Category Archives: 解雇

解雇115(リーディング証券事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期雇用契約における試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

リーディング証券事件(東京地裁平成25年1月31日・労経速2180号3頁)

【事案の概要】

本件は、雇用期間1年間の約定で採用され、試用期間中に解雇(留保解約権の行使)されたXが、使用者であるY社に対し、上記留保解約権の行使は労契法17条1項に違反し無効であるとして、地位確認、残存雇用期間の未払賃金等及び違法な留保解約権の行使等による慰謝料の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 有期労働契約は、企業における様々な労働力の臨時的需要に対応した雇用形態として機能しているが、実際上、使用者は、かかる労働受遺用が続く限り有期労働契約を更新し継続することが多い。したがって、かかる有期労働契約においても、期間の定めのない労働契約と同様に、入社採用後の調査・観察によって当該労働者に従業員としての適格性が欠如していることが判明した場合に、期間満了を待たずに当該労働契約を解約し、これを終了させる必要性があることは否定し難く、その意味で、本件雇用契約のような有期労働契約においても試用期間の定め(解約権の留保特約)をおくことに一定の合理性が認められる。しかし、その一方で、上記のとおり労働契約期間は、労働者にとって雇用保障的な意義が認められ、かつ、今日ではその強行法規性が確立していることにかんがみると、上記のような有期労働契約における試用期間の定めは、契約期間の強行法規的雇用保障性に抵触しない範囲で許容されるものというべきであり、当該労働者の従業員としての適格性を判断するのに必要かつ合理的な期間を定める限度で有効と解するのが相当である。

2 本件試用期間の定めは、雇用期間(1年間)の半分に相当する6か月間もの期間を定めており、それ自体、試用期間の定めとしては、かなり長い部類に属する上、Y社は、日本語に堪能な韓国人証券アナリストとして即戦力となり得ることを期待し、Xを採用したものと認められるところ、Xがそのような意味で即戦力たり得るか否かは、一定の期間を限定して、個別銘柄等につきアナリストレポートを作成、提出させてみれば容易に判明する事柄であって、その判定に要する期間は、多くとも3か月間もあれば十分であると考えられる。そうだとすると本件試用期間の定めのうち本件雇用契約の締結時から3か月間を超える部分は、Xの従業員としての適格性を判断するのに必要かつ合理的な期間を超えるものと認められ、その意味で、上記労働契約期間の有する強行法規的雇用保障性に抵触するものといわざるを得ない。したがって、本件試用期間の定めは、少なくともXとの関係では、試用期間3か月間の限度で有効と認められ、Y社は、その期間に限り、Xに対し、留保解約権を行使し得るものというべきである

3 労契法17条1項は、民法628条が定める契約期間中の解除のうち、使用者が労働者に対して行う解除、すなわち解雇は、「やむを得ない事由」がある場合でなければ行うことができないと規定し(強行法規)、その立証責任が使用者にあることを明らかにしているが、上記期間の定めの雇用保障的意義に照らすと、上記「やむを得ない事由」とは、当然、期間の定めのない労働契約における解雇に必要とされる「客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当と認められる場合」(労契法16条)よりも厳格に解すべきであるから、上記労契法16条所定の要件に加え、「当該契約期間は雇用するという約束にもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」をいうものと解するのが相当である(菅野・234頁。ちなみに平成20・1・23基発0123004号)。

4 有期労働契約における留保解約権の行使は、使用者が、採用決定後の調査により、または試用中の勤務状況等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、①その者を引き続き当該企業に雇用しておくことが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であること(労契法16条。「要件①」)に加え、②雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由が存在するものと認められる場合(労契法17条。「要件②」)に限り適法(有効)となるものと解するのが相当である。

5 もっとも、このように留保解約権の行使が労契法17条1項の規制に服することになれば、事実上とはいえ試用期間中の解雇は殆ど認められないことになりかねず、Y社が主張するように、実質的に試用期間の定めを設けた意味が失われるようにもみえる。しかし、上記のとおり使用者が労働者に対して行う解除という点では、就業規則における規定も仕方いかんにかかわらず、留保解約権と普通解雇権との間には基本的に性質上の差違は認められないものと解され、そうだとすると労契法17条1項による解雇・解約制限に関しても両者を同等に扱うのが合理的であって、これに差違を設けることは適当ではなく、その意味で、留保解約権の行使に対しても、労働契約期間の雇用保障的意義の効果は及ぶものと解すべきである

