Category Archives: 解雇

解雇95(コアズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、営業開発部長の降給・降格処分と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

コアズ事件(東京地裁平成24年7月17日・労判1057号38頁)

【事案の概要】

Y社は、警備業務等を業とする会社である。

Xは、平成20年2月頃、Y社に採用された後、営業開発部長として就労してきたが、降給処分を受け、営業開発部長から降格された後、解雇された。

Xは、上記降給、降格の各処分および解雇がいずれも無効であると主張して、Y社を相手として提訴した。

なお、Xは、本件訴訟係属中に、破産手続開始の申立をしたため、途中から破産管財人が訴訟手続を受継した。

【裁判所の判断】

給与の減額は無効

第一営業部長から「独任官」と称する地位への降格は無効

解雇は無効

【判例のポイント】

1 賃金が、労働者にとって最も重要な権利ないし労働条件の1つであることからすれば、上記給与規程の定めが存するとはいえ、その変更を、使用者の自由裁量で行うことが許容されていると解することはできず、そのような賃金の減額が許容されるのは、労働者側に生じる不利益を正当化するだけの合理的な事情が必要であり、そのような事情が認められない以上、同賃金減額は無効になると解するのが相当である。そして、そのような賃金減額の合理性の判断に当たっては、減額によって労働者が被る不利益の程度、労働者の勤務状況等その帰責性の有無及び程度、人事評価が適切になされているかという点など、その他両当事者の折衝の事情を総合考慮して判断されるべきであると解される。

2 ・・・以上を総合するに、まず、本件給与減額1については、その減額幅は30万円を超えるもので著しく大きく、これによりXの受ける不利益には甚大なものがあるといわざるを得ない。他方、Xの帰責性という点に関し、Y社主張にかかる10名の営業部長の採用という業務については、それが実現されなかった場合に給与減額等につながることが合意されていたとはいえない上、実質的にも、Y社において、給与減額の理由とすることは明らかに不合理である。また、Xの勤務状況、勤務態度等についてみても、Y社主張の客観性が担保されているとはいえない状況であるのみならず、恣意的な人事が行われている状況も窺われることからすれば、いずれも、かような多額の給与減額の根拠とはなり得ないものである。
なお、Y社は、Xが本件給与減額1の後、約1年以上も明確な異議を申し立てていないことを挙げて、同Xが同給与減額に同意していた旨主張する。仮に、かようなXの態度をもって同意と評価することができるにしても、同給与減額が大幅な減額である以上、それなりの合理的な事情に基づくのでなければ、真意に基づく同意があるとは推認し難いところ、前記のとおり、そのような合理的な事情は認められないのであるから、これを真意に基づく同意であると認めることはできない
これらの事情によれば、本件給与減額1は無効と認めるのが相当である。

3 職位の引下げとしての降格については、使用者は、人事権の行使として、広範な裁量権を有するが、その人事権行使も、裁量権の逸脱、濫用に当たる場合には無効になると解される。
これを本件についてみるに、Xは、平成22年4月に、D本部長が「独任官」と称する部下のいない地位に降格されているが、Y社が特命事項と称する10名の営業部長の採用を実現できなかったことが降格の理由となり得ないことは明らかであるし、Xの勤務状況は、Y社が主張するほどに劣悪であったとは認められず、降格に値するような確たる非違行為があったわけでもないこと、Y社において恣意的な人事が行われている実態が窺われることなどに照らすと、Xに対する本件降格処分については裁量権の濫用があるというべきであって、これを無効と認めるのが相当である

4 以上にみたとおり、Xの本件特命事項の不履行、同Xの勤務成績、勤務状況の低劣さといった主張により、降給処分及び降格処分の有効性を基礎付けることはできないことからすれば、いわんやそれよりも重い処分である解雇の有効性を基礎付けることはできないのは明らかである。したがって、本件解雇は無効である。

給与減額については、それを使用者の裁量で行うことができる規定があったとしても、相当な合理性がなければ認められません。

また、この裁判例は、Y社において恣意的な人事が行われている実態が窺われることを間接事実として評価しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇94(長崎県公立大学法人事件)

おはようございます。 また一週間が始まりましたね。今週もがんばっていきましょう!!
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ほしい方は事務所までお越し下さい。

さて、今日は、大学教授が勤務時間中に企業経営に当たったことを理由とする懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

長崎県公立大学法人事件(福岡高裁平成24年4月24日・判タ1383号228頁)

【事案の概要】

Xは、Y大学法人が運営する県立大学に勤務する教授である。

Xは、当時、県関係者の支援により設立されたベンチャー企業の代表取締役となった。

Y大学法人は、Xが大学の勤務時間内に必要な許可等を得ずにその経営に当たったことを理由に停職6月の懲戒処分に付した。

これに対し、Xは、本件懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認等を求めた。

なお、第1審は、本件懲戒処分は無効と判断した。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→懲戒処分は無効

