Category Archives: 解雇

解雇85(南淡漁業協同組合事件)

おはようございます。

さて、今日は、信用業務(貯金業務)責任者に対する普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

南淡漁業協同組合事件(大阪高裁平成24年7月19日・労判1053号5頁)

【事案の概要】

Y社は、信漁連から貯金の入出金、貸付業務の取次ぎ等の業務の委託を受けていた。

Xは、Y社に勤務していた者であるが、Y社から重大な規律違反行為を理由として普通解雇された。

Xは、本件普通解雇は解雇権を濫用したものであり、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社に勤務している職員は本所で4名、H支所で1名にすぎず、それぞれの職務分担は一応定められているものの、互いの職務は関連しており、円滑な業務の遂行のためには、互いの連携、協力、連絡等が必要不可欠であるところ、Xは、理由は不明であるが、平成20年正月明けからほとんど他の職員と言葉を交わさなくなり、業務上必要な連絡もしないまま、仕事を行うようになったものである。このため、職場の雰囲気を著しく損ねるとともに、本所においてもH支所においても、Xが必要な連絡や伝達をしないことによる業務上の支障が生じることこととなった。そして、その結果、他の職員が困るだけでなく、Xのみが説明を受けたオンライン機器の操作方法を他の職員に教えなかったために、やむなく神戸から信漁連の職員に来てもらうというような事態まで生じたほか、貯金を引き出しに来た組合員に過少払をする結果となったり、組合員から依頼のあった燃油代金の引き落としの手続ができずに迷惑をかけるという結果まで生じていた。そして、Y社の組合員その他の関係者からも、Y社代表者に対して、Y社の本所の雰囲気が悪いとか、Xの窓口での応対が悪い状態が続いていることが告げられる状態にもなっていたものである
・・・XにはY社の職員としての職務上の義務に違背する行為があったものというべきである

2 Y社代表者は、XがY社の職場で他の同僚職員と会話をしないだけでなく、職務上必要な連絡や伝達さえもしなくなり、事務処理上さまざまな支障が生じていることについて3回にわたってXに注意をしたにもかかわらず、Xはこれを聞き入れようとせず、2回目の注意を受けた際には反発して午後には家に帰ってしまい、3回目の注意を受けた際には「ほっといてくれ」などと強く言い返して勤務態度を改めようとは全くしなかったものであるから、Y社の側でそれ以上の注意を重ねてもXの勤務態度の改善が期待できないものと判断したことはやむを得ないところであったというべきである

3 この点、Xは、本件解雇処分の前の段階で、Y社代表者らから、解雇を含めて厳しい処分を検討しているので職務態度を改善するようになどといった指導や警告を受けておらず、かかる指導や警告を受けたなら、Xが職務態度を改善した蓋然性があったと主張する。しかし、上記のとおりXが他の職員との会話をせず、職務上必要な連絡や伝達さえも行わない状態を長期間にわたって続けており、Y社代表者からの注意や指導に対しても、何らの説明や弁明をすることもなく、むしろ反発を強めるだけであった一連の態度に照らすと、Xの主張は到底採用することができない
また、段階的な処分を踏むべきであったとのXの主張についても、Y社代表者からの注意や指導に対して一向に態度を改めることがなく、かえって反発を強めるばかりであったXの一連の態度に照らすと、段階的な処分によってXが態度を改善させる可能性があったものとは認められないから、Xの主張は認められない

解雇事由に決定的な決め手のない普通解雇ですが、トータルでみて、解雇を有効と判断しています。

ポイントは、会社がXに対して、3回にわたって注意し改善を促したにもかかわらず、Xが勤務態度を改めなかった点です。

Xにも当然、そのような態度をとった理由があるはずですが、裁判所は、その点については重視しませんでした。

何度か改善を求めるという点は、参考にすべきですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇84(霞アカウンティング事件)

おはようございます。

さて、時機を失した懲戒解雇の有効性と割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

霞アカウンティング事件(東京地裁平成24年3月27日・労判1053号64頁)

【事案の概要】

Y社は、経理事務代行業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

平成20年2月頃、職員の1人がY社代表者のところに来て、Xが、特定の女性職員にセクハラをしており、それが原因で、所属課の他の女性従業員らの猛反発を受けていると告げた。

Y社代表者はXから事情聴取したが、Xはセクハラの事実を否定した。

平成20年12月、Xは、21年4月付で課長職を解任する人事を告げられ、一般職員に降格された。

Xは、平成21年6月、上記降格と時間外手当等の不支給の問題について、労基署に相談したところ、同年8月、労基署からY者に指導が入った。しかし、その後も時間外手当等が支払われなかったため、22年4月、労基署に時間外手当等の不支給の事実を申告した。