いろいろと参考になる判断ですね。

有期雇用で、試用期間を設けた場合、留保解約権の行使が労契法17条1項の規制に服するか、という問題はおもしろいですね。

この事件の担当裁判官は、肯定していますね。

本件事案では、解雇は有効と判断されていますが、一般的には、留保解約権の行使に「やむを得ない事由」を要求するとなると、試用期間中の解雇は、ほとんど有効にできないことになってしまうという使用者側代理人の意見はそのとおりだと思います。

とはいえ、本件のように有効と判断されることもあるわけですので、どうなんでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇114(全国建設厚生年金基金事件)

おはようございます。

さて、今日は、通勤手当の不正受給を理由とする諭旨退職処分に関する裁判例を見てみましょう。

全国建設厚生年金基金事件(東京地裁平成25年1月25日・労判1070号72頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、①平成24年2月9日付け諭旨退職処分が無効であるとして、Y社に対し、(1)地位確認、(2)平成24年2月分の未払賃金、(3)平成24年以降の賞与などを請求した事案である。

【裁判所の判断】

諭旨退職処分は無効

【判例のポイント】

1 Xによる本件不正受給は、「就業上必要な届出事項について、基金を偽ったとき」(職員就業規則56条(4))として懲戒事由該当行為であると認められるが、他方において、①Y社は、Xの自宅からY社事務所までの通勤方法として平成8年申告経路に記載された通勤方法及びこれに基づく所要額(定期代)を合理的なものと認定した上で同額の通勤手当を支給していたものであり、本件不正受給によりXが受給してきた通勤手当額は、その範囲内に収まっていること、②Y社においては、通勤手当が認定された後は、基本的にその支給継続に当たって特段の審査がされることがなく、本件不正受給のように、認定された通勤手当に係る定期券等を実際には購入していなくても通勤手当を受給し続けることができる状況にあったことや、職員が習い事のために迂回する経路であってもY社の裁量によって通勤手当の支給経路として認定されることがあることが認められ、このことからすれば、Y社内においては、本件不正受給当時、通勤のために真に合理的かつ必要な限度でのみ通勤手当を認めた上で、その支給の合理性の維持につきこれを厳守するという企業秩序が十分に形成されていたとは言い難いこと、③Y社において、①のとおり平成8年申告経路に記載された通勤方法及びこれに基づく所要額(定期代)を合理的なものと認定していたことのほか・・・本件不正受給によって、Y社が通常合理的な金額として認めない程の高額の通勤手当の支給を余儀なくされたという関係には立たない上、Y社らの主張を前提としても、本件不正受給による差額は、6か月当たり2万5330円、定期券購入時期につき平成21年4月から平成23年10月までととらえると合計15万1980円に過ぎないこと、以上からすれば、本件不正受給に対し、職員としての身分を剥奪する程の重大な懲戒処分をもって臨むことは、Y社における企業秩序維持の制裁として重きに過ぎるといわざるを得ない。

2 これに対し、Y社は、平成24年2月2日以降のXの態度について、退職願を提出した同月9日を除き、通勤手当の不正受給に関して虚偽の説明を繰り返して自己を正当化するばかりで反省の態度を示していなかったとして、そのことを本件処分の相当性を基礎付ける事情の一つとして主張する。
この点、確かに、・・・Xにおいて、本件不正受給の問題点と真摯に向き合った上で、反省する態度を示していたとは認められないというべきである。
しかしながら、他方において、・・・Y社のXに対する追及態度は、本件不正受給の具体的内容が明らかになっていない同月2日の段階から、厳しい処分になることを覚悟するようにとの趣旨を告げた上、同月8日の面談においても、当初の段階すなわち本件釈明書面等の提出前の段階では諭旨退職相当と考えたが、本件釈明書面等の提出を踏まえると懲戒解雇にせざるを得ない旨伝える等、発覚当初から本件不正受給が職員の身分剥奪を伴う懲戒処分相当事案であることを前面に出してXに接していたことが認められるのであって、これに対してXが、諭旨退職又は懲戒解雇処分を回避するために不自然、不合理な内容及び態度での弁解を一定程度継続したとしても、そのことをもって本件処分の相当性を基礎付ける事情として重視すべきではないと解される。加えて、Y社は、同月9日にXがそれまでの言動について反省の態度を示した上で自主退職の申出をした後に本件処分を断行しているのであって、このことからも、同月8日までのXの反省の態度の乏しさをもって本件処分の相当性を基礎付ける事情として重視すべきではない。

