Category Archives: 解雇

解雇205(甲化工事件)

おはようございます。

今日は、遺失金着服を理由とする懲戒解雇処分が有効とされ、会社の損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

甲化工事件(東京地裁平成28年2月5日・労経速2274号19頁)

【事案の概要】

第1事件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Xは、Y社から、Y社において遺失金が発生したところXが本件遺失金を着服し、私的に費消したことを理由い、懲戒解雇処分を受け、平成26年9月1日をもってY社を解雇されたが、本件処分は無効である旨を主張して、Y社に対し、Xが本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、給与及び賞与+遅延損害金の支払を請求した事案である。

第2事件は、Y社が、Y社において本件遺失金が発生したところXは本件遺失金を着服し、私的に費消した旨、また、上記本件遺失金が発生したのはXによる本件営業所の現金の管理等に過失があったからである旨を主張して、Xに対し、不法行為に基づき、平成24年3月30日から同年6月24日までの本件遺失金相当額及び弁護士費用+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求をいずれも棄却

XはY社に対し、342万9210円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは本件営業所の経理担当責任者として本件営業所の経理事務に従事していたところ、本件営業所において少なくとも平成24年3月30日から平成26年6月24日までの間に311万7464円の本券営業所の金員を故意に着服し、私的に費消したものというべきである。
Xの上記行為は、本件就業規則の規定にいう懲戒解雇の事由に当たるものというべきである。

2 XのY社における職位、Xが上記行為を行った期間及びXが着服、費消した金額にかんがみれば、XがY社から上記行為を理由に懲戒解雇を命じられることもやむを得ないというべきであって、本件処分の相当性に欠けるところはないというべきであるし、また、本件処分は労働基準法20条1項但書の「労働者の責に帰すべき事由に基づき解雇する場合」に当たるものというべきである。

3 仮にXがY社から本件ヒアリングにおいて本件退職届を作成して提出するよう強く要求されていたとしても、その後の時間の経過及びXの代理人弁護士の立会いをも勘案すれば、Xには、本件処分に関し、弁明の機会が十分に与えられていたというべきである

4 以上の検討に照らせば、本件処分は有効なものというべきである。

横領事案の場合には、社内のうわさに基づいて懲戒解雇をしてはいけません。

しっかりと調査をし、事実確認を行った上で、弁明の機会を与え、その上で、懲戒解雇をしましょう。

手続を行う際は、顧問弁護士等のアドバイスを受けることをおすすめいたします。

解雇204(Y社事件)

おはようございます。

今日は、痴漢行為を理由とする諭旨解雇処分が無効とされた裁判例を見てみましょう。

Y社事件(東京地裁平成27年12月25日・労経速2273号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、XはY社から懲戒処分である諭旨解雇処分を受け、平成26年4月25日付けでY社を解雇されたところ、本件処分は無効である旨を主張して、Y社に対し、Xが本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、上記平成26年4月25日の翌日以降の各賃金+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

諭旨解雇処分は無効

【判例のポイント】

1 従業員の私生活上の非行であっても、会社の企業秩序に直接の関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすと客観的に認められるものについては、企業秩序維持のための懲戒の対象となり得るものというべきである
Y社は、他の鉄道会社と同様、本件行為の当時、痴漢行為の撲滅に向けた取組を積極的に行っており、また、Xは、Xが、本件行為を行った当時、Y社の駅係員として勤務していたというのである。これらの点に照らせば、本件行為は、Y社の企業秩序に直接の関連を有するものであり、かつ、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものというべきである
したがって、本件行為は、Y社における懲戒の対象となるべきものというべきである。

2 ・・・本件行為ないし本件行為に係る刑事手続についてマスコミによる報道がされたことはなく、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったというのである。また、本件行為に関し、Y社がY社の社外から苦情を受けたといった事実を認めるに足りる証拠も見当たらない。
以上にかんがみれば、本件行為がY社の企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は、大きなものではなかったというべきである。

3 Xが本件においてXに対する処分が決定する具体的な手続が進行していることを知らされず、このような中でXが同手続において弁明の機会を与えられなかったことについては、本件処分に至る手続に不適切ないし不十分な点があったものといわざるを得ない。この点に、本件行為はXを諭旨解雇処分とするに十分な事実とはいい難いことを合わせ考えれば、本件処分の手続の相当性には看過し難い疑義があるものというべきである。

