Category Archives: 解雇

解雇145(社会保険労務士法人パートナーズほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、能力不足を理由とする試用期間途中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会保険労務士法人パートナーズほか事件(福岡地裁平成25年9月19日・労判1086号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、試用期間途中のY社による平成24年4月3日付け解雇は無効であるなどとして、Y社に対しては、本件解雇からY社の解散(平成24年9月1日)までの間の平成24年5月分から同年8月分の給与を請求するとともに、Y社解散後に実質的に同法人を引き継いだZに対し、雇用契約上の地位の確認及び平成24年5月分から本判決確定の日までの給与を請求し、また、Y社らに対し、本件解雇が不法行為に当たるとして連帯して慰謝料及び弁護士費用の合計140万円の支払を求めたものである。

本件においては、Zは、本件解雇(留保解約権行使)の有効性のみを争い、XとY社との関係で、本件解雇が無効となった場合に、ZがY社と同様の労働契約関係及び給与債務(Y社解散前の分の連帯債務)を負うことについては争いがない

【裁判所の判断】

解雇は無効

Y社らは、連帯して、平成24年5月から同年8月までの給与を支払え

Zは、平成24年9月から本判決確定の日まで、給与を支払え

その余の請求は放棄

【判例のポイント】

1 ・・・これらの事情からすると、Zは、XをY社に採用する時点で、Xは社労士として実績のない初心者であり、無償の手伝いでも良いから経験を積みたいと申し出ている者であって、Y社を出て行くDと同レベルでないことを十分認識していたと認めるのが相当である。

2 Y社の職員であったHは陳述書において、Xは社労士試験レベルの基礎知識も欠落しているのではないと感じた等と述べており、Xの能力が明らかに劣っているかのように記載する。しかしながら、Hについては、Y社が証人尋問を申請していたが尋問期日に出頭せず、後に申請が撤回された経緯があり、すでに述べた内容を超えては採用しがたい

3 以上によれば、本件解雇は、Y社における試用期間の趣旨目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されるものとはいえず、無効であり、地位の確認及び給与の請求部分には理由がある。

4 もっとも、慰謝料及び弁護士費用の請求については、社労士の業務が法律上の資格に基づくものであって一定の能力が要求されること、Y社の規模、Xが本件申請手続前に事前確認を怠っていること、Xについてはコミュニケーション不足の面が窺われること、Z自身の本件解雇に関する認識を考慮すると、本件解雇が不法行為を構成するとは言いがたく、理由がない。

Y社とZの同一性が争点になると思いきや、そこは争っていないようです。

全体的に解雇の正当性の立証が不十分であるようです。

試用期間中であるとはいえ、留保解約権も解雇ですから、そう簡単にはできません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇144(X庁懲戒免職処分取消請求事件)

おはようございます。

今日は、午前中は、労働事件の裁判が1件、公証人役場で公正証書作成が1件入っています。

午後は、事務所で書面作成です。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、公務員に対する酒酔い運転を理由とする懲戒免職処分の取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

X庁懲戒免職処分取消請求事件(東京地裁平成26年2月12日・労経速2207号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y庁の職員であったXが、酒酔い運転を理由として、Y庁長官から平成21年3月2日付けで国家公務員法82条1項1号及び3号に基づく懲戒免職処分を受けたことから、本件処分の違法性を主張してその取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す

【判例のポイント】

1 本件酒酔い運転が懲戒処分の対象とされるべきことは明らかであり、人事院作成の処分指針によれば、標準的な懲戒処分が免職又は停職とされていること、Y庁において準用されている農水省の処分方針によれば、免職が処分の目安とされ、特に情状酌量すべき場合、その他特に必要と認める場合は、目安の一ランク軽い処分とすることができるとされている。

