Category Archives: 解雇

解雇175(有限会社X設計事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、試用期間中の解約権行使に関する裁判例を見てみましょう。

有限会社X設計事件(東京地裁平成27年1月27日・労経速2241号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結し、設計図面の作製等の業務に従事していたXが、解雇等の効力を争い、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と平成23年6月分から本判決が確定するまでの間の給与月額各18万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 いかにXが設計業務に一定の経験を有することを前提に採用されたにせよ、Y社代表者は入社から間もないXに対していきなり本件橋梁の配筋図の作製を指示しながら、それ以上に作業の手順、作業を進める上でA組の意向をどの程度確認すべきか、その場合に連絡はどうやって行うかなどの点について具体的な指示をした形跡は見当たらないのであって、入社早々指示を受け約2週間でXが提出した当初提出配筋図につきA組から不備を指摘されたことを捉えて設計業務に従事する適性を欠くものと結論付けるのは酷なところがある何よりも、A組・Y社代表者から指示を受けてXが修正作業に取り組み、完成させた修正後配筋図に特段の問題はなく、続けて作製した2ブロック分の配筋図も同様であったという経過をみる限り、Xが入社後最初に担当した作業は不慣れなところもあって手直しが必要なものであったが、その後は支持に従って要求どおりの作業を完成させることができたというのが、大局的にみた事のてんまつであって、これらの経過から、Xに基本的な設計図面の作製能力がなくその適性を欠いていたなどとは認め難いというべきである。

2 Y社は、XがY社代表者の指示に反してA組との打ち合わせに参加しなかったこと、電話の応対を拒否したこと、電子メールに自分の名前を示さなかったこと、指示・会話等に応答せず、コミュニケーションをとるよう指導しても改善がみられなかったこと、共同作業を指示してもこれを行わなかったこと等の勤務態度を問題とする。確かに・・・。しかし、これらの点について、Y社代表者らから明確かつ具体的な指示・指導があったにもかかわらず、Xがかたくなに従わなかったなどの事情があるというのであればともかく、そうした事情も見当たらないことからすると、Y社が指摘する点を捉えて、Xの勤務態度が不良であるとまではいえず、Y社の業務に具体的な支障を来したとも認め難い。また、・・・それによってどれだけ作業が遅れ、業務に支障を来したかは明らかでないというべきである。

3 以上みてきたところによれば、Y社の主張するXの業務遂行能力及び勤務態度のいずれの点をみても、試用期間中に判明した事実につき、解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在するとは認められない。

業務遂行能力不足や勤務態度不良を理由とする解雇は、そう簡単にはできません。

使用者側の適切な指示・指導・教育を裏付ける必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇174(日本ハウズイング事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、マンションの住込管理人の管理人室退去をもって自主退職と評価することの可否に関する裁判例を見てみましょう。

日本ハウズイング事件(東京地裁平成26年12月24日・労経速2239号25頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から雇用されていたA、Bが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とバックペイの支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

A、Bともに労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

【判例のポイント】

1 8月2日の段階で、C課長は、本件マンションの管理人を交代することになる旨告げているものの、退職届を書くようにAらに告げているに留まる。それ以外に同日において、Y社から明確にAらを解雇するとの意思表示はなされたと認めるに足りる事実はない。また、C課長が、同日、Aらが解雇されたことを認めたという事実も証拠上、認められない。・・・以上からすると、本件労働契約について、Y社がAらに対して解雇の意思表示をしたと認めることはできない。

2 そもそも意思表示は、表意者が一定の効果を意欲する意思を表示し、法律がこの当事者の意欲した効果を認めてその達成に努力するものとされているから、自主退職(労働者から一方的に労働契約を解消すること)の意思表示についても自主退職という法律効果を意欲する意思が表示されたものと評価できるかが問題となる。そして、労働者にとって労働契約は、生活の糧を稼ぐために締結する契約であり、かつ、社会生活の中でかなりの時間を費やすことになる契約関係であることからすれば、かかる労働契約を労働者から解消して自主退職するというのは、労働者にとって極めて重要な意思表示となる。したがって、かかる労働契約の重要性に照らせば、単に口頭で自主退職の意思表示がなされたとしても、それだけで直ちに自主退職の意思表示がなされたと評価することには慎重にならざるを得ない。特に労働者が書面による自主退職の意思表示を明示していない場合には、外形的にみて労働者が自主退職を前提とするかのような行動を取っていたとしても、労働者にかかる行動を取らざるを得ない特段の事情があれば、自主退職の意思表示と評価することはできないものと解するのが相当である