3 以上より、本件処分は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとして、無効というべきである。

相当性の要件でなんとかギリギリセーフという感じです。

会社側とすると、上記判例のポイント2の下線部については、参考になりますね。

このような評価がありうるということを知っておくことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇113(ボッシュ事件)

おはようございます。 

さて、今日は、執拗に内部通報メールを繰り返したこと等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ボッシュ事件(東京地裁平成25年3月26日・労判2179号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約関係にあったXが、Y社からの業務命令に反したことを理由に懲戒処分としての出勤停止処分を受け、その後解雇されたところ、同出勤停止処分及び解雇は、Xが内部告発(公益通報)を行ったことに対する報復であり、公益通報者保護法に違反するもので、いずれも無効ないし違法であるなどと主張して、Y社に対し、同出勤停止処分の無効確認請求、および出勤停止期間中の賃金の支払請求、雇用契約上の地位確認請求および解雇後の賃金、賞与請求、並びに不法行為に基づく損害賠償(慰謝料等)の請求をしたものである。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、平成23年初めころには、本件デジタルイラスト問題に関し、担当者に民事・刑事責任を問うことができないものであるという認識を有していたにもかかわらず、自らの法務室への異動希望を実現させるという個人的な目的のために、これを蒸し返し、同年7月22日には本件警告書による警告を受けたにもかかわらず、これに従うことなく、同月25日に、E社長に対し再度これを告発したと評価せざるを得ない。このように、Xは、自らの内部告発に理由がないことを知りつつ、かつ個人的目的実現のために通報を行ったものであって、Xが主張するように、社内のコンプライアンス維持のためにやむを得ない行為であったなどということはできないものであって、実質的に懲戒事由該当性がないということはできないし、かつ、公益通報者保護法2条にいう不正の目的に出た通報行為であると認めざるを得ない

2 確かに、同法の趣旨からして、事業者のコンプライアンスの増進という動機以外の動機が存すること自体をもって、その適用を否定するのは相当ではなく、かつ、再度の公益通報であること自体をもって、その適用を否定することは慎重であるべきである。
しかしながら、他方で、このような公益通報については、たとえ事業者内部における再度の通報であったとしても、多かれ少なかれ、その通報内容を理解、吟味し、ある程度の調査が必要になる場合もあるなど、相応の対応を要求されるものであって、業務の支障となる側面があることは否定できず、時に組織としての明確な意思決定を迫られることもあることからすれば、これが無制限に許されると解するのは相当ではない。したがって、少なくとも、本件のように、いったん是正勧告、関係者らに対する厳重注意という形で決着をみた通報内容について、長期間を経過した後に、専ら他の目的を実現するために再度通報するような場合において、これを「不正の目的」に出たものと認めることには、何ら問題がないというべきである

公益通報が絡む解雇や降格事案は、ときどきありますね。

公益通報者保護法では、「公益通報」を以下のとおり定義しています(2条1項)。

「公益通報」とは、労働者(労働基準法9条に規定する労働者をいう。)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。)若しくは勧告等をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通用することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。)に通報することをいう。

この他、公益通報の通報対象事実を巡り、争いになることもあります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇112(ニューロング事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!!

さて、今日は、退職届提出後の懲戒解雇の効力と退職金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ニューロング事件(東京地裁平成24年10月11日・労判1067号63頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、平成17年12月5日に、同月19日をもって退職する旨の退職届を提出したにもかかわらず、Y社から同月9日付けで懲戒解雇されたことから、これが無効であり、退職届に基づく退職が有効であると主張して、退職金等を請求した事案である。

本件懲戒解雇理由は、Y社が海外(アラブ首長国連合ドバイ)に設置した関連会社のDirector職に兼務していた海外事業部部長であるXに対する横領等の背信行為、無許可で禁止されている競合会社と取引を行ったこと、競業準備行為等である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

Y社に対し退職金及び役付給付金1466万1483円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 一般に、使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を科するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないが、懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当である
しかし、「無断で個人の会社をニューロング・ドバイ店内に設立したこと」という告知内容は、自らの会社の設立を非違行為の核心とするものであるところ、いかにこれを実質的に解釈したとしても、それが「Y社の了解を取らずにC社の業務を行い、資金を流用したこと」という事由と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものと解することはできない。

