Category Archives: 解雇

解雇243 窃盗を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、地方公務員の窃盗に基づく懲戒免職処分等取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

東宇陀環境衛生組合ほか事件(奈良地裁平成29年3月28日・労判ジャーナル64号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の技能労務職員であったXが、公務外非行(窃盗)を行ったことなどを理由に、Y社から懲戒免職処分を受け、また、これに伴い奈良県市町村総合事務組合管理者から退職手当支給制限処分を受けたことから、本件懲戒免職処分は重大な手続違反や事実誤認に基づくものであって違法であり、これを前提とする本件退職手当支給制限処分も違法であるなどと主張して、上記各処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分は違法
→請求認容

【判例のポイント】

1 確かに、Xは、タイヤ窃盗を理由として3箇月の停職処分を受けたにもかかわらず、停職期間満了後4箇月ほどしか経たないうちに2度にわたり景品応募シールを盗み、さらにその半年後に再び同シールの窃盗(本件非行)に及んでいるのであって、本件非行には常習性が認められ、また、その動機も短絡的で、再犯のおそれも否定できず、Y社の職員としての信用を重ねて失墜させたものとして、厳しい非難は免れないというべきであるが、Xの窃盗行為は上記の限度にとどまっており、その頻度や回数等に照らし、常習性の程度が特に著しいとまではいえず、そして、Xは、逮捕直後から事実を認めて被害者に謝罪し、示談も成立しているのであり、Y社に対しても、謝罪文を提出し、事情聴取の際に反省の弁を述べるなど、本件非行について反省の態度を示していたこと等から、Y社が懲戒免職処分を選択したことは、その裁量権を逸脱又は濫用したものというほかなく、本件免職処分は違法というべきである。

・・・ですって。

このケースで解雇しない会社があるでしょうか・・・。

たまにこういう裁判例を見ると、とても違和感を感じます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇242 生活保護受給と賃金仮払いの必要性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ダンプ運転手に対する解雇の有効性と合意解約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

ゴールドルチル(抗告)事件(名古屋高裁平成29年1月11日・労判1156号18頁)

【事案の概要】

Xは、Y社との間で、ダンプカー運転手として期間の定めのない労働契約を締結していたところ、平成27年5月28日、Y社から事実上解雇されたが、その解雇は無効であると主張して、Y社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるよう求めるとともに、Y社に対し、平成27年9月分以降本案判決確定に至るまで毎月15日限り賃金28万6166円をXに仮に支払うよう求めるのに対し、Y社が、本件労働契約の合意解約ないし解雇による終了を主張するなどして、Xの申立てを争う事案である。

原決定は、本件労働契約は合意解約により終了したとして、Xの申立てを却下したので、Xが本件抗告をした。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件において、XのY社に対する労働契約上の権利を有する地位が仮に定められれば、社会保険の被保険者たる資格を含めた包括的な地位が一応回復されることになること、Xがあえて任意の履行を求めるものでもよいとして発令を求めていること、Y社は、履行する意思はないとしているものの、抗告審において和解勧試に真摯に対応しており、発令に応じてXを従業員として扱うことも期待できないわけではないこと等の事情が認められるのであり、そのような事情が認められる本件事案においては、雇用契約上の地位保全の必要性を認めることができるというべきである。

2 Y社は、仮処分決定時までに履行期が到来している賃金については、Xが現に生計を維持してきた以上、保全の必要性は認められず、また、Xは生活保護を受給しているから、仮処分決定時以降も保全の必要性はなく、仮に必要性があるとしても、その金額が月額10万9450円を上回ることはない旨主張する。
しかし、仮処分の審理期間に係る賃金仮払いが認められないのでは、被保全権利が認められるのにも関わらずY社が争ったために審理を要したことの不利益をXに負担させることになり、相当ではないから、申立時以降の賃金仮払いが認められるべきである。また、生活保護の受給についても、生活保護が「生活の困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」(生活保護法4条1項)ものであって、雇用主に対する賃金支払請求権を有している場合に給付されることが予定されているものではないことからすれば、Xが生活保護を受けている事実をもって保全の必要性が否定されることにはならない。そして、仮払の金額についても、健康で文化的な最低限度の生活を営むのに必要な限度とする必然性はなく、XがY社に解雇されるまで、Y社から支払われる賃金をもって生活の原資としており他に収入があったとは認められないこと、賃金額がXの生活にとって過分なものであったとは考え難いことからすると、Xの生活には、従前支給されていた賃金額の金員を要するものと認められるから、同額について支払の必要性があるというべきである。