3 確かに、本件においてY社が解雇の意思表示をしたという事実は認められず、Y社から解雇されたことが明確になっていない段階において、Aらにおいても退職届の作成を拒否し、自主退職もしていないのであれば、Aらとしては、管理人室を退去する必要まではなかったともいえ、管理人室を退去したことは自主退職を前提とするかのような行動であるともいえる。
しかしながら、Aらが本件マンションを退去した理由としては、本件マンションの管理人であれば、家賃を払わなくても済むが、8月2日のC課長やD主任とのやりとりで、管理人を解雇されたと思い、解雇されたのであれば居住権はなくなり、家賃を支払わなければならないと考え、やむなく退去したとのことであり、Y社から退職届を書くよう求められていた当時の状況からすれば、Xらがかかる認識に至ったのも無理からぬところといえる
以上からすると、Xらが本件マンションを退去したことだけをもって自主退職の意思表示をしたと評価することはできない。

解雇の意思表示も自主退職の意思表示もないから、雇用契約は今まで通り、続いているという判断です。

まさかの展開です。

上記判例のポイント2の解釈は参考になりますね。 是非、押さえておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇173(学校法人金蘭会学園事件)

おはようございます。

今日は、学校閉鎖等を理由とする大学教員に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人金蘭会学園事件(大阪高裁平成26年10月7日・労判1106号88頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営する千里金蘭大学の教授であったXが、次年度に担当する授業科目がなく、従事する職務がないことを理由として、Y社から平成23年3月31日限り解雇されたことにつき、解雇権の濫用に当たり無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、本件解雇後の平成23年4月から本判決確定の日まで、毎月21日限り賃金60万5090円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

原審は、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとはいえないとし、無効であると判断した。

Y社は、これを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成21年度には教育研究活動のキャッシュフローの黒字化を早くも達成し、学納金に占める人件費比率も平成19年度の約199%から約93%にまで低下し、帰属収支差額の赤字も解消には及ばないにせよ一定程度は圧縮できていたのであり、経営改善計画の目標達成までは未だ道半ばであったとはいえ、着実に成果を上げつつあったということができるから、Y社が、本件解雇当時、年間約2億円以上の人件費の削減の必要があったものと認めることができない

2 Y社の経営改善計画が着実に成果を上げつつあった過程で行われた短期大学部や現代社会学部の募集停止に際しても、Y社がその所属社員を「過員」として人員整理の対象とすることを検討した形跡は窺われず、むしろ、選考を経た者についてはB機構に配置し、教養科目の授業担当者及び教養教育改革の管理責任主体として雇用を継続することとし、平成22年4月からB機構を発足させ、その後同年6月21日に本件希望退職募集に踏み切るまでの間に、当時の千里金蘭大学の兼務者を除く教員数88名の4分の1近い21名もの教員を人員削減の対象としなければならないほどの財政面での異変が生じた事実も窺われないのであるから、本件希望退職募集や本件解雇の時点で、財政面の理由からも、21名に及ぶ教員を対象とする人員削減の必要があったとは認められない。そうすると、平成22年6月時点において、Y者が21名もの教員を対象として人員削減を行うことについて、Y社の合理的な運営上やむを得ない必要性があったと認めることはできない。

3 本件希望退職募集については解雇回避措置としての位置づけが可能であること、Y社が、本件希望退職募集の開始後、対象者に対する説明会を開催し、労働組合の申入れによる団体交渉に応じたことなど、納得を得るための手続を一応は履践していること、Y社が、退職に応じた者の不利益を緩和すべく、平成23年度限り特任教員として再雇用し、退職金の加算を提案するなどの措置をとっていること等を考慮しても、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、その権利を濫用したものとして無効というべきである。