2 ・・・以上によれば、Xには、本件取引中止宣言後もY社に隠れてB社と取引を行ったという点が、一応、懲戒解雇事由として存在するということができる。
・・・本件取引中止宣言後に、Y社の方針に反して、個別にY社代表者の承認を得ることなくB社と取引していたことが、本件取引中止宣言に反する行為であり、Y社の企業秩序維持との関係で問題のある行動であったことは事実であるものの、他方で、顧客に対する信用維持やニューロング・ドバイの経営維持のため、Y社代表者の意に反することになるというリスクを冒してもなお、あえてB社との間で取引を継続せざるを得なかったという側面があったこともまた事実であるということができる
以上の認定に加え、本件懲戒解雇は、Xによる退職の意思表示がY社に到達した後、それが効力を生じる前に、急遽なされたものであること、本件懲戒解雇事由について、Xに弁明の機会が与えられていなかったことを併せ考えると、本件取引中止宣言後もY社に隠れてB社と取引を行ったという懲戒解雇事由が、34年8か月というXの多年の継続の功を抹消してしまう程度に重大なものということまではできないし、Xを懲戒解雇として退職金を不支給とすることが、Y社の規律維持上やむを得ない場合にあたるということもできない。

3 Xは、この他に功労加給金及び特別加給金の請求権を主張しているが、功労加給金については、Y社代表者が、直属所属長の申告に基づき、その裁量によって、特に功労ありと認めた従業員に対して支給するものであるから、Xにその請求権はないというほかはない。

まず、懲戒解雇事由の追加主張に関する規範は参考にしてください。

次に、退職金の不支給に関する争いの場合は、労働者側からすれば、どれだけ酌むべき事情を挙げられるかにかかっています。 丁寧に事実を主張・立証していくことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇111(ブルームバーグ・エル・ピー事件)

おはようございます。 

さて、今日は、通信社記者に対する能力・適格性低下を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京地裁平成24年10月5日・労判1067号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXを能力・適格性低下を理由とする解雇の有効性が争われた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、結局、前記Ⅰの「社員の事故の職責を果たす能力もしくは能率が著しく低下しており改善の見込みがないと判断される場合」を解雇事由とするものと解するのが相当である。
そして、かかる勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇に「客観的に合理的な理由」(労働契約法16条があるか否かについては、まず、当該労働契約上、当該労働者に求められている職務の能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきである

2 Y社は、Y社のビジネスモデルと新聞社や通信社のビジネスモデルとの間の違いから、記者として求められる能力、資質及び記事の執筆スタイルが両者間に大きな違いがある旨を主張している。
・・・しかしながら、他方で、①Y社においては、労働者の採用選考上かかるY社の特色あるビジネスモデル等に応じた格別の基準を設定したり、試用期間中(Y社においては原則として入社後6か月間が試用期間であると認められる。)においても格別の審査・指導等の対応を行う等の措置は講じていないと認められること、②Xの試用期間経過後、Xについて実施されたアクションプランやPIPにおいて、エディターや英語ニュース記者との連携、記事の執筆スピード等に関する指示、指導がされており、Y社の記者にはこれらの能力が求められていたことが認められるものの、これらの事項について社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められる水準以上の能力が要求されているとは認められないこと、以上からすれば、社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められていると想定される職務能力との対比において、XとY社との間の労働契約上、これを量的に超え又はこれと質的に異なる職務能力が求められているとまでは認められないというべきである。

3 ・・・以上によれば、Y社主張に係る記事内容の質の低さに関する事項は解雇事由とすることには、客観的合理性があるとはいえないというべきである。

Y社は、Xの解雇事由として、執筆スピードの遅さ、記事本数の少なさ、記事内容の質の低さを主張しましたが、いずれも解雇事由とすることには客観的合理性があるとはいえないと判断されています。

勤務能力や適性の欠如を理由に解雇をするのは、とてもハードルが高いです。

会社としては、どのように立証していくのかを事前に相当詰めておく必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇110(淀川海運事件)

おはようございます。 昨夜から事務所でずっと書面を作成しています。 体力勝負(笑)

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

淀川海運事件(東京高裁平成25年4月25日・労経速2177号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、平成22年6月、Y社の技能職員であり、労働組合の執行委員長であったXに対して、「事業縮小等会社の都合」、「余剰人員削減のために実施した希望退職者募集及び退職勧奨によっては、削減人員の定数に満たなかったための整理解雇」を理由として解雇した事案である。

