Category Archives: 解雇

解雇195(ブルームバーグ・エル・ピー(強制執行不許等)事件)

おはようございます。

今日は、前訴判決に基づく強制執行の不許等請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ブルームバーグ・エル・ピー(強制執行不許等)事件(東京地裁平成27年5月28日・労判1121号38頁)

【事案の概要】

1 本訴事件

本訴事件は、Xを雇用していたY社が、Xに対し、主位的に、XのY社に対する平成22年9月1日以降の賃金請求等を認容した前訴判決について、同日から平成25年5月9日までの分の賃金請求に対しては、弁済による賃金請求権の消滅を、同月10日以降の分の賃金請求に対しては、解雇による雇用契約の終了を、それぞれ請求異議の事由として、前訴判決に基づく強制執行の不許を求める(主位的請求(1))とともに、雇用契約の不存在の確認を求め(主位的請求(2))、また、Y社が上記解雇の後にXに賃金として支払った金員について、法律上の原因を欠くものであり、Xは悪意の受益者であったと主張して、不当利得の返還及び利息の支払を求め(主位的請求(3))、予備的に、XにY社の東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることができる雇用契約上の権利の確認を求める(予備的請求)事案である。

2 反訴事件
反訴事件は、Xが、Y社による上記解雇及び本訴事件の訴え提起等が被告に対する不法行為に該当すると主張して、慰謝料300万円及びこれに対する上記解雇の日以降の遅延損害金の支払を求める(反訴請求(1))とともに、平成22年9月支給分から平成25年4月支給分までの賃金に対する遅延損害金の支払を受けていないとして、雇用契約に基づき、未払の遅延損害金167万1725円の支払を求める(反訴請求(2))事案である。

【裁判所の判断】

 XからY社に対する地位確認等請求事件の判決主文第2項に基づく強制執行は、平成25年5月25日限り47万9032円及び同年6月から毎月25日限り67万5000円を超える部分については、これを許さない。

 Y社は、Xに対し、167万1725円を支払え。

 Y社のその余の主位的請求をいずれも棄却する。

 Y社の予備的請求に係る訴えを却下する。

5 Xのその余の反訴請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件提案は、その通知書に「下記のとおり提案します。」と明記され、また、提示された復職の条件のうち、復職先の職種、賃金の額、復職日のいずれも具体的に特定されていないことから明らかなとおり、飽くまで復職条件等に関する提案にすぎず、就労義務の履行としての復職を催告し、あるいは、業務命令権の行使として復職を命じる趣旨であると評価する余地のないものである
したがって、Xにおいて、本件提案を応諾し、本件提案に係る復職条件を前提とする協議に応じる法律上の義務を負うとか、そうでなくても、協議に応じてしかるべきであったなどと解すべき根拠は乏しい

2 この点、使用者が、労働者に対し、使用者としての立場で、当該労働者の配置先等の労働条件について協議するよう求めたときには、労働者がこれに応じ、誠実に協議すべき義務を負うと解すべき場合もあり得る。
しかしながら、本件において、Y社は、Xとの間で第1次解雇の有効性についての争いがあり、いまだ前訴事件が控訴審に係属している状況の中で、飽くまでも第1次解雇が有効であり、したがってY社がXの使用者ではないことを前提に、Y社が第1次解雇の撤回に応じることの条件として、本件提案に係る復職条件に同意することを求めたものであるから、本件提案は、紛争の当事者という立場で和解を提案する趣旨に出たというべきものであり、本件提案について、Y社が使用者として有する業務命令権等の権限を行使したものであったと評価することはできない(換言すれば、Y社は、Xの使用者ではないという立場を維持しつつ本件提案をしたものであるから、本件提案に雇用契約上の権利の行使という側面があったと評価する余地はない。)
そうすると、本件提案に応じるか否かは、基本的には、Xの自由な判断に委ねられるべきものであり、Xがこれに応じない旨の意思を明らかにしたからといって、そのこと自体に何ら責められるべき点はないというべきである。