整理解雇の必要性が否定された事例です。

労働者側で整理解雇を争う場合には、決算書等を正確に理解し、本当に整理解雇を行う必要性が存在するのかを具体的かつ詳細に主張することが求められます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇172(メルセデス・ベンツ・ファイナンス事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、中途採用者に対する普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

メルセデス・ベンツ・ファイナンス事件(東京地裁平成26年12月9日・労経速2236号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、稼働していたところ、解雇されたXが、この解雇は解雇権を濫用したものとして無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金及び賞与並びにこれらに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、同僚等に対し、日常的に高圧的、攻撃的な態度を取り、トラブルを発生させていたほか、インターネットのサイトで業務と無関係なことをし続けていたのであり、そのため、Y社は職務の遂行に支障を来していたところ、このようなXの言動は、容易には変わり得ないであろう性向等に起因しているものと推認できるから、Xについては、「協調性を欠き、他の従業員の職務に支障をきたすとき」と、「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」という、本件就業規則41条3号及び7号に該当する事由が存在したことが認められる

2 この点に関し、Xは、職種や配置の転換の可能性を検討することなく解雇したのは、解雇回避義務を尽くしたものとは評価し得ないと主張するが、Xの言動に照らすと、その原因であるXの性向等は容易に変わり得ないものと推測でき、職種や配置を転換することによって問題が解決ないし軽減の可能性を検討していなかったとしても、そのことをもって解雇回避義務を尽くしていないと評価するのは相当ではない
したがって、本件解雇については、「客観的に合理的な理由」があるものと認められる。

3 そして、Y社は、自分が職種限定社員であるという主張に固執していたXをその希望どおり与信審査部に異動させた上で、本件合意に沿って、他の従業員らとのコミュニケーション及び行状について、何度もXとの面談を実施し、注意を行い、懲戒処分たる譴責処分も行うなど、改善の機会を何度も与えたものの、Xの言動が基本的に変わることがなかったため、Xを解雇するに至ったものであるから、以上の経緯を踏まえると、本件解雇は「社会通念上相当」と認められる

4 これに対し、Xは、Y社がXに対し個々の言動を指摘した上で注意や指導をしたことはないから、具体的かつ明示的な注意や指導を受けていない言動を理由とする本件解雇は社会通念上相当性を欠くと主張する。しかし、Xは、21年間にわたる銀行勤務の後にY社との間で本件雇用契約を締結し、月額50万円近い賃金の支払を受けて稼働していたのであり、相応の経験を有する社会人として、自身で行動を規律すべき立場にあったものといえるところ、他者とのコミュニケーションに意を用い、その名誉や感情を徒に害するような言動を慎むことは、かかる社会人経験を有する者としては当然のことであり、改めて注意されなければ分からないような事柄ではない。とすれば、Y社がXに具体的かつ明示的な注意や指導をしていなかったとしても、そのことを重視するのは相当ではない。しかも、Y社が実施していた面談等は、何が問題であるのか通常の理解力があれば容易に認識し得る方法で提示し、注意や指導をしていたと評価することができ、Xとしても、改善の契機はあったと認められるのであって、Y社はXに行動を改める契機を何度も与えてきたということができる。むしろ、Xにおいて前期のような主張をしていること自体が、Xの処遇の困難性を示し、本件解雇の相当性を裏付けるものというべきである。Xの主張には理由がない。

今回は、裁判所も解雇の有効性を認めてくれましたね。

しかるべき手続を踏み、従業員の行動、言動をしっかりと記録しておくことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇171(ギャップ・ジャパン事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、勤務状況不良等を理由とする解雇の有効性と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ギャップ・ジャパン事件(東京地裁平成26年8月8日・労判1107号84頁)

【事案の概要】

甲事件は、Xが、Y社から解雇されたがその解雇が無効であると主張して、Y社に対し、解雇後再就職までの賃金の支払い、および違法な解雇に基づく損害賠償を求めるとともに、在職期間中の割増賃金および付加金の支払いを求めた事案である。

乙事件は、Y社が、Xの申し立てた労働審判が権利濫用であるなどと主張して、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