Xは、本件解雇は、整理解雇の有効要件を欠き、解雇件の濫用として無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件解雇はいわゆる整理解雇であり、対象とされた従業員に対して、経営上の必要から人員削減を実現するために、従業員にとって生計の途である労働契約関係を解消することの当否が争点となっている事案である。そして、労働契約法によれば、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇権の濫用として無効となる(同法16条)のであり、整理解雇は、従業員の側には責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、使用者による一方的な解雇の意思表示によって雇用関係を解消するというものであるから、整理解雇を巡る事情を総合的に考慮し、使用者の経営上の必要性と、解雇される従業員の利害得失とを比較考量して、その効力を判断する必要があるというべきである。そして、整理解雇の有効性については、具体的には、①整理解雇(人員整理)が経営不振など企業経営上の十分な必要性に基づくものか否か、又はやむを得ない措置と認められるか否か(整理解雇の必要性)、②使用者が人員整理の目的を達成するための整理解雇を行う以前に、労働者の不利益がより小さく、客観的に期待可能な措置を取っているか否か(解雇回避努力義務の履行)、③被解雇者の選定方法が相当かつ合理的なものであるか否か(被解雇者選定の合理性)、④整理解雇の必要性とその時期、規模、方法等について使用者が説明をして、労働者と十分に協議しているか否か(手続の妥当性)などを総合的に勘案した上で、整理解雇についてのやむを得ない客観的かつ合理的な理由の有無という観点からその効力を判断するのが相当である。

2 平成22年4月頃の段階において、技能職員4名を削減する必要性があったところ、Y社は5月7日に、所定の退職金に一律100万円を加算することとして、希望退職者4名を募集したが、結局応募者は3名に止まったため、同月28日に、所定の退職金に250万円を加算するとして退職勧奨を行ったものの、Xは応じなかった等本件解雇に至る経緯を考慮すると、Y社はXを解雇するに先立って、これを回避するための方策を講じているものと評価するのが相当である

3 技能職員を削減する必要がある状況のもとにおいて、勤務成績等に照らし、X以外に被解雇者として選定されてもやむをえないといえる職員がいたにもかかわらず、上記の嫌悪感等を主たる理由としてXが選定されたというのであればともかく、そのような職員の存在を認めるに足りる証拠のない本件においては、そもそも労働契約が労使間の信頼関係に基礎を置くものである以上、他の従業員と上記のような関係にあったXを、業務の円滑な遂行に支障を及ぼしかねないとして、被解雇者に選定したY社の判断には企業経営という観点からも一定の合理性が認められるというべきであって、これを不合理、不公正な選定ということはできない。なお、本件においては、Y社の経営陣も、従業員と同様のXに対する強い嫌悪感を抱いており、そのことが整理解雇の対象者の人選に影響していることは否定できないところであるが、そのような事情があったからといって、Xを対象者に選定したことが直ちに不合理、不公正なものとなるものではないと解するのが相当である。

非常に参考になる裁判例です。 是非、一審と比較してみてください。

一審(東京地裁平成23年9月6日・労経速2177号22頁)は、本件整理解雇は無効と判断しましたが、控訴審では一転、有効と判断されました。

一審と控訴審で結論が異なったのは、整理解雇の必要性が認められたか否かのほかに、人選の合理性の点に関する考え方の違いによります。

個人的には、一審の判断の方が納得いく内容です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇109(甲野株式会社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!

さて、今日は、従業員の不正行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

甲野株式会社事件(大阪地裁平成24年9月27日・労判1069号90頁)

【事案の概要】

Y社は、金、銀、白金等貴金属の地金の売買、加工、精製および分析等を行っている会社である。

Xは、Y社の従業員としてY社高知工場に勤務していた。

Xは、Y社工場敷地内から合計709.13gの金地金を持ち出し、これを窃取した。

Y社は、Xの当該行為について、警察署に被害届を提出した。Xは、窃盗の被疑事実で逮捕されたが、不起訴処分となった。

Y社は、Xを懲戒解雇した。 本件の争点は、本件不法行為に基づく損害賠償請求である。

【裁判所の判断】

Xに対して、合計152万6284円(調査実費、時間外手当相当額、説明行為に関する実費(交通費等)、弁護士費用)の支払いを命じた。

慰謝料請求については棄却。

【判例のポイント】

1 ・・・J取締役のN市出張及びD社訪問は、いずれも本件金地金を持ち出した犯人を特定するために必要な調査であったことが認められ、また、J取締役及びO副工場長のV社への出張は、Xが本件金地金を持ち出した態様を明らかにするために必要な調査であったことが認められるから、Y社が上記各出張のために出えんした費用相当額は、本件不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。