【判例のポイント】

1 本件懲戒処分の理由は、Xの多数かつ長時間に及ぶ無断欠勤及びY大学法人理事長がXに対し兼職従事の実施状況の報告を求めたにもかかわらずXはこれに従わなかったことであるところ、前者の無断欠勤については、その回数及び時間の程度が、本件就業規則47条所定の懲戒の種類の選択及び減給あるいは停職が選択された場合の金額あるいは期間を定めるに際し重大な影響を与えることから、その認定に際しては、Y大学法人が主張する各欠勤日ごとに、その有無、時間及び理由について、証拠並びにY大学法人の反論及び反証を踏まえた慎重な検討を行うことが必要である。

2 ・・・以上認定した事実によれば、Y大学法人は、Xの欠勤を理由とした本件懲戒処分を行うに際し、上記欠勤の具体的内訳(欠勤の日数、各日の欠勤時間)及びこれを検証することのできる資料を交付していないことに加え、弁明を行う日の通知から弁明の実施までわずか3日しかないことに鑑みれば、Xが独自に資料を入手するなどして、Y大学法人が主張する欠勤状況の正確性についての検討及び反論をすることはできなかったことが認められ、これがXにおける防御活動の妨げとなることは明らかである
そして、上記のとおり、欠勤を理由とした懲戒処分においては、欠勤の日数及び時間の程度が、本件就業規則47条所定の懲戒の種類の選択及び減給あるいは停職が選択された場合の金額あるいは期間を定めるに際し重大な影響を与えることからすれば、Y大学法人がXに対して行った本件懲戒処分に至る手続のうち、Xの欠勤の認定には、重大な瑕疵があり、乙8あるいは乙38記載の欠勤日数を、そのまま本件懲戒処分の相当性の判断の基礎とすることは許されないというべきである

3 ・・・以上を前提に本件懲戒処分の相当性について検討するに、本件懲戒処分における停職は、懲戒解雇に次ぐ重い処分であり、6か月という期間は最長期間である。そして、Xに対し停職処分が行われた場合には、処分それ自体によって同人の法的地位に一定の期間における職務の停止及び給与の全額の不支給という直接の職務上及び給与上の不利益が及び、将来の昇給等にも相応の影響が及ぶこと、同人の研究活動に重大な支障を来すことになることからすれば、その実施は慎重になされるべきものである。
すると、(1)バイオラボ事業は、長崎県及びY大学法人の並々ならぬ意向により開始されたものであり、Y大学法人における勤務時間の管理は形骸化していたことと併せると、Xにおいて勤務時間の振替申請や休暇届等の必要な手続を怠ったことについて、その全てをXの責任とするのは相当ではないこと、(2)Y大学法人主張の欠勤数をそのまま本件懲戒処分の前提とすることは許されないこと、(3)中国渡航による終日欠勤については、合計日数は59日となるものの、本件懲戒処分の対象となった平成15年10月から平成20年11月における年平均渡航日数は12日程度に過ぎないことに加え、(4)Y大学法人関係者は、本件懲戒処分後もなお、Xの欠勤による大学業務への支障は生じていなかった旨長崎県議会で答弁していること、他にXの欠勤により大学業務について相当な支障が生じたことを認めるに足る証拠はないことからすれば、文書提出についての職務命令違反を考慮しても、Xについて停職とすることは重きに失するというべきである。

本件は、解雇事案ではなく、停職処分ですが、一応解雇のグループに入れておきます。

控訴審でも、第1審同様に、懲戒処分は無効であると判断しました。

ちなみに、第1審は、大学関係者によるベンチャー企業創設に対する当時の県知事の意向、大学関係者の言動、会社におけるXの地位・役割、大学の勤務時間内に行われた会社に関する行事に大学関係者が多数回参加していたこと、Xの勤務時間内の兼業についてY大学法人は注意・警告をしなかったこと、勤務時間について、大学が実態として裁量労働制と同様の運用をしていたことを指摘して、本件時間内兼業について黙示の承認がなされていたという理由により、懲戒処分を無効と判断しました。

これに対し、第2審は、Y大学法人の黙示の承認については認めませんでした。

参考にすべきは、上記判例のポイント2の手続面に関する判断です。

懲戒処分を行う際は、手続面にも留意して慎重に行う必要があります。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇93(ライトスタッフ事件)

おはようございます。

さて、今日は、分煙措置を求めた試用労働者の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ライトスタッフ事件(東京地裁平成24年8月23日・労経速2158号3頁)

【事案の概要】

本件は、試用期間中のXが受動喫煙による健康被害を理由に休職処分を受けるなどした後に解雇されたことを不当とし、併せて受動喫煙に関する安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した事案である。

Y社は、生命保険の募集に関する業務及び損害保険の代理業等を業とする会社である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 留保解約権の行使は、留保解約権の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解するのが相当であるところ、本件採用拒否は、(1)Y社就業規則61号に定める解雇事由(解約事由)に該当する事実が存在し(「適法要件A」)かつ、(2)その行使が社会通念上相当として是認される場合(「適法要件B」)に限り許されるものというべきである。

2 留保解約権の行使は、実験・観察期間として試用期間の趣旨・目的に照らして通常の解雇に比べ広く認められる余地があるとしても、その範囲はそれほど広いものではなく、解雇権濫用法理の基本的な枠組みを大きく逸脱するような解約権の行使は許されない