同年7月、Xは、Y社から懲戒解雇する旨を告げられた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 使用者による懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の機能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由該当事実が存する場合であっても、具体的状況に照らし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になると解される。

2 Y社は、Xが部下の事情を一切考慮せずにスケジュールを入れたり、部下の意見を一切聞き入れないなど、協調性に欠けた言動を繰り返したと主張するが、これらの主張については、日時、相手方等の特定が全くされておらず、内容自体も抽象的であって、懲戒解雇事由の主張としては失当といわざるを得ない

3 ・・・仮にこのセクシャル・ハラスメントの事実が認定できるとしても、処分が遅延する格別の理由もないにもかかわらず約2年も経過した後に懲戒解雇という極めて重い処分を行うことは、明らかに時機を失しているということができる上、課長職からの解任との関連で言えば、二重処分のきらいがあることも否定できないところであって、これを本件懲戒解雇の理由とすることには、問題があるといわざるを得ない。

4 ・・・以上のとおり、Y社主張にかかる本件懲戒解雇事由については、いずれもその事実自体を認めることができないか、もしくはその客観的事実を認めることができても、懲戒解雇に相当する程悪質とはいえないか、懲戒解雇事由として採り上げるのは相当でない事由である。そして、後者の客観的事実自体を認めることのできる各事由を併せて考慮したとしても、未だ懲戒解雇の理由としては十分ではないというべきである。したがって、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会的にも相当とは認められないものであるから、懲戒権の濫用に当たり、無効というべきである。

5 本件懲戒解雇に至る過程で、Y社代表者は、平成22年4月から5月にかけて、2度にわたり、夜間、予告なくXの自宅を訪問したのみならず、同年7月には、予告なくXの実父を訪問するという常軌を逸した行為に出ているもので、これらがXの時間外手当等請求の阻止という目的に出た違法な行為であることは明らかであるから、Y社は、会社法350条、民法709条により、Xに生じた損害について賠償すべき責任を負う。・・・この精神的苦痛に対する慰謝料としては、30万円が相当である

本件では、懲戒解雇の有効性のほか、未払残業代の請求もされており、756万円あまりの支払いが認められています。

賃金と合わせるとえらい金額になりますね。

それはさておき、解雇が争われる際、会社側が主張する解雇理由があまりにも昔のことである場合、今回と同じようなことを言われてしまいます。

この際だからあれもこれも解雇理由にしておこうと考えるのは理解できますが、それぞれの理由がたいしたことがないものである場合には、結局、解雇は無効になってしまいます。

解雇をする際は、よくよく考えてから行うことをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇83(国(在日米軍従業員)事件)

おはようございます。

さて、今日は、傷病休暇期間満了による解雇に関する裁判例を見てみましょう。

国(在日米軍従業員)事件(東京地裁平成23年3月9日・労判1052号89頁)

【事案の概要】

Xは、傷病休暇を取得したが、休職期間満了時、職場復帰可能と判断しなかったYは、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件基本労務契約によれば、有給休暇を消費した後に、労働者の業務外の傷病による傷病休暇(無給)は1年6か月間認められ、X・Y間の労働契約は、Yによる解雇予告の手続を経ることにより、原則としてその最終日に終了するが、労働者が回復すれば、解雇予告の撤回を要求することができ、Yは、Xを勤務に戻すと定められている。そうすると、労働者が業務外の傷病により、1年6か月間の傷病休暇(無給)を取得した場合は、Yがその最終日に有効となる解雇予告をして、労働契約の終了を主張・立証するのが抗弁となり、労働者が、再抗弁として、復職を申し入れ、回復して就労が可能になったことを立証したときは、労働契約の終了という法的効果が妨げられるという攻撃防御方法の構造であると解すべきである。これは、労働契約上の傷病休暇の制度が、業務外の傷病による長期間に及ぶ労務の提供を受けられない状況に対する解雇猶予を目的とする制度であるから、労働契約上の猶予期間が終了することで、労働を終了とし得ることが原則となると考えるのが相当であること、Xは、本件訴訟の段階でカルテの証拠化を拒否しており、個人情報保護の観点からしても、労働者個人の健康状態に関する情報は、原則として当該労働者個人の支配領域にある情報であることという事情を考慮すれば、労働者に回復して就労可能であることの立証責任を負わせるのが合理的であるということができる。