2 Y庁長官は、免職を相当として本件処分を行ったが、国公法82条1項所定の懲戒処分のうち、免職処分は、職員としての身分を奪うものであり、停職処分以下の懲戒処分とは質的に異なるものであるから、その選択については慎重な検討を要する

3 本件酒酔い運転は、結果的に、走行距離が94メートル程度と短く、人損事故も物損事故も発生させておらず、自動車を農政事務所の駐車場に駐車した後、徒歩で居酒屋2軒とおでん屋を回り、タクシーで宿泊予定場所であるDの部屋のある独身寮に移動しており、駐車した時点においては、飲酒の上で自動車の運転をする意図は全く有していなかったものと推認することができる。加えて、Xは、約23年間にわたり国家公務員として勤務し、その間、勤続20年の表彰を受け、本件処分以外の懲戒処分歴を有していない。また、少なくとも本件酒酔い運転に至るまでの約7年8か月間において、交通違反歴を有していない

4 以上の諸事情を総合考慮すれば、Xを停職ではなく免職とした本件処分は、本件酒酔い運転に対する処分量定として重きに失するというべきであり、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用した違法があるものと認めるのが相当である。

相当性判断のところで、救われました。

丁寧に事実を拾い上げ、裁判所に示すことが大切ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇143(F1社ほか事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、会社解散に伴う解雇に関する裁判例を見ていきましょう。

F1社ほか事件(静岡地裁沼津支部平成25年9月25日・労経速2204号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社の従業員であったXらが、平成22年2月9日にY1社から会社解散を理由として同日をもって解雇する旨の意思表示を受けたことから、Xらが、前記解雇は解雇権濫用により無効であるなどと主張して、Y1社、Y2社などに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y1社らに対し、同年3月1日以降の賃金又は不法行為に基づく賃金相当額の損害賠償金の支払いを求め、さらに、違法な前記解雇によりXらが精神的苦痛を被ったなどと主張して、Y社らに対し、不法行為に基づく損害賠償金360万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効なところ(労働契約法16条)、会社が解散した場合、会社を清算する必要があり、もはやその従業員の雇用を継続する基盤が存在しなくなるから、その従業員を解雇する必要性が認められ、会社解散に伴う解雇は、客観的に合理的な理由を有するものとして、原則として有効であるというべきである。しかし、会社が従業員を解雇するに当たっての手続的配慮を著しく欠き、会社が解散したことや解散に致った経緯等を考慮してもなお解雇することが著しく不合理であり、社会通念上相当として是認できない場合には、その解雇の意思表示は、解雇権を濫用したものとして無効となるというべきである。

2 本件解散やそれに伴う解雇予定等について事前に説明がないまま本件解雇に至ったことについては手続的配慮を欠く面があったことは否定できないが、従前の賃金改定がなされなければ存続できなくなる厳しい経営状況にあること等について説明がされていたこと、本件解雇後ではあるものの、元従業員の再就職に関する措置を講じており、これ以上の再就職に関する措置をなし得たと認められないことに加え、タクシー需要が減少している状況やY1社の経営状況から早期の解散という選択が不合理であるとはいえないことを合わせて考慮すれば、Y1社が従業員を解雇するに当たっての手続的配慮を著しく欠いているとまではいえない
以上によれば、本件解散に伴う本件解雇は、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であると認められるから、無効とはいえない。

上記判例のポイント1が解散に伴う解雇(整理解雇)の規範です。

通常の整理解雇の4要素よりもさらに厳しいですね。

解散する以上、原則として解雇はしなければならないというところからくるものです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇142(東京都教育委員会事件)

おはようございます。

さて、今日は、校長に対する傷害行為を理由とする懲戒免職処分の取消に関する裁判例を見てみましょう。

東京都教育委員会事件(東京地裁平成26年2月26日・労経速2206号20頁)

【事案の概要】

本件は、東京都立甲高等学校の主幹教諭であったXが、平成22年8月27日、甲高校の校舎内で、同校校長との間でトラブルを起こし、同校校長に対する傷害行為に及んだところ、そのことを理由に、東京都教育委員会から平成23年1月20日付けで地方公務員法29条1項1号及び3号に基づく懲戒免職処分を受けたことから、本件処分の違法性を主張して、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件事件におけるXの傷害行為が、その性質・内容に照らして、地公法33条において禁止の対象とされる当該職の信用を傷つけ、職員の職全体の不名誉となる行為に該当し、したがって地公法29条1項1号所定の地公法違反に該当するほか、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行として同項3号に該当することは明らかである。