3 本件解約権行使が「解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当として是認されるか」(適法要件B)の有無は、解約権の留保の趣旨・目的に照らしつつ、(1)解約理由が重大なレベルに達しているか、(2)他に解約を回避する手段があるか、そして(3)労働者側の宥恕すべき事情の有無・程度を総合考慮することにより決すべきである。

4 本件解約権の行使が正当化されるためには、通常の解雇ほどではないとしても、それ相応の解約回避のための措置が執られていることが必要と解されるところ(要素2)、XがY社代表者等から受動喫煙に曝される場所でY社の保険業務を行っていたことは紛れもない事実であるから、Y社代表者は、使用者の責務として(労契法5条)、他覚的知見の提出の有無にかかわらず、Xに対し、より積極的に分煙措置の徹底を図る姿勢を示した上、あくまで保険営業マンとしての就労を促し、その勤務を続けさせ、その中で、改めて体調の回復具合や保険営業マンとしての能力、資質等を観察し、Y社社員としての適格性を見極める選択肢もあることに思いを致す必要があったのに、Xが本件休職合意を選択したのを機に、事実上とはいえXをY社事務所から締め出すに等しい措置を講じるとともに、Xの本件対応の拙さが認められるや直ちに、間髪を入れず、本件解約権を行使したのは、これを正当化するに足る解約回避のための措置が十分に講じられていなかったものと言わざるを得ないので、本件解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当として是認される場合には当たらず、適法要件Bを満たさない

5 労働契約に基づく労働者の労務を遂行すべき債務の履行につき、使用者の責めに帰すべき事由によって、上記債務の履行が不能になったときは、労働者は、使用者に対して、賃金の支払を請求することができ(民536条2項)、使用者が労働者の就労を事前に拒否する意思を明確にしているときも、上記労働者の労務を遂行すべき債務は履行不能となるものと解されるが、その場合であっても当該労働者は、その履行不能が使用者の責めに帰すべき事由によるものであることを主張立証することを要し、その前提として、自らは客観的に就労する意思と能力を有しており、使用者が上記就労拒絶(労務の受領拒絶)の意思を撤回したならば、直ちに債務の本旨に従った履行の提供を行い得る状態にあることを主張立証する必要があるものと解するのが相当であるところ、Xは本件再就職を機に、Y社において就労する意思と能力を有しているとは認められない状態に至ったものというべきである

6 もっとも、この点、Xは、同日以降もY社において就労する意思と能力がある旨主張し、その尋問でも、これに沿う供述をしている。しかし上記のとおりXは、正社員としてY社とは全く異なる職種の税理士法人に本件再就職しており、その勤務時間や業務内容は、Y社における就労と両立し得るものでないことは明らかである上、Y社と比べ月額給与の額(額面額)は遜色なく、賞与として給与の1.5か月分が支払われる約束であること、そして、Xは、本件再就職までの間にCFPのほかに、社会保険労務士の資格を取得しており、敢えて受動喫煙の有害性について理解に乏しいものと思われる使用者の下で保険業務の仕事を続けなければならない理由は見当たらず、むしろ新たな職場(本件再就職先)で心機一転を計ろうとするのが通常と思われること、などの事情を指摘することができる。これらの事情に照らすと、少なくとも客観的にみる限り、本件再就職の時点でもなおY社において就労する意思と能力を有していたことを認めるに足る証拠はない

非常に参考になる判例です。

まず、試用期間中の留保解約権の行使(解雇)について、「試用期間中だから解雇も認められやすい」と簡単に考えている方は、上記判例のポイント2は注目すべきです。

また、解雇後、別会社で就職した場合における取り扱いについては、上記判例のポイント6での判断は頭に入れておくべきです。

実際の訴訟においても、復職の意思が有無という形で争いになることがありますが、労働者側とすれば、注意すべき点です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇92(F社事件)

おはようございます。

さて、今日は、精神疾患により休職した者の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

F社事件(東京地裁平成24年8月21日・労経速2156号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社(コンピュータのソフトウェアの作成及び販売等を目的とする会社)に正社員として勤務していたXが、Xの休職は業務上の傷病によるものであるにもかかわらず、Y社は、これを業務上の疾病によるものでないとして扱った結果、平成21年12月31日をもって休職期間満了による事前退職扱いとしたものであって、当該退職は無効である旨を主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めた事案である。

なお、Xは、自分が精神疾患による休職を余儀なくされたのは、(1)Y社の従業員Cからパワーハラスメントを受けたこと、(2)Y社の産業医Dが産業医として不当ないし不適切な行為をしたこと、(3)Y社健康保険組合がXの傷病を「私傷病」として取り扱ったこと、(4)Y社労働組合が、Xの力とならず会社側の立場で行動したこと、及び(5)XがA社の業務に従事していた際に、A社から過重労働を強いられたことが原因であると主張して、各被告らに対し、不法行為ないし使用者責任に基づき慰謝料の支払をも求めている。

【裁判所の判断】

本件退職扱いは有効

慰謝料請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則においては、業務外の傷病による欠勤が引き続き6か月に及んだときは、その翌日から一定期間休職とするものとされており、さらに、休職となった者が休職期間満了までに休職事由が消滅しないときは同日をもって自動的に退職とするものとされているところ、休職期間満了時に休職事由たる精神疾患が寛解していたと認めるに足りる証拠はないから、Xは、Y社を自動的に退職したというべきである

