Category Archives: 解雇

解雇75(日本航空(整理解雇)事件)

おはようございます

さて、今日は、会社更生手続中の航空会社の客室乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(整理解雇)事件(東京地裁平成24年3月30日・労経速2143号3頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Y社の会社更生手続中である、平成22年12月、更生管財人は、Xらに対し解雇予告通知をしたが、その際の整理解雇対象者は客室乗務職108名であったが、その後希望退職の募集等を行い、最終的には、客室常務職員数は84名となった。

Xらは、更生管財人を被告として(会社更生手続終了後に被告が受継した)、本件解雇の無効を主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社は、会社更生手続下でされた本件解雇については、会社清算・破産手続下でされた整理解雇の場合と同様に、いわゆる整理解雇法理を機械的に適用すべきではないと主張する。
しかしながら、(1)会社更生手続は、窮境にある株式会社について、更生計画を策定するなどして、債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする再建型の倒産処理手続であり、更生手続開始の決定時点で破綻した更生会社を観念的に清算する手続であるとはいっても、清算型の倒産処理手続である会社清算・破産手続とは異なり、事業の継続を前提としており、直ちに労働社の就労が拒否されるわけではないこと、(2)清算型の倒産処理手続下において労働者を解雇する場合であっても、当該解雇には解雇制限規定(労働基準法19条)及び解雇予告規定(同法20条)の適用があると解される上、会社更生手続や民事再生手続のような再建型の倒産処理手続においては、労働社の労働基本権に配慮する趣旨で、更生管財人が労働協約を解除することができない旨の特則(会社更生法61条3項、民事再生法49条3項)が置かれていること、(3)(2)と同様の趣旨で、労働契約は、継続的給付を目的とする双務契約であるにもかかわらず、反対給付不履行の場合の履行拒絶禁止規定が適用されない旨の特則(会社更生法62条3項、民事再生法50条3項)が置かれていることに鑑みると、会社更生手続下でされた整理解雇については、労働契約法16条(解雇権濫用法理)の派生法理と位置付けるべき整理解雇法理の適用があると解するのが相当である。もっとも、整理解雇法理適用の要件を検討するに当たっては、解雇の必要性の判断において使用者である更生会社の破綻の事実が、重要な要素として考慮されると解すべきである

2 本件解雇の効力を判断するに当たっても、本件解雇にいわゆる整理解雇法理の適用があるとの前提で、以下、(1)人員削減の必要性の有無、程度、(2)解雇回避措置の有無、程度(解雇回避措置実施の有無、内容等)、(3)人選の合理性の有無(本件人選基準の合理性等)、(4)解雇手続の相当性(労使交渉の経緯、不当労働行為性等も含む。)を具体的に検討し、これらを総合考慮するのが相当である。

3 整理解雇による被解雇者(本件Xらを含む客室乗務職及び運航常務職ら約160名)を残すことが経営上不可能ではなかった旨の当時のY社の代表取締役会長の発言は、苦渋の決断としてやむなく整理解雇を選択せざるを得なかったことに対する主観的心情を吐露したにすぎないものと評価するのが相当であって、客観的状況に照らせば、会長の発言があったことをもって、人員削減の必要性を否定することはできない。

4 Y社は、再三にわたる希望退職措置の方法で任意の退職者を募集し、一連の希望退職措置においては、一旦倒産状態に陥った更生会社であるにもかかわらず、退職金の割増支給を含む非常に手厚い退職条件を提示した上、併せて、その当時、採用可能な各種の解雇回避措置を実施する等、Y社が本件解雇に先立ち行った解雇回避措置は、いずれも合理的なものであり、総合して破格の内容のものであるということができるから、Y社は、本件解雇に当たって十分な解雇回努力を尽くしたものと認めるのが相当である

5 本件解雇に当たって採用された本件人選基準((1)休職者基準、(2)病欠日数・休職日数基準、(3)人事考課基準、(4)年齢基準を併用し、(1)から(4)までを順に適用するもの)のうちの病欠日数・休職日数基準、年齢基準は、いずれも使用者であるY社の恣意の入る余地の少ない客観的なものであったし、人事考課基準についてはそもそも該当者がなく、休職者基準、病欠日数・休職日数基準については、過去の 病欠歴を基にY社に対する将来の貢献度を推定する基準として合理的であるということができるし、年齢基準についても、若年層に厚い人員構成への転換を図るべく、Y社に対する将来の貢献度とともに、解雇対象者の被害度を客観的に考慮した結果として設定されたものであって、合理性があるものと評価される。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇74(学校法人尚美学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、前勤務先でのパワハラ等不告知を理由とする普通解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人尚美学園事件(東京地裁平成24年1月27日・労判1047号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y大学の教授である。