2 ところで、地方公務員につき、地公法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合考慮した上で判断されるものであり、その判断は、懲戒権者の裁量に任されているものと解される。したがって、当該懲戒処分については、上記裁量権の行使として社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきである(最判昭和52年12月20日)。

3 そこで、本件処分における裁量権の逸脱・濫用の有無を検討するに、本件事件におけるXの非違行為は、現職の教育公務員として、暴力の否定を含む社会の基本的、常識的な価値観について生徒に教育し、その模範となるべき立場にあったXが、教育現場である勤務先の公立学校内において、上司である校長に対して暴行を加え、傷害を負わせたというものであり、その態様も、2時間程度の間に、手拳による顔面殴打、パイプいすによる頭部等の殴打及び首絞めといった粗暴かつ危険な行為を執拗に繰り返したもので、傷害結果も、・・・加療約2か月間という比較的程度の重いものであるところ、D校長が、Xに対し、自らの生命身体を守り、学校内秩序を維持するために許容される限度を超えた違法な有形力の行使に及んだ事実はない。また、その経緯、動機をみるに、理科の実習助手の処遇をめぐる対応や勤務評価、本件申請書に係る対応等について蓄積していたD校長及びE副校長に対する不満を背景に、両名に対して一方的に因縁を付け、挑発的な言動に及んだ末になされた暴行であり、その際、D校長及びE副校長が、Xの暴行を誘発する言動を行ったとの事実は認められず、上記暴行に対する責任の一端がD校長にある旨のXの主張が失当であることは明らかである。
・・・これらの事情によれば、Xが、本件処分以前の約20年10か月間、東京都公立学校の教員として勤務を継続してきたこと、本件処分以外に懲戒処分歴がないこと、Xの処分軽減を求める多数の署名がなされた嘆願書が都人委に提出されていることなどを勘案しても、Xの傷害行為の悪質性、重大性に照らして、Xを免職とする判断が重きに失するとはいい難く、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用した違法があるものと認めることはできない。

公務員に対する懲戒処分については、本裁判例のように、裁量権の逸脱・濫用があったかどうかが判断されます。

行政事件でよく見かける判断基準です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇141(ロイズ・ジャパン事件)

おはようございます。

さて、今日は「やむを得ない業務上の都合」を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ロイズ・ジャパン事件(東京地裁平成25年9月11日・労判1087号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社による整理解雇は無効であるとともに、不法行為をも構成すると主張して、Y社に対し、地位確認ならびに解雇後の賃金および不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料)の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であるから、その効力は、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、被解雇者の選定の合理性の有無及び程度、解雇手続の相当性の有無及び程度等を総合考慮して、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否かによって判断することが相当である(労働契約法16条)。

2 …本件解雇当時、Y社において人員削減をする必要性があったことを認めることができる。もっとも、…一件記録を精査検討しても、この350万ポンドの削減を単年度で実現しなければY社が倒産し又は高度の経営危機に瀕することを認めるに足りないから、人員削減の必要性の程度としては、Y社が主張するような極めて高度な必要性があったものと認めることはできない

3 Y社は、平成24年1月31日に同年3月末日で失われる5つの職務を特定して発表し、本件5職務に現に従事していた5名の従業員に対し退職勧奨を行ったものの、その余の15名の従業員に対しては希望退職募集を行っていないこと、本件解雇においてXが被解雇者として人選されたのは、本件5職務に現に従事していたことによることが認められるところ、希望退職募集を行わなかった15名が従事していた職務について、人員削減の対象として特定された上記5名では代替することができないものと認めるに足りる証拠はないし、人員削減を行わざるを得ない旨の告知を受けただけで割増退職金等の退職条件の提示がない段階で自主退職を名乗り出た者がいなかったとしても、直ちに希望退職募集を実施してもこれに応じる者がいなかったなどということはできないから、解雇回避措置として希望退職募集を行うことが客観的に期待できなかった事情は認められないし、たとえ削減対象とする職務として本件5職務を選定したことに客観的合理性があったとしても、本件5職務に現に従事していたことを基準として、Xを被解雇者として人選したことに合理性があるものとは認められない