2 平成16年2月にXが「うつ状態」との診断を受ける直前の6か月間のうち、100時間を超える残業のあった月が5か月あったことなど、Xの精神疾患が業務に起因するものであることを疑わせる事情も認められないではないが、少なくとも当該事実のみによっては、Xの傷病が業務上のものであると直ちに断定することはできない

3 Xは、当裁判所の再三の釈明にもかかわらず、業務と傷病との間の相当因果関係の存在について具体的な主張及び立証(特に医学的な見地からの主張立証)をしようとしないから、本件においては、Xの傷病につき業務起因性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず(なお、Xは、多数の人証申請をしているが、いずれも上記相当因果関係の立証との関係では取調べの必要性が認められない。)、結局、本件退職扱いの無効をいうXの上記主張は採用の限りではないというべきである。

4 Xは、Cのパワーハラスメントが原因となって、本件退職扱いの結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮にX主張に係るCの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、Cの行為がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、Cのパワーハラスメントを理由とするXの慰謝料請求は理由がない。

5 Xは、Dが産業医として不当・不適切な行為をしたため、Xは職場に復帰することもできず、本件退職扱いという結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮にX主張に係るDの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、Dの行為が産業医として不当ないし不適切であったと評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、XのDに対する慰謝料請求は理由がない。

この事案では、原告は、考えられるあらゆる相手の行為を損害賠償の対象としましたが、すべて棄却されています。

なかには、さすがに難しいだろう・・・と思われるものもありますが、代理人の考えがあってのことだと思います。

うつ状態になったことは、労災であるから、事前退職扱いは無効であるという主張はあり得る主張です。

今回は、業務起因性が否定されたため棄却されましたが、争点としてはよく見かけるものです。

うつ状態になる直前半年間のうち5か月は残業が100時間を超えているようですが、裁判所は、この事実だけでは業務起因性を肯定することはできないと判断しました。

裁判所としては、残業時間が多いのはわかったから、協力医の意見書を提出する等、医学的見地からの立証もしてほしいと求めましたが、難しかったようですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇91(甲社事件)

おはようございます。

今日は、勤務態度不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁平成24年7月4日・労経速2155号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、同社の行った解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認と未払給与、賞与の支払を求めるとともに、上司らが共謀して、Xに対する嫌がらせ・ハラスメント(虐待行為)を行ったとして、上司らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求を求め、また、Y社に対して安全配慮義務違反による債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

なお、Y社は、主にコンピューターソフトウェアの設計、販売及び輸出入を業とする会社である。

Xは、平成18年11月にY社に採用された。職務内容は、顧客に対するサポートシステムの保守及び新規機能追加の対応業務、各種プロジェクトの計画、進捗管理、ドキュメント作成、下請け業者のマネジメント業務であった。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件解雇の具体的な理由として上げられている上記(1)ないし(3)の点については、上記のとおり、いずれもこれを認めることができる。具体的に、(1)に関して、Xは、これまでの業績が評価されて昇進したCに対して嫉妬し、Cのみならず、Dに対しても上司に対する尊厳を欠いたような発言を繰り返している。
また、(2)に関して、Xは、組織変更前の問題があるとされる仕事の進め方にこだわり、組織変更後の新しい方針を受け入れないまま、何事も自分が担当するプロジェクトが最優先で行おうとして、Dの指示や指導に従わなかったことが認められる。
さらに、(3)に関して、Xは、保守・サポート課に異動した後も、Y社の開催するワークショップに対して、根拠なく批判的な態度を取る、Navi2.2プロジェクトをたびたび紛糾させるといった行動を取る、E課長やDの指示や指導に従わない姿勢を取る、E課長から態度を改めないとPMの仕事に携わることはできないと指導されても、これに理解を示さず、自己の能力をアピールし続け、PMとしての仕事をさせて欲しいと要望し続ける等し、周囲の社員から一緒に仕事をしにくい人であるといった評価を受けていることが認められる。

2 以上からすると、Xには、Y社が求めている協調性が欠けており、また指導されても、自分の姿勢を改めようとしなかったことは明らかであり、かかるXの協調性不足を解雇の理由とした本件解雇については、客観的に合理的な理由があるといえる

3 次に、本件解雇が、社会通念上相当といえるかについて検討する。
・・・以上からすると、本件解雇に至るまでに、Y社は、Xに対して、再三にわたって指導注意を行った上で、それに応じようとしないXに対し、BA部以外の他部署への異動を勧奨し、さらに退職勧奨を行い、合意による退職の方途を探っており、Xとかなり時間を掛けて協議を行っていることが認められる。しかしながら、他部署への異動については、Xにやる気がなかったことなどから実現しなかったものである。また、退職勧奨についても、Xが、C、Dの謝罪の仕方にこだわったため、これが実現しなかったものである。なお、CやDについては、Xが主張するような事実自体認められない、あるいはパワーハラスメントとして評価しうるような行為はなかったものであり、C及びDが不法行為責任を負うものではない。
そして、Xが、Qに対して、Y社から他部署への異動のための面接を受けるよう指示されたことについて「この会社あほ???」と述べたり、他部署へ異動を命じられると「和解金も取れないし、パワハラも訴えられない」と述べていることからすれば、Xは、Y社の本件解雇を回避するために取られた他部署への異動打診といった措置をあざ笑うかのように不誠実な対応をとり続けたことは明らかであり、Xにやる気がみられないとして他部署からの受け入れを断られたものもXに原因があるといわざるを得ない。かかるXに対して、退職勧奨を経た上で行われた本件解雇は、やむを得ないものとして社会通念上相当といえる。