Xの経歴は、昭和50年、厚生省(当時)に入省し、その後、環境庁などを経て、平成15年8月、厚労省を辞職し、16年から財団法人A財団常務理事兼事務局長の職にあった。

Xは、Y大学に対し、以前に勤務先においてパワハラ及びセクハラを行ったとして問題にされたことを告知しなかったことなどを理由に、Y大学が、Xを解職(普通解雇)した。

Xは、転職の理由について、「役所の仕事がもう限界である」「理事会がないと辞めることができるかどうか分からない」と話したが、Y大学から、事件を起こしたことはないかとか、パワハラ・セクハラ等の問題はないか等の質問はなかった。

【裁判所の判断】

解雇は無効

慰謝料請求は否定

【判例のポイント】

1 ・・・しかしながら、採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は、その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。大学専任教員は、公人であって、豊かな人間性や品行方正さも求められ、社会の厳しい批判に耐え得る高度の適格性が求められるとのY社の主張は首肯できるところではあるが、採用の時点で、応募者がこのような人格識見を有するかどうかを審査するのは、採用する側である。それが大学教授の採用であっても、本件のように、告知すれば採用されないことなどが予測される事項について、告知を求められたり、質問されたりしなくとも、雇用契約締結過程における信義則上の義務として、自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない

2 Xは、転職の理由につき「役所の仕事がもう限界である。」と述べたことが認められるが、転職の理由は、その本質からして主観的であり、仮に客観的には辞職しなければ更に責任を追及されるような状況にあったとしても、これを虚偽と言い切ることは困難である。また、Xが「自分は辞めたいが平成18年2月か3月の理事会がないと辞めることができるかどうか分からない。」と述べたことについても、手続上の問題や業務上の必要性を述べたものと回することもできなくもなく、仮に客観的には既に辞職が決まっていたとしても、これを虚偽と言い切ることはできない。
このような言辞や、健康上の理由である旨の言辞がXからあったのであれば、心身とも職務に耐え得る健康状態なのかや、現在の仕事の状況を聞いたり、Y社がXに内定を出してもXが本件財団を退職できずに辞退されるかもしれないという問題があるのであるから、Xが辞職を望んでいるのに辞職できない可能性がある理由を質問するなりして、職場の人間関係のトラブルによる可能性はないかなどといった見地から検討したりすることも考えられたのであって、そのような質問をした上でその回答内容に虚偽があれば格別、これらの言辞のみをもって、信義則に違反するものということはできない

3 Xが、Xの言動につき、それがセクハラ・パワハラに該当するのではないかと申し立てられたことをY社に告げなかったことなどにつき、信義則上の義務違反は認められず、社会的評価の低下等は採用以前から存在した可能性が現実化したもので、Y社が採用時に看過し又は特にそのことを問題にしなかった問題から派生して、問題が生じたとしても、「簡単に矯正することもできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因して、その職務の円滑な遂行に支障があり、または支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合」に該当するとして、専任教員勤務規程第18条3号の事由の存在を理由に、Xを普通解雇することはできないといわざるを得ない

4 解雇された従業員が被る精神的苦痛は、当該解雇が無効であることが確認され、その間の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実があったときに初めて慰謝料請求が認められると解するのが相当である
・・・Xは縷々主張するが、手続が不公正であるとか、処分が恣意的なものであるとかということもできないのであって、その他本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、賃金の支払以上に慰謝料の支払を相当とする特段の事情があるとはいえないから、本件解雇につき、Y社の不法行為に基づく損害賠償債務は認められない。

この裁判例では、採用面接等で前職でのセクハラ・パワハラ問題等を申告しなかったのは、労働者の信義則上の告知義務に違反しないとされています。

会社の方が、質問しない項目について、労働者が積極的に自己に不利益な事項について告知することまで求められていないそうです。

この裁判例を前提とする限りでは、会社のほうで、面接時に労働者に質問する事項をたくさん用意しておく必要がありますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇73(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年2月29日・労経速2141号9頁)

【事案の概要】

Y社は、JASRAQ上場会社で、データ通信サービス、テレコムサービス事業等を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員である。