人員削減の高度の必要性が認められない場合には、かわりに高度の解雇回避努力が求められることになります。

これが総合考慮というものです。

希望退職募集などのとりうる方法を整理解雇の前にとっておくことは非常に重要なことです。

結果ではなく、プロセスが大切なのです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇140(財団法人ソーシャルサービス協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業所廃止に伴う解雇に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人ソーシャルサービス協会事件(東京地裁平成25年12月18日・労経速2203号20頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社による解雇を無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金及び賞与並びに不法行為(不当解雇)に基づく損害賠償金の支払いを求めている事案である。
Y社は、Xと雇用契約を締結したのはY社ではなく、権利能力なき社団である財団法人ソーシャルサービス協会東京第一事業本部であると主張して、X・Y社間の雇用契約の存在を争うとともに、仮に雇用契約が存在するとしても上記解雇は有効であると主張している。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社において、本件解雇を行った平成23年当時、東京第一事業本部の閉鎖に伴って、東京第一事業本部の事業に従事していた人員が余剰人員となっていたことは認められるものの、Y社は同年3月時点において2億円を超える現預金を保有しており、上記余剰人員を削減しなければ債務超過に陥るような状況になかったことは明らかであり、人員削減の必要性が高かったものと認めることはできない。にもかかわらず、Y社は、期間の定めのない雇用契約を締結しているXに対し、6か月間の有期雇用契約への変更を提案したものの、他の事業所への配置転換や希望退職の募集など、本件解雇を回避するためのみるべき措置を講じておらず、十分な解雇回避努力義務を果たしたものということはできない
上記のとおり、Y社においては、従たる事業所は完全な独立採算で独立した運営を行っており、本部が従たる事業所に人員配置を命じることはしない運用を行っていることが認められるものの、本件雇用契約における使用者がY社である以上、そのような内部的制限を行っていることをもって、東京第一事業本部以外の従たる事業所への配置転換等の解雇回避努力を行わなくてよいことになるものではないというべきである。・・・そうすると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるものとは認められないから、その権利を濫用したものとして無効である。

2 普通解雇された労働者は、当該解雇が無効である場合には、当該労働者に就労する意思及び能力がある限り、使用者に対する雇用契約上の地位の確認とともに、民法536条2項に基づいて(労務に従事することなく)解雇後の賃金の支払を請求することができるところ、当該解雇により当該労働者が被った精神的苦痛は、雇用契約上の地位が確認され、解雇後の賃金が支払われることによって慰謝されるのが通常であり、使用者に積極的な加害目的があったり、著しく不当な態様の解雇であるなどの事情により、地位確認と解雇後の賃金支払によってもなお慰謝されないような特段の精神的苦痛があったものと認められる場合に初めて慰謝料を請求することができると解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記特段の精神的苦痛を認めるに足りる事実はない。

整理解雇については、要件説ではなく要素説を採用していることから、整理解雇の必要性がそれほど高くない場合には、高度の解雇回避努力が求められることになります。

本件では、十分な解雇回避がなされていないという判断です。

また、解雇事案において、賃金のほかに慰謝料を認める場合の規範が示されていますので、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇139(カール・ハンセン&サンジャパン事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

今日は、身体の障害で「業務に耐えられない」ことを理由の解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

カール・ハンセン&サンジャパン事件(東京地裁平成25年10月4日・労判1085号50頁)