勤務成績不良を理由とする解雇を有効に行うことは、一般的にはハードルが高いといえます。

正直なところ、私は、その原因が使用者側にあると考えています。

勤務成績不良を理由とする解雇が無効になってしまう主な理由は、使用者の労働法や判例に関する知識不足にあります。

労使紛争に長けている顧問弁護士等がいる場合であればともかくとして、そうでない場合、使用者は、所定の手続を踏むことなく、すぐに解雇してしまう。そうすると、多くの場合、解雇は無効と判断される。

今回の裁判例を読むだけでも、どのようなことを事前にすべきかを読み取ることは十分に可能であると思います。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇90(シーテック事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働者に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

シーテック事件(横浜地裁平成24年3月29日・労判1056号81頁)

【事案の概要】

Y社は、持株会社であるR社のグループ会社として労働者派遣事業を営む会社である。

Xは、Y社との間で労働契約を締結し、派遣労働者として就労していた。

Y社は、平成21年6月末、Xを整理解雇した。

Xは、本件整理解雇は要件を満たしておらず無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇(整理解雇)であるから、その有効性については慎重に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という4要素を考慮することが相当である。

2 ・・・これらの事情を考慮すると、本件解雇当時、Y社において、支出の相当割合を占める人件費を削減することが求められていたというべきであり、Y社が、R社に対する貸付けを放棄し、R社に対する経営指導料等の支払債務とR社に対する貸付金の相殺を行っていないことを考慮すると、切迫性には検討の余地はあるものの、Y社において、人員削減の必要性が生じていたことは否定し難い

3 Y社は、平成20年10月以降、間接部門の従業員を対象に希望退職の募集をしたり、技術社員の一時帰休を実施したり、新規採用中止を決定したり、事務消耗品購入の禁止、時間外労働の削減などにより経費を削減し、また、利益がない場合であっても派遣先との契約を締結する方針を取るなどして契約数を増やすための努力をしていたことが認められる
しかし、Y社は、Xを含む技術社員に対しては希望退職の募集を行わないまま、平成21年3月10日時点で待機社員であった技術社員及びそれ以降に待機社員となる全ての技術社員を対象に、整理解雇を実施することを決定し、同年3月17日以降、技術社員が待機社員になる都度、解雇通知を行っていたのであって、Y社が整理解雇の実施に当たって削減人数の目標を定めていたかも明らかではない。また、Y社では、本件解雇の通知前である同年4月に整理解雇により2774人及び同年1月ないし同年4月に退職勧奨等により1309人の人員削減が終了していたところ、それ以降、さらに整理解雇を実施する必要性があるか否かについて真摯に検討したことが証拠上窺われない。これらの事情からすれば、Y社が、本件解雇当時、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避する努力を十分に尽くしていたとは認めることができない
この点、Y社は、技術社員に対して希望退職の募集をしなかった理由を、優秀な技術社員が流出することでかえって資金繰りを悪化させるおそれがあったためと主張するが、Y社が、個々の技術社員の有する技術や経歴等を一切考慮することなく、待機社員であることのみをもって整理解雇の対象としたことからみても、上記Y社の主張は、不合理というほかない

4 Y社は、本件解雇の有効性の判断に当たっては、労働者派遣事業の特殊性について考慮すべきであると主張する。派遣労働者が派遣先企業における業務の繁閑等に対応するための一時的臨時的な労働力の需給調整システムとして雇用の調整弁としての役割を担っていることは理解できるところである。しかしながら、本件で問題になっているのは、労働者派遣事業を営む者と派遣労働者との間の労働契約であって、派遣労働者が派遣先企業において労働力の需給調整システムとして雇用の調整弁としての役割を担っていることから直ちに労働者派遣事業を営む者と派遣労働者との間の労働契約が不安定なものであることは導かれない。労働者派遣事業を営む者は、自ら雇用する派遣労働者が派遣先企業の雇用の調整弁となり、労働を提供することができないことがあり得るというリスクを負担する一方で、派遣労働者を企業に派遣することで利益を得ている側面を否定できないから、派遣労働者が派遣先企業との間の派遣契約の終了により一時的に仕事を失っても、そのことだけから直ちに解雇できないことはいうまでもない。労働者派遣事業を営む者としても、その雇用する派遣労働者との間の雇用期間を定めるなど、前記リスクを軽減することは可能である上、労働者派遣事業法30条も「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者について、各人の希望及び能力に応じた就業の機会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上その他雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、これらの者の福祉の増進を図るように努めなければならない。」と定め、派遣労働者の雇用の安定を図るように求めているところである。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇89(ジャストリース事件)