Y社は、平成22年10月頃から、Xらを含む30数名の従業員に対し、個別に退職勧奨を行ったが、Xらは、これに応じなかった。

そこで、Y社は、就業規則64条3号に基づき、Xらを解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 就業規則にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」ものといい得るためには、(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(整理解雇の必要性)、(2)使用者は人員の整理という目的を達するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきと解するのが相当である。

2 人員の調整は、解雇以外の方法、配転・出向、一時帰休、採用停止、希望退職の募集、退職勧奨等によっても行うことができ、ここに解雇回避努力義務を尽くしたか否かという要素が問題になるところ、かかる使用者の解雇回避努力義務に対しては、上記比例原則のうち必要性の原則(最終の手段原理)が最もよく妥当し、使用者は、整理解雇を実施する以前において、当該人員整理の必要性の程度に応じて、客観的に期待可能なものであって、解雇よりも不利益性の少ない措置(解雇回避措置)をすべて行うべき義務を負っている

3 解雇回避努力義務は、単に一事業(プロジェクト)や事業部門に限定すべきではなく、企業組織全体を対象に(1)希望退職の募集や(2)配転・出向の可能性を検討するのが原則であるところ、Y社は、本件整理解雇(人員整理)の実行以前にY社組織全体を対象とした希望退職の募集や配転出向の可能性も検討していないが、これらはY社にとって受忍の限度を超えるものというべきことからすると、これらの点から、直ちにY社が解雇回避に向け社会通念上相当と評価し得る程度の営業上の努力を怠ったものということはできない

4 Y社は、Xらに対し、解雇回避措置の一環として可能な限り本件退職勧奨の対象者を絞り込むとともに、金銭面で有利な退職条件を提示することができるよう、社会通念上相当と認められる程度の費用捻出策等を講じるべき義務を負っていたものというべきところ、高額な役員報酬等のカット・削減分を原資として、本件退職勧奨の対象従業員を絞り込むとともに、金銭面で有利な退職条件を提示することができるよう一定の配慮を行った形跡は全く窺われず、本件退職勧奨において、100万円にも満たない程度の退職条件を示し、これに応じなかったXらに対して本件整理解雇を断行しているのであって、これではY社は、本件整理解雇手続において、社会通念上相当と認められる程度の費用捻出策を講じたものとはいえない

5 被解雇者選定の合理性は、被解雇者を選定するための整理基準の内容と基準の適用の2つの要素からなっているが、本件整理解雇においては、非採算部門に所属する従業員という極めて抽象的な整理基準が存在しただけであり、整理基準の合理性に関しても、本件退職勧奨に応じなかったXら3名を指名した上、その各人の個別具体的な事情に配慮することなく、本件整理解雇を断行したものということができ、被解雇者の選定手続きとしては余りに性急かつ画一的なものであって、慎重さに欠けるものといわざるをえず、本件整理解雇における被解雇者選定の合理性には疑問を挟む余地がある

6 本件整理解雇は、その必要性の程度こそかなり高いものということができるものの、解雇回避努力義務は十分に尽くされたものとはいい難く、また、被解雇者選定の合理性についてもやむなしとするほどの客観的かつ合理的な理由があるとは認められず、したがって、本件整理解雇は、就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」場合には当たらないものというべきであり、本件整理解雇は、労契法16条所定の「客観的に合理的な理由」を欠き、解雇権を濫用するものとして無効である。

3要素説ですね。 手続の適正については、考慮要素になっていません。

4要素説でも、手続面が不十分ということで整理解雇が無効になることはほとんどありません。

たいていは、解雇回避努力が足りないということで無効になります。

この裁判例は、総論部分(判例のポイント1)が充実しているので、参考になります。

また、被解雇者選定の難しさがわかります。 

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇72(三枝商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、不動産営業事務員の解雇と賃金に関する逸失利益の範囲に関する裁判例を見てみましょう。

三枝商事事件(東京地裁平成23年11月25日・労判1045号39頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産業、自社ビル賃貸・売買、農業等を目的とする会社である。

Xは、平成22年5月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、不動産営業事務員として、電話・来客対応、不動産営業事務を行ってきた。

Y社は、Xを、営業成績が悪かったことなどを理由に口頭で解雇の意思表示をした。

これに対し、Xは、Y社が行った不当解雇により著しい生活上の不利益を被ったとして不法行為に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