2 そうすると、Xは、労働契約上猶予されている傷病休暇(無給)の終了日までに、復職することをYに申し入れ、回復して就労が可能になったことを客観的証拠を示す等して立証することになる。そして、・・・本件争点は、Xが、無給の傷病休暇の最終日までに自らが回復して就労可能な状態になったことを立証しているかという点に尽きることになる。

3 ・・・以上によれば、Xは、その立証責任を負う傷病休暇の休職理由が解消していることの立証を尽くしていないといわざるを得ず、そうすると、休職期間満了時に解雇するという内容の本件解雇は有効である

休職期間満了時のトラブルは、少なくありません。

会社側も、正直なところ、どのように対応してよいのかわからないのではないでしょうか。

この問題は、弁護士にとっても、簡単な問題ではありません。

本件裁判例では、健康状態が回復し、就労可能となったことについて、労働者側に立証責任を負わせるのが合理的であると判断しています。

参考にすべき点ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇82(学校法人V大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、准教授からの必須科目等の講義を行う地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人V大学事件(東京地裁平成24年5月31日・労判1051号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y大学の准教授である。

Y大学は、Xに対し、必須科目の講義の担当を外し、研究室に卒業研究生・大学院生を配属せず、学部の学科会議および大学院の専攻会議に出席させないとの措置をとった。

Xは、Y大学の各措置が、懲戒権を濫用し、または人事権の裁量を逸脱するものであり、Xの講義を担当する権利、研究室を持ち卒研生等の配属を受ける権利、学科会議等に出席する権利を侵害し、違法・無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

XがY大学に対し、講義目録記載の講義を行う地位にあることの確認を求める部分を却下する。

XがY大学に対し、研究室を持ち、卒業研究生・大学院生の配属を受ける地位にあることの確認を求める部分を却下する。

【判例のポイント】

1 大学教員が講義を担当して学生に教授することは、自らの研究成果を発表し、学生との意見交換をすることなどによって、学問研究を深め、発展させることを意味するから、大学教員が講義を担当することは、労働契約上の単なる義務の側面のみならず、権利としての側面を有するものと解するのが相当である

2 ・・・学部及び大学院における学生に対する講義の課目、時間数及び時間割等の編成については、年度ごとに、学部においては各学科主任又はこれを補佐する担当幹事が、大学院においては研究科長を助ける研究科幹事が、それぞれ原案を作成し、教授会及び研究科会議の審議・議決を経て、最終的には、学長がこれを決定していると認めるのが相当である。
・・・そうすると、学長は、大学及び大学院における教育目的の効果的かつ円滑な実施のため、あらゆる事情を総合考慮の上、講義編成を決定することができると解するのが相当であるし、平成22年度以降の講義の担当につき、Xに講義目録記載の講義を担当させる旨の手続が履践されていない事情の下では、大学教員に講義を担当する権利が抽象的に認められるからといって、Xには、Y大学に対して具体的な講義の担当を求める権利ないし法律上の地位はおよそ認められないというほかない
したがって、本件訴えのうち、Xが講義目録記載の講義を行う地位にあることの確認の求める訴えは不適法であるから却下を免れないし、当該地位を前提とする上記講義を行なうことの妨害排除請求は理由がない。

3 大学設置基準36条2項は、「研究室は、専任の教員に対しては必ず備えるものとする。」と規程しており、大学教員の教育研究の拠点としての研究室を持つことは、専任の教員の権利であるということができるところ、Y大学も、少なくとも3階居室をXの研究室として設置し、Xが同居室を利用することを認めているのであるから、XがY大学に対して物理的施設としての研究室の設置を求める利益はないというべきである。
・・・以上によれば、XがY大学に対して研究室を持ち卒業生等の配属を受ける地位にあることの確認を求める訴えは、不適法であるから却下すべきであるし、当該地位を前提とする研究室の設置及び卒業生等の配属の義務付請求は理由がないというべきである。

本件は、大学教員の講義担当等に関する就労請求権が問題となった事案です。

労働者の就労請求権は、一般的には認められていません。

本件でも、教授という職業の特殊性を考慮しつつも、就労請求権を具体的な権利として認められていません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇81(クノールブレムゼ商用車システムジャパン事件)

おはようございます。  

さて、今日は、組合役員への職務懈怠、暴言等を理由とする普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

クノールブレムゼ商用車システムジャパン事件(さいたま地裁熊谷支部平成24年3月26日・労判1050号48頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車用部品の研究開発、製造、販売等を行う会社である。