おはようございます。

さて、今日は、会社解散に伴う元代表取締役に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ジャストリース事件(東京地裁平成24年5月25日・労判1056号41頁)

【事案の概要】

Y社は、リース・割賦販売事業、債券売買等を事業内容とする会社である。

Xは、18年12月、Y社の取締役に就任し、20年2月、同代表取締役に就任した。

Y社は、22年2月、解散し、同年4月、特別清算が開始された。

Xは、解散決議日に、Y社の代表取締役を退任し、22年3月、Y社との間で「雇用契約書」と題する書面を取り交わし、Y社の「本社 管理職」の地位に就き、従前と同様に、部下3名のチームリーダーとして、途上与信管理、管理債権処理(債権回収を含む)等の業務に従事した。

その後、Y社は、Xに対し、就業規則45条1項4号(「会社の経営戦略あるいは組織の変更に伴い、社員の職務の必要性がなくなったと会社が判断したとき」)および5号(「前各号に準ずる事由のあるとき」)に基づき、解雇する旨の意思表示をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効

不当解雇を理由とする損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 労基法9条の「労働者」とは、「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」、すなわち他人(使用者)のために労務を提供しその対価たる賃金等を得て生活する者をいい、これに該当するためには、法的従属関係すなわち労務提供全般にわたり使用者の一般的な指揮監督を受ける関係(法的従属性)が存在していることが必要である。

2 ・・・以上によると本件契約書は、Xが、平成22年3月1日から本社において、所定の休日を除いた就労日に、所定の就労時間(午前9時15分から午後6時)、管理職としての業務に従事することを定め、これに対しY社が所定の支給日に月次給月額87万5000円をXに支払うことを約した契約書面であると認められ、そうだとすると本件契約はまさに「労働契約」そのものであって、特段の事情が認められない限り、本件契約の一方当事者であるXは、使用者たるY社のために労務を提供し、その対価たる賃金等を得て生活する者、すなわち労基法上の「労働者」に該当するものというべきである

3 整理解雇は、労働者に何ら落ち度がないにもかかわらず、使用者側の経済的な理由により、一方的に労働者の生活手段を奪い、あるいは従来より不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせるものであって、これを無制限に認めたのでは著しく信義に反する結果を招きかねないばかりか、労働者の生活に与える影響は深刻である。このような整理解雇の特性等に照らすと使用者は、いわゆる比例原則に則り、雇用契約上、他の解雇にもまして労働者の雇用の維持に努め、可能な限り、その不利益を防止すべき義務を負っているものと解され、そうだとすると、その効力の判定は、(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(要素1=整理解雇の必要性)、(2)使用者は人員の整理という目的を達成するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(要素2=解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(要素3=被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきものと解するのが相当である(なお当該整理解雇がその手続上信義に反するような方法等により実行され、労契法16条の「社会通念上相当であると認められない場合」に該当するときは解雇権を濫用したものとして、当該整理解雇の効力は否定されるものと解されるが、これらは整理解雇の効力の発生を妨げる事実(再抗弁)であって、その事由の有無は、上記就業規則45条3号所定の解雇事由が認められた上で検討されるべきものである。)。

4 ・・・確かにY社は、本件特別清算の開始決定時においては負債超過の状態にあった。しかし、本件解雇の直前のである平成23年2月末までには債権の回収が順調に進み、負債超過の状態から脱却に成功し、その後は資産超過の状態が継続していることが認められる。そうだとすると本件特別清算の予定期間が平成24年7月であることを考慮したとしても、本件解雇の時点(平成23年3月31日)では既に僅か4名しかいないY社従業員について人員整理を断行する必要性は既に消滅しているものと認めるのが相当である。してみると本件特別清算業務を円滑に遂行するために人員整理という最終的な手段を採用することが、客観的にみて合理性を有するものとはいい難く、本件解雇(整理解雇)は、その必要性に欠けるものといわざるを得ない。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇88(日本航空(パイロット等)事件)

おはようございます。

さて、今日は、運行乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(パイロット等)事件(東京地裁平成24年3月29日・労判1055号58頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Xらは、いずれもY社と期間の定めのない労働契約を締結し、航空機の機長または副操縦士として勤務してきたパイロットである。

Y社では、平成22年3月以降、退職金額の上乗せや一時金の支給などを条件に、二度にわたる特別早期退職措置を実施したほか、整理解雇の方針を表明する前後の4度にわたる希望退職措置を実施した。

しかし、こうした措置にもかかわらず、パイロットについては、稼動ベースで80名分が削減目標に達しなかった。

そこで、Y社は、Xらを整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 会社更生法上、労働契約は双方未履行双務契約として、管財人が解除又は履行を選択し得る(同法61条1項)が、管財人は、労働契約上の使用者としての地位を承継している以上、管財人の上記の解除権は、解雇と性格づけられる。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、権利濫用となる(労働契約法16条)のであるから、この権利濫用法理は、管財人が行った本件解雇についても、当然に適用されることになる。
そして、本件解雇は、使用者の経営上ないし経済上の理由によって行われた解雇なのであるから、上記の解雇権濫用法理の適用に当たっては、権利濫用との評価を根拠付ける又は障害する考慮要素として、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、解雇手続の相当性等の当該整理解雇が信義則上許されない事情の有無及び程度というかたちで類型化された4つの要素を総合考慮して、解雇権濫用の有無を判断するのが相当である。このことは、当該更生手続がいわゆる事前調整型(プレパッケージ型)の企業再建スキームとして利用されるものであるか否かにより結論を異にする根拠はないのであり、本件更生手続が機構の支援と会社更生手続を併用して事業廃止を回避した事前調整型企業再建スキームであることは、上記結論を左右するものではない