3 本訴事件の予備的請求は、Y社がXに対し、東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることのできる雇用契約上の権利を有することの確認を求めるというものである。
しかしながら、本件権利は、これを行使することによりY社とXとの間の法律関係を変動させる効果を生じさせるものであるが、いまだ行使されておらず、将来行使されるか否かも現在は明らかでない。また、Y社が本件権利を有していても本件権利の行使が権利の濫用に当たる場合はその効力を生じないことから明らかなように、本件権利の存否を確定することによって将来本件権利が行使されたときの法律関係が明確になるということもできない
そうすると、本件権利を巡る紛争は、Y社において、本件権利を行使した後、これにより生じた法律効果を前提として給付や確認の訴えを提起することによって解決するのが適切であり、行使されるか否かも明らかでない現時点において、本件権利それ自体の存在の確認を求める訴えは、即時確定の利益を欠くというべきである。

労働判例としては、あまりお目に掛からない訴訟内容です。

上記判例のポイント1、2の判断は賛成です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇194(アイガー事件)

おはようございます。

今日は、内定取消しに対する損害賠償請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

アイガー事件(東京地裁平成24年12月28日・労判1121号81頁)

【事案の概要】

本件は、(1)Y社の採用内定を受けていたXが、Y社に対し、Y社から違法な①黙示の内定取消しまたは②内定辞退の強要を受けたことにより、内定辞退の意思表示を余儀なくされたとして、不法行為に基づく損害賠償金合計461万9120円(特例措置による留年費用、慰謝料、逸失利益、弁護士手数料)+遅延損害金の支払を求め本訴を提起したのに対し、

(2)Y社が、Xに対し、(ア)Xの上記内定辞退は著しく信義に反するものとして、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償金合計118万1784円(無駄になった新卒採用費用、中途採用費用)および(イ)上記本訴請求はいわゆる不当訴訟に当たるものとして、不法行為に基づく損害賠償金245万3498円(本訴反訴の弁護士手数料)+遅延損害金の支払を求め反訴を提起した事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求及びY社の反訴請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 本件労働契約のように入社日を「効力発生の始期」と定めるものと解した場合、使用者が内定期間中に実施する研修等は、その業務命令に基づくものではなく、あくまで就労の準備行為の一つとして、内定者の任意の参加意思(同意)に基づき実施される性質のものであるから、当然のことながら参加内定者の予期に著しく反するような不利益を伴うものであってはならない
そうだとすると本件各プレゼン研修においても、使用者であるY社は、Xが行ったプレゼンテーションの実演内容が不出来で、一定のレベルに達しないものであったとしても、そのことを理由として本件内定を(明示又は黙示に)取消す旨の意思表示をしたり、当該内定辞退を強要する行為に及ぶことは許されず、Y社は、本件各プレゼン研修に当たって、そのような各行為に及ばぬよう配慮すべき信義則上の義務を負っているものと解され、かかる注意義務に著しく違反する場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を免れないものというべきである。

2 本件第3回プレゼン研修におけるE課長の上記一連の発言は、あまりやる気の感じられない入社目前のXに対し危機感を募らせ、予め入社後予定されている営業活動の厳しさにつき体感させることを目的として行われた指導的な発言にとどまるものと認めるのが相当である。
以上によれば、E課長の上記一連の発言は、社会通念に照らし客観的にみる限り、本件内定を辞退するか否かに関するXの自由な意思形成を著しく阻害するような性質のものであったとはいい難く、本件内定辞退の強要に当たるものと評価することはできない

内定取消しに関する裁判例は、それほど多く目にすることがありませんので、是非、考え方を参考にしてください。

就労前の段階でいろいろな研修をする際は、十分にご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇193(日本電気事件)

おはようございます。

今日は、休職期間満了による自然退職の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本電気事件(東京地裁平成27年7月29日・労経速2259号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、業務外の傷病により休職し、就業規則の定めに基づき休職期間満了により退職を告知されたXが、休職期間満了時において就労が可能であったと主張して、休職期間満了後の賃金及び賞与、遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件休職命令は、解雇の猶予が目的であり、就業規則において復職の要件とされている「休職の事由が消滅」とは、XとY社の労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解される。また、労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った労務の提供があると解するのが相当である(片山組事件最高裁判決参照)。