Xらは、Y社の工場で勤務していた者である。Xらはいずれも労働組合の組合員である。

Y社は、X1の行動について調査会社に関し調査を依頼した。その調査報告書によれば、X1は、組合用務として届出がなされていた時間帯において、届出どおりに組合活動を行っていなかったとされた。また、X1は、団体交渉や労使協議の場等で暴言・威嚇を繰り返しており、Y社の賞罰規定にいう「業務上の上長の指示・命令に従わず、越権専断の行為をなし職場の秩序を乱すとき」「会社内で、暴行、脅迫、傷害、暴言またはこれに類する行為をなしたとき」等に該当するとされた。

Y社は、Xらを普通解雇した。

本件訴訟につき、Y社は、Xらの提起した本件反訴のうち地位確認請求において審理判断の対象となっている事項は、本件本訴請求に包含されるものであり、確認の利益を欠くものであるとの主張を行っている。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、本件本訴において、Y社とXらとの間に雇用関係が存在しないことの確認を請求しているところ、これは、Y社に雇用契約に基づく賃金等の支払義務がないこと及びXらが雇用契約上の権利を有する地位にないことの確認を求めるものである。そうすると、本件本訴は、本件反訴である雇用契約に基づく賃金等の支払請求及びXらが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求の反対形相としての消極的確認の訴えであり、本件反訴請求の当否の判断に全て含まれる関係にあるから、Y社とXらとの間における法的紛争を解決する有効適切な手段であるということはできず、確認の利益を欠くというべきである
また、二重起訴禁止の趣旨は、相手方当事者の二重応訴の負担及び裁判所の重複審理の負担を回避するとともに、判決内容の矛盾抵触を回避する点にあり、このような趣旨に照らすと、係属中の訴訟手続において反訴を提起することは二重起訴禁止に抵触しないというべきである。
以上によれば、本件反訴は確認の利益が認められ、かつ二重起訴禁止にも抵触しないから適法であり、他方、本件本訴は確認の利益を欠き不適法であるから却下すべきである。

2 労使委員会、労使協議、職場労使懇談会などの席上でなされたXらの発言が暴言・威嚇であるとしてなされた解雇につき、就業規則上の解雇理由に該当する各発言がなされたのは、同一の労使協議の機会になされたものであり、Xらが暴言を日常的に繰り返していたとはいえず、一般に労使交渉等の場においては、日常的な会話の場面と比較して、多少攻撃的で強い表現がなされたとしてもやむを得ない面がある

3 ・・・Y社自身も、解雇理由2については、少なくとも解雇理由1との比較においては重要性が低いと認識しており、特に、(シ)の発言については解雇理由書に記載されておらず、Y社として、解雇に当たって特に重視していなかったことが明らかである

4 ・・・また、Zの暴言等はいずれもY社内部の問題であり、これによって、Y社や取引先に重大な損害を与えたり、Y社の経営や業務運営に重大な影響や支障を及ぼしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。かえって、証拠によれば、Zは、平成22年4月から同年8月までの間に、所定労働時間712時間の約51%に当たる367.75時間はY社の業務に従事していたことが認められ、Y社に対し、一定程度の貢献をしていたことが認められる。しかも、Y社は、Zの離席時間に相当する賃金を実質的には支払っておらず金銭的な負担は生じていない。

普通解雇の場合、訴訟になって、解雇理由を追加することが認められていますが、上記判例のポイント3のように判断されることがありますので、解雇理由は、できるだけ解雇と通告する際にすべてピックアップするべきです。

Y社が提起した消極的な確認訴訟については、確認の利益が否定されています。

一応、参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇80(ヒューマントラスト(懲戒解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、社員に対する機密情報持出等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヒューマントラスト(懲戒解雇)事件(東京地裁平成24年3月13日・労判1050号48頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業等を目的とする会社である。

Xは、Y社のグループ会社の取締役兼従業員を務めていた。

C社は、労働者派遣事業等を目的とする会社である。

Y社は、Xを、派遣管理システムのC社への販売、C社のシステム構築への従事およびネットワーク関連機器の手配、会社機密情報の大量持ち出し、出社命令違反、Y社からC社への集団移籍を容易にし、Y社に重大な存在を与えたことなどを理由に懲戒解雇した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、本件事情聴取では懲戒解雇のための手続を行っている旨の教示をされていないのであるから、弁明の機会の付与と見るべきではないなどと主張するが、Xは本件造反に関する事情聴取であること、C社との関わり如何によっては懲戒解雇になる可能性もあることを度々伝えられているのであるから、本件懲戒解雇事由の(1)、(2)及び(5)については実質的な弁明の機会が与えられていたとみるべきであり、Xが弁明を行わなかった事実については、X自らが弁明の機会を放棄したのであるから、これを手続上の瑕疵として主張することは許されないというべきである