【事案の概要】

Y社は、家具・室内装飾品の製造、輸出入および販売を目的とし、主としてデンマーク製の家具の輸入および販売を行っている会社である。

Xは、Y社の従業員であったが、平成22年、ギラン・バレー症候群および無顆粒球症の診断を受けた。

Y社は、Xに対し、就業規則に定める解雇理由である「身体の障害により、業務に耐えられないと認められたとき」またはそれに「準ずるやむを得ない事情があるとき」に該当するものであることを理由に、解雇した。

Xは、本件解雇の有効性を争い、提訴した。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、・・・ギラン・バレー症候群及び無顆粒球症に罹患し、・・・平成23年3月頃までは起立不能及び上肢機能全廃・・・などと診断され、徐々に回復していた様子は窺われるものの、ずれも就労不能である旨診断されていた・・・。
以上の事実に加え、Xの業務の内容に照らせば、本件解雇予告当時のXは、制限勤務であってもY社において就労することが不可能であったと認められ、この事実は「身体の障害により、業務に耐えられない」という本件就業規則29条1項2号に当たり、本件解雇予告には、客観的に合理的な理由があるというべきである。

2 また、Xは、ギラン・バレー症候群及び無顆粒球症の治療のために入院してから本件解雇予告までの約1年7か月の間、就労することができない状態にあり、その間、Y社のXに対する、3か月分の給与を支払うことで退職して欲しい旨の打診に対し、Xが、失業保険の受給の関係で欠勤期間を平成23年11月以降まで延長して欲しい旨の要望をし、Y社がこれに応えて同年11月以降まで解雇を見合わせていた等の事情が認められる。
そうすると、本件解雇予告につき、社会通念上相当と認められない事情があるとは認められない。

従業員の症状に加えて、会社としては、可能な範囲での解雇回避や経済的支援をしていることが評価されています。

休職期間満了後の復職の可否の問題とも関連してきますが、この問題は、主治医の診断書や意見書のみで判断するのは早計であり、より多角的な視点で総合判断することが求められます。

それゆえ会社の判断の適否は、その時点では明確にならず、その後の訴訟を通じて明らかになるわけです。

訴訟リスク、敗訴リスクを考慮に入れつつ、労働者の就労の可否を判断する必要があります。

言うのは簡単ですが、とても難しい問題です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇138(学校法人A学院ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、女性教員へのわいせつ行為等を理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人A学院ほか事件(大阪地裁平成25年11月8日・労判1085号36頁)

【事案の概要】

本件は、同僚の女性教員であるAに対して車中で暴行を加え、わいせつ行為を行ったとして、Y社から懲戒解雇されたXが、Y社に対し、当該懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに懲戒解雇後の平成23年4月1日から毎月21日限り48万7500円の未払賃金及び遅延損害金を求めるとともに、懲戒解雇が不法行為に当たるとして損害賠償金550万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、更に、Aに対し、同人がY社に対して虚偽の被害申告を行ったことにより精神的損害を被ったとして、損害賠償金330万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効→賃金支払

AはXに対し、88万円を支払え

【判例のポイント】

1 Aは、一見すると交際があったかのような関係になっていたのは、期限付き専任講師であるXは、正社員であり先輩であるXとの間で男女間のトラブルが発生した場合、弱い立場であるAがトラブルメーカーとして学校から排除されるのではないかとの恐れがあったため、穏便に済ませたいと考えていたが、Xは、Aの立場を考慮することなく、執拗にメールや電話で会うことを迫ったためである旨主張しているが、AがXに対して好意を抱いており、むしろ、Xに対してAとの交際を明言するよう求めていたことは、メールの内容から認められること、Aは平成22年7月に同僚のH教諭や教育委員会にXから暴行を受けたことを相談しているが、その時点でも正社員と期限付き専任講師という関係は変わりないことから、Aの主張は採用することができない。

