Category Archives: 解雇

解雇165(社会法人東京都医師会(A病院)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、院内の風紀、秩序を乱した等を理由とする懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

社会法人東京都医師会(A病院)事件(東京地裁平成26年7月17日・労判1103号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が管理・運営する病院に勤務する医者であるXが、3か月間の停職の懲戒処分を受けたこと、医長から医員へ降任され、それに伴って降格されたことについて、これらが無効であるとともに、Xに対する不法行為に当たるとして、Y社に対し、①医長として勤務し、上記降格前の給与を受ける雇用契約上の地位の確認、②上記降格前の賃金額と実際に支払われた賃金額との差額及びこれに対する遅延損害金の支払い、③停職期間中に支払われるべき賃金及びこれに対する遅延損害金の支払い、④慰謝料300万円及びこれに対する遅延損害金の支払いをそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

本件懲戒処分は無効

本件降任及び降格は有効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・本件懲戒処分の理由となるべきXの非違行為の態様は、管理職でありながら、本件病院の方針や院長の指示に従おうとせず、また、本件病院の方針の推進や検査業務に支障を生じさせ、さらに、十分な根拠なしに公然と、薬剤検査科長がパワーハラスメント行為を行ったかのような発言をして、これを誹謗中傷するなどしたというものであり、決して軽微なものではない。
しかしながら、他方、本件懲戒処分の内容は、本件就業規則において、免職に次いで重い停職処分であり、しかも、その停職の期間は、本件就業規則上許される期間のうちで最長のものであって、Xとしては、3か月間にわたり賃金を得ることができないという重大な不利益を受けるものである

2 そして、本件懲戒処分の理由となるべき非違行為については、決して軽微な態様のものではないとはいえ、前件訓告処分がされてから4~5年後にされたものであること、基本的には、本件病院内部にとどまる行為であり、患者に対して直接被害を与えるようなものではないことなどの諸事情に照らせば、平成20年2月にカルテを無断で破棄したという事実があったこと等を考慮しても、上記非違行為に対する懲戒処分として3か月間にもわたる最大期間の停職処分をもって対応したことは、重きに失するものといわざるを得ない
以上によれば、本件懲戒処分は、相当性を欠くものとして、無効であると認めるのが相当である。

3 本件懲戒処分が無効であると認められても、Xが管理職としての適格性を欠くことを理由としてされた本件降任及び本件降格については、人事権を濫用したものであると認めることはできず、有効であるというべきである

4 本件懲戒処分については、無効であると認められるところであるが、そのことから直ちに不法行為を構成するものと認められるものではない。Xについては、懲戒処分を受ける客観的に合理的な理由があったといえるのであり、本件懲戒処分が無効と判断されるのも、3か月間の停職という処分を選択したことが社会的相当性を欠くものと認められるからにすぎない。これらの事情に照らせば、Xの救済については、停職期間中の賃金の支払請求を認めることで足り、本件懲戒処分は、Xに対する不法行為に該当するものではないというべきである。
したがって、Xの慰謝料の請求は、理由がない。

懲戒処分の理由はあるけれど、処分が重すぎるということで、ぎりぎりのところで無効となっています。

裁判官によっては有効と判断する場合もありうると思いますがいかがでしょうか。

また、懲戒処分が無効であっても、降任及び降格は、人事権の濫用にはあたらないというバランス感覚は参考になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇164(帝産キャブ奈良(解雇)事件)

おはようございます。

今日は、乗務員らに対する会社解散を理由とする整理解雇等に関する裁判例を見てみましょう。

帝産キャブ奈良(解雇)事件(奈良地裁平成26年7月17日・労判1102号18頁)

【事案の概要】

本件は、タクシー乗務員であったXらが、会社の解散に伴って整理解雇等をされたことに対して、整理解雇の無効、会社の団体交渉拒否について不法行為による損害賠償などを求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効(不当労働行為にも該当しない)