4 自らに対する懲戒手続が進行している最中であることを具体的に認識して行う弁明と、これを具体的に認識しないで行う弁明とでは、弁明を行う者の対応等にもおのずと差違が生じ得るものというべきである・・・。以上にかんがみれば、Y社の指摘する上記事実をもって、Xに対する本件行為に係る弁明の機会が十分に与えられていたとはいい難い

懲戒処分の内容が重すぎる、手続が不十分だということです。

従業員の私生活上の非違行為に対して懲戒処分を行う際、処分内容を判断するのは本当に難しいです。

「裁判所は労働者に甘いな~」と感じる方もいると思いますが、そのようなときは、そもそも懲戒処分が使用者に認められる趣旨を考えるといいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇203(本牧神社ほか事件)

おはようございます。

今日は、神社の神職らの免職等が有効とされた裁判例を見てみましょう。

本牧神社ほか事件(東京地裁平成28年1月25日・労経速2272号11頁)

【事案の概要】

本件は、宗教法人であるY社の神職であるXらが、免職され、あるいは、休職期間満了により退職扱いとされたこと等を巡り、XらとY社との間等で、雇用契約上の地位等の有無が争われ、併せて、パワーハラスメント等を理由とする損害賠償責任の有無や未払賃金の有無等が争われている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社が主張する免職事由のうち、D代務者への不信をあおり、Y社からの排斥を企てた点と給与の無断増額の点については、Y社に生じた混乱や与えた損害の程度、意図的に行われたものであること等、その重大性や悪質な態様を勘案すれば、改めて注意・指導を与えその改善の機会を与えずとも、免職・解雇をするだけの客観的・合理的な根拠が認められるものというべきである。

2 確かにY社の定める懲戒規程によれば、神社の職員に職務上の義務違反があった場合には懲戒委員会の審査を経て懲戒処分を行うものとされている。しかし、X1の行為は、懲戒事由に当たるか否かにかかわりなく、本件規程の手続によることなく免職を行うことができる。また、弁明の機会の付与については、免職に当たり必ずその機会を付与しなければならないかはひとまずおくとしても、平成24年7月8日開催の責任役員会の席上、X1は部屋の外で聞いていたから免職の理由の説明は不要であるとして、これを制した上、免職の理由に対する意見・反論を述べていること、統理と県神社庁の長との間で協議を経ていないとする点についても、協議の方法や内容についての具体的な定めが見当たらないことからすれば、少なくともX1の免職に、それを無効とするような手続上の瑕疵は認められないというべきである。

懲戒処分をする際、一般的には適正手続(弁明の機会の付与)が保障されていることが有効要件とされていますが、今回の裁判例のように、若干心許ない状況にあっても、懲戒事由が存在することが明らかである場合には、裁判所は適正手続については大目に見てくれる傾向にありますね。

とはいえ、実務においては、適正手続を軽視するのはよくありません。

ちゃんと弁明の機会を与えるようにしましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇202(学校法人矢谷学園ほか事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、内部告発を理由とする懲戒解雇・解任の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人矢谷学園ほか事件(広島高裁平成27年5月27日・労判1130号33頁)

【事案の概要】

本件は、(1)Y社と雇用契約を締結したXが、平成22年10月15日に懲戒解雇されたところ、X1が、本件解雇を不服として、Y社に対し、雇用契約上の地位を有することの確認、本件解雇後の賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社の理事長であったAと元鳥取県議会議員であったBが、X1に対し、共同して、違法な退職勧奨及び違法な本件解雇をした旨主張して、A及びBに対しては、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社に対しては、私立学校法29条・一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づき、連帯して、損害金550万円+遅延損害金の支払を求め、また、(2)Y社の理事であったX2が、平成22年10月15日に懲戒解任されたところ、本件解任を不服として、Y社に対し、本件解任後の報酬+遅延損害金の支払を求めるとともに、違法な本件解任をしたY社及び本件解任を主導したAに対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して220万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