上記判例のポイント1は珍しい考え方ですね。

また、上記判例のポイント2の生活保護と賃金仮払いの必要性については参考になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇241 施設長解任の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、特別養護老人ホームの施設長の解任に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人X事件(奈良地裁葛城支部平成29年2月14日・労経速2311号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社経営の特別養護老人ホームの施設長解任の無効を主張して、Y社に対し、施設長であり、かつ、管理職手当月額8万円の支払を受ける地位にあることの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件解任処分は、人事権の行使としてなされたものと認められるところ、人事権の行使として一定の役職を解くことは、労働者を職業的な能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、就業規則等に根拠規定がなくても行い得ると解される。しかし、使用者が有する人事権といえども無制限に認められるわけではなく、その有する裁量権の範囲を逸脱し、又はその裁量権を濫用したと認められる場合には、その解任処分は無効となるというべきである。特に解任に伴って労働者の給与も減額されるなど不利益を被る場合には、その解任に合理的な理由があるか否かは、その不利益の程度も勘案しつつ、それに応じて判断されるべきである。

2 Xは、本件解任処分について、懲戒処分としての減給処分又は降格処分と同様の事実が必要である旨主張するが、人事権の行使としての施設長解任は基本的には裁量的判断により可能なものであることからすると、その要件として、懲戒処分と同様又はそれに準ずるほどの事情を要するとまでは解されない

3 もとより、本件解任処分によりXに生じた減収は少なくないが、管理職手当は、施設長という地位・役職に基づくもので、施設長の地位・役職を解されればその支給を受けられなくなるものと解されるところ、Xは、本件解任処分により管理職である施設長の地位から外れ、その職務内容・職責に変動が生じていることのほか、一般職員として業務改善手当を受給し、労働実態等に呼応して変動し得る不確定なものであるとの事情も無視はできないものの残業手当が支給される可能性もあること等を考慮すると、上記減収による不利益をもって通常甘受すべき程度を超えているとまではいえない

人事権の行使としての解任処分についての考え方を学ぶにはいい事例です。

懲戒処分とは違うものの、一定の制限があることは当然のことです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労働時間45 使用者の判断による裁量労働制除外の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不良な言動等を理由とする降格・裁量労働制除外と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日立コンサルティング事件(東京地裁平成28年10月7日・労判1155号54頁)

【事案の概要】

本件は、労働者であるXが、使用者であるY社に対し、違法・無効な解雇を受け、解雇前の降格及び裁量労働制から適用除外も違法・無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに平成25年10月以降の降格、裁量労働制からの適用除外及び解雇の無効を前提とした毎月73万4667円の賃金及び同年9月以前の降格及び裁量労働制からの適用除外の無効を前提とした賃金の未払分の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、次の金員を支払え。
(1) 金11万2557円及びこれに対する平成25年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 金24万3218円及びこれに対する平成25年8月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(3) 金2万2488円及びこれに対する平成25年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 裁量労働制は、労働時間の厳格な規制を受けず、労働時間の量ではなく、労働の質及び成果に応じた報酬支払を可能にすることで使用者の利便に資する制度であり、労働者にとっても使用者による労働時間の拘束を受けずに、自律的な業務遂行が可能とする利益があり、裁量労働制に伴って裁量手当その他の特別な賃金の優遇が設けられていれば、その支払を受ける利益もあるから、ある労働者が労働基準法所定の要件を満たす裁量労働制の適用を受けたときは、いったん労働条件として定まった以上、この適用から恣意的に除外されて、裁量労働制の適用による利益が奪われるべきではない
ことに一般的な新卒者採用ではなく、その個別の能力、経歴等を勘案して裁量労働制の適用及び裁量手当を含む賃金が個別労働契約で定められている事情があるときは、労働者の裁量労働制の適用及びこれによる賃金の優遇に対する期待は高い。
Xは、新卒者ではなく、4回にわたる面接その他の審査でコンサルタントとしての能力、経歴等を審査された上、個別労働契約で裁量労働制の適用及び裁量手当を含む年俸が決定され、役職も「シニアコンサルタント」と、コンサルタント業務に従事する社員限定の職名が付せられていたから、このような事情があるといえる。
労働時間に関する労働条件がみだりに変更されるべきでなく、法的安定を確保すべきことは、1か月単位の変形労働時間制において、就業規則に基づく一定の要件を満たす勤務割表等でいったん労働時間を具体的に特定した後の変更は、その予測が可能な程度に変更の具体的事由を定めておく必要があること、労働基準法上は休日の特定は必須でないが、労働契約上いったん特定されれば、休日振替には労働者の個別的同意又は休日を他の日に振り替えることができる旨の就業規則等の明確な根拠を要することにも現れている。
賃金に関する労働条件がみだりに不利益な変更を受けるべきものでないことも無論である。
したがって、個別的労働契約で裁量労働制の適用を定めながら、使用者が労働者の個別的な同意を得ずに労働者を裁量労働制の適用から除外し、これに伴う賃金上の不利益を受忍させるためには、一般的な人事権に関する規定とは別に労使協定及び就業規則で裁量労働制の適用から除外する要件・手続を定めて、使用者の除外権限を制度化する必要があり、また、その権限行使は濫用にわたるものであってはならないと解される(土田道夫「労働契約法」317、322、323頁参照)。