2 ・・・金地商であるY社において、その管理する貴金属の盗難事件が発覚した場合、犯人や犯行態様を徹底的に調査し、事件の再発を防止すべく万全の対策をとる必要があることは明らかであるところ、Y社の従業員が、製造記録の確認等を行ったり、警察から事情聴取を受けるなど、通常の業務とは異なる作業に多大な時間を費やしたのは、Y社の従業員であったXが本件金地金を窃取した態様を明らかにするためにであるから、これらの従業員が調査等に従事していた平成22年6月及び7月の時間外手当の増加分は、本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である
Xは、従業員が懲戒処分に当たる行為を行った場合、使用者である会社が適切な処分を行うため、事実関係の調査等を行うことは当然のことであり、そのために要する通常の経費等は、企業の一般的人事管理に要する費用として織り込み済みのものであるから、上記時間外手当等は、本件不法行為と相当因果関係のある損害とまではいえないと主張する。しかしながら、本件不法行為は、地金商の従業員による金地金の窃盗事件であって、被害額も約200万円と多額であるから、捜査機関が高知工場の実況見分を実施したり、Y社従業員からの事情聴取等を行うことは当然であるし、また、Y社における貴金属の管理・保管体制の根幹を揺るがす事件であるから、再発防止の観点からも、Y社が、その犯行態様を明らかにするために、独自に従業員に調査を命じることは、単に使用者が懲戒処分に当たる行為を行った従業員に対し適切な処分を行うための事実関係の調査等を行うこととは次元を異にするというべきである。したがって、これらの調査等に要した費用について、企業の一般的人事管理に関する費用として織り込み済みのものであると認めることはできないから、Xの前期主張は、採用することができない。

3 Y社は、本件不法行為発覚後、合計4727万8600円をかけて、セキュリティシステムを導入したほか、関係取引先に謝罪に赴くなどしたものであって、本件不法行為によって、Y社の信用を毀損せられた無形損害の額は、少なく見積もっても200万円は下らないと主張する。
しかしながら、Y社が、本件不法行為が発覚したことを契機として、Y社における金地金の管理・補完体制を見直し、多額の費用をかけてセキュリティシステムを新たに導入したことは認められるものの、Y社において、どのようなセキュリティシステムを導入するかは、企業の経営判断の問題であって、本件不法行為との直接の因果関係は認められない上、Y社は、本件不法行為が発覚した後、主要取引先等に対して、状況説明と謝罪に赴くなどしており、一応、本件不法行為によって毀損されたY社への信頼は一定程度回復されたというべきであるし、主要取引先等への説明に要した費用については、本件不法行為による損害として、Xが負担することを併せ考慮すると、それを超えて信用毀損に伴う慰謝料をXに負担させるのは相当でない。

従業員による不正行為が発覚した際、会社が当該従業員に損害賠償請求をすることがあります。

その際、どこまでを損害と考えてよいのかについて、本裁判例を参考にしてください。

信用毀損に関する裁判所の判断は、会社側からすると、簡単には受け入れらないのではないでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇108(アクセルリス事件)

おはようございます。

さて、今日は整理解雇の有効性と賞与請求に関する裁判例を見てみましょう。

アクセルリス事件(東京地裁平成24年11月16日・労判1069号81頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXを整理解雇した事案である。

Y社は、ソフトウェア製品の販売、導入支援コンサルティング、トレーニング等を主な業とする株式会社である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

賞与請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・整理解雇の考慮要素としての人員削減の必要性とは、少なくとも当該人員削減措置の実施が不況、斜陽化、経営不振等による企業経営上の十分な必要性に基づいていることを要するものと解されるところ、本件においては、①本件解雇当時、Y社自身の経営状況が悪化していたことを認めるに足りる証拠はないこと、②米国親会社及び米国シミックス社の経営状況及び両社の合併に伴い、Y社において4名の人員削減を実施する必要性が十分にあったことを認めるに足りる証拠もないこと、・・・以上からすれば、本件解雇当時、X1名を整理解雇しなければならない十分な必要性があったとは認められないというべきである。