X1が、Y社に対し、雇用契約上の地位を有することを確認する。
→Y社はXに対し賃金+遅延損害金を支払え。

Y社はX1に対し、Aと連帯して110万円+遅延損害金を支払え。

Y社はX2に対し、平成22年11月から平成23年9月まで、月額3万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Aが、Xに対し、不法行為に該当するような退職勧奨行為等をしていたことが認められることからすると、Xにおいて、Aを理事長兼校長から退任させようとしたことや、Aが理事長兼校長の地位にあるY社に対して反抗する姿勢を示したことには、酌量されるべき相応の理由があったと認められる。また、Aらが相談をしたBは、形式的には、Y社の部外者ではあるが、本件以前にY社を巡り教職員と経営側が紛争となった際に解決に尽力した者であったことに照らすと、Xらが本件手紙及び29枚の文書を交付して説明した内容を他の部外者に漏らす可能性は極めて低かったものと認められ、実際、Bが、上記内容を他の部外者に漏らしたものとは認められず、XらがBに対して本件手紙及び29枚の文書を交付してした説明及び相談した行為によって、Y社に多少の混乱を生じさせ、また、Aの心情を害したことは否定できないものの、Y社及びAにXを懲戒免職処分にすべき程の重大な実害が生じたとまでは認められない。これらの事情を総合考慮すれば、Y社が、Xを懲戒免職とすることは、重きに失し、著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないというべきである。
したがって、本件解雇は、解雇権の濫用として無効になるものといわざるを得ない。

2 第1次雇用契約が黙示に更新されたことは前記のとおりであるところ、黙示の更新について定める民法629条が、1項後段において、各当事者は、期間の定めのない雇用の解約の申入れに関する同法627条の規定により解約の申入れをすることができると定めていることに照らせば、雇用契約が黙示に更新された場合、更新された雇用契約は、期間の定めのないものになると解するのが相当である
そして、本件管理職規程では、Y社に採用されたXのような管理職の任用期間は2年以内とされているが、他方で、その任用期間を更新することができるとされているから、本件管理職規程をもって、上記と異なる法理が適用されるとも認め難く、XとY社との間の雇用契約は、第1次雇用契約の黙示の更新によって、平成20年4月1日以降、期間の定めのないものになったというべきである。

上記判例のポイント2は要注意です。

そんなことはあるのか・・・?と思ってしまうのですが、高裁がそのように判断しております・・・。

民法629条1項は以下のように規定されています。

雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。

民法627条1項は以下のとおりです。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇201(税理士事務所 地位確認請求事件)

おはようございます。

今日は、退職合意の成立は認められないとされた裁判例を見てみましょう。

税理士事務所 地位確認請求事件(東京地裁平成27年12月22日・労経速2271号23頁)

【事案の概要】

本件は、税理士事務所を営むYに税理士業務の補助として雇用されていたXが、Yから既に合意退職していることを理由に労務提供を拒否されているとして労働契約上の権利を有する地位の確認、平成26年2月分以降の賃金+遅延損害金、並びに違法な退職強要による不法行為に基づく損害賠償金56万2353円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

