Category Archives: 解雇

解雇155(ガイア事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、経営悪化を理由とする解雇および更新拒絶の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ガイア事件(東京地裁平成25年10月8日・労判1088号82頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、Y社による解雇及び更新拒絶が無効であるとする労働契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした未払賃金、時間外手当、育児休業給付金の申請手続にかかる証明拒絶による債務不履行および不法行為に基づく損害賠償およびそれらの遅延損害金の支払いならびにY社が関係諸機関から納付を求められている社会保険料のうちX負担部分を超える金員の支払義務のないことの確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

更新拒絶も無効

育児休業給付金相当額130万6800円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇の理由として、Xが平成23年11月半ばからY社からの連絡に一切応じなくなり、電話も電子メールもY社からのものは着信拒否の設定を行い、Y社から連絡が取れなくなったことを主張する。しかし、本件全証拠によっても同主張を認めるに足りず、かえって、平成23年11月13日にはXがY社に電子メールを送信しており、同月下旬にはXが体調不良となったためXの夫を介してY社と連絡を取っていることが認められる。本件解雇の有効性を基礎づける事実は認められず、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、解雇権を濫用したものとして無効と解するのが相当である。

2 本件雇用契約は合計8回、約2年間にわたり、その途中平成22年10月20日からは契約書に自動更新の条項が明記される中で更新されてきたものであるから、Xにおいて更新を期待することに合理的な理由が認められる。他方、Y社は、本件更新拒絶の際のY社の経営状況は悪化し、10数人いた従業員は数人に減り、それでも毎月赤字で、開発技術を持っていない総務要員を雇用することができなくなった旨主張するが、同主張を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件更新拒絶は無効であって、本件雇用契約は更新前と同様の条件で更新されていると認めるのが相当である。

3 本件解雇等は上記のとおり無効であり、XはY社の従業員の地位を有しているところ、使用者が労働者が雇用保険及び社会保険給付を受けるに当たって手続上必要な協力をすることは、労働契約上の付随的義務であると解され、その拒絶は債務不履行を構成する
・・・Y社が証明を拒否したのは、・・・8か月間であり、その間に支給されるはずであった育児休業給付金は130万6800円(16万3350円×8か月)であるから、Xの損害は130万6800円と認めるのが相当であり、Y社は同額について損害賠償義務を負う

使用者のみなさん、上記判例のポイント3に注意してくださいね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇154(アウトソーシング(解雇)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、契約に必要な誓約書等を提出しなかったことを理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

アウトソーシング事件(東京地裁平成25年12月3日・労判1094号85頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社であるY社と雇用契約を締結したXが雇用契約締結に必要な書類を提出しなかったとしてY社に解雇されたことから、Xが本件解雇は無効であるとして、Xが他社に就職する前日(平成25年1月31日)までの間の賃金(既払分を除く)の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

本件契約は平成24年8月31日をもって終了
→賃金54万2554円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 本件協定書は、使用者と労働者間の協定文書であり、本件誓約書は、労働者が遵守事項を誓約する文書であり、労働者に対して任意の提出を求めるほかないものであって、いずれも業務命令によって提出を強制できるものではない。したがって、Xが本件誓約書等の提出を拒んだこと自体を業務命令違反とすることはできない
ただ、本件誓約書を提出しなかった場合、それが本件誓約書に列挙された事由を遵守しない旨を表明したと評価できるようなときやY社の円滑な業務遂行を故意に妨害したと評価できるようなときには、社員としての適格性の問題が生じうるが、Xは、作業服代の控除の条項を問題にしていたのであって、本件誓約書に列挙された事由を遵守しない旨を表明したものとは評価できない。また、Xは、Y社の業務遂行を妨害する目的で本件誓約書等の提出を拒んでいたとも評価できない。そうすると、Xが本件誓約書等の提出を拒んだことは、「成績不良で、社員として不適当と認められた場合」に当たらない。

2 Y社は、A食品に対して、派遣労働者から守秘義務の履行に関する誓約書を提出させ、A食品の機密保持の確保を図る義務を負っており、本件誓約書の提出がないことにより業務上の不都合が生じていたといえる。しかしながら、Y社は、本件誓約書の提出がないまま3日間Xを勤務させているが、A食品との間で具体的な問題が生じていた様子はうかがわれない。また、Y社は、A食品の勤務では作業服代の控除が生じない旨の確認書を差し入れるなどして、Xの指摘する疑問点を解消した上で本件誓約書の提出を求めることもできたのであって、業務上の不都合が解雇もやむを得ない程度まで高まっていたとは認められない