2 以上によれば、Aの供述は、核心部分である暴行の態様について供述が一貫しておらず、また、同人の述べる暴行の態様は、平成21年9月23日以降のAの言動とも整合しないので、全面的に信用することはできない。もっとも、Xが非公式の事情聴取において「暴力にあたるような平手打ちをしたことはないです」などと述べていたことからするとXがAに対して平手打ちをしたとの事実を認めることができ、また、質問の流れからするとXは本件ドライブの日に平手打ちをしたことを認めたとも解されるが、平手打ちをしたことはあるかとの質問自体は日時を限定して尋ねておらず、質問者自身、直後に他の日のこととして答えた可能性を否定することはできず、XがAに対して平手打ちをした日が同日であることを認めるに足りる証拠はない

3 そうすると、XがAに対して平手打ちをしたとの事実を認めること及びXが平成21年9月22日に自動車内で胸を触るなどの行為を行ったとの事実を認めることはできるが、Xが同日に自動車内で暴行を加えたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、本件懲戒解雇は、解雇事由を認めるに足りる証拠はなく、その余の点について判断するまでもなく、無効である。

4 Aによる虚偽の申告は、Xの雇用主であるY社に対するものであり、また、Xが無理矢理肉体関係を強要したことを内容とするものであるから、Xの名誉を著しく毀損するとともに、Xが職を失う危険を生じさせるものであって、悪質であるというほかなく、また、懲戒手続自体は非公開ではあるが、現在まで同様の主張を維持していることにより、Xの名誉に与えた悪影響も軽視できない。・・・これらの事情等を総合考慮すると、慰謝料は80万円、弁護士費用は8万円と認めるのが相当である

虚偽申告により、懲戒解雇に追い込まれたとしても、裁判所が認定する慰謝料の金額はこの程度です。

不貞行為による慰謝料よりはるかに低額です。

また、このような事案(セクハラ・パワハラ事案)の場合、被害者とされる従業員から被害の申告があった場合、会社としては、対応しないわけにはいきませんから、調査をすることになります。

その際、決して、当事者の一方のみの事情聴取から判断するのではなく、両当事者から事情聴取をする必要があります。 会社は中立公平な立場から客観的に懲戒事由の有無を判断すべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇137(イーハート事件)

おはようございます。 

さて、今日は、パチスロ店アソシエイトの解雇の有効性と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

イーハート事件(東京地裁平成25年4月24日・労判1084号84頁)

【事案の概要】

Y社は、Xに対し、Xが平成22年6月頃、本件店舗の高設定台の情報を顧客に漏えいしたことを理由に、同年7月16日付で懲戒解雇した。

Xは、本件情報漏洩をしておらず、本件懲戒解雇が無効であると主張し地位確認等を求め、合わせて時間外手当の支払いを求めて本訴を提起し、他方、Y社は、Xが本件情報漏洩をしたことを前提に、これによってY社が損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償を求めて反訴を提起した事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

Y社に対し、慰謝料100万円、未払残業代約150万円及び同額の付加金の支払いを命じた

反訴請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Xの聴取は、本社地下会議室で、C及びD2名によって行われた。同月4日は、午後7時頃から午後11時頃まで、翌5日は午前11時頃から午後7時ころまで行われ、Xは、翌5日の午後、本件上申書等を作成するに至った。C及びDのXに対する調査は、C自身、約90%、100%、Xが本件情報漏洩を行ったと考えていたと証言しており、他の可能性や、共犯の可能性について、十分吟味した調査であったとは認められない
Xは、上記2日間の長時間にわたる、またXが本件情報漏洩を行ったものであるとの前提にたった聴取の中で、本件上申書等の作成に至ったものとうかがわれる
そして、Y社は、同日より後、Xに対する更なる聴取や本件上申書等の裏付け調査等を行うことなく、同月16日、本件懲戒解雇の意思表示をした。 