団交拒否は不法行為に該当する

【判例のポイント】

1 会社の解散など企業の廃止に伴ってされる全労働者の解雇についても労働契約法16条所定の解雇権濫用規制が適用される余地があるが、職業選択の自由や財産権の保障といった見地から企業を廃止することが事業主の専権に属すると解され、その権利行使の当然の結果としてされるものであることから、真実企業が廃止された以上、それに伴う解雇は、原則として、労働契約法16条が規定する「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると解するのが相当であると認められない場合」に当たらず、有効であると解するのが相当である。しかしながら、解散による企業の廃止が、労働組合を嫌悪し壊滅させるために行われた場合など、当該解散等が著しく合理性を欠く場合には、会社解散それ自体は有効であるとしても、当該解散等に基づく解雇は「客観的に合理的な理由」を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇であり、解雇権を濫用したものとして、労働契約法16条により無効となる余地があるというべきである。

2 会社解散による解雇の場合であっても、会社は、従業員に対し、解散の経緯、解雇せざるを得ない事情及び解雇の条件などを説明すべきであり、そのような手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われた場合には、「社会通念上相当であると認められない」解雇であり、解雇権を濫用したものとして、労働契約法16条により無効と判断される余地がある
・・・本件解散決議については、Y社の株主が決定したものであるから、組合が団体交渉により求めようとしていたその決議の撤回等について、Y社役員らが団体交渉等において交渉することには限度があり、団体交渉を行ったとしても、これによって本件解散決議が撤回された可能性は乏しいと考えられる。また、人員削減等による整理解雇の場合には、従業員のうち特定の者が解雇されることから、その整理解雇の対象とされた者に対し、整理解雇の対象とされた理由を説明するなどしてその理解を得る努力が求められるが、本件各整理解雇は本件解散決議に基づく全従業員の解雇であるから、解雇される全従業員に説明すべき事項が本件解散決議の理由に限られることになるものの、本件解散決議はY社の株主の判断であるため、その理由をY社の役員らが全従業員に対し詳細に説明するのは困難であるといわざるを得ない。

3 Y社は、組合から本件解散及び本件整理解雇等についての説明会の開催を求められ、また、それらの撤回等のための団体交渉を求められたにもかかわらず、これらを拒絶しており、また、組合及びその組合員であるXらほか乗務員らに対する文書による説明も十分とはいえなかった。
このような団体交渉の拒絶及び説明を十分に行わなかったことは、組合の団体交渉権を違法に侵害するものであり、組合に対する不法行為に該当すると認めるのが相当である。
・・・上記不法行為による組合の損害の額については、30万円を認めるのが相当である。

会社解散に伴う整理解雇に関する裁判所の考え方がわかりますね。

参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇163(A住宅福祉協会事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、協会の名誉を毀損したこと等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

A住宅福祉協会事件(東京高裁平成26年7月10日・労判1101号51頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員として稼働していたXが、Y社から懲戒解雇されたところ(なお、Y社は、当審において予備的に普通解雇の主張を追加した。)、解雇無効を主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、解雇後の未払月額賃金及び未払賞与の支払を求める事案である。

原審は、Y社の主張する事実は懲戒解雇の事由に当たらず、また、手続の相当性も欠いているとして、Y社のした解雇は無効であるとし、Xの本件請求について、地位確認を求める請求を認容した。

この原判決に対し、Y社のみが敗訴部分の取消を求めて控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社の当審における新たな主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきか否かについて検討する。上記のとおり、人事異動命令の拒否など当審で新たに主張した3つの解雇事由は、Xに対する解雇通知に明文で掲げられていたものであるから、これを原審で主張せずに当審になって主張したことは、攻撃防御方法の提出として時機に後れていることが明らかである。そして、原審においてこれらの解雇事由についての主張及び立証をすることが、不可能あるいは困難であったとする事情は何らうかがうことができないことに加え、原審におけるY社の訴訟追行が弁護士である訴訟代理人によってされていたことも考慮すると、当審においてY社の訴訟代理人が変わり、訴訟追行の方針等に変更があったことを考慮したとしても、当審に至って新たな主張をすることが時機に後れたことについては、故意又は重大な過失があるというべきである。