2 ・・・Xの従前の業務である予算管理の業務は、対人交渉の比較的少ない部署であるが、指導を要する事項について上司とのコミュニケーションが成立しない精神状態で、かつ、不穏な行動により周囲に不安を与えている状態では、同部署においても就労可能とは認め難い
したがって、本件休職期間満了時において、Xが従前の職務である予算管理業務を通常の程度に行える健康状態、又は当初軽易作業に就かせればほどなく当該職務を通常の程度に行える健康状態になっていたとは認められない。

復職の可否については、多分に事実認定に依拠しているため、判断の有効性に関する予測可能性が極めて低いと言えます。

もっとも、これは労働事件の多くのケースがそうであるため、復職の可否に限ったことではありませんが・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇192(K社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、経歴詐称等を理由とする労働者に対する解雇、損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

K社事件(東京地裁平成27年6月2日・労経速2257号3頁)

【事案の概要】

本件本訴事件は、平成25年12月からY社で稼働していたところ、経歴能力の詐称等を理由として平成26年4月25日限りで解雇されたXが、本件解雇は解雇権の濫用として無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金・遅延損害金の支払を求め、さらには、本件解雇後3か月分の賃金合計180万円+遅延損害金の支払を求めた。

一方、本件反訴事件は、Y社が、Xは職歴、システムエンジニアとしての能力及び日本語の能力を詐称してY社を欺罔しY社を誤解させて雇用契約を締結させたものであり、これは詐欺に当たるところ、Y社はXに支払った賃金合計230万4885円のほか、Xに代わり業務を行う者の派遣を受けて支払った2か月分の派遣料合計244万2825円とXに支払った2ヶ月分の賃金120万円との差額124万2825円の損害を受けたと主張して、不法行為による損害賠償として前記230万4885円と124万2825円の合計354万7710円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求をいずれも棄却する。

Xは、Y社に対し、74万8600円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 企業において、使用者は、労働者を雇用して、個々の労働者の能力を適切に把握し、その適性等を勘案して労働力を適切に配置した上で、業務上の目標達成を図るところ、この労使関係は、相互の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であるから、使用者は、労働力の評価に直接関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲で申告を求め、あるいは確認をすることが認められ、これに対し、労働者は、使用者による全人格的判断の一資料である自己の経歴等について虚偽の事実を述べたり、真実を秘匿してその判断を誤らせることがないように留意すべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である
そうすると、労働者による経歴等の詐称は、かかる信義則上の義務に反する行為であるといえるが、経歴等の詐称が解雇事由として認められるか否かについては、使用者が当該労働者のどのような経歴等を採用に当たり重視したのか、また、これと対応して、詐称された経歴等の内容、詐称の程度及びその詐称にようr企業秩序への危険の程度等を総合的に判断する必要がある

2 そもそも雇用関係は、仕事の完成に対し報酬が支払われる請負関係とは異なり、労働者が使用者の指揮命令下において業務に従事し、この労働力の提供に対し使用者が賃金を支払うことを本質とするものであり、使用者は、個々の労働者の能力を適切に把握し、その適性等を勘案して労働力を適切に配置した上で、指揮命令等を通じて業務上の目標達成や労働者の能力向上を図るべき立場にある。
そうすると、労働者が、その労働力の評価に直接関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲で申告を求められ、あるいは確認をされたのに対し、事実と異なる申告をして採用された場合には、使用者は、当該労働者を懲戒したり解雇したりすることがあり得るし、労働者が指揮命令等に従わない場合にも同様であるとしても、こういった労働者の言動が直ちに不法行為を構成し、当該労働者に支払われた賃金が全て不法行為と相当因果関係のある損害になるものと解するのは相当ではない
また、使用者が業務上の目標とした仕事について労働者の能力不足の故に不測の支出を要した場合であっても、当該支出をもって不法行為による損害とするのは相当ではない。労働者が、前記のように申告を求められ、あるいは確認をされたのに対し、事実と異なる申告をするにとどまらず、より積極的に当該申告を前提に賃金の上乗せを求めたり何らかの支出を働きかけるなどした場合に、これが詐欺という違法な権利侵害として不法行為を構成するに至り、上乗せした賃金等が不法行為と相当因果関係のある損害になるものと解するのが相当である