なお、Xは、本件解雇後、労働審判を申し立て、その後、他社へ就職した。

労働審判では、解決金60万円の支払を命じる審判がされたが、Y社が異議を申し立てたため、甲事件訴訟に移行した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、48万5713円を支払え(未払賃金)

Y社はXに対し、42万5426円を支払え(在職期間中の割増賃金)

Y社はXに対し、33万7396円を支払え(付加金)

Y社の反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・また、Xが転職先を探していたとしても、直ちに労働意欲を失ったとは認められず、Y社の主張する解雇事由には当たらない
・・・Xは営業のCとともに同社に謝罪に出向いており、営業に責任転嫁していたわけではないし、解雇に値するほどの損害がY社に生じたと認めるに足りる証拠はない

1 なお、Y社は、予備的に懲戒解雇も主張するが、懲戒解雇通知は、Xの他社への就職後にされているのであるから、その効力を判断する必要がない

2 本件解雇は無効であるが、Xについて、無効な解雇に伴う損害として、賃金請求が認められてもまかなうことができない損害が生じたとは認められない。

3 本件解雇は無効であるから、本件労働審判の申立ては理由があるものであって、不法行為に当たらない

労働審判の申立が権利濫用にあたるという会社側の主張は無理があります。

最終的には、労働審判での解決金の倍以上の金額を支払うことになっています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇170(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件)

おはようございます。

今日は、療養休職期間満了時に休職事由が消滅したとして、雇用契約の終了が認められなかった裁判例を見てみましょう。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件(東京地裁平成26年11月26日・労経速2234号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結した後、業務外傷病(うつ状態)により傷病休暇及び療養休暇を取得したXが、療養休職期間満了時に休職事由が消滅したから、XY社間の雇用契約がY社の就業規則により終了するものではないなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、休職期間満了日(雇用契約終了日)の翌日である平成24年12月21日以降、毎月20日限り45万3412円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社はXに対し、平成24年12月21日から本判決確定の日まで、毎月20日限り45万3412円及び遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件就業規則24条3項は、従来規定されていない「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを、療養休職した業務外傷病者の復職の条件として追加するものであって、労働条件の不利益変更に当たることは明らかである。・・・そして、業務外傷病のうち特に精神疾患は、一般に再発の危険性が高く、完治も容易なものではないことからすれば、「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを復職の条件とする本件変更は、業務外傷病者の復職を著しく困難にするものであって、その不利益の程度は大きいものである一方で、本件変更の必要性及びその内容の相当性を認めるに足りる事情は見当たらないことからすれば、本件変更が合理的なものということはできない
したがって、本件変更は、労働契約法10条の用件を満たしているということはできず、本件就業規則24条3項がXを拘束する旨のY社の主張を採用することはできない。

2 業務外傷病により休職した労働者について、休職事由が消滅した(治癒した)というためには、原則として、休職期間満了時に、休職前の職務について労務の提供が十分にできる程度に回復することを要し、このことは、業務外傷病により休職した労働者が主張・立証すべきものと解される。

3 Y社は、傷病休暇及び療養休暇からの復職に関し、原則として、本件内規中に掲げた本件判定基準9項目を全て満たした場合にのみ復職を可とする運用をしているところ、本件情報提供書によれば、Xが、上記9項目を全て満たしていたとはいえないから、本件療養休職期間満了時において、Xが復職可能であるとはいえないと判断したものであり、その判断に誤りはない旨を主張する。
しかし、休職制度が、一般的に業務外の傷病により債務の本旨に従った労務の提供ができない労働者に対し、使用者が労働契約関係は存続させながら、労務への従事を禁止又は免除することにより、休職期間満了までの間、解雇を猶予するという性格を有していることからすれば、使用者が休職制度を設けるか否かやその制度設計については、基本的に使用者の合理的な裁量に委ねられているものであるとしても、厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」から、本件内規中に掲げた本件判定基準9項目を全て満たした場合にのみ復職を可能であるとする運用を導くことは困難である
また、本件内規は、平成23年7月頃、Y社人事部において、業務外傷病により傷病休暇及び療養休暇を取得した従業員の復職判断のための内部資料として作成されたものにすぎず、従業員には開示されていないから、上記の運用が本件雇用契約の内容として、Xの復職可否の判断を無条件に拘束するものではない