2 ・・・当審において新主張についての当否を判断するについては、従前の双方の主張や証拠調べの結果だけでは訴訟資料が不足していることが明白であり、当事者双方の主張立証を尽くさせる必要があり(少なくともXがこれを争っている以上、X本人の尋問の実施は必須であるし、併せてY社関係者の尋問が必要となることが想定される。)、その主張整理や証拠調べには、なお相当の時間を要するとみられるから、訴訟の完結が大幅に遅延するものというべきである

3 なお、念のため付言しておくと、仮に上記各解雇事由に関するY社の主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下しなかった場合には、これまでの当事者双方の主張立証を前提とする本件証拠によっては、Y社主張の各解雇事由がXにあるとは認めるに足りないから、上記各事由による懲戒解雇をいうY社の主張を採用することはできないと判断することになる。

控訴審で新たな解雇事由を追加すると、本件のように、時機に後れた攻撃防御方法だと言われてしまいます。

一審のうちに、もっと言えば、一審の早い段階で解雇事由を固めておく必要がありますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇162(I式国語教育研究所代表取締役事件)

おはようございます。

今日は、解雇等に関する代表取締役の任務懈怠と損害賠償責任に関する裁判例を見てみましょう。

I式国語教育研究所代表取締役事件(東京高裁平成26年2月20日・労判1100号48頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社の代表取締役であったAに対し、Aが、Y社をして①Xらを不当に解雇させたこと、②Xらへの賃金の仮払いを命じた仮処分決定に従わなかったことが、AのY社に対する任務懈怠ないしXらに対する不法行為に当たるとして、会社法429条1項ないし民法709条に基づき、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料20万円+弁護士費用2万円の支払を命じた

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件仮処分決定に基づき、Xに対して賃金の仮払いをすべきであったところ、これを履行していない。また、Y社にその支払能力がなかったと解することができないことは原判決が認定判断するとおりである。そして、Aが代表者であるY社は、本件仮処分決定に基づき株式会社Eに対する集金代行契約に基づく精算金債権が差し押さえられるや、同契約を解除していること、また、同じくAが代表者である学校法人Hも、本件仮処分決定に基づき差し押さえられたY社の売買代金債権が存在していたにもかかわらず、これに反して存在しない旨の虚偽の事実を記載した民事執行法147条1項に基づく陳述書を裁判所に提出したこと、Y社は、根幹商品である絵本を株式会社Nに代金1647万6893円で売却し、その代金がY社の口座に入金されると直ちに同口座からY社の口座に1650万円を送金していることなどを考慮すると本件仮処分決定に基づく仮払いの不履行についてはY社に悪意があり、また、仮処分手続における審尋等によりXらが仮払いを求める事情をY社の代表者であったAは認識できたから、仮払いに応じないことによりXに損害を与える結果となることを認識していたというべきである
したがって、Aには会社法429条1項及び不法行為に基づく責任があると判断するのが相当である。

第1審判決についてはこちらを参照してください。

これだけのことをやっても、慰謝料20万円です・・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇161(ブーランジェリーエリックカイザージャポン事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、GMに対するセクハラ行為を理由とする降格と雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ブーランジェリーカイザージャポン事件(東京地裁平成26年1月14日・労判1096号91頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、GMとして採用したXに対し、セクハラ等GMとして不適切な行為があったとして、GMから業務部マネージャーに異動させ、賃金を減額した。また、Y社はXの定年日以降の労働契約は1年ごとの嘱託契約であったとして、平成25年2月28日以降、契約を更新しない旨を同年1月7日にXに通告したところ、Xが、本件降格が違法であると主張して、GMの地位にあることの確認および降格前の賃金と降格後の賃金の差額の支払い、慰謝料の支払いを求めるとともに、本件雇止めに効力がないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および平成25年1月以降の月例賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格は有効

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 本件降格に伴いY社はXに対して異動辞令しか交付しておらず、何らの懲戒処分を行っていないのであって、本件降格は人事権の行使として行われたものとみるほかない。

2 ・・・以上のとおり、複数の女性従業員の羞恥心を害するセクハラ行為を行っていたことが認められる上、裁判上は認定するまで至らない行為についても特に争っていなかったことも併せ考慮すれば、XにY社業務全般を統括するGMとしての適格性が欠けると判断したY社の判断に裁量の逸脱は認められない