丁寧に一般論を説明してくれています。

経歴詐称の事案において、非常に参考になる裁判例ですね。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇191(オクダソカべ事件)

おはようございます。

今日は、営業所閉鎖による合意解約ないし整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

オクダソカべ事件(札幌地裁平成27年1月20日・労判1120号90頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、雇用契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、Y社に対し、平成25年6月分の給与の未払分+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 同僚であるC作成の本件提案書の内容の了承をもって、Xが、退職という生活に重大な影響を及ぼす事項にかかる意思表示を行ったと認めることは困難であるといわざる得ない。
・・・Y社は、Xが、平成25年5月末までに、Cに対して引継ぎを行ったと主張する。しかしながら、仮にそのような事実があったとしても、退職についてY社からの具体的な提示がなされていない中で、Xにおいて、Y社から示された条件によっては退職に応じることもあり得るとの前提のもとで行動していたと考えることもでき、上記の判断を左右するほどの事情とはいえない。

2 Y社は、A営業所の閉鎖に伴うX及びCの転勤を指示したが、両名はこれを断ってきたことから、最終的な手段として本件解雇を行ったと主張する。しかしながら、B所長が転勤の可能性について行ってきた行動は、平成20年6月頃の話し合いの際の確認的なものや、Cを通じての打診にすぎず、これをXに対する転勤の指示や勧奨と評価することはできないから、上記Y社の主張はその前提を欠くといわざるを得ない。

3 また、Y社は、A営業所の閉鎖問題については、平成21年からの経緯があり、長年にわたって経理を担当してきたXに対して丁寧な説明は必要ではなく、手続の妥当性を欠くことはないと主張するが、当裁判所が、手続の妥当性に見出している問題点は、上記のとおり、解雇の回避に向けたXとの直接の協議の欠如や、本件回答後にY社の方から積極的に行動を取らなかった点であって、これらの点については、XがA営業所の状況を熟知していたとしても、手続の不当性が治癒されることにはならない

4 以上のとおり、本件解雇については、Xとの直接の協議を欠き、正式な転勤命令を出すなどの措置も怠った点にXの解雇の回避に向けた努力の不十分さがあり、その点や本件解雇通知に至る経緯にはY社のXに対する不誠実な対応も見受けられ、また、Y社において全社的な人員整理の必要性はなかったのであるから、最終的にXとCの2名のうちXに本件解雇通知をした人選について相応の理由があると考えられることを考慮しても、本件解雇が「やむを得ない事業上の都合による」ものであるということはできない

解雇する際の途中のプロセスを軽視することは避けなければなりません。

本件のような整理解雇事案では、一層慎重に手続を進める必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇190(ホンダエンジニアリング事件)

おはようございます。

今日は、賞罰委員会に諮ってなされた懲戒解雇は弁明の機会を付与しなくても手続的に違法はないとされた裁判例を見てみましょう。

ホンダエンジニアリング事件(宇都宮地裁平成27年6月24日・労経速2256号3頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の従業員であったところ、Y社から懲戒解雇にされたものであるが、Xには懲戒解雇事由がなく、また、懲戒解雇手続が違法であることや懲戒解雇が処分として重すぎることからすると、懲戒解雇の相当性を欠くため無効であり、Xは自らの意思で辞職したものであるとして、退職一時金82万8255円の支払いを求め、在職中にY社の職員から受けたとして、慰謝料150万円の支払及びこれらの合計232万8255円に対する労働審判申立書が到達した日の翌日からの遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成25年5月28日から8月1日までの間、上司からの業務命令に従わず、指示された業務に従事しなかったものであるから、故意に業務を放棄したものであり、このような行為は、就業規則・・・との懲戒事由に該当するものと認められる。また、Xは、平成25年6月12日から8月1日までの36日間、無断欠勤を続けたものであり、このような行為は、就業規則・・・に該当するものと認められる