解雇は不法行為に該当する。

不法行為に基づく逸失利益として、賃金の3か月分相当額の損害賠償請求を認めた。

慰謝料の請求は認められない。

【判例のポイント】

1 いわゆる解雇権濫用法理を成文化した労契法16条により労働者は、正当な理由のない解雇により雇用の機会を奪われない法的地位を保障されているものと解されるが、ただ、同条は、あくまで使用者に原則として「解雇の自由」(民法627条1項。解雇自由の原則)が保障されていることを前提とする規定である。そうすると、かかる原則の下に行われた当該解雇が同条に違反したとしても、そのことから直ちに民法709条上も違法な行為であると評価することはできず、当該解雇が民法709条にいう「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為に該当するためには、労契法16条に違反するだけでなく、その趣旨・目的、手段・態様等に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものであることが必要と解するのが相当である

2 確かに、不動産営業担当社員としてのXの仕事ぶりには問題があったようであり、このことが本件解雇の背景にあることは否定し難い。また本件解雇の意思表示それ自体もややXのもの言いに触発された面もある。
しかし仮にそうであったとしてもY社は、Xに対し、試用期間終了後も解約権を行使することなく、不動産営業担当の正社員として雇用し続けているのであるから、試用期間終了後1か月も経過しないうちに全く職種の異なる他部門への配置換えを検討することは性急に過ぎる上、本件配転打診は、1割以上の減給だけでなく、別居・転勤を伴う配転命令の打診であって、Xに対して、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるおそれの強いものであったといわざるを得ない
そうだとするとXが本件配転打診をにべもなく拒絶したことはむしろ当然のことであり、これに加え、本件解雇に至るまでの経緯やその後の対応等を併せ考慮すると客観的にみて本件雇用契約を直ちに一方的に解消し得るほどの解雇事由が認められないことは明らかであって、してみると何ら解雇を回避する方法・手段の有無が検討されないまま行われた本件解雇は、余りに性急かつ拙速な解雇というよりほかなく、労契法16条にいう「客観的に合理的な理由」はもとより、社会通念上も「相当」と認められないことは明らかであって、著しい解雇権の濫用行為に当たるものというべきである
このように考えると本件解雇は、労契法16条に違反するだけでなく、不法行為法上も著しく社会的相当性に欠ける行為であると評価することができ、したがって、民法709条にいう「他人(X)の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為に該当する。

3 ここで「過失」とは、予見可能性を前提とした結果回避義務違反の行為をいうものと解されるところ、Y社社長は、長年にわたって使用者の代表者として従業員の労務管理を経験してきたものと推認される代表取締役であって、本件についても、その経験に基づき使用者として通常払うべき法令等の調査・注意義務を尽くしていたならば、本件解雇のような性急かつ拙速な解雇は許されないものであることを認識することは可能であったというべきである(予見可能性)。
にもかかわらず、Y社社長は、これを怠り、解雇を回避するための手段・方法を検討することなく、その場の勢いでもって本件解雇の意思表示を行ったものであるといわざるを得ず(結果回避義務違反)、したがって、Y社には本件解雇が侵害行為に当たることにつき少なくとも「過失」が認められることは明らかである

4 一般に同法に違反する違法な解雇を受けた労働者が、従前の業務への復帰を諦め、当該解雇によって失った賃金についての逸失利益等の損害賠償を求めることは、決して希なことではなく、むしろ通常よく散見される事象ではあるが、ただ本件解雇(不法行為)と相当因果関係を肯定することができる上記賃金に関する逸失利益の範囲については、特段の事情が認められない限り、通常、再就職に必要な期間の賃金相当額に限られるものと解すべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇71(トムス事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

トムス事件(札幌地裁平成24年2月20日・労経速2139号21頁)

【事案の概要】

Y社は、無地衣料及び無地の衣料にオリジナルのデザインをプリントする加工衣料の製造、企画及び販売を業とする会社であり、東京都内に本社を置くほか、国内では、札幌、仙台、埼玉、名古屋、大阪、広島及び沖縄に支店を、中国では、上海及び青島に連絡事務所を置いている。

Xは、平成18年3月、Y社との間で、雇用期間の定めなく、就業場所をY社札幌支店とし、業務内容を営業事務職とする雇用契約を締結した。

Y社は経営の合理化、効率化の必要にせまられ、その方策として「コンタクトセンター」を設置して全国の無地衣料に関する業務を集約し、また、加工衣料に関する業務についても大きな支店への移管を進めた。

その結果、X一人が執り行っていた札幌支店の営業事務職は大幅に業務量が減少することになったため、Y社は、Xに対し、東京本社に転勤するよう命じたが、Xは、これを承諾しなかった。