2 Y社は、本件労使協定5条3号は、Y社が労働者の同意を得ることなく裁量労働制の適用を除外できることを認めたものであると主張する。
しかしながら、裁量労働制に関する労使協定は、労働基準法による労働時間の規制を解除する効力を有するが、それだけで使用者と個々の労働者との間で私法的効力が生じて、労働契約の内容を規律するものではなく、労使協定で定めた裁量労働制度を実施するためには個別労働契約、就業規則等で労使協定に従った内容の規定を整えることを要するから、労使協定が使用者に何らかの権限を認める条項を置いても、当然に個々の労働者との間の労働契約関係における私法上の効力が生じるわけではない
本件労働契約、Y社就業規則及び裁量勤務制度規則に本件労使協定5条3号を具体的に引用するような定めは見当たらず、むしろ、本件労使協定は、本件裁量労働制除外措置のあった平成25年6月時点では、労働者に対し、十分周知される措置が取られていなかったことが認められるから、本件労使協定5条3号に従った個別労働契約、就業規則等は整えられていないし、XとY社との間で黙示に本件労使協定5条3号の内容に従った合意が成立していると推認することもできない。

3 Y社は、正当な労働条件変更であれば、Xの同意を要しないとも主張するが、そのような労働条件変更は、就業規則に関する判例法理及び労働契約法10条によるものではなく、就業規則その他の労働契約上の根拠によるものとはいえないから、労働契約法上の合意原則(労働契約法3条1項、8条、9条)の例外とするだけの実定法上の根拠に欠ける
本件裁量労働制除外措置は、特定の労働者を対象としたもので、労働条件の集団的な変更で、個々の労働者から個別に同意を得ることが必ずしも容易でなく、一般的な規則の変更による形式上、個々の労働者に対する恣意的な取り扱いの余地が制限され、労働者一般の利益にかかわり労働組合等との交渉や意見聴取(労働基準法90条1項)を介して労働者の意見を反映される余地もある就業規則の変更による労働条件の変更(就業規則の変更で使用者に一定の範囲で労働条件を変更する権限を定めることを含む。)とは基礎的な条件がかなり異なる。
使用者の作成による就業規則の変更を介さないのであれば、使用者だけでなく、労働者からの労働条件の合理的な変更の余地もあるということになりかねないが、そのような帰結は労働条件の安定を欠く事態を招く。
個々の労働者の同意を得なくても本件裁量労働制の適用から除外できる権限を創設することは、それが合理的なものであれば、本件労使協定及び本件裁量労働制規則の改定で可能であり、直接、本件労働契約をY社のみの意思で変更する必要はない

特段異論のない判断です。

特に上記判例のポイント3はおっしゃるとおりです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

解雇240 最低保証のない完全歩合制は法律上許される?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、客室乗務員の期間途中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