3 Xは、減給額が過大であると主張するが、減給額が合計22万2000円に上るからといって、それだけで裁量を逸脱したものということはできない

4 X・Y社間において、雇用契約時に定年規定を適用しないという特約を交わしたということはないので、Xは平成24年2月末日をもって定年となり、同年3月からは嘱託契約が締結されたとみるほかないが、上記のとおり、Y社における嘱託契約は、1年のものとそうでないものがあること、Xについては、1年の嘱託契約となる継続雇用制度において定められた、定年6か月前までの条件提示と希望聴取という手続も踏まれていないことに照らすと、X・Y社間に1年の有期雇用契約が締結されたと認めることはできない
また、仮に1年の有期雇用契約であったとしても、定年後の継続雇用制度の趣旨からすればXには更新の合理的期待があり、降格後のマネージャーとしてのXの職務に問題があったと認められないことからすれば、本件雇止めは相当性を欠くものというべきである

複数のセクハラ行為の存在が認定されていることに加え、裁判上は認定するまでに至らない行為についても考慮の一要素となっていることは参考にすべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇160(学校法人専修大学(専大北海道短大)事件)

おはようございます。

今日は、希望退職に応じなかった教員らに対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学(専大北海道短大)事件(札幌地裁平成25年12月2日・労判1100号70頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、Y社が設置運営する専修大学北海道短期大学の教員として勤務していたXらが、平成24年3月31日付けでなされた解雇(整理解雇)は無効であるとして、XらとY社との間の雇用関係が存続することの確認並びに平成24年4月以降の賃金及び平成24年6月以降の賞与の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却
→整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、整理解雇について規定する本件就業規則21条1項3号に基づくものであるところ、同号に基づく整理解雇が解雇権を濫用したものとして無効(労働契約法16条)になるか否かを判断するに当たっては、整理解雇が、使用者における業務上の都合を理由とするものであり、落ち度がないのに一方的に解雇され収入を得る手段を奪われるという重大な不利益を労働者に対してもたらすものであることに鑑み、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の遂行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続の相当性を総合考慮して判断すべきである。もっとも、前記①ないし④の全てが充足されなければ整理解雇が無効となるとは解されない。

2 北海道短大においては、平成17年10月頃までに入学志願者数及び入学者数が落ち込み、それに伴って財務状況も悪化していたことから、緊急3カ年計画等の各種改善策を実施したが、平成21年度末までに入学志願者数及び入学者数は微増に転じたものの、入学定員の充足や単年度の支出超過解消までには至らず、帰属収支差額及び消費収支差額においてなおも大幅な支出超過が続くこととなったというのである。これに加えて、Y社においても消費収支差額において支出超過となったこと、全国的に見ても短期大学の入学者数が年々減少しているという状況にあったことからすれば、本件募集停止決定をしたY社の経営判断は、合理的なものであったと認めるのが相当であり、また、本件募集停止決定によって北海道短大には新規入学者がいなくなり、閉校が必然的なものとなったのであるから、北海道短大の教職員らについて人員削減の必要性があったと認めるのが相当である。

3 Y社が、前記の方法のほかに、本件解雇を回避する方法として、早期希望退職者には退職金及び退職加算金に加えて基本給の7か月分の退職特別加算金を支払い、希望退職者には退職金及び定年までの残余年数に応じた基本給の6か月分ないし14か月分の退職加算金を支払うこととして、それぞれ希望退職者の募集を行っていること、本件解雇に伴うXらの不利益を軽減する方法として、Y社の費用負担による再就職支援会社の利用を提案したり、他の学校法人に対し北海道短大の教員の紹介文書を送付し採用機会を得られるよう努めたりしていることにも鑑みれば、Y社の対応は、本件解雇及び本件解雇に伴う不利益を回避、軽減するための努力を十分に尽くしたものと認めるのが相当である