XがYに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

YはXに対し、平成26年3月10日から本判決確定の日まで、毎月10日限り月額16万円の割合による金員+遅延損害金を支払え。

その余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Yは、平成25年12月4日に本件退職合意が成立した旨主張しているところ、確かに、Xは、同日の午前中にY事務所において、Yとの会話の中で、翌年1月末に退職する旨発言し、同じ日に同僚である他の事務員らにも同旨を口頭で伝え、帰宅後にはYに対して退職を前提にしたメールを送信し、同月5日、翌6日の勤務時間中は何事もなく推移し、同日の退職間際に退職しない意思を表明し本件退職合意の存在を否認しているため、外形的には同月4日に本件退職合意が成立して同月6日に退職の申出を撤回しようとしているようにも見える
しかし、本件で確定的な退職申し出の意思表示があるか否かを検討するに、平成25年12月4日当時、XはこれまでYから退職勧奨を受けたことはなく、退職に関して全く問題意識がないままYとの面談を開始していること、面談中もX自らが退職を発言するまで退職の話題は全く出ていないこと、当時は正社員としてY事務所に勤務していたものであり、簡単に退職を決意するような動機も見当たらないこと、その発言に至る経緯を見ると、同日、Xは出勤した際にYから前日の電話保留時間の件や勤務態度の件で問題点を指摘され反省を求められ、これを素直に受け入れることができないでいる中で突如として退職の申し出を述べているのであり、熟慮の上で発言しているとは考えられず、むしろ自己の非を指摘されてその反発心から突発的になされた発言と理解するのが素直であること、発言後の経緯を見ても、同日午後、Xは他の事務員にも退職する旨を伝えているが、同時に、上記保留時間の件に関係するCに対して謝罪し、自分が退職するのはCが原因ではない、これから確定申告の時期で繁忙期なのに申し訳ないなど、他の事務員との関係を修復しようとする態度が強調され、また、同日帰宅後にYに対してメールを送信しているところ、その内容は、Yに対し、時間を割いてもらい感謝する意思を丁重に表明した上、Cを含む他の事務員にも迷惑をかけたことを謝罪する内容であり、XがYから指摘された問題点を反省して今後は努力する旨をあえて強調している様子が窺われ、この状況からは軽率に退職を発言したことを後悔しつつも自分からは退職申し出の撤回を言い出すことができず、周囲が自分を理解して退職を引き留めてくれるのを期待している心情も読み取れること、同日に退職する旨発言してから、翌5日は通常どおり勤務し、翌6日の夕刻に退職しない旨発言しているところ、その間に退職を前提とした手続が取られた形跡はないことに鑑みると、本件では、Yの発言をもって確定的な退職の意思表示があるとはいえず、本件退職合意の成立は認められない

2 Xは、平成25年12月6日の退職直後にY事務所内で話し合いをしていた際、Yが突然席から立ち上がり、Xを室外に追い出すためにその身体に1回どんと突いた上、力ずくで押しやるという不法な有形力を行使し、これにより全治約10日間の右胸部打傷を負わせた旨主張する。
・・・この状況からすると、YはXに退職勧奨する中でかかる行動に出たというよりも、その日はXに早く退勤してもらいたいと思う中で、Xに対して言葉で懇請する際に付随する行為として多少身体に触れたものと推認され、それほど強い有形力の行使があったものとは考えがたい。また、右胸部打傷の診断書が提出されているが、上記会話を見ても、押された際にそれほど痛がっている気配はない上、それどころかその後もXとYの会話が継続している状況であり、上記診断書記載のとおりの負傷をしているとはにわかに考えがたい。したがって、YがXの身体を多少押した程度の有形力を行使したとしても、違法といえる程度の有形力の行使があるとは認められない

確定的な退職の意思表示があったか否かが争われています。

ぎりぎりの判断ですので、担当する裁判官によっては判断が異なっていたと思われます。

また、有形力の行使がなされ、被害者が診断書を証拠として提出してきたとしても、それだけで当然に違法性や損害が認定されるものではありません。

なんでもかんでも不法行為とは評価されないわけですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇200(キングスオート事件)

おはようございます。

今日は、シニアマネージャーの解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

キングスオート事件(東京地裁平成27年10月9日・労経速2270号17頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、試用期間満了日である平成26年3月31日付けで留保解約権の行使により解雇されたところ、Y社に対し、本件解雇の無効及び賃金の未払等を主張して、労働契約に基づき、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②未払賃金の支払、③未払割増賃金の支払、及び労働基準法114条に基づき、④付加金の支払を求めるとともに、Y社従業員らのパワーハラスメント等及び違法な本件解雇により精神的苦痛を被ったなどと主張して、⑤不法行為又は労働契約上の債務不履行に基づき、損害賠償(合計220万円)の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、13万5681円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金として13万5681円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、管理部の責任者としての地位に見合う水準の能力を発揮することが求められていたにもかかわらず、インプット作業のような単純作業も適切に遂行することができず、管理職としての姿勢に疑問を抱かせるような態度もあったのであり、Y社において、部下の指導や評価を含む管理部門の統括業務、内部統制整備業務に係るXの業務遂行能力に疑問を抱き、Eの出向が解除される平成26年3月以降、Xに管理部の責任者としての業務を行わせることができないと判断したことには合理的な理由があるというべきである。