3 本件業務に関する求人情報には「長期(3か月以上)」との記載があるが、雇用契約書には「実際に更新するか否かは、従事している業務の状況による」と記載されていること、就業条件明示書には1年単位の変形労働時間制を採用する旨が記載されているが、Xについて1年単位でシフト表が組まれていたわけではないことに照らすと、「長期(3か月以上)」との記載が更新を保証するものとはいうことはできない。
・・・そうすると、更新が1度もされたことがないXについて、更新の合理性期待があったと認めるに足りる事情はないというべきであり、本件契約は期限の8月31日をもって終了したと認められる

従業員に書面の提出を求めたにもかかわらず、提出されない場合、ただちに業務命令違反になるかは慎重に検討する必要があります。

まして、解雇をするとなるとなおさらです。

従業員が提出を拒む理由に合理性があるかどうかを検討する必要がありますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇153(ソーシャルサービス協会事件)

おはようございます。

今日は、事業本部閉鎖に伴う解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ソーシャルサービス協会事件(東京地裁平成25年12月18日・労判1094号80頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社による解雇は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金および賞与ならびに不法行為(不当解雇)に基づく損害賠償金の支払いを求めた事案である。

Y社は、Xと雇用契約を締結したのはY社ではなく、権利能力なき財団であるY社東京第一事業本部であると主張して、X・Y社間の雇用契約の存在を争うとともに、仮に雇用契約が存在するとしても上記解雇は有効であると主張している。

【裁判所の判断】

解雇は無効

不法行為に基づく慰謝料の請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・Y社東京第一事業本部の役員の任免にはY社理事長が関与し、Y社東京第一事業本部の役員はY社理事会の決定及びY社理事長の指揮命令に従って業務遂行することとされているのであるから、Y社東京第一事業本部の財産がY社から独立して管理する体制が取られているとみることは困難である
そうすると、Y社は、登記、寄附行為、厚生労働省への報告等においては、Y社東京第一事業本部を本人格を有するY社の一部である従たる事業所として扱っているところ、上記のとおり、Y社東京第一事業本部について権利能力なき財団の要件を充足しているとみることは困難であるから、Y社東京第一事業本部がY社とは別個の権利能力なき財団であると認めることはできない

2 Y社において、本件解雇を行った平成23年10月当時、Y社東京第一事業本部の閉鎖に伴って、Y社東京第一事業本部の事業に従事していた人員が余剰人員となっていたことは認められるものの、Y社は同年3月時点において2億円を超える現預金を保有しており、上記余剰人員を削減しなければ債務超過に陥るような状況になかったことは明らかであり、人員削減の必要性が高かったものと認めることはできない。
にもかかわらず、Y社は、期間の定めのない雇用契約を締結しているXに対し、6か月間の有期雇用契約への変更を提案したものの、他の事業所への配置転換や希望退職の募集など、本件解雇を回避するためのみるべき措置を講じておらず、十分な解雇回避努力義務を果たしたものということはできない。上記のとおり、Y社においては、従たる事業所は完全な独立採算で独立した運営を行っており、本部が従たる事業所に人員配置を命じることはしない運用を行っていることが認められるものの、本件雇用契約における使用者がY社である以上、そのような内部的制限を行っていることをもって、Y社東京第一事業本部以外の従たる事業所への配置転換等の解雇回避努力を行わなくてよいことになるものではないというべきである
・・・そうすると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるものとは認められないから、その権利を濫用したものとして無効である。

3 普通解雇された労働者は、当該解雇が無効である場合には、当該労働者に就労する意思及び能力がある限り、使用者に対する雇用契約上の地位の確認とともに、民法536条2項に基づいて(労務に従事することなく)解雇後の賃金の支払を請求することができるところ、当該解雇により当該労働者が被った精神的苦痛は、雇用契約上の地位が確認され、解雇後の賃金が支払われることによって慰謝されるのが通常であり、使用者に積極的な加害目的があったり、著しく不当な態様の解雇であるなどの事情により、地位確認と解雇後の賃金支払によってもなお慰謝されないような特段の精神的苦痛があったものと認められる場合に初めて慰謝料を請求することができると解するのが相当である。
これを本件についてみると、一件記録を精査検討しても、前記特段の精神的苦痛を認めるに足りる事実はない。
よって、Xの不法行為に基づく慰謝料の請求は理由がない。