2 人員削減を実現する際に、使用者は、配転、出向、希望退職者募集等の他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務(解雇回避努力義務)を負うものと解され、同義務履行の有無を判断するに当たっては、当該使用者が採択した手段と手順が当該人員整理の具体的状況の中で全体として指名解雇回避のための真摯かつ合理的な努力と認められるか否かを判断すべきである。そして、人員削減の十分な必要性があったとまでは認められない本件において、本件解雇が正当化されるためには、相当手厚い解雇回避措置が取られた後でなければならないというべきである
これを本件についてみると、Y社は、・・・当該人員削減指示の説明及び希望退職者募集は、説明資料等を交付することなく口頭でされたに過ぎない上、希望退職者募集に係る退職の条件についても、多少の退職金オプションを出せる旨の抽象的な説明しかしていないというものであって、Y社主張に係る説明ないし希望退職者募集をもって、前記の解雇回避努力義務の履行があったと評価されるべきものではないというべきである
また、Y社は、Xの配転可能性について、Xの専門性を生かせるポストは顧客サポート業務以外にはなかったところ、Xが顧客からの評判が悪く、他のメンバーと強調しようとせず、同部門においてはXを除く他のメンバーによる新しいチーム作りが始まっていたことから、Xを顧客サポート業務に就かせることはできなかった旨主張するが、①職種限定契約である等の事情がなく雇用契約上職種や担当業務が限定されていないXについて、解雇回避義務の履行として配転を検討するに当たっては、異動候補先として幅広い職種・職務内容を検討すべきであること、・・・。なお、Y社は、X及び本件労組に対し、Xの専門性と無関係な他の業務(例えば、賃金額が大幅に下がる在庫管理)への配転の検討を要請したが、Xらがその検討を拒否したことをもって、解雇回避努力義務の履行をした旨主張するが、本件において、労働条件の大幅の不利益変更を伴う配転提案をしたことをもって同義務を履行したものとは評価できないから、Y社の主張には理由がない

解雇回避努力に関する判断は、是非、参考にしてください。

4要素説では、他の要素との関係で、求められる解雇回避努力の程度が変わってきます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇107(第一興商(本訴)事件)

おはようございます。

さて、今日はパワハラで視覚障害発症、休職期間満了後の自動退職の効力に関する裁判例を見てみましょう。

第一興商(本訴)事件(東京地裁平成24年12月25日・労判1068号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の正社員として勤務していたところ、上司等から仕事を与えられず、嫌がらせを受けたり暴言を浴びせられるなどした上、精神的に追い込まれて視覚障害を発症し、休職に追い込まれた結果、休職期間満了により自動退職という扱いになった。

Xは、①同視覚障害は、業務上の傷病に当たり、その療養期間中にXを自動退職とすることは労基法19条1項により無効であるとか、②Xは、休職期間満了時点で復職可能な状況にあったなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認並びに不当に低い評価を受けていた期間中の差額賃金及び上記自動退職後の賃金の支払いを求めるとともに、Y社にはその従業員らによる不法行為を漫然と放置したなどの安全配慮義務、不法行為があると主張して、Y社に対し、損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

本件自動退職は無効

【判例のポイント】

1 ・・・以上のとおり、Xの供述内容には、全般的に疑問な点が多い。XがB課長やC課長らの暴言等を他部署の者、時には社外の者に訴え、その中で詳細にその言動の内容が記載されていることを考慮しても、X供述が客観的な裏付けを欠いていること、供述内容自体に合理性にが欠けていること、他の証拠との整合性がないことなどに照らすと、Xの供述についてはにわかにこれを信用することができないというべきである。
このように、Y社従業員(上司等)から継続的に暴言を浴びせられたり、嫌がらせを受けた旨のXの供述については信用することができず、他に、Xの主張を認めるに足りる的確な証拠は存しないというべきである。したがって、X主張にかかるY社従業員(上司ら)による不法行為の事実については、これを認めることができない。

2 労基法19条1項において、業務上の傷病により療養している者の解雇を制限している趣旨は、労働者が業務上の傷病の場合の療養を安心して行うことができるようにすることにある点からすれば、同項にいう「業務上の傷病」とは、労働災害補償制度における「業務上の傷病」、すなわち同法75条にいう業務上の傷病及び労働者災害補償保険法にいうそれと同義に解するのが相当である(東京高裁平成23年2月23日判決)。
そして、労災保険法にいう業務上の傷病とは、業務と相当因果関係のある疾病であると解されるところ(最高裁昭和51年11月12日判決)、同制度が危険責任の法理を基礎とするものであることからすれば、当該傷病の発症が当該業務に内在する危険の現実化と認められることを要するというべきであるところ、上記危険性については、その性質上、個々の労働者を基準として個別に判断すべきではなく、一般労働者を基準として客観的に判断されるべきものと解される