そこで、Y社は、Xを整理解雇した。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社は、国内外の競合による価格競争によって売上単価が低下する一方、中国の綿花価格及び人件費の上昇により、利幅が少なくなり、従前増収を続けていたのが、平成22年には減収に転じたことなどから、経営の合理化、効率化の必要に迫られ、その方策として、「コンタクトセンター」を設置して全国の無地衣料に関する業務を集約し、また、加工衣料に関する業務についても大きな支店への移管を進め、それに伴い、他に業務を移管した支店の営業事務職を減員することとし、その一環として、札幌支店については、無地衣料に関する業務も仙台支店に移管し、その結果としてX一人が執り行っていた札幌支店の営業事務職は大幅に業務量が減少することから、これを廃することにしたことが認められる
しかるに、Xは、C営業本部長及びD取締役から、東京本社に転勤するという提案を受け、さらにその旨の配転命令(辞令)を受けたのに、これを承諾しなかったのであるから、本件解雇については、Y社の就業規則所定の解雇事由があるといわざるを得ない。

2 Xは、本件解雇について、人選の合理性が認められないと主張するが、Y社札幌支店で営業事務職を執り行っていたのはXのみであり、その営業事務職を廃することにしたのであるから、およそ人選の余地はなかったといわざるを得ない

3 また、Xは、手続が妥当性を欠いていたと主張するところ、Xが勤務地限定採用社員であることを肯定したC営業本部長の言辞はいささか適切でないといえるものの、これについてはその後D取締役が相応の説明をしている上、そもそも、Xが異動を予定しない社員であるということと事業の縮小・休止等によりXを解雇するということは、直接には関係しないことであって、前者に関する説明が適切でないとしても、後者の手続が妥当性を欠くということにはならないというべきである。その他、本件解雇の手続が違法であるといえるような事情を認めるべき証拠は存在しない。

整理解雇の事案で、これほど短い判決理由は見たことがないというくらいあっさりとした判決です。

しかも解雇は有効との判断ですから、従業員側からすれば、納得しにくいでしょうね。

解雇回避努力についてもう少しちゃんと判断したほうがいいと思いますがいかがでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇70(日本基礎技術事件)

おはようございます。

さて、今日は、適格性不足等を理由とする試用期間中の解雇の成否に関する裁判例を見てみましょう。

日本基礎技術事件(大阪高裁平成24年2月10日・労判1045号5頁)

【事案の概要】

Y社は、建築コンサルタント、地盤調査、地盤改良・環境保全工事などを業とする会社である。

Xは、Y社に平成20年4月から新卒者(試用期間6か月)として勤務したが、試用期間中である同年7月29日、Y社で勤務する技術社員としての資質や能力等の適格性に問題があるとして、解雇の意思表示を受けた。

Xは、本件解雇は無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、試用期間中の解雇であっても普通解雇の場合と同様に厳格な要件の下に判断されるべきであると主張するが、解約権の留保は、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであって、今日における雇用の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性を有するものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決)。

2 6か月の試用期間のうち、4か月弱が経過したところではあるものの、繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るというだけでなく、睡眠不足については4か月目に入ってようやく少し改められたところがあったという程度で改善とまではいかない状況であるなど研修に臨む姿勢について疑問を抱かせるものであり、今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であったといえる

3 Xとしても改善の必要性は十分認識でき、改善するために必要な努力をする機会も十分に与えられていたというべきであるし、Y社としても本採用すべく十分な指導、教育を行っていたといえるから、Y社が解雇回避の努力を怠っていたとはいえないし、改めて告知・聴聞の機会を与える必要もない

試用期間中の解雇が有効と判断されたケースです。

適格性不足による解雇なので、解雇をためらうところですが、判例のポイント2のような事情がある場合、裁判所は解雇を有効と判断してくれることもあるわけですね。

また、当該従業員に対する弁明の機会についての判断も参考になります。

なお、このケースでも、会社は、Xに対して繰り返し指導を行っています。

たいした指導もせずに解雇すると、無効になりますので、ご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇69(コムテック事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業所閉鎖に伴う整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

コムテック事件(東京地裁平成23年10月28日・労判1043号90頁)