デルタ・エアー・ラインズ・インク事件(大阪地裁平成29年3月6日・労判ジャーナル63号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で、平成17年10月16日、業務を航空機の客室乗務員とする期間の定めのある労働契約を締結し、これを約1年ごとに継続的に更新してきた元従業員Xが、平成26年12月5日付でY社から解雇され、平成27年3月31日以降の契約更新も拒否されたため、同解雇が無効であり、また労働契約法19条により労働契約は更新したものとみなされると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年4月以降の未払賃金及ぶ賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 ①そもそもY社が人員削減の必要性として挙げる本件サービス変更は、平成27年1月1日から実施するものであるのに対し、本件解雇は平成26年12月5日付けでなされたものであり、本件サービス変更と本件解雇の日が一致しているとはいえないこと、②Y社は、本件サービス変更の結果、運航時間総数が月5060時間になると見込まれるとして、削減する人員を20名と算出したと主張しているところ、そもそもIFSRの契約において、月70時間のACFHが保障されているわけではないこと、③その点を措くとしても、本件サービス変更の月である平成27年1月の運航時間総数は5060時間を割り込んでいるものの、同年2月及び3月は、月5060時間を超過しており、この3か月の運航時間総数の平均値は月5164時間であって、Y社見込み時間数である月5060時間を上回っていること、 ④本件サービス変更の結果、5名で機内サービスを提供することが可能であるとしても、従前6名の乗務員が乗務していたことに鑑みれば、過渡期の対応として、5名を超える乗務員を乗務させる余地が全くないとも認め難いこと、⑤Y社は、本件解雇に当たり、本件契約の終了日までの基本給を支払っており、本件解雇をしなくても、Y社に新たな経済的負担が生ずるものでもないこと、以上の点が認められ、これらの点に鑑みると、本件サービス変更がY社の経営判断に属するものである点を考慮したとしても、これをもって、平成26年12月の時点において、平成27年3月の契約期間満了を待たずに、IFSRを8名削減しなければならない程度に切迫した必要性があったとまでは認められない。そして、全証拠を精査しても、このほかに契約期間が満了する前にXを解雇しなければならなかったことを根拠付ける具体的な事情があったことを認めるに足りる的確な証拠は認められない
以上によれば、Y社の上記主張は理由がなく、本件解雇は無効であると解するのが相当である。 

2 Y社は、Xの賃金は、最低保証のない完全歩合制であるから、現実の乗務がない以上、賃金額は0円となる旨主張する。
しかしながら、そもそもXが現実に乗務していないのは、Y社がXの就労を拒否したからであって、Y社が拒否しなければ、Xは、平成26年12月以降も乗務員としての業務に従事していたと認められる
したがって、Y社は、Xに対し、民法536条2項により、賃金支払義務を負っていると解するのが相当である。

3 Y社において、賞与の支給に関して定めた契約条項や支給規定は見当たらず、Y社がこれまでXに対して基本給3か月分に相当する額の賞与を支給してきたとの事実をもって、賞与支給に関する黙示の契約が成立したと解することもできない。
また、賞与については、プロフィットシェアと異なり、一律に支給率等を定めた上で全従業員に対して支給されていたことを認めるに足りる的確な証拠は認められない。そうすると、Xは、Y社に対し、賞与の支払を求める請求権を有しているとはいえない

整理解雇の必要性が否定された事案です。

また、上記判例のポイント2の「最低保証のない完全歩合制」は労基法上は採り得ない賃金体系なので、ご注意を。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇239 著しい能力不足、勤務態度不良を理由とした解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、著しい能力不足、勤務態度の不良が認められ、解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成29年2月22日・労経速2308号25頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の従業員として勤務してきたが、Y社から、その勤務成績不良、勤務態度不良等理由に解雇された。本件は、Xが、同解雇は労働契約法16条に反し無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇されなければ得られたであろう賃金の支払及び賞与の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却(解雇は有効)

