与え、懲戒の理由を明らかにすべきことを規定しているのも、Y社として、事実関係を把握して懲戒処分の要否・内容を適切に判断するためのものであると解される

2 特に、懲戒解雇は、懲戒処分の最も重いものであるから、使用者は、懲戒解雇をするに当たっては、特段の事情がない限り、従業員の行為及び関連する事情を具体的に把握すべきであり、当該行為が就業規則の定める懲戒解雇事由に該当するのか(懲戒解雇の合理性)、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして、懲戒解雇以外の懲戒処分を相当する事情がないか(懲戒解雇の相当性の観点)といった検討をすべきである

3 現経営陣に対する辞任要求等を契機としてなされた懲戒解雇処分につき、Y社の懲戒委員会はXらの行為を具体的に把握した上で当該行為の懲戒事由への該当性、懲戒処分の要否・内容を審議したわけではなく、就業規則所定の適正手続の趣旨に実質的に反し、懲戒解雇事由としての本件懲戒付議事項の存在ないし懲戒解雇事由該当性を認めるに足りる疎明もなく、社会通念上相当なものとは認められない

4 本件において、(賃金仮払いとは別に)Xらのついて、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるべき保全の必要性があることを疎明するに足りる主張も疎明資料もない

本件は、仮処分事案です。

懲戒解雇という最も重い処分であるにもかかわらず、手続が雑であったということで、無効と判断されています。

それにしても、保全の必要性を認めてもらうのは大変ですね。

上記判例のポイントでは触れませんでしたが、賃金仮払いについても、そんなに簡単には認めてもらえません。

預貯金が結構ある場合には、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法23条2項)という要件をみたさないのです。

解雇事案で、仮処分という方法を選択する際は、このあたりも考えなければいけません。

労働審判、いきなり訴訟という方法も視野にいれる必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇44(S石油(視力障害者解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、健康問題と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

S石油(視力障害者解雇)事件(札幌高裁平成18年5月11日・労判938号68頁)

【事案の概要】

Y社は、ガソリンスタンドの経営、土砂・火山灰等の採取及び販売等を目的とする会社である。

Xは、大型特殊免許を有しており、平成8年6月、Y社に雇用され、重機を運転して、土砂、火山灰等の採取、運搬の業務に従事していた。

Xは、幼少期に左目を負傷しており、その視力は、右眼が1.2、左眼0.03(矯正不能)である。

Y社は、平成16年2月、Xに対し、同年3月末をもって解雇するとの解雇通知書を交付して、Xを普通解雇する旨意思表示した。

解雇通知書には、解雇理由として、「近年視力の減退等に伴い車両の運転に支障が有り、当社業務に不適格でありますので」と記載されていた。

Xは、本件解雇は無効であると主張して争った。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の採用面接を受けた際、健康状態の欄に「良好」と記載された履歴書を提出し、採用面接を担当した専務に対して視力障害があることを積極的には告げなかったものと認められるものの、履歴書の健康状態の欄には、総合的な健康状態の善し悪しや労働能力に影響し得る持病がある場合にはこれを記載するのが通常というべきところ、Xの視力障害は、総合的な健康状態の善し悪しには直接には関係せず、また持病とも直ちにはいい難いものである上、Xの視力障害が具体的に重機運転手としての不適格性をもたらすとは認められないことにも照らすと、Xが視力障害のあることを告げずにY社に雇用されたことが就業規則61条(重要な経歴をいつわり、その他不正な方法を用いて任用されたことが判明したとき)の懲戒解雇事由及び同54条4号の普通解雇事由に該当するということまではできない