2 Xには管理部の責任者として高い水準の能力を発揮することが求められていたところ、十分な時間をかけて指導を受けたにもかかわらず、インプット作業のような単純作業を適切に行うことができないなど、基本的な業務遂行能力が乏しく、管理職としての適格性に疑問を抱かせる態度もあったこと、Xのインプット作業によりGらの業務が停滞して苦情が出され、インターネット閲覧についても女性従業員から苦情が出されるなど、Y社の業務に支障が生じていたこと、前任者としてXに引き継ぎ、指導を行うべきEが平成26年2月末には出向解除によりP社に戻る予定であり、上記のような状態でXが適切に管理部の統括業務を遂行することができず、管理部の業務により大きな支障が生じるおそれがあると判断されてもやむを得ない状態であったことが認められる。
これに加えて、Y社の規模やXの採用条件によれば配置転換等の措置をとるのは困難であったとも認められること、Xは当時試用期間中であり、インプット作業の問題について繰り返し指導を受けるなど、改善の必要性について十分認識し得たのであるから、改めて解雇の必要性を告げて警告することが必要であったとはいえないこと等の事情も考慮すると、本件解雇が試用期間の経過を待たずに決定されたものであること、Xが同年2月22日に抑うつ状態と診断されていること等、Xが主張する事情を考慮しても、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるものとは認められない。

能力不足を理由とする解雇は、一般的にはハードルが高いですが、裁判所が求める解雇までのプロセスを経ること、能力不足を裏付けるエビデンスを揃えることという基本姿勢があれば、有効に行うことも十分可能です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇199(Y社事件)

おはようございます。

今日は、法的に根拠のない大幅な給与の減額をし従業員を退職に追い込んだことが不法行為とされた事案を見てみましょう。

Y社事件(東京高裁平成25年8月28日・判タ1420号93頁)

【事案の概要】

Xは、個人でY社の保険代理店を営んでいたが、その後、同代理店を廃業してY社に入社した。その際、Xは、顧客との間の保険契約(いわゆる手持ち契約)をY社に持ち込んだ。
本件は、Xが、この保険契約は一種の無体財産権であり、その持ち込みによって、Y社が売上高を増加させて、Y社における高位の保険代理店の資格を得ることができたにもかかわらず、その後、正当な理由なくXの給与を減額して、XをY社から退社せざるを得ない状況に追い込んで、上記保険契約を奪取し、Z社もこれを補佐したなどと主張して、Y社及びZ社に対し、次のとおりの請求をした事案である。

すなわち、Xは、主位的に、①Y社及びZ会社に対し、共同不法行為に基づき、上記保険契約を失ったことによる財産的損害の損害賠償の内金として4000万円+遅延損害金の連帯支払、②Y社に対し、不法行為に基づき、慰謝料300万円及び労働契約に基づき、平成22年5月分から同年8月分までの未払給与50万円+遅延損害金の支払を求めた。
また、Xは、予備的に、Y社に対し、③Y社がXに対してした平成22年8月20日付け解雇(以下「本件解雇」という。)が無効であることの確認、④労働契約に基づき、平成22年5月分から平成23年2月分までの未払給与230万円+遅延損害金の支払、⑤平成23年3月からXが満65歳に達する月までの給与として、毎月25日限り30万円の支払を求めた。

原審は、Xの主位的請求①及び②をいずれも棄却し、予備的請求については、③及び④を認容し、⑤については、平成23年3月1日から判決確定の日まで毎月25日限り月額30万円の割合による金員+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求に係る訴えを却下した。