4 ・・・Y社としては、本件診断書及び本件情報提供書の内容について矛盾点や不自然な点があると考えるならば、本件療養休職期間満了前のXの復職可否の判断の際にC医師に照会し、Xの承諾を得て、同医師が作成した診療録の提供を受けて、Y社の指定医の診断も踏まえて、本件診断書及び本件情報通知書の内容を吟味することが可能であったということができる。
Y社は、そのような措置を一切とることなく、何らの医学的知見を用いることなくして、C医師の診断を排斥し、・・・そのようなY社の判断は、Xの復職を著しく困難にする不合理なものであり、その裁量の範囲を逸脱又は濫用したものというべきである

業務外の精神疾患と休職期間満了から職場復帰に関する争点は、ここ最近の重要なトピックですね。

その中でもこの裁判例は、非常に多くの重要な判断が含まれています。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇169(カワサ事件)

おはようございます。

今日は、中途入社の採用内定取消しに対する不法行為該当性に関する裁判例を見てみましょう。

カワサ事件(福井地裁平成26年5月2日・労判1105号91頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、XとY社とはY社がXを将来雇用する旨の始期付解約権留保付雇用契約(「本件内定契約)を締結したところ、Y社は本件内定契約にかかる採用内定を違法に取り消した旨主張して、不法行為に基づき、Xの被った損害および弁護士費用の合計約735万円およびこれに対する遅延損害金を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し252万8114円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、その陳述書ないし尋問において、Y社代表者がXを不採用とした理由として、XがY社代表者に対してXが以前勤務していた会社の社長の悪口を述べたこと、Xが以前勤務していた会社におけるXの素行が悪かったこと、を供述するが、上記供述に係る各事実が認められたとしても、これらはいずれもY社代表者が本件内定契約の成立の当時に知ることが期待できた事実であるというべきである。

2 ・・・以上の検討に照らせば、Y社は平成24年4月13日に本件内定契約を合理的な理由なく解約したものというべきであり、これはY社のXに対する不法行為を構成するものというべきである。したがって、Y社は、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償の義務を負う。

3 Xは、本件内定契約が解約されなければ、本件内定契約に基づき、遅くとも平成24年4月1日からY社に就職し、これにより、少なくとも月額25万円の賃金を得ることができたこと、Xは平成25年1月7日から本件再就職先に就職したこと、Xは本件内定契約が解約されたことに伴い失業保険として52万0273円を受領したこと、の各事実が認められる。
上記事実に照らせば、Xは、Y社による上記不法行為により、少なくとも、上記平成24年4月1日から平成25年1月6日までにY社から得られたであろう賃金分として、Xの主張する方法によって算出した合計229万8387円から上記失業保険受給額52万0273円を控除した177万8114円分の損害を被ったものというべきである。

4 Xは、本件内定契約の成立を受けて訴外会社を退職したこと、Xは現在本件再就職先に就職して収入を得ているが、Xの現在の収入は訴外会社に勤務していた場合に比べて減少していることの各事実が認められる。他方、Xの収入に係る上記減少の額を認めるに足りる的確な客観的証拠は見当たらないことを始め、その他本件に現れた一切の事情を斟酌すれば、Y社がXに対して支払うべき慰謝料の額は50万円が相当であるというべきである。

内定は、「始期付解約権留保付雇用契約」です。

留保解約権の行使に合理的な理由がなければ、違法と判断されてしまいます。

今回の事案では損害賠償を求めていますが、地位確認を求めることも当然可能です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇168(なみはや交通(仮処分)事件)

おはようございます。

今日は、タクシー乗務員に対する懲戒処分の有効性と賃金仮払申立に関する決定を見てみましょう。

なみはや交通(仮処分)事件(大阪地裁平成26年8月20日・労判1105号75頁)

【事案の概要】

本件は、Y社にタクシー乗務員として雇用されていたXらが、Y社のなした懲戒解雇処分は無効であるとして、地位保全および賃金仮払いの仮処分を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の制裁罰を科するものであるから、使用者は、懲戒を行うべき労働者に対し、懲戒当時にその理由とする具体的な非違行為を表示しなければならない。したがって、使用者が懲戒当時に理由として表示しなかった非違行為は、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものと解するのが相当である。