2 Xは、上司からの度重なる業務命令に従わず、36日間無届欠勤を継続したものであるから、懲戒事由の程度は重大であって、懲戒解雇が相当性を欠くものということはできない

3 Xは、Y社がXに弁明の機会を与えないで懲戒解雇を言い渡したとして、適正手続保障の観点から、懲戒解雇の相当性の要件を欠くと主張する。しかし、Y社の就業規則において弁明の機会を与える旨の規定は置かれておらず、懲戒をするに当たっては、労使の代表者で構成する賞罰委員会の意見を聞くこととされているところ、このような場合、弁明の機会を付与しないことをもって直ちに懲戒手続が違法ということはできない。そして、本件においては、賞罰委員会に諮って本件懲戒解雇がなされているものであるから、手続に違法な点があるということはできない

4 そうすると、本件懲戒解雇は有効なものと認められるから、労働協約80条2項により、Xは退職金請求権を有しないものと認められる。

懲戒解雇の場合、必ずといっていいほど適正手続が問題となります。

上記判例のポイント3は是非、実務において参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇189(弁護士法人レアール法律事務所事件)

おはようございます。

今日は、能力不足等を理由とする解雇の有効性と地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

弁護士法人レアール法律事務所事件(東京地裁平成27年1月13日・労判1119号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたところ解雇されたXが、Y社に対し、次のとおりの請求をする事案である。
①解雇が無効であると主張して地位の確認。
②上記①と同じ主張に基づき解雇後の賃金の支払。
③上記①と同じ主張に基づき解雇後の賞与の支払。
④違法解雇に基づく慰謝料及び弁護士費用の支払。
⑤割増賃金及び付加金の支払。
⑥上司からパワーハラスメントを受けたとして慰謝料及び弁護士費用の支払。

【裁判所の判断】

1 XのY社に対する賃金請求及び賞与請求に係る訴えのうち、本判決確定日の翌日以降の支払を求める部分を却下する。

2 Y社は、Xに対し、40万6500円及び遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、平成25年9月から平成26年9月まで、毎月25日限り各27万1000円及び遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、8万1300円及び遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、54万2000円及び遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、69万5846円及び遅延損害金を支払え。

7 Y社は、Xに対し、付加金69万5846円及び遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、22万円及び遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社と業者が和解書を取り交わす際に、担当弁護士の決裁を経ることが定められていないY社の事務処理体制が不適切であったというべきであり、適切な事務処理体制を定めずにXに和解の処理を任せていたY社がXを責めることはできない
・・・Xは、当該依頼者についての他の業者の過払金779円については、依頼者から了解をとった上で債権債務なしの和解をしており、通常は依頼者の意思を確認していたと認められるし、過払金が293円に過ぎないならば放棄するのが依頼者の合理的意思であり、依頼者からのクレームがあったわけでもなく、Xが当該案件で依頼者の意思を確認していなかったことをもって、能力不足を基礎付ける事情ということはできない。
・・・問題とされている案件において、履歴開示がされた平成24年5月には、同年9月24日に消滅時効の期間が経過することが判明していたのであって、担当弁護士が時効を管理する体制が整えられていなかったことが問題というべきである。当該案件を同年8月頃に引き継いだXに、時効期間が経過したことについて、大きな責任は認められない

2 以上のとおり、Y社の主張する解雇事由は、ミスといえないものか、重大とはいえないミスであって、Xは就業規則48条2号の「従業員の就業状況または職務能力が著しく不良で、就業に適さないと認められる場合」にも同条4号の「前号のほか、やむを得ない事由がある場合」にも当たらない。したがって、本件解雇は無効である。