2 Xらは、Y社がワークシェアリング、グループ内外への出向、転籍等の解雇を回避できる有効な手段があったにもかかわらず、それらの措置を真摯に検討・実施せず、また、運行乗務員の専門性、特殊性に照らすと、希望退職募集及び再就職支援の期間が短く、支援の内容も極めて不十分であったと主張する
しかし、上記のとおり、Y社は、更生手続開始決定の前後を通じて、・・・相対的には、手厚い解雇回避努力を尽くしているとの評価が可能である。同年11月の時点で組合から提案されたワークシェアリングの内容は、一時的な措置で問題を先送りする性質のものであるし、上記の解雇回避措置を行わなかったからといって、解雇回避努力が不十分であると評価することは困難であるというべきである。したがって、上記Xらの主張は、上記判断を覆すものとはいえない。

3 本件人選基準のうち、Xらに適用されたのは「病気欠勤・休職等による基準」「目標人数に達しない場合の年齢基準」である。これらはいずれも、その該当性を客観的な数値により判断することができ、その判断に解雇者の恣意が入る余地がない基準であり、このような基準であるということ自体に、一定の合理性が担保されているということができる。

4 Xらは、年齢に基づく不利益な取扱いは、世界各国で法律により禁止されており、中高年齢者の雇用確保という政策的観点と併せて、本件人選基準のうち年齢の高い順番によるという基準は、世界標準から逸脱した不合理なものであるとも主張するが、我が国では、定年制を採ることが、格別、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律のように、事業主が定年制を採用することを前提とした立法も存することに照らせば、年齢に基づく基準が不合理なものであると評価することはできない。年齢の高い者から順に目標人数に達するまでを対象とするという基準を他の人選基準では目標人数を満たさない場合の補助的な基準とすることに合理性があることは上記のとおりであり、中高年齢者の雇用保障という政策的観点を考慮しても、上記判断を左右するものではない。

JALの整理解雇事件です。

以前にもJALの事件を紹介しましたが、いずれも解雇は有効と判断されています。

解雇75(日本航空(整理解雇)事件)解雇77(日本航空運行乗務員解雇事件)参照。

会社更生手続中ということもあり、労働者側とすれば、かなり厳しい裁判であることは明らかです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇87(クラブメッド事件)

おはようございます。

さて、今日は、勤務成績不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

クラブメッド事件(東京地裁平成24年3月27日・労判1055号85頁)

【事案の概要】

Y社は、フランスのパリに本社を置く国際的なバカンスサービス会社の日本法人であり、国内および海外の系列ホテルへの送客業務およびこれに付随する一般観光等の企画、作成、販売ならびに斡旋等の各種業務を行う会社である。

Xは、平成2年、Y社に入社した。

Y社は、Xを勤務成績不良を理由として解雇した。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、Xの勤務成績不良を理由とする解雇であるところ、このような解雇については、当該労働者の勤務成績が単に不良であるというレベルを超えて、その程度が著しく劣悪であり、使用者側が改善を促したにもかかわらず改善の余地がないといえるかどうかや、当該勤務成績の不良が使用者の業務遂行全体にとって相当な支障となっているといえるかという点などを総合考慮して、その有効性を判断すべきと解するのが相当である。したがって、本件解雇に関する就業規則所定の解雇事由「技能、能力が極めて劣り、将来業務習得の見込みがないとき」という文言も、このような観点からその該当性が判断されるべきである。

2 ・・・以上を要するに、従前、Xの勤務成績が芳しくなかったことは否めないものの、サマー2010の期間に至って一定の向上をみたものであるから、もとよりその勤務成績が著しく劣悪であるとはいえないし、改善の余地がないということもできない。したがって、Xについて、Y社の就業規則所定の解雇事由「技能、能力が極めて劣り、将来業務習得の見込みがないとき」に該当するということはできないから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当と認めることはできず、無効というべきである。

3 これに対し、Y社は、上記の成績の向上は、Xが受電回数を上げるため、特段の事情がない限り禁じられている時間外労働を連日行ったことによるものであり、X業務の能率向上によるものではなかった旨主張するところ、Y社の人事担当から各部門のマネージャーに時間外労働を禁じる内容のメールが送信されるなど、Y社において、時間外労働が禁止されていたことを裏付ける証拠も存する。
しかしながら、Xの上司は、Xの労働時間を把握し、その時間外労働の状況を認識していたと推認されるにもかかわらず、当時、それを問題視して禁止した形跡が認められないもので、このような事情に照らすと、実際、各部門において、真に時間外労働の禁止が徹底されており、他のスタッフが時間外労働を行うことなく業務を処理していたかについては、疑義があるといわざるを得ない。したがって、時間外労働を行っていたことをもって、Xの勤務能率が向上していなかったというY社の主張については、これを採用することができない。