2 Y社が主張する懲戒理由は、懲戒理由一覧表記載のとおり、債権者毎に異なり、かつ多岐にわたっているにもかかわらず、本件懲戒処分の理由を記載した本件通知書は、いずれの債権者に交付されたものも、理由として「入社契約書第8条(ロ・ト・ヌ)に該当し」と同一の内容が記載されているにとどまり、何ら具体的な非違行為は記載されていない。そして、審尋の結果によれば、Y社は、本件懲戒処分を行うにあたり、債権者らに弁解の機会を付与していなかったことが認められるから、債権者らが、本件通知書を見ても、懲戒理由一覧表記載の懲戒理由は、いずれも使用者が懲戒当時に理由として表示しなかったものというべきであるから、本件懲戒処分の有効性を根拠づけるものとはならない。
他方、・・・本件懲戒処分は、Y社の経営方針(本件掛金の変更)に反対した本件組合を消滅させるために行われたことが強く推認される。
以上によれば、本件懲戒処分は、懲戒理由を欠いて行われたものというほかないから、その余の点を検討するまでもなく、無効であるといわなければならない

3 債権者X1は、①Y社から、月額25万円程度の給与を得ていたこと、②妻との二人暮らしであり、その生計を維持するためには、妻のパートタイム勤務による収入(月額約9万円)を考慮してもなお毎月20万円程度が不足すること、③平成26年4月以降、賃金が全く支払われないため、預貯金を取り崩して生活を維持してきたが、その預貯金もわずかな金額になったことが一応認められる。したがって、平成26年8月25日から本案の第一審判決の言渡しの日までの毎月20万円の割合による金員の仮払いの限度で保全の必要性が認められる。

4 本件においては、強制執行可能な賃金仮払の仮処分が認容される以上、任意の履行を期待する地位保全の仮処分の必要性を認めるべき事情は見いだし難い

懲戒処分をする場合には、いくつか気をつけなければならない点があります。

その点を無視して処分すると、今回のような結果になってしまいます。

懲戒処分をする場合には、顧問弁護士に相談の上、ちゃんと手順を踏んで行いましょう。

解雇167(ヴイテックプロダクト(旧A産業)事件)

おはようございます。

今日は、休職後の復職請求と経営再建等を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ヴイテックプロダクト(旧A産業)事件(名古屋高裁平成26年9月25日・労判1104号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に従業員として雇用されていたXが、Y社に対し、Y社のXに対する解雇が無効であると主張して、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②解雇された平成24年10月以降の未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、上記解雇は無効であると判断した。

これに対し、Y社が、原判決の上記認容部分を不服として、控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】(以下、原審判決)

1 Xは、本件組合を通じてY社と本件覚書を締結しており、その中で、Y社はXに対し、退職勧奨を行わないことや、Xの復職に際しては、従来の労働条件通りで復職させること等を約束しているところ、Y社による本件解雇は、明らかに上記約束に反する。また、休職前のXのY社における勤務態度は、上司の指示に対して反抗的であったり、上司やほかの従業員との良好な人間関係を築くことができなかったり、度々問題行動を取ったりなど、決して適切なものではなかったことは認められるものの、就業規則上の解雇事由のいずれかに直ちに該当するとは認められない上、Y社において、Xに対し、度々指導や注意をしていたことは認められるものの、譴責や減給、出勤停止といった段階的な処分に付したことを認めるに足りる証拠もない
よって、本件解雇は、社会的相当性を欠き、解雇権を濫用したものとして違法無効な解雇というべきである。

2 Y社は、経営陣が全員交代し、危機的な経営状況下において、人件費削減等の合理化を推進しているため、就労に制限の付されているXを雇用する余裕はない旨主張する。
しかしながら、Y社が、平成23年8月以降、危機的な経営状況であることを裏付ける客観的な証拠は全くない。また、仮にY社の主張のとおりであるとしても、人員削減の必要性、解雇回避の努力の有無、Xを被解雇者として選定したことの妥当性及び手続の妥当性等について主張立証がなされることが必要であるところ、少なくとも、Y社が、希望退職を募るなど解雇回避の努力を尽くしたと認めるに足りる証拠は見当たらず、かえって、証拠によれば、Y社においては正社員の求人募集をしていることが認められることからすれば、Y社の上記主張は直ちに採用することはできない