3 Bが、弁護士費用の一部を精算していなかったXに対し、他の職員の前で「これこそ横領だよ」と言ったとするX供述は、Xが当日交際相手に送ったメールの記載に裏付けられており、信用できる。Xを犯罪者呼ばわりしたことは、不法行為に当たる
Bが、Xの接客態度について、「気持ち悪い接客をしているからこういう気持ち悪いお客さんにつきまとわれるんだよ。Xさんはこういう気持ち悪い男が好きなのか」と言ったとするX供述は、Xが当日交際相手に送ったメールの記載に裏付けられており、信用できる。Bのこの言動は、原告に対する侮辱であって、不法行為に当たる
上記のとおり認定したBのXに対する不法行為の態様からすれば、Xに対する慰謝料は20万円、弁護士費用は2万円を相当額と認める。

事務所の事務処理体制の不適切さを数点指摘されています。

能力不足を理由とする解雇は、その裏付けとなる資料をどれだけ揃えられるかにかかっています。

拙速な解雇は避けた方が無難ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇188(I社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、脳梗塞の後遺症残存の有無と休職命令・解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

I社事件(静岡地裁沼津支部平成27年3月13日・労判1119号24頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の従業員であるが、平成24年8月15日に脳梗塞を発症して病院に入院したものの、同年9月26日には退院して仕事に復帰できる状態であったにもかかわらず休職命令を発せられて不当に就業を拒否され、その後、就業規則に定める「身体または精神の障害により業務に耐えられないと認められたとき」に該当するとして不当に解雇されたと主張して、①休職命令の無効確認を求めるとともに、②解雇権の濫用で無効な解雇であるとして労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、さらに、③無効な休職命令により就業できなかったことによる平成24年9月28日から平成25年1月分までの未払賃金合計102万7863円及び遅延損害金等、④解雇により就業できなかったことによる同年4月26日から本判決確定の日まで毎月10日限り、24万8400円の割合による金員及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社はXに対し、平成25年4月12日から判決確定の日まで、毎月24万8400円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 休職とは、ある従業員について労務に従事させることが困難又は不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除または禁止することであるところ、休職期間中に休職事由が解消して就労可能となれば、休職は終了すると解されている。
・・・本件休職命令は、XからY社に対し、脳梗塞の項御胃障害が復職可能な程度まで治癒または軽減した旨の医師の診断書が提出されるまでの間休職とする期限の定めなき休職処分であり、就業規則第29条6号の「特別の事情があって休職させることが必要と認められるとき」に該当すると認めるのが相当である。

2 ・・・以上によると、Xには、同日ころまでは、脳梗塞の後遺症が残存していたといわざるを得ず、Y社に対して復職可能なほど身体機能が回復していた旨の医師の診断書もなかったと解するのが相当である。

3 しかし、Xは、平成25年4月11日、E病院で身体機能検査を受けたところ、通常歩行、応用歩行ともいずれもふらつきがなく、減点項目がなくて満点であったことからすると、そのことには身体の機能が復職可能な程度に回復していたと推認するのが相当である。

4 Xは、同月11日にE病院で行われた検査の結果、身体機能が回復していて就労可能であったと認められ、また、その後に行われた鑑定によっても、Xの後遺障害が極めて軽微であって、Xを作業に復帰させることが相当でないという積極的な根拠を見いだせないとの結果であったことなどを考慮すると、Xは、同月11日ころには就労可能なほどに身体機能が回復していたと認められるから、本件解雇がなされた同年4月25日には就業規則で規定する「身体または精神の障害により業務に耐えられないと認められたとき。」に該当する事由はなかったというべきである
そうすると、Xには、Y社から復職するためには医師の診断書の提出が必要である旨要請されていたものの不合理な理由をつけて提出しなかったり、復職を図るため、平成24年10月5日付けD1医師作成の診断書の「軽作業は」の部分を削除しねつ造したり、取引先に対してXの勤務を認めないとY社に加担したことになる旨の脅迫的文書を送信するなど、Y社との雇用契約における信頼関係を揺るがすような行為が認められるものの、これらを考慮しても、なお本件解雇は合理的な理由に基づくものとは認められず、社会的相当性を欠くものとして無効であると言わざるを得ない。