これに対して、Xは、主位的請求の認容又は予備的請求の全部認容を求めて控訴し、Y社は、Y社の敗訴部分に係るXの請求の棄却を求めて控訴した。なお、Xは、当審において、主位的請求①のうち、Y社に対し不当利得に基づく請求を追加した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、249万3733円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが入社した後の平成21年7月付けで業務ランクがそれまでの上級代理店(現在の1級代理店)から特級代理店(現在の新特級代理店)に昇格しているところ、XがY社に移管した本件保険契約の保険料収入が加わらなければ、新特級代理店への昇格のための必要条件の1つが満たされなかったものであるから、XのY社に対する寄与は少なくなかったといえる。
それにもかかわらず、Y社は、それまで月額30万円であったXの給与を、Xの同意なく、一方的に、同年11月分から段階的に引き下げ、平成22年5月分以降は月額17万4000円と大幅な減給という労働条件の不利益変更を実施した
そして、このような法的に根拠のない大幅な労働条件の引下げが行われ、これに不満を抱いた控訴人が、Y社を退社するに至っているが、これはまさにY社が、Xを退社せざるを得ない状況に追い込んだということができるから、Y社は、このことにつき不法行為責任を免れないというべきであり、当該判断を覆すに足りる証拠はない。
なお、Y社は、Xの給与を減額したことの合理性等を縷々主張するが、それらによって上記のような一方的かつ大幅な減給の正当性が認められることにはならないのは、前記でみてきたとおりである。

2 Xは、同人が本件保険契約から得られるべき収入相当額や本件保険契約を第三者に引き継いだ場合の代償金相当額が、上記の不法行為による財産的損害又は不当利得になる旨主張している。
確かに、XがY社に入社し、その後、退社するに至るまでの前記経緯に鑑みれば、実質的に、Y社がXから本件保険契約を奪ってしまったと評価する余地があることは否定できない。
しかしながら、XからY社への本件保険契約の移管手続は適法に行われていることが認められ、また、XがY社を退社した場合の本件保険契約の取扱いについて、関係当事者間で別段の合意がされていたとは認められない以上、上記手続により、本件保険契約は、XからY社に移管され、その後、XがY社を退社したからといって、Y社がXに対して本件保険契約を返還すべき義務又は(その返還に代えて)代償金を支払うべき義務が発生する法的根拠はない
そして、Xの退社について、Y社に不法行為責任が認められる場合であっても、そのことから直ちに、上記各義務が生じるということにもならない。
そうすると、Y社の不法行為によって、Xが主張するような財産的損害が生じたということはできず、また、被Y社が法律上の原因なくして、本件保険契約に係る利益を利得し、これによってXが損失を被ったということもできないから、財産的損害及び不当利得については、いずれも認められない。
他方、Xは、Y社の不法行為によって、不本意な退社を余儀なくされた以上、精神的苦痛を受けたと認められる。そして、本件退職の原因となった本件給料減額は無効なものであること、前述したとおり、財産的損害としてはとらえられないものの、本件は、実質的に、Y社がXの本件保険契約を奪ってしまったと評価する余地のある事案であることなども勘案すると、上記精神的苦痛を慰謝するための金額は200万円とするのが相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

合理的理由を欠く大幅な給与減額により自主退職に至った場合に、不法行為に該当する可能性があることを示しています。

もっとも、いつもそうですが、慰謝料の金額がそれほど多額にならないので、あまり抑止力にはなっていません。

また、本件では、Xの保険契約がY社に移管されており、原告の請求金額から考えると、慰謝料わずか200万円だけ認められても、Xの財産的損害はほとんど填補されていないのでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇198(日本航空(客室乗務員)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、休職をしていた客室乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(客室乗務員)事件(大阪地裁平成27年1月28日・労判1126号58頁)

【事案の概要】

本件は、被告の会社更生手続中に更生管財人が行った整理解雇の対象となった原告が、整理解雇は無効であるとして、①労働契約上の地位にあることの確認と、解雇後、平成23年1月支払期から本判決確定までの賃金の支払を求めるとともに、②原告に対する整理解雇や退職勧奨が違法なものであったとして、損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件整理解雇は、対象とされる労働者に解雇されるに足りる責めに帰すべき事由がないにもかかわらず行われるものである以上、仮に人員削減の必要性が肯定できるとしても、解雇されるか否かを分ける本件人選基準の設定については、もちろん使用者側の裁量が認められることは否定できないものの、恣意的なものであってはならず、解雇されなかった労働者との比較において、当該労働者に解雇を受忍させるに足りる合理性が必要というべきである。
本件整理解雇における人選基準は、(a)病欠・休職等基準(復帰日基準も含む)、(b)人事考課基準、(c)年齢基準で構成されている。
病欠・休職等基準については、客観的な基準をもって対象者を選定するものであり、Y社の恣意性が入る余地がないほか、私傷病等による休職・病欠がある者については、客観的な事実として、現実に一定期間就労していないのであるから、当該期間に休職・病欠することなく現実に勤務していた他の労働者と比較した場合に、Y社の業務に従事していないという点において、Y社に対する貢献度が劣ると評価せざるを得ないし(これは、当該労働者の業務遂行能力が、他の労働者と比較して劣るということを意味するものではない。)、また、将来の貢献度を想定するにあたっても、過去に休職・病欠がある者は、ない者と比較した場合に、相対的に劣る可能性があると判断することも、あながち不合理ともいえない