非常に珍しい事案です。

このような戦い方もあるのです。

上記判例のポイント2のとおり、人事異動に関する内部的な制限は、整理解雇における解雇回避努力を否定するものにはならない可能性がありますので、注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇152(横河電機(SE・うつ病罹患)事件

おはようございます。

今日は、休職期間満了を理由とする退職扱いに対する損害賠償請求についての裁判例を見てみましょう。

横河電機(SE・うつ病罹患)事件(東京高裁平成25年11月27日・労判1091号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、上司であったAから、長時間の残業を強いられた上、Xの人格を否定するような非難、罵倒、叱責等を受けたことから、肉体的、精神的に疲労困ぱいし、鬱病等にり患して休職し、休職期間の満了を理由に退職を余儀なくされたと主張して、Aに対しては不法行為に基づき、Y社に対しては主位的にAの不法行為についての使用者責任、予備的に労働契約上の安全配慮義務違反等による債務不履行責任に基づき、損害賠償及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

原審は、Xが鬱病等にり患したことについてAに過失があったとは認められず、Y社に安全配慮義務違反等があったとも認められないとして、Xの請求をいずれも棄却した

この原判決に対し、Xが控訴し、逸失利益及び治療費に係る損害の主張を追加して、上記請求を拡張するとともに、Xの休職は業務上の傷病によるものであるから休職期間の満了を理由にXを退職扱いすることは許されないとして、XがY社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める訴えを追加した。

【裁判所の判断】

Y社に対し、534万5641円の支払いを命じた。

その余の請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 ・・・さらに、AがXの業務の成果について否定的な発言をしたこと、その他、AがXに対して強い口調で仕事上の注意や指示をしたことについては、Aの発言等は、Xの名誉を毀損する内容のものでもないのであって、Xがそれらに矛盾や不合理を感じることがあったとしても、業務上の指示・指導の範囲を逸脱したものということはできない
したがって、Aにおいて、Xに対する罵倒、誹謗中傷、責任転嫁、残業の強制、その他業務上の指示・指導の範囲を逸脱した違法な行為があったとは認められず、Aに対する不法行為に基づく損害賠償請求及びY社に対する使用者責任に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。

2 Xは、Y社がXに対して復職当初からフルタイム勤務を求めたことにつき安全配慮義務違反があると主張するが、休職者が復職するに当たり、短時間勤務から徐々に勤務時間を延ばしていく方法も考えられるが、場合によっては職場復帰の当初から本来の勤務時間で就労するようにさせた方が良いこともあり、一概に短時間労働から始めて徐々にフルタイム勤務に移行させるべきであると断ずることができるものではない

3 Xの鬱病の症状が遷延化し、Xが長期間にわたり休職を継続したことについては、Xの個人の素質、ぜい弱性、生活の自己管理能力が少なからず寄与しているものとみるべきであり、鬱病の発症から寛解状態が4か月以上継続した平成18年10月末日までの症状に基づく損害については、全てY社の安全配慮義務違反と相当因果関係があると認められるが、その後、動揺傾向があるとされつつも寛解状態が更に1年間継続した平成19年10月末日までの損害については、50%の限度において上記相当因果関係が認められ、それ以降の損害については、上記相当因果関係は認められないというべきである

4 Xが過重な心理的負荷の掛かる業務に従事せず、鬱病を発症しなければ得られたであろう収入額は、想定される基本給に、想定される残業代として、平成17年1月から8月までの平均残業時間を考慮し、3割を加算して、さらに想定される賞与(1か月当たりで計算する。)を加えた額から、上記期間中にXが実際に受領した給与、賞与及び傷病手当金の額を控除して、算出するのが相当である。