2 Xは、専ら、重機の運転業務に従事していたのであるが、・・・このような重機を運転することは、それ自体、通常の車両の運転に比して、極めて高度の危険性を内包しているといえ、Xの視力障害が、かかる危険性を助長する要因となり得ることは否定できない。しかし、他方、Xは、Y社での採用面接に当たり、実技試験として、・・・その技能に問題がないと判断されて雇用されたこと、Xの保有する大型特殊免許は、平成16年2月に更新されていることが認められる。
これらからすると、Xに視力障害があることをもって、直ちに、Y社が重機の運転業務に不適格であるとまでは認められない。

3 Xの視力障害は、客観的にはXの重機運転手としての適格性を疑わせる程度ではないものの、重機運転に危険性を孕ませる要因となり得ることは否定できないのであって、そのことに照らすと、視力障害によるXの業務不適格性を解雇事由の一つとしてなされた本件解雇は、権利を濫用したものとして無効ではあるものの、事業者の判断としては強ち無理からぬものがないとはいえず、これが、Y社によってXに対する不法行為を構成するような故意又は過失をもってなされたとまではいえないし、また、弁論の全趣旨によって明らかなY社の応訴態度等に違法な点があるともいえない
したがって、不法行為に基づく損害賠償を求めるXの請求は、理由がないものといわなければならない。 

結論は、妥当であると考えます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇43(セコム損害保険事件)

おはようございます。

さて、今日は、従業員の礼儀・協調性の欠如と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

セコム損害保険事件(東京地裁平成19年9月14日・労判947号35頁)

【事案の概要】

Y社は、損害保険業を営む会社である。

Xは、平成17年4月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結した。

Y社は、平成18年4月、Xに対し、即日解雇(懲戒解雇)するとの意思表示をした。

解雇通知書によれば、解雇事由は、「礼儀と協調性に欠ける言動・態度により職場の秩序が乱れ、同職場の他の職員に甚大なる悪影響を及ぼしたこと」「良好な人間関係を回復することが回復不能な状態に陥っていること」「再三の注意を行ってきたが改善されないこと」の3点である。

Xは、本件懲戒解雇は、解雇事由がなく、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1  Xの職場における言動は、会社という組織の職制における調和を無視した態度と周囲の人間関係への配慮に著しく欠ける者である。そして、Xがこのような態度・言辞を入社直後からあからさまにしていることをも併せ考えると、
、X自身に会社の組織・体制 の一員として円滑かつ柔軟に適応していこうとする考えがないがしろにされていることが推認される。換言すれば、このようなXの言動は、自分の考え方及びそれに基づく物言いが正しければそれは上司たる職制あるいは同僚職員さらには会社そのものに対してもその考えに従って周囲が改めるべき筋合いのものであるという思考様式に基づいているものと思われる。

2 そのため、ことごとく会社の周囲の人間からの反発を招いている。しかも、そのような周囲の反応はXの入社後間もなく示されていて、X自身もそのこと自体には気がついているにもかかわらず、上記のような自己の信念なり考え方にXは固執して、自己の考えなり立場を周囲の人間に対して一方的にまくし立てて周囲の人間の指導・助言を受け入れたり従う姿勢に欠けるところが顕著である。

3 上記のようなXの問題行動・言辞の入社当初からの繰り返し、それに対するY社職制からの指導・警告及び業務指示にもかかわらずXの職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると、X・Y社間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず、少なくとも平成18年3月末時点ではもはや回復困難な程度に破壊されているものと見るのが相当である。
それゆえ、Y社によるXに対する本件解雇は合理的かつ相当なものとして有効であり、解雇権を濫用したことにはならないものというべきである

4 Y社は、当初懲戒解雇と通告しておきながらその後普通解雇であると主張しているところには、処分の性格の就業規則に照らしたあいまいさが残るものの、本件解雇の趣旨は、懲戒解雇の意思表示の中には普通解雇をも包含するものと解釈することも可能であり、本件解雇が懲戒解雇ではなく普通解雇として何等効力を持ちえないものとまではいうことができない

5 懲戒解雇としては就業規則に明示されたものでなければ原則として当該規則に則った処分をすることができないものというべきところ、普通解雇は通常の民事契約上の契約解除事由の一つとして位置づけられ、就業規則に逐次その事由が限定列挙されていなければ行使できないものではない

このケースでは、Y社は、当初、懲戒解雇としていたのを、途中から普通解雇に変更しています。

このケースで、懲戒解雇を維持した場合、結果はどうなったのでしょうか?