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に入社して以来極めて低い勤務評定を受け続け、平成10年9月には退職勧奨を受け、自らの欠点を踏まえて明確な成果を出せるよう取り組む旨の決意表明を提出し、平成11年4月には新入社員相当の資格等級である1級職にまで降級された。このように、Xの勤務成績は著しく不良であったと認められ、奮起を促されて決意表明を提出し、その後も上司の指導を受け、いくつもの業務を指示されたものの、そのうちの多くの業務について完遂することができないなど、その勤務成績も不良であったものである。このような中、Y社は、Xを甲に在籍出向させる形でY社社内の印刷業務を行わせようとしたものの、そこでの勤務状況も不良であったことから同出向先から出向解除を要請され、その後産業雇用安定センターへの在籍出向をもXが拒んだことから、やむなくXを解雇したものと認められる
このように、Xの勤務成績の著しい不良は長年にわたるものであり、その程度は深刻であるばかりか、その勤務態度等に鑑みると、もはや改善、向上の見込みがないと評価されてもやむを得ないものである
Y社は、かようなXに対し、人事考課、賞与考課のフィードバック等を通じて注意喚起を続け、かつ、在籍出向を命じるなどして解雇を回避すべく対応しているものであって、手続面でも格別問題のない対応をしていると認められる。このような点に鑑みれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当と認められるものであって、有効と認められる。

2 Xは、採用以来30年間にわたり、懲戒処分等を受けることもなく勤続してきたにもかかわらず、突然本件解雇を強行した旨主張するが、既に認定した事実及びそれを前提とする説示内容に照らすと、Xが長年問題なく勤務してきたと認めることは到底できないし、Y社としても、Xに対し、その勤務成績が著しく不良であることを感銘付ける努力を行っていると認められるから、その解雇に至る手続面でも問題があるとは認められない。

3 Xは、Y社の対応につきことごとく嫌がらせである旨主張するが、既にみたようにいずれも嫌がらせであるとは認められず、むしろ、Y社は、Xに対し、容易にクリアーできるレベルのオーダーをしてきたということができる。しかるに、そのようなY社のオーダーに対し、結果を出すことができず、一段上へのステップに進むことができなかったXの対応こそが、その著しい能力不足、勤務態度の不良を裏付けているというべきである。

採用以来30年間という極めて長期間にわたるプロセスを経ている事案です。

気が遠くなりますね・・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇238 被懲戒者の弁解の合理性と懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、懲戒解雇が無効とされた裁判例を見てみましょう。

東京都港区医師会事件(東京地裁平成29年1月24日・労経速2308号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、懲戒解雇されたがこれが無効であるとして、労働契約上の地位の確認、並びに解雇日以降である平成27年9月1日から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額37万7702円の割合による賃金及び遅延損害金の支払いを求めている事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 以上から、Y社が主張する懲戒解雇該当事由はいずれも認められない。仮にこれが認められたとしても、本件の懲戒解雇事由がそれほど悪質なものとはいえないこと、Xにこれまで懲戒処分歴はないこと、Y社側でXに対して問題点を指摘して繰り返し注意指導した形跡もないことに照らすと、懲戒解雇は重きに失し、相当性が認められない。よって、本件懲戒解雇は無効である。

Y社側が主張した懲戒解雇事由は、①医師国保茶菓代残金等の着服、簿外処理、報告義務違反、②カルテ用紙等販売事業の収支の簿外処理、③ビール瓶リターナブル代金の着服、業務に必要なファイルの削除ですが、これらすべてについて、X側の弁解が認められ、就業規則に定める懲戒解雇事由に該当しないとされました。

被懲戒者の弁解を冷静に見た結果、合理性があると認められる場合には、懲戒処分を思いとどまる必要があります。

決して感情的な対応にならないように気をつけましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇237 妊娠中の退職合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、妊娠中の退職合意不成立等に基づく地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

TRUST事件(東京地裁立川支部平成29年1月31日・労判ジャーナル62号46頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、民法536条2項に基づく賃金及び不法行為に基づく慰謝料並びにこれらに対する遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