5 Xの精神障害は、平成19年10月を過ぎた頃には上記業務に起因する心理的負荷により生じたものとみることはできなくなっており、Y社から雇用を解かれた平成21年1月30日の時点において、鬱病の発症から3年以上が経過してもなおその症状が全快せず、Y社で業務に従事することが困難であったと認められる。
そうすると、Xは、平成21年1月30日の時点において、一般社員就業規則35条(8)の「業務上の傷病者で傷病発生のときから3か年を経ても全快しないとき」に該当する事由が存在し、かつ、労働基準法19条1項所定の解雇制限事由は存在しないから、Y社による解雇は、上記就業規則の条項に基づくものとして有効であるというべきである。
したがって、Xは、Y社に対して労働契約上の権利を有する地位にあるとは認められない。

この裁判例は、非常に重要ですので、みなさん、参考にしてください。

リハビリ出社については、使用者の安全配慮義務として当然に行われるべきものとまではいえない、というのが裁判所の考え方です。

また、長期にわたり休職が続いている場合、会社としては、解雇制限との関係で難しい判断を迫られることになります。

東芝事件のような例もありますので。

完全な正解は、どこまでいってもありません。 後から正解だったのかがわかるのです。

休職命令を発するとき、休職期間中、復職の可否については、専門家に相談をしつつ、慎重に判断しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇151(ベストFAM事件)

おはようございます。 

さて、今日は、営業社員に対する成績不良等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ベストFAM事件(東京地裁平成26年1月17日・労判1092号98頁)

【事案の概要】

本件は、平成24年1月24日にY社との間で雇用契約を締結し、同年3月6日にY社を退職したXが、上記雇用契約は期間の定めのない契約であり、かつ、Xの退職はY社の不当解雇によるものであって無効である旨を主張し、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び上記退職後の賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Xは、ハローワークの求人票の記載等から期間の定めのない正社員として採用されたと考えていたため、本件契約締結の際に雇用期間が有期とされていたことに不満を持ったものの、雇用期間が1年近くあることや成績をあげれば雇用期間に関係なく正社員になれると聞いたことなどから、本件雇用契約書記載の雇用期間の有期雇用契約であることを了解した上で本件契約を締結したものと認めることができる。
他方、Y社の本件訴訟における主張内容、本件訴訟に先立つ労働審判手続においてY社が提出した答弁書における主張内容、Y社の就業規則における採用期間についての定め及び弁論の全趣旨によれば、Y社が、期間の定めのない雇用契約における試用期間と有期雇用契約における雇用期間とを混同して本件契約を締結したと認める余地もあり得ないではない。しかし、…Y社は、平成24年1月24日の本件契約締結時において当初から期間の定めのない雇用契約を締結する意図ではなく、Y社から別途意思表示をしない限り定められた期間の経過により雇用契約が終了するものとして本件契約を締結したと認めるのが相当であるから、Y社の認識としても有期雇用契約として本件契約を締結したものと認められる
以上のとおり、本件契約時にはX及びY社のいずれも有期雇用契約として本件契約を締結するという認識であったと認められる。

2 確かに、Xは営業職としてY社に採用されながら、入社後、本件解雇までの間に、新規の契約を1件も締結することができなかったことは、当事者間に争いがない。しかし、本件解雇の時点では、XがY社で就業し始めてからまだ1か月半程度しか経過していないのであり、その間、新規の契約を1件も締結することができなかったことをもって直ちにXの勤務状況や業務能率が上記のような状況であったことを裏付ける事情は本件全証拠によっても認められないから、Y社の就業規則42条1項1号及び2号の解雇事由に該当する事実があると認めることはできないというべきであり、他に、Y社の就業規則で定める解雇事由に該当する事情の存在を認めるに足りる証拠はない。
よって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠くものと認められるから、労働契約法16条により解雇権の濫用に当たり無効であるというべきである。

入社してわずか1か月半程度で、従業員の能力が不足していると判断するのは明らかに早計です。

結果、このような判決が出ても文句は言えません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇150(トラベルイン事件)