4 Y社が、北海道短大の教職員協議会における意見交換や、北海道短大の教職員との個別面談を実施していることからすれば、Y社は、Xらに対し、Xらが加入する組合や教職員協議会を通じて又は直接に、本件解雇の必要性、本件解雇及びそれに伴う不利益の回避措置、本件解雇の対象者の選定について、納得を得られるよう十分な説明、協議を行ったものというべきである。

一般的に整理解雇の有効性は非常に厳しく判断されますが、上記判例のポイント3のように、ここまで被解雇者の不利益を回避、軽減する努力をすれば、裁判所も有効だと認定しやすくなります。

もっとも、会社の規模によってはここまでできないということも当然ありますが。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇159(トライコー事件)

おはようございます。

今日は、元従業員に対する適格性欠如等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

トライコー事件(東京地裁平成26年1月30日・労判1097号75頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたところ、平成24年3月31日をもって解雇されたXが、Y社に対し、①上記解雇が無効であるなどとして、Xが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに同年4月1日以降の賃金および遅延損害金、②上記解雇がXに対する不法行為に該当する、あるいは、Y社が労働環境を整備する注意義務に違反したとして、慰謝料120万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

解雇予告手当の支払いを命じた

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、記帳・会計処理に関する相応の知識・経験を有するものと評価されて、記帳・経理業務を専門に担当するコンサルタントとして雇用されたものであり、本件雇用契約上、顧客から提供された原資料を基に適切な仕訳を行い、正確な会計書類を各顧客と取り決めた期限までに提出するとともに、原資料を所定のルールに従って分類整理してファイリングをして管理し、顧客からの会計書類の内容に関する問い合わせに対し、適切に回答すべき職務を有していたにもかかわらず、その職務を怠り、月次決算結果を所定の期限までに提出せず、会計処理を誤り、原資料を適切に管理せず、顧客からの問い合わせに対して適切に回答をしなかったものと認められる。そして、Xは、Y社から、職務懈怠が明らかになる都度、注意・指導をされながら、その職務遂行状況に改善がみられなかったものと認められ、結局のところ、Xは、前記の職務を遂行し得るに足る能力を十分に有していなかったものといわざるを得ない。
そうすると、Xについては、少なくとも、Y社就業規則55条(7)所定の解雇事由があるものというべきである。

2 Y社は、Xの上記職務懈怠によって、M社から業務委託を打ち切られ、また、B社及びP社に係る会計処理の修正に多大な労力を要するとともに、その修正が大きな規模に及んだものであると認められる。
また、Y社は、平成24年2月、Xの解雇を検討したものの、これを控えて、Xに対し、退職を勧奨し、その際、Xからの要望を受けて、一定期間引き続き在籍させる一方で、その期間の勤務を免除する取扱いをするなどして、当事者双方の合意による円満な退職を実現しようとしたものと認められる
これらの事実に、前記認定のXの職務遂行の状況やY社の注意・指導の状況等を併せみれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるというべきである。

3 解雇予告期間をおかず、解雇予告手当の支払をしなかったこと、解雇理由を速やかに通知しなかったことから、直ちに解雇の効力が否定されるものではなく、使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、また、予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合には、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、又は予告手当の支払いをしたときに解雇の効力を生ずるものと解すべきである(最高裁昭和35年3月11日判決)。
以上によれば、本件解雇は、有効なものであるが、その効力自体は、平成24年4月30日に生じたものであると認められる。

能力不足を理由とする解雇の場合には、この裁判例のように、注意・指導を繰り返すことが求められます。

それにもかかわらず改善が見られなかったという一連の流れを客観的に明らかにしておくことが必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇158(ジヤコス事件)

おはようございます。

今日は、業務命令違反等を理由とする試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ジヤコス事件(東京地裁平成26年1月21日・労判1097号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結していたXが、試用期間中に解雇されたことが、解雇権濫用であり、無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Xが試用期間中であり、XとY社との間の試用期間付雇用契約が解約権留保付雇用契約であることについては当事者間に争いがないが、試用期間中といえども一旦成立した雇用契約を解消させる以上、留保解約権の行使は、法的には解雇であるから、解雇権濫用法理に服することとなり、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合にのみ許されると解すべきである