2 懲戒解雇は、企業秩序維持違反行為に対する制裁として労働者を企業外に排除する処分であるから、懲戒当時使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、当該懲戒の理由とされたものではないことが明らかというべきであり、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない(山口観光事件・最高裁平成8年9月26日判決)。そして、使用者側が懲戒当時に存在を認識しながら懲戒理由として表示しなかった非違行為についても、それが、懲戒理由とされた他の非違行為と密接に関連した同種の非違行為であるなどの特段の事情がない限り、使用者側があえて懲戒理由から外したこと(当該懲戒の理由とされたものではないこと)が明らかであるから、使用者側が後にこれを懲戒事由として主張することはできないというべきである

3 ・・・しかし、前記の一連の経緯にかんがみれば、Xは、C社がY社のSS業務を派遣スタッフごと引き抜く計画であることを承知しており、これを容易にするため積極的に援助していたことが強く推認される。本件造反がY社に与えた損害の大きさやその重大性にかんがみれば、本件システムの販売(利用許諾)への関与及び本件造反への加担が強く疑われる行為については、当然、懲戒解雇の相当性を判断するにあたって考慮される情状となる
そして、前記認定事実のとおり、Xは、Y社に無断で、半年間にわたって、継続的に競業他社であるC社のシステム構築を支援していたのであり、Xが本件懲戒解雇の直前までグループ会社の取締役であったことも合わせ考えれば、その背信性は著しいといわねばならない。加えて、本件システムの導入及びシステム構築の支援により、Y社に多大な損害を与えた本件造反を容易にしたこと、Y社による調査になかなか協力しようとせず、警察に複数回通報して妨害していること等にかんがみれば、Xが転籍間もなく、他に懲戒歴などもないこと等の事情を斟酌しても、懲戒の手段として解雇を選択することもやむを得ないというべきである。

懲戒解雇が有効とされたケースです。

懲戒解雇に関する弁明の機会については、上記判例のポイント1が参考になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇79(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、データ通信サービス会社社員3名に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年2月29日・労判1048号45頁)

【事案の概要】

Y社は、データ通信サービス、テレコムサービス事業を行う、従業員数約100名(整理解雇前)の会社である。

Y社は、業績の悪化から、法人営業の拠点であった西日本支社を閉鎖するとともに、直ちに利益を生まないプロダクトマーケティング部と指定事業者準備プロジェクトを廃止することを決定し、廃止される部門の人員を主たる対象として、連結ベースで約50名、単体で32名に対して退職勧奨を行ったが、Xらはこれに応じなかった。

そこで、Y社は、Xらを整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 そもそも企業が、その特定の事業部門の閉鎖・廃止を決定することは、本来当該企業の専権に属する企業経営上の事項であって、これを自由に行い得るものというべきであるが、これを自由に行い得るものというべきであるが、ただ、このことは、上記決定の実施に伴い企業が使用者として当該部門の従業員に対して自由に解雇を行い得ることを当然に意味するものではない。わが国の労働関係が、いわゆる終身雇用制を原則的な形態として形成されたものであることは紛れもない事実ではあるが、そうした終身雇用制を前提とするか否かにかかわらず、労働者は、雇用関係が将来にわたって安定的に継続するものであることを前提として、自らの生活のあり方を決定するのが通例であるところ、整理解雇は、労働者に何ら落ち度がないにもかかわらず、使用者側の経済的な理由により、一方的に労働者の生活手段を奪い、あるいは従来より不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせるものであって、これを無制限に認めたのでは著しく信義に反する結果を招きかねないばかりか、労働者の生活に与える影響は深刻である

2 ・・・このように考えるならば、本件整理解雇の効力を判断するに当たっては、同解雇が、労使間の包括的な利益衡量により、就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある場合」に該当するか否かを判定する必要があるところ、整理解雇は、その特性等からみて、使用者は他の解雇にもまして労働者の雇用の維持をに努め、可能な限り、その不利益を防止すべき義務を負っているものというべきであり、そうだとすると上記判断には、いわゆる比例原則が妥当し、整理解雇(余剰人員の削減)という手段とその目的との間の「適合性」(整理解雇が期待された会社経営上の成果の実現を促進するか。適合性の原則)、「必要性」(整理解雇が目的を達成する上で最終的な手段か。必要性の原則)及び「適切性」(整理解雇が目的との関係で適切な均衡を保っているか。適切性の原則)の各観点からの検討が不可欠である。