上記判例のポイント4のような事情があっても、裁判所は解雇無効であると判断しています。

復職させていいものかどうか、会社にとっては本当に難しい判断です。

今後も同様の事件が起こり続けることが容易に想像できます。

だからこそ、会社としては日頃から研修を重ね、いざというときに適切に対応できる準備をしておくべきなのです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇187(日本ヒューレット・パッカード事件)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、最高裁判決確定後の休職命令、休職期間満了による退職が認められた裁判例を見てみましょう。

日本ヒューレット・パッカード事件(東京地裁平成27年5月28日・労経速2254号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、職場で嫌がらせを受けた等と主張して欠勤を重ねたため、Y社がXを諭旨退職処分にしたが、当該諭旨退職処分が無効であることが平成24年4月27日の最高裁判所の判決により確定したため、Xが復職を求めたところ、Y社が、Xの心身の不調を理由にXの就労申出を拒絶し、Xに対し、平成25年1月11日付けで休職を命じ、さらに、平成26年11月14日、休職期間が満了することとなる同月30日付けでXの退職の手続をとる旨通知したことから、Xが、Y社に対し、①上記休職を命ずる命令の無効確認、②労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、③Y社がXの就労を拒絶している期間中労働契約に基づきY社がXに対し支払うべき賃金及び賞与並びに遅延損害金の各支払、④平成27年2月分以降の賃金及び遅延損害金の支払、⑤平成27年6月以降の賞与及び遅延損害金の支払、⑥不当な就労申出の拒絶及び違法な本件休職命令に係る不法行為に基づく慰謝料及び遅延損害金の支払を各求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xの訴えのうち、Y社がXに対し平成25年1月11日に命じた休職命令が無効であることの確認を求める請求に係る部分を却下する。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、平成24年4月に本件最高裁判決が出された後、Y社に対し、復職を求めていたのであるから、本件休職命令が発せられた平成25年1月11日の時点において、Xには就労の意思があり、本件労働契約に基づき就労する旨の申出をしていたことが明らかである。したがって、同日の時点において、Xが本件労働契約の債務の本旨に従った履行をすることができる状態にあったのであれば、Y社が本件休職命令を発し、その履行を拒絶したことは、Y社による受領拒絶となり、かつ、その履行に必要な被告の協力が得られない結果、Xの債務が履行不能になったということもできるから、Xは、賃金請求権を失わない。そして、本件休職命令は本件就業規則所定の要件を欠くことになるから、その休職期間が満了したことを前提とするXの自然退職も認められない

2 本件において、そもそもY社が主張するようなXの精神的な不調の存在が認められないのであれば、特段の事情がない限り、Xは復職を申し出ることにより、債務の本旨に従った履行の提供をしたものと認めることができる。また、仮に精神的な不調の存在によりXが従前の職場において労務の提供を十分にすることができない状況にあると認められる場合であっても、本件労働契約において職種や業務内容が特定されていたことを認めるに足りる証拠はないから、Xの能力、経験、地位、Y社の企業規模、Y社における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らしてXが配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができるときは、なお、債務の本旨に従った履行の提供があったものと認められる余地がある(最高裁平成10年4月9日判決)。

3 ・・・これらの事実にかんがみると、本件休職命令が出された平成25年1月当時において、Xには、妄想性障害の疑いがあり、休職して治療することを必要とするような精神的な不調が認められる状況にあったことを推認することができる

4 Xの請求のうち、本件休職命令が無効であることの確認を求める請求は、過去の事実の確認を求めるものであって、本件休職命令が無効であることを前提とする現在の権利関係の確認や、当該現在の権利関係に基づく給付請求によるべきであるから(現にXは、本件において、これらの確認及び給付請求をしている。)、確認の訴えの利益を欠くものである。

復職の可否が問題となる場合、労働者の主治医の判断と産業医の判断が異なることがあるわけです。

その場合、どちらの判断が適切かを巡り労使双方から主張立証がなされることになります。

過去の裁判例を読んでいると、裁判所がどのような点を重視しているのかがわかってきます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇186(日本ボクシングコミッション事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、3次にわたる懲戒解雇の有効性と反訴損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本ボクシングコミッション事件(東京地裁平成27年1月23日・労判1117号50頁)