通常、本件と同様のケースの場合、会社としては普通解雇を選択するのが無難です。

それにしても、X・Y社間の信頼関係は採用当初から成り立っていないというのは、すごいですね。

採用時に判断できなかったことを考えると、採用の難しさを考えさせられます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇42(京都たつた舞台事件)

おはようございます。

さて、今日は、業務能率不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

京都たつた舞台事件(大阪高判平成18年11月22日・労判930号92頁)

【事案の概要】

Y社は、演劇に使用する舞台装置(大道具、小道具)の製作、施工などを業務とする会社である。

Xは、平成14年5月、Y社との間で期間定めのない雇用契約を締結した。

Y社は、平成15年6月、Xに対し、再三の注意にもかかわらず、業務能率が著しく不良であることを理由に、解雇予告をした。

なお、Y社就業規則43条には、解雇事由として、「勤務成績又は業務能率等が著しく不良で、従業員としてふさわしくないと認められたとき」と規定されている。

Xは、本件解雇は解雇権の濫用にあたり、無効であると主張し争った。 




【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xの行為は、舞台稽古中の出来事ではあったが、Xは、何度も指示されても、演者との間が合わないままであり、きっかけ(合図)を出してもらっても、うまく障子を開閉することができなかったものであるから、演者と裏方との緊密な共同作業の中で、他の職人であれば取ることができるようになるタイミングを、最後までつかめなかったものと認められる。舞台芸術では、演者と裏方とが、間あるいはタイミングを合わせることを必要不可欠な要素とするものであるが、Xには、この裏方に必要な演者と一体となって作業するために必要な時間的感覚が欠けているために、上記の都おどりの件が生じたものと認められる。
そして、Xの上記行為の結果、舞台の進行をすべて止めてしまうような事態を引き起こしたり、さらには、主催者らからXを担当から替えるよう求められる事態に至っているのであるから、Xの上記行為は、「業務能率が著しく不良である」場合に当たることは明白である。

2 Xの各行為は、いずれも「業務能率等が著しく不良である」場合に当たるか、それをうかがわせる事実ということができるところ、これらの事実を総合して勘案すると、Xは、他の従業員と協調して作業するという特殊性があるY社での勤務について適合せず、しかもそれはX本人の素質によるものが多いものと認められるから、。Xは、就業規則43条1項が規定する「業務能率等が著しく不良である」場合に該当し、それを理由とするY社のXに対する本件解雇には解雇権の濫用はなく、正当というべきである。

3 なお、Xは、Y社に入社した当初から本件解雇がなされるまでの間、遅刻や欠勤などを一切しなかった旨主張し、その事実は認められるが、そのことを考慮しても上記判断を左右するには至らない。 

成績不良の従業員の解雇については、通常、裁判所は厳しい判決を出します。

しかし、本件では、解雇は有効であると判断されました。

ポイントは、Xの業務能率不良が与える影響の大きさ、顧客からのクレームの存在、他の従業員との協調性が重要であるという業務内容の特殊性、業務能率不良の原因がX本人の素質によること、などです。

この裁判例をどこまで一般化すべきか、悩ましいところです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇41(洋書センター事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き解雇協議条項に関する裁判例を見てみましょう。

洋書センター事件(東京高裁昭和61年5月29日・労判489号89頁)

【事案の概要】

Y社は、洋書の販売等を目的とする会社である。

Y社において、4名の従業員のうち、Xを含む3名により労働組合が結成された。

組合は、Y社との間で、「会社は運営上、機構上の諸問題、ならびに従業員の一切の労働条件の変更については、事前に、組合、当人と充分に協議し同意を得るよう努力すること」との条項を結んだ。