本件では、会社が組合と覚書を交わしており、その内容に反して解雇しているため、明らかに会社側が分が悪いです。

判決理由を読むと、会社としても、敗訴リスク覚悟で解雇に踏み切ったことが窺えますが、訴訟上の和解ができず、判決までいくと、このような内容の判決になってしまいますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇166(東京メトロ(諭旨解雇・仮処分)事件

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、私生活上の非違行為を理由とする諭旨解雇処分に関する裁判例を見てみましょう。

東京メトロ(諭旨解雇・仮処分)事件(東京地裁平成26年8月12日・労判1104号64頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Yがした平成26年4月25日付け諭旨解雇が無効であると主張して、雇用契約上の地位保全及び賃金仮払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、平成26年8月から平成27年7月まで(ただし、同月20日より前に本案の第1審判決の言渡しがあったときは、その言渡日まで、毎月20日限り、25万円を仮に支払え。

その余りの申立てをいずれも却下する。

【判例のポイント】

1 本件非違行為が、Y社の事業活動に直接関連し、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものであると評価でき、Y社の企業秩序維持の観点から懲戒の対象となり得るものであることは、前記説示のとおりである。そして、痴漢行為が被害者に大きな精神的苦痛を与えることは周知の事実であり、痴漢行為を防止すべき駅係員として、倫理的にそのような行為を行ってはならない立場にあるXが本件非違行為を行ったことは、厳しく非難されるべきものである

2 しかし、本件諭旨解雇は、自己都合退職の場合と同様の計算により算定した退職金が支払われるほかは、基本的にはY社が就業規則において規定する懲戒処分中、最も重い懲戒解雇と同列に取り扱われている。そこで、本件諭旨解雇の相当性については、なお慎重な検討が必要である

3 本件非違行為の態様は、被害女性の臀部付近及び大腿部付近を着衣の上から手で触るというものであって、同種事案との比較において悪質性が高いとまでいうことはできない上、刑事処分においても公判請求はされておらず、東京都迷惑防止条例5条1号、8条1項2号の法定刑(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)では軽微な罰金20万円の略式命令で処分されるにとどまっている
また、Y社が開示する、従業員の痴漢行為に関する懲戒処分例によれば、従業員が起訴された場合には諭旨解雇とされる一方で、不起訴処分となった場合には停職等にとどめられるとの運用がされていることが一応認められるところ、一件記録に照らしても、本件非違行為に対する懲戒処分の選択において、Y社側において、刑事手続における起訴・不起訴以外の要素を十分に検討した形跡がうかがわれない。
そして、Xには前科・前歴やY社からの懲戒処分歴が一切なく、勤務態度にも問題はなかったことが一応認められることを併せ考慮すれば、企業秩序維持の観点からみて、本件非違行為に対する懲戒処分として本件諭旨解雇より緩やかな処分を選択することも十分に可能であったというべきである。そうすると、本件諭旨解雇は重きに失するといわざるを得ない

4 ・・・他方で、Xの支出としては、・・・合計約25万円程度を要することが一応認められる。上記のとおり疎明される債権者側の収入、資産及び支出の状況に加えて、Xについては、平成26年8月から平成27年7月まで(ただし、同月20日より前に本案の第1審判決の言渡しがあったときは、その言渡日まで)、毎月20日限り、月額25万円の賃金仮払いの限度で保全の必要性があると一応認められる一方で、その以上の保全の必要性を認めることはできない。

処分が重すぎるという判断です。 相当性の要件でぎりぎり救われました。

仮に一般の方が裁判員裁判で、本件事案で解雇の有効性を判断する場合、同じ結論になるでしょうか・・・?

まあ、一審で裁判員が解雇は有効であると判断しても、高裁でひっくり返されるか(皮肉)。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。