おはようございます。

さて、今日は、「業務の向上の見込みがない」ことを理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

トラベルイン事件(東京地裁平成25年12月17日・労判1091号93頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、契約期間中の解雇は無効であるとして、地位確認と平成25年1月支給分の賃金不足分として10万5600円の支払いならびに同年2月支給分以降の毎月の賃金として平均賃金と主張する21万円および遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの勤務態度等について前記のとおり主張するところ、受電回数や離席モードに入る回数を問題としているが、受電回数の下限や離席モードの上限を明確に決めての指導はしていない。また、重大なミスを犯したというが、Xから始末書も徴求していない。このように、Xに対して、同様のことを繰り返せば、解雇に至ることもあり得るという自覚を持たせる指導も、改善のための明確な措置もされない状況の下では、Xの勤務態度等がY社主張のとおり芳しくなったとしても、これをもって、Xに期間中の解雇を正当化するほどの重大な非違行為があったとはいえず、本件解雇に「やむを得ない事由」があったとは認められない

2 Xは、更新の合理的期待が存在したことについて主張立証しないので、本件雇用契約は、期間満了日である平成25年3月20日で終了したとみるほかない。

期間途中の解雇は、「やむを得ない事由」がなければ無効となります。

一般の解雇に比べてさらにハードルが高いわけです。

上記判例のポイント1のとおり、勤務態度に問題がある場合には、改善のために指導・教育をしたことを裁判上で立証できる準備をしておくことが重要です。

なお、原告は、期間満了後も更新されることについての合理的期待の存在を主張立証していなかったようです…。

裁判所も特にその点についてヒントを出してくれなったようですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇149(芝ソフト事件)

おはようございます。

さて、今日は、暴言行為・業務命令拒否等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

芝ソフト事件(東京地裁平成25年11月21日・労判1091号74頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、その後Y社から懲戒解雇さらには予備的に普通解雇されたXが、本件解雇は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、賃金及び不法行為に基づく損害賠償金等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

不法行為は否定

【判例のポイント】

1 Xは、平成23年11月11日、A取締役に対し、暴言を吐いたことが認められるが、その余の日時においては、Y社主張事実を認めるに足りない。確かに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Xは性格的に激高しやすい面があることから、業務遂行中において、Y社代表者やA取締役に対しても、強い口調で自らの主張を述べることがあったこと、そのことが周囲のY社従業員に対して不安を感じさせることが窺えないではないが、Xの上記行為が本件就業規則第82条第3号、7号、8号に該当するとまでは認めることができない

2 暴言行為等については、懲戒解雇事由に該当する事実を認めることはできない。業務命令拒否については、同事由に該当すると言えなくもないが、前記認定にかかる事情の存する職務経歴書の提出拒否をもって懲戒解雇とすることは処分として重きに失するのであって、その余の手続面等について検討するまでもなく、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当なものとして是認することはできず、権利濫用として、無効と認めるのが相当である。

3 …しかし、前記4件について検討しても、Xの言動が主たる理由となって交渉や事業が頓挫したり、Y社に損害が生じたことは認めるに足りない。また、そのクレームの内容は、交渉過程での出来事が主なものであり、交渉相手の受け取り方という側面もあることを考慮すると、明らかにXに非があるとまで認めることは相当ではない。そして、Y社において担当した業務は上記4件にとどまるものではなく、Xは、多数の業務を担当していたことが認められるのであり、これらの業務について、成果を上げたかどうかはともかく、Xが担当した顧客の多くからクレームを受けたという具体的事実を認めるに足りない。また、C社の件は、同社とXとの間に訴訟が係属し、和解により解決していることからすれば、同社関係者の言動からXの営業能力等を否定的に評価することは相当ではない。これらの諸事情を考慮すると、前記5件等から、Xについて本件就業規則第19条第1項2号及び5号該当事由を認めることはできない。

4 本件解雇については、暴言行為が一部認められること、Xは、職務経歴書の提出という業務命令を拒否したこと、Xに対し、取引先等関係者から業務に関するクレームが複数寄せられていたことなどからすると、Y社において、懲戒解雇事由及び普通解雇事由にあたる具体的行為が存在しないことが明らかであるにもかかわらず、このことを承知しながら本件解雇に及んだとまで認めることはできず、本件解雇を不法行為とまで認めることはできない

5 Xは、本件解雇により、住宅ローンの支払が困難となり、やむを得ず自宅を売却せざるを得なくなったとして、同売却に伴って生じた損害の賠償を請求する。しかし、本件解雇が不法行為であるとは認められないから、上記損害賠償請求は理由がない。また、本件解雇とXの自宅の売却による損害との間に相当因果関係は認め難い
以上によれば、Xの損害賠償請求は理由がない。