2 病欠・休職等基準該当者の中でその後に乗務復帰している者については整理解雇の対象から除外するという新たな対象者を絞る要件(復帰日基準)を付加した以上、その基準日については、手続的にできるだけ本件解雇通知に近い遅い時期とするのが合理的であり、同基準を付加した本件人選基準を示した本件人選基準変更日(同年11月15日)とすることに技術的・現実的な支障があることもうかがわれないにもかかわらず、少なくとも復帰日基準の基準日とした同年9月27日から復帰日基準を公表した同年11月15日の間に乗務復帰した者を、依然として、本件整理解雇の対象にとどめることには合理的な理由がないといわざるを得ない
・・・本件人選基準については、基準日の前後で本件整理解雇の対象になるか否か重大な差異が生じるからこそ、基準日の設定の合理性はより厳格に審査しなければならないのであって、そのことがY社の主張するような基準日の設定に関するY社の広範な裁量を根拠づけることにはならない。しかも、前記で判示したことは、単に基準日の前後で復帰日基準の適用の効果が分かれて不合理であるというのではなく、同基準を付加した趣旨とその基準日の設定が整合していないから不合理であるというものであって、Y社の上記主張は理由がない。

3 整理解雇が無効であり、雇用契約上の地位を有することが確認され、いわゆるバックペイが支払われることで、労働者としての地位が回復され、また、経済的損害も填補されることからすれば、整理解雇が解雇権の濫用に当たるとして無効となる場合であっても、そのことをもって直ちに不法行為が成立することになるものではなく、当該整理解雇が、当該労働者を排除することのみを目的としたり、当該労働者に対する嫌がらせとして行われたものであるなど、その手段・態様に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものである場合に、不法行為に当たると解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件整理解雇が解雇権の濫用として無効となるのは、Y社が当初の人選基準案を公表した後、その後、労働組合からの要望を受けて、復職日基準を追加して本件人選基準を公表したものの、復職日基準の基準日を人選基準が確定した日ではなく、当初の人選基準案を発表した日とした点が合理性を欠くと判断されたためであるものの、Y社によるそのような復職日基準の基準日の設定が、Xに対する嫌がらせであるなど著しく社会的相当性を欠くとまではいえず、ほかに、本件整理解雇が、著しく社会的相当性に欠けるものであることをうかがわせる事情があることを認めるに足りる証拠もない

ぎりぎりのところで無効となっている感じがします。

上記判例のポイント3に書かれているとおり、裁判所は、人選基準に合理性がないというところで解雇を無効としています。

裁判体が変われば解雇が有効と判断される可能性は十分残されていると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇197(泉北環境整備施設組合事件)

おはようございます。

今日は、不正アクセス等を理由とする懲戒・分限処分の取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

泉北環境整備施設組合事件(大阪地裁平成27年1月19日・労判1124号33頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務する公務員であるXが、Y社の情報ネットワークシステムを構築し、その管理運営の最高責任者であった立場を利用し、人事異動後もその閲覧権限を不適正に使用し、他の職員のフォルダへ侵入していたとの理由で、処分行政庁から、地方公務員法29条1項各号に基づき20日間の停職とする旨の懲戒処分及び同法28条1項3号に基づき課長から主幹へ降任する旨の分限処分を受けたことについて、いずれの処分も、Xは本件システム上の権限を不適正に使用したことはないことや、他の関与者に対する懲戒・分限処分との比較等からすれば重きに失する点で実体法上違法であり、本件各処分に係る手続に関与すべきでない者が関与している点で手続上も違法であると主張して、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員において国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない職務上の義務違反その他の非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために科される制裁である。そして、地公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選択すべきかについて、具体的な基準を設けていないから、その決定は懲戒権者の裁量に任されているものと解されるところであり、懲戒権者がこの裁量権の行使としてした懲戒処分は、これが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法とならないものというべきである(最判昭和52年12月20日・神戸税関事件)。