Y社は、入居中のビルの取り壊しによる社屋移転を組合に明らかにした。その後、Y社は、仮店舗へ移転するため営業を停止し、移転作業を始めたいと組合に申し入れたが、組合は移転による労働条件の悪化などを理由に反対し、労使の協議により移転作業は中止された。

Y社は、休憩室・女子更衣室・組合事務所として別にワンルームを借りるとの最終案を組合に提示したが、組合が拒否し、交渉は行き詰まった。

Y社は、Xらに知らせずに連休中に移転を行い、作業終了後にXらへ仮店舗に出社するよう電報で連絡した。

Xらは仮店舗での就労を命じた業務命令を拒否し、旧社屋が職場であるとして、施錠をはずして旧社屋内に入った上、社長を旧社屋に連行し、役16時間にわたって軟禁して暴行を加え、その後も業務命令を無視して旧社屋を占拠し続けた。これらのことから、Y社は、Xらを懲戒解雇とした。

Xらは、正当な理由がない懲戒解雇であり、事前協議約款が存在するにもかかわらず、Y社はXらの解雇に際して、組合および本人らと一切協議をせず、同意も得ていないから手続的に違法であり、懲戒解雇は無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件事前協議約款の締結に至るまでの前記経過及びその文言・趣意等に徴し、信義則に照らして考察すれば、右事前協議の対象事項には、事柄の性質上事前協議にしたしまない場合、あるいは事前協議の到底期待できない特別な事情の存する場合を除いて、従業員の解雇、処分を含むものと解するのが合理的である

2 組合の構成員は、パートタイマーを除けば、本件解雇をされたXら2名のみであり、組合の意思決定は主として右両名によって行われ、組合の利害と右両名の利害とは密接不可分であったところ、Xら両名は、本件解雇理由たる社長に対しての長時間に及ぶ軟禁、暴行傷害を実行した当の本人であるから、その後における組合闘争としての、右Xら両名らによる旧社屋の不法占拠などの事態をも併せ考えると、もはや、Y社と組合及び右Xら両名との間には、本件解雇に際して、本件事前協議約款に基づく協議を行うべき信頼関係は全く欠如しており、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく本件解雇については、組合及び当人の同意を得ることは勿論、その協議をすること自体、到底期待し難い状況にあった、といわなければならないから、かかる特別の事情の下においては、Y社が本件事前協議約款に定められた手続を履践することなく、かつ、組合及び当人の同意を得ずに、Xらを即時解雇したからといって、それにより本件解雇を無効とすることはできない

非常に参考になる裁判例です。

本件は、例外が認められるための「特別の事情」が存在するとされた裁判例です。

あくまで例外ですので、厳格に解釈しなければいけません。

容易に「特別の事情」を認定すると、原則と例外がひっくり返ってしまいます。

とはいえ、本件については、明らかにXらはやりすぎです。

自分たちの要求が通らなかったからといって、犯罪を犯すことは許されません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇40(石原産業(ごみ収集車乗務員・解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合との事前協議条項に違反する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

石原産業(ごみ収集車乗務員・解雇)事件(大阪地裁平成22年9月24日・労判1018号87頁)

【事案の概要】

Y社は、清掃業等を目的とする会社であり、地方公共団体や事業所から受託ないし受注したごみ収集運搬業務を行っている。

Xは、平成12年、Y社に採用され、ごみ収集車の乗務員として稼働していた者である。

Xは、全日本建設運輸連帯労働組合簡裁地区生コン支部に加入した。

Y社と本件組合は、本件組合の組合員の身分・賃金・労働条件の変更については、本件組合と事前に協議し同意の上、決定する旨(本件事前協議・同意条項)を含む労働協約を締結した。