まず、解雇が不法行為と認定されるケースがどのような場合であるかについて、上記判例のポイント4を参考にしてください。

また、会社としては対応が困難な従業員を解雇したくなる気持ちは理解できます。

最終的に金銭解決ができるのであればよいですが、必ず和解ができるとも限りません。

法的な対応としては限界を感じざるを得ません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇148(富士ゼロックス事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、勤務成績不良などを理由とする中途採用者の普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

富士ゼロックス事件(東京地裁平成26年3月14日・労経速2211号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として稼働していたXが、Y社から解雇されたことから、同解雇は、解雇権を濫用するものとして無効であると主張して、Y社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、雇用契約に基づき、賃金、賞与の支払いを求め、併せて、不法行為に基づき、損害賠償金600万円の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、事前に指示事項を明確に取り決めていたにもかかわらず、訪問営業の計画と行動報告を上司が確認することを目的として作成を指示された行動管理表の作成及びこれをめぐる上司への報告や連絡等について、何度となくこれを怠り、あるいは、なおざりな記載、対応をしていたものといえ、服務上の問題を強く生じていたといえるほか、これらが繰り返されていたことに照らせば、およそ改しゅんの情もみせていなかったといえる
上記説示の点に照らせば、Xは、銀座支店とNB第三支店に配属されていた平成21年10月から平成22年7月までの間に、多数の服務上、能力上の問題を生じていたこと、そして、警告書によるものやこれによらないものも含め、度重なる注意、警告等を受け、あるいは、職場環境を替え、研修も受け、自らの服務姿勢を改め、改善するといった機会も持ったのに、こうした服務上、能力上の問題はなお改まらない状況にあったことを指摘することができる。…本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるものとはいえない。

2 Y社人事部の社員が平成22年8月2日、本件解雇の解雇理由に関してXと面談をした際、同社員が、Xに対して信を措けなくなっている経過について話すくだりの中で、「身障者としては用済みですよ。」といった発言をしたことが認められる。
もっとも、同発言は、Y社が、Xの申告していた障害を踏まえてXの採用を決定していたものであるのに、Xが、認定に係る障害を変更させ、しかも、それがY社に対して特段の報告や連絡のないまま、Xの随意になされたものであったこと、以上の点を踏まえ、同社員において、そのような対応は問題ではないかと問題視する発言をしていたところ、Xが、「はあ、障害がなかったら用済みということなんですか。」などと申し向けたことに伴い、そのようなことであれば、Xの年齢等にかんがみXを採用するなどしなかったことを言明する趣旨で発言したものであることが、同証拠における前後の会話内容から明らかである。
そうしてみると、上記発言が、その措辞、表現において不適切であるとはいえても、上記の点にも照らせば、直ちに社会的相当性を欠くものとはいえず、不法行為が成立するとまでは認められない。

成績不良や能力不足を理由とする解雇の場合には、上記判例のポイント1のように、教育・指導をし、改善の機会を与えてあげることが必要です。

解雇事案に限りませんが、裁判所は、プロセスを重視しますので、「いろいろやったけど、改善しなかったので、やむなく解雇しました」ということを明らかにする客観的証拠を用意しなければなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇147(ザ・キザン・ヒロ事件)

おはようございます。 

さて、今日は、タクシー乗務員に対する整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ザ・キザン・ヒロ事件(東京高裁平成25年11月13日・労判1090号68頁)

【事案の概要】

本件は、タクシー運送事業を営むY社の足立営業所に、タクシー乗務員として勤務していたXらが、Y社がXらに対して行った整理解雇は解雇権を濫用した無効なものである旨主張して、Y社に対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

なお、一審(さいたま地裁平成25年7月30日)は、Xらの地位確認請求をいずれも認容した。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇当時のY社の経営状況からみて、人員削減を含む抜本的な経営再建策を実行する必要性があったとは認められるものの、経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認めることは困難であるから、足立営業所に勤務する乗務員の全員を解雇するほどの必要性があったということはできない
したがって、Y社の上記主張は、採用することができない。