4 Xは、Y社においては、全従業員に対し、基本給の2.5か月分の賞与が一律に支給されていたとして、本件解雇後も基本給の2.5か月分に当たる55万3750円の賞与請求権を有する旨主張する。なるほど、証拠によれば、Xに対し、2回にわたって上記金額の賞与が支給されていることが認められる。しかし、仮に、Xが主張するように、全従業員に対し2.5か月分の賞与が支給される事実が存したとしても、個別の雇用契約書や賃金規程等により、2.5か月分の賞与という点がXとY社との間の雇用契約の内容となっていたことを窺わせる証拠は存しない。したがって、Xが、本件解雇後も、Y社に対し、月例賃金のみならず賞与についても請求権を有するということはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

勤務成績不良を理由とする普通解雇については、この裁判例でも示しているとおり、改善可能性が考慮されます。

一時的な成績不良をもって解雇をすると無効になる可能性が高いです。

もう1つ。

上記判例のポイント4は、参考になりますね。

賞与の請求は、実際には、なかなか認められません。

今回のケースのように、一律基本給の2.5か月分を支給されていたとしても、それをもって、契約の内容となるほど甘くはありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇86(学校法人M学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、労働契約書への書面拒否を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人M学園事件(東京地裁平成24年7月25日・労経速2154号18頁)

【事案の概要】

Y社は、専門学校N医科学大学校等を設置し、これを運営する学校法人である。

Xは、視能訓練士の国家資格を有する者である。

Y社は、Xを労働契約書への署名拒否を理由として解雇した。

Xは、本件解雇は違法であり、これにより損害を被ったとして、不法行為による損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

本件解雇は不法行為にあたる。
→M学園に対し、約80万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、試用期間中であるXに対し、本件規定に該当するとして、解雇予告通知書を交付することによりXを解雇する旨の意思表示をしている。Y社の就業規則には本件規定があるところ、Y社の上記所為は、試用期間中、使用者たるY社が本件規定に基づき留保していた解約権を行使する趣旨に出たものとみることができ、かかる認定を左右するに足る証拠はない。
もっとも、留保解約権の行使も、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものと解される。

2 Y社が提示した契約書案では、平成23年1月24日までを試用期間とする旨の記載はあるものの、労働契約の期間について期間を定めないものとしており、賃金の額について試用期間中の賃金額である月額30万とするのみで、試用期間経過後の賃金について特段の条項が置かれているわけでもない。これによれば、X・Y社間の労働契約は、X・Y社間で新たに別途、労働契約書を作成しない限りは試用期間経過後の賃金額についても引き続き30万円とするものとして効力を有することになるとみることのできるものであったということができるのであって、XがCから重ねて受けていた労働条件に関する説明と沿わない点があったといわざるを得ない。
しかるところ、Xがこれを問題視する見地から訂正を求めたのに対し、Cは、試用期間が明記されているから上記賃金額が試用期間中のものであることは自ずと判断できる、みんなそれでやっているなどとしてこれに応じず、Xの申出を踏まえて真摯に契約書案の意味合い・内容の検討をし、あるいはしようとした形跡も窺われない。かえって、平成22年12月13日、Xが署名に応じないとみるや、用意させていた解雇予告通知書を交付している

3 ・・・以上の点に照らすと、上記解雇予告通知書に基づく解雇は、上記認定の経緯に照らし、早急に過ぎたものと評価せざるを得ないところであって、かつまた、Xが署名を拒んだのは、X・Y社間の賃金という労働契約の基本的要素に係る問題に出でたものであったことにも照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得るものとみることは困難というべきである。
そして、以上の点に照らすと、少なくともY社に過失があったものと見ざるを得ない。してみると、他に的確な指摘のない本件においては、Y社は、不法行為に基づき、これによってXに生じた損害を賠償すべき責があると認めるが相当である。

4 Xは、以上のほか、本件解雇に伴い精神的苦痛を被ったとして慰謝料請求をしている。
しかしながら、解雇に伴う財産的損害の賠償のほか、精神的損害についてまでの賠償が認められるのは、解雇につき、財産的損害の賠償によっては慰謝するに足らない特段の事情の認められる場合に限られると解される。本件においてXに財産的損害の賠償を命じるべきことについては上記のとおりであるであるところ、・・・かかる指摘の点によっては上記特段の事項を肯認すべき事由があるとは評価し難く、これを認めるには足らない。したがって、Xの慰謝料請求は、これを肯認することができない

当然、この程度では、解雇は有効にはなりません。

今回は、地位確認を求めるのではなく、損害賠償を求めています。

個人的な感覚ですが、解雇事案では、地位確認と賃金請求という構成よりも、不法行為に基づく損害賠償請求という構成の方が、労働者側が得られる金額は少ない気がします。

このような理由から、労働者が復職する意思がなくても(ほとんどの場合、復職の意思はない)、前者の構成をとることになるのだと思いますがいかがでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。