Xは、ごみ収集車運転中に物損事故を起こしたうえにY社に報告しなかったことを理由に解雇された。

Y社は、Xを解雇するにあたり、事前に、本件組合と協議をすることはなかった。

Xは、本件解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、そもそも使用者の単独行為である解雇について、労働組合の同意を要する事項とするのはなじまない旨主張する。
しかし、本件事前協議・同意条項の趣旨は、Y社が本件組合に加入している従業員を解雇しようとする場合、Y社に対し、事前に本件組合との間でその同意が得られるように誠実に交渉することを義務づけることにあり、Y社が、かかる義務を十分に尽くした上で解雇を行った場合には、本件組合の同意がなかったとしても、本件事前協議・同意条項の違反にはならないと解されるから、Y社の上記主張は当たらないというべきである。

2 本件事前協議・同意条項所定の「身分の変更」は、解雇を含むものと解されるから、Y社は、本件組合に加入している従業員を解雇する場合、事前に本件組合との間でその同意が得られるように誠実に交渉しなければならない。しかるに、Y社が本件組合との間で本件解雇について事前協議を行っていないことは、当事者間に争いがない。したがって、本件解雇は、解雇手続に重大な瑕疵があるというべきであるから、労働契約法16条により無効である。

組合との事前協議条項に違反した解雇について判断されています。

特に異論はないと思います。

労働協約で決めたのであれば、それを会社が守らなければいけません。

守らないでいきなり解雇したら、当然、裁判で負けますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇39(メッセ事件)

おはようございます

さて、今日は、経歴詐称を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

メッセ事件(東京地裁平成22年11月10日・労判1019号13頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業を目的とする会社である。

Xは、Y社との間で、雇用期間を1年とする雇用契約を締結し、平成20年5月からY社において就労し始めた。

Y社は、アメリカで経営コンサルタントをしていたとする略歴書を信用してXを採用した。しかし、当時のY社の代表取締役Y1は、本件雇用契約締結後、Xが会議において他の従業員に対し強く意見を述べた際、その発言内容が理解しがたかったことなど、Xの態度や発言等から、Xが従前経営コンサルタントをしていたとの経歴に疑問を感じるようになった。

そこで、Y1は、インターネットでXの氏名を検索したところ、食品菓子販売大手のA社の役員を中傷するファックスを流したために、平成16年6月、自称経営コンサルタントX容疑者を逮捕した、などと記載された記事を発見した。

Y1は、平成20年5月、Xに対し、本件記事記載の人物がX本人かを確認したところ、Xは、これを認め謝罪するとともに自身は無罪であると主張した。

Y1は、Xの経歴詐称は、本件雇用契約締結の動機づけを覆すものであるからXを解雇しようと考えたが、Xが円満に退職することを望み、30万円を一括して支払うことを条件にXに対して退職勧奨をしたが、Xは退職条件について記載した書面の交付を求め続けた。

そこで、Y社は、Xを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるといえることからすると、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項や、これに加え、企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うものというべきである。したがって、労働者が前記義務に違反し、「重要な経歴をいつわり採用された場合」、当該労働者を懲戒解雇する旨定めた本件就業規則の規定は合理的であるといえる。

2 Xは、信用毀損被告事件で起訴されたことはないから、同起訴を理由としてした本件解雇は無効である旨主張する。
確かに、本件解雇通知書には、信用毀損罪で起訴された旨記載されていることが認められる。しかし、本件解雇の事由に該当するXの所為は、本件服役等の期間中について、渡米して経営コンサルタント業務に従事していた旨及び「賞罰なし」との虚偽の記載をした本件履歴書を提出したことであるところ、当該事実について、本件解雇通知書の記載内容に誤りはない。さらに付言すると、本件前科の罪名は名誉毀損罪であり、信用毀損罪による未決勾留中に求令状起訴されたことからすると、被疑事実と本件前科の犯罪事実は、同一の社会的事象について法的評価が変更されたものと推認され、犯状は異なるものではないから、前記罪名が異なることによって、経歴詐称の程度、悪質性等が左右されるものでもないといえる。