2 Xが、顧客からの問い合わせに対し、マニュアル記載の回答そのものではない応対を複数回行ったことが認められる。
しかし、Y社の主張を前提としても、Y社の業務命令は、顧客に対し誠実かつ配慮を持って対応せよという趣旨なのであって、マニュアルの回答例そのものを回答せよという趣旨ではない上記Xの対応は、いずれも常識的な対応の範囲内というべきであり、やや事務的にすぎると思われる対応はあるものの、これがY社と当該顧客との継続的な取引を阻害するものであるとまでは認められない。Xの対応に関連して顧客から苦情があったことは認められるのは、前記・・・のみであり、その内容も・・のとおりであって、Xの対応に対する苦情とはいえない
したがって、Xの上記対応がY社の業務命令違反に当たる旨のY社の主張は、これを認めることができず、他にXの業務命令違反の事実の存在を認めることはできない。

マニュアル通りの回答をしないからといって、それだけで解雇が正当とはなりません。

結局は、程度問題なので、あとになってみないと解雇の有効性は判断できないところがつらいところですが、仕方ありません。

会社としては、短気を起こさず、教育し、根気強く改善を求めることからやりましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇157(P社事件)

おはようございます。

今日は、うつ病の労働者に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

P社事件(東京地裁平成26年7月18日・労経速2220号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社から平成23年9月28日付けで懲戒解雇の通知を受け、その後、平成24年2月1日付けで通常解雇の意思表示を受けたとして、それらの無効を主張し、Y社に対し、Xが労働契約上の権利を有することの確認を求めるとともに、給与及び賞与の支払い、遅延損害金、上記のY社による懲戒解雇の通知や本件解雇等がXに対する不法行為になるとして、不法行為に基づく慰謝料200万円、遅延損害金の支払いを求める事案である。

なお、Xは、平成23年6月28日、うつ病の診断を受け、同年7月8日付け休職届けにより、Y社に対し、体調不良を理由とし、同月9日から同年9月28日までの休職を申し出ていた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・先行解雇に係る通知書が懲戒解雇事由として掲げるXの無断欠勤は認められるが、それは8日間のことでしかなく、この程度の無断欠勤をもって就業規則の定める「無断欠勤・・・が著しく多く」に当たるとすることはできないというべきである。そうすると、先行解雇は、そもそも解雇事由のない不適法なものであったといえる。そして本件カルテの「体調悪い、うつ状態悪化、会社から一方的に懲戒処分通知書送られてきた。」とのXの訴えの記載及びD医師の診断によれば、先行解雇によって、本件うつ病の症状が何らかの程度、増悪したものと認めることができる
しかし、Xは、先行解雇の通知書を受領した後、ユニオンからY社への抗議書の作成方法を同年10月3日に教えてもらう段取りをし、同年9月29日に午前午後と2回、甲分院を訪れ、午後にD医師を受診し、同月30日には労働基準監督署への相談を行い、その結果をD医師に電話で報告していることを認めることができるのであり、このようなXの活動報告にかんがみると、本件うつ病の増悪の程度は、重いものであったとは決していえないものであったと認めることができる。
しかも、同時に、無断欠勤の理由と無断欠勤に至る経緯、同年6月27日のY社代表者との面談によりXが退職するかどうかを検討すべきこととなっていたこと、Xにおいても同年9月28日までY社に対する休職に関する連絡を取らずにいた態度を総合考慮すると、Xにおいて、先行解雇の時点までに、Y社から、自己に対し、退職に関する決定が求められなくなり、同年6月27日の段階で予告された懲戒解雇という手段が執られない状況になったと信じるのが相当であったという状態にはなく、むしろ、自己に対する懲戒解雇のあり得べきことを予期すべきものであったといえ、そのような意味で、Y社が先行解雇を行ったことにも斟酌し得る点がないではないというべきである。
以上によれば、先行解雇の違法性は、本件解雇の社会通念上の相当性を障害する事情ではあるが、相当性の検討をする際に、考慮すべき度合いは大きくないといえる