3 本件休職期間満了時点(平成22年1月6日時点)において、Xの休職事由が消滅していたか、すなわち、就業規則16条、18条に即していえば、休職の理由となった疾病が治癒し、通常の勤務に従事できるようになったかについて、以下、検討する。
・・・このように、労働者が、職種や業務内容を特定することなく雇用契約を締結している場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模・業種、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易等に照らし、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているのあれば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である(最高裁平成10年4月9日判決)。
また、休職事由が消滅したことについての主張立証責任は、その消滅を主張する労働者側にあると解するのが相当であるが、使用者側である企業の規模・業種はともかくとしても、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易といった内部の事情についてまで、労働者が立証しつくすのは現実問題として困難であるのが多いことからすれば、当該労働者において、配置される可能性がある業務について労務の提供をすることができることの立証がなされれば、休職事由が消滅したことについて事実上の推定が働くというべきであり、これに対し、使用者が、当該労働者を配置できる現実的可能性がある業務が存在しないことについて反証を挙げない限り、休職事由の消滅が推認されると解するのが相当である

4 これを本件についてみるに、Xは、本件休職命令後、視覚障害者支援センターに通学して・・・主治医であるD医師やI医師は、いずれも視覚障害者補助具の活用により業務遂行が可能である旨の意見を述べているところ、上記各医師の意見を排斥するに足りる証拠をY社は提出していない
・・・Xは、本件休職期間満了時点にあっても、事務職としての通常の業務を遂行することが可能であったと推認するのが相当である。

休職期間満了による退職処分と労基法19条との関係が争点となっています。

最近、この争点をめぐる裁判をよく見かけます。

使用者側のみなさんは、上記判例のポイント3を是非、参考にしてください。

裁判所の判断傾向を知っているだけで、とるべき対応策も変わってきますので。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇106(日本郵便事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、連続26日間の無断欠勤を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(東京地裁平成25年3月28日・労経速2175号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において郵便物の集配業務に従事していたXが、26日間連続で無断欠勤したことを理由とする懲戒解雇の無効を主張した事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 まず、本件期間中、Xが脳腫瘍等の診断を受けたことは、本人の努力ではいかんともし難い、まことに気の毒なことではあり、その診断を聞いて途方に暮れてしまったことは、一時の心情としては十分理解することができる。しかし、他方で、X自身、本件期間中、いつまでも途方に暮れ続けていたわけではなく、自らの意思で検査入院の手続を取って入院したり、10日間ほど、夕方6時から深夜にかけて、Y社において禁止されている無許可でのアルバイトをしたり、飯田橋のしごとセンター(ハローワーク)には行っていないとのことではあるものの、その界隈には行って仕事探しをしたり、友人宅に泊まったりしていたということであって、病状としても、どうしても直ちに手術が必要という状態ではなかったのであるから、再三にわたって発令された本件出勤命令を受けて、同じ班の同僚にかけているであろう迷惑を慮るとともに、病状等の近況につきY社に対して一報を入れることぐらいは容易に可能であったものというべきである。それにもかかわらず、Xは、本件出勤命令に応じて出勤するどころか、・・・長期間にわたってY社に電話すら掛けずにいたのであって、このことについては、本件出勤命令を再三にわたって無視し続けたという謗りを免れないというべきであり、脳腫瘍等の診断を受けていたことは、本件欠勤に関する就業規則違反事由該当性を正当化し、あるいは、違反性を減じるような事情になるものと評価することはできない

2 他方、手続的な観点からみても、Y社は、合計4回、約90分の弁明の機会をXに与え、本県事情聴取の際、本件欠勤に関する種々の事情を尋ねたにもかかわらず、Xは、自己の病状や検査入院の事実について説明するどころか、本件期間中の自らの行動や電話すら掛けなかった理由について曖昧な返答に終始していたのであり、それにもかかわらず、Y社は、Xに対し、聴取書の記載内容を確認する機会や、諭旨解雇と退職金との関係について説明を受ける機会も与え、退職金はいらないから退職願は書かないと半ば投げやりな態度で答えたXに対し、日を改めて再度翻意の機会まで与えたのであるから、その手続的相当性は十分であると評価することができる

3 ・・・・以上の認定によれば、Xについては、その功労を抹消又は減殺するほどの著しく信義に反する行為があったといわざるを得ないから、就業規則どおり、有効な懲戒解雇処分を受けたXには、退職金請求権は発生しないというべきである。したがって、Xの予備的請求にも理由がない。
無断欠勤はやめましょう。

また、今回のケースでは、事案の重大性から、退職金の減額不支給も妥当だと判断されています。

この点は、控訴審で判断が覆る可能性があると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。