2 本件上申書等は、裏付けがないことや、記載内容、作成経緯等に照らし、信用することができない。そして、Y社は、本件上申書等の作成以外に、X及び外の従業員に対する更なる聴取調査等の調査を尽くしておらず、本件全証拠によっても、Xが本件情報漏洩を行ったと認めるに足りない。Y社は、本件情報漏洩以外にも懲戒事由に該当する事実を主張しているが、これらの事実を前提としても、これらの行為の性質、態様等に照らし、懲戒解雇とすることは重きに失するといわざるを得ず、結局、本件懲戒解雇は無効というべきである。

3 Y社の本件懲戒解雇に対する調査は、本件上申書等を作成させた以外に、Xに対する更なる調査を行うことなく、十分な裏付けも行っていないというもので、かかる調査状況に鑑みれば、本件懲戒解雇は不法行為の違法性を帯びるというべきである。Xは、本件懲戒解雇によって突然に職を奪われ、その後の安定した生活の途を絶たれ、多大な精神的苦痛も被ったものと認められる。以上を総合考慮すると、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円を認めることが相当である。

懲戒解雇に限らず、例えば、セクハラ・パワハラ等でもそうですが、一方当事者が事実を否認する場合は、特に慎重に調査をする必要があります。

「こいつがやったに違いない!」という決め付けは、取り除かなければなりません。

先入観を持たず、公平な立場から調査をし、「裏付け」をとる必要があることがよくわかりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇136(東京都教育委員会事件)

おはようございます。

さて、今日は、条件付採用期間中の職員の免職処分に関する裁判例を見てみましょう。

東京都教育委員会事件(東京地裁平成25年9月2日・労経速2200号12頁)

【事案の概要】

本件は、東京都公立学校教員であったXが、1年間の条件付採用期間の満了する平成24年3月31日、東京都教育委員会から東京都公立学校教員を免ずる旨の処分を受けたことについて、本件免職処分は、処分権者の裁量の範囲を逸脱し、適正手続を欠いた違法なものであると主張して、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 地方公務員法22条1項、教育公務員特例法12条1項により、公立学校教員の採用は、臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、すべて条件付のものとされ、その教員がその職において1年間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとされている。この条件付採用制度の趣旨、目的は、職員の採用に当たり行われる競争試験又は選考の方法がなお職務を遂行する能力を完全に実証するとはいい難いことに鑑み、試験等によりいったん採用された職員の中に適格性を欠く者があるときは、その排除を容易にし、もって、職員の採用を能力の実証に基づいて行うとの成績主義の原則を貫徹しようとするところにあると解され、したがって、条件付採用期間中の職員は、いまだ正式採用に至る過程にあるものということができる。しかし、条件付採用期間中の職員といえども、すでに試験等という過程を経て、現に給与を受領し、正式採用されることに対する期待を有するものであるし、条件付採用期間中の職員にも適用される地方公務員法27条1項は、分限及び懲戒についてではあるが、公正でなければならないと規定して恣意的処分を戒め、任命権者の裁量権行使を限定している。そうすると、地方公務員法22条1項の「職務を良好な成績で遂行したとき」という用件が一定の評価を内容とするものであることからすれば、条件付採用期間中の職員がこの要件を充足するか否かについては、任命権者に相応の裁量権が認められることはいうまでもないものの、前記の条件付採用制度の趣旨、目的からすれば、その裁量は純然たる自由裁量ではなく、任命権者の判断が客観的に合理性をもつものとして許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権を逸脱ないし濫用したものとして違法となると解するのが相当である(最高裁昭和49年12月17日判決)。

2 ・・・前記のXの問題点の内容に照らすと、Xが新任の教員であり、教員として十分な経験を経た者ではないことや、Xには生徒の心情を汲んだ丁寧な指導を複数回にわたって行ったという実績や、Xを教員として評価する保護者や生徒がいること等の事情を踏まえても、Xにつき、条件付採用期間において、教育公務員としての能力を実証することができなかったとする都教委の評価、判断は、客観的に合理性を持つものとして許容される限度を超えた不当なものであるということはできず、裁量権の行使に逸脱ないし濫用の違法があったとは認められない。

通常の労働事件における解雇権濫用法理とは異なる判断基準により判断されることになります。

ご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。