退職合意は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、妊娠が判明したXとの間に退職合意があったと主張するが、退職は、一般的に、労働者に不利な影響をもたらすところ、雇用機会均等法1条、2条、9条3項の趣旨に照らすと、女性労働者につき、妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する必要がある
確かに、Xは、現場の墨出し等の業務ができないことの説明を受けたうえで、株式会社aへの派遣登録を受け入れ、その後、平成27年6月10日に、Y社代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けるまで、Y社に対し、社会保険の関係以外の連絡がないことからすると、Xが退職を受け入れていたと考える余地がないわけではない。
しかしながら、Y社が退職合意のあったと主張する平成27年1月末頃以降、平成27年6月10日時点まで、Y社側からは、上記連絡のあった社会保険について、Xの退職を前提に、Y社の下では既に加入できなくなっている旨の明確な説明や、退職届の受理、退職証明書の発行、離職票の提供等の、客観的、具体的な退職手続がなされていない
他方で、X側は、Y社に対し、継続して、社会保険加入希望を伝えており、平成27年6月10日に、Y社代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けて初めて、離職票の提供を請求した上で、自主退職ではないとの認識を示している。
さらに、Y社の主張を前提としても、退職合意があったとされる時に、Y社は、Xの産後についてなんら言及をしていないことも併せ考慮すると、Xは、産後の復帰可能性のない退職であると実質的に理解する契機がなかったと考えられ、また、Y社に紹介された株式会社aにおいて、派遣先やその具体的労働条件について決まる前から、Xの退職合意があったとされていることから、Xには、Y社に残るか、退職の上、派遣登録するかを検討するための情報がなかったという点においても、自由な意思に基づく選択があったとは言い難い。
以上によれば、Y社側で、労働者であるXにつき自由な意思に基づいて退職を合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することについての、十分な主張立証が尽くされているとは言えず、これを認めることはできない
よって、Xは、Y社における、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。

有名な裁判例ですのでご存じの方も多いと思います。

この裁判例に限りませんが、とにかく「自由な意思」の認定が厳しいですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇236 内部告発を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、内部告発を理由とする短大准教授の懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人常葉学園(短大准教授・保全抗告)事件(東京高裁平成28年9月7日・労判1154号48頁)

【事案の概要】

基本事件は、Y社から懲戒解職されたXが、Y社に対し、上記懲戒解職が無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることの仮処分命令の申立てをした事案である。
静岡地方裁判所は、平成27年7月3日、基本事件について、Xが,Y社に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした。これに対し、Y社は、保全異議を申し立てた。
原審は、平成28年1月25日、本件仮処分決定が相当であり、Y社の異議申立ては理由がないとして、本件仮処分決定を認可する旨の決定をした。これに対し,Y社は本件抗告をした。

【裁判所の判断】

抗告棄却

【判例のポイント】

1 本件告訴に係る告訴事実は、捜査機関が捜査に着手すれば、その内容が、マスコミも含めた外部に漏れる可能性もある以上、本件告訴は、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものであり、Y社の事業活動に支障をきたすおそれもあることから、告訴事実がないことを容易に認識し得たにもかかわらず、Xが行った本件告訴は、非違行為として、就業規則58条1項2号の「学園の秩序を乱し,学園の名誉又は信用を害したとき」に当たるものというべきである。

2 本件懲戒解雇は、Y社が就業規則58条2項において規定する懲戒処分の中で最も重いものであり、教員あるいは研究者として、他へ就職することも困難となることは容易に予測することができることから、本件懲戒解雇の相当性については、慎重な検討が必要である。

3 Y社は、本件告訴に係る告訴事実について不起訴処分となった後に速やかにXに対する懲戒処分の手続に着手しておらず、むしろ、Xの公益通報によって、Y社の補助金受給に問題があることが明らかになり、これが新聞報道された後に、懲戒処分の手続に着手し、本件懲戒解雇を行ったものであって、本件懲戒解雇がXの公益通報に対する報復であるとまでは認定することができないものの、上記の経過事実に照らせば、その可能性は否定することができない
また、本件告訴に係る告訴事実は不起訴処分になったものの、本件告訴がマスコミも含め、外部に漏れたとは認められず、本件告訴によってY社の社会的評価が大きく毀損されたとはいえない
さらに、Xにおいて、本来の職務である授業及び研究において、その適格性を疑わせるような事実が認められないことを考慮するならば、組織秩序維持の観点からみて、本件告訴に関してのXの非違行為に対する懲戒処分としては、本件懲戒解雇より緩やかな停職等の処分を選択した上で、Xに対し、教職員としてとるべき行動について指導することも十分に可能であったということができる。
以上のような事情を考慮すると、本件懲戒解雇は重きに失するといわざるを得ない。