2 Y社は、足立営業所の従業員全員を解雇することを前提として、K社との間で事業用自動車譲渡契約又は事業譲渡契約を締結し、特段の解雇回避措置を採ることなく本件解雇を実行したものであり、本件解雇後、事業譲渡先であるK社にXらを含むY社の乗務員の情報を提供して雇用の要請をしたり、解雇された従業員の一部に対してK社への就職を勧誘するなどしたとしても、Xらの雇用確保のための措置として十分なものであったとはいえず、結局、Y社において解雇を回避するための十分な措置を採ったということはできない。
したがって、Y社の上記主張は、採用することができない。

3 本件解雇当時、Y社の経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認めることが困難である以上、本件解雇における解雇人員の選定基準が合理的なものといえないことは、前記のとおりである。
したがって、Y社の上記主張は、採用することができない。

4 Y社が、K社との間で自動車若しくは事業の譲渡契約を締結し又はそのための交渉をしながら、それについて説明することなく突然足立営業所の従業員全員に対し解雇通告をしたこと、その後の説明会においても、事業譲渡について一切言及することなく抽象的な解雇理由に言及するに留まったこと、組合からの団体交渉の要求にも応じていないことなどに照らし、本件解雇について十分な説明・協議が行われたと認めることができないことは、前記のとおりである。
したがって、Y社の上記主張は、採用することができない。

整理解雇の要件(要素)を満たさないという判断です。

上記判例のポイントの1についてですが、会社とすれば、会社再建のため、やむを得ず事業譲渡をしたのだと思いますが、裁判所は、足立営業所の従業員全員を解雇するほどの必要性は認めませんでした。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇146(大阪運輸振興(解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、「事業上の都合」を理由とする解雇の有効性と反訴立替金請求に関する裁判例を見てみましょう。

大阪運輸振興(解雇)事件(大阪地裁平成25年11月15日・労判1089号91頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社から解雇されたが、当該解雇は無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および解雇後の賃金の支払いを求めた事案、ならびに、Y社が、Xを解雇したことにより、社会保険料の従業員負担分の一部を賃金から控除することができなかったため、Y社がXに代わって従業員負担分も支払ったとして、当該立替金の返還を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

立替金請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約に職種限定の合意があったとは認められず、また、Xの勤務態度に問題がなかったことは当事者間に争いがないから、本件解雇は、いわゆる整理解雇に当たるというべきであり、本件解雇が有効か否かは、①人員削減の必要性、②解雇回避努力の有無、③人選の合理性及び④手続の相当性を総合して判断すべきである。そして、本件解雇が有効といえるためには、Y社において、少なくとも、人員削減の必要があること、解雇回避努力を尽くしたこと及び解雇者の人選が合理的であったことを主張・立証する必要があると解される。

2 この点、確かに、本件解雇は、A駅B操車場における操車場業務の廃止に伴うものであり、Y社は、Xに対し、自動車運転手、路線施設維持管理業務、自動車倉庫業務又は車両手入業務の4つの業務への配転を打診し、Xは、持病により自動車の運転ができないことを理由に自動車運転手、路線施設管理業務及び車両手入業務への配転は不可能であると回答していることは認められる。しかし、それ以外の事務職等への配転の可否等の解雇回避努力の有無、人選の合理性については、Y社代表者が、抽象的に事務職に馴染まないと判断した、事務職も定数を満たしているなどと供述するに止まっており、Xについて、他に従事しうる業務がなかったことを具体的、客観的に裏付ける証拠は提出されていないところ、Y社は、本件解雇に整理解雇法理の適用はないとして、これらの点について主張・立証しない態度を明らかにしている。
以上のように、Y社が、本件解雇の有効性を基礎付ける評価根拠事実について主張・立証しない以上、本件解雇は無効であるといわざるを得ない。

3 なお、Y社は、本件雇用契約について職種限定の合意がないとすれば、Xが配転を拒否したことになると主張するが、Y社は、あくまで上記の4つの業務への配転を打診したに止まっており、Y社が配転を命じ、Xがこれを拒否したとまではいえないから(なお、自動車倉庫業務については、期間の定めのない雇用契約から期間雇用への契約変更の打診であって、配転命令には当たらないというべきである。)、この点に関するY社の主張も採用できない。

整理解雇のハードルの高さがよくわかりますね。

特に、使用者側としては、上記判例のポイント2は注意が必要です。

職種に関する抽象的な「向き・不向き」を根拠に配転の機会を与えないことは避けなければなりません。

現実には、かなり厳しいとは思いますが。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。