3 そうだとすると、上記就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」ものといい得るためには、上記適合性の原則に基づくものとして(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(要素(1)=整理解雇の必要性)、上記必要性及び適切性の原則に基づくものとして(2)使用者は人員の整理という目的を達成するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(要素(2)=解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(要素(3)=被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきものと解するのが相当である。

4 なお、整理解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったときはもとより、そのような約款等が存在しない場合であっても、当該整理解雇がその手続上信義に反するような方法等により実行され、労契法16条の「社会通念上相当であると認められない場合」に該当するときは解雇権を濫用したものとして、当該整理解雇の効力は否定されるものと解されるが、これらは整理解雇の効力の発生を妨げる事由(再抗弁)であって、その事由の有無は、上記就業規則64条3号所定の解雇事由が認められた上で検討されるべきものであり、上記就業規則所定の解雇事由=「客観的に合理的な事由」(抗弁)の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはなり得ないものというべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇78(日本ユニ・デバイス事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本ユニ・デバイス事件(さいたま地裁平成24年4月26日)

【事案の概要】

Xは、平成18年8月、Y社と雇用契約を締結し、A社の工場内で製造業に従事していた。

Xは、形式的な6か月の更新を繰り返していたが、ある時更新をしなくなった。しかし、Xは、そのまま何ら変わることなく、労働に従事していた。

その後、Y社は、平成20年12月、Xら従業員に対し、平成21年3月末をもって辞めてもらう旨を口頭で通知した。

Xを含む従業員は、Y社と面接を行ったが、Xを含めて半数以上が不採用となり、Xは、平成21年1月末に整理解雇された。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 民法629条1項は、更新後の契約につき、民法627条による解約の申し入れが出来る旨を規定していることに加えて、賃貸借契約についても民法629条1項と同様の規定(民法619条1項)があるが、黙示の更新後の賃貸借契約は期間の定めのない契約になるものと解されていることからすると、条文の文言及び他の規定との整合性という観点からは、雇用契約が黙示に更新された場合においても、更新後の契約は期間の定めのない契約になるというのが自然の解釈といえる。さらに、当事者の意思についてみても、雇用契約において黙示の更新がなされるときとは、労働者は雇用期間が満了したにもかかわらず労務を継続する一方で、使用者は期間雇用という契約形態の基礎をなし、かつ通常容易になし得る更新手続きをしないまま労働者による労務の継続を黙認しているという点において、当事者間で期間の定めが重視されているとは言い難い。したがって、雇用契約につき黙示の更新がなされた場合における、更新後の契約は、期間の定めがない契約になると解するのが相当である
これに対してY社は、更新後の契約は期間の定めを含めて従前と同一の条件になると主張する。しかしながら、このような解釈は更新後の契約につき民法627条による解約の申し入れが出来るとされていることと整合しないし、賃貸借と雇用とで同様の規定について異なる解釈をすることを合理的に説明することも困難である。また、解雇権濫用法理等が雇用契約の拘束力に一定の変化をもたらしたことは否定できないにしても、そのことが直ちに民法の規定の解釈にまで影響を及ぼすものとは考え難い

2 整理解雇は、Xの責めに帰すべき理由によるものではないことに鑑み、本件解雇の有効性は、人員削減の必要性、解雇回避努力の履行の有無、被解雇者選定基準の妥当性、解雇手続の妥当性等を総合的に考慮した上で、本件解雇がY社の経営上の措置として社会通念上相当であるといえるか否かという観点から判断すべきである。

3 解雇回避努力については、確定的ではなかったにしろ、将来的に受注増加により、雇用を確保し得る可能性は否定されていなかったのであり、解雇をすることなくXら従業員の雇用を継続することができた可能性もあるにもかかわらず、解雇に先だってこのような可能性について具体的な検討がなされた事実は認められない。
その他に、Y社の経営上必要な人員削減の内容について、経営の見通しに関する数値等を根拠とした具体的な検討がなされた形跡は証拠上認められない
また、Y社は、解雇通告と同時に、Xら従業員に対して何ら具体的取り決めのないワークシェアリングの提示をしたが、ワークシェアリングの内容に関する具体的な検討や交渉が行われたものとは認められない。また、ワークシェアリングの提示は、解雇通告と同時ないしその後に行われており、本件解雇に先だって検討されたものとは認められない