3 労働者が雇用契約の締結に際し、経歴について真実を告知していたならば、使用者は当該雇用契約を締結しなかったであろうと客観的に認められるような場合には、経歴詐称それ自体が、使用者と労働者との信頼関係を破壊するものであるといえることからすると、前記のような場合には、具体的な財産的損害の発生やその蓋然性がなくとも、「重要な経歴をいつわり採用された場合」に該当するというべきである

4 Xは、Y社に対し、本件服役等について秘匿したのみならず、その間、渡米して経営コンサルティング業務に従事していたと自己の労働力の評価を高める虚偽の経歴を記載した本件略歴書及び本件履歴書を提出したことが認められ、その態様は悪質であるといえる。また、Y社は、本件服役等の事実が発覚した後、Xに対し、弁解の機会を与え、さらに、30万円の支払を提示して自主退職の機会も与えたことが認められ、本件解雇に至るまでに相当な手続を履践したといえる。これに対し、Xは、本件前科について無罪である旨主張しながら、その根拠となる資料をY社に提示することを拒否し、また、Y社からの退職勧奨に対し、退職条件について協議するでもなく、退職条件を記載した文書の送付に拘泥するなど、経歴詐称発覚後のXの対応も、Y社との信頼関係を破壊するに足りるものであったといえる。

本件は、本人訴訟のようです。控訴はしていません。

本件事実を見る限り、悪質性が極めて高いので、懲戒解雇は相当であると考えます。

インターネットで情報が半永久的に残ってしまい、それを誰でも簡単に確認できてしまう現代特有の問題ですね。

本件裁判例では、冒頭で、労働者が負うべき真実告知義務の範囲について判断しています。

典型的には、学歴、職歴、前科、年齢などの詐称が問題となります。

それ以外の事項について、詐称があった場合、懲戒処分の対象となるか否かは、ケースバイケースです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇38(小野リース事件)

おはようございます。

さて、今日は、幹部従業員に対する勤務態度・飲酒癖を理由とする解雇に関する最高裁判例を見てみましょう。

小野リース事件(最高裁平成22年5月25日・労判1018号5頁)

【事案の概要】

Y社は、建設機械器具の賃貸等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、営業部次長、営業部長を務めた上、平成19年5月には、統括事業部長を兼務する取締役に就任した。

Xは、Y社に雇用された当時から、糖尿病に罹患していて、アルコールの分解能力が健康な人より低く、医師から飲酒を控えるように指導されていたにもかかわらず飲酒を続けていた。そのため、Xは、酒に酔った状態で出勤したり、勤務時間中に居眠りをしたり、同行訪問、社外での打合せ等と称し、嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒をしたり、取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまったりすることがあった。

Xの勤務態度や飲酒癖について、従業員や取引先からY社に対し苦情が寄せられていたが、Y社の社長は、Xに対し、飲酒を控えるよう注意し、居眠りをしていたときには社長室で寝るように言ったことはあるが、それ以上に勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしたことはなかった。

Xは、19年6月、取引先の担当者と打合せをする予定があったのに出勤しなかった。

社長は、Xに代わって取引先の担当者と打合せをしたが、その後、取引先の紹介元であり、Y社の大口取引先でもある会社の代表者から、Xを解雇するよう求められた。Xは、同日の夜、社長と電話で話をした際、酒に酔った状態で「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べた。

社長は、Xの上記発言を退職の申し出ととらえ、退職を承認した。

Y社は、Xが自主的に退職願を提出しなかったため、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は、違法であるとして、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

請求棄却

【事案の概要】

1 本件解雇の時点において、幹部従業員であるXにみられた本件欠勤を含むこれらの勤務態度の問題点は、Y社の正常な職場機能、秩序を乱す程度のものであり、Xが自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから、Xに本件規定に定める解雇事由に該当する事情があることは明らかであった。