【事案の概要】

Y社は、システムコンサルティング事業、システムの開発・運用管理事業、営業支援・業務支援等の牛無駄意向事業等を営む会社である。

Y社は、川口事業所取扱業務にかかる主要取引先であるA社との契約が平成22年3月末で終了になることに伴い、川口事業所を閉鎖することを決定し、川口事業所の全従業員に対し、同閉鎖の通告を行うとともに、個々の従業員の処遇については、個別に対応する旨を説明した。

Xは、Y社に対し、退職意思がないことを伝え、配転による雇用の継続の希望を伝えた。

Y社は、Xが退職勧奨を拒否したことを受け、就業規則に基づき、整理解雇した。

なお、川口事業所には、平成22年2月末時点において、49名の従業員が在籍していたが、自己都合退職に応じた者が2名、退職勧奨に応じた者が31名、異動によって他の仕事に就いた者が15名であり、整理解雇の対象となったのはX1名のみであった。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、いわゆる整理解雇について規定するY社就業規則41条5項に基づくものであるところ、同号に基づく整理解雇が解雇権を濫用したものとして無効(労働契約法16条)になるか否かを判断するに当たっては、(1)人員削減の必要性、(2)((1)の人員削減の手段としての)解雇の必要性(解雇回避努力義務の履行の有無)、(3)被解雇者選定の妥当性、(4)手続の妥当性等を総合考慮して判断するのが相当である。

2 ・・・本件における人員削減の必要性は、差し迫った高度のものであったとは認められないというべきである。
そして、川口事業所閉鎖に伴う整理解雇をY社が決定したのが平成22年3月中旬であり、かつ、その対象がX1名のみであったことからすれば、本件における人員削減の必要性の有無の判断は、本件解雇時点において、従業員1名を指名解雇しなければならない程の必要性があるか否かという観点から判断すべきこととなるところ、本件において、かかる必要性があったとまでは解し難い

3 人員削減を実現する際に、使用者は、配転、出向、希望退職者募集等の他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務(解雇回避努力義務)を負うものと解され、同義務履行の有無を判断するに当たっては、当該使用者が採択した手段と手順が当該人員整理の具体的状況の中で全体として指名解雇回避のための真摯かつ合理的な努力と認められるか否かを判断すべきである
とりわけ本件においては、本件解雇に係る人員削減の必要性が差し迫った高度のものであったとは認められないことに加え、Y社が多様な部門を有する相当規模の企業であること、川口事業所閉鎖に伴う整理解雇の対象者がX1名のみであったこと、Xがこれまでの間、営業、企画、予算管理、売掛金管理、倉庫管理、人事労務等の幅広い経歴及び職歴を有することからすれば、Y社が解雇回避努力義務の履行としてXの配転を検討するに当たっては、Y社内部の欠員等の有無を形式的に確認したり派遣検討先企業の意向を確認したりするだけでは足りず、少なくとも、Y社の組織全体を視野に入れて、Xの従事できる合理的可能性のある業務の有無を真摯かつ十分な時間を掛けて検討する必要があるというべきである

4 Y社は、川口事業所閉鎖に当たり、同事業所従業員の全員を削減対象とした上で、自主退職又は退職勧奨に応じたことにより退職した者及びY社において異動先を見つけられた者について退職及び異動の措置をとった後、最終的に、退職勧奨に応じず、異動先を見つけられなかったX1名を解雇したものであるから、少なくとも、Y社において、被解雇者の選定について、客観的で合理的な基準を設定していたとは認められない
加えて、Y社がXの異動先を検討するに当たっては、Xの経歴及び職歴を踏まえた幅広い職種・職務内容を対象にはしていないことからすれば、Y社において異動先を見つけて異動の措置をとった者と異動先を見つけられなかったXとを振り分けるに当たって、合理的な判断がされたとも解し難い

4要素を検討しています。

各要素を検討していますが、いずれも足りないと判断されています。

特に解雇回避努力については、まだまだやるべきことがあるでしょ、という感じです。

整理解雇の必要性が差し迫った高度なものではない場合には、4要素説では、解雇回避努力については厳格に判断されることになります。

総合考慮ですから。

やはり、整理解雇は大変ですね。なかなか有効とは認めてくれません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇68(日本ヒューレット・パッカード事件)

おはようございます。

さて、今日は、無断欠勤等を理由とする諭旨退職処分に関する最高裁判例を見てみましょう。

日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁平成24年4月27日)