2 Xは、Y社代理人弁護士の申入れにもかかわらず、復職を認定する資料として、Y社が業務上の指示として指定した東京医科大学病院メンタルヘルス科の受診を拒否したのであり、このようにXが本件うつ病に関する復職手続を履践することを明確に拒否したために、Y社は、就業規則上求められている復職の判断をするについての前提資料が提出されない状態の下に置かれ、そのような状況の中で、Xの主治医であるD医師から相矛盾する内容の12月及び1月の両診断書が提出され、最新の一月診断書上からは就労不能の情報を得たという経緯が認められ、しかも、一月診断書により、Xの状況について「心身の障害により、勤務に支障が出た場合」と判断したことにも合理性が肯定されるというべきであるから、本件の事実関係の下では、Y社において、さらにXやその主治医であるD医師に対する問合せを行うことなく、復職ができないものとして、「心身の障害により、勤務に支障が出た場合」と判断したことには問題がない。

本件のように、精神障害により休職しているケースにおいて、復職の可否を決定することは、いつだって悩ましいものです。

正解が見えない「ケースバイケース」の世界です。

そんな中でも、過去の裁判例からヒントを得て、考えられる適正妥当なプロセスを踏むことが大切なのです。

今回のケースも参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇156(ミクスジャパン事件)

おはようございます。

今日は、経営悪化に伴う会社解散と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ミクスジャパン事件(東京地裁平成25年12月27日・労判1095号86頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を解雇されたX1~X12が、①当該解雇は、手続きの妥当性および相当性を欠いており無効であると主張し、解雇後2か月分の賃金の支払いを、②仮に上記解雇が有効であるとしても、Y社は、解雇の3か月前にはXらに解雇を予告すべき労働契約上の信義則に基づく義務を負っていたがこれを怠ったと主張し、そのためXらが上記解雇後2か月分の賃金相当額の損害を被ったとして、その賠償を求め、かつ、③未払いの時間外割増賃金、④付加金および各遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

本件解雇は有効
→2か月分の賃金相当額の損害賠償請求権は発生しない

信義則上の通知義務は認められない

時間外割増賃金、付加金の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Y社の業績が悪化し回復の見込みがないことから、単独株主であるMISA社の意向を踏まえて解散するに至ったことに伴うXらの解雇はやむを得ないものというべきであり、解雇について合理的な理由があったものと認められる。

2 Xらは、本件労働協約1及び2の失効後も、Y社は、本件労働協約2に定めがあった本件通知義務を信義則上負っていたところこれを怠っており、そのような状況下で行われた本件解雇は相当性を欠く旨主張する。
しかし、本件労働協約1及び2は、いずれも、その更新期間の限度が3年と明定されており、当該定めにより、本件解雇の約1年前である平成22年11月15日に失効している。・・・本件のように、新たな労働協約の締結を、本件組合内部における引継ぎの不備によって失念した場合についてまで、当然に、信義則上、Y社が本件通知義務を負うと解することはできない
したがって、Y社が、本件解雇の3か月前にその旨を通知せず、1か月前に説明するにとどまった点をもって、本件解雇が相当性を欠くものであるということはできない。

3 Xらの退職に伴う経済的手当としては、Y社がXらに対し、Y社所定の規定に基づく退職金を満額支給したことにより一定程度は果たされているとみることができ、それ以上の手当をすべきであるとする根拠は見いだし難い。また、本件解雇は、本件解散と同時にXらに説明されたものであるところ、長期間にわたり経営状況が低迷し、改善の兆しの見えないY社の事業について、これをいつ廃止するべきかという問題は、基本的にはY社側の経営判断により決定されるべきものであって、本件通知義務をY社が負っていない本件においては、本件解雇の通知が解雇の1か月前であること(労働基準法20条1項本文の要求する予告期間は遵守されている。)をもって、Xらに時間的余裕を与えなかったということはできないし、Y社が本件組合との団体交渉に応じ、本件組合の要求に対し検討の上回答していることなどからすれば、Y社においてXらの就職活動を援助する措置を取らなければならない根拠も格別見いだすことができない。

労働組合のみなさんは、上記判例のポイント2のような状況に気をつけましょう。

会社をいつたたむかは経営判断ですので、原則として会社の自由ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。