2 そうすると、Y社がXに対し、本件欠勤を契機として本件解雇をしたことはやむを得なかったものというべきであり、懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても、本件解雇が著しく相当性を欠き、Y社に対する不法行為を構成するものということはできない。

最高裁の判断は妥当であると考えます。

ちなみに、一審、二審ともに、Xの勤務態度は普通解雇事由に該当するが、Y社が解雇理由となり得ることを警告したり、そのことを理由とする懲戒処分をすることで改善が図れるか見極めることをすべきであったにもかかわらず、これらの手段を講じることなく本件解雇をしたことから、相当性を欠くと判断し、不法行為と認めました。

できることなら、下級審が示しているような手続をとるべきだったと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇37(スカンジナビア航空事件)

おはようございます。

さて、今日は、変更解約告知に関する裁判例を見てみましょう。

スカンジナビア航空事件(東京地裁平成7年4月13日・労判675号13頁)

【事案の概要】

Y社は、スウェーデンに本店をおく会社であり、他の外国2社とともに航空会社A社を運営していた。

Xらは、A社の日本支社となっていたY社の従業員、業務内容および勤務地を特定した雇用契約を締結していた。

A社の航空部門の収益が悪化したため、日本において年功序列賃金体系をとっていたY社は、賃金制度の変更に着手した。

Y社は、平成6年6月、地上職およびエア・ホステスの日本人従業員全員に対し、早期退職募集と再雇用の提案を行い、割増退職金の支給を提示した。再雇用の内容は、(1)年俸制の導入、(2)退職金制度の変更、(3)労働時間の変更、(4)契約期間(1年)の設定および(5)有給休暇は労働基準法の定めに従った日数に削減する、というものであった。

同募集の応募期限である同年7月末までに、115名が早期退職に応じたものの、残り25名は、早期退職に応じず、従前の労働条件で雇い続けるよう労働組合を通じて回答する一方、仮処分を申し立てた。

これに対し、Y社は、募集に応じなかった25名を、同年9月末付けで解雇するとした。

Xらは、解雇の効力を争い、地位保全等を求めた。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xらに対する解雇の意思表示は、要するに、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の解約であって、いわゆる変更解約告知といわれるものである。

2 YとXらとの間の雇用契約においては、職務および勤務場所が特定されていたため、職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の変更を行うためには、これらの点についてXらの同意を得ることが必要であった。

3 しかし、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更をともなう新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。

4 全面的な人員整理・組織再編が必要不可欠となり、その計画が図られた結果、雇用契約により特定されていた各労働者の職務及び勤務場所の変更が必要不可欠なものであった。本件合理化案を実現するために必要となる、(1)年俸制の導入、(2)退職金制度の変更、(3)労働時間の変更については、いずれもその変更には高度の必要性が認められる。賃金体系の変更は、従業員の賃金が総体的に切り下げられる不利益を受けることは明らかであるが、地上職の場合、会社により提案された新賃金(年俸)と従来の賃金体系による月例給に12(月)を乗じることにより得られる金額を必ずしもすべてが下回るものではないし、Xらが新労働条件での雇用契約を締結する場合には、会社は、従来の雇用契約終了にともなう代償措置として規定退職金に加算して、相当額の早期退職割増金支給の提案を行ったことをも合わせ考えると、業務上の高度の必要性を上回る不利益があったとは認められない。

5 労働条件の変更をともなう再雇用契約の申入れは、会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性は右変更によって右各債権者が受ける不利益を上回っているものということができるのであって、この変更解約告知のされた当時及びこれによる解雇の効力が発生した当時の事情のもとにおいては、再雇用の申入れをしなかった各債権者を解雇することはやむを得ないものであり、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされていたものと認めるのが相当である。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇36(京都市(北部クリーンセンター)事件)