4 被解雇者選定基準の妥当性については、Y社が重視したとする協調性や体力という点について、基本的には面接におけるやり取りに基づいて評価されているが、これらの資質は面接における短時間のやり取りの中で容易に判断し得るものではなく、その他客観的な資料が用いられたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、恣意的な判断が介在する余地があったものといわざるを得ず、その判断が客観的な基準に基づいて適正になされたものとは認められない

5 手続の妥当性については、経営状況等について説明会を開催したり、書面を示して説明するなどして人員削減の必要性等につきXら従業員の理解を得ようとした事実は認められない

6 ・・・Xが一貫してY社への復帰を求めていたのは当裁判所に顕著な事実であるところ、その間の生活を維持するためにXに一定の収入が必要であったことは明らかであるから、Xが新就労先に就職することは、XがY社への復帰を求めることと直ちに矛盾するものではない。

非常に参考になる裁判例です。

6か月の期間の定めのある契約が黙示の更新により、期間の定めのない雇用契約となるかについて、裁判所は、肯定しています。

整理解雇の有効性に関する判断についても、その判断方法は参考にすべき点がとても多いですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇77(日本航空運航乗務員解雇事件)

おはようございます。

さて、今日は、会社更生手続中の航空会社の運航乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空運航乗務員解雇事件(東京地裁平成24年3月29日・労経速2144号3頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Y社は、平成22年1月、会社更生手続開始の申立をした。

管財人は、更生手続開始決定後終結前に、Y社の就業規則所定の解雇事由(「企業整備等のため、やむをえず人員を整理するとき」)に該当するとして、Y社の運航乗務員である機長、副操縦士を整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 会社更生法上、労働契約は双方未履行双務契約として、管財人が解除又は履行を選択し得る(同法61条1項)が、管財人は、労働契約上の使用者としての地位を承継している以上、管財人の上記解除権は、解雇と性格づけられるところ、権利濫用法理(労働契約法16条)は、管財人が行った本件解雇についても当然に適用され、本件解雇は使用者の経営上ないし経済上の理由によって行われた解雇なのであるから、上記の解雇権濫用法理の適用に当たっては、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、解雇対象者の選定の合理性の有無及び程度、解雇手続の相当性等の当該整理解雇が信義則上許されない事情の有無及び程度という形で類型化された4つの要素を総合考慮して、解雇権濫用の有無を判断するのが相当であり、このことは当該更生手続が、いわゆる事前調整型(プレパッケージ型)の企業再建スキームとして利用されたものであるか否かにより結論を異にする根拠はないのであり、本件更生手続が機構の支援と会社更生手続を併用して事業廃止を回避した事前調整型企業再建スキームであることは結論を左右するものではない

2 Xは、平成22年12月時点で、Y社は更生計画を大きく上回る営業利益を計上している等から本件解雇は回避することは経営上十分可能であったと主張するが、本件解雇は更生計画の遂行(会社更生法209条1項)として行ったものであり、更生計画を上回る収益が発生したとしても、このような収益の発生を理由として、更生計画の内容となる人員削減の一部を行わないことはできない

3 Y社は、本件解雇に先立ち、平成20年10月に賃金の5%減額を行い、平成22年4月~同年12月の間に基準内賃金及び代表的な手当の各5%減額等を行い、これによりJALIの運航乗務員の平成22年度の賃金水準は平成17年度の75%の水準まで低下したこと、平成22年3月~8月の間、2度にわたり特別早期退職を募集して約374名の運航乗務員が応募したこと、同年9月~同年12月9日の間に、4度にわたり希望退職を募集して、稼働ベースで279名の運航乗務員が応募したこと、同月10日~同月27日の間に、希望退職を募集して、稼働ベースで12名の運航乗務員が募集したことから、Y社は本件解雇に先立ち、一定の解雇回避努力を行ったことが認められる

4 Y社は、平成22年9月29日~同年12月24日の間、運航乗務員を組合員とする日本航空乗員組合及び日本航空機長組合との間で、それぞれ13回の団体交渉・説明を行ったこと、本件解雇の対象者に対しても、所定退職金の他に、平均約350万円の特別退職金と所定解雇予告手当の趣旨も含む賃金5か月分の一時金を支給して、その不利益を緩和する措置を採ったことを併せ考慮すると、本件解雇の過程において、整理解雇が信義則上許されないとする事情は認められない

先日、紹介した日本航空(整理解雇)事件と同じ結論です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇76(クレディ・スイス証券(休職命令)事件)

おはようございます。

さて、今日は、休職命令・休職延長命令の有効性と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

クレディ・スイス証券(休職命令)事件(東京地裁平成24年1月23日・労判1047号74頁)