【事案の概要】

Y社は、電子計算機等およびそれらのソフトウェアの研究開発、製造等を目的とする会社である。

Xは、Y社に平成12年10月、雇用されたシステムエンジニアである。

Xは、平成20年4月以降、Y社に対し、Xに対する職場での嫌がらせ、内部の情報の漏洩等を申告し、その調査を依頼した。

Xは、B部長と電話で相談し、問題が調査されるまで、特例の休暇を認めるよう依頼した。

その後、B部長は、Xに対して、調査の結果、本件被害事実はないとの結論に達した旨回答した。

Xの有給休暇は、すべて消化された状態となったが、Xは、その後、約1か月間、欠勤を継続した。

Y社の人事統括本部のC本部長は、Xに対し、「貴職は、会社が認める正当な理由がなく、2008年6月上旬以降、勤務を放棄し、欠勤しています。理由なき欠勤は、あなたが会社に対して負っている労務提供義務についての著しい違反となり、このままの状態が更に続くと、最悪の事態を招くことにもなります。よって、会社として、直ちに出社し就業するよう命じます」とのメールを送付した。

XはY社に対し、明日から出社する旨をメールで伝え、翌日、出社した。

Y社は、その後、Xに対し、諭旨退職処分とする旨通告した。

Xは、本件諭旨退職処分の効力を争った。

【裁判所の判断】

上告棄却
→諭旨退職処分は無効

【判例のポイント】

1 原審の適法に確定した事実関係等によれば、Xは、被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には事実として存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを受けているとの認識を有しており、そのために、同僚らの嫌がらせにより自らの業務に支障が生じており自己に関する情報が外部に漏えいされる危険もあると考え、Y社に上記被害に係る事実の調査を依頼したものの納得できる結果が得られず、Y社に休職を認めるよう求めたものの認められず出勤を促すなどされたことから、自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめY社に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けたものである。

2 このような精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者であるY社としては、その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどした上で(記録によれば、Y社の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。)、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、Xの出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対して使用者の対応としては適切なものとはいい難い。

3 そうすると、以上のような事情の下においては、Xの上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たらないものと解さざるを得ず、上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた本件処分は、就業規則所定の懲戒事由を欠き、無効であるというべきである

高裁の判断が維持されました。

メンタル不調者に対する会社の対応は、実際のところ、とても難しいです。

メンタルヘルス関連のご相談が最近とても増えたことからも、顧問先をはじめとする多くの会社の関心事であることは間違いありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇67(オンライン不動産事件)

おはようございます。

さて、今日は、システムエンジニア等の整理解雇について見てみましょう。

オンライン不動産事件(横浜地裁平成23年7月28日・労判1042号82頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産の仲介および売買業を主な目的とする会社である。

Xは、平成18年3月より、派遣社員としてY社に派遣されて勤務した後、平成19年3月から
Y社の社員として雇用され、就労を開始した。

Xの担当業務は、システムエンジニアである。

Y社は、平成21年10月、Xに対し、労働条件通知書および解雇予告通知書を手渡した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇がいわゆる変更解約告知に該当し、有効であると主張するけれども、本件解雇がいわゆる変更解約告知に該当するかどうかはさておき、本件解雇が解雇に該当する以上、労働契約法16条の定める解雇権濫用法理の規制に服することは当然である。そして、Y社がいわゆる変更解約告知の該当性として主張する事実は、解雇権濫用法理の適用の有無を判断するに際して、考慮すれば足りるものというべきである

2 本件解雇は、いわゆる整理解雇に該当するものと解されるところ、整理解雇は労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であって、解雇権濫用法理の適用において、より厳しく判断すべきであり、(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避努力、(3)被解雇者選定の妥当性、(4)解雇手続の妥当性の4つの要素を考慮して、その有効性を判断するのが相当である。

3 Y社がXに対して交付した解雇予告通知における解雇事由の記載は、「業務遂行上、支障があるため」、「平成19年3月11日から平成20年3月10日までの年俸契約が終了しているため」であり、・・・本訴において主張する解雇事由と異なることから、本件解雇時点において、Y社において真摯に人員整理の必要性があったか否かについては疑問を抱かざるを得ない。その上、Y社は、平成22年12月、各部門で社員募集を行い、30名を社員として募集する広告を掲載したのであるから、いっそう本件解雇時点においてY社に人員削減の必要性があったことには疑問がある

4 加えて、Y社は、従業員の賃金減額など経費削減に努めたものの、本件全証拠によるも、希望退職者の募集等、従業員の解雇を回避するような努力を尽くした事実は認められない