おはようございます。

さて、今日は、セクハラ行為等を理由とする懲戒免職に関する裁判例を見てみましょう。

京都市(北部クリーンセンター)事件(大阪高裁平成22年8月26日・労判1016号18頁)

【事案の概要】

Y市は、Y市職員として京都市北部クリーンセンター関連施設プール管理運営協会事務局の事務所長の職にあったXを、以下の事実により懲戒免職処分とした。

(1)部下に対するセクハラ行為(性的関係を求める言動)、(2)タクシーチケット(7590円)の私的流用、(3)業者との独断契約、物品(自動販売機やスイミング用品)販売の手数料の簿外処理等

これに対し、Xは、本件処分は理由がなく、仮に懲戒事由があったとしても懲戒免職処分は重すぎる処分であり、比例原則に反し許されないと主張して、本件処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す

【判例のポイント】

1 セクハラ行為については、行為の相手方、Xのした性的関心に基づく発言や性的交渉を求める発言の内容が具体的に特定されておらず、時期についても3年以上の期間が示されているだけで十分な特定がされていない点で問題がある
とりわけ、本件が懲戒免職処分という重い処分が問題となっていることからすると、特段の事情のない限り、処分の理由となる事実を具体的に告げ、これに対する弁明の機会を与えることが必要であると解されるが、処分の理由となる事実が具体的に特定されていなければ、これに対する防御の機会が与えられたことにならないから、これを処分理由とすることは許されないというべきである
したがって、仮に、Xが、・・・本件調査報告書に記載されたような発言をした事実があったとしても、これを処分理由とするのは手続的に著しく相当性を欠くというべきである。

2 また、本件調査報告書は、Y市の行財政局人事課課長補佐であったEが、Xからセクハラ発言を受けたという者から直接事情を聞き、職場の同僚等の供述によりこれが裏付けられたとして、Xのセクハラ発言を認定したものであるが、対立当事者による反対尋問を経ていない供述の信用性判断は慎重に行うべきものであり、また、本件調査報告書は、上記事情聴取の際の供述を録取した書面そのものではなく、上記Eら調査委員会の認識をまとめたものにすぎない。
一口にセクハラ発言といっても、それまでの両者の関係や当該発言の会話全体における位置づけ、当該発言がされた状況等も考慮する必要があるのであって、Xがした性的な発言内容はもとより、その発言をした日時をできる限り特定し、発言を受けた相手方の氏名を示す必要があるというべきである。本件調査報告書のほか上記Eの供述によっても、Xが、J以外の臨時職員に対しても、日常的に性的な内容を含む発言をしていたという程度の心証を抱かせることはできるが、それが懲戒事由としてのセクハラ発言として、具体的に特定して認定し得るだけの証拠はないといわざるを得ない

3 協会のタクシーチケットは、Y市の公金・公物ではなく、その業務外目的での使用はY市の懲戒指針の「公金又は公物の横領」等に該当せず、また物品手数料の簿外管理は上司も黙認していたこと、手数料収入は主に職員の福利厚生や来訪客接待経費に充てるなど全くの個人的費消とはいえないことから、いずれも、より軽い処分が想定されている「公金公物処理不適正」に該当するとして、Xに対する懲戒免職処分が平等取扱原則に照らして重きに失し、裁量を逸脱している。

第1審(京都地裁)では、懲戒免職処分はY市の裁量の逸脱には当たらないとして、有効であると判断しました。

これに対し、控訴審では、弁明の機会を与えていないことは、手続的に著しく相当性を欠くとして、懲戒免職処分を取り消しました。

X側は、控訴審において、一般に懲戒免職処分の有効要件とされている罪刑法定主義、平等取扱い原則、相当性の原則、弁明機会の付与等の適正手続についての判断部分を、厳格に解したわけです。

セクハラは、性質上、なかなか特定が困難ですが、防御の機会を与えるという意味では、ある程度の特定を要求されるのは、やむを得ません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。