【事案の概要】

Y社は、総合的に証券・投資銀行業務を展開している会社である。

Xは、大学卒業後、複数の証券会社勤務を経て、平成16年、Y社に入社した。

Y社は、平成21年当時、通常の営業活動に基づく経営資源の投入コストを前提とした場合、コア・アカウント(重要顧客)のY社に対する評価が5位以内であれば、損益分岐ラインを十分に超える売上手数料を稼ぐことができ、収益を維持することができるものと考えていたため、Y社は、全コア・アカウントのY社に対する評価を5位以内にすることを、株式営業部の営業担当の必達の目標として設定し、全営業担当者に対し周知した。

同年5月、株式本部長Aは、平成21年度第1四半期のXが担当する4つのコア・アカウントのうちの2つのランキングが6位であったことから、Xに対して、役職に求められる成果が発揮できない場合に、改善すべき点を示した警告書を交付し、人事部を交えてそのパフォーマンスの改善を定期的に進捗確認し、必要に応じて指導を行うための業務改善命令を発令することとし、これを伝えるためにXと面談のうえ、人事部のBヴァイスプレジデントを通じて、Xに対して警告文を手渡した。

また、A本部長は、Xに対し、業務改善プロセス下で改善に至らず同じ結果に至のであれば、退職して別の道を進むという選択肢もあるのではないかと告げ、同席していたBヴァイスプレジデントが、Xに対し、一般的な退職手続について説明した。

これに納得しなかったXは、Y社内に入るためのアクセスカードを返却したうえで帰宅した。

Xは、弁護士を通じて、Y社に対し、復職を求めた後、交渉がなされたが、合意に至らず、Y社はXに対し、平成22年6月、解雇する旨を通知した。

解雇理由は、Y社の就業規則所定の「従業員の労働能力が著しく低下し、又は勤務成績が不良で改善の見込みなく就業に適さないと会社が認めたとき」に準ずるやむを得ない事由であった。

【裁判所の判断】

休職命令・休職延長命令は無効

解雇は無効

Y社に対して慰謝料100万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 本件休職命令が、その期間、原則として無給扱いとなり、勤続年数に通算されないという不利益が労働者側にあることに照らすと、Y社の就業規則の規定は、Y社に対し、無制限の自由裁量による休職命令権を付与したものと解することはできず、合理性が認められないような場合には、当該命令は無効である

2 本件業務改善プロセス期間における一連のY社の対応がパワーハラスメントに当たるとのXの見解が一方的で事実無根であると評価することはできず、Xの同見解に基づく留保付きの職場復帰命令に従う旨の意思表示は、職場復帰命令が、就業規則の合理的な規定に基づく命令である限りという留保であって、パワーハラスメントに関する見解の相違問題とは切り離して、職場復帰問題を解決しようとするX側の姿勢をみて取ることができるので、このようなX側の態度をもって、実質的な職場復帰命令の拒否に該当するものと評価することはできないことから、本件休職命令・本件休職延長命令は無効である

3 Xは、本件警告書の交付時点で平成21年代2四半期の評価期間が50日程度残っていた他の顧客については、評価が上昇し、5位必達の目標を達成することができていることに照らすと、4社のうち1社の同四半期におけるY社に対する評価が低いことをもって本件解雇の理由とすることは、改善可能性に関する将来的予測を的確に考慮した解雇理由であるということができず、合理性を欠く

4 賞与請求権は、使用者が労働者に対する賞与額を決定して初めて具体的な権利として発生するものと解するのが相当であり、本件の賞与に関する定めは、極めて一般的抽象的な規定にとどまるものであるといわざるを得ず、個別具体的な算定方法、支給額、支給条件が明確に定められ、これらが労働契約の内容(Y社の債務)になっているものとは認められず、また、前記の賞与の定め方や、これまでのXに対する支給額の変動の激しさに照らすと、X主張のような賞与に対する期待が法的に保護されたものと認めることはできない。

5 Xのメールアドレスを抹消したことや、Xが長期休職するとの通知を顧客にしたこと、Xを解雇したとの告知を他の従業員にしたことについては、特に、Xが、本件業務改善プロセスに基づき2回目の面談から程なくして代理人を選任し、Y社と復職交渉をするに至っていることに照らすと、もう少し穏便な対応策やアナウンスの仕方があったと思われるのであり、その限りにおいて、違法性を有することから、Xは、上記認定の限りにおいて、精神的苦痛を被ったとして、慰謝料として100万円が相当である。 

休職命令の合理性の判断は、とても難しいです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。