変更解約告知の論点については、きれいにスルーされています。

「結局のところ、整理解雇なんでしょ」くらいに思われているようです。

解雇予告通知に記載された解雇事由と裁判になってから主張している解雇事由が異なるというケースですね。

裁判所からすると、「おいおい、本当に、人員整理の必要があったのか?」と思ってしまいます。

また、整理解雇をすすめる一方で、新規採用を行うことは、当然、避けなければなりません。

大胆に人員整理を行った結果、結局、人手が足りなくなってしまったというパターンに気を付けましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇66(東亜外業事件)

おはようございます。 

今日は、工場操業休止に伴う希望退職募集、整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

東亜外業事件(神戸地裁平成23年11月14日・労判1042号29頁)

【事案の概要】

Y社は、大口径溶接鋼管の製造及び据付並びに各種管工事等を業とする会社である。

Xらは、Y社東播工場に勤務する従業員である。

Xらは、平成23年6月、整理解雇された。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 整理解雇は使用者側の事情による解雇であり、労働者側に責めに帰すべき事由がなく、他方で、終身雇用を前提とする我が国の企業においては、解雇回避のために企業としてもそれ相応の努力をすべきであるのに、何の努力もしないで解雇することは労働契約における信義則に反するといえる。
したがって、整理解雇が合理的なものとして有効とされるためには、人員削減の必要性があったかどうか、使用者が解雇回避努力を尽くしたかどうか、解雇の対象者の人選が合理的なものであるのかどうか、解雇の手続が相当であるかどうかなどの観点から、慎重に検討する必要があるといえる。

2 業績不振や業務縮小を理由とする整理解雇は、専ら使用者側の事情に基づく自由によるものであり、労働者に責任のない事由により失職させるものであるから、使用者は整理解雇をできるだけ避けるべく、希望退職者の募集、労働時間の短縮、一時帰休、配転等なしうる解雇回避努力を検討することが必要である。
東播工場においては、人員削減として、社外工の削減を行ったほか、休業の実施、新規採用の取り止め、希望退職者の募集を行っていた事実(もっとも、全社的規模では行っていないようであるが、全社的規模でこれを行うことの費用面や業務効率面、時間面、人心の混乱などのマイナス面を勘案すると、必ずしもこれを全社的に行うべきとすることもできない。)が認められる。
また、Y社においては、希望退職者に対しては、再就職のあっせんを行ったほか、社内他部門に対して、受入打診を行ったが要員充足のため今以上は受け入れることができないとの反応があったことが一応認められる。
もっとも、使用者が労働者に対して、解雇回避義務を負っていることに鑑みれば、これら要員充足という返事が、東播工場からの配転可能性を全く否定するものかどうかは疑問の余地があるのであって、個別的に、配転の希望の聴取や具体的な配転交渉が行われた形跡がない本件においては、解雇回避義務が尽くされたとはいい難いものというべきである。
・・・Y社においては、(一部は非常勤だというが)いぜん9名の社外工を残しているところ、Xらの中にもこれらの仕事に従事することが可能な者があること、東播工場以外においては、新入社員7名の採用を行っていること、給与や賞与面で、経費削減が徹底されているかどうかは疑問の余地もあることからすれば、予め整理解雇基準を定めた上で対象者に対してこれを説明し、個々の従業員らに対して、配転先の打診などをきめ細かに行うことが必要であったといえ、本件で、組合側がこれを拒否しており不可能であったという事情も明確には認められないことからすると、Y社が解雇回避努力を尽くしたものとは認められない

3 整理解雇は、余剰人員を企業の再建という観点から削減するために行われる解雇であるから、誰を整理解雇の対象とするかは、企業の再建にとって必要な人材かどうかという相対的判断によって行うことになる。
・・・しかしながら、ここに記載された以外の、解雇の対象となった従業員らについてどのような評価がされたのかは必ずしも明らかではないこと、たとえば「事業の遂行にとって必要な有資格者を残す」などの整理解雇の基準が従業員らに対して明示されていたとはいい難いことからすれば、人選の合理性が十分に裏付けられたとはいい難い

4 整理解雇は労働者に何らの帰責事由がないにもかかわらず解雇されるものであるから、使用者は、雇用契約上、労働者の了解が得られるよう努力する雇用契約上の義務を負っているというべきであり、使用者は、整理解雇にあたり、労働者や労働組合に対し、整理解雇の必要性、規模、時期、方法等について説明し、十分に協議する義務があり、これに反する解雇は無効となるものというべきである。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。