【事案の概要】

本訴請求事件は、Y社の従業員として稼働していたXが、Y社から3次にわたり懲戒解雇の意思表示を受けたところ、これら解雇はいずれも無効であると主張して、Y社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づき、月例賃金35万5000円+毎年6月30日及び12月31日限り、賞与70万円+遅延損害金を求めた事案である。

反訴請求事件は、Y社が、Xの下記義務違反等により損害を被ったなどと主張して、Xに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、下記損害額+遅延損害金の支払を求めた事案である。

(1)原告の競業避止義務違反行為、秘密保持義務違反行為、職務専念義務違反行為、労働義務違反行為の債務不履行による賃金相当損害 364万円
(2)原告の被告内部秩序壊乱行為(労働義務違反を内容とする債務不履行及び不法行為)による対応損害 600万円
(3)原告の文科省への不当告発における名誉毀損損害 200万円
(4)原告のb協会長宛の書面による名誉毀損損害 200万円
(5)原告による報道を契機とした名誉毀損損害 200万円

【裁判所の判断】

解雇は無効

反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 就業規則55条が懲戒処分として最も重い懲戒解雇事由を定めていることからすると、同条2号所定の事由があるというためには単に職務の遂行が遅れたというだけでは足りず、その職務の遂行の積極的な懈怠があり、その懈怠が顕著な場合であることを要するというべきである。

2 Y社の就業規則52条2項は、懲戒処分につき、よくその事実を調査し、関係協議の上、処分を決定する旨定めている。したがって、懲戒解雇に当たっては、同条に定める手続を践む必要があるというべきである。また、懲戒解雇を含む懲戒処分は、企業秩序違反行為に対して認められる制裁罰であって、その手続は適正に行われることを要するというべきであり、殊に懲戒解雇は懲戒処分のうち最も過酷な処分であることにも照らすと、その処分を行うに当たっては、特段の支障がない限り、事前に弁解の機会を与えることが必要というべきであり、かかる支障も認められないのに、事前の弁解の機会を経ないまま懲戒解雇を行うことは懲戒手続における手続的正義に反するものとして社会的相当性を欠き、懲戒権の濫用となるものと認めるのが相当である。
しかるところ、本件第2次解雇は、本件仮処分手続においてなされているところ、Xに対して弁明の機会を与えないまま、かかる懲戒解雇の意思表示が行われている。

3 Y社は、Xが、平成23年8月17日から平成24年3月18日までの間、就業時間中、おびただしい回数の職務に関係ないメールの交信を行い、これに要する時間に相当する執務を解怠したとし、就業規則55条2号に該当する旨主張する。
しかし、その主張によっても、かかるメールの送信数が著しく多いものとは認められず、中には、業務との関連の窺われるものもあり、Xが、従前、同種の問題によりY社から注意又は指導を受けたこともなかったことにも照らすと、他の懲戒処分を検討することはともかく、直ちに懲戒解雇をもって臨むべき事由になるなどと認めることはできない

4 労使間の合意や就業規則等に定めがあるなど賞与の支給条件が具体的に定められている場合には、労働者は使用者に対し具体的な賞与請求権を有するものと認めるべきところ、賞与に関する被告の賃金規定14条は、「業績、職員の勤務成績等を勘案して支給する。」、「業績の低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給日を変更し、又は支給しないことがある。」と定め、支給条件が具体的に規定するものではなく、他に、法的拘束力を有する労働慣行が確立していたとまでみるべき的確な証拠もない
そうしてみると、本件賞与請求を肯認することはできない。
Xは、Y社は非営利団体であることや、毎年2回基本給2か月分の賞与が支給されていた旨も主張するが、勤務を続けていた場合における具体的な勤務成績等も明らかであるとはいえず、かかる点から上記判断が左右されるとはいえない。

懲戒解雇の難しさがよくわかります。

懲戒解雇をする場合には、事前に顧問弁護士や顧問社労士に必ず相談しましょう。