4 Xは、教育・研究活動に従事する者であり、Y社の教職員の地位を離れては、Xの教育・研究活動に著しい支障が生ずることは明らかであり、Y社との間で、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めなければ、Y社に回復し難い著しい損害が生じるものというべきである

地元静岡の事案です。

相当性の要件でぎりぎり拾われていますが、いずれにしても懲戒解雇が無効であることに変わりありません。

この事案の特徴は、上記判例のポイント4です。

通常なかなか認められない地位保全の仮処分が認められていますね。 

こういう場合に認められるのですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇235 長年にわたる住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、長年にわたる住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ドコモCS事件(東京地裁平成28年7月8日・労経速2307号3頁)

【事案の概要】

本訴事件は、Y社が、その社員であったXらに対し、Y社から住宅補助費を不正に受給したとして、Y社の就業規則における賃金精算の定め、詐欺による取消し若しくは錯誤無効に基づく不当利得又は不法行為に基づき(選択的併合)、住宅補助費相当額の金銭支払(X1につき平成24年10月分から平成25年3月分までの合計37万6800円、X2につき平成23年2月分から平成24年9月分まで及び平成25年5月分から同年10月分までの合計163万2800円)を求める事案である。

反訴事件は、Xらが、住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇は無効であるとして、労働契約及び不法行為に基づき、労働契約に関する地位の確認、未払の毎月の賃金及び特別手当の支払並びに損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

X1は、Y社に対し、金37万6800円を支払え。

X2は、Y社に対し、金138万1600円を支払え。

Y社のX2に対するその余の本訴請求及びXらの反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 懲戒解雇は、就業規則に懲戒解雇に関する根拠規定が存しても、当該懲戒解雇に係る労働者の行為の性質及びその他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となる(労働契約法15条、16条)。
懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり、雇用契約上の権利を有する地位の喪失のみならず、労働者の名誉に悪影響を与え、退職金の支給制限等の経済的不利益を伴うことが多いから、懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められる

2 Xらの住宅補助費申請は少なくとも萩中建物に係るものは住宅補助費の支給要件を満たさない上、Xらは少なくとも未必の故意をもって、共謀の上、その居住実態を偽って住宅補助費を不正に受給している。
その不正受給は、平成18年から平成25年まで7年以上、五百数十万円に及び、過誤取扱通達で返納の対象となり、かつ、まだ返納されていないものだけでも金175万8400円となる
Xらの萩中建物に係る住宅補助費の申請は申請書、賃貸借契約書等を精査しても予想困難な居住関係及び権利関係を秘したものであるから、Y社が長年これに気付かず、住宅補助費を支給していたことをXらの有利に斟酌すべきではない
Xらが利得する一方、Y社が受けた財産的被害は多額であり、両者間の信頼関係を著しく破壊するものといわなければならない。

3 労働者は自身の労働契約上の義務に違反する行為に関し、使用者が調査を行おうとするときは、その非違行為の軽重、内容、調査の必要性、その方法、態様等に照らして、その調査が社会通念上相当な範囲にとどまり、供述の強要その他の労働者の人格・自由に対する過度の支配・拘束にわたるものではない限り、労働契約上の義務として、その調査に応じ、協力する義務があると解される
その調査の過程において、芳しくない態度、ことに虚偽の供述など、積極的に調査を妨げる行為があった場合は、信頼関係をますます破壊し、反省、改善更生といった情状面の評価において、不利益に重視されることもやむを得ないというべきである
X1は、Y社の事情聴取において、事実関係に関する虚偽の供述を複数回にわたって繰り返しており、X2もこれに同調する態度を示し、自分たちの独自の見解に固執して、不法行為に基づく損害賠償及び不当利得の返還請求権からは大幅に減額されている過誤取扱通達の範囲内の返還にも応じていない。Y社は、Xらに対し、慎重に調査を進め、事情聴取も少なからず実施し、被告らに弁明の機会も十分に与えて、慎重な検討を経て本件解雇を決定したと認められる。

4 ・・・懲戒解雇は懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められることを考慮しても、Y社がXらに対し本件解雇をもって臨んだことが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいうことはできない。

上記判例のポイント3は頭に入れておきましょう。

調査過程における協力の有無、程度についても解雇の有効性を基礎付ける事情となるということです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。