2 地公法28条の分限制度は、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的から、同条に定める処分権限を任命権者に認める一方、公務員の身分保障の見地から、その処分権限を発動し得る場合を限定したものである。分限制度のこのような趣旨・目的に照らし、かつ、同条に掲げる処分事由が、被処分者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮すると、同条に基づく分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるが、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分を行うことが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることは許されず、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか、また、その判断が合理性のある判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤った違法なものとの評価を免れないというべきである

3 そして、地公法28条1項3号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に起因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうと解されるが、この意味における適格性の有無は、当該職員の外部に現れた行動、態度に徴してこれを判断するほかはなく、その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連付けてこれを評価し、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素を含む諸般の要素を総合的に検討した上、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連において判断しなければならない。そして、降任の場合における適格性の有無については、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的に照らし、裁量的判断を加える余地を比較的広く認めても差し支えないものと解される(最判昭和48年9月14日・広島権教委事件)。

公務員の場合、通常の労働事件の場合とは異なる規範を用います。

行政事件でよく用いられる裁量権の逸脱・濫用の有無を判断する規範が用いられています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇196(エスケーサービス事件)

おはようございます。

今日は、定年制、定年慣行の存在は認められないとした裁判例を見てみましょう。

エスケーサービス事件(東京地裁平成27年8月18日・労経速2261号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、Y社に対し、労働契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした賃金等の支払を求め、これに対し、Y社が、定年又は解雇による雇用終了を主張するなどして、Xの請求を争っている事案である。

【裁判所の判断】

地位確認、賃金請求ともに認容

【判例のポイント】

1 本件就業規則には60歳定年制が定められているところ、Xの就業場所である本件会館内に本件就業規則が備え置かれていなかったことは当事者間に争いがなく、Y社は、本件契約締結時にXに対して就業規則の存在を明示し、本店所在地に本件就業規則を備置していたので、周知性(労働契約法7条)の要件を満たす旨主張する。
しかし、Y社が本件就業規則を備え置いたとする本店所在地は、いずれも本件会館とは別の建物であるところ、本件契約締結時及びそれ以降、Y社において、Xに対して本店所在地に本件就業規則がある旨告げたと認めるに足りる証拠はなく、また、XをはじめY社の従業員において本件就業規則が本店所在地に存在することを知っていたと認めるに足りる証拠もない
このような状態では、Y社の主張のとおり、本件契約締結の際にY社においてXに「貴社の就業規則・・・を守のは勿論・・・」との記載のある誓約書を提示してその文言を読み聞かせ、Xにおいて誓約書に署名押印し、かつ、本件就業規則がY社の本店所在地に備え置かれていたとしても、これらは、結局のところ、本件契約締結時、Xに対してY社に就業規則が存在することを認識させたにとどまり、本件就業規則につき、労働者がその内容を知ろうと思えばいつでも就業規則の内容を知ることができる状態にあるとは認めることができず、周知性の要件を欠くというべきである。よって、本件就業規則が本件契約の内容になっているとはいえない

2 Y社が60歳定年慣行の徴表として指摘する従業員の退職や再雇用等につき、Dについては、60歳到達日以降、Y社がDとの間で再雇用契約を締結したと認めるに足りる契約書等の的確な証拠はない。また、Eについては、60歳到達日以降、65歳に到達する月に属する平成25年7月4日に至るまで、Y社とEとの間で再雇用契約を締結したと認めるに足りる契約書等の的確な証拠はない。
そうすると、Y社において、従業員は60歳で定年により退職し、再雇用基準を満たした者が再雇用されるという事例が複数あると認めることはできないため、60歳定年慣行の存在は認められず、ひいてはXがこれを黙示に承諾していたとも認められない

就業規則の周知性が争点となっています。

本件のような状態では周知性の要件は満たされていないと判断されますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。